弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
 1 被告住友不動産株式会社は,原告Aに対して50万円及びこれに対する平成15年
4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Bに対して85万円及
びこれに対する平成15年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を,
原告Cに対して90万円及びこれに対する平成15年4月3日から支払済みまで年5
分の割合による金員を,それぞれ支払え。
 2 原告らの被告住友不動産株式会社に対するその余の請求及び被告住友不動産販
売株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用については,被告住友不動産株式会社との関係では,これを10分し,そ
の9を原告らの負担とし,その余を被告住友不動産株式会社の負担とし,被告住
友不動産販売株式会社との関係では,全部原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 1 被告らは,連帯して,原告Aに対し,651万0900円及びこれに対する,被告住友
不動産販売株式会社においては平成15年4月4日から,被告住友不動産株式会
社においては同月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告らは,連帯して,原告Bに対し,664万7300円及びこれに対する,被告住友
不動産販売株式会社においては平成15年4月4日から,被告住友不動産株式会
社においては同月3日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 被告らは,連帯して,原告Cに対し,744万3700円及びこれに対する,被告住友
不動産販売株式会社においては平成15年4月4日から,被告住友不動産株式会
社においては同月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   原告らは,被告住友不動産株式会社(以下「被告住友不動産」という。)が建築し,
被告住友不動産販売株式会社(以下「被告住友不動産販売」という。)が販売した
別紙物件目録一記載の15階建てマンション「大通シティハウス」(以下「本件マンシ
ョン」という。)の高層階の区分建物を購入した。本件は,同じく被告住友不動産が
本件マンションの南側に15階建てマンションを建築したことにより,原告らの各区
分建物からの眺望等を阻害されるに至ったが,これはマンション業者としての信義
則に違反するなどとして,原告らが,被告らに対し,不法行為ないし債務不履行に
基づき,損害賠償として上記各金員及びこれに対する,被告住友不動産販売に訴
状が送達された日の翌日である平成15年4月4日から,被告住友不動産において
も同様に同月3日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求める事案である。
第3 争いのない事実等
 1 被告住友不動産は,国内においてマンションを建築することを業とする会社であ
る。
   被告住友不動産販売は,被告住友不動産が建築したマンションを販売することを
業とする会社である。
   被告らは,「住友シティハウス」シリーズのマンションを建築販売していた。その一環
として本件マンションを販売した。
 2 原告らは,被告住友不動産が建築し,被告住友不動産販売が販売した本件マンシ
ョンを,以下のとおり購入した。
(1)原告A(以下「原告A」という。)は,平成13年3月16日,本件マンション13階の
a号室(別紙物件目録二(1),以下「a号室」という。)を2959万5000円で購入し
た。
(2)原告B(以下「原告B」という。)は,平成13年10月30日,本件マンション14階の
b号室(別紙物件目録二(2),以下「b号室」という。)を3021万5000円で購入し
た。
(3)原告C(以下「原告C」という。)は,平成13年11月16日,本件マンション14階の
c号室(別紙物件目録二(3),以下「c号室」という。)を3383万5000円で購入し
た。
 3 被告住友不動産は,本件マンションの南側約57mの距離の場所に「住友シティハ
ウス」シリーズの「シティハウス大通東」という15階建て新マンション(以下「本件新
マンション」という。)を建築し,被告住友不動産販売がこれを販売することにし,平
成14年7月15日に工事着工した。本件口頭弁論終結時には15階建ての本件新
マンションが建築された(弁論の全趣旨)。
第4 争点及び当事者の主張の骨子
 1 本件の争点
(1)被告らには,原告らが主張するような,本件新マンション建築計画を説明すべき義
務,あるいは,本件新マンション建築において11階以上の建築を差し控える義
務があり,この義務に違反したか(争点1・被告らの義務及び義務違反)。
(2)原告ら主張の損害が認められるか(争点2・損害)。
 2 争点1(被告らの義務及び義務違反)について
(1)原告らの主張
   ア 被告らは,本件マンション高層階を分譲販売するにあたって,眺望が良く,目隠
しが不要であること等を重要なセールスポイントとして販売活動を行った。ま
た,区分建物についても,高層になればなるほど高額になるという価格設定を
行った。
     原告らは,被告らのセールスから,本件マンション,特に高層階の区分建物を購
入するにあたり,高層階での上記眺望等による居住空間の快適さを重要な購
入動機とした。被告住友不動産販売担当者もそのことは十分承知していた。
   イ 被告らは,本件マンションの建築販売の過程で本件新マンション建築の計画を
持っていた。
   ウ 被告住友不動産は,本件マンションの分譲の時に上記のような勧誘をしなが
ら,他方で本件新マンションを建築分譲する計画を有していたにもかかわら
ず,これを秘匿した。
     仮にそうでないとしても,被告らは,本件新マンションの敷地を購入する際,本件
マンションが存在することは十分承知しており,本件新マンションを建築するこ
とにより本件マンション高層階からの眺望を害することを十分理解していた。
     被告らは,本件マンション建築販売業者として,本件マンションの販売の際に,
本件新マンション建築の計画を開示して説明すべき信義則上の義務がある。
また,本件新マンションの階層を11階に制限して,原告らの眺望を害さないよ
うにすることが可能であり,また,そのようにする同様の義務がある。しかし,
被告らは,原告らに具体的な本件新マンション建築の計画の説明をせず,か
えって,上記のようなセールスをし,また,原告らが確保した本件マンションか
らの眺望を害するような本件新マンションを建築した。したがって,被告らに
は,不法行為ないし債務不履行が認められる。
   エ 被告らは,原告らの眺望につき権利性を問題にするが,本件では,被告らとは
全く無関係の不動産業者が建築したマンションによる眺望の障害を訴えてい
るものではなく,本件マンションを建築し原告らに販売した,マンション業者とし
ての信義則上の義務に違反していることを主張するものである。
(2)被告らの主張
   ア 被告住友不動産販売担当者は,眺望の良さを殊更強調したり,眺望を保証した
り,さらに,本件マンション南側に11階建て以上のマンションが建たないと断
定した事実はない。各原告が本件マンションの区分建物購入の最大条件が
眺望であったとの点は否認する。
     本件マンションのセールスポイントは都心の利便性である。本件マンションは,
札幌市中心部のデパートまで徒歩5分,地下鉄直結の地下街入り口まで100
mと近い。一般的にマンションは高層階の方が人気が高く,本件マンション南
側の25m道路(以下「25m道路」という。)を隔てた向かいに11階建てマンシ
ョン(以下「南側賃貸マンション」という。)が2棟建築されることから,本件マン
ションも高層階の方が人気が高く早期に売れていくであろうことが予想され
た。したがって,敢えて高層階の購入を誘導するようなこともなかった。
     売買契約締結時の原告らに対する重要事項の説明においても,周辺に建物が
建築される可能性があることは説明している。そして,眺望の阻害は建設主
体がだれであろうと違いはないのであるから,同説明には被告らが本件新マ
ンションを建築販売することも含まれている。
   イ 被告らは,原告らに本件マンションの区分建物を販売した段階では,本件新マ
ンションの計画を説明できる状況にはなかった。原告らが購入契約をした後の
平成13年12月21日になって初めて本件新マンション敷地の地権者と購入
のための交渉を始めた。その時には,他のマンション業者も交渉をしており,
被告住友不動産が購入できることが確実であったわけでもない。したがって,
原告らに対する説明義務は発生しない。
   ウ 被告住友不動産が,法令に従って本件新マンションを建築することは何ら違法
なことではない。それにより本件マンションの眺望に影響を及ぼすとしても,損
害賠償までが認められるには,①眺望が重視されるべき地域性,②眺望を強
調した販売勧誘の存在,③隣地に新建物が建築された事実,以上が認めら
れることが前提であるところ,本件マンションに関しては,以上の条件はいず
れも満たさない。すなわち,①本件マンションは札幌市の最中心部にあり,オ
フィスビルが多く建ち並ぶ地域にある。都市計画法上も商業地域であり日影
規制さえもない。②本件マンションのセールスポイントは都心の利便性であっ
たから,殊更眺望を強調したものではない。③本件新マンションと本件マンシ
ョンとの間には,本件マンションから南側に25m道路,南側賃貸マンション,3
階建て及び8階建てのビルがあり57m離れている。したがって,本件マンショ
ンの眺望は,損害賠償の対象になるような権利性を有していない。 
 3 争点2(損害)について
(1)原告らの主張
   ア 原告らは,本件新マンションの建築により眺望等を阻害されたことから,各所有
の区分建物の経済的価値が減損した。少なくとも販売価格の1割が減損し
た。
イ 原告らは,本件マンションの各区分建物を購入し眺望を得て,他人の目を気に
せずに快適な生活をしていたところ,本件新マンションの建築により,これらを
失った。原告らは,被告らのセールストークに動かされて本件マンションの各
区分建物を購入したものの,これに相反する被告らの本件新マンション建築
行為により裏切られ,衝撃を受けた。被告らはこの精神的苦痛に対して少なく
とも販売価格の1割を下らない慰謝料を支払うべきである。
   ウ 原告らは本件提訴を余儀なくされ,原告ら代理人に本件訴訟遂行を委任した。
被告らが負担する上記損害賠償額の1割の弁護士費用を損害とすべきであ
る。
   エ 原告らの損害額は次のとおりである。
(ア)原告A
      {2959万5000円×(経済的減損1割+慰謝料1割)}×(10割+弁護士費用1割)
=651万0900円
(イ)原告B
      {3021万5000円×(経済的減損1割+慰謝料1割)}×(10割+弁護士費用1割)
=664万7300円
(ウ)原告C
      {3383万5000円×(経済的減損1割+慰謝料1割)}×(10割+弁護士費用1割)
=744万3700円
(2)被告らの主張
    争う。
第5 争点1(被告らの義務及び義務違反)に対する判断
 1 本件マンションと本件新マンションの立地条件等
(1)本件マンションと本件新マンションの立地条件等について,証拠(以下で引用する
証拠のほか,乙1,2,4,検証の結果)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が
認められる。
  ア 本件マンションは,札幌市中央区南1条東3丁目に所在し,札幌市内でも中心
部に位置する。本件マンションエントランスから約100mで地下街に直結する
地下通路に行ける。また,周辺にはビル群が建ち並ぶ。
  イ 本件新マンションは,同市中央区南2条東3丁目に所在し,本件マンション東側
道路に並び,25m道路を挟んで1ブロック南に位置する。
  ウ 本件マンション及び本件新マンションの建築地は,都市計画法上,既成市街地
及び市街化を図るべき区域にあたる市街化区域にあり,建築基準法上の用
途地域は,主として商業その他の業務の利便を増進するために定める商業
地域に入る。日影規制はない。
  エ 本件新マンションと本件マンションとの間には,本件マンションから南側に25m
道路,11階建ての南側賃貸マンション,3階建て及び8階建てのビルがあり5
7m離れている。
(2)以上からすると,本件マンション及び本件新マンションは,札幌市内にあっても特
に中心地域に位置し,周辺には繁華街や商店が近く,冬場には便利な地下街に
近く,ビル群の中に並び立つ都心部のマンションといってよい。
 2 被告住友不動産販売の本件マンションの販売
(1)本件マンションの販売について,証拠(以下で引用する証拠のほか,甲1の1,3
の1)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
  ア 本件マンションのパンフレット(甲3の1)には,被告住友不動産及び被告住友不
動産販売が並記されている。
     同パンフレットには,「徒歩通勤の快楽。」,「都心への徒歩通勤が,暮らしの余
裕を象徴的に語ります。」,「札幌の都市機能そのものを生活の舞台として使
いこなす便利さ」,「仕事帰りにふらりと立ち寄る,地下街やデパート。食品もフ
ァッションも,札幌で一番の鮮度とバラエティーを吟味して。日々のお買物が,
これからは素敵なイベントです。」といった記載があり,札幌市内の繁華街や
その夜景の写真が掲載されている。
     他方,「札幌の風物詩を,特等席から眺める。」,「豊平川の夜空に咲く,花火。」
といった記載があり,花火の写真や大通公園の夜景を上から撮影した写真も
掲載されている。
  イ 本件マンションの価格設定について,甲第4号証及び弁論の全趣旨によると,
本件マンションの階層ごとの価格は,別紙価格表記載のとおりである。
(2)上記1で認められる事実と以上の事実を併せ考慮すると,確かに,本件マンション
は都心の利便性を追求したマンションということができる。しかし,「札幌の風物
詩を,特等席から眺める。」といったパンフレットの文言は,本件マンションの高
層階からは,本件マンションが都心部に建っているにもかかわらず,その眺望が
良いことを意味していると考えざるを得ない。そして,被告らはこのパンフレットを
作成していることから,都心部にありながら本件マンションの高層階からの眺望
が非常に良好であることを十分認識し,本件マンションのセールスポイントにして
いたと認められる。
    また,上記事実からすると,本件マンションは,高層階にいくほど高額の価格が設
定されていることが認められる。
    これは,被告らが主張するような,都心の利便性だけでは説明できない。この価
格差は,①日照について高層階の方が将来にわたって影響を受けにくいこと,
②防犯上の利点も高いこと,③通行する自動車,通行人の騒音,排気ガス等の
影響を受けにくいこと,④通風がよいこと,以上とともに,⑤眺望が良いことも重
要な要素と考えられる。さらに,こうした居住面での機能性から価格差が生じ,こ
れによりマンション販売業者が高層階ほど価格を高くする傾向から,高層階を購
入した者はそれだけの資金力があることを意味し,⑥高層階の方が「ステイタ
ス」があるという購入者の一般的な心理も理由として認められる。被告らも,こう
した要素を考慮の上で上記のような価格設定をしたと認められる。
    被告らは,1階から11階にかけても価格差があること,4階ないし6階の間の価
格差は大きくないこと,以上から眺望が価格差には反映されていないと主張す
る。しかし,眺望は本件で問題になっているような遠方までの眺望ばかりか,近
い場所の眺望も含まれるところ,この点からも高層階の方が眺望が良く,実際に
1階から15階まで順次価格差がある。したがって,本件マンションの階層の上下
によって,その重要性の多寡はあるものの,眺望という要素が価格設定の要素
になっていることは否定できない。
    特に,上記のとおり,12階以上は,都心部にあるマンションにしては,南側賃貸マ
ンションを超えて遠方の眺望を得ることができ,それは高層階になればなるほど
顕著である。そして,実際にも13階以上の階層の1階下との価格差は大きく,こ
の差額中には眺望の要素が大きく反映していると認められる。
 3 原告らの眺望
(1)原告らが各区分建物を購入して得た眺望及び本件新マンション建築により阻害さ
れた眺望については,証拠(以下で引用する証拠のほか,甲5の1ないし5の1
2,22の1ないし22の5,24,乙1,2,検証の結果)及び弁論の全趣旨による
と,次のとおり認められる。
  ア 本件新マンション建築以前は,原告らの各区分建物の居間からの眺望は,左
手奥に札幌市内南方面の豊平川(夏は河川敷で花火が行われる。)が僅かに
見え,右手に札幌市を取り囲む藻岩山等の山並み,中央奥に遠く恵庭岳の遠
望も認められる。
     各居間からの眺望中,南窓ガラスから2.67mで床から85cmの高さ(居間の
ソファーに座った場合の視線の高さ程度)から外を見ると,左右90度程度の
視界が確保され,上下は概ね空が見え,わずかに高層ビルの上部が下の方
1割程度に連なって見える。
     また,居間の南窓ガラスから1mで床から147cm(居間の南窓ガラス前に立っ
た場合の視線の高さ程度)から外を見ると,左右は120度程度の視界が確保
され,上5割程度が空で,下5割程度に市街地が見え,手前に南側賃貸マン
ションの屋上が見下ろせ,その奥にビル街の屋上や遠くに本件マンションと同
じ程度の高さのビル群の上部が連なって見える。
  イ 本件新マンション建築以降は,原告らの各区分建物の居間からの眺望は,左
手奥の豊平川への遠望が本件新マンションにより遮られる。右手に札幌市を
取り囲む藻岩山等の山並みはそのまま見える。中央奥に遠く見えた恵庭岳の
遠望は,居間の場所によっては本件新マンションにより遮られる。
     上記居間のソファーに座った場合の高さの視線位置から外を見ると,左右90度
程度の視界中,本件新マンションが上下で5割程度,左右で3分の1程度を占
める。
     また,上記居間の南窓ガラスに立った場合の高さの視線位置から外を見ると,
左右120度程度の視界中,本件新マンションが,上下で6割程度,左右で3
割程度占める。
(2)以上からすると,視界の確保ということでは,右手奥の藻岩山等の見通しには変
化がないものの,さらに遠方の恵庭岳は立つ位置によって遮られ,豊平川は遮
られる。特に,居間に座った場合の視線では概ね空が見えていたのが,本件新
マンションの建築により,本件新マンションの上層部が如実に視界に入ってくるこ
とになったと認められる。
 4 原告Aのa号室購入の経過
(1)証拠(甲9,10,28,乙5の1,6(一部),D証人(一部),原告A本人)及び弁論の
全趣旨によると,原告Aは,定年後埼玉県三郷市から札幌市に移住して終の住
みかを探していたところ,本件マンションが建築されることを知ったこと,平成13
年2月ころ,被告住友不動産販売担当者であった訴外D(以下「訴外D」という。)
に連絡したところ,訴外Dから希望していたDタイプは4階,5階,7階しか空いて
おらず,本件マンションの南側には11階建ての南側賃貸マンションがあると聞
いたこと,そこで,いずれにしても眺望は望めないことから価格の低い4階のDタ
イプの購入を予約したこと,平成13年3月15日,被告住友不動産販売に赴いた
ところ,訴外Dから13階のDタイプが空いたこと,本件周囲は11階建てまでの
建物が多く,眺望が素晴らしく,豊平川の花火もよく見えるといったことの説明を
受けたこと,原告Aは4階のDタイプの価格に435万円を上積みしてa号室を購
入することとし,翌16日に契約したこと,訴外Dは,平成14年1月になって本件
新マンションの建築の話を聞いたこと,そこで,お客様に情報提供しておいた方
が良いと考え,原告Aに知らせたこと,以上が認められる。
(2)以上の事実からすると,原告Aは,本件マンションの利便性に着目して購入を決
意したものの,訴外Dからの説明を受け,400万円以上を上積みして眺望も付
加価値としてa号室を購入したことが認められる。そして,上記3の認定事実から
して,a号室に入居後は,そこからの眺望を得て,上記付加価値に満足していた
と認められる。これに対し,訴外Dは,原告Aのこうした動機を十分理解していた
と認められる。だからこそ,本件新マンションの建築の話を聞いた際には,原告
Aに情報提供をしているのである。
 5 原告Bのb号室購入の経過
(1)証拠(甲11ないし14,29,乙5の2,7(一部),E証人(一部),F証人)及び弁論
の全趣旨によると,原告Bは,札幌市北区にマンションを所有していたが,5階
建てで眺望が良好とはいい難かったこと,妻の訴外Fとともに,平成13年10月
ころ,上記マンションの住み替えを考え,本件マンションのモデルルームへ行っ
て,被告住友不動産販売担当者訴外E(以下「訴外E」という。)から本件マンショ
ンの説明を受けたこと,原告B夫婦は,再度モデルルームへ見学に行った際に
は,訴外Eから建築中の本件マンションの14階まで上って撮ってきたというビデ
オを見せられ,南側賃貸マンションは11階建てであるが,眺望が良く,花火も見
えると説明を受けたこと,その結果,原告Bは本件マンション14階のb号室を購
入することにしたこと,所有していた上記マンションは被告住友不動産販売の斡
旋で売却して購入資金にし,残金に退職金を充てることにし,平成13年10月3
0日,b号室を購入したこと,訴外Eは,平成14年1月に本件新マンションの話を
聞いて,原告Bから後にそのような話を聞いていないと言われたくなかったことか
ら,原告Bに情報提供をしたこと,以上が認められる。
(2)以上の事実からすると,原告Bは,これまでのマンションに比べて眺望の良さを重
要な動機として,退職金という終身の生活の糧を充ててb号室を購入したと認め
ることができる。そして,原告A同様に,実際にb号室に入居してその眺望に満足
していたと認められる。他方,訴外Eは14階からの眺望までビデオ撮影して原
告Bに説明をし,また,本件新マンションの情報提供もしていることから,原告B
が眺望に関心を持っていたことは十分承知していたと認められる。
 6 原告Cのc号室購入の経過
(1)証拠(甲15,30,乙5の3,7(一部),E証人(一部),G証人)及び弁論の全趣旨
によると,原告Cは,定年後の生活の本拠地を札幌市に置き,特に都心部での
生活を望んでいたこと,平成13年11月10日,本件マンションのモデルルーム
を見に行き,当初は経済的に無理をしない8階の806号室を予約したこと,さら
に,同月12日,家族で同モデルルームへ行って,より高い階の空きを確認した
ところ,訴外Eから,14階に1室が空いていて,そこからの眺望は良く,豊平川
の花火等も良く見えると説明を受け,パノラマ写真を見せられたこと,原告Cは老
後を夫婦で住むにはc号室が4LDKで少し広過ぎ,また,8階よりも約300万円
経済的負担が増えることに躊躇を感じたが,眺望の良さに惹かれc号室を購入
することを決意し,同月16日,c号室を購入する契約を締結したこと,訴外Eは,
平成14年1月,原告Bと同様に本件新マンションの情報提供をしたこと,以上が
認められる。
(2)以上の事実からすると,原告Cは,8階から14階に変更し,約300万円負担が増
加し,しかも,少し広いc号室を購入したのは,他の原告らと同様に,c号室から
の眺望を重要な動機としていたことが認められる。そして,実際にも定年退職後
はc号室に入居し,そこからの眺望を老後の楽しみにしていたと認められる。他
方,訴外Eは,14階からのパノラマ写真を使って原告Cに説明をし,また,本件
新マンションの情報提供もしていることからして,原告Cが眺望に関心を持ってい
たことは十分承知していたと認められる。
 7 本件新マンションの計画
(1)本件新マンションの計画,建築について,上記第3の争いのない事実等に,証拠
(以下で引用する証拠のほか,甲6,7の1,7の2,8,乙1,8,9,H証人,I証
人)及び弁論の全趣旨を併せ考慮すると,被告住友不動産は,平成13年8月こ
ろから,用地取得部署の担当者レベルで本件新マンション敷地の取得,本件新
マンション建築の計画を始めたこと,この段階で,本件新マンションの戸数と総
床面積が分かり,その時点で15階建てのマンションにより採算が合うと判断さ
れたこと,その計画を基に,同年9月18日,被告住友不動産札幌支店において
協議し,なお計画を進行することを決めたこと,これを受けて,本件新マンション
敷地の地権者に接触したところ,売却の意向があることを確認したが,同地権者
が法的手続に入っており,本件新マンション敷地の売却には鑑定をした上で裁
判所の許可が必要であったこと,その場合,鑑定が同年12月ころまでかかると
のことであったこと,同年12月10日ころ,鑑定結果の情報を得て,鑑定価格に
よる採算が可能と判断し,同月20日,被告住友不動産本社の決裁を取り,本件
新マンション敷地の取得交渉に入ることになったこと,そして,翌21日,本件新
マンション敷地の地権者と具体的な交渉に入ったこと,地権者からは価格の上
積みを求められ,再度,本社決裁を取り直し,平成14年3月6日付け売買によ
り,同日所有権移転登記をしたこと(甲8),現在,本件新マンションは建築され,
申込を受け付けていること,なお,本件新マンションは,被告らが進めている「住
友シティハウス」シリーズの一環となるマンションであり,本件新マンションのパン
フレットにも,被告らが並記されていること,このパンフレットによると,「その広さ
も,その眺望も,その仕様も。上質な都心生活のたしかなかたちがここにありま
す。」との記載があること,以上が認められる。
(2)以上の事実からすると,被告住友不動産は,本件新マンション建築の計画は平成
13年8月ころから始まっていたものの,地権者の売却につき鑑定,裁判所の許
可という通常の売却方法によらない手続が必要であったことから,本件新マンシ
ョン敷地の取得という具体的な行動にまで至らなかったこと,被告住友不動産が
本件新マンション建築を対外的に明らかにできる状態になったのは本社決裁を
経た平成13年12月からで,原告らのうち,最後に契約をした原告Cが同年11
月16日に契約した時点では,被告住友不動産販売は,本件新マンションの計
画を知らせることは不可能であったと認められる。
    これに対し,原告らは,原告らが契約した段階では本件新マンション建築の計画
があり,これを秘匿していたと主張するが,上記のとおり,そのころは未だ鑑定
額が出ておらず,また,裁判所の許可も下りていなかったのであるから,担当者
レベルでの目論見はあったものの,原告らに説明すべき義務の前提になるよう
な具体的な計画まではなかったと認めるのが相当である。
 8 被告らの義務
(1)以上を総合すると,本件マンションは,札幌市内中心部に位置する利便性の極め
て高い,ビル群の中に並び立つ都心型のマンションということができること,本件
マンションのパンフレットの記載からは,本件マンション全階層の眺望が良いこと
を宣伝文句にはしていないが,控えめながらも眺望のことも触れられていて,こ
れは,本件マンションが上記のような都心部に建っているにもかかわらず,本件
マンションの高層階からの眺望が良いことを意味していると考えざるを得ないこ
と,そうすると,このパンフレットが被告ら並記の上で作成されていることからし
て,本件マンションの高層階からの眺望が本件マンションのもう一つのセールス
ポイントであったことを被告らが十分承知していたこと,そして,本件マンション
は,高層階にいくほど高額の価格設定がされており,この高額化の一要素として
高層階からの眺望が重要なものとして位置付けられているといえること,特に1
2階以上は,都心にあるマンションにしては,南側賃貸マンションを超えて遠方の
眺望を得ることができ,それは高層階になればなるほど顕著であることから価格
設定に反映されていると考えられること,実際の眺望も,原告らの区分建物居間
からの視界は良好で,札幌市中心部から多くの遠景を見ることができたこと,と
ころが,本件新マンション建築により,視界の確保という点では全面的な遮蔽が
されたというわけではないが,居間からの視界中に本件新マンションが入るもの
となり,豊平川方面への遠望は遮られることになったこと,特に,居間に座った場
合の視界では概ね空が見えていたのが,本件新マンションの建築により,本件
新マンションの上層部が如実に視界に入ってくることになったこと,原告らは,退
職金を費やし,あるいは経済的負担の増加を負いながら階下から変更して,一
様に高層階の購入をしており,その動機は高層階からの眺望に重きをおいてい
たこと,これに対し,被告住友不動産販売担当者も,そうした動機を十分理解し
ていたこと,ところが,被告住友不動産は本件新マンションの建築を担当者レベ
ルで計画したものの,上記障害により具体化が進まず,原告らが契約を締結す
る段階では本件新マンション建築の計画を説明することは不可能であったこと,
以上が認められる。
(2)そうすると,被告住友不動産販売は,原告らに対し,原告ら主張のような説明義務
を負っていたということはできない。実際にも,被告住友不動産販売担当者は,
本件新マンションの話を聞いた際には程なく原告らに対し情報提供をしている。
したがって,この点に関する限り,原告らの主張は認められない。
(3)そこで,被告住友不動産が本件新マンションを建築する際に,原告らの眺望を害
さないよう配慮する義務が認められるかについて検討を進める。
    上記(1)の認定からして,被告らは「住友シティハウス」シリーズの一環として本件
マンションを建築し,特に高層階については,その利便性とともに眺望もセール
スポイントとして販売し,価格にも反映させている。そして,ここに居住する原告ら
は,この眺望も高層階の区分建物購入の重要な動機としており,被告らもそのこ
とは了解していたはずである。そうすると,被告住友不動産は,本件マンション建
築をし,被告住友不動産販売ともども販売を進めた者として,原告らに対し,信
義則上その眺望を害しないよう配慮する義務があるといわなければならない。
    しかし,被告住友不動産がこうした配慮をしたと認めるに足りる証拠はない。本件
新マンションを建築する際に本件マンション居住者に説明会を開催したことが窺
われるが,そのことが上記義務の履行と呼べるものでないことは明らかである。
したがって,本件のような上記特殊な事情が認められる場合には,被告住友不
動産は上記義務違反による損害賠償責任を負うべきである。
    なお,被告住友不動産販売が本件新マンション建築にどのような関与をしていた
かは,証拠上明らかではない。
第6 争点2(損害)に対する判断
 1 原告ら所有の各区分建物の時価減損について
   甲第23号証によると,a号室について,南側の眺望を大きく阻害する結果になるこ
とから,1割の減価をするとして価格評価をしている。しかし,原告ら所有の各区分
建物の時価減損は,①本件新マンションが建築されて眺望が害されるに至った時
点での原告ら所有の各区分建物の時価と,②その場合に本件新マンションが建っ
ていないことを仮定した場合に付されるべき時価との差額をもって初めて評価でき
ることであって,上記のように単純に1割減価であるというわけにはいかない。
   そして,眺望の障害の有無により上記時価の差額が発生することは容易に予測で
きるところではあるが(被告らも眺望の要素を価格に反映させている。),眺望は主
観的なとらえ方にも影響され得る事項であるから,本件の証拠からその客観的時
価の差額を正確に算出することは困難である。したがって,こうした経済的損失
は,次の慰謝料で斟酌するのが相当である。
 2 慰謝料について
   原告らが上記のとおり各区分建物からの眺望をもって購入の動機としたこと,実際
にも本件新マンションが建築されるまではこれを満喫していたこと,それなのに,本
件マンションの眺望を標榜して建築した被告住友不動産自らが原告らの上記眺望
を阻害するに至ったことは,被告住友不動産に対する信頼を根底から覆すものとし
て,その精神的苦痛は理解できるところである。そして,居間からの上記眺望の障
害は,原告らにとって日常生活の中で常時気になることであり,その憤りも容易に
想定できるところである。その他,上記眺望阻害が経済的損失の側面があること,
本件マンション高層階は,眺望とともに,本件マンションの立地条件である利便性
の要素も当然に含まれていて,これが価格の要素に入っていることは否定できな
いこと,さらに,上下層の価格差には,眺望ばかりか,防犯,住環境等といったその
他の要素も含まれていて,これは本件新マンションの建築により阻害されてはいな
いこと,本件新マンションが原告らの眺望を全面的に阻害したとまではいえないこ
と,本件新マンションの本件マンション側は北側側面で,日常的に本件新マンション
居間から覗かれるというものではないこと等,諸般の事情も総合考慮して,別紙価
格表中の「11階との価格差」欄の価格差の半分程度の慰謝料,すなわち,原告A
については45万円,原告Bについては75万円,原告Cについては80万円をそれ
ぞれ認めるのが相当である。
 3 弁護士費用について
   上記認容慰謝料額からして,原告Aについては5万円,原告Bについては10万円,
原告Cについては10万円を弁護士費用として認めるのが相当である。
第7 結論
   よって,原告らの請求は,上記の限度で理由があるから認容し,その余の請求は
理由がないから棄却する。なお,仮執行宣言については相当ではないからこれを
付さない。以上から主文のとおり判決する。
              札幌地方裁判所民事第3部
              裁判官  川  口  泰  司

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