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裁判例


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判決
1本件控訴をいずれも棄却する。
2当審において追加された請求に係る訴えを却下する。
3控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人が被控訴人参加人国に対して平成19年4月26日付けでしたα港
港湾区域内の水域における浚渫工事に係る工事協議応諾処分を取り消す。
3(当審で追加された請求)被控訴人が被控訴人参加人国に対して平成20年5
月28日付けでしたα港港湾区域内の水域における浚渫工事に係る工事変更協
議応諾処分を取り消す。
4(予備的に)本件訴えを横浜地方裁判所に差し戻す。
第2事案の概要(明記したものを除く略語は原判決に従う。)
1本件は,α港港湾区域内の水域(本件港湾水域)の一部水域において被控訴
人参加人国(参加人)が行う浚渫工事(本件浚渫工事)に関して,港湾法(以
下「法」という。)37条1項3号,同条3項に基づき,被控訴人が参加人と
の協議に応じた行為(以下「本件協議応諾」という。)につき,本件港湾水域
の利用者である控訴人らが,本件浚渫工事は原子炉事故等による災害のリスク
を伴う米国の原子力空母の寄港を予定するものであり,有害物質によって汚染
されたヘドロを拡散させ海洋を汚染するものであり,控訴人らの本件港湾利用
を害するものである等と主張し,本件協議応諾の取消しを求めた事案である。
2原審は,本件協議応諾が抗告訴訟の対象となる処分に該当するとした上,控
訴人らの主張する権利,利益のうち漁業権以外のものについては,法37条に
よって,一般公益の中に吸収解消されない個々人の個別的利益として保護され
ているとはいえず,漁業権についてはその権利主体であるA漁業協同組合(以
下「本件漁業協同組合」という。)による本件浚渫工事への同意があるから,
その組合員である控訴人Bについて独立して保護すべき法律上の利益はないか
ら,控訴人らには原告適格が認められないなどとして,本件訴えを却下した。
3控訴人らは,従前主張に加え,本件漁業協同組合による本件浚渫工事への同
意があるとしても,控訴人らの本件港湾水域の利用権が否定されるものではな
いなどとして,控訴し,当審において,民事訴訟法143条に基づき,本件浚
渫工事の工事実施期間を平成20年8月16日までと変更することについて被
控訴人が同年5月28日付けで参加人との協議に応じた行為(以下「本件追加
応諾」という。)の取消請求の訴えを追加した。
第3基礎となる事実(当事者間に争いがないか括弧内に記載した証拠によって容
易に認められる事実)
1本件に関する海域等の関係
(1)本件港湾水域のうち沿岸部の区域には本件漁業協同組合のための共同漁
業権が設定されている(甲151(枝番を含む。),以下,枝番のある書証
は,特に断りのない限り枝番を含む。)。
(2)本件浚渫工事を行う海域(以下「本件工事海域」という。)及び周辺海
域を含む在日米海軍基地(甲1)は,「日本国とアメリカ合衆国との間の相
互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における
合衆国軍隊の地位に関する協定」2条1の規定に基づきアメリカ合衆国の使
用に提供された施設及びその区域の一部をなすものであり,同協定3条1の
規定により,アメリカ合衆国はこの施設及びその区域の設定,運営,警護及
び管理のため必要なすべての措置をとることができる。
上記海軍施設の海域は,(1)記載の共同漁業権が設定された海域に含まれ
るが,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づ
き日本国にあるアメリカ合衆国の軍隊の水面の使用に伴う漁船の操業制限等
に関する法律」1条及び同条に基づく告示により,常時漁船の操業が禁止さ
れている第1種制限水域(甲1,2,99,乙4)とされ,同法2条は,こ
の禁止に係る漁業権の補償を予定している(弁論の全趣旨,甲2)。
2当事者等
(1)控訴人Bは,本件漁業協同組合の組合員であり,本件港湾水域において
主に潜水漁業,底引き網漁を営む者である(甲4,60,96)。
(2)控訴人C,同D,同E,同F,同G(以下,同控訴人らを「控訴人C
ら」という。)は,「H」と称する団体の構成員であって,本件港湾水域に
おいて,ヨットやボートを使った海洋レクリエーション,教育活動,海上デ
モ等の社会活動を定期的に行っている者である(甲7,8,69)。
(3)控訴人I,同J,同K(以下,同控訴人らを「控訴人Iら」という。)
は,本件港湾水域において海釣りを行っている者である(甲117)。
(4)被控訴人は,α港の港湾管理者(法33条)である。
(5)参加人は,本件浚渫工事の実施主体であり,被控訴人から本件協議応諾
を受けた者である。
3本件訴訟に至る経緯等
(1)参加人と在日米海軍は,平成18年6月15日,α港に隣接する在日米
海軍α基地に空母○○に代わり原子力空母○○が配備されることに伴い,同
空母交替のため,参加人が,本件工事海域において,堆積したヘドロ及び海
底の岩盤を掘削して浚渫する本件浚渫工事を行うことを合意した(甲31,
99,丙1ないし4)。
(2)参加人(横浜防衛施設局長)は,同年3月29日,本件浚渫工事が法3
7条1項3号に規定する水域施設(航路,泊地及び船だまり・法2条5項1
号)の建設又は改良に該当するとして,同条1項3号,同条3項に基づき,
工事の実施期間を本件協議応諾の日から平成20年5月31日までとして,
α港の港湾管理者である被控訴人に協議を求め,被控訴人は,同年4月26
日付けで,「1港湾法及び横須賀港港湾管理条例の各規定を遵守するこ
と。2工事着手の際は工事着手届を,工事完了の際は工事完了届を,それ
ぞれ提出すること。3工事中は,事故等がないよう十分に注意すること。
万一,事故や水質汚濁等が発生した場合には,速やかに連絡の上,責任を持
って対処すること。4協議内容に疑義が生じた場合又は変更を行う場合に
は,速やかに相談すること。」との留意事項を付して,上記協議に応じた
(本件協議応諾,甲33,99,乙1,丙5,弁論の全趣旨)。
(3)前記のとおり本件工事海域は本件漁業協同組合の共同漁業権の設定水域
に含まれるところ,本件浚渫工事は岩礁の破砕を含むため,参加人(横浜防
衛施設局長)は,漁業法65条,水産資源保護法4条に基づき定められた神
奈川県海面漁業調整規則(平成20年規則9号による改正前のもの)48条
2項に基づく許可の前提として,本件漁業協同組合から同条3項に規定する
平成19年3月28日付けの同意書を取得した(甲54,99,151,丙
9,16)。
(4)参加人から本件浚渫工事を請け負ったL・M共同企業体及び環境監視等
業務を請け負ったN株式会社は,平成19年4月ないし6月ころ,横須賀港
港長に対して,各作業,工事についての許可を申請し,そのころ,許可がさ
れた(甲138)。
(5)参加人(横浜防衛施設局長)は,本件浚渫工事によって生ずる土砂を海
洋投入処分とすることとし,平成19年4月5日,環境大臣から,海洋汚染
等及び海上災害の防止に関する法律10条の6第1項の規定による許可を得
た(丙7)。
(6)参加人は,平成20年5月19日,本件協議応諾を得た期間に本件浚渫
工事が終了しないとして,本件浚渫工事の工事実施期間を平成19年4月2
6日から平成20年8月16日までと変更することの協議を求め,被控訴人
は,同年5月28日付けで本件追加応諾をした。
第4争点並びに争点に関する当事者及び参加人の主張
争点並びに争点に関する当事者及び参加人の主張は,原判決の「理由」の第
2の2及び第3,第4に摘示されたとおりであるから(本件協議応諾の違法の
主張は本件追加応諾にも及ぶ。),これを引用する。
第5当裁判所の判断
1本件協議応諾及び本件追加応諾は,抗告訴訟の対象となる処分に該当しない
ものと判断する。その理由は,以下のとおりである。なお,以下の説示におい
て,本件協議応諾に関する判断は本件追加応諾をも対象とするものである。
(1)処分性と原告適格
ア抗告訴訟の対象となるべき行政庁の処分とは,行政庁の法令に基づく行
為のすべてを意味するものではなく,公権力の主体たる国又は公共団体が
行う行為のうち,法律上,その行為によって,直接国民の権利義務を形成
し又はその範囲を確定すること(権利又は法的地位に対する直接的かつ具
体的な影響が生ずること)が認められているものである。
イこのような処分につき法律上の利益(処分によって侵害され又は必然的
に侵害されるおそれのある法律上の利益又は処分の取消しによって回復す
べき法律上の利益)を有する者は,処分の相手方とされた者はもちろん処
分の相手方以外の第三者であっても,当該処分の取消しを訴求する原告適
格を有する(行政事件訴訟法9条1項)。処分の相手方については,この
原告適格を基礎づける利益と処分性の判断において検討される国民の権利
義務とが一致することが多いが,第三者の場合に,両者は必ずしも一致す
るものではない。すなわち,「処分」とされる行為によって権利義務を形
成され,又は確定されるという関係にない第三者でも,当該処分により自
己の利益若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は侵害されるおそ
れのあるときは,当該処分の取消しに関する原告適格を有する。また,行
政処分は当該処分によって生じ得る第三者の上記利益の侵害を肯定するも
のではないから,当該第三者がその利益に係る権利の行使として民事上の
救済を求めることは禁じられない。すなわち,処分の相手方以外の第三者
に民事上の救済があることは行為の処分性を否定するものではなく,他方
で,ある者がある行政行為によって権利の侵害又は不利益を受けるとして
も,当該行政行為が直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定す
るものでないときは,当該行政行為を処分ということはできない。
ウ国又は地方公共団体に対する他の行政機関の行為を処分と解すべきか否
かは,当該行為の相手方である国又は地方公共団体が一般私人と同様の立
場にあるのか,一般私人と同様の立場であるとすれば,その行為が直接の
権利義務を形成し又はその範囲を確定するものであるか否かを,当該行為
の内容,効果及び不服方法を初めとする法の構成をも総合して,判断すべ
きである。
(2)港湾管理事務の性質
ア日本の領土内の海は,それ自体で公共の用に供される自然公物であり,
現行法において,その水面は国の所有に属する公共用財産であって(公有
水面),特定人による独占的排他的支配の許されないものであり,現行法
上,海水に覆われたままの状態でその一定範囲を区画して私人の所有に帰
属させるという制度は採用されておらず,海水に覆われたままの状態にお
いては私法上所有権の客体となる土地には当たらない。
したがって,海の公共利用は特定人の固有の権利に基づくものではな
い。したがって,水域施設の建設,改良,管理に関しては,多数かつ複雑
な私人の権利,利益との抵触,調整を要する地上施設とは異なる面を有す
ることとなる。もっとも,漁業法は,一定の期間を有する私権としての漁
業権の設定(漁業法6条,10条,21条)及び他人の漁業権上の物権と
しての入漁権の設定を認め(同法7条,43条),漁業権は物権とみなさ
れ,土地に関する規定が準用され(同法23条),漁業権の変更,取消
し,行使の制限及びこれに伴う補償措置も漁業法によって規律されている
(同法39条)。
イ港湾は,海水に覆われた水域(港湾区域)と港湾の利用のための陸域
(臨港地区)から構成される(法2条参照)。法は,海上交通の施設とし
ての港湾に着目し,その整備,適正な運営を図り,港湾施設(港湾区域及
び臨港地区における施設)の開発,保全を目的として,港湾管理者による
管理を予定する。他方,港内における船舶交通(入出港,停泊,航法)の
安全及び港内の整とん(水路の保全)といった港湾施設の具体的な利用方
法は,港則法により,海上保安官である港長にその規制が委ねられてい
る。なお,港則法は,危険物積載船舶(港則法21条ないし23条)及び
原子力船(同法37条の2)に関する規制をも規律している。
ウ港湾の管理は,上記のとおり,港湾の整備,適正な運営並びに港湾施設
の開発,保全にあるが,そのためには,港湾環境の保全に配慮し(法1
条),港湾機能を円滑かつ効果的に発揮させるため港湾における諸施設や
諸活動を有機的に運営するために,各分野の協調,調整を図ることが求め
られる(甲77)。
港湾管理事務は港務局又は港湾管理者たる地方公共団体の事務であり
(法2条1項,33条),現在,この事務は地方公共団体の自治事務に属
する(地方自治法2条8項)。
エ従前の地方自治法は,住民福祉の増進を目的とする非権力的な行政を自
治体の公共事務(固有事務)とし,法律又はこれに基づく政令により普通
地方公共団体に属する事務(団体委任事務。なお,地方公共団体の長又は
機関に行わせる国の事務は機関委任事務とされた。)及びその他の行政事
務に分かれていたが,地方分権一括法により普通地方公共団体の事務,権
能が幅広く認められ,平成11年法律87号により,地方公共団体及び国
の役割を分け,地方公共団体には地域における行政を自主的かつ総合的に
実施する役割を担わせることとしたため(地方自治法1条の2),地方公
共団体の事務は,その処理する事務のうち法定受託事務とそれ以外の自治
事務とに区分された(同法2条8項)。
自治事務と法定受託事務との区分は,地域における行政を地方公共団体
に担わせるという観点からされたものであり,自治事務には従前の公共事
務,行政事務,団体委任事務,機関委任事務であったものも含まれ,自治
事務であることが国の関与を否定する趣旨を含むものではない。もっと
も,地域における行政は地方に委ねるべきものであるから,地方公共団体
の自治事務について,国は,従前の機関委任事務におけるような一般的指
揮監督権を有するものではなく,自治事務に関して生ずる地方公共団体の
判断に係る公益と国における公益との調整については,「助言又は勧
告」,「資料の提供の要求」,「是正の要求」及び「是正の勧告」によっ
て関与することが予定され,是正の要求に対する不服は最終的に機関訴訟
によるべきこととされている(地方自治法245条,同条の5,6,25
1条の5)。
なお,国は,地方公共団体が私人に対して行う「処分」に対しても,是
正の勧告,是正の要求をすることができるが,この場合でも,法令解釈又
は国の公益の観点から,自治事務との間の公益の調整を図るものであり,
処分に係る個別的な私権の保護を目的とするものではない(この私権の保
護は抗告訴訟によるべきである。)。
(3)港湾法の規定
ア法1条は,法の目的を「交通の発達及び国土の適正な利用と均衡ある発
展に資するため,環境の保全に配慮しつつ,港湾の秩序ある整備と適正な
運営を図るとともに,航路を開発し,及び保全すること」とする。なお,
ここでの港湾の整備,運営,航路開発及び保全が港湾施設に向けられたも
のであり(法12条),海面通行を含む具体的な港湾利用の方法が港則法
の規律対象とされていることは既に見たとおりである。
イ水域施設の建設,改良に関する港湾工事(法2条7項)については,港
湾管理者自身が行う場合には,港湾法上,法37条の許可又は協議応諾に
対応する特段の外部行為は予定されていない(法34条,12条3号,な
お,同号所定の港湾工事(陸上工事を含む。)につき,他の法律による規
制がある場合に,これに従うべきことは当然である。)。したがって,港
湾管理者が港湾計画(法3条の3)の範囲内の行為であるとして行う水域
施設の建設,改良に関する港湾工事については,法に予定された「処分」
はないこととなる。
これは,(2)アに説示した海の公有水面としての性質に基づき,公益目
的での利用が可能であることを前提として,港湾管理者たる地方公共団体
に,海を主要構成部分とする港湾の利用,保全,港湾計画の遂行に関する
管理を委ね,その公益判断を尊重したことによるものと解され,この判断
については,地方公共団体の行政としての政治的責任が問われることはあ
るとしても,抗告訴訟により司法審査することは予定されていないといわ
ざるをえない。
この場合でも,当該港湾工事により港湾環境を害することのないよう配
慮し,工事を実行すべきことはいうまでもなく,当該港湾工事の遂行,結
果によって権利を害される者は,不法行為による救済を求めることになる
し,当該工事のために漁業権の規制(行使の停止)がされた場合には損失
補償が予定され(漁業法39条),また,工事により漁業権の行使が害さ
れるときは,損害賠償のほか物権的請求権(同法23条1項)に基づく妨
害排除請求の対象ともなる(このことと処分性の有無とは論点を異にする
ことについては,(1)イ参照。)。
ウ水域施設の建設又は改良をしようとする者は,港湾管理者の許可を受け
ねばならず(法37条1項3号),港湾管理者は,その行為が,港湾の利
用若しくは保全に著しく支障を与え,又は港湾計画の遂行を著しく阻害
し,その他港湾の開発発展に著しく支障を与えるものであるときは,許可
をしてはならないとされている(同条2項)。この許可が,許可の相手方
に対して,水域施設を建設又は改良する権利(法的地位)を付与する処分
に当たることは明らかである。
国又は地方公共団体が水域施設の建設又は改良をする場合には,上記の
「港湾管理者の許可を受け」が「港湾管理者と協議し」と,「許可をし」
が「協議に応じ」と読み替えられている(同条3項)。
規定の体裁上,1,2項は主体に限定のない一般的規定であり,3項
は,国又は地方公共団体に関する特則ということになる。したがって,国
又は地方公共団体が水域施設の建設又は改良をしようとするときは,港湾
施設等の工事には港湾管理者と協議すること(港湾管理者が協議に応ずる
こと)が必要である(同条3項)。なお,上記許可の申請と協議の申し出
に対する対応の基準(同条2項)は共通である。
地方公共団体が水域施設の建設又は改良をする場合としては,α港につ
いていえば,例えば,神奈川県が河川管理者として(河川法10条),あ
るいは横須賀市が公共下水道管理者(下水道法3条)として行う工事があ
る。
水域施設の建設,改良行為につき,港湾管理者は,許可を受けない私人
の工事については,工事の中止,原状回復を命ずることができ(法56条
の4第1項1号ハ),また,許可に条件を付することができ(法60条の
2),許可条件への違反に対しては,更に許可の取消し・停止をすること
ができるが(法56条の4第1項2号),国又は地方公共団体が行う港湾
管理者との協議については,上記の各規定の適用はない。
この点につき,港湾区域内の水域又は公共空地の占用又はそこでの土砂
採取の許可を受けた者に係る料金徴収を規定する法37条4項は,その但
書きにおいて,「前項(同条3項)に規定する者(国又は地方公共団体)
の協議に係るもの」を除外する旨を規定するから,同項の文理からは,
「許可を受けた者」に協議をした「国又は地方公共団体」が包含されると
して,法56条の4又は法60条の2の監督措置が協議を経た国又は地方
公共団体にも及ぶとの見解があるが,採用できない。なぜなら,法37条
3項に規定する者とは「国又は地方公共団体」を示すものであって,「許
可を受けた者」に対応する「港湾管理者と協議が調った国又は地方公共団
体」でないことは,同項の文理から明らかである。また,「法37条1項
の許可を受けた者が当該許可に係る行為」と「同条3項に掲げる者が同項
の規定による港湾管理者との協議が調った行為」とを並列して規定する法
38条の2,法37条3項を一項に吸収することなく同法の各項の準用を
規定する法56条3項の規定振りからすると,「法37条1項の許可を受
けた者」に「同項3項の協議の調った国又は地方公共団体」が含まれると
解することはできない。法37条4項の上記規定は,料金徴収の根拠とな
る条例又は規程の限界を規定したものというべきであり,同条の規定を根
拠に,法56条の4第1項1号ハ,2号又は法60条の2第1項の規定が
法37条3項の協議に適用されると解することはできない。実質的に検討
しても,法56条の4第1項2号の予定する条件は,許可に係る事項の確
実な実施(本件では水域施設の建設,改良として水深を増加させる工事
(本件浚渫工事))に向けられたものであり,国に対して,その確実な実
施のための条件を付する必要性は乏しく,また,横須賀市が公共下水道管
理者(下水道法3条)として行う工事が法37条1項の行為に該当する場
合には,港湾管理者としての公益判断を経る必要があるとしても,条件を
付したり,監督を及ぼす必要はないというべきである。なお,水域施設の
工事をする者からの現実に工事を請け負った民間業者の不当又は不適切な
工事に対する港湾管理者の監督は,港湾管理者たる地方公共団体が水域施
設の建設,改良工事(法12条1項3号)を行う場合にも生ずることであ
り,この監督は,一般的監督権(法12条1項2号,4号の2,14号)
に基づくものというべきであり,このような監督が存在することをもって
上記解釈が左右されるものではない。
そうすると,国又は地方公共団体が港湾管理者の協議応諾なしで法37
条1項の行為を行った場合でも(これが不当であることはいうまでもない
が),その行為を行った行政主体の政治責任が問われるとしても,港湾管
理者による監督措置(法56条の4第1項)は予定されていないというこ
とになる。
エ公共用財産等の管理に関する若干の法律について,「協議」の用例を検
討する。
法における「協議」の用例としては,①4条3項,5項(港務局の設立
についての地方公共団体間の協議。港務局の港湾区域の認可をする国土交
通大臣又は都道府県知事の河川管理者又は海岸管理者との協議),②43
条の2(他の工作物と効用を兼ねる港湾施設の施行及び費用負担に関する
港湾管理者と当該工作物管理者との協議),③52条(重要港湾における
国の直轄工事に関する港湾管理者との協議)がある。これらは,いずれ
も,指揮監督関係にない行政機関(又は行政主体)の間において,協議当
事者の担当事務に係る各公益の調整を目的とするものと認められ,国民と
同様の立場で行政機関に協議を求めるものではない。
また,海岸法13条及び河川法95条は,第1号法定受託事務として
(地方自治法別表第1),河川又は海岸管理者が各管理のための工事をな
し得ることを前提に,法37条と類似の規定を置く。また,海岸法4条,
5条4ないし6項等,河川法11条,15条,35条,63条4項,65
条等も公益調整に関する協議を規定する。
なお,海岸法10条は,海岸保全区域での土砂採取等につき,法37条
1項又は56条1項の許可を受けた者は重ねて海岸法の許可を要しないと
する一方,国,地方公共団体(港務局を含む。)については,海岸法7
条,8条の特則として,海岸管理者(都道府県知事,市町村長。海岸法5
条1,2項)との事前協議を求めており,法37条1項の許可と3項の協
議とを同列には扱っていない。また,河川法53条水利使用者相互の協議
は,水利使用に関する対当な者相互間での利害調整を意味している。
(4)検討
以上によれば,法は,港湾の公有水面を公益目的の下に利用し得ることを
前提に,港湾管理者が自ら水域施設の建設,改良をすることを肯定し(法1
2条,上記(3)イ),公益目的を前提としない私人による場合にも公有水面
の公益に反しない公平な利用という制約の下で港湾の公有水面の利用権を付
与(許可)することとしたが(港湾施設のうち陸上施設等につき他の法律に
よる規制がある場合に,これに従うべきことはいうまでもない。),港湾管
理者と同様に公有水面につき公益を有する国及び地方公共団体による水域施
設の建設,改良については,地方行政の観点からの港湾管理者の公益判断を
尊重し,指揮監督あるいは補助という関係ではなく,港湾管理上の公益と国
及び地方公共団体の公益との調整を図るための協議という方式を採用したも
のであり,この相違から,港湾管理者による監督,規制のみならず,不服方
法においても,私人に対する許可の場合とは区別されている(上記(3)ウ)
ものということができる。そして,この解釈は,協議という語の一般的用法
にも,類似規定をもつ法律の用語例とも一致するものである(上記(3)
エ)。なお,法37条の規定の沿革上,港湾法案の審議に際して,専売公
社,国有鉄道等についても「協議」との語を用いたのは,専売公社,国有鉄
道等を国と同様に扱ったと説明されていることが認めれられるが(甲7
8),このことは,国については許可とは異なる協議との用語が用いられる
ことを前提に,専売公社,国有鉄道等に協議との用語を用いたことの理由を
述べたもので,許可と協議の法的意味が同一であることを意味するものでは
ない。
港湾工事により港湾利用者の具体的な権利,利益に影響がある場合には,
これを個別的に保護するために,行政機関の行為を抗告訴訟の対象となる処
分として立法することも可能である。しかし,既に検討したとおり,水域施
設の建設,改良工事についての協議応諾は,水域施設の物理的な改変を対象
とするものであって,直接国民の権利を制限したり義務を課したりするもの
ではなく,この物理的な改変を超えて,その後に何らかの法律効果を存続さ
せるものではない。しかも,港湾管理者自身の行う港湾工事には港湾法上の
処分として検討すべき外形もないことからすると,法が,国又は地方公共団
体(港湾管理者を除く)の公有水面の利用に限って,公益調整のための協議
を抗告訴訟の対象となる処分と構成したものと解することはできない。
そうすると,法37条3項に規定する協議は,港湾の公有水面を公益目的
の下に利用し得ることを前提に,公有水面の利用に関する公益性において一
般私人と異なる国,地方公共団体について,港湾施設に関する港湾管理者の
公益判断を尊重しつつ(国,地方公共団体と港湾管理者との関係は,当該協
議事項につき指揮命令,監督あるいは補助の関係にあるものではない),行
政主体相互間の公益の調整を図ったものと解すべきであり,直接国民の権利
義務を形成し又はその範囲を確定するものでないというべきである。
(5)その余の控訴人らの指摘事項について
ア申出の方式,審査基準,標準処理期間の共通性
法37条1項の許可申請と同条3項の協議の申出の方式(港湾法施行規
則3条の5),審査基準(法37条2項)は共通し,標準処理期間も同様
に扱われている(甲56,63)。
しかし,申請又は申し出をした者が誰であるかにかかわらず,行政上の
応答は必要な検討を経て適時になすべきであるから,国の申し出に対して
も標準処理期間を考慮すべきことは当然というべきである。法37条2項
の審査基準は,港湾管理事務における公益判断を著しく害する場合には許
可又は協議に応じてはならないとするものであるが,これは港湾管理者が
自ら港湾施設の改良工事を行う場合でも,管理者としては同様の検討をす
べきものであり,また,港湾管理事務における公益判断を著しく害するか
否かを審査するための許可の申請の方式を協議の申し出に準用したこと
も,許可と協議応諾とが法的に同じ性質を有することを意味するものでは
ない。
イ類似規定との対比
前記のとおり,本件浚渫工事を請け負った民間業者において港則法に基
づき作業,工事についての許可を得ている(甲138)。
しかし,これは,現実に作業,工事を行う者(民間業者)の申請により
具体的な船舶交通の安全の観点からされた措置である。したがって,上記
許可がされたことは,港湾の水域工事を行う参加人が私人と同様の立場に
あることを示すものではない。
また,前記のとおり,参加人は,本件浚渫工事によって生ずる土砂を海
洋投入処分とすることにつき,海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法
律10条の6第1項の規定による環境大臣の許可を得ている。
しかし,これは,海洋汚染防等及び海上火災の防止に関する法律10条
1項において,何人も(国であっても)同条が除外する事由又は場合があ
るときを除いて,船舶から廃棄物を排出してはならないとし,これを環境
大臣の許可に係らしめ,申請概要の公告,関係書類の縦覧,意見提出の機
会を設けるという立法政策を採用した結果であり,港湾法における国によ
る水域施設の建設,改良工事について,そのような立法政策が採用されて
いないことは既に検討したとおりである。
ウ国の参加形式について
本訴第1審において,参加人は,行政事件訴訟法23条(行政庁の訴訟
参加)ではなく同法22条(第三者の訴訟参加)に基づいて参加してい
る。
参加人は,行政主体であるとしても行政庁ではないから,同法23条に
よる参加をしなかったものと解され,このことが既に検討説示したところ
(本件協議応諾は,公益に基づく水域施設の建設,改良が国民の権利義務
を形成又は確定するものではないことを前提に,港湾管理者と国との公益
を調整するものである。)と矛盾するものではない。
エ平成10年法律100号による改正前の建築基準法18条3項による公
法人からの事前通知に対する審査結果の通知について,処分性を前提とし
た下級審の裁判例が指摘されている(原判決6頁ウ)。
もっとも,これら裁判例の判断は,当該通知処分の趣旨が,完成した建
築物につき建築関係法令に適合することを確定する処分ではなく,当該建
築物の建築を許すものにすぎないとして,通知に係る建築物の完成後は,
通知処分の取消しを求める訴えの利益が失われるとしたものであり,上記
判断と抵触するものではない。
オ救済の必要性
控訴人らは,既に摘示した権利,利益を主張し,特に,本件浚渫工事の
完成後に入港が予定される原子力空母の事故による被害については,かか
る観点から審査し,その被害を防止し得る行政法規としては法の定める手
続しかないと主張する。しかし,既に説示したとおり,法37条の協議応
諾は,特定の港湾施設の建設等を対象とするものであり,当該施設を使用
する船舶の安全を審査事項とするものではない。また,控訴人らの主張す
るその余の被害,不利益を考慮しても,本件協議応諾が国民の権利義務を
形成又は確定するものということはできない。
すなわち,①公共の用に供された水面の利用は不特定多数に解放された
利益であり,控訴人らが主張する海水面の公共利用による利益は特定の者
の権利として保護されているものではないから,本件協議応諾によって控
訴人らの上記利益(法律上の地位)が形成又は確定されるものではなく,
②本件協議応諾は,基地内の水域施設の建設,改良として水深を増加させ
る工事(本件浚渫工事)の適否に止まるものであって,その工事において
他の権利を侵害しないような工法を採るべく配慮すべきことは当然である
が(本件協議応諾の留意事項参照),このことは港湾管理者が水域工事を
行う場合であっても同様であって,本件協議応諾の処分性を基礎づけるも
のではなく,③建設,改良された水域施設の具体的利用方法は港則法の規
律対象であって,本件協議応諾の審査事項(法37条2項)ではない。そ
うすると,①控訴人Cら及び控訴人Iらの本件港湾水域の水面利用の利益
は,本件港湾水域利用者である控訴人ら個々人の個別的利益としてもこれ
を保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできず,②漁業権
は本件漁業協同組合に属する権利であって,控訴人Bの漁業利益は漁業権
そのものではないことを置いても,本件協議応諾による漁業権の侵害があ
れば,漁業権に基づく権利救済を検討すべきであり,控訴人Bが主張する
同控訴人の漁業への侵害が本件浚渫工事の施工方法が不適切であるが故の
水質汚濁によるものだとすると,この点は本件協議応諾の効力に関わら
ず,別途その救済を検討すべきものであり,③原子力船については原子炉
事故の危険がないよう,また,その入港,停泊についても危険を可及的に
避けるよう配慮すべきことは当然であり,このことは一般商船に限らず軍
艦についても妥当するところであるが,本件協議応諾は港湾施設の建設,
改良の適否に向けられたものであって,当該施設を利用する船舶の安全性
を審査事項とし,その適否についての効力を生ずるものではないから,原
子力艦船の危険性をもって本件協議応諾の処分性を基礎づけることはでき
ない。
2訴えの利益について
訴えの利益につき,付言する。
訴訟要件は職権調査事項であり,その基礎事実は自由な証明によれば足り,
口頭弁論を必要的なものとしないものであり(民事訴訟法140条参照),事
実審の口頭弁論終結時を基準時とするものでもない(上告審での職権調査の対
象となる。)。ところで,本件追加応諾によって変更された本件協議応諾は平
成20年8月16日までを工事実施期間とするものであり,本件記録によれ
ば,当審口頭弁論終結後の平成20年8月15日に本件浚渫工事に係る作業の
すべてが終了し,同月29日には,参加人から被控訴人に対して工事完了届が
提出されたことにより本件協議応諾及び本件追加応諾に係る行為が完了したこ
とが明らかである(丙20,21,乙7)。
また,本件協議応諾及び本件追加応諾は,本件浚渫工事に係る水域施設の建
設,改良に関するものであって,それ以上の法律効果を伴うものではなく,本
件協議応諾の適否に関わらず,本件において,港湾管理者による現状回復命令
の余地はない。そうすると,本件協議応諾及び本件追加応諾は,仮にこれらが
「処分」に該当したとしても,将来に向かって取消しの利益を失い,本件訴え
は不適法となったというべきであり,その不備を補正する余地はない。
そうすると,本件協議応諾及び本件追加応諾の取消しを求める本件訴えは,
本件浚渫工事の完了により,訴えの利益を喪失したものというべきである。
3以上によれば,控訴人らの本件訴えは,いずれも不適法というべきであり,
原審の判断は結論において正当であるから,本件控訴をいずれも棄却し,当審
における本件追加応諾の取消しの訴えを却下することとし,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所第11民事部
裁判長裁判官富越和厚
裁判官設樂隆一
裁判官大寄麻代

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