弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 愛媛県宇摩郡新宮村に対し、被告らは各金員の限度で連帯して、被告Aが金七
七二万五〇〇〇円、被告B、被告C、被告D、被告E及び被告Fが各金一五四万五
〇〇〇円、被告Gが金一五四五万円並びにこれらの各金員に対する平成九年八月二
二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告Hに対する訴えを却下する。
三 訴訟費用は、原告らに生じた費用の三分の二と被告A、被告B、被告C、被告
D、被告E、被告F、被告Gに生じた費用を同被告らの負担とし、原告らに生じた
その余の費用と被告Hに生じた費用を原告らの負担とする。
       事実及び理由
第一章 当事者の申立て
第一章 原告ら
一 愛媛県宇摩郡新宮村に対し、被告らは各金員の限度で連帯して、被告Aが金七
七二万五〇〇〇円、被告B、被告C、被告D、被告E及び被告Fが各金一五四万五
〇〇〇円、被告G及び被告Hが金一五四五万円並びにこれらの各金員に対する平成
九年八月二二日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金
員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行宣言
第二 被告ら
一 原告らの被告A、被告B、被告C、被告D、被告E、被告F及び被告Gに対す
る請求を棄却する。
二 原告らの被告Hに対する訴えを却下する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二章 事案の概要等 
第一 事案の概要
 本件は、愛媛県宇摩郡新宮村(以下「新宮村」という。)が、中央石材株式会社
(以下「中央石材」という。)を相手方として、随意契約の方法により観音浄土館
モニュメント(以下「本件観音像」という。)製作工事請負契約(以下「本件請負
契約」という。)を締結し、一五四五万円の公金を支出したことにつき、新宮村の
住民である原告らが、憲法二〇条三項の政教分離原則に違反し、随意契約の制限に
関する法令にも違反する違法な財務会計上の行為に当たると主張して、契約締結当
時の村長承継前被告I。死亡により被告相続人らが受継)、公金支出当時の村長被
告G及び担当課長被告Hに対し、地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二
第一項四号に基づき、新宮村に代位して、それぞれ支出金相当額である一五四五万
円の損害賠償を求めた事案である。
第二 争点の前提となる事実(証拠を摘示した以外は争いのない事実)
一 当事者
1 原告らは、肩書住所地に居住する新宮村の住民であ
る。
2(一) Iは、平成八年八月一日当時、新宮村の村長の職にあった者である。
(二) Iは、平成一二年二月二四日、死亡し、相続により、妻である被告A(相
続分二分の一)、子である被告B、被告C、被告D、被告E及び被告F(相続分各
一〇分の一)が、Iの権利義務を承継した(弁論の全趣旨)。
3 被告Gは、平成五年五月一日から平成八年七月四日まで、新宮村の助役の職に
あった者であり、平成八年八月三〇日以降、新宮村の村長の職にある者である(被
告G)。
4 被告Hは、平成三年以降、新宮村の企画調整課長の職にあり、平成八年八月一
日当時も、同課長の職にあった者である(被告H)。
二 本件公金支出
 新宮村は、「文化いこいの里&高原の里整備事業」(以下「本件整備事業」とい
う。)の一環として、平成八年八月一日、中央石材を相手方として、随意契約の方
法により、代金一五四五万円で本件請負契約を締結し、右の契約の履行として、平
成八年一一月二〇日、五〇〇万円(以下「第一次支払い」という。)、平成九年一
月八日、六〇〇万円(以下「第二次支払い」という。)、同年五月末日までに、四
四五万円の支払い(以下「第三次支払い」という。)をそれぞれ行った(なお、住
民訴訟の対象となる「公金の支出」は、支出負担行為、支出命令、支出という三段
階の各行為を意味するものと解され、本件請負契約に関するこれらの行為を、以下
「本件公金支出」という。)。
三 本件監査請求
 原告らは、平成九年五月一三日、新宮村監査委員に対し、法二四二条一項に基づ
き、本件公金支出についての監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行い、
新宮村監査委員は、同年七月九日、原告らに対し、同条三項一に基づき、監査結果
を通知した(甲六一、六二)。
四 本件訴訟の提起
原告らは、平成九年八月七日、右三の監査結果に不服があるとして、本件訴訟を提
起した。
第三 争点 
一 被告Hに対する訴えの適否
二 憲法の政教分離原則違反の有無(本件公金支出の違法性)
三 随意契約の制限に関する法令違反の有無(本件公金支出の違法性)
四 被告らの損害賠償責任の有無
第三章 争点に対する判断
第一 被告Hに対する訴えの適否
一1 法二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」とは、当該訴訟において
その適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有する
とされている者及びその者から権限の委任を受けるな
どして右権限を有するに至った者をいうと解するのが相当であるから、被告とされ
ている者がこのような権限を有する者に該当しない場合には、その者に対する訴え
は、法により特に出訴が認められる住民訴訟の類型に属しないものとして、不適法
な訴えであると解すべきである(最高裁昭和五五(行ツ)第一五七号同六二年四月
一〇日第二小法廷判決・民集四一巻三号二三九頁参照)。
2 これを被告Hについてみると、本件全証拠によっても、当時、新宮村の企画調
整課長であった同被告が、本件訴訟において違法性が問題とされている本件公金支
出等の財務会計上の行為の全部又は一部について、これを行う権限を法令上本来的
に有していたこと、あるいはこれらの権限を有する者から委任を受けるなどしてそ
の権限を有するに至ったことを認めるに足りる証拠はなく、したがって、同被告に
対する訴えは、不適法といわざるを得ない。
二 なお、原告らは、仮に、被告Hが右にいう「当該職員」に該当しないとして
も、同被告は、地方公務員法三〇条により全体の奉仕者として公共の利益のために
勤務しなければならず、また、法令等に従う義務が課せられ(同法三二条)、憲法
九九条により公務員として憲法尊重擁護義務を負っているにもかかわらず、服務規
律に違反して、本件整備事業の実務責任者として違憲違法な本件請負契約の締結を
積極的に推進し、新宮村に財産上の損害を与えたのであるから、新宮村に対し、雇
用契約上の義務の不履行に基づく損害賠償責任を負い、法二四二条の二第一項四号
後段にいう「怠る事実に係る相手方」に該当するとも主張するが、右のような損害
賠償請求権の代位請求が認められるとすると、地方公共団体の職員が非財務会計行
為によって地方公共団体に損害を与えた場合にも、住民訴訟によって損害賠償請求
権の代位行使が許されることとなり、法が住民訴訟の対象を一定の財務会計上の行
為に限定した趣旨が没却されることになるから、このような代位請求住民訴訟も、
住民訴訟の類型には属しないというべきである。
三 以上によれば、原告らの被告Hに対する訴えは、不適法であり、却下すべきも
のである。
第二 憲法の政教分離原則違反の有無
一 前記争いのない事実、証拠(甲一の1~5、二、三の1~3、 四ないし七、
九の1~4、一〇、一一の1~4、一二、一三、一四の1・2、一五、一六、一八
ないし二八、二九の1~6、三二、三四ないし三六
、三八の1~8、三九ないし五二、五四の1・2、五七の1~9、五八ないし六
二、乙一〇、一一の1・2、一二の1~5、一三の一~8、一四、一五、二〇の2
4~38、二一ないし二七、三二ないし三五、証人J、証人K、証人L、原告M、
被告I(承継前)、被告G、被告H、検証及び調査嘱託の各結果)及び弁論の全趣
旨によれば、以下の事実が認められる(証拠の一部は重ねて認定事実末尾に摘示し
た。)。
1 新宮村の概要等
(一) 新宮村は、愛媛県東部の宇摩郡の村であり、吉野川の支流である銅山川の
中流域にあり、高知県、徳島県に接する。昭和二九年にβとγが合併して成立し、
村名は、平安時代に紀伊国から勧請したという熊野速玉大社(新宮)にちなむ。
茶、タバコ、シイタケの生産や養蚕が主の山村である。近世には土佐藩主が参勤交
代で川之江に出る土佐街道が通じ、馬立には本陣があった(乙三二)。
(二) 新宮村は、平成六年当時、人口約二〇六〇人、高齢者比率(六五歳以上の
高齢者が占める割合)約三二パーセントであり、平成一二年現在、人口約一八六〇
名、高齢者比率約四二パーセントである(甲一五、五〇)。
(三) 新宮村にある主な宗教施設としては、熊野神社、奥之院仙龍寺(四国八十
八カ所霊場第六五番札所三角寺の奥の院)、宝乗寺等があり、村民には、真言宗大
覚寺派の門徒が多い(甲五〇)。
2 本件観音像の現在の設置状況等
(一)(1) 本件観音像は、愛媛県宇摩郡新宮村δ二番耕地七五〇番地一所在の
霧の森観光施設(別紙1の1・2参照)内の「いまはむかしミュージアム」中庭の
池に設置された高さ約六・三メートル、巾約一・七メートル、基壇埋込部〇・七メ
ートル程度の石像であり、印相(手)の位置、組み合せ方等)、持物、台座(仏像
が乗る蓮華、連座)、着衣(天衣、腕釧等)、頭髪、白毫(額にある左に巻いてい
る白い毛)といった点において、伝統的な仏像(特に観音菩薩像)に共通して見ら
れる特徴を有している(別紙1の3参照)(甲一の1~5、四二ないし四四)。
(2) また、「いまはむかしミュージアム」中庭の池には、本件観音像を取り巻
くようにして、「地」・「餓」・「畜」・「阿」・「人」・「天」の各文字が施さ
れた七本(「人」は三本)の石柱が設置され、その横には、楼閣風の建物が存在す
る(別紙1の4参照)(甲一の1~5)。
 右の石柱の文字は、仏教的には、観音菩薩の六道(地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、
人間、天上)抜苦を意識したものと推測される。
(3) なお、本件観音像については、入魂・開眼等の入仏式は行われておらず、
また、浄財箱、蝋燭建て等は設けられていない。
(二) 霧の森観光施設は、馬立本陣跡の東側に隣接し、南側の駐車場のある対岸
とは「観音橋」によって通じており、施設内には「霧の森レストラン」・「茶室聴
水庵」・「霧の森ふれあい館」・「霧の森広場」等が存在する。
 「観音橋」には、相輪を基にデザインした避雷針を兼ねた飾りなどが施され(別
紙1の5参照)、橋の入口には「観音橋」と刻まれた石碑が設置されている。
(三) 「いまはむかしミュージアム」は、「Pものがたり館」・「新宮村郷土資
料展示室くらしとあゆみ」等によって構成され、「Pものがたり館」では、Pが制
作した和紙人形が展示されている。
 右の展示のテーマは、平成一一年五月二五日から同年一二月末日までは、平家物
語を題材にした「観●平家」というものであったが、その後、「今は昔の物語」・
「姫君と恋の物語(源氏物語)・「お伽話しの世界」・「歌舞伎の幻想宇宙」とい
う四つに分類された物語を題材にした「憐●慈愛」というものに変更されており、
「今は昔の物語」においては、観音の利益に関する説話(日本霊異記の「異国の島
からの脱出」、今昔物語の「大蛇に変じた経巻」・「狐の姫君」、古今著聞集の
「蛇を助けて龍宮へ行った男」等)の場面が展示されている(甲五七の1~9、五
八、五九、乙一〇、一四、二六、二七)。
3 本件請負契約締結に至る概括的な経過等
(一) 新宮村新総合計画(前期基本計画)の策定等
(1) 新宮村は、平成三年三月、国及び愛媛県の長期計画等との整合性にも留意
しつつ、「自然と人、人と人の調和と協調のむらづくり」を目指し、今後の行財政
運営の指針となり、行政と村民が一体となって取り組む努力目標となるものとし
て、「新宮村新総合計画ナチュラルビレッジ新宮」を策定した(甲一九、二三)。
 右の新宮村新総合計画は、基本構想、基本計画及び実施計画によって構成され、
基本計画においては、観光資源の開発と整備として、①自然資源の保全、活用、②
歴史的文化財の保全・整備、活用(太政官道や馬立本陣等の保全、活用)、③新し
い観光資源の整備、活用、④観光施設、観光拠点の整備、活用(新宮インターチェ
ンジ周辺における観光センター、駐車場の整備等)、⑤観光特産品
の開発、⑥観光の広域的体系化が挙げられていたが、この段階においては、観音に
かかわる事項が計画内容に取り入れられるようなことはなかった。
 なお、右の基本計画は、平成二年度から平成七年度までを前期計画、平成八年度
から平成一二年度までを後期計画とし、後期基本計画は、前期基本計画終了前に策
定することとされていた(甲一八、一九)。
(2) 新宮村は、新宮村新総合計画を実現するため、自治省が所管する「特定地
域における若者定住促進等緊急プロジェクト」の支援を受けることとし、平成五
年、馬立本陣の復元等を内容とする「平成の新土佐街道整備事業」を申請したが、
愛媛県から計画内容の不十分さを指摘されたことから、再検討を行った結果、平成
六年五月六日、馬立本陣跡前広場周辺に山村文化資源保存伝習施設、生産物直売施
設、多目的広場、野鳥の森等の施設を配置するとともに、塩塚高原にオートキャン
プゾーン及びディキャンプゾーンを設置することなどを内容とする本件整備事業を
「特定地域における若者定住促進等緊急プロジェクト」として申請し、同年九月三
〇日、その指定を受けた(甲五、一四の1・2、一五、二二ないし二五、乙二一、
二二)。
(二) 新宮村新総合計画(後期基本計画)の策定等
(1)ア 新宮村は、「特定地域における若者定住促進等緊急プロジェクト」の推
進に当たり、観光客を寄せ付ける要因を模索していたところ、かねてから新宮村の
集会所等の設計を手掛けていたTOYO設計&地域計画研究所(以下「TOYO設
計」という。)所長であるNから、和紙彫塑家であるPを紹介された(甲二五、五
一、調査嘱託の結果)。
 なお、NとIとは、Nの妹がIの三男と婚姻しているという関係にあった(甲五
四の1・2)。
イ Pは、平成六年四月一九日、新宮村に来村し、同年五月一一日、新宮村の全員
協議会において、Pの制作する和紙人形についての協議がなされた(甲五、七、乙
二一)。
ウ 新宮村は、Pから、O事務所代表で、編集工学研究所所長であるOを紹介され
た。
(2) 新宮村は、平成六年六月ころ、TOYO設計との間で、山村文化資源保存
伝習施設の設計監理等についての委託契約を締結した。
(3) PとOは、平成六年七月二八日、新宮村に来村し、奥之院仙龍寺、熊野神
社、馬立本陣跡、塩塚高原等を視察したが、その際、Oは、四国八十八カ所霊場等
が存在する四国全体の風土、観音浄土信仰を基礎と
した熊野信仰とのかかわり、新宮村の立地条件・自然資源・歴史文化資源等を踏ま
えて、新宮村の谷全体が観音浄土というようなイメージを抱いた(甲七、乙一
五)。
 その後、Pは、Oに対し、制作する和紙人形の内容についての相談を持ちかけ、
その話し合いの中で、観音浄土をテーマに制作するという意向を固めるとともに、
Oとしては、新宮村全体を「観音の村」にして、「新宮村・観音郷」といったイメ
ージで、これを何とか観光資源にすることはできないかと考えるようになった(甲
七)。
(4)ア 新宮村は、平成七年三月一日、松岡正剛事務所との間で、履行期限を同
月二八日まで、委託業務の名称を新宮村開発マスタープラン短期計画業務(本件整
備事業のマスタープラン)、業務委託料を八二四万円とする委託契約を締結した
(甲一三)。
イ O事務所が右の委託契約に基づき立案した「新宮村活性化第一次基本構想」
(以下「O構想」という。)は、新宮村を「観音郷」として、「観音性」を感じさ
せる様々な要素を整備していくことなどを内容とするものであり、その概要は次の
とおりである(甲六)。
(ア) 新宮村活性化計画の概要
 新宮村活性化計画の目的、新宮村活性化計画の方向性 別紙2の1~3参照)
(イ) 「いこいの里」整備計画
 「いこいの里」の概要(別紙2の4~6参照)、「観音浄土館」(別紙2の7・
8参照)、「木の館」、「清水の館」、「石の劇場」、シンボルと環境整備、馬立
本陣改修整備
(ウ) 「高原の里」整備計画
 「高原の里」の概要、「高原の里」諸施設
(エ) 商品、サービス、イベント、デザイン計画
 商品、イベント開発、サービス開発、ビレツジデザイン計画
(オ) 中・長期計画
 中・長期計画の概要、熊野神社改修整備計画、仙龍寺改修整備計画、「4つの出
会いの道」、「観音の里」整備計画(別紙2の9参照)、土佐街道復活プロジェク

(カ) スケジュール
 新宮村活性化スケジュール(別紙2の10参照)、第1フェーズの整備目標、第
2フェーズの整備目標、第3フェーズの整備目標
ウ なお、右(イ)の「観音浄土館」(現在の「いまはむかしミュージアム」)に
ついては、「P氏による観音浄土と観音人形展示をメインとし、あわせて新宮村の
郷土資料展示コーナーももつ。内部空間には池をもち、二階部分に「いこいの里」
を見晴らせる楼閣をもつことで、建物そのものが観音浄土をあらわす構造とな
る。」とされ
、右にいう池については、「P氏観音人形展示ゾーンに囲まれた池を、蓮の花にの
った水月観音にちなみ「水月池(すいげついけ)」と名付け、石を設置し、蓮を育
成し、観音浄土を演出する。石像の水月観音を設置する。」とされている。
 また、右(イ)のシンボルと環境整備においては、「橋や常夜灯などについても
観音をイメージしたデザインを施し、「いこいの里」全体に観音郷にふさわしい景
観を整備していく。」とされ、「駐車場からのアプローチに設置される橋を「観音
橋」とし、まさに観音浄土への入り口をイメージさせる観音の意匠を施す。」など
とされている。
(5) 新宮村の当時の企画調整課長である被告Hは、平成七年三月一〇日、村議
会定例会において、本件整備事業の実施計画に関する議員からの質問に対し、現
在、Oの助言を受けながら、事業内容の見直しを行っているところである旨の答弁
を行った(甲五、二六、乙二一)。
(6) Oは、平成七年四月五日、新宮村中央公民館において、前記(3)の内容
等もまじえた「これからの村づくりの一手法 新宮村の新しい物語づくり」と題す
る講演会を行った(甲五、七、乙二一)。
(7) 新宮村は、平成七年六月ないし七月ころ、「日本人の心のふるさと新宮村
観音郷とはこんなとこ」と題する冊子を作成した(甲三の3)。
 右の冊子は、右(6)のOの講演会の内容等も参考にして作成されたものであ
り、①熊野(和歌山県)と新宮村との結びつき、後記5(七)記載の観音信仰につ
いての説明がなされているほか、②新宮村としても、人々から崇められ尊ばれる観
音に対する思い入れ、観音浄土への憧れを文化的にかつ現代的に置き直し、観音を
感じさせる村づくりをすすめ、「新宮村観音郷」の実現を図っていくなどと記載さ
れている。)
(8) 新宮村は、平成七年八月四日、「重要施策の推進に関する陳情」を行い、
愛媛県知事ほか県三役、自民党県連幹部に対し「観音性」を感じさせる本件整備事
業についての説明を行った(甲五、乙二一、二二)。
(9) 新宮村は、平成七年八月一五日、前記(6)のOの講演会記録冊子を村内
全戸に配付した(甲五、乙二一)。
(10) 新宮村は、平成七年九月一四日、「観音に関する事及び土佐街道に関す
る事について教えて下さい。」と題するチラシを村内全戸に配付した(甲五、乙二
一、二三)。
 右のチラシには、①新宮村としても、Oの「新宮村・観音郷」の提
言を文化的位置付けとして取り上げ、「観音性」を感じさせる様々な要素を整備し
ていく予定であること、②本件整備事業における「文化いこいの里」においては、
観音シンボルに彩られた「いこいの里」の建設を目指し、施設としては、Pの和紙
人形による観音を展示する山村文化資源保存伝習施設を中心に、物産コーナーの施
設、レストラン、茶室、野外円形広場等を予定していることなどが記載されてい
る。
(11) 新宮村では、平成七年一〇月三〇日、村議会臨時会において、文化いこ
いの里橋梁工事請負契約が議決され、また、同日開催された全員協議会において、
O構想に基づいて、「新宮村観音郷」構想についての説明がなされるとともに、T
OYO設計が製作した模型や図面を用いて、「文化いこいの里」の概要についての
説明等がなされた(甲五、二七、乙二一)。
(12) 新宮村は、平成八年三月、「新宮村新総合計画ナチュラルビレッジ新
宮」の後期基本計画(平成八年度~平成一二年度)を策定した(甲二〇、二一)。
 右の後期基本計画は、「前期計画の取り組み状況を顧みつつ、さまざまな社会動
向に対応し、且つ的確な現状分析のうえにたち、村の将来像樹立のための計画」と
されているものであり、その第三編第二章第三節では、「魅力ある観光開発と復興
 日本人のこころの故郷「新宮村観音郷」のうちたて」と題され、基本方針の一つ
として、「新宮村の奥深い歴史文化と豊かな自然とを結び付ける新しい物語とし
て、新宮村を日本人の「こころの故郷」として位置づけ「新宮村観音郷」をたちあ
げ「観音性」を感じさせるさまざまな要素を整備していきます。」などと記載され
ている。
(13) 新宮村では、平成八年七月二四日、「観音橋」開通祝賀式が開催された
(甲三の1・2)。
(三) 本件請負契約の締結等
(一)ア 新宮村では、平成八年四月ころ、山村文化資源保存伝習施設の設計等を
行っているNから、O構想に基づき、同施設の中庭に大きな観音石像モニュメント
を設置する必要があるとの提案があり、同年六月二六日、村議会定例会において、
その事業費として一五〇〇万円が予算化された(甲五、乙二一)。 
イ なお、新宮村の当時の村長であるIは、右の観音石像モニュメントの設置に関
し、政教分離を意識した特段の調査等は行っていない。
(2)ア 新宮村は、当時の村長Iを代表者として、平成八年八月一日、中央石材
との間で、請負代金額
を一五四五万円(消費税四五万円を含む。)として、本件請負契約を締結したが、
その実施要領の概要は、次のようなものであった(甲一〇)。
(ア) 原石仕様 中国福建省花崗岩G六〇三
(イ) サイズ仕様 高さ約六・三メートル、巾約一・七メートル、基壇埋込部
〇・七メートル程度
(ウ) 工期 平成八年八月一日から平成九年二月末日まで
(エ) 検品要領 設計管理者検品は第一回原石採取後、第二回彫刻中間時、第三
回彫刻完成コンテナ船搬入時とする
(オ) その他 モニュメント原型模型の約一五倍とし、提供した模型に準じて彫
刻のこと
イ なお、右のモニュメント原型模型は、TOYO設計が所有する美術品数点の中
から、山村文化資源保存伝習施設のイメージに合致するものとして採用されたもの
であり、また、その後、中央石材は、本社を鳥取県東伯郡に置く株式会社サンセキ
(以下「サンセキ」という。)との間で、更に本件観音像の製作等についての請負
契約を締結しているが、その際、本件観音像を「聖観音」ないし「白衣観音」とし
て発注し、さらに、サンセキは、中国の取引業者に対し、本件観音像を「観音像」
として発注している(甲九の1~4、三五、乙一一の1・2、証人K、証人L、調
査嘱託の結果)。
(3) 新宮村は、平成八年八月ないし一一月ころ、前記(二)(7)と同一の内
容の「日本人の心のふるさと新宮村観音郷とはこんなとこ」と題する冊子を作成
し、対外的に配付したが、これには、後記5(七)記載の観音信仰についての説明
とともに、右(2)ア(オ)のモニュメント原型模型の写真も掲載されている(甲
二)。
4 本件請負契約締結後の概括的な経過等
(一) Iの後任として平成八年八月三〇日に新宮村長に就任した被告Gは、同年
九月二〇日、村議会定例会において、本件整備事業に関し、「文化の推進について
は、観光面においても文化を重視した観音郷の構築をもって積極的に推進してい
く。」などと方針を表明した(甲五、乙二一)。
 なお、同議会においては、山村文化資源保存伝習施設の新築工事請負契約が議決
されている(甲五、乙二一)。
(二) 新宮村(村長被告G)は、平成八年一一月二〇日、中央石材に対し、本件
請負契約についての第一次支払い(五〇〇万円)を行った。
(三) 新宮村は、村長被告Gを代表者として、平成八年一二月二〇日、Pとの間
で、山村文化資源保存伝習施設での観音浄土人形制作業務につ
いて、委託期間を平成一一年六月二五日まで、委託料を四七二五万円として、業務
委託契約を締結した(甲一二)。
(四) 新宮村(村長被告G)は、平成九年一月八日、中央石材に対し、本件請負
契約についての第二次支払い(六〇〇万円)を行った。
(五)(1) 被告Gは、平成九年一月二八日、新宮村議会臨時会において、本件
整備事業に関し、「観音の里」といったイメージを持って開発を促進しているとこ
ろであるなどと説明した(甲二二)。
(2) なお、被告Gは、当初は助役の立場で、O構想を推進するプロジェクトチ
ーム(当時の村長Iや企画調整課長被告Hらも構成員である。)の中心となって本
件整備事業にかかわり、その後、村長に就任して第一次、第二次支払いの支出命令
を発しているが、その間、本件整備事業ないし本件観音像について政教分離の観点
からの検討を加えたことはなかった。
(六) 本件観音像は、平成九年三月中旬ころ、山村文化資源保存伝習施設の建設
現場に搬入、設置された(甲五〇、乙二〇の24~38)。
(七)(1) 新宮村では、平成九年三月二六日、村議会定例会において、同月二
一日付けの愛媛新聞に「新宮村、入札せず石仏発注」と題する記事が掲載されたこ
となどを踏まえて、「文化いこいの里」事業についての集中審議が行われ、その
際、議員から、本件観音像の宗教性に関する質問もなされたが、被告G及び被告H
は、本件観音像は、あくまでも観音をかたどった石像、モニュメントと認識してお
り、また、Oが立案した「新宮村活性化第一次基本構想」が「文化いこいの里」事
業の基本ベースであり、右の構想に宗教的な色彩が出ていることは事実であるが、
この構想を全て実現するわけではないという趣旨の答弁を行った(甲三五)。
(2) 被告Gは、平成九年三月二六日以降、村議会において本件観音像の憲法違
反が問題にされていたことから、行政例規集は調べたが、本件観音像はあくまでも
観光観音であり、観光観音は後記(一〇)(1)・(2)の行政解釈においても憲
法に違反しないとされているとして、それ以上特段の検討は加えなかった。
(八) 原告らは、平成九年五月一三日、新宮村監査委員に対し、法二四二条一項
に基づき、①本件観音像の発注価格の正確で詳細な内訳と妥当性の確認、②本件に
おいて随意契約ではなく入札を実施しなかった理由等、③本件観音像が憲法二〇条
三項に違反していないかという点を監
査事項とする本件監査請求を行った(甲六一)。
(九) 新宮村(村長被告G)は、平成九年五月末日までに、中央石材に対し、本
件請負契約についての第三次支払い(四四五万円)を行った。
(一〇) 新宮村監査委員は、平成九年七月九日、原告らに対し、法二四二条三項
に基づき前記(八)の監査結果を通知した.(甲六一、六二)。
 右の通知においては、本件観音像が憲法二〇条三項に違反していないかという点
について、次のような行政解釈を根拠に挙げ、「現在においては行政団体が宗教を
伴わない観光施設として設置したモニュメントである以上憲法違反には該当しない
もの考えられる。」とされている。
(1) 昭和三二年一二月二三日自丁行発第二二五号
 長野県総務部長宛 行政課長回答
 観音像建立について、これが憲法第二〇条第三項、第八九条および、旧地方自治
法第二三〇条の規定違反するかどうかを言う問い合わせに対し
 『回答』観光施設として、観音像を建立し宗教行事が伴わない限り抵触しないも
のと解すると言う行政解釈がある。
(2) 昭和四三年二月一五日自治行第一三号
 広島県総務部長宛 行政課長回答
 稲荷社の建立が、憲法第二〇条第三項及び第八九条に抵触しないかに対し
 『回答』公の施設の整備のため、観光施設として復元し、宗教的行為が伴わない
限り抵触しないものと解する。
(一一) 原告らは、平成九年八月七日、本件訴訟を提起した。
(一二) 新宮村は、平成九年九月ころ、前記(三)のPが制作する観音浄土人形
について、観音浄土というイメージを払拭するようにとの愛媛県からの要望がなさ
れたことなどから、Pと協議の上、作品のテーマを変更することとし、平成一〇年
一〇月二七日、Pとの間で、テーマを「日本物語について―五ステージ構成―」
(今は昔の物語、姫君と恋の物語、お伽話の世界、歌舞伎の宇宙、文学と夢の慈
悲)とし、履行期間を平成一一年十二月二五日までとする委託業務変更契約を締結
した(乙二四、二五)。
(一三) 新宮村では、平成一一年三月、「霧の森」・「霧の高原」(従来「文化
いこいの里」・「高原の里」として整備されていたもの)の施設の設置及び管理運
営に関する必要な事項を定める「新宮村観光交流促進施設設置及び管理運営に関す
る条例」(平成一一年三月一九日条例第六号)と同条例の規定に基づき必要な事項
を定める「新宮村観光交流促進施設設置及び管理運営に関する規則」(
平成一一年三月二四日規則第二号)が制定された(乙三三、三四)。
(一四) 新宮村では、平成一一年五月一五日、「霧の森」・「霧の高原」がオー
プンした(甲五二)。
(一五) 新宮村は、平成十二年四月一日、前記(一三)の「新宮村観光交流促進
施設設置及び管理運営に関する条例」に基づき、株式会社やまびこ(代表取締役被
告G)との間で、「霧の森観光施設」・「霧の高原観光施設」についての管理委託
契約を締結し、現在では、株式会社やまびこが右施設の運営管理を行っている(甲
五〇、五二、乙三五)。
5 観音信仰の略史等(甲一六、三二、三九ないし四一、四五ないし四九、六〇、
乙一二の1~5、一三の1~8。なお、(二)ないし(五)の記載は、村上重良・
日本宗教事典一〇六頁以下(甲三二)から引用した。)
(一) 大乗仏教と菩薩道
 観音は、大乗仏教の菩薩の一つである。大乗仏教では、自らが解脱・成仏するこ
と以上に、他者の救済のために仏道を求める菩薩道が重視されたので、衆生救済の
ために働いていると考えられた諸菩薩が、諸々の仏陀(如来)以上に信仰の対象と
されてきた。
(二) 観世音菩薩
 観音とよびならわされている観世音菩薩の名は、観ることの自在な者を意味する
サンスクリット語のアバローキテーシュヴァラの意訳である。観世音とは、一切を
観察することが自在であるように、衆生を観察して自在に大慈大悲を垂れて救う菩
薩という意味で、観自在、観世自在とも訳された。
 観音信仰は、北西インドで成立し、中央アジア、中国、チベット、東南アジアに
及んだ。日本への伝来は、六世紀末から七世紀初頭の推古天皇の時代にさかのぼる
という。観音は、救いを求める者にこたえて、様相を変えて衆生を救う菩薩とされ
ることから、数多くの変化した様式で造顕された。
 観音には、大別して、勢至菩薩と並ぶ阿弥陀仏の脇侍としての観音、現世利益の
本尊としての観音、密教の観音の三つの系統がある。観音の総体、本体とされる聖
(正)観音のみは、この三つに共通するが、他の変化の各観音は、それぞれ何れか
の系統に属している。
(三) 普陀落浄土
 中国では、中央アジア、チベットから伝えられた観音信仰が、北魏以降さかんと
なった。敦煌千仏洞の菩薩像のほとんどは観音像であり、観音にかんする教典も数
多くつくられた。五世紀初頭、クマーラジーヴァの中国語訳「妙法蓮華経」が成る
と、その「第七観世音菩薩普門品」(
普門品)が独立の「観音経」として普及し、民衆の間で観音信仰が流行した。また
観音が住む聖地とされる南インドのポータラカ(普陀落、補陀落)山は、浄土信仰
の展開とともに、普陀落浄土として信仰されるようになり、中国では、舟山列島の
普陀山が観音浄土とされた。チベットでは、観音の化身である活仏が住む宮殿をポ
タラ宮と称した。
(四) 観音像と観音経
 観音信仰は、中国と朝鮮から日本に伝えられ、推古天皇の三年、淡路島に漂着し
た香木で観音像を彫ったという記事が「扶桑略記」に見える。ついで聖徳太子は、
法隆寺夢殿と四天王寺金堂に救世観音像を安置したという。また法隆寺には、百済
観音が伝来した。六八六年(朱鳥元)には、天武天皇の病気平癒を祈って諸王臣に
観音像を造らせ、観音経を書写させて、大官大寺で読誦させた。
 奈良時代には、観音に現世利益をもとめる傾向がさらに強まり、治病のために、
観音像と観音経の造写がさかんに行われた。七四〇年(天平一二)藤原広嗣の乱が
起こると、国ごとに観音像一体を造らせ、観音経一〇巻を書写させて乱の平定を祈
らせた。また、大和の長谷寺、筑紫の観世音寺、近江の石山寺等、観音を本尊とす
る寺院がつぎつぎに創建された。
 平安時代に入ると、七九八年(延暦一七)坂上田村麻呂は自宅を寺として観音像
を安置したが、のち勅願の道場となって清水寺と改めた。平安時代には、宮中で毎
月十八日に天皇の身体安穏を祈って観音供が修められた。
(五) 観音信仰の普及
 観音信仰の普及とともに、聖観音と変化の各観音をあわせ六観音とし、あるいは
二十五観音、三十三観音、四十観音等をさだめて信仰するようになった。天台宗で
は、十一面観音、千手観音、不空羂索観音、馬頭観音、如意輪観音と聖観音を六観
音とし、真言宗では、不空羂索観音のかわりに准胝観音を入れた。六観音は、それ
ぞれ、地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人間、天上の六道を支配し、ここで苦悩する人
間を救う六道抜苦の菩薩とされた。これらの多種多様な観音は、おのおの独自の姿
態をそなえ、観音の慈悲が広大無辺であることを示していた。
 三十三観音の信仰は、観音経の普及とともにさかんとなったが、その二十八番に
は、中国で生まれた馬郎婦観音が数えられていた。一一六四年(長寛二)後白河法
皇は、三十三観音の信仰から蓮華王院(三十三間堂)を建て、また平安末期には西
国三十三カ所の観音霊場の札所めぐりが流行し
た。普陀落浄土の信仰もさかんとなり、紀州熊野の那智山は観音浄土と信じられ
た。
 中世には、観音信仰が全国各地に普及し、観音経は、身の安全を守る持経とさ
れ、広く読誦された。札所めぐりの流行も東国に及び、坂東、秩父等にも三十三カ
所の観音霊場がつくられた。江戸時代には、観音は有力な現世利益神としてさかん
な信仰を集めた。馬頭観音(馬頭明王)は、頭上に馬頭を戴き、三面の忿怒相をそ
なえ、江戸時代には、馬の守護神として広く信仰された。またキリシタン禁圧のも
とでは、聖母マリアを観音の姿であらわしたマリア観音のような特殊な観音も現れ
た。
(六) 現代における観音信仰と観音巡礼
(1) 観音信仰は、現世利益の信仰を中核にしながら、多様な性格と働きを持つ
ものとして、現代に至るまで根強く続いている。
 東京の浅草寺、京都の清水寺、奈良の長谷寺等は、今なお参詣者の多い観音寺院
であり、高崎観音、大船観音等、屋外に設置された巨大な観音像がある一方で、小
さな路傍の馬頭観音像等も多い。
 西国三十三カ所、坂東三十三カ所、秩父三十四カ所をはじめ、全国に七〇以上存
在する三十三観音霊場において、観音巡礼も盛んに行われており、今日では道路も
整備され、自動車を利用しての巡礼も多く、行楽を兼ねて気軽に巡る者も少なくな
い。
(二) なお、西国三十三カ所の第二番札所である紀三井山金剛宝寺護国院(通
称・紀三井寺)は、昭和二三年に真言宗山階派から独立した救世観音宗(寺院数一
六、信者数約二万二六〇〇人)の総本山であり、観音信仰を唱道して『法華経』の
「観世音菩薩普門品」を所依の教典としており、第三番札所である風猛山粉河寺
は、昭和二七年に天台宗から独立した粉河観音宗(寺院数五、信者数約七四〇〇
人)の総本山であり、「大慈大悲に生き、観音浄土の建設を期す」ことを説いてい
る。
 また、四国八十八カ所霊場では、前記1(三)の第六五番札所三角寺を含む三〇
の寺院において、観音が本尊として祀られている。
(七) 新宮村が作成し、対外的に配付した前記3(三)(3)の「日本人の心の
ふるさと新宮村観音郷とはこんなとこ」と題する冊子には、観音信仰について次の
ような記載がなされている。
 「まず「観音」とは、何かというところから説明しますと、普通我々が“観音さ
ま”とか“観音菩薩”と呼んでいる信仰対象の名は“観世音菩薩”が正式名称なの
です。「観世音」という漢字を読み下
せば「世の音を観る」となります。「音なら聞くのであって観るのはおかしい」と
疑問に思うかも知れません。人間は音や声を耳で、ただ聞くことを「聞く」と言う
のですが、人間の言葉を耳ではなく、心でじっと観察し、受けとめることを「音を
観る」と言う訳です。
 正しく、清らかで、おおらかな知恵に満ち、憐れみ深く、美しい目の持ち主が観
音さまということで、われわれ人間の理想像をさしているのです。そして天地大宇
宙は、はじめなき過去から終わりなき未来へかけ、われわれ人間を含めて運行して
いますが、その宇宙全体を流れている永遠のいのち、すべてのものの中にある生命
を包みこんだ大いなるいのち、それが観音さまなのです。
 観音さまは、日本人にたいへん好かれてきました。といいますのも、観音さま
は、人々のあらゆる苦しみを取り除き、願いをかなえてくれる強大パワーをもって
いることになっているからです。
 さらに、観音菩薩は救いを求める世の中の無数の人々の願いに応じて千変万化す
るといわれています。
 日本に現存する信仰対象としての仏・菩薩像は、無数といっても過言ではないほ
ど数多くありますが、その中でも古くから日本人の間で、もっとも広く普及してい
たものは、地蔵菩薩と観音菩薩であります。この両菩薩は、日本全国のどんな辺鄙
な田舎に行っても、必ずといってもよい程、何体もまつられ、一般大衆の間に根強
い人気を持っているし、現在でも数多くの新しい像が造られて、幅広い層の信仰対
象となっています。
 特に、観音信仰は、仏教伝来とともに、長い歴史をもっており、三三ケ所観音霊
場めぐりを通じて民衆化されてからでも、五〇〇年以上にもなっています。そのう
ち、庶民信仰としての観音信仰が最も盛んであったのは、江戸時代とくに江戸中期
でありました。観音霊場についてみても、従来からの西国、板東・秩父の三三ケ所
霊場のほかに各地に三三ケ所札所が形勢され、その数は七〇ケ所におよんでいま
す。
 さらに、身近なところでは、四国八十八ケ所霊場がありますが、この四国霊場の
多くが、その実、観音霊場であることの意味合をもっています。」
6 その他本件観音像発注等をめぐる諸般の事情
(一) 新宮村では、前記3(三)(一)アのとおり、平成八年四月ころ、Nから
の提案に基づき、山村文化資源保存伝習施設の中庭に観音石像モニュメントを設置
することが具体化し、同年六月二六日、村議会定例会におい
て、その事業費として一五〇〇万円が予算化された。
(二)(1) 新宮村は、法施行令一六七条の二第一項一号に基づく財務規則にお
いて、工事又は製造の請負額が一三〇万円を超えないものとするときには随意契約
によることができるとされており、観音石像モニュメントの製作工事は右の場合に
は該当しないものの、①山村文化資源保存伝習施設の入札が平成八年九月ころに予
定されており、同施設の建設前に行わないと据付の際に困難を伴うので、工期を限
定する必要があること、②製作工事にはデザイン的な要素が含まれるので、土木工
事や建築工事等と比較して入札予定価格が判定しにくいことなどを理由として、随
意契約の方法により請負契約を締結することとし、Nが紹介した中央石材ほか二社
の石材業者に対し、Nが作成した仕様書に基づいて見積りを依頼したが、最終的に
は、見積金額が一五〇〇万円(消費税は含まず。)と最も低額であった中央石材と
の間で、同年八月一日、本件請負契約を締結した(甲一一の1~4、三五、三
六)。
(2) なお、中央石材(当初の商号は太陽商事株式会社)は、主として中国産の
石材の輸入・販売を目的とし、本店を愛媛県川之江市に置く資本金三〇〇〇万円の
株式会社であり、平成七年七月一〇日に和議開始の申立てを行い、同年一二月二五
日に和議認可決定が言い渡され、平成八年二月六日に和議認可決定が確定している
(甲三四、三五、三八の1~8、証人K)。
(三)(1) 中央石材は、平成八年八月三一日ころ、サンセキとの間で、本件観
音像の製作等についての請負契約を締結した(甲九の1~4、証人K)。
 右の請負代金額(原石費、彫刻費、運送費等を含む。)は、サンセキが作成した
売上伝票(甲九の1・2)には一一〇〇万円と記載され、本件監査請求に基づく新
宮村監査委員による中央石材代表取締役からの事情聴取等によっても一一〇〇万円
とされていたが、その後、実際には六八〇万円であったことが判明した(甲六二、
証人K、証人L)。
(2) 本件請負契約については、工事請負契約書約款第七条において、「乙(中
央石材)は、工事の全部又は大部分を一括して第三者に委任し、又は請け負わせて
はならない。ただし、あらかじめ甲(新宮村)の書面による承諾を得た場合は、こ
の限りではない。」とされているところ、新宮村は、中央石材から右(1)の契約
締結について承諾を求められたことはなく、本件観音像
の完成検品後に契約締結の事実を知るに至った(甲三五)。
(四)(1) その後、本件請負契約については、前記4(八)・(一〇)のとお
り、原告らが平成九年五月一三日に本件監査請求を行い、新宮村監査委員は、同年
七月九日、原告らに対し、監査結果を通知した(甲六一・六二)。
 右の通知においては、本件請負契約の代金について、「本契約に基づく本工事
が、忠実に請負者の直接事業として、執行されたとするなら必要な諸経費を含めて
一三、三六八千円が妥当な額として推算できる。本契約締結にあたり十分な調査
と、対応がなされていたとするなら、この推算に近い契約額となったものと考えら
れる。」とされている(もっとも、右の積算では、前記(三)(1)の中央石材と
サンセキとの間の請負契約の代金額が一一〇〇万円であったことが前提となってい
る。)。
(2) さらに、新宮村監査委員は、平成九年七月九日、新宮村長被告Gに対し、
法二四二条三項に基づき、次のような内容の勧告を行った(甲六二)。
「1、推算額一三、三六八千円に消費税相当分四〇一千円を加算して得た、一三、
七六九千円と、本件契約一五、四五〇千円との差額一、六八一千円を結果として、
不当な公金の支出と認めざるを得ない。しかし推測する金額は、これを証明する書
類の閲覧及び調査する事が出来なかったので、これを根拠として返還請求を求める
事は困難であると考えられる。
2、契約方法については、一部契約前後に整備するべき書類について、不備な点が
見受けられた。又モニュメント石像についての、事前の調査研究が不足していたの
ではないかと考えられる。これらの事により、価格の疑惑等も生じたものと思われ
る。今後は、職員一同心を引き締めて職務を行い、二度と、このような事を起こさ
ないよう努力する事。」
二 以上の事実を基に判断する。
1 政教分離原則と憲法二〇条三項により禁止される国家等の行為
 憲法は、狭義の信教の自由(個人の信教の自由)を保障する規定を設ける一方、
政教分離の原則に基づく諸規定(以下「政教分離規定」という。)を設けている。
元来、政教分離規定は、いわゆる制度的保障の規定であって、信教の自由そのもの
を直接保障するものではなく、国家(地方公共団体を含む。以下同じ。)と宗教と
の分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しよう
とするものである。そして、憲法の政教分離原則は、国
家が宗教的に中立であることを要求するものであるが、国家が宗教とのかかわり合
いを持つことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたら
す行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸
条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないと
するものであると解すべきである。
 右の政教分離原則の意義に照らすと、憲法二〇条三項にいう宗教的活動とは、お
よそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持つすべての行為を指すもの
ではなく、そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られる
というべきであって、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対す
る援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきであ
る。そして、ある行為が右にいう宗教的活動に該当するかどうかを検討するに当た
っては、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場
所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについて
の意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響
等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならない
(最高裁昭和四六年(行ツ)第六九号同五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻
四号五三三頁、最高裁昭和五七年(オ)第九〇二号同六三年六月一日大法廷判決・
民集四二巻五号二七七頁、最高裁平成四年(行ツ)第一五六号同九年四月二日大法
廷判決・民集五一巻四号一六七三頁参照)。
2 本件公金支出の違法性
(一) 本件観音像は、作者の想像力の産物として独創的に作られたものではな
く、TOYO設計が所有する美術品を原型模型として、業者間において観音像とし
て発注されたものであり、伝統的な仏教の観音菩薩像の様式に従って作られたもの
であるから、これが観音菩薩像であることを否定することはできない。
 また、観音信仰は、前記一5(一)ないし(五)のような歴史等を有する仏教に
基づく信仰であり、現世利益等をもたらす力を持った観音菩薩という特定の信仰内
容を有しているものであるから、特定の宗教組織や教義教典と直接かかわるもので
はなく、布教活動も見られない民間信仰的なものであるとしても、これが特定の宗
教であることを否定することはできない(なお、現在では、前記一5(六)
(2)のように観音信仰を掲げる宗派等も存在する。)。
 これらのことからすれば、新宮村が本件観音像を設置することは、宗教とかかわ
り合う行為であり、観音信仰を掲げる特定の宗派と直接連携した上での行為ではな
いとしても、観音信仰と関連性を有する諸宗派一般を基準として宗教的意義を有す
る行為というべきである。
(二) そして、本件観音像は、高さ約六・三メートル、巾約一・七メートル、基
壇埋込部〇・七メートル程度の規模を有し、花崗岩で製作された恒久的なものであ
り、「観音橋」を渡った「いまはむかしミュージアム」の中庭に設置され、その前
面の池には、観音菩薩の六道抜苦を意識した石柱が取り囲み、本件観音像に隣接す
る「Pものがたり館」には、観音の利益に関する説話等を題材にした和紙人形が展
示されており、これらすべてを総合すると、新宮村担当者の主観的意図に観光客の
誘致があったとしても、行為態様等を客観的にみれば、本件観音像を見る者に対
し、観音信仰の世界を実感させて宗教的影響を与えることを目的とし、かつ、宗教
的効果もあげていると考えられる。
(三) しかも、宗教は、教義の宣伝、布教等の言語的象徴を用いた活動に限られ
ず、施設、儀礼等の非言語的象徴によっても他者に伝達されるものであり、仏像
は、これに接する者の内心に信仰の世界を形成する働きをするものと考えられるか
ら、このような宗教的象徴である仏像を作り出して設置することは、まさに信仰対
象の創出であり、宗教的活動の一部あるいはその準備行為というべきものであっ
て、新宮村において、多額の公金を支出し、恒久的に存在することになる巨大な本
件観音像を自ら積極的に設置して観音信仰と直接かかわり合いを持つことは、一般
人に対して、新宮村が特別に観音信仰を支持・承認しているとの印象を与え、特定
の宗教への関心を呼び起こすものといわざるを得ない。
(四) 他方、新宮村と観音信仰との歴史的結びつきは、熊野速玉大社等にちなむ
程度のものにすぎず、特に観音信仰に由来する故事が存在するわけではないのであ
るから、新宮村にとって本件観音像を設置することが歴史的故事を記念するような
意味合いを持つことはなく、新宮村に本件観音像を設置しなければならない必要性
等を見出すことはできない。
(五) 以上の事情を総合的に考慮して判断すれば、新宮村が本件観音像を設置し
たことは、その目的が宗教的意義を持つことを免れ
ず、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認めるべきであり、
これによってもたらされる新宮村と観音信仰とのかかわり合いが我が国の社会的・
文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものであって、憲法二〇条三項の
禁止する宗教的活動に当たると解するのが相当である。
 そうすると、本件公金支出は、憲法二〇条三項の禁止する宗教的活動を行うため
にしたものとして、違法というべきである。
(六)(1) 被告らは、本件観音像は、信仰対象となる仏像として選定したもの
ではなく、本件整備事業の「広告塔」として最もふさわしい姿・形をしているとの
判断から選定したものであり、入魂・開眼等の入仏式という宗教的行事を行ってい
ない単なる観音をかたどった石像にすぎないと主張する。
 しかしながら、日本には長い観音信仰の歴史があり、日本人には、観音菩薩像に
接するだけで観音信仰を喚起する宗教文化的土壌、すなわち、新宮村が前記一5
(七)のように冊子等で記載している「観音性」といったものを感じ取る基盤があ
るのであるから、本件観音像の宗教的働きは、新宮村担当者の主観的意図とかかわ
りなく機能するというべきであり、本件観音像は、入仏式等の宗教的行事が行われ
ていないとしても、これに接する者に対して観音信仰を喚起させる働きを持ってい
るものと考えられる。
 しかも、本件観音像は、原野等に設置されたものではなく、「観音性」を感じさ
せる様々な要素を整備していくことを内容とするO構想を契機として、周辺施設と
の関連において設置されたものであり、現状においても、前記のとおり、「観音
橋」が架橋され、「いまはむかしミュージアム」中庭の池には、観音菩薩の六道抜
苦を意識した石柱が設置され、「Pものがたり館」には、観音の利益に関する説話
等を題材にした和紙人形が展示されており、本件観音像の宗教的働きは、これらと
共に設置されることによって一層機能するものと考えられるところであるから、こ
れらのことからすると、本件観音像をもって単なる観音をかたどった石像にすぎな
いなどと評価することはできない。
(2) 被告らは、新宮村が本件観音像を設置した目的は、観光客誘致にすぎない
ものであり、観音信仰とは無関係であるとも主張する。
 確かに、前記一3の本件請負契約締結に至る一連の経過等によれば、本件観音像
設置の基となった本件整備事業は、新宮村にとって、観光客を誘
致し、村の活性化を図るという意味合いがあったことは否定できない。
 しかしながら、観光客の誘致、村の活性化ということ自体は、本来、宗教とかか
わり合いを持つ形でなくても行うことができるものであり、実際、前記認定事実に
よれば、本件においても、「新宮村新総合計画ナチュラルビレッジ新宮」の前期基
本計画の段階では何らの宗教性もうかがわれなかったにもかかわらず、後期基本計
画の段階になって、「新宮村観音郷」の実現、すなわち、「人々から崇められ尊ば
れる観音に対する思い入れ、観音浄土への憧れを文化的かつ現代的に置き直し、観
音を感じさせる村づくり」が推進されていることからすると、新宮村担当者におい
て本件観音像が宗教的意義を有することを認識していたことは明らかであり、新宮
村にとっては、観音信仰を踏まえた「観音郷」を実現すること自体にも大きな意味
があったといわざるを得ないから、その一環として行われた本件観音像の設置の目
的が専ら世俗的なものであったと認めることは困難であり、また、新宮村が本件観
音像を設置するに当たり宗教的意識を有していなかったなどと認めることもできな
い。
第三 随意契約の制限に関する法令違反の有無についての判断の要否等
 本件公金支出は、右の判断のとおり、憲法の政教分離原則に違反するものである
ところ、随意契約の制限に関する法令に違反して締結された契約は、特段の事情が
認められる場合に限って私法上無効となるものと解されるが、憲法に違反して締結
された契約は、私法上当然に無効となるというべきであるから(民法九〇条参
照)、本件請負契約も、随意契約の制限に関する法令違反の有無についての判断を
示すまでもなく私法上無効であり、新宮村は、本件公金支出によって、支出金相当
額である一五四五万円の損害を被ったというべきである。
第四 被告A、被告B、被告C、被告D、被告E、被告F及び被告Gの損害賠償責
任の有無
一 被告A、被告B、被告C、被告D、被告E及び被告Fについて
1 本件請負契約を締結したIは、普通地方公共団体の長として、財務会計上の行
為としての公金の支出を行う権限を法令上本来的に有するとされている者であり
(法一四九条二号、二三二条の四第一項参照)、新宮村に対し、その事務を誠実に
執行すべき職務上の義務を負い(法一三八条の二)、職務上負担する財務会計法規
上の義務として、法令に違反する公金支出をしてはならな
い義務を負っていたものと解される。
2 この点、Iは、本件公金支出には憲法違反という重大な違法が存する可能性が
あったにもかかわらず、前記認定のとおり、政教分離を意識した特段の調査等は行
っていないことが認められるところであり(特に、Iの被告本人尋問の結果によれ
ば、Iは、企画調整課の職員から「本件観音像は広告塔みたいなものであるから、
差し支えないと思う。」などと説明され、「ああ、そうか。」という程度で、.政
教分離原則違反の有無について深く考えていなかったことが認められる。)、憲法
適合性について十分な注意を払うことなく本件請負契約を締結したものというほか
ない。
3 そうすると、Iは、村長として尽くすべき注意義務を怠り、漫然と支出負担行
為(法二三二条の三)を行ったものであり、過失により違法な本件公金支出をした
と評価するほかないから、新宮村に対し、本件公金支出により新宮村が被った支出
金相当額一五四五万円の損害を賠償する義務を負い、その損害賠償債務を、Iの死
亡により、妻である被告A(相続分二分の一)、子である被告B、被告C、被告
D、被告E及び被告F(相続分各一〇分の一)が相続分に応じて承継したというべ
きである。
二 被告Gについて
1 本件請負契約締結後に新宮村長に就任し、本件請負契約の履行の一環としての
支出命令(法二三二条の四第一項)を発した被告Gも、普通地方公共団体の長とし
て、新宮村に対し、その事務を誠実に執行すべき職務上の義務を負い、職務上負担
する財務会計法規上の義務として、法令に違反する公金支出をしてはならない義務
を負っていたものと解される。
2 この点、被告Gは、前記認定のとおり、当初は助役の立場で、O構想を推進す
るプロジェクトチームの中心となって本件整備事業にかかわり、その後、村長に就
任して第一次、第二次支払いの支出命令を発しているが、その間、本件整備事業な
いし本件観音像について政教分離の観点からの検討を加えたことはなく、また、第
三次支払いの支出命令の際には、既に村議会において憲法違反が問題にされていた
ことから、行政例規集は調べたものの、本件観音像はあくまでも観光観音であり、
観光観音は前記第二の一4(一〇)(1)・(2)の行政解釈においても憲法に違
反しないとされているとして、それ以上特段の検討を加えなかったことが認められ
るところであり、重大な違法にかかわる憲法適合性について、慎重な注意を払うこ
となく支出命令を発したものといわざるを得ない。
3 そうすると、被告Gも、村長として尽くすべき注意義務を怠り、漫然と無効な
契約についての支出命令を発したものであり、過失により違法な本件公金支出をし
たと評価せざるを得ないから、I(受継した被告相続人ら)と連帯して、新宮村に
対し、本件公金支出により新宮村が被った支出金相当額一五四五万円の損害を賠償
する義務を負うというべきである。
第五 結論
 以上の次第で、本件訴えのうち、被告Hに対する訴えは不適法であるからこれを
却下し、被告A、被告B、被告C、被告D、被告E、被告F及び被告Gに対する各
請求は、新宮村に対し、同被告らが各金員の限度で連帯して、被告A金七七二万五
〇〇〇円、被告B、被告C、被告D、被告E及び被告F各金一五四万五〇〇〇円、
被告G金一五四五万円並びにこれらの各金員に対する損害賠償債務が発生した後で
ある平成九年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求め
る点において理由があるからこれを認容し、仮執行の宣言は相当でないからこれを
付さないこととして、主文のとおり判決する。
松山地方裁判所民事第二部
裁判長裁判官 豊永多門
裁判官 中山雅之
裁判官 末弘陽一

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