弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
1 原判決を次のとおり変更する。
   第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 平成8年(行ツ)第210号上告人・同第211号被上告人の平成8年(
行ツ)第210号被上告人・同第211号上告人株式会社A1経営センター並びに
同A2,同A3,同A4及び同A5に対する昭和60年10月29日付け各公文書
非公開決定処分のうち原判決添付別紙知事交際費使途別一覧表記載の番号10ない
し29,47ないし54,73ないし75の情報が記録されている歳出額現金出納
簿中の部分及び上記情報が記録されている領収書を非公開とした部分を取り消す。
(2) 平成8年(行ツ)第210号被上告人ら・同第211号上告人らのその余
の請求を棄却する。
2 平成8年(行ツ)第210号上告人のその余の上告を棄却する。
3 平成8年(行ツ)第211号上告人らの上告を棄却する。
4 訴訟の総費用は,これを5分し,その3を平成8年(行ツ)第210号被上告
人ら・同第211号上告人らの負担とし,その余を平成8年(行ツ)第210号上
告人・同第211号被上告人の負担とする。
         理    由
 第1 平成8年(行ツ)第210号上告代理人井上隆晴,同青本悦男,同細見孝
二,同飯尾慎太郎,同阪口嘉洋,同礒村勉,同永山光義,同田中克博の上告理由(
五を除く)及び平成8年(行ツ)第211号上告代理人辻公雄,同森谷昌久,同松
尾直嗣,同加藤高志,同井関和雄,同赤津加奈美の上告理由について
 1 本件は,平成8年(行ツ)第210号被上告人ら・同第211号上告人ら(
以下「1審原告ら」という。)が昭和60年10月14日大阪府公文書公開等条例
(昭和59年大阪府条例第2号。以下「本件条例」という。なお,本件条例は平成
11年大阪府条例第39号により全部改正された。)に基づき本件条例の実施機関
である平成8年(行ツ)第210号上告人・同第211号被上告人(以下「1審被
告」という。)に対し昭和60年1月ないし3月に支出した大阪府知事の交際費に
ついての公文書の公開(閲覧及び写しの交付)を請求したところ,1審被告は,同
年10月29日,同請求に対応する公文書としては経費支出伺,支出命令伺書,債
権者の請求書,領収書等の交際費の執行の内容を明らかにした文書及び歳出予算差
引表がこれに当たるとし,そのうち経費支出伺,支出命令伺書及び歳出予算差引表
についてはこれを公開する旨の決定をし,歳出額現金出納簿,支出証明書,債権者
の領収書及び請求書兼領収書(以下,これらを「本件文書」という。)については
,そこに記録されている情報が本件条例8条1号,4号,5号及び9条1号に該当
するとして,これを公開しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をしたため
,1審原告らが本件処分の取消しを求めた事案である。
 第1審は,本件文書には本件条例8条1号,4号,5号,9条1号のいずれかに
該当する情報は記録されていないとして,本件処分をすべて違法として取り消し,
第1次控訴審もこれを支持して1審被告の控訴を棄却した。しかし,第1次上告審
は,第1次控訴審の上記判断のうち本件文書に本件条例8条1号に該当する情報が
記録されていないとした部分は是認したものの,同条4号,5号,本件条例9条1
号に該当する情報が記録されていないとした部分には法令の解釈適用を誤った違法
があるとして,第1次控訴審判決を取り消し,本件文書に記録された情報が本件条
例8条4号,5号,9条1号に該当するか否かについて更に審理を尽くさせるため
,本件を原審に差し戻した(最高裁平成3年(行ツ)第18号同6年1月27日第
一小法廷判決・民集48巻1号53頁。以下「第1次上告審判決」という。)。
 2 第2次控訴審である原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりで
ある。
 (1) 本件条例8条は,「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が
記録されている公文書については,公文書の公開をしないことができる。」と定め
ており,その4号には,「府の機関又は国等の機関が行う調査研究,企画,調整等
に関する情報であって,公にすることにより,当該又は同種の調査研究,企画,調
整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」,その5
号には,「府の機関又は国等の機関が行う取締り,監督,立入検査,許可,認可,
試験,入札,交渉,渉外,争訟等の事務に関する情報であって,公にすることによ
り,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正
かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」と規定されている。また
,本件条例9条は,「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録され
ている公文書については,公文書の公開をしてはならない。」と定めており,その
1号には,「個人の思想,宗教,身体的特徴,健康状態,家族構成,職業,学歴,
出身,住所,所属団体,財産,所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に
関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され得るもののうち,一般に他
人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」と規定されている。
 (2) 大阪府知事の交際費の支出は,議会が議決した予算の範囲内で,資金前
渡の方法により,経費支出伺,支出命令伺書によって毎月一定額の現金の前渡しを
受け,これを資金前渡職員である知事室秘書課長が保管し,必要に応じて支払に充
てるものとされていた。交際費の支出の基準について明確にしたものはなく,知事
は,支出の要否及びその金額について,秘書課長らの意見を聞き,交際の相手方と
府とのかかわり合いの濃淡,府に対する貢献度の大小をしんしゃくし,過去の例な
ども参考にして,その都度これを決定していた。
 (3) 大阪府知事は,昭和60年1月から3月までの間に原判決添付別紙知事
交際費使途別一覧表の番号(以下「番号」という。)1ないし75の合計75件の
交際費(以下「本件交際費」という。)を支出した。本件交際費のうち番号1ない
し57の交際費に係る交際の相手方は個人であり,番号58ないし75の交際費に
係る交際の相手方は法人その他の団体(以下「団体」という。)であるが,当該団
体の中に会社は含まれていない。本件交際費の支出項目等は,番号1ないし9が祝
金,番号10が生花料,番号11ないし29が供花料,番号30ないし46が香料
,番号47ないし54がしきみ料,番号55及び56が見舞い,番号57が懇談会
,番号58ないし63が祝金,番号64及び65がせん別,番号66ないし71が
賛助金,番号72が援助金,番号73ないし75が会費である。その内容は,次の
とおりである。
 ア 個人に対する祝金
 番号1及び2は大阪府政に協力,貢献した個人に対する出版祝い,番号3は大阪
府政運営に協力した大学教授の退官祝い,番号4及び5は国会議員主催の会合に対
する祝金,番号6及び7は公職選挙法所定の公職への当選祝い,番号8及び9は大
阪府以外の都道府県の特別職(知事,副知事,出納長)への就任祝いである。これ
らのうち番号6及び7の交際費は物品の代金であり,交際の相手方には当該物品が
贈られたが,その余はすべて交際の相手方に金銭が贈られた。
 イ 生花料,供花料,香料及びしきみ料
 番号10ないし54はいずれも交際の相手方に対し弔意を表すために贈られた生
花,供花若しくはしきみの代金又は香料であり,このうち生花は死亡した公務員を
弔問に訪れた際に持参したものである。これらの供花料としきみ料は地域の実情に
合わせて決定され,その金額は一律でなく,また,香料もその金額は一律でなく,
数万円のものから10万円を超えるものまで様々であった。供花,香料,しきみの
いずれを贈るかは,大阪府とのかかわり合いで決められ,香料を基本として供花や
しきみが付け加えられ,これらのすべてが贈られた事例も2件存した。
 ウ 見舞い
 番号55及び56は個人に対する見舞いの品の代金であり,交際の相手方にはそ
の品が贈られた。
 エ 懇談会
 番号57は政財界人と意見を交換するための懇談会に係る知事1人分の負担費用
である。
 オ 団体に対する祝金
 番号58ないし60は政界関係者の後援会,懇談会に知事が出席した際の祝金,
番号61ないし63は報道出版関係法人,府民団体及び法曹関係団体に対する周年
記念の祝金であり,これらはいずれも交際の相手方に金銭が贈られた。
 カ せん別,賛助金及び援助金
 番号64及び65は労働関係団体の海外調査団に対しせん別として金銭を贈った
ものであり,その団体に大阪府の職員や議会関係者は関係していない。番号66,
67,69ないし71は報道出版関係法人に対する賛助金,番号68は労働組合で
はない労働関係団体に対する賛助金,番号72は府民団体に対する援助金である。
これらのせん別,賛助金及び援助金は,相手方の活動の趣旨等によりその必要性や
効果等を個別的に検討して決定される性格のものである。また,これらの賛助金及
び援助金については,相手方から賛助又は援助の依頼があった。
 キ 会費
 番号73は知事がポスト指定として会員になっている官庁関係連絡会の会費,番
号74は知事がポスト指定として会員になっている社団法人の会費,番号75は官
庁関係団体の会費であり,これらの団体に知事が関係していることは特に秘密にな
っていない。
 (4) 本件交際費のすべてについて歳出額現金出納簿に記録があるほか,番号
1ないし5,8,9,30ないし46,58ないし61,63ないし65の各交際
費については支出証明書が存在し,番号6,7,10ないし29,47ないし56
の各交際費については各物品の販売業者作成の領収書が存在し,番号62,66な
いし75の各交際費については交際の相手方である団体が発行した領収書が存在し
,番号57の交際費については当該懇談会の主催者が作成した請求書兼領収書が存
在する。歳出額現金出納簿は,現金の出納状況を,年月日,摘要,金員の受払とそ
の残額とに分けて記録したものであり,摘要欄には各交際費の使途と交際の相手方
の氏名等が記録されている。本件交際費のうち番号57を除く各交際費については
摘要欄に交際の相手方の氏名等が記載され,番号57の交際費については当該懇談
会の主催者の団体名が記載されている。支出証明書は,祝金,香料等領収書が得ら
れないような支出について,府の職員が支出年月日,支出金額,支出の相手方,支
出の目的等を記録した書類であり,決まった様式はない。上記領収書のうち販売業
者作成の領収書には,領収年月日,領収金額,物品名等が記載されているほか,交
際の相手の氏名等が記載されたものもあり,もともと相手方の氏名等が記載されて
いなかったものには府の担当者によりメモ書き等の形で相手方の氏名等が記録され
ている。上記請求書兼領収書には主催者の団体名が記録されているほか,府の担当
者によりメモ書きの形で交際の相手方である出席者の氏名が記載されている。
 3 第1次上告審は,次の理由により,本件文書に記録された本件交際費に関す
る情報はすべて本件条例8条4号,5号,9条1号に該当しないとした第1次控訴
審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があるとした。
 (1) 知事の交際は,懇談については本件条例8条4号の企画,調整等の事務
(以下「企画調整等事務」という。)又は同条5号の交渉,渉外,争訟等の事務(
以下「交渉等事務」という。)に,その余の慶弔等については同号の交渉等事務に
それぞれ該当するから,これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないこ
とができるか否かは,これらの情報を公にすることにより,当該若しくは同種の交
渉等事務としての交際事務の実施の目的が達成できなくなるおそれがあるか否か,
又は当該若しくは同種の企画調整等事務や交渉等事務としての交際事務を公正かつ
適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるか否かによって決定される。
 (2) 知事の交際事務は,相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進
を目的として行われるものであるところ,相手方の氏名等の公表,披露が当然予定
されているような場合等は別として,相手方を識別し得るような文書の公開によっ
て相手方の氏名等が明らかにされることになれば,懇談については,相手方に不快
,不信の感情を抱かせ,今後府の行うこの種の会合への出席を避けるなどの事態が
生ずることも考えられ,また,一般に,交際費の支出の要否,内容等は,府の相手
方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるという性質を有するものであ
ることから,不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような
事態は,交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり,
交際それ自体の目的に反し,ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれが
あるというべきである。さらに,これらの交際費の支出の要否やその内容等は,支
出権者である知事自身が,個別,具体的な事例ごとに,裁量によって決定すべきも
のであるところ,交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には,
知事においても上記のような事態が生ずることを懸念して,必要な交際費の支出を
差し控え,あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ
,知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるといわなけ
ればならない。したがって,本件文書のうち交際の相手方が識別され得るものは,
相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど
,相手方の氏名等を公表することによって上記のようなおそれがあるとは認められ
ないようなものを除き,懇談に係る文書については本件条例8条4号又は5号によ
り,その余の慶弔等に係る文書については同条5号により,公開しないことができ
る文書に該当する。
 (3) 本件における知事の交際は,それが知事の職務としてされるものであっ
ても,私人である相手方にとっては,私的な出来事といわなければならない。本件
条例9条1号は,私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報
が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解されるが,知事の
交際の相手方となった私人としては,懇談の場合であると慶弔等の場合であるとを
問わず,その具体的な費用,金額等までは一般に他人に知られたくないと望むもの
であり,そのことは正当であると認められる。そうすると,このような交際に関す
る情報は,その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露される
ことがもともと予定されているものを除いては,同号に該当するというべきである。
したがって,本件文書のうち私人である相手方に係るものは,相手方が識別できる
ようなものであれば,原則として,同号により公開してはならない文書に該当する。
 4 原審は,本件文書に記録された本件交際費に関する情報はすべて交際の相手
方が識別できるものであるところ,本件交際費に関する情報のうち,番号10の生
花料,番号11ないし29の供花料,番号47ないし54のしきみ料,番号73な
いし75の会費,番号4,5,58ないし60の祝金(会合祝い)及び番号61な
いし63の祝金(周年祝い)に関する情報は,いずれも本件条例8条4号,5号,
9条1号に該当しないが,番号1ないし3,6ないし9の祝金に関する情報は本件
条例8条5号に該当し,番号30ないし46の香料及び番号55,56の見舞いに
関する情報は本件条例9条1号に該当し,番号57の懇談会に関する情報は本件条
例8条4号又は5号に該当し,番号64,65のせん別及び番号66ないし72の
賛助金,援助金に関する情報は同条5号に該当するとした。
 5 1審原告らの所論は,各地方公共団体における知事交際費の公開に関する事
例等を根拠に,第1次上告審判決の前記3の法律上の判断を修正すべきである旨主
張するが,第2次上告審である当裁判所は,第1次上告審のこの法律上の判断に拘
束されるのであって,1審原告らの論旨中第1次上告審判決が破棄理由とした上記
法律上の判断の違法をいう部分は採用することができない。そして,第1次上告審
判決の上記法律上の判断に従って検討すると,原審の上記判断のうち,本件文書に
記録された本件交際費に関する情報はすべて交際の相手方が識別できるものである
とした部分,本件交際費に関する情報のうち番号10の生花料,番号11ないし2
9の供花料,番号47ないし54のしきみ料及び番号73ないし75の会費に関す
る情報が本件条例8条4号,5号,9条1号に該当しないとした部分,番号1ない
し3,6ないし9の祝金に関する情報が本件条例8条5号に該当し,番号30ない
し46の香料及び番号55,56の見舞いに関する情報が本件条例9条1号に該当
し,番号57の懇談会に関する情報が本件条例8条4号又は5号に該当し,番号6
4,65のせん別及び番号66ないし72の賛助金,援助金に関する情報が同条5
号に該当するとした部分は是認することができるが,番号4,5,58ないし60
の祝金及び番号61ないし63の祝金に関する情報がいずれも同号に該当しないと
した部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 第1次上告審判決は,知事の交際事務に関する情報で交際の相手方が識
別され得るものであっても,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもと
もと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって交渉等事務
としての知事の交際事務の目的が達成できなくなり,又は企画調整等事務や交渉等
事務としての知事の交際事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそ
れがあるとは認められないようなものは,例外として本件条例8条4号,5号に該
当しないとするものである。そして,【要旨1】同判決にいう「相手方の氏名等が
外部に公表,披露されることがもともと予定されているもの」とは,交際の相手方
及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関する情報を意味し,同判
決は,このような情報は,相手方の氏名等を公表することによって知事の交際事務
の目的が達成できなくなり,又は知事の交際事務を公正かつ適切に行うことに著し
い支障を及ぼすおそれがあるとは認められないとして,同条4号,5号に該当しな
い旨を判示したものというべきである。したがって,このような交際に該当するか
否かは,当該交際が,その行われる場所,その内容,態様その他諸般の事情に照ら
して,その相手方及び内容がそれを知られることがもともと予定されている特定の
関係者以外の不特定の者に知られ得る性質のものであるか否かという観点から判断
すべきである。そうであれば,知事と相手方との交際の事実そのものは不特定の者
に知られ得るものであっても,支出金額等,交際の内容までは不特定の者に知られ
得るものとはいえない情報は,上記の「相手方の氏名等が外部に公表,披露される
ことがもともと予定されているもの」に当たるということはできず,他に相手方の
氏名等を公表することによって上記のおそれがあるとは認められないような事情が
ない限り,同条4号又は5号に該当するものと解されるのであって,このことは,
知事の交際事務に関する情報であって交際の相手方が識別され得るものが原則とし
て非公開とされる上記の趣旨に照らしても明らかである。
 また,第1次上告審判決は,知事の交際に関する情報であって,交際の相手方が
識別され得るもののうち,私人である相手方に係るものは,原則として本件条例9
条1号に該当するが,その交際の性質,内容等からして,交際内容等が一般に公表
,披露されることがもともと予定されているものは,例外として同号に該当しない
とするものである。そして,【要旨1】同判決にいう「その交際の性質,内容等か
らして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているもの」
とは,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関する
情報を意味し,「私人である相手方に係るもの」とは,相手方が公務員であると否
とを問わず,当該交際が当該相手方にとって私的な出来事であるものを意味すると
いうべきである。
 もっとも,知事の交際事務に関する情報であって本件条例9条1号に該当するも
のについては,実施機関は,当該情報が記録されている公文書の公開をしてはなら
ず,当該情報をみだりに公にすることのないように最大限の配慮をしなければなら
ないものとされているが(本件条例5条),本件条例8条4号又は5号に該当する
にすぎないものについては,実施機関は当該情報が記録されている公文書の公開を
しないことができるとされているにすぎず,実施機関において,住民等の公文書の
公開を求める権利が十分に保障されるように条例を解釈し運用しなければならない
とする本件条例3条の趣旨をも踏まえて,その裁量判断によりこれを任意に公開す
ることは,本件条例の許容するところであり,また,本件条例9条1号に該当する
ものが記録されている公文書についても,後に説示するとおり,実施機関において
,上記の趣旨をも踏まえて,同号に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し
,特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分のみを非公開としそ
の余の部分を公開するといった態様の部分公開を任意に行うことは,本件条例の許
容するところと解されるところである。したがって,住民等の公文書の公開請求に
対し,実施機関において,その裁量判断により,本件条例8条4号又は5号に該当
する情報が記録されている公文書を公開することはもとより,上記のとおり,本件
条例9条1号に該当する独立した一体的な情報が記録されている公文書のうち特定
の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除いたその余の部分を公
開することも,本件条例に違反するものとはいえない。しかしながら,実施機関に
よる上記のような運用が広く行われているとしても,そのことから直ちに当該条例
の解釈として住民等が実施機関に対し上記のような公文書の公開ないし部分公開を
請求する権利が付与されているとすることはできないのであって,このような権利
を付与するか否かは専ら各地方公共団体がその条例において定めるべき事柄であり
,上記のような規定を有するにすぎない本件条例の下においては,その規定を改め
ない限り,住民等に上記のような権利が付与されていると解することはできないと
いわざるを得ないのである。
(2) そこで,以下,本件文書に記録された昭和60年1月ないし3月の支出に
係る本件交際費に関する情報のそれぞれについて,以上説示したところに従い,こ
れらが本件条例8条4号,5号,9条1号に該当するか否かを判断する。
 ア 個人に対する祝金
 (ア) 番号1ないし3,8,9の祝金
 前記2(3)アの事実関係によれば,番号1,2の出版祝いに係る祝金,番号3
の退官祝いに係る祝金及び番号8,9の就任祝いに係る祝金については,祝金の贈
呈の事実やその内容(具体的金額)が一般に披露されるようなものであったとは考
えられず,祝金贈呈の事実又は少なくとも祝金の具体的金額が不特定の者に知られ
得るものであったとはいえない。そうすると,これらの祝金に係る知事の交際は,
少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはでき
ず,これらの交際費に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されるこ
とがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前
記(1)のおそれがあるとは認められないようなものということはできない。した
がって,これらの情報は本件条例8条5号に該当するものというべきである。
 (イ) 番号4,5の祝金
 上記事実関係によれば,番号4,5の祝金は知事が国会議員主催の会合に対して
贈ったものであって,当時この種の祝金の金額は府の相手方とのかかわり等をしん
しゃくして個別に決定されていたものと思われる。そうすると,これらの祝金の額
が主催者の定めた会費相当額であったとの立証もない本件においては,たといこれ
らの祝金が知事が当該会合に出席した際に会費を支払わない代わりに贈ったもので
あって,知事がそのような会合に出席すること自体は秘密でないとしても,これら
の事実のみからは,少なくともこれらの祝金の具体的金額が不特定の者に知られ得
るものであったというに足りない。したがって,これらの祝金に係る知事の交際は
,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはで
きず,これらの交際費に関する情報は,同様に,本件条例8条5号に該当するもの
というべきである。
 (ウ) 番号6,7の祝金
 番号6,7の当選祝いについても,当選祝いとして物品を贈呈したという上記事
実関係のみからは,当時これらに係る知事の交際がその相手方又はその内容が不特
定の者に知られ得る状態でされたものというに足りず,これらの交際費に関する情
報は,同様に,本件条例8条5号に該当するものというべきである。
 イ 生花料,供花料,香料及びしきみ料
 (ア) 生花料,供花料及びしきみ料
 前記2(3)イの事実関係によれば,番号10の生花,番号11ないし29の供
花及び番号47ないし54のしきみは,いずれも知事が交際の相手方に対し弔意を
表すために贈ったものであるところ,これらの生花等は,葬儀に際し知事の名を付
して一般参列者の目に触れる場所に飾られるのが通例であり,また,これらを見れ
ばそのおおよその価格を知ることができるものである。そうすると,これらの生花
等の贈呈の事実及びその内容が不特定の者に知られ得るものであったということが
できるから,これらの生花等に係る知事の交際は,その相手方及び内容が不特定の
者に知られ得る状態でされたものということができる。したがって,これらの交際
に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定さ
れているものとして,本件条例8条5号に該当しないというべきである。また,こ
れらの生花等に係る知事の交際事務は同条4号の企画調整等事務に当たらないから
,これらの交際に関する情報は同号にも該当しない。さらに,以上説示したところ
によれば,これらの情報は,その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に
公表,披露されることがもともと予定されているものということができるから,本
件条例9条1号にも該当しないというべきである。
 (イ) 香料
 香料に係る知事の交際は,その相手方にとって私的な出来事というべきである。
そして,香料は,葬儀の際に一般参列者等にこれが贈られた事実やその具体的金額
が披露されるようなものではなく,また,供花等が知事の名を付して飾られたこと
により知事から香料が贈られた事実も合わせて一般参列者に知られるところとなっ
たとしても,その具体的金額までが知られることは通常は考えられず,上記事実関
係によってもそのようにいうことはできない。そうすると,香料贈呈の事実又は少
なくともその具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったとはいえないから
,これらの香料に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得
る状態でされたものということはできず,その交際の性質,内容等からして交際内
容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものということはで
きない。したがって,番号30ないし46の香料に係る知事の交際に関する情報は
本件条例9条1号に該当するものというべきである。
 ウ 見舞い
 見舞いに係る知事の交際は,その相手方にとって私的な出来事というべきであり
,交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもとも
と予定されているものということはできず,前記2(3)ウの事実関係によっても
そのようにいうことはできない。したがって,番号55,56の見舞いに係る知事
の交際に関する情報は本件条例9条1号に該当するものというべきである。
 エ 懇談会
 前記2(3)エの事実関係によれば,番号57の懇談会は政財界人と意見を交換
するためのものであったというのであり,この事実のみからは,知事がこの懇談会
に出席してその費用を負担した事実又は少なくともその具体的負担額が不特定の者
に知られ得るものであったとは通常は考えられない。そうすると,それ以上の立証
を欠く本件においては,この懇談会に係る知事の交際は,少なくともその内容が不
特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,この交際費に関する
情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されている
ものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは
認められないようなものということはできない。したがって,この情報は本件条例
8条4号又は5号に該当するものというべきである。
 オ 団体に対する祝金
 (ア) 番号58ないし60の祝金
 前記2(3)オの事実関係によれば,番号58ないし60の祝金は知事が政界関
係者の後援会,懇談会に対して贈ったものであって,当時この種の祝金の金額は府
の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されていたものと思われる。
そうすると,これらの祝金の額が主催者の定めた会費相当額であったとの立証もな
い本件においては,たといこれらの祝金が知事が当該後援会等に出席した際に会費
を支払わない代わりに贈ったものであって,知事がそのような会合に出席すること
自体は秘密でないとしても,これらの事実のみからは,少なくともこれらの祝金の
具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったというに足りない。したがって
,これらの祝金に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得
る状態でされたものということはできず,これらの交際費に関する情報は,相手方
の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手
方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは認められないよ
うなものということはできない。そうであるとすれば,これらの情報は本件条例8
条5号に該当するものというべきである。
 (イ) 番号61ないし63の祝金
 上記事実関係によれば,番号61ないし63の祝金は報道出版関係法人,府民団
体及び法曹関係団体に対する周年記念の祝いとして贈ったものというのであるが,
これらの祝金は,その贈呈の事実やその具体的金額が一般に公表,披露されるよう
なものであるとは考えられず,祝金贈呈の事実又は少なくとも祝金の具体的金額が
不特定の者に知られ得るものであったとはいえない。そうすると,これらの祝金に
係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたも
のということはできず,これらの交際費に関する情報は,相手方の氏名等が外部に
公表,披露されることがもともと予定されているものということはできない。また
,上記のような祝金の趣旨や相手方である団体の性格にかんがみても,上記事実関
係のみからは,相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがある
とは認められないような事情があるということもできない。したがって,これらの
情報は本件条例8条5号に該当するものというべきである。
 カ せん別,賛助金及び援助金
 前記2(3)カの事実関係によれば,番号64,65のせん別,番号66ないし
71の賛助金,番号72の援助金は,その贈呈の事実やその具体的金額が一般に公
表,披露されるようなものであるとは考えられず,せん別等の贈呈の事実又は少な
くともそれらの具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったとはいえない。
そうすると,これらのせん別等に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定
の者に知られ得る状態でされたものということはできず,これらの交際費に関する
情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されている
ものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは
認められないようなものということはできない。したがって,これらの情報は本件
条例8条5号に該当するというべきである。
 キ 会費
 前記2(3)キの事実関係によれば,知事が番号73ないし75の会費を支払っ
た事実は一般に知られ得る状態にあったものということができ,また,これらの会
費の額はその相手方である当該団体が定めるものであって,知事が府の相手方との
かかわり等をしんしゃくして個別に決定するものではないと考えられる。そうする
と,これらの会費に係る知事の交際に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表
,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表する
ことによって前記(1)のおそれがあるとは認められないようなものということが
できる。したがって,これらの情報は本件条例8条5号に該当しないというべきで
ある。また,これらの会費に係る交際事務は同条4号の企画調整等事務に当たらな
いから,これらの交際に関する情報は同号にも該当しない。さらに,これらの交際
の相手方は団体であって,特定の個人が識別され得る情報ということはできないか
ら,本件条例9条1号にも該当しない。
6 【要旨2】以上によれば,原審の前記判断中,本件交際費に関する情報のうち
番号10の生花料,番号11ないし29の供花料,番号47ないし54のしきみ料
及び番号73ないし75の会費に関する情報が本件条例8条4号,5号,9条1号
に該当しないとした部分は,正当として是認することができ,この部分に関する1
審被告の論旨は採用することができない。また,原審の前記判断中,本件交際費に
関する情報のうち番号1ないし3,6ないし9の祝金に関する情報が本件条例8条
5号に該当し,番号30ないし46の香料及び番号55,56の見舞いに関する情
報が本件条例9条1号に該当し,番号57の懇談会に関する情報が本件条例8条4
号又は5号に該当し,番号64,65のせん別及び番号66ないし72の賛助金,
援助金に関する情報が同条5号に該当するとした部分も,正当として是認すること
ができ,この部分に関する1審原告らの論旨は採用することができない。しかしな
がら,原審の前記判断中,本件交際費に関する情報のうち番号4,5,58ないし
60の祝金及び番号61ないし63の祝金に関する情報がいずれも同号に該当しな
いとした部分には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を
及ぼすことが明らかである。この部分に関する1審被告の論旨は理由があり,その
余の点について判断するまでもなく,原判決中上記判断に係る部分は破棄を免れな
い。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち番号4,5,58ない
し63の交際費に関する情報が記録されている歳出額現金出納簿中の部分,番号4
,5,58ないし61,63の交際費に係る支出証明書,番号62の交際費に係る
領収書についてこれを非公開とした部分に違法はないというべきであるから,この
部分については第1審判決を取り消して1審原告らの請求を棄却すべきである(な
お,これらの文書について本件条例10条に基づき交際の相手方の氏名等が記録さ
れている部分以外の部分を公開しなければならないものと解することができないこ
とは,次に説示するとおりである。)。
 第2 平成8年(行ツ)第210号上告代理人井上隆晴,同青本悦男,同細見孝
二,同飯尾慎太郎,同阪口嘉洋,同礒村勉,同永山光義,同田中克博の上告理由五
について
 1 本件条例10条は,「実施機関は,公文書に次に掲げる情報が記録されてい
る部分がある場合において,その部分を容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨
を損なわない程度に分離できるときは,その部分を除いて,当該公文書の公開をし
なければならない。」と定め,その1号には,「第8条各号のいずれかに該当する
情報で,当該情報が記録されていることによりその記録されている公文書について
公文書の公開をしないこととされるもの」,その2号には,「前条各号のいずれか
に該当する情報」と規定されている。
 原審は,番号1ないし3,6ないし9,30ないし46,55ないし57,64
ないし72の交際費に関する情報が記録されている歳出額現金出納簿中の部分,番
号1ないし3,8,9,30ないし46,64及び65の交際費に係る支出証明書
,番号6,7,55,56,66ないし72の交際費に係る領収書,番号57の交
際費に係る請求書兼領収書について,交際の相手方の氏名等交際の相手方に関する
記載部分を除いた部分は本件条例8条4号,5号,9条1号により公開しないこと
ができるものとは認められないから,実施機関である1審被告は,本件条例10条
に基づき,交際の相手方に関する記載部分を除いた部分を公開すべきであり,本件
処分のうち当該部分を非公開とした部分は違法であるとした。
 2 しかしながら,これらの文書について,実施機関は本件条例10条に基づき
交際の相手方に関する記載部分を除いた部分を公開すべきであるとした原審の上記
判断部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件条例10条は,1個の公文書について本件条例8条各号又は9条各号のいず
れかの事由(以下「非公開事由」という。)に該当する情報が記録されている部分
をその余の部分から容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に
分離できるときは,非公開事由に該当する情報が記録されている部分を除いたその
余の部分を公開することを実施機関に義務付けるものであって,同条所定の要件に
該当する限り,実施機関は同条所定の公文書の部分公開をしなければならず,本件
条例7条各号に掲げる者(以下「住民等」という。)は,実施機関に対して,本件
条例10条所定の部分公開を請求することができるのである。しかしながら,同条
は,その文理に照らすと,1個の公文書に複数の情報が記録されている場合におい
て,それらの情報のうちに非公開事由に該当するものがあるときは,当該部分を除
いたその余の部分についてのみ,これを公開することを実施機関に義務付けている
にすぎない。すなわち,【要旨3】同条は,非公開事由に該当する独立した一体的
な情報を更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分にはもはや非公開事
由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでを
も実施機関に義務付けているものと解することはできないのである。したがって,
実施機関においてこれを細分化することなく一体として非公開決定をしたときに,
住民等は,実施機関に対し,同条を根拠として,公開することに問題のある箇所の
みを除外してその余の部分を公開するよう請求する権利はなく,裁判所もまた,当
該非公開決定の取消訴訟において,実施機関がこのような態様の部分公開をすべき
であることを理由として当該非公開決定の一部を取り消すことはできない。
 もっとも,住民等の公文書の公開請求に対し,実施機関において,本件条例3条
の趣旨をも踏まえて,その裁量判断により,本件条例9条1号に該当する情報が記
録されている公文書のうち氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することがで
きることとなる記述等の部分(個人識別部分)のみを非公開とし,その余の部分を
公開するなど,非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化してその
一部が記録されている公文書の部分のみを非公開とし,その余の部分を公開すると
いった態様の部分公開を任意に行うことは,本件条例の許容するところと解される。
そして,実施機関がこのような態様の部分公開を任意に行った場合には,これに不
服のある住民等は,非公開とされた部分をも公開すべきであると主張して,訴訟手
続により当該部分に係る非公開決定の全部取消しを求めることができ,裁判所は,
当該非公開決定が違法であると判断したときは,これを取り消すことができるもの
と解される。しかし,前記のとおり,住民等が実施機関に対して上記のような態様
の部分公開を権利として請求することができるか否かはまた別であって,住民に地
方公共団体の機関の保有する公文書の公開を請求する権利をどのような要件の下に
どの範囲で付与するかは,専ら各地方公共団体がその条例において定めるべき事柄
であり,上記のような規定を有するにすぎない本件条例の下においては,住民等が
実施機関に対して上記のような態様の部分公開を請求する権利を付与されているも
のとまで解することはできないのである。これを本件のような知事の交際事務に関
する情報であって交際の相手方が識別され得るものが記録されている公文書につい
ていえば,当該情報が本件条例8条4号,5号又は9条1号に該当する場合におい
ては,実施機関は,当該情報のうち交際の相手方の氏名等交際の相手方を識別する
ことができることとなる記述等の部分(以下「相手方識別部分」という。)を除い
た部分を公開しなければならない義務を負うものではなく,実施機関がその裁量判
断により相手方識別部分を除いてその余の部分を公開するものとした場合はともか
く,そのような部分公開が相当でないと判断して相手方識別部分をも含めて非公開
決定をした場合には,裁判所は当該決定を取り消すべき理由はないのであって,裁
判所が,更に進んで,非公開とされた相手方識別部分を除き,その余の部分につい
て非公開決定を取り消すなどという裁判をすることはできないものといわざるを得
ない。
 【要旨4】本件文書についてこれをみると,前記第1の2(4)の事実関係等に
よれば,歳出額現金出納簿については,各交際費の支出ごとにその年月日,摘要,
金員の受払等の関係記載部分が当該交際費に係る知事の交際に関する独立した一体
的な情報を成すものとみるべきであるから,当該記載部分を更に細分化して相手方
識別部分等その一部のみを非公開としその余の部分を本件条例10条に基づいて公
開しなければならないものとすることはできない。支出証明書については,各交際
費の支出ごとにこれに対応する支出証明書に記録された情報が全体として当該交際
費に係る知事の交際に関する独立した一体的な情報を成すものとみるべきであるか
ら,同様に,これを更に細分化してその一部のみを非公開としその余の部分を公開
しなければならないものとすることはできない。領収書及び請求書兼領収書につい
ては,各交際費の支出ごとにこれに対応する領収書又は請求書兼領収書に記録され
た情報が府の担当者によるメモ書き部分をも含めて全体として当該交際費に係る知
事の交際に関する独立した一体的な情報を成すものとみるべきであるから,同様に
,これを更に細分化してその一部のみを非公開としその余の部分を公開しなければ
ならないものとすることはできない。
 3 以上によれば,原審の前記判断には法令の解釈適用を誤った違法があり,こ
の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。この違法に係る1審被告の論旨
は理由があり,原判決中上記判断に係る部分は,その余の点について判断するまで
もなく,破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち
番号1ないし3,6ないし9,30ないし46,55ないし57,64ないし72
の交際費に関する情報が記録されている歳出額現金出納簿中の部分,番号1ないし
3,8,9,30ないし46,64及び65の交際費に係る支出証明書,番号6,
7,55,56,66ないし72の交際費に係る領収書,番号57の交際費に係る
請求書兼領収書についてこれを全部非公開とした部分に違法はないというべきであ
るから,この部分については第1審判決を取り消して1審原告らの請求を棄却すべ
きである。
 よって,裁判官元原利文の補足意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文
のとおり判決する。
裁判官元原利文の補足意見は,次のとおりである。

法廷意見が第2の2において説示する本件条例10条の解釈について,理解に資す
るため更に意見を補足しておきたい。
同条を字義に即して読めば,同条にいう2箇所の「その部分」は,「次に掲げる情
報が記録されている部分」を指すことが明らかであり,「次に掲げる情報」とは,
本件条例8条各号のいずれかに該当し,そのゆえに公文書の公開をしないこととさ
れるもの及び本件条例9条各号のいずれかに該当する情報を指すことも明らかであ
る。すなわち,本件条例10条の規定上は,1個の公文書を,本件条例8条各号又
は9条各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分(非公開事由該当部分)
とそれ以外の部分とに分離した上,非公開事由該当部分の全体を非公開とし,それ
以外の部分を公開すべきことを定めたにすぎないものであって,1個の公文書のう
ちの非公開事由該当部分を更に細分化して部分公開の対象とすべきことまでを定め
ているとはいえないのである。本件のような知事の交際事務に関する情報であって
交際の相手方が識別され得るものが記録された公文書の場合,その情報は,通常,
交際の相手方の氏名等交際の相手方を識別することができることとなる情報部分(
相手方識別部分)とその余の部分(年月日,金額,支出原因等)とから成るところ
,相手方の氏名等の相手方識別部分のみを他の情報と切り離してみれば,それ自体
は情報として意味のあるものではなくなり,それのみで本件条例8条4号,5号,
9条1号に該当するとは到底いえず,その余の部分を合わせて初めて知事の交際事
務に関する情報として意味のあるものとなり,その全体が交際の相手方が識別され
得る交際事務に関する情報として,上記各号に該当することになるのである。当該
公文書中の金額部分についても同様に考えられる。
したがって,本件条例10条の規定からすると,本件のような知事の交際事務に関
する情報で交際の相手方が識別され得るものが記録された公文書の場合,相手方識
別部分だけではなく,この部分を含めて知事の交際事務に関する情報が記録された
部分の全体が,本件条例8条4号,5号,9条1号の非公開事由に該当する部分と
いうことにならざるを得ない。そうだとすると,本件条例10条に基づいて部分公
開をしなければならないときには,相手方識別部分だけではなく,その余の部分を
も含めた知事の交際事務に関する情報が記録された部分全体を非公開とし,それ以
外の部分のみを公開すべきものということになる。
平成11年に制定され,同13年4月1日から施行される行政機関の保有する情報
の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)6条は,その1項において,
「行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている
場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができ
るときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならな
い。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められる
ときは,この限りでない。」として,本件条例10条の定めとほぼ同旨の部分開示
に関する原則規定を置きつつ,その2項において,不開示情報が記録されている文
書のうち特に同法5条1項のいわゆる個人識別情報だけを取り出し,「開示請求に
係る行政文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)
が記録されている場合において,当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の
個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,公にして
も,個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除い
た部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前項の規定を適用する。」と
定め,個人識別情報に限って,部分開示の一態様として,特定の個人を識別するこ
とができることとなる記述等の部分のみを非開示とし,その余の部分を開示すると
いう開示の方法を特に定めているのである。
情報開示法6条1項にいう「部分」は,1個の行政文書の部分を意味し,同条2項
にいう「部分」は,1個の行政文書に含まれる情報(同法5条1号の情報のうち特
定の個人を識別することができるもの)の部分を意味することは,その文理からみ
て明らかである。また,同法6条2項は,特定の個人を識別することができること
となる記述等の部分(個人識別部分)を除いた部分は同法5条1号の情報に含まれ
ないものと「みなして」同法6条1項の規定を適用すると定め,特に「みなして」
という文言が使われているところからみると,同法は,5条1号のいわゆる個人識
別情報は,個人識別部分に限らず,これを除いたその余の部分も同号に該当すると
考えているものと解される。すなわち,同法は,5条1号のいわゆる個人識別情報
については,6条1項のみでは個人識別部分だけを除くという態様の部分開示を義
務付けることができないとして,特に同条2項の規定を設け,上記のような態様の
部分開示についての法的根拠を与え,最大限の開示を実現しようとしたものと解さ
れる。
このような情報公開法の規定をみれば,同法6条2項に相当する定めを欠く本件条
例10条の解釈としては,個人識別部分ないし相手方識別部分のみを非公開とし,
その余を公開するといった態様の部分公開をすべき旨を実施機関に義務付けている
とまでは到底解されないのである。したがって,裁判所としては,個人識別部分な
いし相手方識別部分のみを非公開とし,その余を公開すべきことを実施機関に命ず
ることはできないといわざるを得ない。ただ,条例の解釈を離れて,実施機関が,
個人識別部分ないし相手方識別部分のみを非公開とし,その余を公開するといった
態様の部分公開をその裁量判断により任意に行うことは,本件条例の下でも差し支
えのないことは,法廷意見が説示するとおりである。

近時,情報公開は,これを更に拡大する方向に進みつつあり,この傾向は,国民の
「知る権利」をより一層確保するために尊重されるべきことはいうまでもない。ま
た,情報公開法の制定を機に,同法6条2項と同旨の規定を置き,情報公開の内容
を更に充実するための条例改正の動きも各地で起こりつつある。ただ,本件は,法
廷意見が第1の5の冒頭で説示するとおり,昭和60年当時の本件条例の解釈に基
づき実施機関がした処分の効力につき,第1次上告審の判示に従って判断した原判
決についての再上告であるとの制約があることを重ねて付言しておきたい。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田
昌道)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛