弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     Aは控訴人の訴訟代理権を有しない。
         事    実
 一、 被控訴代理人の主張
 控訴人の訴訟代理人Aは控訴人の支配人として登記がなされているか、Aは控訴
人の訴訟代理権を有しない。すなわち、控訴人はもと神戸市a区b町c丁目d番地
上の工場においてゴム加工業を営んでいたが、昭和三四年一月四日訴外Bに右工場
を売り渡して営業を廃止した。また、控訴人はその後交通事故のため歩行困難とな
り目下何等の営業を営んでいない。Aは控訴人の営業のための商業使用人ではな
く、控訴人よりその残務整理のため訴訟行為をなすことを主たる目的として選任せ
られたものであつて、控訴人の訴訟代理人として、十数件に上る控訴人と被控訴人
ならびに有限会社二和護謨工業所間の訴訟手続に関与している。仮に、選任当時は
Aは適法な控訴人の支配人であつたとしても、控訴人は右に述べたように既に商人
たる身分を喪失した以上、これとともにAは支配人として控訴人の訴訟代理をなす
資格を失つたというべきである。
 二、 控訴代理人の主張
 被控訴人主張の右事実中、控訴人が被控訴人主張の場所でゴム加工業を営んでい
たが被控訴人主張の頃右工場を訴外Bに売り渡したことは認めるが、その余は争
う。
 (1) 控訴人の営業であるゴム工業は通常貸工場と称せられ、神戸市のみに見
られる特殊経営形態である。すなわち、ゴム工業は機械加工部分と手加工的部分と
に別つことができるが、神戸では、よく、ゴム工業の営業主がその作業場の一部を
アパート式に幾人かのゴム靴などのゴム製品加工技術者に貸与し、加工技術者とタ
イアツプして、同人らをして独立してゴム製品の製造をなさしめる形態がとられ
る。全体は集団的工場の態をなすが、この場合、いわば親方に当るゴム工場のこと
を貸工場と称するのである。借り工場はゴム製品を製造するのであるが、自らなす
のは手加工的範囲にとどまり、重機械を要する加工はすべて貸工場に依頼するので
ある。貸工場はゴム製品製造の基礎機械(ゴム練ロール機、ボイラーなど大型機
械)を備え借工場の依頼により賃料を得て重機械加工をなすのである。すなわち、
機械的、工業的賃加工である。貸工場における使用人はその数こそ小人数で足りる
けれども、男子熟練工であることを要する。したがつて、控訴人の貸工場の使用人
が少ないことをもつて、支配人を必要としない程度に規模が小さいということはで
きない。
 控訴人はまた副業として、工員を常時数名雇い入れて、再製ゴムの製造を営み、
また不定期的に自動車タイヤーの下請工場をしている。
 (2) 控訴人は昭和三三年八月二五日以来現実に営業活動をしていないけれど
も、控訴人はその営業を廃業したのではない。すなわち同日控訴人は、訴外有限会
社二和護謨工業所の所長Cから実力をもつて控訴人のb町所在の工場を乗り取られ
たため、営業不能の止むなき状態に立ち至つたのである。控訴人は右訴外会社の行
為を不当とし訴外会社等を相手方とする一〇件余りの訴訟において右工場の引渡義
務を争つている。本件訴訟はその一環をなすものであつて、少なくとも控訴人の営
業の残務たる性質を有する。控訴人が営業を廃したとしても残務整理の範囲内にお
いては控訴人も完全には商人資格を失つていないと解すべきであるから、その支配
人たるAはなお支配人としての権限を行使しうるというべきである。
 三、 証拠関係
 控訴代理人は、甲第一号証、同第二号証の一、二、同第三、四号証の各一ないし
三、同第五号証、同第六、七号証の各一、二、同第八ないし二七号証検甲第一、二
号証(いずれも昭和三三年六月一九日撮影。控訴人の工場に設置してあつた堅型ボ
イラー)を提出し、原審証人D、同E、同F、同Gの各証言、当審証人Hの証言を
援用し、乙第一、五号証の成立は認める。同第三号証中官署作成部分は成立を認め
るがその余の部分の成立は不知、同第三号証、同第四号証の一、二の各成立は不知
と述べた。
 被控訴代理人は乙第一ないし三号証、同第四号証の一、二、同第五号証を提出
し、原審証人B、同C、同I、同Jの各託言を援用し、甲第九号証および同第二七
号証は各確定日付部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知、同第一二号証お
よび同第一九号証は各官署作成部分の成立は認めるがその余の部分の成立は不知、
同第一四、一五、一八、二六号証の各成立は不知、その他の甲号各証の成立は認め
る。検甲第一、二の被写体および撮影年月日がAの主張のとおりであることは認め
ると述べた。
         理    由
 控訴代理人Aが控訴人の支配人として商業登記簿に登記されていることは本件訴
状添付の登記簿謄本によりこれを認め得べく、確定日付の成立につき当事者間に争
いがなく、その余の部分は当裁判所において真正に成立したと認め得る甲第九号証
によるとAは昭和三三年二月一日控訴人よりその支配人に選任せられたものである
ことが認められる。
 ところで、被控訴人は、Aは控訴人のため訴訟代理をなすことを主たる目的とし
て選任せられたものであつて、控訴人の営業の商業使用人ではないから、訴訟代理
権を有しないと主張する。Aが支配人に選任された後、控訴人の訴訟代理人として
控訴人と有限会社二和護謨工業所間の訴訟に関与していることはAの供述するとこ
ろであるが、この事実をもつて直ちにAが訴訟行為をなすことを目的として選任せ
られたものであると断ずることはできないし、他に被控訴人主張事実を肯認すべき
証拠はない。かえつて、当審における証人H、原審における証人高谷悦二、同E、
同Gの各証言によると、Aは控訴人が営業不振に陥ち入つて営業再建のため選任せ
られたものであり、その神戸市a区b町c丁目d番地におけるゴム工業の経営につ
き包括代理権を与えられた商業使用人であることを認めるに十分である。
 次に、被控訴人は、控訴人は昭和三四年一月四日にゴム工業を廃業したから、こ
れに伴つて同日Aの支配人としての権限も消滅したと主張する。当審における証人
H、原審における証人D、同E、同F、同G、同Cの各証言によると、控訴人は昭
和三三年八月頃神戸市a区b町c丁目のゴム工場を訴外有限会社二和護謨工業所に
占拠され、更に昭和三四年五月頃訴外Bから右工場にあつた機械類を持ち去られた
ことが認められる。もつとも前掲各証拠によると、右工場の明渡義務の存否や加工
賃等の請求について控訴人と被控訴人あるいは有限会社二和護謨工業所の後身会社
である二和護謨工業株式会社等との間に紛争があり、現に一〇件あまり訴訟が係属
していることが窺えるので、右工場の引渡しは控訴人の自由な意思に基づくもので
あるとは断定し難いがかあるけれども、官公署作成部分の成立につき当事者間に争
いなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第三号証に
よると、控訴人は昭和三三年八月一八日付をもつて神戸労働基準局西監督署長あて
廃業届を提出した事実が認められるので、右事実と当事者間に争いのない営業休止
の事実によれば控訴人は同日限り営業を廃したものといわなければならない。しか
して、本件記録によると、控訴人の本訴提起の日は右控訴人の廃業日より約一ケ年
後である昭和三四年八月一三日であることが認められる。
 <要旨>そこで、支配人の訴訟代理権は、その主人の営業の廃止により消滅するか
どうか考察する。支配人は商人より選任せられたる商業使用人であり法定範
囲の代理権、すなわち、営業主に代りその本店または支店の営業に関する一切の裁
判上または裁判外の行為をなす権限を有する委任代理人である。ゆえに、営業主が
その営業を廃止するときは同時に支配人は当然終任となり、支配人の権限もこれに
伴つて完全に消滅すると解するのが相当である(明治四〇年四月九日大審院判決、
同年判決録四一五頁参照)。もつとも、その際急迫の事情、すなわち、遅延によつ
て本人に損害発生の危険を生ぜしめるおそれがあるときは支配人は本人またはその
適法な代理人が委任事務を処理することができるまで必要な処分をすることができ
る(民法第六五四条)のは別問題である。控訴代理人は支配人の代理権が営業主の
営業廃止によつて消滅したのちも、残務整理の範囲内においてはなお支配人は従前
の権限を行使することができると主張する。しかし、営業主の営業廃止に伴い、支
配人の終任を生ずるにかかわらず、右急迫の場合における応急処分のほかに一般的
に残務整理の範囲内における代理権をその支配人に認むべき合理的理由も必要も認
められないし、その旨を定めた法文上の規定も存しない。多少問題となる法文の規
定について説明を加える。
 民訴第八五条は、「訴訟代理権は当事者の死亡、もしくは、訴訟能力の喪失、当
事者たる法人の合併による消滅、当事者たる受託者の信託の任務の終了または法定
代理人の死亡、訴訟能力の喪失もしくは代理権の消滅、変更により消滅せず」と規
定している。この規定は法令により裁判上の行為をなすことをうる代理(たとえば
支配人の代理)については適用がないとの見解があるが、右規定について民訴第八
二条のような特別規定はないから、これを肯定するのが相当であると解せられる。
しかしながら、右第八五条の法意は、訴訟代理人の多くが国家の公認した弁護士で
あつて、訴訟手続についてはいわば専門家であり、同条所定の事由が生じても、こ
れにより直ちに訴訟代理の消滅を来たすべき基礎たる信頼関係の消滅事由が発生し
たとみるのは、かえつて本人またはその承継人の意思に副わないと考えられるこ
と、しかも訴訟手続は円滑、迅速な進行が要請せられること等に鑑み、訴訟手続中
に同条所定の事由が生じた場合には代理権が消滅しない旨を規定したのである。そ
れゆえ、主人の営業の廃止と支配人の終任後に提起せられた本件訴訟の如き場合に
は、右民訴の法条の適用なきは勿論、これを類推適用することもできないといわな
ければならない。
 次に、商法第五〇六条は、「商行為の委任による代理権は本人の死亡によりて消
滅ぜず」と規定している。支配人の有する代理権は商行為の委任による代理権であ
るから、本人の死亡によつては消滅しないわけである。右法条は本人の死亡という
突発的事故に対し本人の承継人のため企業の維持をはかる必要から、民法第六五三
条に対し特則を設けたものである。営業の廃止の場合は、本人の意思によりこれを
なすのでありこれにより当然支配人の終任を来たしているにかかわらず、その場合
に本人の意思に反するような企業の維持をはかる必要はないし、本人を差し置いて
残務整理を支配人になさしめる必要もない。それゆえ右の法条は営業の廃止の場合
に類推適用する余地は全然ないものといわなければならない。
 その他、控訴代理人の主張を理由づける法的根拠は見当らない。
 そうすると、控訴代理人は控訴人の廃業により支配人たる権限を失つたものであ
り、本訴において控訴代理がなす訴訟行為について民法第六五四条にいう「急迫の
事情の存在」を認めることもできないから、控訴代理人は控訴人の訴訟代理権を有
しないと断じなければならない。
 よつて、主文のとおり中間判決をする。
 (裁判長裁判官 平峯隆 裁判官 大江健次郎 裁判官 北後陽三)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛