弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における未決勾留日数中一〇〇日を原判決の刑に算入する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人斉藤鳩彦提出の控訴趣意書及び同補充書記載のとおり
であつて、これに対する当裁判所の判断はつぎに示すとおりである。
 (一) 事実誤認の点について
 所論は、要するに本件被害者Aは心神喪失の状態にあつたものでなく、かりに心
神喪失の状態にあつたとしても被告人は当時右事情を知らず心神喪失に乗じて姦淫
したものではないから、被告人の本件所為を準強姦と認定した原判決は事実を誤認
したものであるというのである。
 <要旨>よつて審按するのに、原判決の挙示引用にかかる証拠によればAは昭和二
六年三月一日生れで、本件当時まだ満一四才八ケ月であり、当時八代市立B
中学校第三学年特殊学級に在学中であつたこと、同女の鈴木ビネー式(個人)によ
る知能指数は五二、精神年令は六年一〇月、生活年令は一三年三月であること、同
女は常に不安定な精神状態で、行動に統一性がなく、判断力もなく、衝動的で、生
活にしまりがなく、自主性をかき、他人にだまされ易い性格であること、同女の初
潮は昭和四〇年四月頃で、性本能は発達していてもまだ正常な性知識をもたず、性
的差恥心もなかつたこと、当時同女は家の者を嫌つていて、同年二月頃から本件に
至るまで何回も被告人と会つており、被告人になついていたこと、被告人は同女の
言動から頭のおかしいことを知つていたことが認められ、以上を綜合すると、Aは
当時正常な判断力を有せず、特に外部からの影響を蒙り易い強度の精神薄弱(痴
愚)の状態にあつたものというべきであり、同女が本件姦淫について通常の社会生
活上信頼され得る同意を与えたとは到底認められないのであつて、被告人もそのこ
とを当然知つていたと認められる。そうすると、被告人が右認定のような精神状態
にあるAを姦淫した本件所為は、まさに刑法第一七八条にいう人の心神喪失に乗じ
て姦淫したものと解するのが相当であり、これと同旨に出た原判決に所論のような
事実誤認の違法はない。論旨は理由がない。
 (二) 量刑不当の点について
 所論は、要するに原判決の刑の量定は重きに過ぎ不当であるというのである。
 しかし、記録並びに証拠に現われている本件犯罪の動機、態様、罪質、被害の状
況、犯罪後の情状、被告人の性格、素行、年令、経歴、前科歴その他諸般の情状に
てらし、所論の被告人に有利な諸点を参酌考量しても、原判決の刑の量定は相当で
あつて、所論のように重きに過ぎるものとは認められない。論旨は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却し、未決勾留日数の本刑算
入につき刑法第二一条、訴訟費用の負担免除の点につき刑事訴訟法第一八一条第一
項但書を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 柳原幸雄 裁判官 至勢忠一 裁判官 武智保之助)

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