弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役壱年及び罰金五千円に処する。
     但し本裁判確定の日より参年間右懲役刑の執行を猶予する。
     右罰金を完納することができないときは金弐百円を壱日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
     差押に係る雲助二個、一升壜十本、コップ大小二個(但し破損品)、蓋
付かめ一個及び漏斗一個(以上大洲税務所保管)並に焼酎九升三合の換価代金三百
四十二円はいずれもこれを没収する。
         理    由
 検察官(松山地方検察庁大洲支部検察官事務取扱副検事A)の控訴趣意並に弁護
人山本芳三郎の答弁は別紙記載の通りである。
 論旨は原判決が原判示第一の罪についても懲役刑を科したのは法律の適用を誤つ
ていると謂うのである。仍て原判決を検討するに原判決は第一事実として被告人が
昭和二十三年四月より昭和二十四年四月三十日迄の間肩書自宅において密造焼酎並
濁酒計一石一斗七升七合位をB外数十名の者に一升当り二百五十円乃至三百八十円
位で販売し以て政府の免許を受けないで酒類の販売業を為した事実を認定し右所為
に対し昭和二十四年法律第四十三号による改正前の酒税法第十七条第六十四条第一
項第二号を適用した上併合罪の関係に立つ原判示第二乃至第四の各罪と共に被告人
に対し懲役刑を科しているところ、前記昭和二十四年法律第四十四号(昭和二十四
年五月一日施行)による改正前の酒税法第六十四条第一項に定むる刑は罰金刑のみ
であつて懲役刑を規定していないこと所論の通りである(尚その罰金額は昭和二十
二年十一月三十日法律第百四十二号による改正後は五万円以下、昭和二十三年七月
七日法律第百七号による改正後は十万円以下)。従て原判決が本件につき被告人に
対し懲役刑のみを科したのは明かに法律の適用を誤つて居り右誤は判決に影響を及
ぼすこと云う迄もない。この点についての弁護人の答弁は首肯し難く論旨は理由が
ある。
 次に弁護人の答弁中原判示第一の罪については既に公訴の時効が完成していると
の主張につき考察するに、原判示第一の事実は被告人が昭和二十三年四月より昭和
二十四年四月三十日迄の間政府の免訴を受けないで酒類の販売業をなしたとの事実
であるところ、本件公訴提起の日は右犯罪行為より三年以上経過した昭和二十七年
九月三十日であり、右の罪は前叙の如く罰金に該る罪であつてその公訴時効の期間
は三年であること(刑事訴訟法第二百五十条第五号参照)所論の通りであるけれど
も、右酒税法違反については公訴時効完成前である昭<要旨>和二十六年五月十六日
被告人に対し大洲税務署長より通告処分がなされていること記録上明かであり、国
税犯則取締法第十五条により公訴の時効は中断されたものと謂はなければな
らない。而して新刑事訴訟法は、公訴時効中断の制度を廃して公訴時効停止の制度
のみを採用していること所論の通りであるけれども新刑事訴訟法施行と同時に他の
法律に規定せられた公訴時効中断の制度も当然廃止されたものと解することはでな
ず、国税犯則取締法第十五条の規定は公訴時効の中断につき新刑事訴法の例外をな
すものと謂はなければならない。
 原判決が弁護人の公訴時効完成の主張を排斥したのは正当であり所論は採用でき
ない。
 仍て刑事訴訟法第三百八十条第三百九十七条により原判決を破棄し同法第四百条
但書の規定に従い当裁判所において自判することとする。
 罪となるべき事実及びこれを認める証拠は原判決の示す通りである。(但し原判
決挙示の証拠中告発書、通告書案及び郵便物配達証明書を除く)。
 (法令の適用)
 原判示第一の所為につき昭和二十四年四月三十日法律第四十三号酒税法等の一部
を改正する法律附則第二十一項同法律による改正前の酒税法第十七条第六十四条第
一項第二号罰金等臨時措置法第二条 原判示第二及び第三の各所為につき昭和二十
八年法律第六号附則第十四項、同法律による改正前の酒税法第五十三条第六十二条
第一項第三号(各懲役刑選択)
 原判示第四の所為につき昭和二十八年法律第六号附則第十四項、同法律による改
正前の酒税法第十四条第六十条第一項(懲役刑選択)
 刑法第四十五条前段第四十七条第十条(原判示第四の罪の刑に併合罪加重)第四
十八条第一項
 刑法第二十五条第十八条
 酒税法第六十二条第二項第六十条第四項
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

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