弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中百五十日を被告人Aの本刑に算入する。
         理    由
 被告人両名弁護人青柳盛雄、岡林辰雄、上村進、神道寛次、岡崎一夫、小沢茂、
福田力之助、谷村直雄、宮良寛雄、今野義礼、牧野芳夫、佐伯静治、上田誠吉、平
林正三、大蔵敏彦、石島泰、吉村節也、竹沢哲夫、関原勇の上告趣意(以下青柳弁
護人等上告趣意と略称する)第一点乃至第四点、被告人A弁護人布施辰治の上告趣
意第四点、被告人A弁護人岡崎一夫の上告趣意第一、二点、被告人Aの上告趣意第
二、三点について。
 団体等規正令(以下規正令と略称する)一〇条による法務総裁の出頭要求命令の
効力についての争訟は日本の裁判所が裁判権を有しないと解すべきことは昭和二五
年(オ)一四七号同年七月五日大法廷判決(民事判例集四巻七号二六四頁以下)及
び昭和二三年(れ)一八六二号昭和二四年六月一三日大法廷判決(刑事判例集三巻
七号九七四頁以下)の趣旨に徴して明らかなところであるから、被告人Aに対する
本件出頭要求命令を無効なりと主張する各論旨(青柳弁護人等上告趣意第三点、岡
崎弁護人上告趣意第二点、A上告趣意第三点)は採用することができない。そして
規正令を無効なりと主張する各論旨(青柳弁護人等上告趣意第四点岡崎弁護人上告
趣意第一点、A上告趣意第二、三点)及び規正令の基ずく昭和二〇年勅令五四二号
を無効なりと主張する各論旨(青柳弁護人等上告趣意第一、二点、布施弁護人上告
趣意第四点)はいずれも結局は被告人Aに対する本件出頭要求命令の無効を主張す
る前提に外ならないから、これまた、採用すベき限りでないといわなければならぬ。
 青柳弁護人等上告趣意第五点について。
 一件記録によると、原審の是認した第一審判決がその判示第二事実認定の証拠と
して所論のBの検察官に対する供述調書を採用していること、並びに右Bが検察官
の請求により第一審裁判所において、証人として尋問せられた際本件公訴事実の存
否に関する重要な事項につきその証言を拒絶したため、被告人において右調書記載
の同証人の供述につき反対尋問の機会を得られなかつたことは、論旨の指摘すると
おりである。
 しかし、憲法三七条二項は、裁判所が尋問すべきすべての証人に対して被告人に
これを審問する機会を充分に与えなければならないことを規定したものであつて、
被告人にかかる審問の機会を与えない証人の供述には絶対的に証拠能力を認めない
との法意を含むものではない(昭和二三年(れ)八三三号同二四年五月一八日大法
廷判決判例集三巻六号七八九頁以下参照)。されば被告人のため反対尋問の機会を
与えていない証人の供述又はその供述を録取した書類であつても、現にやむことを
得ない事由があつて、その供述者を裁判所において尋問することが妨げられ、これ
がために被告人に反対尋問の機会を与え得ないような場合にあつては、これを裁判
上証拠となし得べきものと解したからとて、必ずしも前記憲法の規定に背反するも
のではない。刑訴三二一条一項二号が、検察官の面前における被告人以外の者の供
述を録取した書面について、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不
明、若しくは国外にあるため、公判準備若しくは公判期日において供述することが
できないときは、これを証拠とすることができる旨規定し、その供述について既に
被告人のため反対尋問の機会を与えたか否かを問わないのも、全く右と同一見地に
出た立法ということができる。そしてこの規定にいわゆる「供述者が……供述する
ことができないとき」としてその事由を掲記しているのは、もとよりその供述者を
裁判所において証人として尋問することを妨ぐべき障碍事由を示したものに外なら
ないのであるから、これと同様又はそれ以上の事由の存する場合において同条所定
の書面に証拠能力を認めることを妨ぐるものではない。されば本件におけるが如く、
Bが第一審裁判所に証人として喚問されながらその証言を拒絶した場合にあつては、
検察官の面前における同人の供述につき被告人に反対尋問の機会を与え得ないこと
は右規定にいわゆる供述者の死亡した場合と何等選ぶところはないのであるから、
原審が所論のBの検察官に対する供述調書の記載を、事実認定の資料に供した第一
審判決を是認したからといつて、これを目して所論の如き違法があると即断するこ
とはできない。尤も証言拒絶の場合においては、一旦証言を拒絶しても爾後その決
意を翻して任意証言をする場合が絶無とはいい得ないのであつて、この点において
は供述者死亡の場合とは必ずしも事情を同じくするものではないが、現にその証言
を拒絶している限りにおいては被告人に反対尋問の機会を与え得ないことは全く同
様であり、むしろ同条項にいわゆる供述者の国外にある場合に比すれば一層強き意
味において、その供述を得ることができないものといわなければならない。そして、
本件においては、Bがその後証言拒絶の意思を翻したとの事実については当事者の
主張は勿論これを窺い得べき証跡は記録上存在しない。それ故論旨は理由がない。
 同第六点について。
 所論Bの検察官に対する供述が、仮りに所論(1)乃至(9)のような情況の下
にされたものであるとしても、これを以て強制又は拷問による供述であるというこ
とはできない。その他右供述が任意になされたものでないことを認むべき資料は存
しないから、所論は採るをえない。
 同第七点について。
 被告人Cが被告人Aの犯人であることを知つていたという点の直接証拠は所論の
被告人Cの検察官に対する供述調書中の供述記載だけであることは所論のとおりで
ある。しかしこの証拠と第一審判決挙示の証拠すなわち証人Dの供述、Bの検察官
に対する供述調書、第一審公判廷における被告人Cの供述等を綜合するときは、全
体としての本件犯人蔵匿罪の成立要件たる事実が肯認されうるのであるから、被告
人Cの知情の点についての所論自白を直接補強するに足る特別の証拠はこれを必要
としないものであることは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)七七号同二四年五月
一八日大法廷判決判例集三巻六号七三四頁以下)の趣旨に徴して明らかである。さ
れば憲法三八条三項違反の論旨はその前提を欠き採るをえない。
 布施弁護人上告趣意第一点乃至第三点について。
 論旨はいずれも単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条に定める上告の理
由にあたらない。 (第一点の論旨は原判決は被告人Aが規正令一〇条にいわゆる
関係者にあたる六・六追放者であることをことさらに判示をしない不備のある第一
審判決をその不備を閑却し是認したものであると非難するに帰し、独自の見解を前
提とする主張であつて採るをえないし、第二、三点の論旨に主張する犯罪の場所は
本件のような犯罪についてはこれを判示するの要がないから仮りに第一審判決がこ
れを判示しなかつたとしてもそれだからといつて違法といえないばかりでなく、同
判決は不出頭の場所として法務府特審局を明示していること判文上明らかであるか
ら、犯罪の場所を判示していないものとはいえない。されば第一審判決を是認した
原判決には所論の違法は認められない)。
 同第五点について。
 論旨は結局被告人Aに対する出頭要求命令の送達が不適法であるとの控訴趣意を
排斥した原判決は理由不備の不当を免れないというに帰し、刑訴四〇五条に定める
上告の理由にあたらない。 (論旨は結局被告人Aに対する出頭要求命令が適法の
手続で行われなかつたと主張してその効力を争う趣旨か、被告人Aは出頭要求命令
を知らなかつたと主張して犯意を否認する趣旨のいずれかを出でないものと解され
る。ところで出頭要求命令の効力を争う論旨の採用すべき限りでないことすでに青
柳弁護人等の上告趣意第三点について説明したとおりであつて、その点からも論旨
は上告適法の理由とならない。また、第一審挙示の証拠に照して被告人Aが犯意を
有していたものであるとの認定はたやすく肯認しえられるのであるから、犯意否認
の論旨はあたらない。)
 同第六点について。
 論旨は被告人Aの控訴趣意第一点並びに布施弁護人の同第六点に対する原判決の
説示は理由不備であるという単なる訴訴法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条に定め
る上告の理由にあたらない。そして、原判決のこの点に対する説示はすべて正当で
あつて、所論の違法は認められない。
 被告人Aの上告趣意第一点について。
 論旨縷述するところは結局原審は被告人Aの控訴趣意を理解も審理もしていない
から、原判決は刑訴四一一条三号に該当し破棄を免れないというに帰し、刑訴四〇
五条に定める上告の理由にあたらない。そして、記録を精査しても同四一一条を適
用すべきものとも認められない。
 同人上告趣意補足について。
 論旨は結局被告人Aを追放する処分は無効のものであるというに帰する。しかし
被告人Aに対する追放処分は昭和二五年六月六日附共産党中央委員の追放に関する
マツクアーサー元帥の内閣総理大臣宛書簡に基ずく指令によるものであるから、か
かる指令の効力を争う主張に対しては判断すべき限りでないこというまでもないと
ころである。 (前掲判決判例集三巻七号九七四頁以下参照)
 被告人Cの上告趣意第一点について。
 論旨(イ)はマツクアーサー元帥の指令による被告人Aに対する追放の効力を争
う主張、同(ロ)は規正令の違憲無効の主張同(ハ)は被告人Aに対する出頭要求
命令の無効の主張に帰する。そして各論旨の採用できないことはすでに説明したと
おりである。
 同第二点について。
 論旨は第一審判決は任意性のない被告人C及びBの検察官に対する各供述調書の
供述を殆と唯一の証拠として判示事実を認定しているのであるから、同判決を是認
した原判決は憲法三八条の精神に反すると主張するのであるが、所論の検察官に対
する供述が任意に出てたものでないことを認めるに足る資料を記録上発見すること
ができないから、右供述調書を証拠としたからといつて憲法三八条二項に違反する
との論旨はその前提を欠き採るをえない。
 同第三点について。
  論旨は要するに原判決は共産主義的反対派を憲法の保障を無視して弾圧しよう
という政治的意図の下になされた不当に苛酷な誤まつたものであるというのであつ
て刑訴四〇五条に定める上告の理由にあたらない。そして記録を精査するも本件に
は刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
  よつて刑訴四〇八条刑法二一条に従い主文のとおり判決する。
  この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
  昭和二七年四月九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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