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平成11年(行ケ)第33号 審決取消請求事件
         判    決
   原      告   株式会社ユニシアジェックス
   代表者代表取締役   【A】
   訴訟代理人弁護士   福 田 親 男
   同          近 藤 惠 嗣
   被      告   特許庁長官 【B】
   指定代理人   【C】
   同          【D】
   同          【E】
   同          【F】
         主    文
 1 特許庁が平成8年審判第20277号事件について平成10年12月8日に
した審決を取り消す。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
         事    実
第1 原告が求める裁判
   主文と同旨の判決
第2 原告の主張
 1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「内燃機関のフライホイール」とする発明(以下「本願発
明」という。)について平成元年2月28日に特許出願(平成1年特許願第488
16号)をしたが、平成8年10月3日に拒絶査定を受けたので、同年12月4日
に査定不服の審判を請求した。
特許庁は、これを平成8年審判第20277号事件として審理した結果、平
成10年12月8日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、平成
11年1月6日にその謄本を原告に送達した。
 2 本願発明の特許請求の範囲(別紙図面A参照)クランクシャフトに固定され
る回転方向の剛性が大きな弾性板と、この弾性板に固定される質量体とからなる内
燃機関のフライホイールにおいて、前記弾性体の軸方向剛性を600㎏/㎜~2200㎏/
㎜としたことを特徴とする内燃機関のフライホイール。
 3 審決の理由
   別紙審決書の理由(一部)写しのとおり
 4 審決の取消事由
審決は、その引用する実願昭62-105269号(実開昭64-11453号)
のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)記載の技術内容を誤認した結果、
本願発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきで
ある。
 (1)燃焼室内の間欠的爆発によってトルクを得る自動車エンジンなど内燃機関
のクランクシャフトには回転むらが生ずることが避けられないので、クランクシャ
フトの端部にフライホイール(慣性を持つはずみ車)を設けて、トルクを均一化す
ることが従来から行われている。
しかしながら、フライホイールは、本来重量物であるうえ、クランクシャフトの一
方の端部に設置されるので、クランクシャフトに曲げ変形が発生する結果、フライ
ホイールとクランクシャフトとが共振して不快な騒音が発生することを避け得な
い。
そこで、フライホイールに弾性板を付設し、その弾性によってクランクシャフトの
曲げ変形を吸収することが行われている。この場合、弾性板の材料は、これを付設
する目的から、軸方向剛性ができるだけ小さいものが好ましいことは当然である。
しかし、弾性板の軸方向剛性が小さいと、   クラッチ切れが不良になるという
問題を生じざるを得ない。
本願発明は、クランクシャフトの曲げ変形に起因する騒音を防止することと同時
に、弾性板の軸方向剛性が小さいことに起因するクラッチ切れの不良を防止するこ
とをも実現するために、弾性板の軸方向剛性を、従来技術においては採用されてい
なかった大きな範囲にすることを特徴とするものである。
 (2)しかるに、審決は、引用例には弾性板の軸方向剛性が記載されていないこ
とを認めながら、クラッチペダルの踏込みによる弾性板の変位量が弾性板の軸方向
剛性に依存することが自明である以上、弾性板の軸方向剛性をクラッチの確実な断
続が可能な程度とすることは当業者が当然考慮すべき事項であるとして、弾性板の
軸方向剛性を本願発明の要件である数値にすることは試作・実験などによって当業
者が容易になしえた旨判断した。
    しかしながら、引用例から審決が援用した記載からは、クラッチの切断に
伴う弾性板の変形が繰り返されることによって弾性板の耐久性が失われることが解
決すべき課題として認識されていることは理解できるが(引用例で出願されている
考案は、この課題を解決するために、フライホイールとクランクシャフトとの間の
変位を、テフロンや硬質ゴムのような材料からなるリングなどによって吸収するこ
とを特徴とするものである。)、弾性板の軸方向剛性が小さいことがクラッチ切れ
不良の原因であるという問題意識を読み取ることはできない。したがって、引用例
のみを論拠とする審決の上記判断は、根拠を欠くものといわざるをえない。
第3 被告の主張
   原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認
定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。
弾性板の軸方向剛性は、一方において、クランクシャフトの曲げ変形に起因する騒
音を防止するために相当の範囲で小さくする必要があり、他方において、クラッチ
切れの不良を防止するために、相当の範囲で大きくする必要があることは、技術的
に自明の事項である。そうである以上、クラッチ切れの不良を防止するために必要
な弾性板の軸方向剛性の下限を見出したうえ、その下限以上の範囲において騒音を
減衰しうる上限を決定することは、当業者ならばフライホイールの設計に際して当
然に行う事項にすぎない。したがって、これを理由に本願発明の進歩性を否定した
審決の認定判断に誤りはない。
         理    由
第1 原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の特許請求の範
囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。
第2 甲第2号証(願書添付の明細書)によれば、本願発明の概  要は下記のと
おりと認められる。
 1 技術的課題(目的)
内燃機関のフライホイールをクランクシャフトに直結すると、フライホイールの質
量に起因する曲げ振動が生じて騒音を生じやすいので、両者の間に、回転方向剛性
が大きく、軸方向剛性が小さい弾性板を介在させることが行われている(1頁15
行ないし2頁12行)。しかしながら、弾性板の軸方向弾性が小さすぎると、クラ
ッチの断続の際に多くのストロークを必要とし、クラッチ切れの不良を生ずるおそ
れがある半面、弾性板の軸方向弾性が大きすぎると、騒音を十分に防止できないと
いう問題点がある(3頁1行ないし7行)。
本願発明の目的は、従来技術の問題点を解消したフライホイールを提供することで
ある(3頁7行ないし9行)。
 2 構成
上記の目的を達成するために、本願発明はその特許請求の範囲記載の構成を採用し
たものである(1頁5行ないし10行)。
 3 作用効果
本願発明によれば、クランクシャフト系の共振点を振動音が問題となる加速時の周
波数領域外にずらすことができるので、クランクシャフト系の曲げ振動に起因する
振動音の発生を効果的に抑制しながら動力伝達をすることができる。のみならず、
クラッチ接合時におけるフライホイールの軸方向変位量をクラッチストロークの5
%以内に抑えることができるので、クラッチ操作、特にクラッチ切りの操作を速や
かに行うことが可能となる(4頁1行ないし9行)。
すなわち、弾性板の軸方向剛性を600㎏/㎜~2200㎏/㎜とすることによって、クラ
ッチ接合時におけるフライホイールの軸方向変位量をクラッチストロークの5%以
内に抑えることができると同時に、クランクシャフト系の共振点を、加速時に問題
となる曲げ振動周波数の領域からずらすことができる。そのため、本願発明によれ
ば、クラッチ切れの不良を生ずることなしに、効果的に騒音の発生を抑制すること
ができる(10頁欄9行ない11頁4行)。
第3 以上を前提として、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。
 1 弾性板の材料は、その弾性によってクランクシャフトの曲げ変形を吸収する
という目的から、軸方向剛性ができるだけ小さいものが好ましいことは技術的に明
らかである。
これに対し、前項の認定によれば、本願発明は、クラッチ接合時に弾性板が変位す
ることに起因するクラッチ切れの不良を解決すべき課題として認識し、この課題を
解決するためにはクラッチ接合時におけるフライホイールの軸方向変位量をクラッ
チストロークの5%以内に抑えることが必要であるとの知見のもとに、弾性板の軸
方向剛性の下限を600㎏/㎜とすると同時に、クランクシャフト系の共振点を加速時
に問題となる曲げ振動周波数の領域からずらすことを企図して、弾性板の軸方向剛
性の上限を2200㎏/㎜としたものであることが明らかである。
 2 一方、甲第3号証によれば、引用例には、審決認定のとおり、「(考案が解
決しようとする問題点) (前略)従来の内燃機関のフライホイール装置にあって
は、運転中にクラッチペダルを踏み込むと、(中略)ダイヤフラムスプリング11を
押し付ける力が作用する。この時には、上記押し付け力がダイヤフラムスプリング
11から(中略)フライホイール1端面へと伝達され、(中略)フライホイール1を
軸方向エンジン側へ変位させる。このため、クラッチを切断するたびにフライホイ
ール1の弾性円板2にせん断応力、曲げ応力が作用するので、材質の疲れを早める
等耐久性の面で問題があった。
そこで、本考案はこのような従来の問題点に着目してなされたもので、フライホイ
ール装置の弾性円板に加わるせん断応力、曲げ応力を軽減することを目的とす
る。」(4頁15行ないし5頁12行)と記載されていることが認められる(別紙
図面B参照)。
引用例のこの記載からは、クラッチの切断の都度、弾性板が変位し、この変位が繰
り返されることによって生ずる弾性板の疲労が解決すべき課題として認識されてい
ることは理解できるが、クラッチ接合時に弾性板が変位することに起因するクラッ
チ切れの不良が解決すべき課題として認識されていると理解することはできない。
 3 したがって、「クラッチが確実に断・続しなければならない」という審決の
説示は一般論としてはもとより正しいが、クラッチ接合時に弾性板が変位すること
に起因するクラッチ切れの不良を「弾性板の軸方向剛性」を限定することによって
解決するとの本願発明の技術的課題とそこから生じた構成を、引用例以外の公知技
術を何ら援用することなく、当業者が当然考慮すべき事項であるとした審決の説示
は、特に、弾性板の材料は前記のとおり軸方向剛性ができるだけ小さいものが好ま
しいことに鑑みると、論拠が不十分であって、そのような判断をするためには、さ
らに的確な公知技術の援用を必要とするというべきである。
第4 よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを
認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61
条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
  (口頭弁論終結日 平成11年9月30日)
     東京高等裁判所第六民事部
         裁判長裁判官山 下 和 明
            裁判官春 日 民 雄
            裁判官宍 戸   充

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