弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
被告大阪市庭井土地区画整理組合が原告に対し別紙物件目録記載の土地について昭
和五〇年一一月一四日付でなした大阪市庭井土地区画整理事業の仮換地指定処分は
無効であることを確認する。
本件訴のうち、その余の請求にかかる部分を却下する。
訴訟費用は、原告と被告大阪市庭井土地区画整理組合との間では同被告の負担と
し、原告と被告大阪市長との間では原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者双方の申立
原告は、第一次的に「一、被告大阪市庭井土地区画整理組合の設立は無効であるこ
とを確認する。二、被告大阪市長が昭和四九年一二月二六日付でなした被告大阪市
庭井土地区画整理組合の設立認可処分は無効であることを確認する。三、主文第一
項と同じ。四、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を、右第三項につき第
二次的に「被告大阪市庭井土地区画整理組合が原告に対し昭和五〇年一一月一四日
付でなした大阪市庭井土地区画整理事業の仮換地指定処分を取消す。」との判決を
求め、被告らは、いずれも「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とす
る。」との判決を求めた。
第二 原告の請求の原因
一 原告は被告大阪市庭井土地区画整理組合(以下、被告組合という)が施行する
土地区画整理事業(以下、本件事業という)にかかる施行地区内の宅地について所
有権を有する者で被告組合員とされている。
二 被告大阪市長(以下、被告市長という)は昭和四四年一二月二六日付で被告組
合の設立を認可した。
三 しかしながら、被告組合はつぎの理由により設立無効であり、したがつて被告
市長のなした被告組合設立認可処分も無効である。
1 被告組合の本件事業の「施行地区となるべき区域」の定め方の瑕疵
(イ) 被告組合の本件事業計画に定められている施行地区は別紙図面のうち、青
色および赤色で塗られた部分であるが、図面に示されるとおり大きくは左上地区と
右下地区に分かれ、左上地区においては(1)<地名略>、<地名略>、<地名略
>、(2)<地名略>、(3)<地名略>ないし<地名略>、(4)<地名略>、
<地名略>、<地名略>、<地名略>ないし<地名略>等の土地と相対する<地名
略>側の土地、(5)<地名略>の南側の土地および<地名略>、<地名略>の東
側の土地、(6)<地名略>の一部ならびに<地名略>、以上約六ヵ所が施行地区
から除かれており、右下地区においては(1)<地名略>、<地名略>、(2)<
地名略>、<地名略>、<地名略>、
<地名略>、<地名略>等の土地の西および北側の土地、(3)<地名略>、
(4)<地名略>、<地名略>、以上四ヵ所が施行地区から除かれている。
(ロ) 右に述べたように本件事業によつて直接利益を受ける土地が施行地区から
除外されているが、これらの土地を含めると土地区画整理法(以下、単に法とい
う)一八条に定める同意、不同意の意見を採るべき者の総数は約一四〇名にものぼ
る。ところが、被告組合の発起人らは、袋地である農地を宅地化するために右農地
より公道に通じる道路を設けることのみを目的とし、形式的に同条に定める「三分
の二以上の同意」をうるために、本件事業に反対する多くの者を除外して、恣意的
に施行地区を定めたため、(イ)記載の除外地が生じたものである。したがつて、
本件事業施行地区の定め方には一貫性がなく、法三条二項にいう「一定の区域の土
地」とはいえないものであり、また右約一四〇名を法一八条に定める「すべての
者」とすると、本件事業計画については同条の「三分の二以上の同意」はなかつた
ことになる。
2 法一八条に定める「三分の二以上の同意」についての瑕疵
法一八条に定める「三分の二以上の同意」について前記1の瑕疵があるほか、つぎ
のような瑕疵がある。
即ち、被告組合の定款および本件事業計画について同意、不同意の意見を採つた者
の総数は三八名であり、そのうち四名が不同意であつたとされているが、同意とさ
れた三四名のうち一二名は、発起人から本件事業により何らの負担を負うものでは
ないと約束されて同意したのであつて、真の同意者ではない。したがつて真の同意
者は二二名に過ぎず全体の三分の二以上の同意があつたことにはならない。
3 本件事業計画の内容の法令違反
本件事業計画の内容は平等原則に反する。
即ち、前記1のとおり、被告組合員とされる者と本件事業に直接の利害関係を有し
ながら被告組合員とされなかつた者との間に明らかな不平等があるほか、
(イ) 同じ被告組合の組合員とされながら、原告に対しては数千万円に相当する
土地を道路部分として提供させ、他方においてAら多数の者には土地や金銭の負担
をさせない。
(ロ) 被告組合の発起人であるB所有地(<地名略>、<地名略>)、C所有地
(<地名略>)、D所有地(<地名略>)等には現在道らしい道はついておらず、
その他の組合員となつている多くの者の所有地は主道路から離れた奥の方にあるか
ら、本件事業により主道路へ出る道がつけば非常な利益をうることになるが、原告
所有地(<地名略>)はもともと主道路に面しているのであるから、道路としてそ
の一部を提供させられる負担のみ残り、何ら利益をうるものではない。
(ハ) 被告組合員のなかに建売業者である株式会社阪下ハウス興産がおり、同社
の所有地は約一〇、四三〇平方メートルあるが、右土地は自らの費用で道路や上下
水道の設置をしなければならないはずであるのに、これを本件事業の施行地区に組
み入れているのは、他の組合員の負担において同社に利益を与えるものである。
などの不平等がある。
4 以上の次第で被告組合の設立は無効であり、したがつて被告市長の被告組合設
立認可処分も無効である。
四 被告組合は昭和五〇年一一月一四日付をもつて、原告に対し原告所有の別紙物
件目録記載の土地について本件事業に基づく仮換地指定処分(以下、本件仮換地指
定処分という)をなし、同月一七日右処分は原告に通知された。
五 しかしながら被告組合の本件仮換地指定処分にはつぎの違法事由があつて無効
であり、仮に無効でないとしても取消されるべきである。
1 被告組合は前記三の事由により設立無効であり、したがつて本件仮換地指定処
分についても瑕疵があることになる。
2 本件仮換地指定処分は法九八条に定める所謂換地予定的仮換地指定処分である
が、換地計画に基づかないものである。
3 本件仮換地指定処分にかかる仮換地が特定できない。
第三 被告らの答弁
一 請求の原因一、二記載の事実は認める。
二 同三、1、(イ)記載の事実のうち、一一七番の一部が施行地区から除かれて
いるとの点は争い、その余の事実は認める。一一七番は全部施行地区から除かれて
いる。(ロ)記載の事実は争う。
同三、2記載の事実のうち、意見を採つた者の総数は三八名であり、そのうち三四
名が同意したことは認めるが、その余の事実は争う。
同三、3記載の事実は争う。
三 (被告組合)
1 同四記載の事実は認める。
2 同五、1記載の事実は争う。
同五、2記載の事実は認める。
同五、3記載の事実は争う。原告の仮換地は、街区確定計算書と設計書により特定
することができ、現地にも境界杭を九本打つてあるから特定できている。
第四 被告らの主張
一 被告組合設立の経過
本件事業の施行地区は、大阪市南部に位置し、大和川に沿接し、地下鉄我孫子駅よ
り約五〇〇メートル東南の交通至便の地にあるため、周辺からの宅地化がすすんで
農地が蚕食される傾向がみられ、右地区内の道路も細路が数本あるのみで、防災的
見地からも好ましい状態にはない。
そこで、昭和四七年四月二九日に開かれた大阪市庭井土地改良区の通常総会におい
て、同組合員全員の賛成のもとに同改良区に属する農地を宅地として効果的に利用
するために、この農地について同改良区の資産を用いて本件事業を施行することが
決定され、右決定に基づいて被告組合が設立されるに至つた。
二 本件事業の施行地区の決定について
前記のような被告組合設立の事情もあつて、本件事業の施行地区はつぎのような基
準に基づいて定められた。
1 施行地区の対象となる土地は、右設立発起当時、庭井土地改良区の組合員の所
有地であること。
2 右設立発起当時既に宅地として開発され、市街地を形成している土地は原則と
して施行地区から除外すること。
3 庭井土地改良区外で苅田耕地整理組合により耕地整理が行なわれた地区は対象
外とすること。
4 土地区画整理法施行規則八条に定める技術的基準に適合すること。
殊に右4については同条一項一号によれば、「施行地区は道路、河川、運河、鉄道
その他の土地の範囲を表示するに適当な施設で土地区画整理事業の施行によりその
位置が変更しないものに接して定めなければならない。」とあり、本件事業の施行
によりその位置が変更しない土地の範囲を表示する適当な西端の施設は、原告所有
の<地名略>の土地の西側に接する<地名略>と<地名略>の境界を通る八メート
ル道路であり、したがつて原告所有の<地名略>を施行地区に入れる必要があつ
た。
以上の理由により、本件事業の施行地区の決定については何ら瑕疵はないものであ
り、右基準に適合しない事例もあるが、それぞれ合理的な理由があつてのことであ
る。
三 (被告組合)
換地計画に基づかない本件仮換地指定処分の適法性
本件仮換地指定処分は換地計画を定めずになされた所謂換地予定的仮換地指定処分
であるが、道路を造成しまたは拡張し、土地の形態を変更する工事のためになされ
たものであるから適法である。
○ 理由
一 請求の原因一、二、四記載の事実については各当事者間に争いがない。
二 被告組合設立無効ならびに被告市長のなした被告組合設立認可処分無効確認の
訴について。
原告は、本件事業計画が違法なものであると主張して、被告組合の設立無効ならび
に被告市長のなした被告組合設立認可処分の無効確認を求めているが、土地区画整
理組合の設立の無効確認の訴は、株式会社の設立の無効の訴(商法四二八条)のよ
うにこれを許す明文がないから、これを独立の訴として肯認することは困難であり
(もつとも、現在における特定の権利関係の存否確認の訴や本件のような仮換地指
定処分の無効確認の訴において、請求をして理由あらしめる事実の一つとして主張
することは勿論、差支ない。)、また同組合設立認可処分の段階においては、土地
区画整理に関して未だ特定個人に向けられた具体的な処分がなされたものというこ
とはできないから、争訟の成熟性ないし具体的事件性も欠くものといわなければな
らず、したがつて、右各訴とも不適法たるを免れない(昭和三七年(オ)第一二二
号昭和四一年二月二三日最高裁判所大法廷判決参照)。
三 本件仮換地指定処分無効確認の訴について。
原告は、本件仮換地指定処分の無効確認を求め、その理由の一つとして、本件仮換
地指定処分が法九八条一項に定める「換地計画に基き換地処分を行うため必要があ
る場合」の仮換地指定処分即ち所謂換地予定的仮換地指定処分であるにかかわら
ず、換地計画が定められていないことを挙げており、被告組合は、右の点に関し、
本件仮換地指定処分は、換地計画に基づかない換地予定的仮換地指定処分ではある
が、同条項に定める「工事のため必要がある場合」の仮換地指定処分であつて、こ
れに何ら違法な点は存しないと主張する。
よつて、右の点について検討する。
法九八条一項において、換地計画に基づいてする仮換地指定処分とこれに基づかな
いでする「工事のため必要がある場合」の仮換地指定処分とが定められているが、
換地計画については、法が「第三章土地区画整理事業」の中に「換地計画」という
一節を設け、換地計画を定め、あるいは変更するについての詳細な実体的、手続的
規定を置いている。これらの規定によつて換地計画において定めるべき事項および
その実質的な基準ならびに換地計画の設定手続が定められているが、右設定手続に
ついてみれば、換地計画を定めるに当つて、予め換地計画案を二週間公衆の縦覧に
供しなければならず(八八条二項)、
利害関係者に対し右期間内に右の案に関する意見を提出する権利を与え(同条三
項)、右意見の採否について慎重な事後処理方法まで定め(同条四項)、換地計画
案が修正されたときには原則として右修正部分についても同様の手続を踏むことを
要求し(同条五項)、最後に都道府県知事(本件の場合は被告市長)の認可を受け
なければならないこととし(八六条一項、三項)、換地計画を変更するときには原
則として右に述べた全ての手続を踏まなければならない(九七条)。
このように、換地計画を定めるについて、利害関係者に対し実質的に関与する機会
を与え、その権利を保護しようとしている法意ならびに、換地計画が事業計画に定
められた大綱のもとで換地処分を行なうための詳細な実施計画であることを勘案す
ると、換地とすることを予定した仮換地の指定処分をなすには、必ず換地計画に基
づいてこれを行なわなければならず、換地を予定しない一時使用的な仮換地の指定
の場合のみに、換地計画に基づかないで仮換地指定処分ができるに過ぎないと解す
るのが相当である。そうすると、法九八条一項に定める「工事のため必要がある場
合」とは、換地を予定しない一時使用的な仮換地の指定に関するものであつて、し
かも工事のため仮換地指定処分が必要な場合に限るものといわなければならず、こ
れに違反した仮換地指定処分は重大かつ明白な瑕疵あるものとして無効たるを免れ
ない。
これを本件についてみると、本件仮換地指定処分が換地予定的仮換地指定処分であ
るのに、換地計画に基づかないでなされたことについては当事者間に争いがなく、
これに加え、本件事業の施行地区がもと農地であつたこと(この点は被告組合の自
認するところである。)およびその組合員が僅か三八名という小規模な土地区画整
理事業であることから見ても、果して本件事業の工事をするために本件仮換地指定
処分をなす必要性があつたものかが疑われ、他に右必要性を認めるべき証拠もない
から、結局本件仮換地指定処分は無効なものというほかはない。
四 以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、本件訴のうち、本件
仮換地指定処分の無効確認を求める請求は正当であるからこれを認容することと
し、その余の請求にかかる部分は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟
費用については民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 荻田健治郎 井深泰夫 近藤壽邦)
(物件目録、図面)(省略)

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