弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人八並達雄の上告趣意第一点について。
 原判決の引用する第一審判決の判示第一の事実によれば、被告人は「昭和二三年
四月一九日Aから右請託の趣旨で供与するものである情を知りながら、アルミニウ
ム製鍋在中の金五千円を贈与せられ、当時右金員の在中を知らず、其後同年六月一
〇日頃之を知つたにかかわらず、之を領得して其の職務に関し収賄し」たというの
であり、又原判決が証拠として採用する被告人の原審公判廷における供述によれば、
被告人は「鍋の中に現金五千円の在中していたことを知らず、それをBに与えてお
いたが、その後六月上旬になつてBから先に与えた鍋の中に右現金の在中していた
ことを告げられ、同人から右五千円を受取つたが、そのままこれを所持して」いた
というのであるから、原判決は被告人が右五千円をBから受取つて「之を領得し」
た時に賄賂収受の行為があつたものと認定した趣旨であること明らかであつて、判
文上所論のごとき矛盾した解釈を容れる余地はない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決認定の判示第一の事実(第一審判決より引用)は、原判決の挙示する証拠
によりこれを認定するに足るものといわなければならない。原判決は、賄賂収受に
つき被告人がその情を知つていたことに関して、直接これを認め得る証拠を挙げて
いないこと所論のとおりであるが、右知情の点については原判決は情況上これを推
認するに足るものとした趣旨であると解することができる。又金五千円の賄賂につ
いて、被告人はこれを贈賄者に返還するつもりで預つていたものであると弁解する
にかかわらず、原判決が被告人はこれを収受したものと認定したのは、その証拠と
して挙げた被告人の原審公判廷における供述に徴し明らかなとおり、被告人が右五
千円の賄賂たることを知りながら検挙直前まで(約三ケ月間)これを所持していた
事情から、領得の意思を認めるに足るものとしたことによるものであつて、かかる
認定は不当ではない。従つて原判決が証拠によらないで犯罪事実を認定したと非難
する本論旨は理由がない。
 同第三点について。
 原判決は所論の五千円の賄賂について、没収も追徴も科していないのであるが、
論旨は結局このことが刑法一九七条ノ四の規定に違背するものであつて、被告人に
対し没収又は追徴のいづれかを科すべきことを主張する趣旨に外ならないから、被
告人にとつて不利益な変更を求める主張であり、従つて適法な上告理由とならない。
 よつて刑訴施行法二条旧刑訴法四四六条に従い、裁判官全員一致の意見により、
主文のとおり判決する。
 検察官 松本武裕関与
  昭和二六年六月二九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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