弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 被告が,平成10年5月13日付で,原告の平成9年分の所得税についてした更
正及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,所有地上の建物を取り壊して新たに建物を建築した原告が,平成9年分
の所得税について,前記建物が租税特別措置法(平成10年法律第23号により改
正前のもの。以下「措置法」という)41条にいう「改築」に該当し,同条が規定
する住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除(以下「本件特別控除」とい
う)の適用があるものと考え,その適用を前提に納付すべき税額を計算して確定申
告したところ,被告から,同年分の所得税についての更正処分(以下「本件更正処
分」という)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定処分」という。
また両者併せて以下「本件各処分」という)を受けたため,その取消を求めた事案
である。1 争いのない事実
(1) 本件建物の経緯
 原告は,静岡市α11番に宅地171.90平方メートル及び同地上に鉄骨造亜
鉛メッキ鋼板葺2階建店舗兼居宅,床面積1階160.51平方メートル,2階1
49.75平方メートルの建物(以下「旧建物」という)を所有し,居住していた
が,道路拡張のため,上記土地のうち44.53平方メートルの土地が買収され,
旧建物をそのまま使用できなくなった。そこで,原告は,旧建物を取り壊し,その
残地(静岡市α11番1,宅地127・37平方メートル)に鉄骨造アルミニュー
ム板葺3階建店舗居宅,床面積1階110.56平方メートル,2階105.88
平方メートル,3階99.76平方メートルの建物(以下「本件建物」という)を
建築し(この旧建物の取壊しと本件建物の建築をあわせて以下「本件建築」とい
う),居住の用に供した。
 旧建物と本件建物の間には別紙1記載の差異がある。
(2) 課税処分等の経緯
 原告の,平成9年分の所得税の確定申告及びこれに対する本件各処分の経緯は,
別紙2のとおりであり,その後の不服申立の経緯は別紙3のとおりである。
 すなわち,原告は,平成10年3月13日,本件建築は「改築」に該当するので
本件特別控除の適用があるものとして納付すべき税額を計算して,被告に対し平成
9年分の所得税について確定申告をしたところ,被告は上
記控除の適用はないものと判断して,同年5月13日付で原告に対し本件各処分を
した。原告は同年7月13日,本件各処分を不服として,被告に対し異議申立をし
たが,被告は同年10月13日,上記各異議申立を棄却する旨の決定をした。さら
に原告は,本件各処分を不服として,同年11月9日,国税不服審判所長に対し審
査請求をしたが,同所長は平成12年1月27日付で前記審査請求を棄却する旨の
裁決をした。
(3) 本件建築が措置法41条にいう「改築」に該当しないとすれば,本件特別
控除の適用はなく,その場合には,原告の総所得金額は178万7197円,納付
すべき税額は5万6800円となる。
2 争点
 本件建築が措置法41条にいう「改築」に該当するか。
(1) 被告の主張
ア 租税法の解釈にあたり,税法以外の法分野で用いられている法律用語が租税法
の規定中に用いられている場合には法的安定性の見地から,両者は同一の意味内容
を有していると解すべきである。
 また,現行の租税に関する法規は私法的な法秩序に規制された経済活動を前提と
して,これとの調整の下にその独自の行政目的を達成することを基本的な建前とし
て立法されているから,現行の租税に関する法規が,一般私法において使用されて
いると同一の用語を使用している場合には,特に租税に関する法規が明文をもって
他の法規と異なる意義をもって使用されていることを明らかにしている場合若しく
は租税法規の体系上他の法規と異なる意義をもって使用されていることが明らかな
場合,又は,特に他の法規と異なる意義をもって使用されていると解すべき実質的
な理由がない限り,私法上使用されている概念と同一の意義を有する概念として使
用されているものと解するのが相当である。
イ そして,措置法は税額控除を認める例外規定であり,租税負担公平の原則から
不公平の拡大を防止するため,解釈の狭義性厳格性が要請されると解すべきであ
り,本件においても厳格な解釈運用が求められるところ,租税特別措置法施行令
(平成11年政令120号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という)2
6条14項1号は,措置法41条3項に規定する政令で定める工事につき「増築,
改築,建築基準法第2条第14号(用語の定義)に規定する大規模の修繕又は同条
第15号に規定する大規模の模様替」と規定し,その条文自体に建築基準法を引用
しており,また,住宅取得等特別控除
の対象に一定の増改築等のための借入金等も加えられる旨の改正が行われた際の背
景を解説した「国税庁・昭和63年改正税法のすべて」における用語の解説部分に
おいても措置法の「改築」の意義は建築基準法上のそれと一致しており,更に,本
件特別控除の適用を受ける場合の添付書類を定めた租税特別措置法施行規則(平成
11年大蔵省令35号による改正前のもの。以下「措置法施行規則」という。)1
8条の21第12項によれば,措置法施行令26条14項1号に掲げる工事につい
ては,建築基準法6条3項の規定による確認の通知書の写し若しくは同法7条3項
の規定による検査済証の写し等を確定申告書に添付することが規定されていること
に照らすと,措置法41条1項,3項に規定する「改築」とは建築基準法上のそれ
と同一に解するのが相当である。
ウ ところで,建築基準法上の「改築」(同法2条13号)とは,建築物の全部若
しくは一部を除去し,またはこれらの部分が災害によって滅失した後引き続いてこ
れと用途,規模,構造の著しく異ならない建築物を造ることをいい,増築,大規模
修繕等に該当しないものをいうと解されるのであるから,措置法41条1項,3項
に規定する「改築」についても同義に解するのが相当である。
エ この点,原告の旧建物と本件建物との間には別紙1記載のとおりの差異があ
り,特に旧建物が2階建であるの対し,本件建物は3階建であるため,旧建物と本
件建物とは構造において著しく異なっているのであるから,本件建築は「改築」に
該当しないというべきである。
 したがって,被告が本件建築について,本件特別控除の適用はないものと判断し
てなした本件各処分は適法である。
(2) 原告の主張
ア(ア) 建築基準法上の「改築」とは建築基準法独自の要請に基づき解釈される
べきものであり,他方,措置法41条は住宅建設の一層の促進を図ることを目的と
するものであるから,同法1項,3項に規定する「改築」について建築基準法上の
それと同一に解する必然性はない。ちなみに,建築基準法上の「改築」概念と借地
法8条2項の「改築」概念は判例上異なるものとされている。
 措置法は本件特別控除の適用要件を厳格に定めているところ,被告主張のように
「改築」の意味を建築基準法と同様に制限的に解釈した場合,「改築」について本
件特別控除の適用を認めた目的,趣旨が没却される結果となりかねない。
(イ) また,
措置法においては「改築」と「増築」とも本件特別控除が適用され,その適用要件
は同一のものとされているにもかかわらず,「改築」につき被告主張のように解す
ると,「増築」と「改築」とで本件特別控除の適用において不公平が生じうる。
(ウ) 更に,被告が主張する「改築」の意義のうち,「著しく異ならない」とい
う部分は曖昧であり,実質的には新たな課税要件を追加することと同様であるが,
措置法等にも規定されていない要件を解釈として導入することは租税法律主義の観
点からいっても到底許されるべきではない。
(エ) 以上によれば,措置法41条1項,3項に規定する「改築」については建
築基準法のそれと同一に解するのは相当ではない。
イ 措置法41条1項,3項に規定する「改築」については,用語の通常有する意
味である「建物の全部又は一部を建てかえること」をいうものと解するのが相当で
ある。
 そうであれば,本件建築は措置法41条1項,3項の「改築」に該当するもので
あり,したがって,被告が,本件建築について本件特別控除のないものと判断して
なした本件各処分は違法である。
第3 当裁判所の判断
1 措置法41条にいう「改築」の意義について
(1)ア 租税に関する法規もまた憲法を頂点とする法秩序の一環をなすものであ
るから,他の法規との間での整合性を保ちながら,その独自の立法目的を達成する
ことを原則として制定されているものである。加えて,租税法は国民の納税義務を
定める法であり,その意味で国民の財産権への侵害を根拠づけるいわゆる侵害規範
であるから,将来の予測を可能ならしめ,法律関係の安定をはかる必要がある。ま
た,納税義務は各種の経済活動又は経済現象に着目し,立法政策に基づいて発生す
るものであるが,それらの経済活動又は経済現象は,既に他の法規によって規律さ
れているものでもある。
 したがって,現行の租税に関する法規が,他の法規において既に明確な意味内容
を与えられた形で用いられている用語と同一の用語を使用している場合において
は,その用語は,特に租税に関する法規が明文で他の法規と異なる意義をもって使
用されていることを明らかにしている場合に該らない限り,又は,租税法規の体系
上他の法規と異なる意義をもって使用されていると解すべき実質的な理由がある場
合に該らない限り,他の法規で使用されているものと同一の意義を有すると解する
のが相当である。
イ 
措置法施行令26条14項では,「法第41条第3項に規定する政令で定める工事
は,次に掲げる工事で当該工事に該当するものであることにつき大蔵省令で定める
ところにより証明がされたものとする。」としており,同条同項1号で増築,改
築,建築基準法2条14号に規定する大規模の修繕または同条15号に規定する大
規模の模様替である旨規定している。
 更に,措置法施行規則18条の21第12項は,「施行令第26条第14項に規
定する大蔵省令で定めるところにより証明がされた工事は,次の各号に掲げる工事
の区分に応じ,当該各号に定める書類を確定申告書に添付することにより証明がさ
れた工事とする」とし,同項1号で「施行令第26条第14項第1号に掲げる工
事」については,「当該工事にかかる建築基準法第6条第3項の規定による確認の
通知書の写し若しくは同法第7条第3項の規定による検査済証の写し又は当該工事
が建設大臣が大蔵大臣と協議して定める同号に掲げる工事に該当する旨を証する書
類」と規定している。
 このうち,上記建設大臣が大蔵大臣と協議して定める書類としては,昭和63年
5月24日付建設省告示第1274号(乙7)により,建築士の当該申請にかかる
工事が措置法施行令26条14項1号に規定する増築,改築,大規模の修繕若しく
は大規模の模様替に該当する旨を証する書類と定められている。このように,措置
法施行令,措置法施行規則は建築基準法を意識し,同法を念頭に置いていることが
認められる。
ウ 証拠(乙5,6,9,10)及び弁論の全趣旨によれば,措置法41条の本件
特別控除の対象に「増改築等」が加えられた昭和63年当時,建築基準法上の「改
築」とは,「建築物の全部若しくは一部を除去し,またはこれらの部分が災害によ
って滅失した後引き続いてこれと用途,規模,構造の著しく異ならない建築物を造
ることをいい,増築,大規模修繕等に該当しないもの」と解されていたものであ
り,既に明確な意味内容を有していたことが認められ,他方,措置法上明文をもっ
て他の法規と異なる意義をもって使用されていることを明らかにする特段の定めは
存在せず,また,本件全証拠をもってしても,租税法規の体系上他の法規と異なる
意義をもって使用されていると解すべき実質的な理由も認められないことから,措
置法41条にいう「改築」の意義については建築基準法上の「改築」と同一の意義
に解すべきである

(2)ア これに対し,原告は,まず,前記争点記載の原告の主張のア(ア)
(イ)のとおり主張する。
 しかし,前述のとおり,措置法41条の本件特別控除の対象に「増改築等」が加
えられた昭和63年当時,建築基準法の「改築」の概念は既に明確な意味内容を有
していたのであるから,措置法41条1項,3項に規定する「改築」についても建
築基準法上のそれと同一に解するのが自然というべきであり,また,本件特別控除
をいかなる範囲で認めるかについては立法政策に委ねられているのであるところ,
措置法上明文をもって他の法規と異なる意義をもって使用されていることを明らか
にする特段の定めなども存在しないのであるから,本件特別腔除の適用対象が制限
的になったとしてもやむを得ないところであり,これをもって直ちに本件特別控除
の適用を認めた目的,趣旨が没却される結果になり,「増築」と「改築」とで本件
特別控除の適用に不公平が生じると断ずることはできない。
イ 原告は,前記争点記載の原告の主張ア(ウ)のとおり主張する。
 なるほど,「著しく異ならない」という部分は確定的な概念とはいい難い。
 しかし,法の執行に際して具体的事情を考慮し,税負担の公平を図るために不確
定概念を用いることはある程度不可避であるところ,建築基準法の「改築」の解釈
においては「著しく異ならない」に該当するか否かの判断のために,用途,規模,
構造の3つの観点を明示して相応の限定をしているのであるから,曖昧であるとは
いえないし,実質的に新たな課税要件を追加することと同様であるともいえない。
 したがって,措置法41条1項,3項の「改築」の解釈に際して「用途,規模,
構造において著しく異ならないこと」を判断要素としても租税法律主義に反すると
はいえない。
2 本件建築が措置法41条にいう「改築」に該当するかについて
 旧建物と本件建物との間には別紙1記載のとおりの差異があり,旧建物が鉄骨造
亜鉛メッキ鋼板葺2階建であるのに対し,本件建物は鉄骨造アルミニューム板葺3
階建であり,各階の床面積や部屋数等においても旧建物と本件建物は著しく異なっ
ているのであるから,本件建築については措置法41条にいう「改築」には該当し
ないというべきである。
3 結論
 以上によれば,被告が本件建築について本件特別控除の適用はないと判断して行
った本件各処分は適法というべきである。
 よって,原告の請求は理
由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法
7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
静岡地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官 笹村将文
裁判官 絹川泰毅
裁判官 齊藤研一郎

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