弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を次の通り変更する。
     被控訴人は控訴人に対し、小松島市大字a字bc番のd田六畝十五歩及
び同所e番のf田四畝二十一歩の所有権を控訴人に移転することに付、徳島県知事
に対する許可申請手続をせよ。
     控訴人の尓余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し、主文記載の土地の所
有権を控訴人に移転することに付徳島県知事に対し許可申請手続を為し且つその許
可を停止条件として右土地に付売買による所有権移転登記手続及び引渡をせよ」と
の判決を求めた。
 控訴代理人の事実上の主張は、被控訴人との本件契約は知事の許可を停止条件と
して所有権を移転する趣旨である。然るに被控訴人は目下その所在を明にせず、そ
の許可申請の手続をしないのである。本件の移転登記並に引渡の請求は許可を条件
とするもので将来の給付を求める訴であるが、予めその判決を受けておけば将来許
可があつた場合に執行文の附与さえ受ければ事足り、且つそれによつて被控訴人の
権利を侵害するものでもない。と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるからこ
れを引用する。
 被控訴人は、正規の呼出を受けながら原審及び当審の各口頭弁論期日に出頭せ
ず、答弁書その他の準備書面を提出しない。
 証拠として、控訴代理人は甲第一号証を提出した。
         理    由
 控訴人の主張事実は民訴法一四〇条三項により被控訴人が自白したものとみな
す。その事実によると、控訴人は農を業としその苗代田として昭和二七年一〇月二
五日県知事の許可を停止条件として、被控訴人からその所有の自作地たる主文記載
の田二筆を代金六万円で買受ける契約をして、即日予めその代金を被控訴人に支払
い、被控訴人は遅滞なく知事にその所有権移転の許可申請手続をなすべく、その許
可を得たときは直に土地を<要旨第一>控訴人に引渡し、且つその所有権移転登記手
続をすることを確約したというのである。農地法(昭和二七年一〇月二
一日施行)第三条によると、農地の所有権を移転する場合は省令(同法施行規則)
の定めるところにより当事者が知事の許可を受けなければその効力を生じないので
あるが、その許可を効力発生の停止条件として予め売買契約を締結しておくことは
法の禁止するところでなく、同法施行規則第二条がその許可を受けるには権利を移
転しようとする契約の内容を申請書に記載するよう規定していることから見ると、
法は前述趣旨の契<要旨第二>約が締結されることを予定しているものと言うことが
できる。そして同施行規則第二条によると、許可の申請は当事者が連名
でしなけなければならないから、前述趣旨の契約を締結した当事者は相互に知事に
対する許可申請手続をする義務を負担し、若しそれを履行しないときは相手方はそ
れを命ずる確定判決を得てその申請の意思表示に代えることができるものと解しな
ければならない。従つて被控訴人に対し本件許可申請手続を求める控訴人の請求は
正当である。
 次に知事の許可を停止条件として本件農地の所有権の移転登記並に引渡を求める
請求部分につき審按する<要旨第三>に、将来の給付の訴は予めその請求をする必要
がある場合に限り認容せられるのであるが本件は停止条件付の権利で、
条件の成否未定のため、権利の実現が不確定であり、且つ目的物は確実な不動産で
あるから、その条件の成就するのをまつて請求するのが相当であつて、将来の不履
行が現在において明白な場合その他特別の事情のない限り事前に予め請求する必要
がないものと言わねばならない。控訴人は、被控訴人が現在その所在を明にせず、
知事に対する許可申請を履行しない事実を主張しているが、他面被控訴人が本件で
控訴人の主張事実を明かに争わないところから見ると、将来知事の許可があつて
も、なお被控訴人がその義務を履行しないことが現在明白であるとは言えない。そ
の他本件で特別の事情は認められないから前記請求部分は現在においては失当であ
ると言わざるを得ない。
 そこで控訴人の本訴請求中知事に対する許可申請を求める部分を認容し、尓余の
請求を棄却すべく、原判決はこれと一部符合しないからこれを変更すべきものと認
め、訴訟費用につき民訴法九六条八九条九二条を適用して主文の通り判決する。
 (裁判長判事 前田寛 判事 太田元 判事 森本正)

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