弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成24年9月27日判決言渡
平成23年(ネ)第10045号特許権侵害行為差止等請求控訴事件(原審・大
阪地裁平成21年(ワ)第7821号)
口頭弁論終結日平成24年7月12日
判決
控訴人ヤマハ発動機株式会社
訴訟代理人弁護士塚原朋一
同小松陽一郎
同福田あやこ
同辻村和彦
同山崎道雄
同藤野睦子
補佐人弁理士小谷悦司
同小谷昌崇
同大月伸介
同佐藤興
被控訴人株式会社アイエイアイ
訴訟代理人弁護士椙山敬士
同大澤恒夫
同市川穣
同曽根翼
同片山史英
同弁理士牛久健司
補佐人弁理士島野美伊智
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙イ号製品目録記載の各製品を製造し,販売し,若し
くは,販売の申出(販売のための展示を含む。)をしてはならない。
3被控訴人は,前項記載の各製品及びその半完成品(原判決別紙イ号製品目録
記載の各製品の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を
廃棄せよ。
4被控訴人は,原判決別紙ロ号製品目録記載の各製品を製造し,販売し,若し
くは,販売の申出(販売のための展示を含む。)をしてはならない。
5被控訴人は,前項記載の各製品及びその半完成品(原判決別紙ロ号製品目録
記載の各製品の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を
廃棄せよ。
6被控訴人は,控訴人に対し,5億円及びこれに対する平成21年6月9日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
8仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,発明の名称を「複数ロボットの制御装置」とする特許(出願日:平
成5年2月26日。登録日:平成16年4月9日。特許第3542615号。請求
項の数2。以下「本件特許1」といい,その特許権を「本件特許権1」,その請求
項1に係る発明を「本件発明1」という。)及び発明の名称を「リニアモータ式単
軸ロボット」とする特許(出願日:平成15年5月14日。登録日:平成20年4
月4日。特許第4105586号。請求項の数2。以下「本件特許2」といい,そ
の特許権を「本件特許権2」,その請求項1に係る発明を「本件発明2-1」,請
求項2に係る発明を「本件発明2-2」,これらを総称して「本件発明2」という。)
の特許権者である控訴人(1審原告)が,被控訴人(1審被告)の製造,販売する
原判決別紙イ号製品目録1~5記載の各製品(以下,併せて単に「イ号製品」とい
う。)は本件発明1の技術的範囲に属し,被控訴人の製造,販売する原判決別紙ロ
号製品目録1~10記載の各製品(以下,併せて単に「ロ号製品」という。)は本
件発明2の技術的範囲に属するとして,被控訴人に対し,本件特許権1に基づき,
イ号製品の製造,販売等の差止め,イ号製品及びその半製品の廃棄を,本件特許権
2に基づき,ロ号製品の製造,販売等の差止め,ロ号製品及びその半製品の廃棄を,
特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害合計30億円(本件特
許権1につき29億8800万円,本件特許権2につき1200万円)及びこれに
対する平成21年6月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合
による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2原審の大阪地裁は,平成23年6月23日,①イ号製品は本件発明1の技術
的範囲に属するとは認められない(構成要件1-B,1-D,1-Fを充足しない),
②本件特許2は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許法29条2項,同法1
23条2号により無効にされるべきものと認められる,として控訴人の請求をいず
れも棄却した。
そこで,控訴人は,これを不服として本件控訴を提起した(控訴人は,当審にお
いて損害賠償請求につき,損害合計30億円のうち5億円及びこれに対する平成2
1年6月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲
に請求を減縮した。)。
3なお,被控訴人は,平成22年7月21日付けで本件特許1の請求項1に係
る発明の特許につき無効審判を請求したが(無効2010-800126号),特
許庁は,平成23年3月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
をしたので,被控訴人は,同審決につき,審決取消訴訟(当庁平成23年(行ケ)
第10154号)を提起した。
また,被控訴人は,平成22年3月4日付けで本件特許2の請求項1,2に係る
発明の特許につき無効審判を請求し(無効2010-800036号),特許庁は,
同年10月20日,「特許第4105586号の請求項1,2に係る発明について
の特許を無効とする。」との審決をした。控訴人は,平成22年11月19日,同
審決に対し審決取消訴訟を提起し(当庁平成22年(行ケ)第10360号),平
成23年2月10日付け訂正審判を請求した(訂正2011-390015号)と
ころ,知財高裁は,同年3月2日,特許法181条2項により第1次審決を取り消
す決定をした。差戻し後の無効審判の手続において,上記訂正審判の請求は,同年
3月22日,訂正の請求がされたものとみなされた(以下,同訂正請求に係る訂正
を「本件訂正」という。)が,特許庁は,同年7月5日,本件訂正を認めないとし
た上,「特許第4105586号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効
とする。」との審決をしたので,控訴人は,同審決につき,審決取消訴訟(当庁平
成23年(行ケ)第10261号)を提起した。
上記各審決取消訴訟(当庁平成23年(行ケ)第10154号,同第10261
号)は,本件訴訟と並行して審理が進められている。
第3当事者の主張
1当事者双方の主張は,次に付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の第2,
第3記載のとおりであるから,これを引用する(略称は,原判決の表現をそのまま
用いる。)。
2当審における控訴人の主張
(1)本件特許権1に基づく請求について
ア構成要件1-A,1-G,1-H充足性
イ号製品が,制御対象となる駆動軸の総数以上のドライバーを有することには争
いがなく,例えば,直交2軸を1組とした装置2組を制御することにも争いはない。
したがって,「直交2軸を1組とした装置2組」を「複数のロボット」と呼ぶかど
うかの表現の点を除けば,構成要件1-A,1-Hの充足については争いがないと
いうべきである。また,被控訴人自身が「直交2軸を1組とした装置2組」を「ロ
ボット2台」として扱っており,本件発明1の技術的範囲の解釈において別意に解
する理由はない。
イ号製品には,「ARCH命令」や「CIR命令」等,複数の駆動軸を有するロ
ボットに特有の命令が存在し,「シンボル定義+LET命令+GRP命令」を使う
ことで駆動対象となるロボットを直接特定できる。
構成要件1-Gは,他の構成要件(1-D,1-E,1-F)により決定される,
駆動対象ドライバー,処理条件,移動位置から,処理内容を求めて,ドライバーを
制御する制御手段であって,コントローラであれば当然に具備している構成である。
以上のとおり,イ号製品は,構成要件1-A,1-G,1-Hを充足する。
イ構成要件1-F充足性
(ア)イ号製品は,移動命令入力手段から「MOVP(ポジションNo.)命令」
が入力された場合,各軸について,「MOVP(ポジションNo.)命令」のポジ
ションNo.で指定されるポジションデータ(「座標値の有無」)と,有効軸パタ
ーンのデータ,GRP命令の軸パターンのデータとを順次照合する。その結果,「座
標値=有,有効軸パターンデータ=1,GRP命令軸パターンデータ=1」に該当
する軸に接続しているドライバーのみが駆動対象として選定される。
原判決は,「……GRP命令を利用する場合であっても,MOVP命令による,
軸毎の個別指定自体は存在することになる。/そして,イ号製品において,駆動
対象となる軸の選択は,それを動かすドライバーの選択そのものであるから(……
イ号製品のドライバーは駆動軸と1対1で接続されている。),MOVP命令など
の移動命令を判別して駆動対象が決定されれば,それに対応するドライバーは一義
的に特定されるのであり,ドライバーを選定する必要がない。そして,そのための,
移動命令入力手段により入力したデータと,駆動軸属性記憶手段から読み出したデ
ータの照合の必要もない」(75頁2行~11行。「/」は改行を示す。)として,
構成要件1-F充足性を否定した。
(イ)しかし,原判決には,以下a~dの4点の誤りがある。
a原判決は,「MOVP命令などの移動命令を判別して駆動対象が決定されれ
ば,それに対応するドライバーは一義的に特定されるのであり,ドライバーを選定
する必要がない」としたが,本件発明1においても,移動命令が入力される制御段
階では移動命令が入力される制御段階では,軸とドライバーとは1対1で接続され
ているから,「移動命令を判別して駆動対象が決定されれば」それに対応するドラ
イバーは一義的に特定される。逆にいえば,本件発明1も,イ号製品も,移動命令
が入力されて,駆動対象(メインロボットなのか,サブロボットなのか,どの軸な
のか等)が判別されるまでは,制御対象ドライバーが特定できない。
構成要件1-Fにおける「移動命令判別手段」の「駆動対象に対応するドライバ
ーを選定する」とは,制御段階では既にドライバーと軸が接続されている以上,駆
動対象軸を選定することと同義である。
b原判決は,MOVP命令が軸毎の個別指定であることを,充足性を否定する
理由に挙げるが,MOVP命令自体,最大6軸を同時に駆動対象として指定し得る
命令であり,軸毎の個別指定であるとの原判決の事実認定は誤りである(ポジショ
ンデータに,座標値が複数入力されることで,複数軸が駆動対象として指定され
る。)。
また,MOVP命令は,「MOVP1」のように,単にポジションNo.を指
定しているにすぎない。「1」は,ポジションNo.にすぎず,各軸を個別に指定
するデータでないことは明らかであり,しかも,MOVP命令がどの軸を駆動対象
として指定しているかを判別するためには,ポジションデータを参照し,ポジショ
ンデータのどの軸に座標値が設定されているかを判別する必要がある。
cイ号製品には,有効軸パターンやGRP命令が存在するので,上記ポジショ
ンデータの座標値の有無に加えて,GRP命令でどの軸が有効に設定されているか
を判別しなければ,駆動対象を特定することができない。ポジションデータの座標
値データの有無を,有効軸パターンやGRP命令と照合することによって,駆動対
象軸を制御するドライバーとそれ以外のドライバーとを判別することができるので
ある。これは,正に本件発明1の構成要件1―Fの移動命令判別手段である。原判
決のRGP命令だけで軸を駆動させることができないことは,構成要件1-Fの充
足性を否定する理由にはならない。
d原判決は,「移動命令入力手段により入力したデータと,駆動軸属性記憶手
段から読み出したデータの照合の必要もない」とするが,明らかな誤りである。
すなわち,イ号製品で照合がなされていることは,原判決自身,命令解析部が記
憶部から読み出した「有効軸パターン」と,MOVP命令により取得されたポジシ
ョンデータ中の「各軸欄の座標値データ」とを照合し(S22,S28等),有効
軸パターン「1」かつ座標値データ「有」の対象軸に関し,移動制御のための演算
を行うことを認定しているし(原判決67頁17行~21行),MOVP命令及び
GRP命令が入力された場合に,有効軸パターン,GRP命令が指定する軸パター
ンが照合され,さらに,MOVP命令で指定されたポジションNo.における座標
値データが照合され,その結果,有効軸パターンと軸パターンデータの両方が有効
で,かつ座標値データがある軸のみが駆動対象となることを認定しているところで
ある(原判決68頁6行~13行。114頁第7図)。
(ウ)以上のとおり,イ号製品は,「移動命令を判別して駆動対象に対応するドラ
イバーを選定する移動命令判別手段」を有しており,構成要件1-Fを充足する。
ウ構成要件1-E充足性
(ア)構成要件1-Fの充足性で述べたとおり,イ号製品は,移動命令入力手段S
16から入力される命令の1つとして,「MOVP(ポジションNo.)」命令が
ある。この命令は,指定されたポジションNo.によって指定されたポジションデ
ータに従って,座標値を有する所定の駆動軸をポイント・トゥ・ポイント移動させ
よという命令であるから,「駆動対象指定」と「位置指定」を含む命令である。
したがって,イ号製品は,「駆動すべきロボットおよび駆動軸を特定する駆動対
象指定と移動位置を特定する移動位置指定とを含む移動命令を示すデータを入力す
る移動命令入力手段」を有しており,構成要件1-Eを充足する。
(イ)均等侵害
仮に,構成要件1-Eの「駆動すべきロボット……を特定する駆動対象指定」を「駆
動すべきロボットを特定し,特定した全ロボット軸を駆動対象とする同時駆動命令」
で「複数のロボットのそれぞれを識別するための符号ないしはデータ」を含む必要
があると狭く解釈した上で,文言上,イ号製品のMOVP命令+GRP命令がこれ
に該当しないとしても,以下①~⑤のとおり,イ号製品はいわゆる均等の5要件(最
高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)を満たし,
本件発明1と均等なものとして特許請求の範囲に属する。
①置換可能性
本件発明1は,請求項1記載の構成を有することで,移動命令によって対象とな
っている軸(群)だけを動作させ,それ以外の軸(群)を動作させない(誤動作防
止)という具体的な課題解決に成功し,その結果,1台のコントローラで複数ロボ
ット(軸群)を制御できるという具体的な作用効果を奏する(【0004】,【0
005】,【0010】,【0045】)。本件発明1の上記作用効果は,本件実
施例では,移動命令判別手段(1-F)が,移動命令入力手段(1-E)により入
力されたデータに含まれる「駆動対象指定データ」と「駆動軸属性データ」(1-
C)とを照合するという構成によってもたらされる。
これに対して,イ号製品は,記憶部1-cから読み出した全軸共通パラメータの
有効軸パターンの1又は0と,GRP命令の軸パターンデータの1又は0と,MO
VP(ポジションNO.)命令等(移動命令1-e)によって呼び出される当該ポ
ジションデータの座標値の有無との照合を行うという構成を有する。このイ号製品
の「MOVP(ポジションNo.)命令」と本件発明1の実施例の「MOVE1P,
P1」との相違点は,本件発明1の実施例の「MOVE1P,P1」が軸選択フ
ラッグASFの上位4ビットの2番目及び3番目に,駆動対象がメインロボット・
サブロボットかのデータを有しているのに対して,イ号製品の「MOVP(ポジシ
ョンNo.)命令」は,それ自体は駆動対象軸群に関する直接的データを持たず,
MOVP命令と並行して入力されるGRP命令(有効軸パターン)が駆動対象軸群
に関するデータを有するという点である。
しかし,上記相違点をイ号製品のものに置換しても,誤動作なくロボット単位の
制御を行うとの効果が達せられ,1つのコントローラで複数ロボットを制御するこ
とができる。すなわち,2軸の直交型ロボット2台を例にとると,ドライバー1,
2に,メインロボットの1軸,2軸を接続し,ドライバー3,4に,サブロボット
の1軸,2軸を接続して制御する場合(甲28の30頁パターンAと同じ),イ号
製品は,取扱説明書[例1]の例にも示されているとおり,GRP1100と設定
することで,3軸目,4軸目のみが有効となり,サブロボットのみが駆動対象とし
て制御される。逆に,GRP0011と設定すれば,1軸目,2軸目のみが有効と
なり,メインロボットのみが駆動対象として制御される(図4)。
このように,イ号製品においても,複数軸をグループ化し,当該グループ毎に制
御することができ,複数ロボット制御時の誤動作防止という効果を奏するのであっ
て,本件発明1の具体的な作用効果と同一である。
②置換容易性
上記のとおり,イ号製品は,結局,駆動軸を特定する駆動対象指定と移動位置指
定とを含む「移動命令」と「駆動対象軸が属する群の情報」とを照合するに際し,「移
動命令」と照合する対象の「駆動対象軸が属する群の情報」として,各軸属性記憶
部に記憶された「軸属性フラッグADF」ではなく,「GRP命令」を用いる点に
おいて,本件発明1と相違するが,両者は,いずれも,同じ軸群に属する軸と他の
軸群とを区別するデータを用意し,移動命令が駆動対象として指定する軸と照合す
ることで,誤動作を防止するという点で共通しており,わずかにその表現形式が異
なるにすぎない。すなわち,1つの移動命令(MOVE命令)の中に照合するため
のビットを含ませ(2ビット目を「メイン」とし,3ビット目を「サブ」とする。),
用意した軸属性データと照合するか,移動位置を示す移動命令(MOVP命令)と
は別に,並行して軸属性データに相当する軸群を区別するデータを命令形式(GR
P命令)で入力し,照合するかの違いがあるにすぎない。
GRP命令の有効軸パターン「0011」というデータ設定を行い,誤動作防止
効果を得ることは,軸定義フラッグADFのメインロボットの欄(上位2ビット目)
に,「0011」(上から下に並ぶデータを右から左へ並ぶデータとして表記)と
設定することから,容易に想到する構成である。
③本質的部分でないこと
駆動対象以外の軸を動作させないという課題との関係から明らかなように,「駆
動対象軸が属する群の情報」と移動命令が駆動対象として指定する軸の情報とを照
合することが本件発明1の本質である(それによって移動命令の対象軸(群)だけ
を動作させ,誤動作を防止する。)。その部分が本件発明1の作用効果を基礎づけ
る技術的思想の中核である。
したがって,本件発明1のように「駆動対象軸が属する群の情報」を各軸属性記
憶部に軸定義フラッグADFとして設定するか,イ号製品のようにMOVP命令に
並行してGRP命令で設定するかという相違点は,何ら本質的部分ではない。
④非容易推考性
イ号製品のGRP命令,シンボル定義等が本件発明1の特許出願後に導入された
ことは,被控訴人も争っておらず,イ号製品が公知技術と同一又は容易推考である
ことを示すような事実はない。
⑤意識的除外等の不存在
構成要件1-Eの「駆動すべきロボットおよび駆動軸を特定する駆動対象指定」
との文言は,出願当初から,特許請求の範囲に記載されていた文言であり,本件特
許1の出願審査過程において,拒絶査定を回避するために補正により導入された文
言でもない。また,意見書等においても,移動命令中に「ロボット」を特定する数
字等が含まれていない態様を除外した経緯もなく,駆動対象軸が属する群の情報の
形式につき限定したような事情もない。
したがって,イ号製品は,特許請求の範囲から意識的に除外等されたものではな
い。
エ構成要件1-C充足性
構成要件1-Fの充足性で述べたとおり,イ号製品には,各軸の属性を示すデー
タが記憶されている。本件発明1の実施例との対比でいうと,駆動軸の有無,どの
ロボットに属するかを示すデータが記憶されている。駆動軸の有無を示すデータと
しては,軸属性を表すパラメータの1つである「全軸共通パラメータNo.1有
効軸パターン」を記憶部に記憶しており,この有効軸パターンにより各軸の有効・
無効(ドライバーが駆動対象となる軸を有するか否か)が定められ,駆動対象とな
る軸を有する場合には「1」が,駆動対象となる軸を有さない場合には「0」が入
力される。これが,前記移動命令MOVP(ポジションNo.)から導かれる座標
値の有無と照合され,座標値「有」かつ有効軸パターン「1」の場合,駆動対象に
対応するドライバーであると判別される。また,あらかじめ,GRP(軸パターン)
命令,LET命令によって,どの軸群を駆動するかを宣言しておけば,前記移動命
令MOVP(ポジションNo.)から導かれる座標値の有無と照合することで,誤
動作なく,駆動対象軸だけを対応するドライバーによって制御することが可能とな
る。
したがって,イ号製品は,「上記対応関係の設定に基づいて各ドライバーに対応
する駆動軸の属性を示すデータを書き換え可能に記憶する各軸属性記憶部」を有し
ており,構成要件1-Cを充足する。
オ構成要件1-B充足性
(ア)ADFの機能について
原判決は,構成要件1-Bの充足性を判断する前提として,「構成要件1-B
の「対応関係を変更可能に設定する」ものとは,ADFのような,駆動対象とドラ
イバーの対応関係(どのドライバーがどのロボット軸を動かすか)そのものを示す
データだけでなく,各種パラメータのような,駆動対象とドライバーの対応関係が
変更になった場合でも,軸が駆動可能となるよう設定する,対応関係の変更に付随
するデータまで含むのかを検討する」(原判決69頁下から6行~末行)としてい
る。
しかしながら,前提として,実施例に挙げられているADFを「駆動軸とドライ
バーとの対応関係そのものを示すデータ」と認定していること自体が明らかに誤っ
ている。すなわち,「対応関係を変更可能に設定する」ことに関連する本件発明1
の実施例のADF(正確には,ADF中の分配記号)は,駆動対象とドライバーの
対応関係(どのドライバーがどのロボット軸を動かすか)そのものを示すデータ(【
図5】のようなデータ)ではなく,各種パラメータのような,駆動対象とドライバ
ーの対応関係が変更になった場合に,軸が駆動可能となるよう設定する,対応関係
を変更可能に設定するためのデータ(【図3】,【図9】S14,S15,S16,
【0028】)である。一方,【図3】のADFでは,1段目のドライバーDR1
の軸定義フラッグの2番目のビットに「1」が記憶され,ドライバーDR1はメイ
ンロボット1を駆動対象とすることまでしか示しておらず,以下同様に,ドライバ
ーDR2~DR5とメインロボット1とが対応し,ドライバーDR7,DR8とサ
ブロボット2とが対応していることしか示していない。すなわち,ドライバーDR
1~DR6とロボット軸M1~M6,ドライバーDR7,DR8とロボット軸S1,
S2とがそれぞれ対応することは,【図3】のADFのみから判別することはでき
ない。
したがって,ADFは,駆動対象とドライバーの対応関係そのものを示すデー
タ(どのドライバーがどのロボット軸を動かすかを示すデータ)ではなく,イ号製
品のポジションNo.や各種パラメータと同様に,駆動対象とドライバーの対応関
係が変更になった場合に,軸が駆動可能となるよう設定する,対応関係を変更可能
に設定するためのデータである。
よって,本件発明1の実施例のADFが構成要件l-Bの「対応関係を変更可能
に設定する」ものの一例である以上,当然にそれと同種のイ号製品の各種パラメー
タの設定も,構成要件1-Bの「対応関係を変更可能に設定する」ものに該当し,
イ号製品が構成要件1-Bを充足することは明らかである。
(イ)自動調整・設定されるべきデータ,イ号製品のパラメータ
原判決は,「構成要件1-Bにおいて設定されるべきデータは,実際に軸の付け
替えが行われ,どのドライバーがどのロボット軸を動かすかの対応関係が変更にな
った場合に,そのデータを設定することにより,変更後の軸に対応するドライバー
や,変更後の軸に係る処理内容が判明し,これに応じた調整が自動的に行われるた
めのデータということになる」と認定した上で,「イ号製品における各種パラメー
タは,軸の付け替えがあった場合に,その数値(データ)から,変更後の軸に対応
するドライバーや,変更後の軸に係る処理内容が導かれるようなものではない」(原
判決70頁8行~14行)と判断している。
しかしながら,構成要件1-Bにおいて設定されるべきデータは,ドライバーと
軸との対応関係が変更になった場合に,変更後の軸に係る適切な処理内容を導き出
すための処理条件を決定できればよいのであって,変更後の軸に対応するドライバ
ーを決定することまで必須とするものではない(駆動対象に対応するドライバーを
選定するのは,構成要件1-Fの移動命令判別手段である。)。
イ号製品の軸別パラメータは,「位置指令生成」,「位置制御」の演算処理に必
要なパラメータであり,エンコーダパラメータは,エンコーダ(パルスジェネレー
タ)に関するパラメータであり,パルスジェネレータから出力されるパルスが位置
制御,速度制御,電流制御に使用され,ドライバーカードパラメータは,位置制御,
速度制御,電流制御の演算処理を実行するために必要なパラメータである。しかも,
全軸共通パラメータの「No.1有効軸パターン」のデータは,ドライバーの選定
に使用される。したがって,全軸共通パラメータ,軸別パラメータ,エンコーダパ
ラメータ及びドライバーカードパラメータから,ドライバーとその処理内容が求め
られるので,実際に軸の付け替えが行われ,どのドライバーがどのロボット軸を動
かすかの対応関係が変更になった場合に,全軸共通パラメータ,軸別パラメータ,
エンコーダパラメータ及びドライバーカードパラメータを設定することにより,変
更後の軸に係る処理内容が判明し,これに応じた処理が適正に行われる。
(ウ)よって,全軸共通パラメータ,軸別パラメータ,エンコーダパラメータ及び
ドライバーカードパラメータは,原判決が認定した構成要件1-Bにおいて設定さ
れるべきデータ,すなわち,実際に軸の付け替えが行われ,どのドライバーがどの
ロボット軸を動かすかの対応関係が変更になった場合に,そのデータを設定するこ
とにより,変更後の軸に係る処理内容が判明し,これに応じた処理が適正に行われ
るためのデータということになり,イ号製品は構成要件1-Bを充足する。
カ構成要件1-D充足性
(ア)原判決は,本件発明1の「ドライバーの処理条件」について,「本件発明1
では,ドライバーの処理条件は,処理条件決定手段が自動的に決定する。そして,
自動的に決定されるためには,処理条件決定手段が処理条件を一義的に決定できる
方法を定めておく必要がある」(原判決71頁2行~4行),「ドライバーと駆動
軸との対応関係毎に1つに決まらないものは,本件発明1の予定する,処理条件決
定手段による自動的な決定が可能な処理条件ではない」(同71頁12行~14行)
とし,イ号製品のMOVP命令と命令解析部の構成要件充足性について,「速度,
加速度,減速度の情報が,ドライバーの「処理条件」のひとつに該当するとしても,
ユーザプログラムにおける命令の1つであり,ユーザが作成するMOVP命令の中
に含まれ,ユーザによって既に指定されている速度,加速度,減速度の情報は,処
理条件決定手段によって決定されるとはいえないし,処理条件について何らの決定
行為を行っていない命令解析部をして「処理条件決定手段」ということもできない
から,イ号製品は構成要件l-Dを充足するとはいえない」(同72頁14行~2
0行)とした。
(イ)制御パターンを求める上で,演算の基となるデータとして,各軸関連パラメ
ータが必要であり,これら各軸関連パラメータは,機械要素等に起因する,ドライ
バーと軸との対応関係によって一義的に定められるパラメータである。イ号製品に
おいて,各ドライバーに接続される軸が変更された場合,準備段階(対応関係設定
1-b)で,各ドライバーが条件を読み出す所定の場所に,必要なパラメータを記
憶させておくことができる。すなわち,イ号製品において,甲6の101頁「④詳
細設定-ロボット各軸関連パラメータ転送元/転送先指定」には,「転送元のファ
イルの各軸関連パラメータを,転送先コントローラへ軸No.ごとに指定し転送で
きます」と記載され,事前に記憶されている各軸関連パラメータである軸別パラメ
ータ,エンコーダパラメータ及びドライバーカードパラメータは,軸No.すなわ
ち駆動軸毎に転送され,駆動軸毎にメモリ上の所定の番地に記憶される。この場合
のデータ構造は,次の【表2】に示すように,本件明細書1の【図6】に示す処理
条件記憶部の内容を示す説明図と同様のデータ構造となる。
【表2】イ号製品の各軸に関する各種パラメータのデータ構造
番地内容
A1軸No.1に対応する軸別パラメータ,エンコーダパラメータ及びドライバー
カードパラメータ(ドライバーD1が駆動軸M1の駆動を行うデータ)
A2軸No.2に対応する軸別パラメータ,エンコーダパラメータ及びドライバー
カードパラメータ(ドライバーD2が駆動軸M2の駆動を行うデータ)
A3軸No.3に対応する軸別パラメータ,エンコーダパラメータ及びドライバー
カードパラメータ(ドライバーD3が駆動軸S1の駆動を行うデータ)
A4軸No.4に対応する軸別パラメータ,エンコーダパラメータ及びドライバー
カードパラメータ(ドライバーD4が駆動軸S2の駆動を行うデータ)
上記のように,コントローラ内のメモリに軸別パラメータ,エンコーダパラメー
タ及びドライバーカードパラメータが記憶されている場合,イ号製品は,例えば,
ドライバーD1が駆動軸M1の駆動を行うときは,4個の番地の中から第1の番地
A1を選択し,番地A1の軸別パラメータ,エンコーダパラメータ及びドライバー
カードパラメータを読み出して,当該パラメータをドライバーD1が駆動軸M1の
駆動を行うときの処理条件として決定する。このように,イ号製品は,各ドライバ
ーと各駆動軸との対応関係に応じて記憶されている複数種類の各軸関連パラメー
タ(軸別パラメータ,エンコーダパラメータ及びドライバーカードパラメータ)の
中から,前記移動命令判別手段1-fにより選定されたドライバーと当該ドライバ
ーが駆動する駆動軸とに対応する各軸関連パラメータを選択する情報処理を実行し
ており,複数の選択肢の中から1つを選択する決定行為を行っている。
上記のように,イ号製品の各軸関連パラメータは,ドライバーと駆動軸との対応
関係毎に1つに定まるものであり,イ号製品は,各ドライバーと各駆動軸との対応
関係に応じて記憶されている複数種類の各軸関連パラメータの中から,選定された
ドライバーと当該ドライバーが駆動する駆動軸とに対応する1つの各軸関連パラメ
ータを自動的に選択して決定していることになる。
したがって,原判決がイ号製品には「情報処理としての何らかの決定行為は存在
しない」とした判断には,明白な誤りがある。
(ウ)以上のとおり,イ号製品は,各ドライバーと各駆動軸との対応関係に応じて
ドライバーの処理条件を決定する処理条件決定手段を有するので,構成要件1-D
を充足する。
(2)本件特許権2に基づく請求について
ア本件発明2-1の要旨認定を誤ったことに伴う相違点2(ヘッド配置側の側
面部における放熱フィンの有無及び数)に関する判断の誤り
(ア)原判決は,引用発明1においてはリニアエンコーダ配置側及びその反対側の
側面部に多数の冷却フィンが形成されている(両側フィン)としつつも,本件発明
2-1の要旨については,「ヘッド配置側に放熱フィンを形成する構成を排除して
いるとはいえない」,すなわち両側フィン構成も含まれるとして,相違点2(ヘッ
ド配置側の側面部における放熱フィンの有無及び数)は,「実際には,両者の相違
点となるべきものではない」とした(原判決83頁1行~84頁12行)。
しかしながら,クレームの構文解釈あるいは本件明細書2の図面に照らせば,本
件発明2-1の構成要件2-Eは,ヘッド配置側の側面部において多数の放熱フィ
ンが存在していないことを示していると当業者であれば極めて自然に理解できるか
ら,原判決の判断には明白な誤りがある。
(イ)本件発明2は片側多数フィン構成を採用するもの
a本件明細書2の図面について
本件明細書2の図面は,片側多数フィン構成を開示している。その根拠は,以下
のとおりである。
①断面位置
図2は,可動部中央を断面した横断面図であり,この点は,当事者間に争いはな
い。
②断面奥側
図2では,断面奥(図1の右側)において片側多数フィン構成であることが明確
に示されている。これは,断面部分のみならずその奥部分まで描かれるという断面
図の性質から導かれる帰結である。
③断面手前側
図2の断面手前側(図1の左側)も,片側多数フィン構成であるとみるほかない。
これは,ⅰ)製図法における全断面図の性質(全断面図は,当該製品の基本的な形
状を表わす性質のものであること,ⅱ)可動部2は,長手方向に対称に構成されて
いるから(図1参照),可動部2の実に半分を明記している図2の断面構造は,可
動部2全体に共通の構成であると理解できること,ⅲ)仮に断面奥側と異なり,断
面手前側に放熱フィンが形成されているといった特異な構成であれば,通常は,二
点鎖線等でその旨明示されるはずであるが,そのような記載はないこと等から明ら
かである。
bクレームの構文解釈
構成要件2-E「上記可動ブロックには,その一側部に,ロボット本体側に設け
られたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに,このヘッド配置側と
は反対側の側面部に,多数の放熱フィンが形成されている」は,そのクレームの構
文からして,ヘッド配置側の側面部において,放熱フィンが存在しないか又は形成
される放熱フィンが多数ではないことを要求している。
要するに,構成要件2-Eでは,対象を特定する助詞である「に」が付されてい
ることに加え,手続補正によって,可動ブロックの側面部をわざわざ「一側部(ヘ
ッド配置側)」と「ヘッド配置側とは反対側の側面部」の2つに分けた上で,続け
てそれぞれの構成に言及している。しかも,フィン側については,わざわざ「ヘッ
ド配置側とは反対側の側面部」として,「ヘッド配置側」と明確に区別する助詞が
使用されているし,相対する「一側部(ヘッド配置側)」と「ヘッド配置側とは反
対側の側面部」は,「ともに」という言葉で接続されている。この一連の文章を読
めば,一方で特定した部材が他方には存在しない,すなわち片側多数フィン構成を
採用しているといった理解になるはずである。
もし,両側フィン構成の余地を残すというのであれば,「可動ブロックの側面部
には,ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されると
ともに多数の放熱フィンが形成されている」とだけ記載すれば足りるし,この方が
より明確である。それにもかかわらず,構成要件2-Eは,わざわざ放熱フィンの
形成を「ヘッド配置側の反対側の側面部」に指定したのであって,これは,ヘッド
配置側には放熱フィンを形成しないことを当然に意味する。
(ウ)引用例1は構成要件2-Eを開示するものではないこと
引用例1(乙B2)の別紙2(以下「別紙2」という。)には,どこにもエンコ
ーダ(ヘッドに相当)の記載がない。仮にエンコーダスケールに対向する形でエン
コーダが設けられることを前提にしたとしても,別紙2の図面のみでは,エンコー
ダの位置を正確には特定できない。
引用例1の別紙3,4(以下,それぞれ「別紙3」,「別紙4」という。)の寸
法断面図(左の図)の右下には,「LinearEncoder」なる記載があるが,同図を見
ても,エンコーダの位置を特定できず,むしろ,スラストブロック正面,背面又は
下方(それぞれ同図の手前側,奥側,下側)のいずれかに配置されていると見るほ
かない。
(エ)本件発明2の顕著な作用効果
a定性的な証明
本件発明2は,テーブルと可動ブロックとの間に断熱材からなる断熱プレートを
介在させてテーブルへの伝熱を抑制する(第1の課題の解決:構成要件2-D)と
ともに,この断熱によって放熱効率が悪化した可動ブロックにおいて放熱フィンを
形成したうえで放熱フィンとヘッドの配置を工夫することにより,可動ブロックに
蓄積される熱の発散を担保しつつも,ヘッド付近の放熱量の変動やヘッド取付部分
における剛性の低下によるヘッド検出精度への悪影響を回避(第2の課題の解決
:構成要件2-E)して2つの課題を同時にかつ効果的に解決したものである。
このように,本件発明2について顕著な作用効果を奏することは,定性的証明が
なされている。
b定量的な証明
雰囲気温度の変化によるヘッドへの熱的影響に関しては,甲26の実験結果(以
下「控訴人実験」という。)により定量的にも証明されている。要するに,控訴人
実験では,運転条件Aにおいてヘッド配置側と放熱フィン側とで1.2℃から2.
5℃,運転条件Bの場合において3.1℃から6.9℃という温度差が検出されて
おり,本件発明2が顕著な効果を備えることを十分に示している。
(オ)以上のとおり,クレームの構文及び本件明細書2の図面のいずれをみても,
構成要件2-Eは,ヘッド配置側とは反対側の側面部においては,多数の放熱フィ
ンが形成されており,かつ,ヘッド配置側の側面部においては,多数の放熱フィン
が存在しないことを意味することは明らかである。他方,引用例1には,エンコー
ダの有無及び位置の開示がなく,また,そこに開示のスラストチューブの両側面に
は多数の放熱フィンが形成されている。そして,本件発明2には,顕著な作用効果
が認められる。
したがって,本件発明2-1と引用例1は,ヘッド配置側における放熱フィンの
有無ないし数といった点で相違しており(相違点2),かかる相違点2は,当業者
にとって容易想到な構成とはいえない。
イ訂正の再抗弁に関する判断の誤り
控訴人は,特許法126条1項に基づき,本件特許2について,訂正審判請求を
行ったところ,原判決は,本件明細書2において「ヘッド配置側とは反対側の側面
部のみ多数の放熱フィンが形成されている」といった構成は読み取れないとし,本
件訂正の訂正事項2は,新規事項の追加に当たる旨判示した。
しかしながら,上記アのとおり,本件明細書2には,可動ブロックのヘッド配置
側の側面部に多数の放熱フィンが形成されていない構成が示されており(少なくと
も自明である。),訂正事項2は,本件明細書2に記載した事項の範囲内の訂正(特
許法126条3項)といえ,新規事項の追加には当たらない。そして,本件訂正は
訂正の再抗弁のその余の要件を充足する。
したがって,訂正の再抗弁に理由があることは明らかである。
ウ相違点1の容易想到性についての判断の誤り
(ア)原判決は,本件発明2と引用発明1との相違点1について,引用発明1と引
用発明2との技術分野の同一性,両者を組み合わせる阻害要因の不存在を認定して,
引用発明2を適用することによって容易に想到可能と判断した。しかしながら,引
用発明1と引用発明2は,その構成が異なっており,そのために,発熱・伝熱・放
熱等に関する具体的課題等も相違している。
a技術分野の共通性欠如について
引用発明1と引用発明2は,以下のとおり,具体的な技術分野を異にしている。
(a)引用発明1はいわゆるシャフト型,引用発明2はいわゆるフラット型といわ
れるものであり,駆動源となる磁界発生機構が全く異なっている。
(b)これら磁界発生機構の根本的な相違に起因して,引用発明1と引用発明2と
は,具体的構成(コイルハウジング部分の構成,コイルとコイルハウジング部分の
位置関係,軌道など)を異にしている。
(c)フラット型は,磁界発生機構として,「コア」があり,少ない電力でも十分
な推力を得ることができる。これに対し,シャフト型は,軽量コンパクトに構成で
きるという利点がある反面,コアがなく,推力を得るには電流量を増やす必要があ
る。そのため,フラット型は,質量の重い物品の搬送,シャフト型は軽い物品の搬
送が念頭に置かれており,想定される用途を異にしている。
(d)以上のとおり,同じくリニアモータ方式といっても,シャフト型とフラット
型では,具体的な構成,熱問題への処理の基本思想の相違,用途等に相違があるの
であり,原判決判示及び被控訴人主張の極めて抽象的な技術分野,作用・機能の共
通性のみをもって,引用発明1と引用発明2の組合せ容易性を導くことはできない。
b課題の共通性欠如について
また,引用発明1と引用発明2は,以下のとおり,その課題についても共通性を
見いだせない。
(a)引用発明2は,フラット型の移動体システムにおける熱伝導を問題とするも
のであり,その余の構成の移動体システムにおいて熱伝導の問題が生じ得るか否か,
生じ得るとしてどのような具体的問題なのか,例えば,シャフト型では多数の放熱
フィンによって放熱する構成であるが,それとの関係で断熱プレートの適用の射程
があるのか等については,何ら具体的に示されていない。引用発明2のフラット型
の移動体システムにおける「支持部材」は,断面T字状であり,2組のコイルに挟
まれていて,放熱フィンを形成する余地がないことから,テーブルへの熱問題は,
断熱部材による断熱によって解決せざるを得ず,また,そうすることが極めて自然
な発想であった。
(b)引用例1は,単に図面が掲載されているだけであるし,テーブルが記載され
ておらず,どのような部材が載置されるのか,熱に弱い精密機械が載置されるのか
全く判然としない。また,引用例1において,スラストチューブには両側面部に多
数の放熱フィンが形成されており,これによって上部への熱伝導が十分に抑制され
ている。そのため,引用例1をみても,そもそもスラストチューブ上部への熱伝導
をさらに抑制する必要があるのかどうかは全く不明であって,断熱シートを適用す
ることについての教示・示唆は全くない。
引用例1所定のシャフト型の移動体システムにおけるスラストブロックは,両面
に多数の放熱フィンを形成することで放熱が可能であり,また,軽量の物品の搬送
を念頭においており,電流量も少なかったので,従前より,放熱フィンに頼って種
々の熱問題を解消してきたのであって,断熱材による断熱は想定されていなかった。
(c)シャフト型の熱問題については,温度上昇を抑制するべくフィンをできるだ
け多く形成した方がよい,そのため両側フィンにすべきでありそれで十分,という
のが従前の当業者の技術常識であった。
本件発明2は,シャフト型でも十分な推力を得るため電流を増やしたところ,ヘ
ッド配置側の放熱フィンの存在によりヘッドの検出精度が落ち,ヘッドの検出精度
への悪影響が生じたため,あえて片側多数フィンを採用した(構成要件2-E,本
件明細書2の図1,図2)。同時に,本件発明2は,テーブルへの伝熱を十分に抑
制できないという課題に直面したので(本件明細書2【0005】,【0006】
等),テーブルと可動ブロックの間に断熱プレートを介在させた(構成要件2-D)。
このテーブル部への伝熱が顕著となったのは,片側多数フィンを採用したことによ
って放熱フィンからの放熱量が減少したことを理由として挙げることができる。
本件発明2は,ヘッドの検出精度の確保とテーブル部への伝熱防止という2つの
課題を解決するべく,構成要件2-Eと同時に構成要件2-Dを採用したのであり,
このような思想は,被控訴人の提出する引用例には開示も示唆もされていない。両
側フィンを前提とする引用発明1では,断熱プレートを介在させる構成が想到でき
ないし,フラット型を採用する引用発明2では,片側多数フィンを採用する構成が
想到できない。
(d)以上からすれば,引用発明1の検討に当たり,スラストチューブ上部への熱
放出の抑制といった本件発明1と同様の具体的課題に直面するであろうと推認する
こと,及び,そのような課題に直面した当業者において,引用発明2の適用を試み
るであろうと推認することは,解決手段の先読みであって,許されざる事後分析(い
わゆる後知恵)の典型というほかない。引用発明1及び引用発明2に接した当業者
は,引用発明1のような構成を検討するに当たって,コイルにより発生した熱の伝
導及びその不都合性といった課題に直面することはなく,また,引用発明2の適用
を試みることもない。
c阻害要因の存在について
引用発明1に引用発明2の断熱プレートを適用した場合,スラストチューブの上
部への伝熱は遮断され,軌道への熱伝導が増大してしまう。引用例2においては,
コイルにより発生された熱が軌道に伝達することが従来技術の課題として挙げられ
ているが(乙B5【0010】),仮に引用発明1に引用発明2を適用すると,軌
道への熱伝導を増大させ,上記従来技術の課題に直面するばかりか,当該課題で示
された問題点をより深刻化させてしまう。また,引用発明1では,放熱フィンが形
成されており,軌道への熱伝導の影響を克服できているとの考えもあり得るが,こ
れはヘッド配置側も含めた両側面に多数の放熱フィンが形成されているためであっ
て,引用発明2を適用し上部への放熱を遮断すると,今度は,放熱フィンからの放
熱による雰囲気温度の変化が温度特性を有するヘッドの検出精度に悪影響を与える
といった弊害が生じる。
そのため,引用発明1と引用発明2を組み合わせることについては,阻害要因が
存在する。
(イ)相違点に係る組合せ容易性を認定するには,主引用例から出発し,当業者が
これに副引用例を適用することで,本件発明2に到達するだけの(積極的な)動機
づけが必要であるところ,引用発明1と引用発明2を組み合わせることについては,
その動機づけが存在せず,反対に阻害要因が存在する。
原判決は,簡単に技術分野及び課題の共通性を認定し,また,阻害要因の不存在
を認定したが,結局,引用発明1と引用発明2とがいずれもリニアモータ方式を用
いた移動体システムに関するものであることのみに着目するものでしかなく,主引
用例と副引用例との具体的技術分野や課題,具体的構成の違い等を捨象してしまい,
引用例の中に具体的な示唆があるか否かの検討を怠るものであって,誤りであると
いわざるを得ない。
エ相違点3の容易想到性についての判断の誤り
(ア)原判決は,断熱構造において用いられるワッシャーを断熱ワッシャーにして,
断熱効果をより向上させることは,慣用技術であるとした上で,相違点3につき,
容易想到であるとした。
しかしながら,以下の理由から,かかる原判決の判断は,誤りである。
(イ)刊行物の数はわずかであり,断熱ワッシャーは慣用技術ではない。具体的な
技術分野や具体的な課題・解決手段の枠を離れて一般的抽象的に慣用されていると
いうためには,極めて多数の公知文献等の存在が立証される必要があるところ,被
控訴人が挙げる引用例では,技術分野の同一性・関連性を問題とするまでもない程
度に技術の分野において広く浸透しており,慣用されているとまではいえないので
あって,断熱ワッシャーは慣用技術に該当しない。
(ウ)構成要件2-Fを具体的に開示する引用例はない。構成要件2-Fにおける
断熱ワッシャーは,締結部材を通じてテーブルに熱が伝わることも抑制するための
ものであるが,このような「締結部材を通じての伝熱」に着目して,断熱ワッシャ
ーを設ける構成は,被控訴人提出の各刊行物にはいずれも開示されていない。
オ引用例1の公知時期の判断についての誤り
(ア)原判決は,進歩性欠如を認定する前提としての主引例である引用例1が本件
特許2の出願当時(平成15年5月14日)に公に閲覧可能であったと認定した。
原判決は,A(以下「A」という。)の宣誓供述書(乙B19。以下「A供述書」
という。)は,反対尋問を経ていない供述証拠である上,その信用性には大いに問
題があるのにもかかわらず,これをいわば唯一の証拠として,重要な争点の主要な
事実を認定しており,明らかに採証法則・経験則に違反している。
(イ)A供述書以外の証拠で引用例1の公知性を認定できない理由は,以下のとお
りである。
a引用例1には公開日を示す記載がない。引用例1には,それぞれ「Copyright
CopleyMotionSystemsLLC2002」(別紙2),「IssueL(20.01.03)」(別
紙3),「IssueK(20.01.3)」(別紙4)という記載があるが,特に別紙3,4の
記載は,その意味するところが明らかでない。おそらく,図面を管理するための番
号ないし記号等を示すものとみることも可能であって,かかる記載は,およそ公知
時期の判断資料たり得ない。
bPDFファイルのプロパティ情報は公開日の資料たり得ない。別紙
2(QM0007.pdf),別紙3(DR00001.pdf),別紙4(DR00002.pdf)と同内容のP
DFファイルのプロパティ情報には,作成日として本件特許2の出願日前の日時が
示されているが(乙B16),文書の作成日と公開日は別のものであり,このこと
は,引用例1の公知性を導く事情たり得ない。
c被控訴人は,別紙3,4の公知性の根拠として,乙B16のプルダウンメニ
ューの表示を挙げている(「M25ModuleDimensions/DR0001」及び「M38Module
Dimensions/DR0002」)が,これらプルダウンメニューで表示されたファイル名は,
いずれも別紙3を内容とするPDFファイル「DR00001.pdf」,別紙4を内容とする
PDFファイル「DR00002.pdf」と全く異なっているから,これらは異なるデータが
保存されているとみるほかない。
(ウ)原判決が公知時期の根拠として挙げるA供述書は,以下のとおり,信用でき
ない。
a宣誓供述書(AFFIDAVIT)は,宣誓供述管理官ないし相手方当事者の反対尋問
を経て作成されるものではなく,争いある事実を確定し得るほどに真実性の担保が
図られているものではない。
b宣誓供述書においては,Aがスラストチューブリニアサーボモータを含む多
くの商品の設計も担当していたとされているが,Copley社の代表取締役の地位にあ
った同人が具体的にいかなる商品について,どの程度の関与をしたのか甚だ疑問で
あるし,個々の商品の細かな構造,取扱説明書の内容,発行時期を正確に記憶して
いるとは考えられない。ましてや,現在問題となっているのは,8年以上も前の製
品やパンフレットの公知性及びその内容である。
c別紙3,4が,2003年1月20日に発行されたとする部分については,
同氏がもはやCopley社を退職した後のことであるから,全く信用性がない。
dB(以下「B」という。)の平成23年6月24日付け宣誓供述書(甲43。
以下「B供述書」という。)には,Bこそがドライブス社の実質的な創設者であっ
たこと,Aがドライブス社における唯一の設計者ではなく,リニアサーボモータの
設計を担当していなかったこと等が記載されている。
(エ)引用例1の公知性については,以下のとおり,これを弾劾する複数の資料が
存在する。
①インターネットアーカイブでの検索結果甲23,24
②ディレクトリー情報甲31
③テクノリサーチ社の調査結果甲33
④Bの供述甲56
3控訴人の主張に対する被控訴人の反論
控訴人の当審における主張は,以下に述べるとおり,いずれも失当であり,本件
控訴は棄却されるべきである。
(1)本件特許権1に基づく請求について
ア構成要件1-A,1-G,1-H充足性の主張に対し
構成要件1-A,1-Hは,「複数のロボット」,「複数ロボット」という文言
を含み,これは本件発明1の最も重要な用語の1つである。本件発明1の「ロボッ
ト」とは,そのロボットに属する全ての駆動軸を,そのロボットを指定するデータ
を含む移動命令によって一括的に駆動する,そのような複数の駆動軸を備えて構造
体の単位を表していると理解される。イ号製品には,本件発明1における「ロボッ
ト」の概念も,本件発明1における「ロボット」を特定する符号やデータも存在し
ない。
構成要件1-Gの制御手段は,構成要件1-Dで決定された処理条件と,構成要
件1-Eにおいて入力された移動命令中の移動位置と,構成要件1-Fで選定され
たドライバー,に基づいて処理内容を求めて制御を行うものである。そのように,
構成要件1-Gは,構成要件1-D,1-E,1-Fを前提とするものであり,こ
れらを欠くイ号製品は構成要件1-Gを備えていない。
イ構成要件1-F充足性の主張に対し
(ア)構成要件1-Fは,移動命令を示すデータと駆動軸の属性を示すデータとの
照合に基づき,移動命令を判別して駆動対象に対応するドライバーを選定するもの
である。なぜ「照合」によりドライバーを選定しなければならないかというと,移
動命令中にドライバーを特定するデータが存在しないからである。
これに対し,イ号製品においては,SEL言語命令によって駆動すべき軸(した
がってドライバー)が一意に特定される。イ号製品におけるSEL言語は駆動対象
となる軸の動きを個別に指定する命令であるから,イ号製品においてはドライバー
の選定処理は全く必要ない。
(イ)本件発明1において,移動命令を示すデータは駆動すべきロボットを特定す
るもので,駆動すべきドライバーを特定するものではないから,構成要件1-Fに
おいて,移動命令を示すデータを駆動軸の属性を示すデータと照合することにより,
移動命令を判別して駆動すべきドライバーが選定される。
イ号製品におけるポジションデータ,有効軸パターン,GRP(軸パターン)の
いずれについても,構成要件1-Fのように,照合により移動命令を判別してドラ
イバーを選定するという働きはない。このことはシンボル定義,LET命令が加わ
っても同じである。
(ウ)以上のとおり,イ号製品は構成要件1-Fを充足しない。
ウ構成要件1-E充足性の主張に対し
(ア)本件発明1において,移動命令は「駆動すべきロボット」を特定することを
含む。
これに対し,イ号製品のMOVP(ポジションNo.)命令では,駆動すべき個
々の軸をポジション特定データにより特定し,特定された軸からドライバーが直接
かつ一義的に導かれる。
したがって,イ号製品は構成要件1-Eを充足しない。
(イ)均等侵害の主張に対し
本件発明1の構成要件中のイ号製品と異なる部分とは,構成要件1-Eの「移動
命令」であり,これに対応するイ号製品の構成は「MOVP命令+GRP命令」で
ある。
本件発明1は,ロボットを単位として複数のロボットを制御する装置であり,そ
れゆえに,移動命令もロボットを単位として与えられる。すなわち,構成要件1-
Eによると,移動命令は「駆動すべきロボット」を特定するデータを含むものであ
り,これが正に「駆動対象指定データ」である。
もし,「駆動対象指定データ」がイ号製品におけるような「MOVP命令」又は「M
OVP命令+GRP命令」に置き換えられたならば,これらの命令(MOVP命令,
GRP命令)は軸を単位として制御するための命令であるから,ロボットを単位と
して制御するという本件発明1の技術的思想が完全に変質してしまう。移動命令が
軸を単位として特定する命令(MOVP命令,GRP命令)として与えられるなら
ば,その軸を駆動すべきドライバーは軸を特定することにより一義的に特定される
から,移動命令判別手段による照合に基づくドライバーの選定はもはや不要になっ
てしまう。
このように,「駆動対象指定データ」は本件発明1の本質的部分であり,「置換
可能性」も「置換容易性」もあり得ず,均等論は成り立ち得ない。
エ構成要件1-C充足性の主張に対し
イ号製品は,構成要件1-Bの「上記対応関係の設定」をそもそも欠いているの
で,「上記対応関係の設定に基づいて」いかなるデータであっても「書き換え可能
に記憶する」ことはあり得ない。
控訴人は,イ号製品における「有効軸パターン」が構成要件1-Cの「駆動軸の
属性を示すデータ」に該当すると主張するようであるが,イ号製品における「有効
軸パターン」は,本件発明1における移動命令の判別(ドライバーの選定)には何
ら関与していないのであるから,構成要件1-Cの駆動軸の属性を示すデータでは
ない。
オ構成要件1-B充足性の主張に対し
イ号製品では,各種パラメータは,ドライバーとアクチュエータの組合せが定め
られた後,その定められた組合せに応じてドライバーやアクチュエータが最も適切
に制御,駆動されるように適切に定められた定数(数値データ)ないしはフラグ(ビ
ットデータ)であって,どの駆動軸がどのロボットに属するのか,どのドライバー
がどの駆動軸を駆動するのかという定義を与えるものではない。イ号製品における
各種パラメータは,本件発明1における「各ドライバーと複数のロボットの各駆動
軸との対応関係」を示すものではない。
また,イ号製品における各種パラメータは,「対応関係を変更可能に設定する」
ものではなく,コントローラ(イ号製品)とそれに組み合わされるアクチュエータ
に応じて適切な値が採用されるものである。
したがって,構成要件1-Bに関する控訴人の主張は誤りであり,かつ,イ号製
品は構成要件1-Bを充足しない。
カ構成要件1-D充足性の主張に対し
控訴人は,イ号製品にあるはずのパラメータを設定する手段が構成要件1-B
の「対応関係を変更可能に設定する手段」に該当し,イ号製品の各種パラメータが
構成要件1-Dの「ドライバーの処理条件」に該当すると主張するが,明らかに矛
盾である。なぜならば,構成要件1-Dは,「上記ドライバーと上記各駆動軸との
対応関係に応じて」「ドライバーの処理条件を決定する」と規定しており,控訴人
の主張によれば,「各種パラメータに応じて」「各種パラメータを決定する」とい
うことになってしまい,構成要件1-B又は1-Dのいずれか一方の存在意義を失
わせてしまうからである。
本件発明1においては,ドライバーとロボットの駆動軸との対応関係が変更され
た場合でも,変更後の対応関係に応じた適切な処理条件を自動的に読み出すことが
できるようにするため,ドライバーとロボットの軸との予定された全ての対応関
係(【図5】(a)~(d))に応じて対応する処理条件をあらかじめ記憶している。他
方,イ号製品においては,制御,駆動される1又は複数のアクチュエータの組合せ
が定められると,その定められた組合せに応じてドライバーやアクチュエータが最
も適切に制御,駆動されるように適切な値が採用されるものであり,ドライバーと
ロボットの軸との予定された全ての対応関係(【図5】(a)~(d))に応じて対応す
る処理条件をあらかじめ記憶しているということはない。
(2)本件特許権2に基づく請求について
ア本件発明2-1の要旨認定を誤ったことに伴う相違点2(ヘッド配置側の側
面部における放熱フィンの有無及び数)に関する判断の誤りの主張に対し
(ア)本件発明2-1の要旨認定の誤りにつき
aクレームの文言解釈に関して
本件発明2-1において,「上記可動ブロックには,その一側部に,ロボット本
体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに,このヘッ
ド配置側とは反対側の側面部に,多数のフィンが形成されている」という場合,ヘ
ッド配置側のフィンの存在については何の言及もないというべきである。そもそも,
出願当初の明細書(乙B1の1添付)における放熱フィンに関する唯一の記載(【
0021】)では,「可動ブロックの側面部に多数のフィンが形成されている」と
書かれているだけであり,ヘッド配置側とは反対側の側面部のみとは限定していな
いのである。
b図2に関して
本件特許2の図2の記載からは,ヘッド配置側の一側部において多数の放熱フィ
ンが存在していない構成を一義的に読み取ることはできない。出願当初には,「テ
ーブルが上記可動ブロックに対し,両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在さ
せた状態で連結されていること」(乙B1の1添付の明細書1頁12行~13行)
に発明の主眼が置かれていて,放熱フィンに関する記載は,唯一「【0021】ま
た,上記可動ブロック15の側面部には多数の放熱フィン30が形成されてい
る」(同明細書5頁19行~21行)とあるだけで,ヘッド配置側とは反対側に特
定した文言は全くない。また,図面には,放熱フィンを示す符号「30」がどこに
も記載されておらず,何が放熱フィンであるかについて特定することすらできなか
ったのである。このような出願当初の発明の主眼からすれば,図2は断熱プレート
を中心とした構成を明確化するために作成されたものと考えられるのであって,ヘ
ッド配置側に多数の放熱フィンが形成されているか否かに焦点が当てられた図面で
はなく,ヘッド配置側に多数の放熱フィンが形成されていることを排除するもので
はないとの認定は当然である。
(イ)引用発明1の認定の誤りにつき
a別紙2にはエンコーダが明確に記載されている。別紙2の斜視図を見る
と,「EnclosedEncoderScale」と記載されていて,エンコーダと対になるエン
コーダスケールが明記されている。エンコーダスケールが明記されているのである
から,それと対になるエンコーダが設置されていることは明らかである。また,別
紙2の表紙の右端欄の11行には,「Anintegratedenclosedencoder,」と記
載されており,2頁の中段における上の表においても,「EncoderOptical/
Magnetic」と記載されており,当然のことであるが,エンコーダスケールに対応す
るエンコーダが設置されていることは明らかである。そのような観点から,別紙2
の断面図を見れば,エンコーダであることは,当業者であればごく自然に認識でき
る。
bケーブルカバーは文字通りケーブルを収容するカバーであって,閉じられた
空間を形成している。そのような閉じられた空間内に放熱を目的とする放熱フィン
を設けることはあり得ない。Aも宣誓供述書(乙B35)において,「放熱フィン
はスラストブロックの一側部にケーブルアクセスカバーを取り付ける平坦面を形成
するために機械で切除されていました。」(8項)と供述している。Bもこの点を
認めていて,「必要な電子機器のアクセスカバーの場所を作る目的のためだけに,
フィンの限定された一部分がモータブロックの片側から削り取られました。」(甲
56訳文2頁11行~13行)と述べている。
イ訂正の再抗弁に関する判断の誤りの主張に対し
(ア)新規事項であること
本件明細書2において,放熱フィンについては「上記可動ブロック15の側面部
には多数の放熱フィン30が形成されている」(【0022】)と記載されている
のみであり,また,図2においても,切断面の手前側の構成はこれを何ら特定する
ことはできず,切断面の奥側の構成についてもこれを特定することはできないので
あって,少なくとも,ヘッド配置側一側部に多数の放熱フィンが設けられている構
成を排除できない。結局,「ヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フ
ィンが形成されている」という技術的事項を,本件特許明細書等の記載から一義的
に読み取ることはできないのであるから,新規事項であるといわざるを得ない。
(イ)仮に訂正が認められたとしても本件特許は無効であること
a訂正事項1
ベース部を設けることは,この上にロボット本体の構成部材を設けるために当然
必要とされることであるし,そのベース部の両側部から上方に突出してロボット本
体の側壁部を構成する一対のカバー部材を設けることも,この種のリニアモータ式
単軸ロボットにおいては,粉塵等の侵入防止等を目的にごく普通に行われている技
術であって,いずれも単なる設計事項である。カバー部材を設ける点は,例えば,
乙B1の9(特開2000-78827号公報),乙B4(THKカタログ)に記
載されている。
b訂正事項2(その1:「上記カバー部材との間に」)
ヘッドは移動可能に設けられる可動ブロックに配置されているのであり(構成要
件2-E),その可動ブロックが側壁部を構成するカバー部材の内側に設けられる
のであるから,ヘッドは必然的にカバー部材との間に設けられることになり,この
点もごく普通に行われる技術であって単なる設計事項である。
c訂正事項2(その2:「のみ」なる構成)
訂正事項2において,新たに「のみ」なる文言が追加されたが,このような「の
み」なる構成と実質的に同一の構成が引用例1に記載されている。
(ウ)格別な作用効果がないこと
放熱フィンの有無による効果の違いがないことは,被控訴人が提出した実験結果
により明らかである。すなわち,被控訴人の行った実験(乙B17)によると,放
熱フィンの有無によって雰囲気温度に違いが生じることはなく,また,雰囲気(気
体)温度の変化がヘッドの温度変化に影響を与えることはない(可動ブロックの固
体を通した熱の影響が支配的である)ことが明らかになった。
ウ相違点1の容易想到性についての判断の誤りの主張に対し
(ア)技術分野の同一性
控訴人は,シャフト型とフラット型との違いを主張するが,引用発明1と引用発
明2は,磁界を発生することにより推力を取得し,軌道に沿って移動可能な移動体
システム,すなわち,リニアモータ方式の移動体システムに関するものである点に
おいて,その基本的な原理,構成,用途が共通しているのであるから,同一の技術
分野に属する。そして,リニアモータ方式という枠の中に,控訴人が主張するシャ
フト型とフラット型が含まれることは当然である。
基本的な原理,構成が共通していることを裏付けるものとして,乙B38(昭和
51年9月10日実教出版株式会社発行「リニアモータと応用技術」)がある。乙
B38の記載によれば,まず,リニアモータの出発点として,「回転形誘導電動
機」(通常のモータ)があり,その「回転形誘導電動機」を基本原理として,フラ
ット型の「平板状片側式リニアモータ」が生まれ,さらに,フラット型の「平板状
両側式リニアモータ」とシャフト型の「円筒状リニアモータ」が生まれていったこ
とがわかる。つまり,フラット型もシャフト型も,そもそもは「回転形誘導電動機」
を起源としており,基本原理において何ら違いはない。
(イ)課題の共通性
控訴人は,放熱フィンを備えたシャフト型のリニアモータ式単軸ロボットにおい
ては,テーブルへの熱問題が存在しないかのような主張をする。しかしながら,シ
ャフト型においても動作中にコイルが発熱し,コイルの上方に設置されるテーブル
にその熱が伝達され,それによってテーブルに設置される作業部材が加熱され,作
業部材の精度や信頼性等に熱的な悪影響が及ぶ点においては同じであり,この問題
は,放熱フィンを備えたシャフト型であろうとフラット型であろうと共通した課題
である。
(ウ)阻害要因の不存在
前記のように引用例2において,コイルから発生された熱が,載置部材7,すな
わち,テーブルに伝達されてしまうという課題が主たる課題として挙げられている。
そして,このような課題は,上記(イ)でも述べたように,引用例1においても,同様
にいえることである。したがって,その課題を解決するために,引用発明2を引用
発明1に適用することはごく普通に行われることであり,そこには何らの阻害要因
も存在しない。
エ相違点3の容易想到性についての判断の誤りの主張に対し
断熱のために断熱ワッシャーを用いることは周知である。
乙B32の1(株式会社ミスミのカタログ「FA用メカニカル標準部品」)には,
本件発明2のようなアクチュエータ等の適用分野であるFA(FactoryAutomation)
に用いられる「標準部品」としての断熱ワッシャーが記載されている。このFA用
メカニカル標準部品カタログは,特定の技術分野の当業者のみが見るような性格の
ものではなく,およそ工場の自動化のために何がしかの開発・設計を行おうとする
事業者であれば,様々な技術分野の当業者が当然のように利用する標準的な性格の
ものである。このFA用メカニカル標準部品カタログは,本件特許2の出願以前に
広く日本全国の一般の企業に頒布されていた通信販売用のカタログであり,これに
断熱ワッシャーが標準部品として掲載され,日本全国にわたってごく普通に販売さ
れて使用されていたのである。乙B32の1の「使用例」の図(491頁)には,
上側の鉄材と断熱板と下側の鉄材の3部材をボルトとナットにより一括に締結・固
定するとともに締結部材であるナットと鉄材との間に断熱ワッシャー(EPOW)
を介装させた構成が開示されており,これは構成要件2-F,すなわち,「上記テ
ーブル及び断熱プレートが一括に締結部材により上記可動ブロックに連結され,そ
の締結部材と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装されてい
る」なる構成に相当し,そのような技術が周知であったことは明らかである。
断熱ワッシャーについては,先行技術文献として,多数の特許,実用新案公報が
存在する(乙B32の2~9)。これらには,国際特許分類のセクションを本件発
明2と同じBセクション(処理操作;運輸)とするものはもとより,Aセクション(生
活必需品),Eセクション(固定構造物),Fセクション(機械工学;照明;加熱
;武器;爆破),Gセクション(物理学)といった様々なセクションに属するもの
が含まれており,実に多様な分野において,断熱ワッシャーそのもの,及び構成要
件Fのような,締結部材と各種部材(構成要件2-Fにおけるテーブルに相当)と
の間に断熱材からなる断熱ワッシャーを介装した使用例が,ごく一般的なものとし
て周知であったことが明白に示されている。
オ引用例1の公知時期の判断についての誤りの主張に対し
(ア)別紙2(その公知性は明白である。)に,本件発明2-1における構成要件
2-A,2-B,2-C,2-E,2-G1がそのまま記載されているのであり,
別紙3,4の補強を待たずとも,本件発明2-1における上記各構成要件が公知で
あったことは明らかである。
(イ)別紙3,4の公知性に関して
別紙3,4の公知性は,A供述書から明らかである。原告は,B供述書を提出し
てA供述書の信用性を否定しようとするが,Bは極めて瑣末な点のみ取り上げてA
の供述を弾劾しようとしているだけであり,A供述書に示されたスラストチューブ
・リニアサーボモータ製品の構造や関係資料の内容,それらの公知時期に関する具
体的内容等,最も重要な点について何らの指摘もしていないのであって,これらの
本件において最も重要な事実は厳然として揺らぐことがない。原告は,Bの新たな
宣誓供述書(甲56)を提出しているが,Bは,別紙3(DR00001),別紙4(DR00002)
について,いかなる事実も供述していない。
第4当裁判所の判断
1当裁判所も,①イ号製品は本件発明1の技術的範囲に属するとは認められ
ず(構成要件1-B,1-D,1-Fを充足しない),②本件特許2は,特許無効
審判により無効とされるべきものと認めるから,特許法104条の3により,控訴
人は本件特許権2を行使することができないと判断する。その理由は,次に訂正,
付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第4記載のとおりであるから,これ
を引用する。
2(1)原判決62頁19行「コントローラに接続される」から24行末尾まで
を,「コントローラに接続される複数のロボットの軸数,組合せ等に変更があった
場合にも,対応関係の設定を変更することによって,これに応じて変更された処理
内容でロボット単位での制御が自動的に行われるようにしておき,移動命令が入力
されると,駆動対象として指定されたロボットの駆動軸に対応するドライバーとそ
の処理内容が対応関係から求められ,移動命令に適合した制御が行われるようにし
たものである。」と訂正する。
(2)同68頁下から7行冒頭から69頁5行末尾までを,次のとおり訂正する。
「本件明細書1の実施例では,ドライバーとロボット軸との対応関係を変更可能に
設定する手段として分配設定手段が挙げられている。分配設定手段は,あらかじめ
記憶されている対応関係を示すデータ(ドライバーとロボット軸との組合せについ
てのデータ)を設定することにより,ADFを通じて,各ドライバーについて,ど
の軸を動かすか,あるいは動かさないかを振り分ける(分配する)ものである。コ
ントローラに接続される複数のロボットの軸数,組合せ等に変更があった場合でも,
分配設定手段の設定の変更を通じてADFの書き換えを行うことで,当該組合せに
応じた適切な処理が行われることになる。
もっとも,構成要件1-Bでは,ADFを前提とする「分配設定手段」ではなく「設
定手段」との文言が使用されており,設定の対象となるデータは,「分配」すなわ
ち「どのドライバーがどのロボット軸を動かすか」を示すデータには限定されてい
るわけではない。」
(3)同70頁3行「組合せ等に変更があった場合にも」から4行の「これに応じ
た調整が自動的に行われ」を,「組合せ等に変更があった場合にも,対応関係の設
定を変更することによって,これに応じて変更された処理内容でロボット単位での
制御が自動的に行われるようにし」と訂正する。
(4)同70頁11行から12行の「これに応じた調整が自動的に行われる」を「こ
れに応じて変更された処理内容でロボット単位での制御が自動的に行われる」と訂
正する。
(5)原判決75頁末行から78頁13行末尾までを,次のとおり訂正する。
「(ア)カタログ図面(乙B2の別紙2)
別紙2には,次の記載がある。
「ThrustTubeモジュール
ThrustBlock製品群
左右対称のデザインのThrustTubeリニアサーボモータが,ThrustTubeモジュール
という名の単軸デザインに組み込まれています。
この無骨ですが高性能のプラットホームは,主流となっている工業オートメーシ
ョンの世界にリニアモータの卓越した性能をもたらします。
ThrustTubeモジュールをいくつか組み合わせXYガントリソリューションを構成
することが容易にできます。高い再現性とスループットを求めるユーザーにとって,
ThrustTubeモジュールは,現在市販されているリニアモータステージソリューショ
ンの中では最も費用対効果の高いものです。
実績のある単軸構成に基づくThrustTubeモジュールは,ボールネジモジュールや
空気圧アクチュエータ,ベルト駆動アクチュエータなどの従来技術に替わる魅力的
な選択肢でもあります。
ThrustTubeモジュールファミリーは,市販のリニアモータステージとしては最も
網羅的な製品群であり,高速送風機や高精度ユニット,食品,ウェットクリーンル
ーム用途に対応した特殊環境用のユニットなどを備えるモジュール構成を取り揃え
ています。
ThrustTubeモジュール製品は,頑強な押出アルミチャンネルに特許を取得した
ThrustTubeモータ部品を搭載し,簡便に使用できる動作軸を実現しています。モー
タは,電気的には標準的なブラシレス駆動装置と同じであり,様々な従来型サーボ
駆動装置から給電を受けることができます。
モジュールには,25mmと38mmの2種類の基本サイズのスラストロッドを
ベースに供給され,個別の用途に応じて4種類のサイズのスラストブロックが用意
されています。用途によっては,鉄製スリーブ芯を用いた強力オプション(TBX)
を使用すれば,幾分ぐらつくようにはなりますが,使用できる力を大きくすること
ができます。
ThrustTubeモジュールは,スラストブロックと,迅速かつ確実な締め付けを可能
にするT字溝を備える取付バーの3面を用いて容易に設置でき,ブロック自体は,
使いやすさを最高にするために合わせ穴を用いた直接的な積載重量配分を特徴とし
ています。現場交換可能なロボットケーブルにより,更に生産停止時間や所有コス
トが節約できます。
一体型として組み込まれたエンコーダや,整流,配線およびケーブル管理用のオ
プションと,対応した増幅器と駆動装置があれば,このすぐに使えるパッケージが
完成します。互換性のあるホール効果ボードを使用すれば,この汎用モジュールは
ほとんど全てのサーボ増幅器とともに使用することができます。」
(イ)また,別紙2には,リニアモータ(ThrustTubeModules)の構造(M25タ
イプ)につき,「ThrustTubeMデザインの長所」と題する斜視図(別紙図面2の
【斜視図】参照。以下「【斜視図】」という。)及び寸法付き断面図(同【断面図
】参照。以下「【断面図】」という。)が記載されている。
【斜視図】からは,スラストチューブモジュール(ThrustTubeModules)は,両
端部に板状部材が設けられ,その間を下部の基台と円柱状の永久磁石を含む磁石ロ
ッド(MagneticThrustRod)で連結され,軸方向に移動するスラストブロック(Thrust
Block)に完全密閉コイル(FullyEnclosedCoils)が備えられていることが把握で
き,また,【断面図】からは,密閉コイルは磁石ロッドを取り囲むように配置され
ているものであることが分かり,技術常識に照らしてみれば,このような構造から,
このスラストチューブモジュールは,密閉コイルに流された電流により,密閉コイ
ルと磁石ロッドとの間に推力(thrust)が発生するものであることが明らかであり,
永久磁石を含む磁石ロッドは,磁石を軸方向に配列したものであると認めることが
できる。さらに,スラストブロックの位置検出のために,基台にはエンコーダース
ケール(EnclosedEncoderScale)が設けられ,他にホール素子(IntegralDigital
orAnalogueHallEffectPCB)が存在すること,及び,「ThrustTubeM技術仕様」
と題する表には光学式又は磁気式エンコーダが示されていることから,スラストブ
ロックには,エンコーダースケールと対向するエンコーダーが設けられていること,
エンコーダーの機能からして,スラストブロックの移動方向に沿って設けられてい
ることを把握することができる(ただし,エンコーダーがスラストブロックの正面
に配置されているか,右側側方に配置されているかは明らかではない。)。そして,
スラストブロックの上方には,機器支持面「一体型の「T」字溝と合わせ穴を備え
た搭載面(MountingSurfacewithIntegral'Tee'slotsandDowelHoles)」が
形成されている。このスラストブロックには,一体冷却フィン(IntegralHeatsink
Fins)が形成されており,【断面図】に照らしてみれば,一体冷却フィンはスラス
トブロックの両側に存在することが見て取れる。
加えて,上記各図面に示されたものがリニアモータ式単軸ロボットであることを
前提とすれば,技術常識に照らし,永久磁石ロッドと平行に配置されたリニアガイ
ドとが設けられ,スラストブロックは,リニアガイドに摺動可能に支持されて上記
本体に対して一定方向に直線的に移動可能であると理解することができる。上記各
図面にはリニアガイドは明示されていないが,リニアガイドを設けることのできる
箇所は基台のほかにはなく,その観点から【断面図】を見れば,基台部分にリニア
ガイドと認められる断面形状が見て取れ,リニアガイドが存在するものと認めるこ
とができる。
(ウ)開示内容
上記(ア)の記載及び(イ)の図示から,別紙2には,
「ロボット本体と,該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能なストラ
ストブロックを備え,
上記ロボット本体には,永久磁石を軸方向に配列した円柱状の永久磁石ロッドと,
この永久磁石ロッドと平行に配置されたリニアガイドとが設けられ,
上記スラストブロックは,上記永久磁石ロッドを取り囲む密閉コイルを装備して,
上記リニアガイドに摺動可能に支持され,その上面が機器支持面がであるスラスト
ブロックが設けられているスラストチューブモジュールであって,
上記スラストブロックには,その一側部に,ロボット本体側に設けられたスケー
ルを読取るためのエンコーダーが配置されるとともに,このエンコーダー配置側及
びその反対側の側面部に,一体冷却フィンが形成されている
ことを特徴とするスラストチューブモジュール。」
が記載されていると認められる。
そして,本件発明2-1と別紙2に記載された上記発明とを比較すると,後者
の「スラストブロック」は,前者の「可動部材」に,後者の「永久磁石ロッド」は,
前者の「ステータ部」に,後者の「密閉コイル」は,前者の「コイル」に,後者の「一
体冷却フィン」は,前者の「放熱フィン」に,後者の「エンコーダー」は,前者の「ヘ
ッド」に,それぞれ相当することは,これらの構成要件の作用・効果から明らかで
ある。」
3控訴人の当審における主張に対する判断
(1)本件特許権1に基づく請求について
ア構成要件1-F充足性につき
(ア)控訴人は,原判決には前記第3の2(1)イ(イ)a~dの4点の誤りがあると
し,イ号製品は「移動命令を判別して駆動対象に対応するドライバーを選定する
移動命令判別手段」を有しているから,構成要件1-Fを充足すると主張する。
(イ)本件発明1の作用効果は,誤入力が生じやすい軸別の移動命令ではなく,
駆動対象をロボットとする移動命令を用いて,複数のロボットを制御することに
ある(本件明細書1【0006】,【0010】)。したがって,本件発明1の「移
動命令判別手段」の技術的意義は,駆動対象をロボットとする移動命令から,ロ
ボットに対応するドライバーを選定するところにあると認められる。
これに対し,イ号製品のMOVP命令は,前記認定(原判決第4の2(4))のと
おり,「ポジションNO.によって指定されるポジションデータに従って,所定
の軸をポイント・トゥ・ポイント(PTP)移動させよ」という命令であり,駆
動対象となる軸が決定されれば,それに対応するドライバーは一義的に特定され
るものであり,ドライバーを選定する必要がない。したがって,イ号製品は,構
成要件1-Fを充足するとはいえない。
(ウ)控訴人主張のa,c,dに対し
本件発明1では,MOVE1等の移動命令に,ドライバーを一義的に特定する
情報は何ら含まれていないのに対して,イ号製品のMOVPの移動命令は,命令
中にポジションNO.の情報を含んでおり,そのことにより,ポジションNO.
毎にあらかじめ値が定められた軸(ドライバー)を特定することとなるから,ポ
ジションNO.自体がドライバーを一義的に特定する情報に等しいものである。
そして,MOVPの移動命令が,単独では用いることができない移動命令であれ
ば格別,単独で用いられるものである以上,かかる移動命令は,本来,ドライバ
ーを選定するための判別手段を備える必要がない性質の命令といえる。
また,有効軸パターンやGRP命令は,かかるMOVP命令がされることを前
提として付加的に用いられるものであって,MOVPなどの移動命令において一
義的にドライバーが特定されることを前提とするものであるから,それらの命令
によって付加的にドライバーを選定する(ここでいう選定は,特定されたドライ
バーの一部を有効としないという消極的な意味での選定である。)だけのものに
すぎない。
控訴人の主張は,一般的な意味合いにおいて,イ号製品がドライバーを「選定
する」,「照合する」又は「判別する」ものであるという説明をしたにすぎず,
イ号製品が,本件発明1のMOVE1等の移動命令のように,ドライバーを一義
的に特定する情報が含まれていない命令を前提として,すなわち,本件発明1の
構成要件1-C,1-Eを前提とする構成要件1-Fの「ドライバーを選定する
移動命令判別手段」を備えるものであるとする根拠を示したものではない。
(エ)控訴人主張のbに対し
控訴人は,イ号製品においてMOVP命令が軸毎の個別指定であるとの原判決
の事実認定が誤りであると主張するが,前記したとおり,ポジションNO.を介
してはいても,ポジションNO.自体がドライバーを一義的に特定する情報に等
しいものであるから,MOVP命令は軸毎の個別指定をするものであることに変
わりはない。原判決に控訴人主張の認定誤りはない。
(オ)以上のとおり,控訴人の主張は,いずれも採用することができない。
イ構成要件1-B充足性につき
(ア)控訴人は,イ号製品の,全軸共通パラメータ,軸別パラメータ,エンコーダ
パラメータ及びドライバーカードパラメータは,構成要件1-Bにおいて設定され
るべきデータ,すなわち,実際に軸の付け替えが行われ,どのドライバーがどのロ
ボット軸を動かすかの対応関係が変更になった場合に,そのデータを設定すること
により,変更後の軸に係る処理内容が判明し,これに応じた処理が適正に行われる
ためのデータであり,イ号製品は構成要件1-Bを充足すると主張する。
(イ)本件発明1は,「コントローラの各ドライバーと複数のロボットの各ロボッ
ト軸との対応関係を固定的に設定しておくだけでは汎用性に乏しく,制御する複数
のロボットの軸数,組合せ等が種々変わった場合にも汎用することができるように
することが望ましいが,ドライバーと各ロボット軸との対応関係の調整,処理内容
の調整等が難しい」(本件明細書1【0006】)という課題を解決し,「1つの
コントローラで複数のロボット軸の制御を適切に行うことができ,かつ,ロボット
の軸数,組合せ等が種々変わった場合の汎用性に富む複数ロボットの制御装置を提
供することを目的と」(同【0007】)し,本件発明1の構成を採用することに
より「準備段階で上記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係が設定され,コン
トローラに接続される複数のロボットの軸数,組合せ等に変更があった場合は,こ
の設定において対応関係が調整される。そして,上記移動命令が入力されると,駆
動対象として指定されたロボットの駆動軸に対応するドライバーとその処理内容が
上記対応関係から求められ,移動命令に適合した制御が行われる」(同【0010
】)ようにし,「コントローラに接続される複数のロボットの軸数,組合せ等が変
わった場合にも,それに応じた調整が上記対応関係の設定によって行われることに
より,適切な制御を行うことができる。また,とくに,移動命令入力等の操作を簡
単にしつつ,複数のロボットの制御を適切に行うことができる」(同【0045】)
との作用効果を奏するものである。
したがって,構成要件1-Bの「対応関係」は,そのデータを用いて,駆動対象
となるロボットから対応するドライバーを求めることができるものを意味すると解
すべきである。
(ウ)他方,イ号製品の各種パラメータは,前記(引用に係る原判決第4の3(1)
イ)のとおり,駆動対象となる軸が変わった場合,これらのパラメータの数値を適
切なものに変更して初めて駆動対象となった軸を適切にコントロールすることがで
きるものであり,駆動対象となるロボットから対応するドライバーを求めることが
できるものではない。したがって,イ号製品は,構成要件1-Bを充足するとはい
えず,控訴人の上記主張は理由がない。
ウ構成要件1-D充足性につき
(ア)控訴人は,イ号製品は,各ドライバーと各駆動軸との対応関係に応じて記憶
されている複数種類の各軸関連パラメータの中から,選定されたドライバーと当該
ドライバーが駆動する駆動軸とに対応する1つの各軸関連パラメータを自動的に選
択して決定しているから,イ号製品には「情報処理としての何らかの決定行為は存
在しない」とした原判決の判断には明白な誤りがあり,イ号製品は,各ドライバー
と各駆動軸との対応関係に応じてドライバーの処理条件を決定する処理条件決定手
段を有するので,構成要件1-Dを充足すると主張する。
(イ)構成要件1-Dは,構成要件1-Bにより各ドライバーと複数のロボットの
各駆動軸との対応関係が変更されることがあるので,各ドライバーと各駆動軸との
対応関係毎に定められたドライバーの処理条件の中から適切な条件を決定するとい
うものであり,ここにいう「処理条件」とは,ドライバーと駆動軸との対応関係に
応じて1対1に定められるものである。
(ウ)他方,前記認定(引用に係る原判決第4の2(3),(4))のとおり,イ号製品
において,駆動軸の移動は,駆動軸毎の移動位置及びその駆動軸を動かすときの速
度,加速度,減速度の情報から成るポジションデータを,移動命令であるMOVP
命令で選択することにより行われ,そのポジションデータは,あらかじめユーザが
決定し,記憶部に記憶されるものである。したがって,イ号製品においては,「処
理条件」はドライバーと駆動軸との対応関係に応じて1対1に定められるものでは
なく,また,「処理条件決定手段」も存在しない。
よって,イ号製品は,構成要件1-Dを充足するとはいえず,控訴人の上記主張
も理由がない。
エ以上のとおり,イ号製品は構成要件1-B,1-D,1-Fを充足しないと
した原判決の判断に誤りはなく,そうである以上,その余の構成要件についての控
訴人の主張(例えば,構成要件1-Eの充足性又は均等論)について判断するまで
もなく,控訴人の本件特許権1に基づく請求に理由がないことは明らかである。
(2)本件特許権2に基づく請求について
ア本件発明2-1の要旨認定を誤ったことに伴う相違点2(ヘッド配置側の側
面部における放熱フィンの有無及び数)に関する判断の誤りの主張につき
(ア)控訴人は,クレームの構文解釈あるいは本件明細書2の図面に照らせば,本
件発明2-1の構成要件2-Eは,ヘッド配置側の側面部において多数の放熱フィ
ンが存在していないことを示していると当業者であれば極めて自然に理解できるか
ら,本件発明2-1の要旨について「ヘッド配置側に放熱フィンを形成する構成を
排除しているとはいえない」すなわち両側フィン構成も含まれるとした原判決の判
断には誤りがあると主張する。しかしながら,控訴人の主張は,採用することがで
きない。その理由は以下のとおりである。
(イ)本件発明2は片側多数フィン構成を採用するものとの主張につき
a本件明細書2の記載を検討すると,特許請求の範囲の【請求項1】に「上記
可動ブロックには,その一側部に,ロボット本体側に設けられたスケールを読取る
ためのヘッドが配置されるとともに,このヘッド配置側とは反対側の側面部に,多
数の放熱フィンが形成されている」,発明の詳細な説明の対応する部分である【0
007】に「【課題を解決するための手段】/本発明は,ロボット本体と,該ロ
ボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え,上記ロボッ
ト本体には,永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と,このステー
タ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ,上記可動部材には,ステータ
部を囲繞するコイルを装備して,上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブ
ロックと,この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けられ
ているリニアモータ式単軸ロボットであって,上記テーブルが上記可動ブロックに
対し,両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されており,
上記可動ブロックには,その一側部に,ロボット本体側に設けられたスケールを読
取るためのヘッドが配置されるとともに,このヘッド配置側とは反対側の側面部に,
多数の放熱フィンが形成されているものである。」(/は改行を示す。),【00
22】に「……上記可動ブロック15の側面部には多数の放熱フィン30が形成さ
れている。」と記載され,【図2】(別紙図面1参照。本件発明2の一実施形態に
よる短軸ロボットの横断面図)の符号30に放熱フィンが図示されていることが認
められるが,その以外には放熱フィンに関する記載は見当たらない。
本件明細書2の【図2】には,ヘッド21配置側とは反対側の側面部にのみ放熱
フィンが図示されているが,同図については,リニアモータ式単軸ロボットの縦方
向のどの部分における横断面図であるかの指摘がない。【図2】には,ヘッド21
の断面図が描かれており,【図1】(別紙図面1参照。本件発明2の一実施形態に
よる短軸ロボットの縦断面図)では,中央部分にヘッド21が記載されているから,
ヘッド21を含む部分の横断面図であると認められるが,ヘッド21を含む部分は,
全体からみれば僅かな部分にすぎない(ヘッド配置側の側面部の全長にわたって,
多数の放熱フィンが形成されていないとは必ずしもいえない。)。したがって,【
図2】の記載からは,ヘッドが設置されている側の側面部における,放熱フィンの
有無や数を特定することはできない。このように本件明細書2にほとんど説明がな
い「放熱フィン」の構成について,これらの記載に接した当業者が,【図2】の上
記図示から,ヘッド配置側の側面部において多数の放熱フィンが存在していないこ
とを読み取ることはできないというべきである。控訴人は,製図法における全断面
図の性質(全断面図は,当該製品の基本的な形状を表わす性質のものである。)等
から【図2】の断面構造は可動部2全体に共通の構成であると理解できる旨主張す
る。願書に添付すべき図面について,本件特許2の出願に適用される平成14年法
律第24号による改正前の特許法36条2項について定める特許法施行規則25条
は,様式30により作成しなければならないと規定し,様式30〔備考4〕は,「原
則として製図法に従って……描くものとし……」と規定し,〔備考9〕は,「図中
のある個所の切断面を他の図に描くときは,一点鎖線で切断面の個所を示し,その
一点鎖線の両端に符号を付け,かつ,矢印で切断面を描くべき方向を示す。」と規
定するが,同図について切断面の個所の指摘がないことは上記のとおりである。控
訴人は,【図2】は,その断面奥が片側多数フィン構成となっていると見るべきで
あり,これは断面部分のみならずその奥部分まで描かれるという断面図の性質から
導かれる帰結であると主張するが,控訴人が引用するJIS製図法等においても断
面奥部分の図示が省略されることがあるから,控訴人の上記主張は採用することが
できない。本件明細書2には,【図2】の断面構造が可動部2全体に共通の構成で
ある旨の記載はなく,【図2】から控訴人主張の構成を把握することはできない。
b控訴人は,構成要件2-Eは,そのクレームの構文からして,ヘッド配置側
の側面部において,放熱フィンが存在しないか又は形成される放熱フィンが多数で
はないことを要求していると主張する。しかしながら,構成要件2-Eには,「ヘ
ッド配置側とは反対側の側面部に,多数の放熱フィンが形成されている」との記載
はあるが,ヘッドが配置された「一側部」に放熱フィンが形成されているかどうか
については記載がなく,また,本件明細書2の発明の詳細な説明における放熱フィ
ンに関する唯一の実施例の記載である【0022】にも,「可動ブロックの側面部
に多数のフィンが形成されている」と記載されているだけであり,ヘッド配置側と
は反対側の側面部のみとは限定していないのであるから,構成要件2-Eの文言か
ら,「ヘッド配置側の側面部において,放熱フィンが存在しないか又は形成される
放熱フィンが多数ではないこと」を読み取ることはできない。
c以上検討したところによれば,構成要件2-Eは,ヘッド配置側の側面部に
おいて多数の放熱フィンが存在していないことを示しているということはできず,
原判決の本件発明2-1の要旨認定に誤りはない。
(ウ)引用例1は構成要件2-Eを開示するものではないとの主張につき
別紙2の開示内容については,前記2(5)で訂正した(ウ)記載のとおりであり,別
紙2には「スラストブロック(可動ブロック)には,その一側部に,ロボット本体
側に設けられたスケールを読取るためのエンコーダー(ヘッド)が配置されるとと
もに,このエンコーダー配置側,及び,その反対側の側面部に,一体冷却フィン(放
熱フィン)が形成されている」ことが記載されているといえるから,構成要件2-
Eを開示するものと認められる。控訴人の主張は採用することができない。
(エ)本件発明2の顕著な作用効果の主張につき
控訴人は,本件発明2-1には構成要件2-D,2-Eによる顕著な作用効果が
あると主張する。しかし,引用発明1が構成要件2-Eを備えていることは上記(ウ
)のとおりであり,構成要件2-Dに係る相違点1が当業者に容易想到であることは
後記ウのとおりであるから,その作用効果も当業者が予想し得る範囲内のものであ
る。
イ訂正の再抗弁に関する判断の誤りにつき
控訴人は,前記第3の2(2)イ「本件発明2-1の要旨認定を誤ったことに伴う相
違点2(ヘッド配置側の側面部における放熱フィンの有無及び数)に関する判断の
誤り」に主張するとおり,本件明細書2の【図2】には,可動ブロックのヘッド配
置側の側面部に多数の放熱フィンが形成されていない構成が示されており(少なく
とも自明である。),本件訂正事項2は,願書に添付した図面に記載した事項の範
囲内の訂正(特許法126条3項)といえ,新規事項の追加には当たらないと主張
する。
しかしながら,【図2】から原告主張の構成を把握することができないことは上
記ア(イ)に説示したとおりである。したがって,本件訂正事項2について,本件特許
明細書等に記載した事項の範囲内のものであるということはできず,本件訂正は特
許法126条3項の要件を満たしていないとして訂正の再抗弁を否定した原判決の
判断に誤りはない。
ウ相違点1の容易想到性についての判断の誤りにつき
(ア)控訴人は,引用発明1と引用発明2は,その構成が異なっており,そのため
に,発熱・伝熱・放熱等に関する具体的課題等も相違しているとして,相違点1に
ついて,引用発明1に引用発明2を適用することによって容易に想到可能とした原
判決の判断は,具体的技術分野や課題,具体的構成の違い等を捨象し,阻害要因を
看過したもので,誤りであると主張する。
しかし,控訴人の主張はいずれも採用することができない。その理由は,以下の
とおりである。
(イ)技術分野の共通性欠如の主張につき
控訴人は,技術分野の共通性が欠如するとして,引用発明1と引用発明2とは,
駆動源となる磁界発生機構がシャフト型とフラット型とで全く異なっており,これ
ら磁界発生機構の相違に起因して,具体的構成を異にしているので,抽象的な技術
分野,作用・機能の共通性のみをもって組合せ容易性を導くことはできないと主張
する。
しかし,引用発明1と引用発明2とは,いずれもリニアモータ式単軸ロボットで
あり,スラストブロックに直接又はテーブル等を介して間接的に機器等を搭載し,
機器等を移動させる装置である点で差異はないので,熱伝達経路に違いはあるとし
ても,スラストブロックから機器等に伝わる熱の遮断を論じる限りにおいては,そ
の磁界発生機構の型式がいずれであるか,両者を組み合わせるに当たって問題とは
ならない。したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(ウ)課題の共通性欠如の主張につき
控訴人は,引用発明2は,あくまでフラット型の移動体システムにおける熱伝導
を問題とするものであり,引用発明1のシャフト型では多数の放熱フィンによって
放熱することができるが,引用発明2のフラット型では構造上放熱フィンを形成す
る余地がないこと,引用発明1はテーブルが記載されておらず,どのような部材が
載置されるのか,熱に弱い精密機械が載置されるのか判然としないこと,引用発明
1においてはスラストチューブには両側面部に多数の放熱フィンが形成されてお
り,これによって上部への熱伝導が十分に抑制されていることなどから,引用発明
1に引用発明2の適用はできない旨主張する。
しかし,スラストブロックに直接機器を搭載するか,テーブルのような汎用性あ
る別の部材を介して機器を搭載するかは,当業者が設計上想定する範囲内で行われ
る設計事項にすぎない。そして,引用発明1は,「モジュール」すなわち部分品と
して製造され,様々な機器に組み込まれて使用される装置であることを前提とすれ
ば,熱に弱い精密機械が載置されることを排除するというのは不合理である。さら
に,スラストブロックに放熱フィンが形成されていても,金属材のように熱伝導性
の良い材料から構成された機器を取り付けた場合には,スラストブロックから大気
に熱が伝達されるとともに,機器に熱が伝達されることは避けられず,その場合,
必要に応じて,機器への熱の伝達を遮断する措置を講じることは当業者が当然想定
していることといえる。したがって,引用発明1においても,引用発明2を適用す
る動機づけはあるといえ,原告の上記主張は理由がない。
(エ)阻害要因の主張につき
控訴人は,引用発明1に引用発明2の断熱プレートを適用した場合,スラストチ
ューブの上部への伝熱は遮断され,軌道への熱伝導が増大してしまうから,両者を
組み合わせることについては阻害要因が存在すると主張する。しかし,引用発明2
においては,コイルにより発生された熱が軌道に伝達されるという課題以前に,コ
イルから発生された熱が,載置部材7すなわちテーブルに伝達されてしまうという
課題が主たる課題として挙げられ,このような課題は引用発明1においても同様に
いえることであるから,その課題を解決するために引用発明2を引用発明1に適用
することは動機づけがあるというべきである。そして,引用発明1においてコイル
から発生した熱が軌道に伝達されることについては,放熱フィンからの放熱により
軽減されるのであるから,阻害要因とはならないものと認められる。
また,控訴人は,引用発明1では,引用発明2を適用して上部への放熱を遮断す
ると,放熱フィンからの放熱による雰囲気温度の変化がヘッドの検出精度に悪影響
を与えるといった弊害が生じるとも主張する。しかし,かかる雰囲気温度の変化が
悪影響とされるか否かは,様々な設計条件に依存し,抑制又は阻止することが必ず
必要とされるものともいえない。
以上のとおりであるから,引用発明1に引用発明2の断熱プレートを適用するこ
とにつき阻害要因があるということはできない。
(オ)以上検討したとおり,引用発明2の支持構造を引用発明1において採用する
動機づけがあり,両者を組み合わせることにつき阻害要因があるということはでき
ない。
したがって,相違点1について引用発明2を適用することによって容易想到とし
た原判決の判断に誤りはない。
エ相違点3の容易想到性についての判断の誤りにつき
(ア)控訴人は,相違点3の「断熱ワッシャー」は慣用技術ではないから,これを
慣用技術として相違点3の容易想到性を肯定した原判決の判断は誤りであると主張
する。
(イ)刊行物2(乙B1の10)に「さらに,可動板16と金型保持部材17とを
接続固定するボルト25にも断熱ワッシャー26を介在させることにより,このボ
ルト25を伝わる熱も遮断することができ,可動部19の温度上昇をより確実に防
止することができる。」(【0014】)と記載されていることは,前記認定(引
用に係る原判決第4の4(2)イ)のとおりである。また,刊行物4(乙B1の12)
には,「構体パネル1とラジエイタパネル2を断熱する断熱構造において,基体と
しての構体パネル1と,スペーサとしての断熱カラー3と,長穴2aを有するラジ
エイタパネル2と,断熱ワッシャ4とを,この順で重ね,棒状締結手段としてのボ
ルト5で締結した断熱構造。」が示されており(【請求項1】【0014】【図1
】~【図6】),そこでは,ボルトにより締結した構体パネルとラジエイタパネル
の2部材間に生じた熱の伝達経路をボルト頭部とラジエータパネルとの間に断熱ワ
ッシャを用いることにより遮断していることが認められる。そうすると,これらの
刊行物には,ボルトにより締結した部材間の伝熱の遮断という限りにおいて,ボル
トの頭部と接する一側の部材との間に断熱ワッシャーを設ける技術が記載されてい
るということになる。
そして,刊行物2,4のほか,乙B32の1~6によっても,断熱ワッシャーが
様々な技術分野でボルトにより締結した部材間の伝熱を遮断する熱絶縁技術として
技術分野横断的に用いられていることは明らかである。
(ウ)したがって,相違点3の「断熱ワッシャー」を慣用技術であるとして容易想
到性を肯定した原判決の判断に誤りはない。
オ引用例1の公知時期の判断についての誤りにつき
乙B16によれば,別紙2は,遅くとも本件特許の出願前である2002年(平
成14年)9月17日にはURL「www.copleycontrols.com」に「QM0007.pdf」と
いう名称のファイルとして電気通信回線を通じて公衆に利用可能であったことが認
められる。
控訴人は,別紙3,4の公知性について縷々主張するが,別紙2のみから引用発
明1を認定できることは前記2(5)及び引用に係る原判決第4の4(1)ア(エ)のとお
りであるから,別紙3,4の公知性については検討するまでもない。
カ以上のとおり,本件特許2は,特許無効審判により無効とされるべきものと
認めるから,特許法104条の3により,控訴人は本件特許権2を行使することが
できず,その余の控訴人の主張について判断するまでもなく,控訴人の本件特許権
2に基づく請求は理由がない。
4結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する請
求をすべて棄却した原判決は相当であり,控訴人の本件控訴は理由がないからこれ
を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
岡本岳
裁判官
武宮英子
(別紙図面)
1本件特許2の図面
【図1】
【図2】
2引用例1aの図面
【斜視図】
【断面図】

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛