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平成19年4月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成17年(ワ)第15327号損害賠償請求事件
平成18年(ワ)第26540号承継参加申立事件
(口頭弁論終結の日平成19年4月20日)
判決
東京都港区<以下略>
脱退原告旧商号・富士写真フイルム株式会社
富士フイルムホールディングス株式会社
東京都港区<以下略>
承継参加人富士フイルム株式会社
訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同吉田和彦
同相良由里子
同奥村直樹
補佐人弁理士井野砂里
同北村博
茨城県つくば市<以下略>
被告株式会社大東貿易
埼玉県川越市<以下略>
被告有限会社ハマ・コーポレーション
被告両名訴訟代理人弁護士井口博
主文
1被告株式会社大東貿易は,承継参加人に対し,3978万8482円及びこ
れに対する平成17年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
2被告らは,承継参加人に対し,連帯して162万3619円及びこれに対す
る被告株式会社大東貿易については平成17年8月9日から,被告有限会社ハ
マ・コーポレーションについては平成17年8月7日から各支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
3承継参加人のその余の請求を棄却する。
,,,4訴訟費用はこれを60分しその10を被告株式会社大東貿易の負担とし
その1を同被告と被告有限会社ハマ・コーポレーションの連帯負担とし,その
余を承継参加人の負担とする。
5この判決は第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,承継参加人に対し,連帯して2億4000万円及びこれに対する
被告株式会社大東貿易は平成17年8月9日から,被告有限会社ハマ・コーポ
レーションは同月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
本件は,レンズ付きフイルムユニット及びその製造方法に関する後記2件の
特許権(以下総称して「本件各特許権」という)を有していた脱退原告(旧。
商号・富士写真フイルム株式会社が被告らが別紙物件目録記載の各製品以),(
下「被告ら製品」という)を輸入・販売した行為は,本件各特許権を侵害す。
ると主張して,被告らに対し,損害賠償を求めたのに対し,被告らが,本件各
特許権は被告ら製品について消尽し,その効力は被告ら製品の輸入・販売の行
為には及ばないと主張して争っている事案である。脱退原告は,本件訴え提起
後の平成18年10月1日,富士フイルムホールディングス株式会社に商号変
更するとともに,会社分割により,事業会社として富士フイルム株式会社(承
継参加人)を新設し,本件にかかる被告らに対する損害賠償請求権を同社に譲
渡し,被告株式会社大東貿易に対して,平成18年11月13日及び平成19
年4月12日,内容証明郵便により債権譲渡の通知をし,被告有限会社ハマ・
コーポレーションに対しては,平成18年11月24日に内容証明郵便により
債権譲渡の通知をし,また,遅くとも平成19年4月20日,被告有限会社ハ
マ・コーポレーションが,上記債権譲渡につき承諾をした。
1前提となる事実等(当事者間に争いのない事実,該当箇所末尾掲記の各証拠
及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者
ア脱退原告は,昭和9年1月,写真フイルム製造を主な事業として設立さ
れた法人である。
イ被告株式会社大東貿易(以下「被告大東貿易」という)は,レンズ付。
きフイルムユニットから撮影済みのフイルムを収容したパトローネを取り
出した,レンズ付きフイルムユニットの回収,輸出,及び詰め替えレンズ
付きフイルムユニット(以下「詰替品」という)の輸入,販売を行う法。
人である。
ウ被告有限会社ハマ・コーポレーション(以下「被告ハマ・コーポレーシ
ョン」という)は,撮影済みのフイルムを収納したパトローネを取り出。
した後のレンズ付きフイルムユニットに未露光フイルムロールを収納した
レンズ付きフイルムユニットの販売を行う法人である。
(2)脱退原告が有していた特許権
脱退原告は,次の本件各特許権を有していた(以下,各別にはアから順に
「本件特許権1「本件特許権2」という。また,本件各特許権の各請求」,
項1にかかる特許発明を総称して「本件各特許発明,各別にはアから順に」
「本件特許発明1「本件特許発明2」という。」,。)
ア本件特許権1(甲1,2)
)登録番号特許第1875901号a
)発明の名称レンズ付きフイルムユニット及びその製造方法b
)出願日昭和62年8月14日c
)出願公告日平成2年7月23日d
)登録日平成6年10月7日e
)存続期間満了日平成19年8月14日f
)請求項1の記載g
本件特許発明1の願書に添付した明細書(以下「本件明細書1」とい
う。本判決末尾添付の特許公報1参照)の特許請求の範囲の請求項1。
の記載は次のとおりである(甲2。)
「予め未露光フイルムを内蔵し,このフイルムに対してシャッタ手段
,,を操作することにより露光付与機構を通して露光を付与するようにし
撮影後にフイルムを取り出したのちは再使用できないようにされたレン
ズ付きフイルムユニットにおいて,前記ユニット内のフイルム露光枠の
一方側に未露光フイルムロールが配置され,フイルム露光枠の反対側に
回転可能な巻芯を内部に有するパトローネが配置されており,未露光フ
イルムの一端と巻芯が予め固定されていること,前記パトローネ内に回
転可能に支承された巻芯には,ユニットのフイルム巻取り操作手段を連
結させ,前記シャッタ手段が操作された後に,前記未露光フイルムをパ
トローネ内に巻き込み可能としていること,前記未露光フイルムロール
は,該ユニットの製造工程で前記パトローネ内に収納された状態から引
き出されて形成されており,該フイルムロールの中心部が中空状態で,
未露光フイルムロール収納部に装填されていることを特徴とするレンズ
付きフイルムユニット」。
)構成要件h
本件特許発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,
分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件A」のように表記す
る。。)
構成要件A:A1予め未露光フイルムを内蔵し,
A2このフイルムに対してシャッタ手段を操作すること
により,
A3露光付与機構を通して露光を付与するようにし,
A4撮影後にフイルムを取り出したのちは再使用できな
いようにされた
A5レンズ付きフイルムユニットにおいて,
構成要件B:B1前記ユニット内のフイルム露光枠の一方側に未露光
フイルムロールが配置され,
B2フイルム露光枠の反対側に回転可能な巻芯を内部に
有するパトローネが配置されており,
B3未露光フイルムの一端と巻芯が予め固定されている
こと,
構成要件C:C1前記パトローネ内に回転可能に支承された巻芯に
は,ユニットのフイルム巻取り操作手段を連結させ,
C2前記シャッタ手段が操作された後に,前記未露光フ
イルムをパトローネ内に巻き込み可能としているこ
と,
構成要件D:D1前記未露光フイルムロールは,該ユニットの製造工
程で前記パトローネ内に収納された状態から引き出さ
れて形成されており,
D2該フイルムロールの中心部が中空状態で,
D3未露光フイルムロール収納部に装填されていること
構成要件E:を特徴とするレンズ付きフイルムユニット。
イ本件特許権2(甲3,4)
)登録番号特許第3193229号a
)発明の名称レンズ付きフイルムユニット及びその製造方法b
)出願日平成4年8月31日c
)登録日平成13年5月25日d
)請求項1の記載e
本件特許発明2の願書に添付した明細書(以下「本件明細書2」とい
う。本判決末尾添付の特許公報2参照)の特許請求の範囲の請求項1。
の記載は次のとおりである(甲4。)
「製造時に予め写真フイルムとパトローネとがユニット本体に形成さ
れたフイルムロール室とパトローネ室にそれぞれ収納され,撮影後にユ
ニット本体に組み込まれた巻上げノブの回動操作により前記パトローネ
内のスプールを回転させ,撮影済みの写真フイルムをパトローネに巻き
込むようにしたレンズ付きフイルムユニットにおいて,前記巻上げノブ
は,その下面に突出させた駆動軸が前記パトローネ室内に突出するとと
もに,この駆動軸の外周には軸方向に延びた外歯が180度以下の一定
ピッチで形成され,前記パトローネのスプールは,ISO規格に準拠し
た外形寸法を有し,その上端側には前記駆動軸が嵌入する軸孔が形成さ
れ,この軸孔内の下部には軸孔の中心軸に関して180度の回転対称と
なるように突出し,前記駆動軸の外歯に係合しない係合片が設けられて
おり,かつ前記軸孔を形成するスプールの内壁の前記係合片よりも上部
には,駆動軸の前記外歯が噛み合う複数の内歯からなるキー溝が180
度以下の一定ピッチで形成され,前記巻上げノブの回動操作が,前記外
歯と内歯との噛合により前記スプールに伝達されるようにしたことを特
徴とするレンズ付きフイルムユニット」。
)構成要件f
本件特許発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,
分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件A」のように表記す
る。。)
構成要件A:A1製造時に予め写真フイルムとパトローネとがユニッ
ト本体に形成されたフイルムロール室とパトローネ室
にそれぞれ収納され,
A2撮影後にユニット本体に組み込まれた巻上げノブの
回動操作により前記パトローネ内のスプールを回転さ
せ,
A3撮影済みの写真フイルムをパトローネに巻き込むよ
うにした
A4レンズ付きフイルムユニットにおいて,
構成要件B:B1前記巻上げノブは,その下面に突出させた駆動軸が
前記パトローネ室内に突出するとともに,
B2この駆動軸の外周には軸方向に延びた外歯が180
度以下の一定ピッチで形成され,
構成要件C:C1前記パトローネのスプールは,ISO規格に準拠し
た外形寸法を有し,
C2その上端側には前記駆動軸が嵌入する軸孔が形成さ
れ,
C3この軸孔内の下部には軸孔の中心軸に関して180
度の回転対称となるように突出し,前記駆動軸の外歯
に係合しない係合片が設けられており,
C4かつ前記軸孔を形成するスプールの内壁の前記係合
片よりも上部には,駆動軸の前記外歯が噛み合う複数
の内歯からなるキー溝が180度以下の一定ピッチで
形成され,
構成要件D:前記巻上げノブの回動操作が,前記外歯と内歯との
噛合により前記スプールに伝達されるようにしたこと
構成要件E:を特徴とするレンズ付きフイルムユニット。
(3)被告ら製品
)被告大東貿易は,遅くとも平成12年3月1日から平成17年2月2a
8日までの間,別紙物件目録の別紙1又は別紙2の外観を有し,別紙3
ないし6に示す構成を有する,被告ら製品(製品名は「」,FESTIVAL
及び「トロウ君」である)を輸入して,被告ハマ・コーポレーション。
等に販売し,被告ハマ・コーポレーションは,被告大東貿易から仕入れ
た被告ら製品を販売した。
被告ら製品は,脱退原告の製造・販売する,本件特許発明1ないし本
件特許発明2の実施品であるレンズ付きフイルムユニット(以下「原告
製品」という)の使用済みのフイルムユニットを利用した「詰替品」。
である。
)被告ら製品は,以下の工程で,撮影済みのレンズ付きフイルムユニッb
トから撮影済みのフイルムを収容したパトローネを取り出した後のレン
ズ付きフイルムユニットに,新たな未露光フイルムロールを装填して製
造されていたものである(甲7,乙14。なお,以下の文中の括弧内の
アラビア数字は,別紙物件目録の別紙3ないし6記載の図のアラビア数
字に対応し,写真番号は,乙14の写真番号に対応する。。)
(先行作業)
①市販フイルムのスプール(巻軸)にキー溝を形成する(写真1。)
すなわち巻き上げノブ10の駆動軸に形成された複数の係合軸外()(
)(),()()歯15に係合させるために市販のパトローネ9の巻軸8
にある軸孔(19)の内壁の係合片(20)よりも上部に,上記係合
()()。歯15に噛合する複数の内歯からなるキー溝21を形成する
キー溝の形成は,専用冶具を使って,樹脂を溶かしながら行う。
②紙製カバーを外し,樹脂製のユニット本体を取り出す(写真2。)
,「」,③ユニット本体のレンズ側面等にあるのロゴマークをFUJIFILM
()。,冶具を用いて熱で樹脂を溶かすことによって消す写真3さらに
フラッシュ発光部に傷を付け,同部にある「」のロゴマーFUJIFILM
クが見えないようにする。
(ケース分離作業)
④ドライバー等の工具を用いて,フイルムが入っている部分(パトロ
ーネ室)の蓋の爪係合部を外して蓋を開け,背面部分(裏蓋ないし裏
カバー)の爪係合部を外しながら裏蓋を浮かせる(写真4,5。)
⑤④によってできた裏蓋と本体部との間の隙間にドライバー等の工具
を差し込んで,裏蓋の両サイドの溶着部を壊す(写真6。なお,こ)
の作業は,工具や破片等により怪我をするおそれや,内部の高電圧部
により感電するおそれがあるため,軍手を着用して作業を行う。
⑥裏蓋を引き剥がすようにして,残った溶着部(下側部及びフイルム
ロール室蓋部)を壊し,裏蓋を外す(写真7。)
(清掃作業)
⑦流通過程での埃や汚れを洗浄する。
⑧傷ついたレンズなどを交換する。
⑨フイルムカウンター(撮影枚数表示板)部材を回して,フイルムカ
ウンターをセット(初期位置(27」の手前)に再設定)する(写「
真8,9。)
⑩裏蓋の分離時にフック(爪結合部の爪)が落ちそうになった部分と
フイルムを入れる下の部分(フイルムロール室下部)に遮光性粘着性
テープを貼り付ける(写真10,11。)
(検品工程)
⑪フラッシュ発光テスター(発光を検知する検査装置)を用いて,フ
。,,,,,ラッシュの発光テストを行うフラッシュに変色変形傷やけ
,,,異物混入などの不良が見られるものは不良箇所の修理交換を行い
修理,交換が行えないものは電子部品を他社から入手して使用し,正
常に動作するようにする。
,,。⑫残量不足の電池は検査の上十分な残量を有するものと交換する
(暗室作業)
以下の暗室作業は,部屋全体を遮光し,赤外線モニターによって作業
するものである。
⑬モーターと連結したフイルム巻取用の巻軸に,①で加工したパトロ
ーネから露出しているフイルムの先端を把持した後,上記巻軸を回転
させて,パトローネ内の未露光フイルムをすべて巻き出して,フイル
ムロールを作る(写真12。)
⑭巻き上げノブにスプールを挿入し,パトローネ室にパトローネを収
納し,フイルムに形成されているパーフォレーションとスプロケット
をかみ合わせ,フイルムロールをフイルムロール室に装じんする(写
真13。)
⑮裏蓋をユニット本体部に被せ,裏蓋とユニット本体部の爪係合部を
係合させ,2か所の底蓋部(フイルムロール室とパトローネ室)を閉
じる(写真14。)
⑯⑩で予め貼り付けておいた遮光性粘着テープを用いて裏蓋をユニッ
ト本体部に固定する(写真14。)
(検品工程)
⑰レンズカバー部分に,新たに作成した樹脂製カバーを被せる。
⑱新しい紙製のカバーをユニット本体の外側に被せる。
⑲店頭に陳列販売するため,新規作成した防湿袋に入れ,包装する。
(4)本件各特許発明と被告ら製品との対比
(文中の括弧内のアラビア数字は,被告ら製品を示す別紙物件目録の別紙
3ないし6記載の図のアラビア数字に対応する)。
ア本件特許発明1との対比
)被告ら製品は,未露光フイルム(2)を内蔵し(構成要件A1,このa)
フイルムに対して,シャッターボタン(3)及び係止めレバー(4)等
のシャッタ手段を操作することにより(構成要件A2,露光付与機構)
(5)を通して露光が付与される(構成要件A3,レンズ付きフイル)
ムユニット(1)である(構成要件A5。)
よって,被告ら製品は,構成要件A1ないし3,A5を充足する。
)被告ら製品においては,ユニット内のフイルム露光枠を背後から見てb
左側に未露光フイルム収納室(6)が配置され(構成要件B1,フイ)
ルム露光枠を背後から見て右側のパトローネ収納室(7)に,回転可能
な巻芯(8)を内部に有するパトローネ(9)が配置されており(構成
要件B2,未露光フイルム(2)の一端と巻芯(8)が予め固定され)
ている(構成要件B3。)
よって,被告ら製品は,構成要件Bを充足する。
)被告ら製品においては,前記パトローネ(9)内に回転可能に支承さc
れた巻芯(8)には,レンズ付きフイルムユニット(1)のフイルム巻
上げノブ(10)が連結されている。フイルム巻上げノブ(10)は,
フイルム巻取り操作手段であるから,被告ら製品は,構成要件C1を充
足する。
また,シャッタ手段が操作された後に,巻き上げノブ(10)が回動
可能となり,これを回動操作することによって,未露光フイルム(2)
がパトローネ(9)内に巻き込まれていくから,被告ら製品は,構成要
件C2を充足する。
よって,被告ら製品は,構成要件Cを充足する。
)被告ら製品は,本来予めパトローネ(9)内に収納されている未露光d
フイルムロール(2)を未露光フイルム収納室(6)に引き出すための
構造を有していない。また,被告ら製品の使用前の状態において,未露
()。光フイルムロールは未露光フイルム収納室6内に引き出されている
,(),,したがって未露光フイルムロール2が被告ら製品の製造工程で
前記パトローネ(9)内に収納された状態からフイルムを引き出して形
成されている(構成要件D1。)
また,未露光フイルムロール(2)の中心部は中空状態で(構成要件
),()()。D2未露光フイルム収納室6に充填されている構成要件D3
よって,被告ら製品は,構成要件Dを充足する。
)被告ら製品は,上記の構成(A1ないし3,5,B,C,D)を備えe
たレンズ付きフイルムユニット(1)である。
イ本件特許発明2との対比
)被告ら製品は,製造時に暗室の中で未露光フイルム(2)をパトローa
()(),()ネ9から引き出してロール状フイルム2としパトローネ9
(),()及び当該ロール状フイルム2をレンズ付きフイルムユニット1
のパトローネ収納室(7)すなわちパトローネ室,及び未露光フイルム
収納室(6)すなわちフイルムロール室にそれぞれ収納しており(構成
要件A1,撮影後にユニット本体に組み込まれた巻き上げノブの回動)
操作により前記パトローネ内のスプールを回転させ(構成要件A2,)
撮影済みの写真フイルムをパトローネに巻き込むようにした(構成要件
A3)レンズ付きフイルムユニット(構成要件A4)である。
よって,被告ら製品は,構成要件Aを充足する。
)被告ら製品は,巻上げノブ(10)の下面に駆動軸(18)がパトロb
ーネ室(7)内に突出しており(構成要件B1,駆動軸(18)の外)
,()(),,周には軸方向に延びた複数の係合歯外歯15が歯数30個
約12度すなわち180度以下の一定ピッチで形成されている構(,)(
成要件B2)
よって,被告ら製品は,構成要件Bを充足する。
)被告ら製品は,ISO規格に準拠して製造された市販のフイルムを使c
用していることから当然に,パトローネのスプールがISO規格に準拠
した外形寸法を有しており構成要件C1その上端側には駆動軸1(),(
)()(),()8が嵌入する軸孔19が形成され構成要件C2軸孔19
内の下部には,軸孔の中心軸に関して180度の回転対称となるように
突出し,駆動軸(18)の外歯(15)に係合しない係合片(20)が
設けられており(構成要件C3,係合片(20)よりも上部には,駆)
動軸(18)の外歯(15)が噛み合う複数の内歯からなるキー溝(2
1)が,歯数30個,約12度(すなわち,180度以下)の一定ピッ
チで形成されている(構成要件C4,)
よって,被告ら製品は,構成要件Cを充足する。
)被告ら製品においては巻き上げノブ10の回動操作が外歯1d,(),(
5)とキー溝(内歯(21)との噛合によりスプールに伝達されるよ)
うになっている。
よって,被告ら製品は,構成要件Dを充足する。
,()e)被告ら製品は上記の構成を備えたレンズ付きフイルムユニット1
であるから,構成要件Eを充足する。
,,。f)以上によれば被告ら製品は本件特許発明2の技術的範囲に属する
2争点
(1)被告ら製品は本件特許発明1の構成要件A4(ひいてはE)を充足する
か(争点1)。
(2)脱退原告ないし承継参加人の本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請
求の許否(争点2)
ア被告ら製品について本件各特許権は消尽したか。
イ被告ら製品の輸入・販売について,脱退原告による黙示の許諾があった
か。
ウ脱退原告の本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求は権利濫用に該
当するか。
エ被告らが本件特許権1の非侵害の主張をすることは訴訟上の信義則によ
って制限されるか。
(3)損害額(争点3)
ア特許法102条2項に基づく損害額
イ特許法102条3項に基づく損害額(予備的)
第3争点に関する当事者の主張
1被告ら製品は本件特許発明1の構成要件A4ひいてはEを充足するか争()(
点1)について
〔承継参加人の主張〕
本件特許発明1の構成要件A4における「再使用できない」とは,レンズ付
きフイルムユニットを購入した一般消費者によって再使用できないという意味
である。被告ら製品は,前カバー(別紙物件目録の別紙3の11。以下の括弧
内のアラビア数字も同様である)と裏カバー(13)が,本体(12)に,。
前後から,一部フック(14)で連結された後に遮光性粘着テープで固着され
るなどの構成を採るものであって,テープを剥がしただけでは分解も困難であ
る上,無理に分解すればフック等がさらに破損し,また,暗室でフイルムを引
,,き出して装填した後に破損部分を遮光性粘着テープで固着しなければならず
一般消費者がフイルムを露光させることなく詰め替えることが困難であるか
ら,構成要件A4(ひいてはE)を充足する。
〔被告らの主張〕
承継参加人の主張を否認する。
2脱退原告ないし承継参加人の本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求の
許否(争点2)について
〔承継参加人の主張〕
(1)被告ら製品について本件各特許権は消尽したか(争点2ア)について
特許権の消尽について,知的財産高等裁判所平成18年1月31日大合議
判決(以下「インクカートリッジ大合議判決」という)は,当該特許製品。
が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は
再生利用された場合(以下「第1類型」という,当該特許製品につき第。)
三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一
部につき加工又は交換がされた場合(以下「第2類型」という)には,特。
許権は消尽せず,特許権者は,特許権に基づく権利行使をすることが許され
ると判示した。本件は,以下のとおり,第1類型及び第2類型のいずれにも
該当し,本件各特許権の消尽は認められない。
アインクカートリッジ大合議判決にいう第1類型に該当すること
原告製品は,以下に述べるとおり,その基本的特徴・使用形態(a))に
鑑みれば,①これを購入した消費者がフイルムの撮影を終えて,現像取次
店を経由して現像所に送るなどして,現像所において撮影済みフイルムが
取り出された時点で社会的効用を喪失しており,また,その構造及び材質
(b),脱退原告における原告製品のリサイクル工程(c),被告ら製品))
の品質(d),当該部材が製品中において果たす機能及び部品の耐用期間)
(e)),原告製品に加えられた加工の程度(f),取引の実情(g))に鑑み)
れば,上記①または②遅くとも被告らにより原告製品に対する加工及びフ
イルム交換がされた時点で,その社会的効用を喪失しているものである。
したがって,本件は,第1類型に該当する。
a)原告製品の基本的な特徴(主として機能・用途に関する)
原告製品の基本的特徴は,予めフイルムが内蔵されたカメラ(フイル
ムの入替が予定されていない点で,通常の意味におけるカメラとは異な
。),,るであって消費者がそのままの状態で撮影して現像所に出した後
消費者には現像されたネガフイルム及び写真プリントしか返らないとい
う使用方法にある。その利点は,消費者は高価なカメラを持ち歩く必要
がなく,カメラが苦手な人でも簡単な操作で失敗なく撮影して使えると
いうことにある。従来のいわゆる使い捨てカメラは,パトローネに入っ
ていない裸のフイルムを装填したものであったが,それでは現像の際に
カメラからフイルムを取り出す行為及びその後の処理をすべて暗室でし
なければならなくなり,従来のパトローネ付きフイルムの処理とは別の
工程,特別な設備を必要とし,過剰な費用と手間がかかっていた。原告
製品は,従来のカメラで使用されていたパトローネ,しかも最も汎用的
なフイルムパトローネ(スプール軸があり,そのスプール軸にフイルム
の一端が係止されている)に入れられた135フイルムをあえて使用。
し,それを予め引き出したうえでカメラに装填し,シャッタが切られる
度にパトローネに巻き取られていくという手段をとることによって,上
記問題点を解決した。このように,コストを抑え,かつ,簡便な操作性
を実現するために,原告製品は,上記のような使用方法が想定され,消
費者が,現像所において撮影済みのフイルムを取り出した後の原告製品
(以下これを「形骸品」という)の所有権を放棄することを当然の前。
提として商品化されており,フイルムを交換することによって複数回使
用することは予定されていない。
そして,消費者による所有権放棄の対象となる以上,原告製品の形骸
,,,品は原告製品全体に占める経済的重要性も低く原告製品においては
内蔵されたフイルムの価値が重要である。
以上のような事情に鑑みると,原告製品は,現像店においてフイルム
が取り出され形骸品となった,上記①の時点で,既にその社会的効用を
喪失していると考えるのが相当である。
b)原告製品の構造及び材質
原告製品は,その全体が繰り返し使われることは想定されていないか
ら,そのまま繰り返し使った場合には不都合を生じる可能性が高い。ま
た,消費者は,現像後,フイルム以外の部分について所有権を放棄する
のであるから,原告製品がフイルムの価格に比し著しく高価であれば,
好んで原告製品を購入しようとはしないはずで,一定の安価を達成する
必要がある。このような点から,原告製品のほとんどすべての部分に,
ポリスチレンという汎用性樹脂が用いられているが,ポリスチレンは,
外力により容易に変形・破壊されるもので,耐熱性も弱く,複数回の使
用を行うことに耐え得ない材料である。
また,原告製品は,強度保持のため,超音波溶着と爪(フック)構造
によって裏カバーと本体部分を強力に固定しており,特殊な冶具,工具
。,,を使用しなければ上記接着を外すことは不可能であるなお被告らは
裏カバーと本体部分の溶着に関し,当該構成は特許発明の目的に照らし
て不可避の構成ではなく,特許製品の属する分野における同種の製品が
一般的に有する構成でもないとして,上記構造は,第1類型該当性判断
。,,の基準にはならない旨主張するしかし承継参加人の基本的な主張は
原告製品は,撮影済みフイルムが取り出された時点(溶着構造が破壊さ
れる前の時点)においてその社会的効用を喪失しているというものであ
るから,溶着構造の意義を縷々論じても反論とならない上,インクカー
トリッジ大合議判決の判示に鑑みれば,上記の検討を行う必要があるの
はあくまで「消耗部材」あるいは製品内部の耐用期間が短い部材につい
て交換等を行う場面であるところ原告製品におけるフイルムは消「」,「
耗部材」や「耐用期間が短い部材」には該当しないのであるから,上記
の被告の主張には理由がない。
さらに,パトローネ取出蓋は,裏カバーとプラスチックヒンジで結合
され,前カバーと前側2箇所でフック結合されて,光密性が保証されて
おり,現像時にフイルムを取出すため上記結合部付近を中心に破壊され
るから,その後の再結合は不可能である。
加えて原告製品には脱退原告専用の独自の規格の電池が使用されてお
り,電池取替えをユーザー自身が行うと感電のおそれもあることから,
電池収納部は紙製カバーで覆われ,ユーザーが電池交換をすることは不
可能な構造となっている。
以上のとおり,原告製品は,その客観的構造上,販売後フイルムがな
くなるまでの1度限りのみの使用を予定しており,フイルムを交換する
ことによって複数回使用することは予定されていない。
なお,被告らは,原告製品の機能・構造について,本件特許発明1及
び2との関係を論じているが,第1類型該当性判断における「当該製品
の機能,構造等」については,あくまで「社会的ないし経済的な見地か
ら決すべき(インクカートリッジ大合議判決)であって,特許発明を」
基準として判断を行うべきではないから,被告らの主張は失当である。
c)脱退原告における原告製品のリサイクル工程
脱退原告においては,日本全国の現像所から回収された原告製品を機
種毎に自動識別・分別し,機種毎のラインを経由して,ボディを包んで
いる紙ケースやラベルを自動的に外し,これらの紙ケースやラベルは古
紙リサイクルに出し,ボディは分解工程において,各部品が逐次自動的
に機械によって分解されて集積され,各部品のうち,メカユニット(シ
ャッター機構,フイルム駒止機構等から構成される,フラッシュユ。)
ニット(フラッシュ用電気回路,発光部,電池切片から構成される)。
及びレンズといったリユース部品については,次の検査工程で洗浄機や
エアーなどで汚れを落とし,部品ごとに自動検査機で厳しい品質等検査
を行い,合格した部品だけが次の製造工程へ送られ,電池は,分解工程
において残留容量が検査され,使用可能と判断されたものは残容量に応
じ,原告製品あるいは他の用途に使用される。不合格となったメカユニ
ットは,リサイクルのために細かく粉砕され,洗浄して異物を除去した
後に再ペレット化(熱可塑性整形材料を大きさ一様のタブレットとする
こと)するか,また,最近では,温水で洗浄し,直接射出成形するペレ
タイズレス方式も開発・採用され,樹脂再生の環境負荷を大幅に低減さ
せている。そして,製造工程では,上記検査工程において合格したリユ
ース部品や樹脂成形で作られたリサイクル部品などを用いて原告製品の
ボディを組立てた後,ラベルや紙ケースで覆い,原告製品が再生産され
る。
以上のとおり,脱退原告においては,非常に精緻かつ手の込んだ作業
を行ったうえで,当初生産された原告製品と同一品質を有する製品を再
生産しているのであり,特に消費者による使用時に手が触れる部分(裏
カバー,前カバー及び巻き上げノブ部分)及びフイルムが触れる部品に
ついては,品質管理上及び衛生上の問題から,クラッシュ作業を行って
一旦原料に戻した後,再度成形している。このことは,原告製品が本来
的に販売後一度の使用により,商品としてその寿命が尽きてしまうこと
を示している。
d)被告ら製品の品質
被告ら製品は,裏カバー再利用による光漏れ・フイルムへの影響(裏
カバーと本体部分の接着に使用された遮光テープのみによって光密性を
保証することは不可能である。また,裏カバーを外す際に,ドライバー
等の工具を用いることにより,裏カバーに傷が発生し,それに接触した
フイルムに傷が生じ,写真の品質が低下するおそれがある,位置精。)
(,度・本体強度の不足本体側面部溶着部分を破壊後補強していないため
裏カバーと本体との結合が極めて弱い,製造時のフイルム被り(力。)
学的な負荷や,科学的に影響される環境下で保存されることにより,フ
イルムが被り,正常な写真が撮影できない,電池の残量不足(原告。)
製品に装填されていた電池をそのまま使用している場合,残容量が不足
し,フラッシュ発光不良となる可能性が高い。電池を交換している場合
は,電池の形状・規格が合わず,装填不良となる,埃等の混入や糊。)
付着のおそれ(エアーブローのみでは汚れを完全に洗浄できない上,フ
イルムくずや樹脂片等が散乱した品質保証上の問題を引き起こしやすい
環境で製造され,さらに,遮光テープや紙ケースを被せる際に使用する
糊が樹脂に付着し,洗浄では十分に分離できないため,埃等の混入や糊
付着に起因して撮影画面に欠陥が生じたり,傷が発生したりすることが
ある,衛生上の問題(原告製品の裏カバー等ユーザーの手が直接触。)
れる部分をそのまま再利用しており,血液や体液等の付着のおそれもあ
る)等問題点が多い。原告製品の形骸品からは,劣悪な製品しか作る。
ことができないという事実もまた,原告製品を初めとするレンズ付きフ
イルムが上記①又は遅くとも②の時点で社会的効用を喪失することを示
すものである。
e)当該部材が製品中において果たす機能,及び部品の耐用期間
原告製品をはじめとするレンズ付きフイルムは,伝統的なカメラと異
なり,工場でフイルムを装填しているフイルム一体型製品であるという
ところにその本質的な特徴があり,製品全体の機能からみた場合,その
重要な部分はフイルムである。また,フイルム以外の部分は,消費者に
よって所有権が放棄されることから,経済的にも高い価値のものとする
ことができず,製品全体の経済的価値という観点からみても,フイルム
が重要である。以上のとおり,被告らが交換作業を行っているフイルム
という部品の,原告製品における機能,重要性及び経済的価値を考慮し
ても,原告製品は,上記①,あるいは遅くとも②の時点において,既に
その社会的効用を喪失していることは明らかである。
被告らは,パトローネ付きフイルムは消耗部材であり,経済的にも量
的割合の観点からも価値は低いと主張する。しかし,原告製品において
使用されているフイルムは,通常一般に使用されているフイルムそのも
のではなく,装填前に予めフイルムロールが作成され,スプールに溝を
形成した特別仕様のフイルムであり,これらの構造が採用されている結
果として,明室での分解の容易化や安定した27枚撮影が可能となり,
原告製品の商業的大成功と大量生産を可能としている。さらに,上記の
ような特別の加工が施されていない通常のフイルムの店頭価格と比較し
ても,原告製品に対するフイルムの経済的価値は約7割を占めるのであ
り,フイルム自体が原告製品の経済的価値にとり極めて重要であること
は疑いがない。
また,被告らは,撮影後,ユニット本体部分から明室で簡単に撮影済
みのフイルムを取り出すことができるようになると主張するが,フイル
ムをユニット内に組み込む作業は,特殊な冶具・設備(たとえば,被,
告らが使用している,スプールの溝形成用の冶具や暗室・赤外線モニタ
ー等)が必要となり,誰もが容易に行うことができるものではなく,フ
イルム取り出しが容易であることのみをもってフイルムを消耗部材であ
るとする被告らの主張は到底成り立ち得ない。
そして,耐用期間の点からみても,b)ないしd)で述べたとおり,原告
製品の裏カバー等に用いられた部材は,複数回の使用に耐え得るもので
なく,原告製品においては,フイルムもユニット部分も,フイルムを使
い切るまでの一度限りの使用のみしか客観的に予定されていないもので
ある。なお,被告らは,空になったボディはリユースすることが可能で
あるように開発されているなどと主張するが,これは事実に反する。
f)被告らによる原告製品への加工態様及び程度
被告ら製品は,前記第2の1(3)b)のとおり,少なくとも19の工程
を経て製造されており,その製造には,特殊な冶具,工具,専用のフラ
,()ッシュ発光テスター専用の製造設備暗室あるいはそれに類する設備
が用いられ,原告製品の形骸品に対する破壊行為及び強引な力を加える
作業が行われている。そうしなければ,被告ら製品程度の品質のもので
さえ市場に出ることはできないという事実は,原告製品が上記①又は遅
くとも②の時点で社会的効用を喪失していることを示すものである。
g)取引の実情
原告製品を用いて写真を撮影した後,ユニット本体が消費者の手元に
残らないことは,被告らが被告ら製品の販売を始めた平成6年ころには
既に社会一般における共通認識となっていた。消費者が原告製品を購入
した場合に受けることのできるサービスは,脱退原告製のフイルムのみ
を購入した場合と結局のところ異ならず,そうすると,原告製品を購入
する消費者は,手軽に安価で購入して撮影できるという利便性及び原告
製品に内蔵されたフイルム自体の経済的価値に着目しているのであっ
,。てフイルムを除いた部分に価値が存在すると考えているわけではない
なお,被告らは,原告製品形骸品及び被告ら製品の取引の実情につい
,,ても検討しているが特許権の消尽を検討するにあたり問題となるのは
あくまで本件各特許発明の実施品である原告製品についての取引の実情
であるから,被告らの主張は失当である。しかも,原告製品形骸品の取
引実情を考慮したとしても,原告製品を購入した消費者は,形骸品につ
いては所有権を放棄しているのであるから,形骸品に価値があるとは考
えておらず,また,前記c)のとおり,形骸品は,脱退原告においても多
くの検査・加工工程を経た上でようやく再使用することができるもので
,,,あってこのような事実にかんがみても原告製品形骸品の価値が低く
原告製品は,購入後一度の使用のみによりその社会的効用を喪失するこ
とが消費者間における強固な共通認識であることは明らかである。
また,脱退原告は,単に使用後の原告製品を再生するにとどまらず,
部品のリサイクル過程からリユースに必要な情報を集めて,リユースを
優先させたリサイクル技術,リサイクルし易い商品設計技術,リユース
品に組立適正のある生産技術の研究に日々取り組み,社会的にも極めて
高い評価を受けているのであり,原告製品についても,まさに資源循環
型社会形成の観点から,リユースできる部品はリユースし,リサイクル
部品は一旦原料にまで戻した上で再成形してリサイクル品を製造し,さ
らに,リサイクルを行っている工場においては,排出二酸化炭素の削減
努力を行い,商品設計においても環境に対する負荷を低減する製品の開
発に取り組んでいる。かかる脱退原告の取り組みは,インクカートリッ
ジ大合議判決にいう「有限な化石燃料を有効利用し,二酸化炭素排出量
」,,を抑制するという観点に合致するものであるのに対し被告ら製品は
後記(3)で述べるとおり,リサイクル不可能な廃棄されざるを得ない存
在であり,循環型社会の形成にとってむしろ大きな障害となるものであ
る。
イインクカートリッジ大合議判決にいう第2類型に該当すること
被告ら製品は,以下のとおり,原告製品中の本件各特許発明の本質的部
分を構成する部材の全部又は一部について加工又は交換を行うことにより
製造されたものである。
したがって,本件は,第2類型にも該当する。
a)本件特許発明1について
従来技術においては,撮影済みのフイルムはパトローネから引き出さ
れた状態となっており,これを本体から取り出す作業は暗室内で行わな
ければならず,かかる煩雑さを避けるためにレンズ付きフイルムユニッ
トにフイルム巻戻機構を設けた場合にはコストアップを招くこととなっ
ていたため,本件特許発明1は,パトローネから予め引き出された未露
光フイルムをフイルムロールとしてフイルムロール収納部に装填し,撮
影の度に撮影済みのフイルムがフイルム容器に収容されていく構造をと
ることにより,ユニットを明室で分解する際における不用意な露光を防
止すること,ユニット内の引出機構を不要とすること,操作の簡易化を
実現したのである。したがって,本件特許発明1の本質的部分は,レン
ズ付きフイルムのフイルム露光枠の一方側に未露光フイルムロールを配
置し,もう一方の側に回転可能な巻芯を内部に有するパトローネを配置
して未露光フイルムの一端をパトローネの巻芯に固定する構成要件B,
パトローネ内にフイルム巻き取りの操作手段を連結させてシャッタ手段
操作後にフイルムをパトローネ内に巻き取り可能とする構成要件C,未
露光フイルムロールが製造工程においてパトローネから引き出された状
態で形成されているとする構成要件Dにある。
ユーザー使用後の原告製品は,フイルムロールのフイルムがすべてパ
トローネに巻き込まれた状態となっており,構成要件B及びDの充足性
を欠く。さらに,そのような原告製品が,現像所によりフイルムが取り
,,出され被告らの親会社により詰替品の製造のため入手される時点では
構成要件AないしEのすべてを欠いている。
被告ら製品の製造工程は,パトローネからあらかじめ引き出した未露
光フイルムをフイルムロールとしてレンズ付きフイルムのフイルムロー
ル収納部に装填し,撮影の度に撮影済みのフイルムがフイルム容器に収
納されていく構造を作出しているものであり,かかる行為は本件特許発
,,明1の構成要件BないしDを含むすべての構成要件を新たに現出させ
本件特許発明1の効果を生じさせるもので,特許製品中の特許発明の本
質的部分を構成する部材の一部についての加工又は交換行為にあたる。
なお,被告らは,市場における特許製品の自由な流通の見地から,特
許発明の本質的部分を構成する部材にはパトローネ付きフイルムは含ま
れないなどと主張する。しかし,かかる主張は,特許製品の市場流通の
ためにはいかなる場合であれ特許権は犠牲になるべきであるという考え
方に等しく,第2類型の趣旨ひいては特許法そのものの趣旨を没却し,
到底採用できないものである上「特許発明の本質的部分」は,あくま,
で「特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解,
決手段を基礎付ける技術的思想の中核を成す特徴的部分・・・(イン」
クカートリッジ大合議判決)であるから,特許製品の市場流通の観点の
みから「パトローネ付きフイルム」を「特許発明の本質的部分」でない
とする被告らの主張は正鵠を得ない。
b)本件特許発明2について
従来技術においては,パトローネのスプールと巻上げ用のノブの係合
片はいずれも180°の回転対称形状をもつ係合キーで形成されていた
ため,パトローネをユニット本体に組み込む際には,最大で一方を他方
に対し180°近く回転させる必要があった。しかし,スプールを18
0°近く回転させるとフイルムのコマ位置設定にくるいが生じ,予定し
た撮影枚数分の撮影ができなくなってしまうことから,本件特許発明2
は,巻上げノブの駆動軸外周に一定ピッチの外歯を設け,同様にフイル
ムパトローネのスプール軸孔内壁に内歯を一定ピッチで形成すること
で,フイルムパトローネのスプールと巻上げノブの連結を容易にし,さ
,。らにスプールに内歯のないフイルムパトローネの使用を不可能とした
したがって,本件特許発明2のうち,巻き上げノブの駆動軸外周に軸方
向に延びた外歯が一定のピッチで形成されているとする構成要件B,及
びパトローネのスプール上端側に駆動軸が嵌入する軸孔が形成され,軸
孔に駆動軸の外歯とかみ合うキー溝が一定ピッチで形成され,軸孔に駆
動軸の外歯とかみ合うキー溝が一定ピッチで形成されているとする構成
要件Cが本質的部分である。
原告製品は,ユーザー使用後,現像所でフイルムが取り出された段階
で,本件特許発明2の構成要件A,C,Dを欠く。
被告ら製品の製造工程は,パトローネのスプール部分に特殊工具を用
いてキー溝を形成させ,本件特許発明2の構成要件Cに係る構成を新た
に現出させ,また,構成要件A,Dに係る構成も現出させ,本件特許発
明2の目的達成の手段に不可欠な行為を行っているから,原告製品の本
件特許発明2の特許請求の範囲に記載された部材について加工又は交換
を行ったものであり,この部材は本件特許発明2の本質的部分を構成す
る部材の一部であるから,第2類型に該当する。
なお,被告らは,スプール部分は本件特許発明2の本質的部分には当
たらない,当たると解すると市場における特許製品の流通を著しく害す
るなどと主張するが「パトローネの組み込み工程中に,巻き上げノブ,
やパトローネのスプールの回転位置を調節しなくても両者が簡単に噛み
合うようになる。したがって,最初のコマ位置設定がほとんどずれるこ
となく,簡単にパトローネの組み込みを行うことができる」という本。
件特許発明2の効果を奏するには,駆動軸部分に係合歯が設けられてい
るだけでは何の意味もなく,噛み合せの対象となるスプールのキー溝が
存在して初めて上記効果が生じるのであるから,被告らの上記主張は,
本件特許発明2を明らかに歪曲するものである上,本件特許発明1につ
いても述べたとおり「市場における特許製品の流通」の観点のみから,
本件特許発明2の本質的部分を理解しようとするのは失当である。
(2)被告ら製品の輸入・販売について,脱退原告による黙示の許諾があった
か(争点2イ)について
被告らの主張を否認する。
(3)脱退原告の本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求は権利濫用に該
当するか(争点2ウ)について
被告らは,脱退原告が,自らはリユースの努力を怠りながら被告らによる
製品のリユースの実施に対して本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求
を主張することは,権利の濫用として許されないなどと主張する。しかし,
かかる主張が失当であることは,インクカートリッジ大合議判決の「・・・
たとえ,特許権の行使を認めることによって環境保全の理念に反する結果が
生ずる場合があるとしても,そのことから直ちに,当該特許権の行使が権利
の濫用等に当たるとして否定されるべきいわれはないと解すべきである」と
の判示から明白である。
また,脱退原告が,(1)アc),g)のとおり,リサイクル技術から製品設
計へのフィードバック,リユース品の組立適性ある生産技術等を実現させて
いるのに対し,被告ら製品は,遮光テープが貼り付けられることによって分
解が困難となり,糊の付着によって異物が混入し,ストロボ発光部分に傷が
付けられることによってストロボ部分の再利用ができない,といった理由か
ら,使用後は廃棄物として処理されざるを得ない製品であって,更なるリサ
イクルや資源の循環利用など全く考えられていないことは明らかである。加
えて,被告らは,脱退原告による原告製品リサイクルの回収率等について論
難するが,そもそも被告ら製品のような詰替品の存在自体が,脱退原告によ
る回収を妨げ,リサイクル率を低下させているのであるから,被告らの主張
は本末転倒である。脱退原告におけるリサイクル活動が極めて大きなコスト
と丁寧な工程を経て実現されているのに対し,被告ら製品を始めとする詰替
品は,原材料の大半を原告製品から流用している上,専用の冶具等さえ備え
ていれば後は詰替用フイルムのみで生産できることから,安価なコストでの
生産が可能であり,そのため,目先の利益を求めてレンズ付きフイルム詰替
えを業として行う業者は後を絶たず,脱退原告等正規レンズ付きフイルム販
売会社と詰替業者との間ではいたちごっこが続いている上,詰替品と正規品
とをその外観のみから正確に区別することは極めて困難であるから,安価さ
にひかれて詰替品を購入する消費者が後を絶たない。このような状況の下,
結果的に詰替品が市場において流通し,原告製品のリサイクル率を低下させ
る原因となっているもので,被告らのような詰替業者の行為に対しては,社
会的にも,厳しい評価が下されているのである。
(4)被告らが本件特許権1の非侵害の主張をすることは訴訟上の信義則によ
って制限されるか(争点2エ)について
脱退原告と被告らとの間では,既に,被告らの脱退原告に対する特許権差
止請求権不存在確認請求事件(当庁平成15年(ワ)第15702号事件,そ
),の控訴審である東京高等裁判所平成16年(ネ)第1563号事件において
本件特許権1に基づく特許権侵害行為差止請求権の存否が争われ,同事件の
第一審は,被告らの請求をいずれも棄却し,その控訴審は,被告らの控訴を
棄却し,さらに被告らの上告受理申立てについては,受理しないとの決定が
され,上記控訴審判決が確定した。上記確定判決の理由中には,被告らによ
る被告ら製品の販売が本件特許権1を侵害することが判断されているとこ
ろ,この点は,上記事件における主たる争点であって,被告らはこの点につ
いて,最高裁まで争ってその主張・立証を十分に尽くし,又は少なくとも主
張・立証の機会を与えられ,主張立証を尽くしたと同視されるべき事情が存
在したものであるから,脱退原告には,被告らが,もはや本件特許権1の侵
害の有無について主張しないという信頼が形成されている。
よって,被告らが本件特許権1の侵害の有無を主張することは,訴訟上の
信義則によって制限される。
〔被告らの主張〕
(1)被告ら製品について本件各特許権は消尽したか(争点2ア)について
アインクカートリッジ大合議判決にいう第1類型に該当しないこと
a)第1類型にいう,特許製品が製品としての本来の耐用期間が経過して
その効用を終えた場合とは,特許製品について,社会的ないし経済的な
見地から決すべきものであり,①当該製品の通常の用法の下において製
品の部材が物理的に摩耗し,あるいはその成分が化学的に変化したなど
の理由により当該製品の使用が実際に不可能となった場合がその典型で
あるが,②物理的ないし化学的には複数回ないし長期間にわたっての使
用が可能であるにもかかわらず保健衛生等の観点から使用回数ないし使
用期間が限定されている製品(例えば,使い捨て注射器や服用薬など)
にあっては,当該使用回数ないし使用期間を経たものは,たとえ物理的
ないし化学的には当該制限を越えた回数ないし期間の使用が可能であっ
ても社会通念上効用を終えたものとして,第1類型に該当するというべ
きである。
b)上記第1類型の①に該当しないこと
①当該部材が製品中において果たす機能
パトローネ付きフイルムがレンズ付きフイルムユニットにおいて果
たす機能は,消耗部材としてのフイルムの機能に過ぎない。空になっ
たユニット本体に市販されているパトローネ付きフイルムを組み込む
だけで写真撮影が可能であり,撮影後,ユニット本体部分から明室で
簡単に撮影済みフイルムを取り出すことができるからである。
②当該部品の耐用期間
フイルムは写真を撮影すれば消耗されるが,電池等の消耗部材を除
いた他の部材は,5,6回のフイルム入替作業に耐えるだけの耐久性
を有しており,フイルムに比して耐用期間が長い。この耐用期間の差
は,レンズ付きフイルムユニットが,空になったボディはリユースす
ることが可能であるように開発されていることからも明らかである。
③加えられた加工の態様,程度
前記第2の1(3)b)の原告製品の修理の工程における作業のほとん
どは,写真,カメラの基本的知識を有する者であれば誰でもできるも
のであるし,フイルム自体もどこでも容易に入手できる。キー溝の形
成には工具が必要であるが,その工具それ自体高価なものではなく入
手も容易であるし,この加工は誰でも入手可能なパトローネ付きフイ
ルムそのものに手を加えているだけで,脱退原告の特許製品そのもの
に加工しているわけではない。加えられた加工の態様,程度が,特許
製品が製品としての本来の耐用期間が経過してその効用を終えたか否
かの判断基準となるのは「特許製品それ自体」に大規模な加工を施,
した場合であり,その場合には,当該製品の修理とはいえず,当該加
工がされた時点で当該製品は効用を終えたものとして解すべきだから
である。したがって,パトローネ付きフイルムは脱退原告の特許製品
そのものではないことは明らかであるから,これに加えた加工は,イ
ンクカートリッジ大合議判決の第1類型の判断基準である「加えられ
た加工」に含まれない。
④当該製品の機能,構造等
,,原告製品において新規かつ進歩性を備えた点は本件特許発明1の
パトローネ付きフイルムから未露光フイルムを予め取り出してロール
状にしてユニットに入れ,写真を撮影後,未露光フイルムがパトロー
ネ内に収容されることを可能とした構造,本件特許発明2の,巻き上
げノブの底面に突出した駆動軸を設けることによって,パトローネ付
きフイルムの位置設定の大幅なずれを防止できる構造にある。この構
造によって,ユニット本体にパトローネ付きフイルムを組み込むだけ
で,必然的に,当該製品の主たる機能である,明室で簡単に撮影済み
フイルムを取り出すことができるようになるという機能及び安定して
24枚撮りフイルムで27枚まで撮影ができるようになるという機能
が実現できるのである。つまり,パトローネ付きフイルムを内蔵して
いることを本質的な要素としている構造ではない。
⑤取引の実情
空になったユニットそのものも専門の回収業者,リサイクル業者に
おいて取引価値を有し,有償で取引されている。ユニットが安価なの
は,脱退原告が現像所から空ユニットを有償で引き取らないためであ
り,本来の価値を反映しているものではない。また,被告ら製品は,
原告製品と比べて劣る点はなく,価格も安いことから,これを購入す
る者は多くいる。これは,原告製品からフイルムを除いた時点では,
その効用は喪失されていないことを意味している。
⑥主要な部材に大規模な加工を施し又は交換したり,あるいは部材の
大部分を交換したりする行為に当たらないこと
主要な部材,大部分の部材であるかどうかは,製品自体を基準とし
て,当該部材の占める経済的な価値の重要性や量的割合の観点からも
判断すべきであるところ,前述のとおり,空ユニットそのものも専門
の回収業者やリサイクル業者において取引価値を有し,有償で取引さ
れていること及びパトローネ付きフイルムが原告製品において占める
量的な割合も低いものであることからすれば,パトローネ付きフイル
ムは,主要な部材に大規模な加工を施し又は交換したり,あるいは部
材の大部分を交換したりする行為に当たらない。したがって,パトロ
ーネ付きフイルムの入れ替えが,主要な部材に大規模な加工を施し又
は交換したり,あるいは部材の大部分を交換したりする行為に当たら
ないことは明らかである。
⑦原告製品は,消耗部材や耐用期間の短い部材の交換を困難とする構
成か否か
フイルムの交換作業は,ほとんどが写真・カメラの知識を有するも
のであれば誰でも簡単にできる作業であり,フイルムの融合作業も単
純な工具があれば簡単にできる作業であるから,原告製品は,消耗部
材たるフイルムの交換を困難とするような構成にはなっていない。
⑧原告製品の本体ユニット部分と裏カバーが溶接されていること
原告製品の本体ユニット部分と裏カバーとの溶接は,特許発明の目
的に照らして不可避の構成ではなく,かつ,特許製品の属する分野に
おける同種の製品が一般的に有する構成でもないから,この点も基準
該当性の根拠とならない。
すなわち,原告製品の目的は,コストアップを招くことなく,その
本体部分から明室で簡単に撮影済みフイルムを取り出すことができる
ようにすること及び安定して24枚撮りフイルムで27枚まで撮影で
きるようにすることであるが,これらの目的と原告製品において消耗
部材たるフイルムの交換を困難にすることに関連性はない。むしろ,
消耗部材の交換を容易にすれば,明室でより簡単に撮影済みのフイル
ムを取り出すことができる。本体部分と裏カバーの溶接は,原告製品
の同種の製品(他社製の使い捨てカメラ)が一般的に有する構成では
,()なく他社の同種製品は本体ユニット部分と裏カバーとを爪フック
で結合させてあるだけで,フイルムの交換がより容易な構造となって
いる。スプール部分の加工についても,他社の同種製品にはスプール
部分の加工が不要な製品もあるし,そもそもパトローネ付きフイルム
は市販されているもので,それにいかに加工を加えようが特許権侵害
の問題は起こらないはずである。そうすると,スプール部分が加工さ
れているという前提の下で,消耗部材の交換が容易か否かを判断すべ
きであり,その前提の下では消耗部材たるフイルムの交換は容易なの
であるから,消耗部材の交換が容易な構造というべきである。
c)上記第1類型の②に該当しないこと
原告製品は,物理的ないし化学的には複数回ないし長期間にわたって
の使用が可能であることは明らかであり,原告製品の使用回数ないし使
用期間は,法令等で規定されているわけではなく,社会的に強固な共通
認識として限定されているわけでもない。これは,被告ら製品は,原告
製品と比べて劣る点はなく,価格が安いことから,これを利用する者も
多くいること,脱退原告自身も原告製品をリユースすることを考えてい
ることから明らかである。
d)小括
以上により,社会的にも経済的にも,原告製品が製品としての本来の
耐用期間が経過してその効用を終えたとはいえず,インクカートリッジ
大合議判決の第1類型の①,②のいずれにも該当しないことは明らかで
ある。
イインクカートリッジ大合議判決にいう第2類型に該当しないこと
a)本件特許発明1について
本件特許発明1により解決しようとする課題は,コストアップ及び現
像所での事務処理の煩雑化を防止しながら,レンズ付きフイルムユニッ
トにISO基準に則った35ミリフイルムを利用することであり,その解
決手段は,パトローネ内から予め未露光フイルムを取り出してロール状
にし,ユニットの本体部分にあるフイルムロール室及びパトローネ室に
それぞれ未露光フイルムロール,パトローネを嵌め込み,写真を撮る度
にフイルム巻き取り操作をすることによって,それと連結したパトロー
ネ内の巻き芯を回すことにより,フイルムを巻き取っていき,最後まで
写真を撮り終わったときには,フイルムがパトローネ内に収納されるよ
うにすることである。パトローネ付きフイルムは,消耗部材に過ぎず交
換が予定されており,誰でも簡単に入手でき,その取付け作業は容易で
ある。したがって,市場における特許製品の自由な流通の見地から,特
許発明における本質的部分を構成する部材にはパトローネ付きフイルム
は含まれない。本件特許発明1の本質的部分を構成する部材は,フイル
ムロール室,パトローネ室,パトローネ内の巻芯と連結できる巻取り操
作手段を構成する部材であり,被告らは,これらに何ら手を加えていな
いから,本件特許発明1の本質的部分を構成する部材の全部又は一部に
つき加工又は変換をしていないことは明らかである。
b)本件特許発明2について
本件特許発明2により解決しようとする課題は,レンズ付きフイルム
ユニットにおいて24枚撮りのフイルムで27枚の写真を撮ることがで
きるようにすることであり,その解決手段は,フイルムロール室及びパ
トローネ室が設けられたユニット本体に,フイルム巻き上げ時に操作さ
れる巻き上げノブを組み込み巻き上げノブの底面に突出した駆動軸そ,(
の外周には軸方向に延びた外歯が一定ピッチで形成されている)をパ。
トローネ室の上壁から室内に突出させておき,パトローネに組み込まれ
たスプールの上端には,前記駆動軸が入嵌する軸孔が設けられ,輪孔を
囲む内壁には軸方向に延びた内歯を前記外歯と同じピッチで形成すると
いう方法である。本件特許発明2の本質的部分を構成する部材は,底面
に突出した駆動軸を有する巻き上げノブ及びそれを可能にしたユニット
本体の構造部分であるa)で述べたとおりパトローネ付きフイルムの。,(
スプール部分)は,市場における特許製品の流通の観点から,特許発明
の本質的部分を構成する部材と解することはできない。したがって,キ
ー溝を形成する作業は,本件特許発明2の本質的部分を構成する部材の
全部または一部につき加工又は交換をするものではない。
(2)被告ら製品の輸入・販売について,脱退原告による黙示の許諾があった
か(争点2イ)について
特許製品が市場での流通に置かれる場合,譲受人が目的物につき特許権者
の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等することができる権利を
取得することを前提として取引行為が行われるから,その使用・再譲渡等に
関する制約について特段の合意をした場合を除き,譲渡人は譲受人に対し,
目的物について有する使用・再譲渡等する権利を移転することを黙示に許諾
したものである。
本件において,脱退原告は,原告製品の購入者との間で,その使用・再譲
渡等に関する制約について特段の合意をしないで販売したから,当該原告製
品について有する使用・再譲渡等する権利を移転することを黙示に許諾し
た。
(3)脱退原告の本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求は権利濫用に該
当するか(争点2ウ)について
今日,環境と資源の制約のなかで持続的な成長を達成するために循環型経
済社会の構築が急務となり,循環型社会形成推進基本法の制定,3R(リデ
ュース,リユース,リサイクル)促進のための個別法の整備等がなされ,資
源の有効な利用の促進に関する法律は,再生資源及び再生部品の使用は事業
者等の責務である旨定めているところ,経済産業省の産業構造審議会廃棄物
処理・再資源化部会が作成する「産業構造審議会ガイドライン(品目別・」
業種別廃棄物処理・リサイクルガイドライン)は,平成13年7月12日改
訂において,新たにレンズ付きフイルム等7品目を追加し,さらに,平成1
5年9月8日改訂において,レンズ付きフイルムについて「回収を一層促進
し,より確実な回収システムを構築することにより,リユース,リサイクル
対象数量も増加させ」ることを定めた。このように,レンズ付きフイルムの
リサイクルが求められているところ,脱退原告のリサイクル率は70パーセ
ント程度であるというが,実際の回収率はこれよりも相当程度低いのではな
いかと思われ,また,このうちリユース(回収した製品の再利用)はさらに
減少していると考えられる。被告ら製品の販売行為は,資源の再利用及び廃
棄物の減少化という観点から社会的に評価されるものであり,脱退原告が,
自らはリユースの努力を怠りながら,被告らによるリユースの実施に対して
特許権等の権利の行使を主張することは,権利の濫用として許されない。
(4)被告らが本件特許権1の非侵害の主張をすることは訴訟上の信義則によ
って制限されるか(争点2エ)について
承継参加人の主張を争う。
3損害額(争点3)について
〔承継参加人の主張〕
(1)特許法102条2項に基づく損害額(争点3ア)について
ア脱退原告の調査に基づく損害額
a)被告らの販売数量の推計
被告ら製品のうち,使用済みの原告製品を利用した「FESTIVAL」の平
成12年ないし同15年の販売数量は,以下①ないし③のとおり,約3
59万台と推計される。
①VVタイプ(原告製品名「スーパー写ルンです」等の詰替品。以下
同じ)が回収された使用済みレンズ付きフイルムに占める割合は,。
平成12年は4.5%,平成13年が4.9%,平成14年が4.5
,.,(,%平成15年が25%で平均して約3ないし5%であるなお
被告ら製品「FESTIVAL」はVVタイプの詰替品である。。)
②被告ら製品がVVタイプに占める割合は約30%である。
③平成12年ないし平成15年の「FESTIVAL」販売数量合計(推計)
は,各年の国内販売総量(平成12年が7622万5000本,平成
,,13年が7280万8000本平成14年が7405万4000本
平成15年が6507万3000本)に,各年のVVタイプが回収さ
れた使用済みレンズ付きフイルムに占める割合(上記①)を乗じたも
のに,被告ら製品がVVタイプに占める割合(約30%(上記②))
を乗じて算出され,約359万台となる。
また,脱退原告が委託した調査機関が「FESTIVAL」の販売実績を調査
したところ,平成12年ないし同15年の販売数量は合計414万台で
あった。
以上によれば,被告らが,平成12年3月1日から平成17年2月末
日までの5年間で輸入・販売した,原告製品を利用した詰替品は合計4
00万台を下回ることはないと推定される。
b)被告らが被告ら製品1個当たりの輸入・販売により上げている利益
(限界利益)
被告らが被告ら製品の販売により得た利益は,以下①,②のとおり,
1個あたり60円を下回ることはなかった。そして,被告らは,輸入さ
れた被告ら製品をそのまま販売しているにすぎず,変動費は特にかかっ
ていないと考えられることからすれば,上記利益がそのまま被告らの限
界利益になると考えられる。
①被告ら製品1個当たりの販売マージンは60円である。
被告らは,被告ら製品を1個当たり190円で輸入し,250円で
販売しているからである。
②被告ら製品の被告大東貿易からの出荷単価は250円を下回ること
はなかった。
c)脱退原告の損害額2億4000万円
損害額=被告ら製品の1個当たりの販売利益×販売数量
=60円(上記b))×400万個(上記a))
=2億4000万円
イ計算鑑定結果に基づく主張
a)損害額算定の基礎とすべき売上高
①被告ら製品の「FESTIVAL「トロウ君」の全売上高を,損害額算」,
定の基礎とすべきである。
計算鑑定書においては「FESTIVAL」の製造元には「富士「コニ,」,
カ「コダック」の三社があると記載されている。」,
しかし,訴外日本カラーラボ協会の調査によると,現実に市場で流
通している「FESTIVAL」は,すべて脱退原告製のレンズ付きフイルム
の詰替品であり,被告大東貿易が販売した「FESTIVAL」の多数の解析
に携わった脱退原告従業員Aも同様の陳述をしている。また,脱退原
告,訴外コニカ社,訴外コダック社のレンズ付きフイルムは,それぞ
れ,構成・デザインが異なるものであるから,それらの詰替品もまた
異なった構成・デザインのものとなるはずであり,構成・デザインの
異なる製品については,異なる商品名が付されるのが製造業の一般常
識である。しかも,被告らにおいては,訴外コダック社製品を使用し
た詰替品について,平成15年ころから「NEWFESTIVAL」の名称で
販売している。このような点に鑑みると「FESTIVAL」が,脱退原告,
のほか訴外コニカ社,訴外コダック社のレンズ付きフイルムを詰め替
えたものであるとは考え難い。被告らは,メーカー毎に名称や紙ケー
スをわざわざ変えることはしていない旨主張するが,メーカーが異な
ればレンズ付きフイルムユニットのボディの形状も様々な点で異なる
ので,あるメーカー製のボディ用の紙ケースが他のメーカー製ボディ
用に当然転用可能といった事実は全く存しない。また,被告らは被告
(),「」ら準備書面7において紙ケースはわざわざ変える必要はない
旨主張していたのに,準備書面(8)においては,乙15を引用し,
紙ケースはメーカーのボディによって変えているが・・・名称はF「『
ESTIVAL』である」と主張を変遷させており,信用できない。この点
をおくとしても,乙15に記載された製品の中には,実際に販売され
たか疑わしいものや,販売されていたとしても販売時期が本件計算鑑
定の対象となった期間より以前と考えられるものが存在し,乙15を
根拠として本件計算鑑定の対象時期に,脱退原告以外の様々なメーカ
ー製ボディを詰め替えた「FESTIVAL」名称製品が流通していたものと
考えることはできない。さらに,被告は,計算鑑定書の上記記載の根
拠となった,原資料(売上台帳)の提出を拒否していることなどから
みても,売上台帳を事実認定の基礎とすべきでない。
上記の理は「トロウ君」についても同様である。,
したがって,計算鑑定書で認定された「FESTIVAL「トロウ君」」,
の全売上高を損害額算定の基礎とすべきであり,その額は,以下のと
おりである。
被告製品名売上高根拠
被告5億9749万6000円計算鑑定書の補充書2FESTIVAL
大東貿易の2ページ*2
トロウ君2280万円計算鑑定書の補充書2
の3・4ページ*6
合計6億2029万6000円
被告1031万3000円計算鑑定書の補充書2FESTIVAL
ハマ・の5ページ*10
コーポトロウ君150万9000円計算鑑定書の補充書2
レーションの6ページ*14
合計1182万2000円
②仮に,計算鑑定書における製造元区分にしたがって,合計売上高を
計算するものとすると,以下のとおりとなる。
被告製品名売上額根拠
被告2億8091万9000円計算鑑定書2ページ2FESTIVAL
大東貿易の「大東貿易の売
上高「」」FESTIVAL
中「富士」欄の数値を
合算したもの
448万3839円計算鑑定書の補充書2
の2ページ*2の被告
ハマ・コーポレーショ
ンに対する合計売上高
938万7000円に原告製
品の割合を乗じたもの
トロウ君831万5000円計算鑑定書2ページ2
(1)の「大東貿易の売
上高「トロウ君」中」
「富士」欄の数値を合
算したもの
83万4268円計算鑑定書の補充書2
の2・3ページ*6の
被告ハマ・コーポレー
ションに対する合計売
上高207万9000円に原
告製品の割合を乗じた
もの
合計2億9455万2107円
被告1031万3000円FESTIVAL
ハマ・
コーポトロウ君150万9000円
レーション
合計1182万2000円
)粗利益b
①被告ら製品の販売による被告らの粗利益率は2割を下らない。
被告大東貿易の粗利益率について,計算鑑定書1ページ(1)「大東
貿易による輸入状況」及び3ページ(3)「大東貿易の平均販売価格」
に基づき算定すると,平均10%程度にすぎないが,被告大東貿易の
財務諸表に基づく売上高及び売上総利益(計算鑑定書10ページ(5)
「財務状況について)をもとに算定すると,平成13年2月期から」
平成17年2月期までの間の粗利益率は約20%になること,被告大
東貿易の主要事業が詰替品の輸入販売事業であったこと(計算鑑定書
),,,4ページ製造業界においては当該企業において一番良く売れる
いわゆる売れ筋製品の粗利益率を他製品と比較して高く設定すること
がビジネス上の常識であることに鑑みれば,被告ら製品における実際
の単価は,計算鑑定書1ページ(1)「大東貿易による輸入状況」中の
平均単価にあらわれた数値よりも低い価格であって,被告ら製品の販
売による粗利益は被告大東貿易の財務状況から導かれるものと同様に
2割程度であると考えるのが合理的である。粗利益率が平均10%程
度であるとの上記計算鑑定結果の根拠資料は,結局のところ,被告大
東貿易自身が作成したサンプルさえも提出できない台帳のみに過ぎな
いのに対し,上記約20%とする根拠資料は,税務申告にも使われた
確定申告書であると考えられ,高い信頼性を有する。脱退原告が調査
依頼をした調査会社による調査結果も,被告大東貿易が訴外
社から被告ら製品を輸入する際の価格は190円,販売FEEL-TECH
価格は250円とされており,これによれば粗利益は60円(粗利益
率24%)となり,上記推論と合致する。
なお,被告らは,被告大東貿易らの税務担当税理士作成の売上原価
(()),率を算出した表なるもの被告ら準備書面7添付別表を引用し
。,計算鑑定に現れた粗利益率約10%が妥当である旨主張するしかし
同表が税務担当税理士の作成によるものか何ら裏付けとなる証拠が存
しないし,仮に税務担当税理士が作成したものであるとしても,いか
なる資料に基づいてどのような目的のために作成した表か不明であ
り,信用できるものではない。また,被告らは粗利益率の高さは詰替
以外の事業に起因するものである旨主張するが,この点も信用できな
い。
被告ハマ・コーポレーションの粗利益率についても,計算鑑定書1
0ページ(5)「財務状況について」に記載されている同社の財務諸表
に基づき算定すると,被告大東貿易と同様に約2割となること,被告
ハマ・コーポレーションも被告大東貿易と同様に,レンズ付きフイル
ム詰替品の販売以外に特に他事業は行っていないものと考えられるこ
とに鑑みれば,被告大東貿易と同様に約2割と考えるのが合理的であ
る。
②控除されるべき変動経費
「()」,特許法102条2項における侵害の行為によりる利益とは
侵害者が侵害行為によって得た売上額から,製造原価・販売原価のほ
か,侵害者が当該侵害行為たる製造・販売のために必要とした変動経
費を控除した額を意味する。その際,粗利益から控除されるべき変動
経費は,侵害者が当該侵害行為に及んだことにより増加したと認めら
れる費用に限るべきである。そして,特許法102条2項が権利者の
立証責任を緩和するための規定であることに鑑みれば,ある費用項目
が,粗利益から控除されるべき変動費に該当することについての証明
責任は侵害者が負担し,変動費であることを認めるに足りる証明が侵
害者によりなされない場合には,その費用の控除は認められないもの
と解するのが相当である。また,変動費に該当するかどうかという事
実は,通常,侵害者側の内部事情に関するものであって,権利者側に
必ずしも明らかな事実ではないから,証明責任の所在をこのように解
することが,民事訴訟における証明責任分配の基本理念である公平の
観点にも合致する。
このような考え方に従えば,被告大東貿易について,計算鑑定書に
おいて販売経費として記載された販売員給与及び発送配達費(計算鑑
定書7ページ(3)【大東貿易の販売費内訳】参照)の大部分は,変動
費に該当しないことが明らかである。
すなわち,販売員給与は,被告大東貿易において,被告ら製品以外
のレンズ付きフイルム詰替品(原告製品以外の他社製品詰替品)の輸
入・販売事業も行っていたものであり,同社の事業規模に鑑みれば,
「販売員」は,当然これら被告ら製品以外のレンズ付きフイルム詰替
品の輸入・販売事業にも従事していたものと考えられ,そうすると,
販売員給与は,被告ら製品の販売数との関係のみにおいて発生するも
のではなく,被告大東貿易が行うレンズ付きフイルム詰替品輸入・販
売事業全体との関係で発生するものであるから,被告大東貿易による
侵害行為との関係において控除されるべき変動経費に該当しないこと
は明らかである「販売員」が被告ら製品の輸入販売のためにのみ雇。
われていたことを裏付ける証拠は何ら存在せず,現に計算鑑定書10
ページ(5)「財務状況について」における被告大東貿易の総売上高7
ページ(3)【大東貿易の販売費内訳】における「販売員給与」が占め
る割合は全く一定ではない上,合計売上高が年度ごとに増減している
のに対して,販売員給与は一定の値を平坦に推移していることからみ
ても,販売員給与を固定費として考えるべきである。
また,その他の販売経費のうち「発送配達費」についても,全体,
の売上高との関係でその割合を年ごとに伸ばしていることから,売上
に応じ変動する変動経費として捉えることは相当でない。
以上,販売員給与と発送配達費を変動費に算入しないで,被告大東
貿易が被告ら製品の輸入販売にあたって必要とした変動費を計算,す
なわち,計算鑑定書7ページ(3)【大東貿易の販売費内訳】記載の各
期ごとの販売費合計から販売員給与及び発送配達費を控除すると,そ
の額及び被告大東貿易の売上高全体(計算鑑定書10ページ(5)【大
】),東貿易の財務状況記載の各期毎の売上高に占める変動費の割合は
以下のとおりとなる。そうすると,被告大東貿易における変動費の割
合は,多く見積もっても被告ら製品の売上高の1パーセントを超える
ものではない。
期変動費額売上高に占める変動費割合
平成13年2月期264万2000円0.69%
平成14年2月期266万2000円0.67%
平成15年2月期244万7000円0.55%
平成16年2月期218万8000円0.86%
平成17年2月期105万3000円0.42%
また,被告ハマ・コーポレーションにおける変動費の割合も,被告
大東貿易についてと同様の理由により,被告ら製品の売上高の1%を
超えるものではない。
c)脱退原告の損害額
以上,本件における特許法102条2項所定の侵害者利益の率(売
上高に占める率)は,上記粗利益率20%から変動費率1%を差し引
いた19%と解するべきである。
この率をもとに,侵害者利益を計算すると,全売上高に基づいて計
,,,算した場合には被告大東貿易について1億1785万6240円
被告ハマ・コーポレーションについて,224万6180円,仮に計
算鑑定書記載の製造元区分に従って計算した場合には,被告大東貿易
について,5596万4900円,被告ハマ・コーポレーションにつ
いては上記と同様224万6180円となる。
特許法102条2項に基づく請求において,侵害者が複数存在する
場合,算出された合計額について連帯して損害を賠償することを請求
することができると解されるから,被告らが脱退原告に対し,連帯し
て損害賠償責任を負うべき額は,上記侵害者利益の合計1億2010
万2420円(予備的に,製造元区分に従って計算した5821万1
000円)である。
(2)特許法102条3項に基づく損害額(予備的主張(争点3イ)につい)

ア損害額は1億円を下らないこと
a)実施料率
,.,,以下の事情を考慮すると68%より高い率少なくとも10%が
「特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額」の算定にあたり,基準と
されるべきである。
①一般的ライセンス契約の場合の実施料率
精密機械器具(カメラを含む)の分野におけるライセンス契約で。
イニシャル無しの場合,売上高の6.8%をもって実施料率とするの
が平均的である。
②本件各特許発明の技術的価値及び同種侵害行為の抑止の観点の斟酌
本件特許発明1は,使用済みのレンズ付きフイルムユニット本体部
を明室で簡単に分解し,撮影済みのフイルムを露光することなく取り
出すことを可能とし,本件特許発明2は,簡易な手段でパトローネ内
スプールと巻き上げ用ノブが係合することを可能にし,最初のコマ位
置設定のくるいを防止したもので,本件各特許発明の発明としての価
値はレンズ付きフイルムにとって極めて高い。
さらに,フイルム詰替品製造販売業者に対し,脱退原告が特許法1
02条3項に基づいて損害賠償請求を行っても,通常のライセンス契
約と同じ実施料率基準で「実施に対し受けるべき金銭の額」が認定さ
れるにすぎないとすると,かえって契約条項上の制約が存在するライ
センス契約など締結せず,特許権侵害行為を行ったほうが得をすると
いう状況を誘発する。このような事態を防ぐためにも特許法102条
3項の「実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに
あたっては,単に通常のライセンス契約事例における実施料率のみを
基準とするのではなく,同種侵害行為を抑止する観点も加味すべきで
あり,このような観点は,特許法102条3項の趣旨にも沿う。
b)脱退原告の損害額
以下のとおり,1億円を下らない。
損害額=被告ら製品の合計売上高(単価×売上台数)×実施料率
=250円(上記(1)アb)②)×400万個(上記(1)アa))
×0.1(上記アa))
=1億円
イ念のため,計算鑑定結果に基づき算定すると,以下のとおりとなる。
a)被告大東貿易について
①被告ら製品の合計売上高を前提とした場合
(FESTIVALの売上高+トロウ君の売上高)×実施料率
=(5億9749万6000円+2280万円(上記(1)イa)①))
×0.1(上記アa))
=6202万9600円
②被告ら製品の製造区分に基づく売上高を前提とした場合
(FESTIVALの売上高+トロウ君の売上高)×実施料率
=(2億8533万2395円+914万9268円(上記(1)イa)
②)×0.1(上記アa)))
=2853万3239円
b)被告ハマ・コーポレーションについて
(FESTIVALの売上高+トロウ君の売上高)×実施料率
=(1031万3000円+150万9000円(上記(1)イa)①))
×0.1(上記アa))
=118万2200円
c)脱退原告の損害額
複数の侵害者に対して,各自特許法102条の規定に基づき損害賠償
請求がされている場合には,最も高額の損害額について侵害者全員が連
帯して責任を負うものと解されるから,被告大東貿易について計算され
た6202万9600円(製造区分に基づく仮定的主張として2944
万8166円)につき,被告らは,連帯して特許法102条3項に基づ
く損害賠償責任を負う。
〔被告らの主張〕
承継参加人の主張を否認し争い,特に以下の点について反論する。
(1)販売数量について
被告ら製品のうち原告製品の詰替品の販売数量は,計算鑑定書に記載され
た「製造元区分」で「富士」とされているものである。
「」,,,FESTIVALは計算鑑定書に記載されているように脱退原告のほか
訴外コニカ社,訴外コダック社の製品も使用している。承継参加人は,日本
カラーラボ協会の調査等を根拠にこれを否定するが,十分な根拠を有してい
るとはいい難い。また,紙ケースはメーカーのボディによって変えている場
合もあるが,その場合でも,被告らが販売している訴外コニカ社の詰替品の
FESTIVALFESTIVALNEW名称は訴外コダック社の詰替品もあるいは「」,「」「
」であって,メーカーが異なっても名称は同じ「」FESTIVALFESTIVAL
である。さらに,承継参加人は,計算鑑定人が弁論準備手続において「売(
上台帳中の製造販売元の記載は)後で全体を作った可能性はある」とコメン
トしたと主張するが,このコメントはあくまで可能性として述べたものにす
ぎない。
(2)粗利益率について
承継参加人は,計算鑑定書に現れた数値に基づく粗利益率は低廉にすぎる
と主張する。しかし,被告大東貿易らの税務担当税理士であるB税理士(な
お,同税理士は,計算鑑定人による調査の際に立ち会っている)作成の表。
(被告ら準備書面(7)添付別表)の同社における過去5期分の全体の売上
原価のうちの,トロウ君の売上原価率とその他の売上原価率を算FESTIVAL
出したものをみると,全体の売上原価率は20.35%となるが,そのうち
,トロウ君の売上原価率だけを取り上げてみると,12.45%FESTIVAL
となり,被告大東貿易において,全体の粗利益は,レンズ付きフイルムユニ
ットではなくそれ以外のカラケースや飲食店において高く,それによって全
体の粗利益率が20%となっていることがわかり,計算鑑定書に現れた粗利
益率がほぼ妥当であることが裏付けられる。また,承継参加人は,被告らが
サンプル提出を拒んだことを論難するが,被告らがこれを拒んだのは,その
必要性がないからであって,事実を隠蔽するような意図は全くない。
(3)控除されるべき変動経費について
承継参加人は,販売経費の大部分は粗利益から控除されるべき変動経費に
該当しないと主張するが,販売員経費については,計算鑑定書において正し
く判断されたとおり,販売経費割合についての実績値平均をもって損害額を
計算することが妥当であり,その他の販売費も,商品の性質からして変動経
費であることは明らかである。
第4当裁判所の判断
1被告ら製品は本件特許発明1の構成要件A4ひいてはEを充足するか争()(
点1)について
(1)被告ら製品が本件特許発明1の構成要件A4を充足するか否か判断する
にあたっては,同構成要件「撮影後にフイルムを取り出したのちは再使用で
きないようにされた」にいう「再使用できないようにされた」の意義が問題
となる。
本件明細書1の「発明の詳細な説明」欄には,本件特許発明1に係る従来
技術の問題点を解決する試みの例として「レンズ付きフイルムユニツトに35
ミリ幅のフイルム(135フイルム)を用いる試みがなされている。また,こ
の35ミリ幅のフイルムとして,国際標準規格(:1007−1979年版)で規ISO
定されたパトローネ付きのものを利用して,レンズ付きフイルムユニツトを
分解又は破壊しなくては,これを取り出せないような構造にしておくと,ユ
ーザーには再利用できず,フイルム現像所では現行の現像処理システムを使
用することができるレンズ付きフイルムユニツトが考えられる」との記載。
があり(甲2の4欄39行ないし5欄5行,また,本件特許発明1の実施)
例の説明として「裏蓋3は,本体基部2に超音波溶着などによって固着さ,
れ,ユーザーはこれを取り外すことができないようになっている(甲2。」
の8欄15ないし17行)と記載されている。
上記各記載に照らせば,本件特許発明1の構成要件A4における「再使用
できない」というのは,レンズ付きフィルムユニットを購入した一般消費者
によって再使用することができないという意味に解するのが相当である。
,()(),(2)被告ら製品は前カバー11及び裏蓋13と本体部(12)とは
一部爪(フック)で係合された後,遮光性粘着テープで固着されるなどの構
成を採っており,撮影後に上記テープを剥がすだけでフイルムを詰め替えて
再使用できるわけではなく,裏蓋などを本体から外すために,無理に力を加
えて爪係合部をはずそうとすると,爪等がさらに破損することがある上,裏
蓋などをはずした後に,フイルムロールを形成し,パトローネをパトローネ
室に,フイルムロールをフイルムロール室にそれぞれ装填した上,裏蓋とユ
ニット本体部の爪係合部を係合させ,遮光性粘着テープを用いて裏蓋をユニ
ット本体部に固定するなどの作業を経なければ詰め替えができないものであ
り,しかも,上記の作業のうち,フイルムロールの形成から裏蓋のユニット
本体部への固定に至る作業は,暗室で行わなければならないものである(前
記第2の1(3))④ないし⑥,⑩ないし⑯参照。b)
そうすると,被告ら製品は,一般消費者がフイルムを露光させることなく
詰め替えることが困難な構造であり,撮影後にフィルムを取り出した後は再
利用できないものというべきである。
したがって,被告ら製品は,構成要件A4「撮影後にフィルムを取り出し
たのちは再使用できないようにされた」を充足するものである。
(3)被告ら製品が,本件特許発明1のその余の構成要件(構成要件A1ない
し3,5,B1ないし3,C1及び2,D1ないし3)を充足することは,
第2の1(4)ア記載のとおり当事者間に争いがないから,被告ら製品は,構
成要件Eをも充足する。
,,。よって被告ら製品は本件特許発明1の技術的範囲に属するものである
2脱退原告ないし承継参加人の本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求の
許否(争点2)について
(1)被告ら製品について本件各特許権は消尽したか(争点2ア)について
ア本件各特許発明(物の発明)に係る特許権の消尽
本件については,事案の内容に鑑み,インクカートリッジ大合議判決の
第2類型(特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部
分すなわち技術的思想の中核をなす特徴的部分を構成する部材の全部又は
)。一部につき加工又は交換がされた場合に当たるか否かについて判断する
なお,本件において,第2類型を適用する根拠は次のとおりである。特許
製品につき第三者により新たに特許発明の本質的部分すなわち技術的思想
の中核をなす特徴的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交
換がされた場合には,特許権者が特許法上の独占権の対価に見合うものと
して当該特許製品に付与したものは残存しない状態となり,もはや特許権
者が譲渡した特許製品と同一の製品ということはできないのであるから
(インクカートリッジ大合議判決参照,このような場合には,特許発明)
の本質的部分を構成する部材の全部又は一部に,特許製品に使用されてい
た中古の部材を取り付けて新たな製品の生産行為をなしたものとみるのが
相当である。特許権者は,このような場合には,当該特許発明の生産行為
があったものとして当該製品について特許権に基づく権利行使をすること
が認められるべきである。
イ本件特許権1について
)本件明細書1の「発明の詳細な説明」欄には,本件特許発明1についa
て,以下の記載がある(甲2。)
〔従来技術〕
・・・ところで,110フイルムカートリツジ等を利用する上述のレ
ンズ付きフイルムユニツトでは,フイルムの画面サイズが小さいこと
から,プリントサイズを大きくしたい場合等には鮮明なプリント写真
が得にくくなつてくる。このような点からレンズ付きフイルムユニツ
トに35ミリ幅のフイルム(135フイルム)を用いる試みがなされてい
る。また,この35ミリ幅のフイルムとして,国際標準規格(ISO:100
7−1979年版)で規定されたパトローネ付きのものを利用して,レン
ズ付きフイルムユニツトを分解又は破壊しなくては,これを取り出せ
ないような構造にしておくと,ユーザーには再利用できず,フイルム
現像所では現行の現像処理システムを使用することができるレンズ付
きフイルムユニツトが考えられる。
〔発明が解決しようとする問題点〕
しかしながら,上記のパトローネ付き35ミリフイルムをレンズ付き
フイルムユニツトに内蔵する場合には新たな問題が生じてくる。すな
,,わちパトローネは未露光のフイルムを遮光状態で収納しているから
レンズ付きフイルムユニツトの本体部にこれを組み込む作業は容易に
行うことができるが,レンズ付きフイルムユニツトの使用後には,撮
影済みのフイルムがパトローネから引き出された状態となつており,
これを本体部から取り出す作業は暗室で行わなくてはならない。この
ような暗室作業は,大量の現像処理を考慮したときには非常に煩わし
いものになる。
また,パトローネから引き出された状態の露光済みフイルムを再び
パトローネ内に巻き戻すようにすれば,明室でのフイルム取り出し作
業が可能になるが,レンズ付きフイルムユニツトにフイルム巻き戻し
,。,機構を設けなくてはならずコストアツプを招くことになるさらに
現像所では回収されたレンズ付きフイルムユニツトの全てについて巻
き戻し作業が必要になり,明室での作業が可能になるとは言え,作業
効率の点からはあまり好ましいものではない。
本発明は以上のような背景に鑑みてなされたもので,レンズ付きフ
イルムユニツトのコストアツプを招くことなく,その本体部から明室
で簡単に撮影済みフイルムを取り出すことができるようにしたレンズ
付きフイルムユニツト,及びその製造方法を提供することを目的とす
る。
〔問題点を解決するための手段〕
第2の1(2)アh)記載の構成要件AないしDに同じ。
〔実施例〕
本発明の第1実施例のレンズ付きフイルムユニツトの外観を示す第
3図において,ユニツト本体1はプラスチツクの成形によつて作製さ
れた本体基部2と,本体基部2の背面側の開口を光密に閉鎖する裏蓋
3とからなる。本体基部2には撮影レンズ4,フアインダ窓5,レリ
ーズボタン6が設けられている他,内部にはシヤツタ,フイルム巻き
上げ機構などの撮影機構を内蔵している。前記裏蓋3は,本体基部2
に超音波溶着などによつて固着され,ユーザーはこれを取り外すこと
ができないようになつている。さらに好ましくは,図示しない紙箱に
,,よつてユニツト本体1を常時覆うようにしこの紙箱に撮影レンズ4
レリーズボタン6を露呈させるための穴を開設し,これらの穴を通し
て操作できるようにしておく。
本体基部2に裏蓋3を取り付ける前の状態を示す第1図において,
本体基部2には背面から底面にわたる開口2aが形成され,この開口
2aを光密に遮蔽するように裏蓋3の形状が決められている。前記本
体基部2には,露光枠10を挟むように未露光フイルムロール室(以
下,単にフイルムロール室という)11及びパトローネ室12が設け
られている。パトローネ室12の上壁には,巻き上げノブ8の操作に
連動し,図中反時計方向に回動するフイルム巻き上げ用のフオーク1
4が突出している。また,前記露光枠10が形成されたフイルム支持
面15は,図示のように裏蓋3側に隆起しており,その上部にはスプ
ロケツト16が臨出している。
前記本体基部2と裏蓋3とからなるユニツト本体1内には,その組
立時に予め35ミリ幅のフイルム21を遮光して収納するためのパトロ
,,ーネ20とこのパトローネ20から引き出されたフイルム21とが
,。前記フイルムロール室11パトローネ室12にそれぞれ装填される
ここで用いられるパトローネ20及びフイルム21は,国際標準規格
で規定されたものであり,フイルム21の後端はパトローネ20に設
けられた巻芯28に固着されている。
この装填作業に際し・・・フイルムロール23及びパトローネ20
それぞれを・・・フイルムロール室11,パトローネ室12に挿入,
し・・・この結果,パトローネ20はパトローネ室12内に残され,
またフイルムロール23はフイルムロール室11に置かれるようにな
る・・・。
しかる後に,裏蓋3が開口2aを遮光するように被せられ,超音波
溶着によつて本体基部2に固着される。裏蓋3の内面には,本体基部
2側のフイルム支持面15と同じように湾曲したフイルム規制面30
が形成されている。したがつて,フイルム21を上から押さえつける
,,ようにして裏蓋3を本体基部2に被せこれを固着することによつて
上側に湾曲されたフイルムの展延部分26は,第2図に示したように
フイルム支持面15に圧着され,フイルム面が浮き上がつたり,波う
つたりすることなく,所定の露光位置に位置決めされる。また,この
ときスプロケツト16がパーフオレーシヨンに噛み合うようになる。
もちろん,フイルム規制面30の一部には,スプロケツト16の突出
部分を受け入れるための開口が設けられている・・・。
以上のフイルム装填及び裏蓋3の取り付け作業は,いずれも暗室で
行う必要があるが,フイルムの装填は軸方向から,そして裏蓋3の取
り付けはフイルム面の上からというように単純化されているから,こ
れらの作業は前述のような装填治具等を用いることによつて,簡単に
自動化することができるようになり,組立コストを低減する上で非常
に有効である・・・。
レリーズボタン6を操作するとシヤツタ35が開閉し,露光枠10
に位置しているフイルムの展延部分26に露光が行われる。その後,
巻き上げノブ8を回動操作すると,フオーク14を介して巻芯28が
回動するから,露光済みのフイルムはパトローネ20に巻き込まれて
ゆく。これとともに,フイルムロール23から次のフイルムコマが露
光枠10の位置に供給され,スプロケツト16がフイルムの供給に従
動して回転する。そして,スプロケツト16の回転によつて1コマ定
尺送りが検出されると,巻き上げノブ8がロツクされ次の撮影準備が
完了することになる。
このようにして撮影を繰り返してゆくことによつて,露光済みのフ
イルムは順次パトローネ20に巻き込まれてゆく。そして,撮影を完
了した後には,そのままの状態で現像所に送られる。現像所で処理を
行うときには,分解用の治具等を利用して裏蓋3を取り外すことによ
つて,従来と同じ状態の撮影済みパトローネを取り出すことができ,
それ以降は従来通りの処理でフイルム現像,プリント処理を行うこと
ができる。
なお,現像所においてパトローネ20の取り出し作業を簡易化する
ために,裏蓋3の底部にプルトツプ式でパトローネ取り出し用の開口
が形成されるようにしておくと便利である。すなわち,第1図に示し
たように,パトローネ室側の裏蓋3の底面内壁に破損させやすい溝3
7を,また外壁には突起38を一体成形しておく。これによれば,突
起38に指を引つ掛けてこれを引けば,溝37に沿つた開口ができる
から,この開口から撮影済みのパトローネ20を取り出せるようにな
る。しかも,これによりユニツト本体1が部分的に破損されてしまう
ので,繰り返し使用の精度保証のないフイルムユニツト本体1が再使
用されるという事態を防止できるようになる・・・。
〔発明の効果〕
・・・撮影のたびごとに撮影済みのフイルムはフイルム容器に収納
されてゆくから,撮影が済み現像所に回収されたレンズ付きフイルム
ユニツトを明室で分解しても,撮影済みのフイルムを不用意に外光に
曝してしまうというような事故は確実に防止され,現像処理作業を複
雑化させずに済むようになる。
・・・未露光フイルムをパトローネから引き出すための機構をユニ
ツト本体に設備することが不要となり,レンズ付きフイルムユニツト
のコストを大幅に安くし,且つ体裁も良くすることができる。また,
撮影者は,通常のカメラ操作と同じように,撮影後に巻上げノブを回
すだけでよいから操作が簡単で,誤操作を招くことがない。
)本件明細書1の上記記載によれば,従来技術においては,撮影済みのb
フイルムがパトローネから引き出された状態となっている場合には,こ
れを本体部から取り出す作業は暗室で行わなくてはならず,非常に煩わ
しいこと,パトローネから引き出された状態の露光済みフイルムを再び
パトローネ内に巻き戻すようにすれば,明室でのフイルム取り出し作業
が可能になるが,レンズ付きフイルムユニツトにフイルム巻き戻し機構
を設けなくてはならず,コストアツプを招き,さらに,現像所では回収
されたレンズ付きフイルムユニツトのすべてについて巻き戻し作業が必
要になり,作業効率の点から好ましくないことという問題があったもの
であり,本件特許発明1は,上記問題を解決するために,パトローネか
ら予め引き出された未露光フィルムをフィルムロールとしてフィルムロ
ール収納部に装填し,撮影の度に撮影済みのフィルムがパトローネに収
納されていく構成を採用した点に,従来のレンズ付きフイルムユニット
にはみられない技術的思想の中核を成す特徴的な部分がある。以上から
すれば,本件特許発明1の本質的部分は,レンズ付きフイルムのフイル
ム露光枠の一方側に未露光フイルムロールを配置し,もう一方の側に回
転可能な巻芯を内部に有するパトローネを配置して未露光フイルムの一
端をパトローネの巻芯に固定する構成要件B,パトローネ内にフイルム
巻き取りの操作手段を連結させてシャッタ手段操作後にフイルムをパト
ローネ内に巻き取り可能とする構成要件C,未露光フイルムロールが製
造工程においてパトローネから引き出された状態で形成されているとす
る構成要件Dにあると認められる。
そして,撮影後に現像に出され,撮影済みのフイルムが抜かれた後の
原告製品は,内蔵されていたフイルム及びパトローネが存在しなくなっ
ているため,本件特許発明1の構成要件AないしEのすべてを充足しな
いものである。そして,撮影済みの原告製品を用いて被告ら製品を製造
する工程は,前記第2の1(3))のとおりであり,市販されているフイb
ルムからフイルムロールを形成し(第2の1(3))⑬,巻き上げノブb)
にスプールを挿入し,パトローネ室にパトローネを収納し,フイルムに
形成されているパーフォレーションとスプロケットをかみ合わせ,フイ
ルムロールをフイルムロール室に装じんする工程(第2の1(3))⑭,b
⑮)を含むものである。これらの工程を経て,本件特許発明1の本質的
部分である構成要件B,C,Dを充足する被告ら製品が製作されること
となる。
そうすると,このような被告ら製品を製作する行為は,特許製品中の
特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交
換するものであるから,被告ら製品は,前記第2類型に該当するものと
認められる。すなわち,被告ら製品の上記製作行為は,本件特許発明1
の本質的部分を構成する部材の全部又は一部に,原告製品の中古部品を
,,取り付け組み立てる行為であるとも評価することができる行為であり
本件特許発明1の実施品の生産行為に当たる。
)被告らは,パトローネ付きフイルムは印刷用紙などと同様の消耗品でc
交換が予定されているものであるから,市場における特許製品の自由な
流通の見地から本件特許発明1の本質的部分を構成する部材に含まれ
,,,ず本件特許発明1の本質的部分を構成する部材はフイルムロール室
パトローネ室,パトローネ内の巻芯と連結できる巻き取り操作手段を構
成する部材であるところ,被告らはこれらの部材に何ら手を加えていな
いから,第2類型に該当しない旨主張する。
しかし,第2類型にいう「本質的部分」に該当するか否かは,もっぱ
ら当該特許発明の技術的思想の観点から判断されるべきものであって,
当該部分が消耗品であるかどうかや市場における自由な流通の観点から
の考慮によって判断が左右されるものではなく,前記のフィルムロール
の形成と同ロールをフィルムロール室に装じんする工程が,本件特許発
明1の本質的部分である部材の全部又は一部の加工又は交換に当たるこ
とは前記のとおりである。そもそも,第2類型に該当するものは,もは
や特許権者が特許発明の公開の対価を取得した特許製品と同一の製品と
いうことができないものであるから,これに対して特許権の効力が及ぶ
ことは当然であるし,特許権の効力が及ばないとすると,特許製品の新
たな需要の機会が奪われることとなって特許権者が害されることになる
のであるから,特許権の行使が認められるべきものである。被告らの主
張は失当である。
ウ本件特許権2について
)本件明細書2の「発明の詳細な説明」欄には,本件特許発明2についa
て,以下の記載がある(甲4。)
〔従来の技術〕
【0003】レンズ付きフイルムユニットに内蔵された135フイルム
は,ISO規格で決められているように,撮影枚数に対して幾分余裕
のあるフイルム長となっている。この余裕分を積極的に利用し,例え
ば24枚撮りのフイルムを内蔵しながらも,27枚まで撮影できるよ
うにした「写ルンですエコノショット(商品名)が最近では販売」
されている。
【0004】このように,ISO規格に準拠した長さの24枚撮りフイ
ルムで27枚まで撮影ができるようにするには,ユニット本体にパト
ローネ及びフイルムを内蔵するときに,フイルムの最初のコマ位置を
正確に設定しておかなくてはならない。というのは,最初のコマ位置
設定時のバラツキによって,例えば半コマ分のフイルムがパトローネ
側に送られた状態でレンズ付きフイルムユニットを組み立てたとする
と,テスト工程でさらに1∼2コマのフイルムが送られることを考慮
すると,ユーザーが27枚の撮影ができなくなるおそれが生じるから
である。
【0005】パトローネをユニット本体のパトローネ室に組み込む際に
は,ユニット本体に設けられたフイルム巻き上げ用のノブとパトロー
ネに内蔵されたスプールとを係合させる必要がある。従来のスプール
ではその端部に設けられた係合片が180°の回転対称形状であり,
またこれに対応してフイルム巻き上げ用のノブも180°の回転対称
形状をもつ係合キーが形成されているため,最悪の場合,これらを係
合させるには一方を他方に対して180°近く回転させなければなら
ないことがある。
〔発明が解決しようとする課題〕
【0006】ところが,フイルムの組み込みを行うときには,シャッタ
機構部のテスト工程を考慮し,シャッタ機構部を一定の状態,例えば
シャッタチャージが完了する直前の状態にしている。したがってシャ
ッタ機構部と連動関係にあるスプロケットやフイルムカウンタ,さら
にはフイルム巻止め機構の状態も一義的に決められ,これに伴ってフ
イルム巻き上げ用ノブの回転位置も一義的に決まっている。したがっ
て,フイルムの組み込み時に前記ノブの回転位置を適宜調節してスプ
ールの係合片の向きに合わせることができない。
【0007】一方,フイルムの組み込みに先立ってパトローネからフイ
ルムを引き出すときに,その引出しの終了時にパトローネとフイルム
との間に大きなテンションをかけた状態にすると,フイルムが伸びた
り,フイルムが幅方向にカーリングしてユニット本体に組み込みにく
くなることから,パトローネとフイルムとの間に大きなテンションが
生じる前にフイルムの引出しを終えるようにしている。このため,フ
イルムの引出し工程を終えた時点で,スプールの回転位置に多少のバ
ラツキが生じてしまい,そのままの回転位置ではスプールの係合片を
前記ノブの係合キーに係合させることができなくなることがある。こ
うした場合には,係合キーに合わせてスプールの回転位置を調節しな
くてはならないが,このときにスプールを180°近く回して合わせ
たのでは,フイルムの最初のコマ位置設定にくるいが出てしまい,予
定した撮影枚数分の撮影ができなくなるおそれが生じる。
【0008】この点に関し,特開昭63−271326号公報で知られ
るように,巻上げノブの軸部の外周に軸方向に延びた複数のリブを形
成し,スプールの係合片と即座に噛み合わせるようにしたものがある
が,スプール側の構造は従来どおりであるので,レンズ付きフイルム
ユニットの製造時に予め装填されたフイルムを使用した後にこれを取
り出し,新たなパトローネを装填すればそのまま使用できるようにな
り,不正な詰め替え使用を防ぐことができない。
【0009】本発明は上記事情を考慮してなされたもので,レンズ付き
フイルムユニットにフイルムを組み込むにあたり,最初のコマ位置設
定が大幅にずれることがないようにし,さらには不正な詰め替え使用
を防ぐことができるようにしたレンズ付きフイルムユニット及びその
製造方法を提供することを目的とする。
〔作用〕
【0011】上記スプールの外形寸法は,135フイルムパトローネの
スプールに関するISO規格に定められた範囲のものであってもよ
く,あるいはその範囲外のものであってもよい。また,上記ISO規
格ではスプールの軸孔の奥に180°の回転対称形状をした板状の係
合片があるが,この係合片の上方で180°以下のピッチの内歯と外
歯を噛合させる構造にすることによって,スプール自体はISO規格
を満たしながらも,内歯と外歯によりきわめてわずかの回転調節をす
るだけ巻上げノブとスプールとの係合が得られる。そしてスプールの
外形形状そのものは,前記係合板を含めてISO規格を満たしている
から,このようなスプールをもったパトローネは,従来のフイルムパ
トローネ製造装置やレンズ付きフイルムユニット製造装置,従来のラ
ボ機器にそのまま用いることも可能である。
【0012】また,巻上げノブの外歯をスプールの内歯に噛合させるよ
うにしたから,スプールに内歯がない通常のスプールをもったパトロ
ーネはこのレンズ付きフイルムユニットに詰め替え使用することがで
きず,一般ユーザーによる不正なフイルム詰め替えを防ぐ上でも有効
である。
〔実施例〕
(文中の図1は本判決末尾添付の特許公報2記載の図1であり,図3,
図6,図9についても同様である)。
【0014】スプール7の端部には,カメラやレンズ付きフイルムユニ
ットの巻取り用の駆動軸が入り込む軸孔3が形成され,スプール7の
端縁から寸法D(=3.5mm)の深さ位置には,軸孔3を横切るよ
うに係合片10が一体化されている。係合片10は一対の突片からな
っており,スプール7を半回転するごとに同じ係合姿勢となる・・。
・以上,図1参照)(。
【0015】軸孔3が設けられた側のスプール7の端部内壁には,深さ
Dの位置までキー溝12が形成されている。キー溝12は,図3に示
したように軸方向に延びた多数の内歯12aを一定ピッチで配列した
,()。ものでピッチ角θ1は12°内壁全周を30等分になっている
・・・
【0020】本体基部20にはフイルム巻き上げノブ27が回転自在に
組み込まれている。図6に示したように,フイルム巻き上げノブ27
の底面には駆動軸28が一体化されており,この駆動軸28がパトロ
ーネ室24の上壁から突出した状態になっている。駆動軸28の外周
には周方向に一定ピッチで配列され,軸方向に延びた複数の外歯から
なる係合歯30が形成され,パトローネ室24にフイルムパトローネ
2を挿入すると,駆動軸28がスプール7の軸孔3に嵌入し,係合歯
30がキー溝12と噛み合う・・・以上,図9参照)。(
【0022・・・そして,フイルム巻き上げノブ27とスプール7と】
の係合は,係合片10の回転位置にかかわらず,係合歯30とキー溝
12との間で行われるため,最大でもスプール7を内歯12aの半ピ
ッチ分だけ回転調節するだけで両者を係合させることができる。
【0023】スプール7をこの程度回転してフイルム7を巻戻したとし
ても,その巻戻し長は高々0.5mm程度であるので最初のコマ位置
。,設定にはほとんど影響がないしたがってフイルムロール室25には
ほぼ予定したとおりの長さのフイルム7を確保しておくことができ,
24枚撮りフイルムであっても確実に27枚までの撮影を保証するこ
とができるようになる。
〔発明の効果〕
【0029】
・・・パトローネの組み込み工程中に,巻上げノブやパトローネの
スプールの回転位置を調節しなくても両者が簡単に噛み合うようにな
る。したがって,最初のコマ位置設定がほとんどずれることなく,簡
。,,単にパトローネの組み込みを行うことができるまたパトローネは
ISO規格に準拠した外形寸法と係合片とを有しているので,従来の
レンズ付きフイルムユニット製造装置や従来のラボ機器に何ら改修を
加えずに使用することができる。
)本件明細書2の上記記載によれば,従来技術においては,パトローネb
に内蔵されたスプールはその端部に設けられた係合片が180°の回転
対称形状であり,またこれに対応してユニット本体に設けられたフイル
ム巻き上げ用のノブも180°の回転対称形状をもつ係合キーが形成さ
れているため,最悪の場合,これらを係合させるには一方を他方に対し
て180°近く回転させなければならず,フイルムの最初のコマ位置設
定にくるいが出てしまい,予定した撮影枚数分の撮影ができなくなるお
それが生じること,レンズ付きフイルムユニットの製造時に予め装填さ
れたフイルムを使用した後にこれを取り出し,新たなパトローネを装填
すればそのまま使用できるようになり,不正な詰め替え使用を防ぐこと
ができないことという問題があった。本件特許発明2は,上記問題を解
決するために,巻上げノブの駆動軸の外周に180度以下の一定ピッチ
で外歯を形成し,スプールに形成した軸孔内壁に,180度以下の一定
ピッチで前記外歯が噛み合う内歯を形成し,巻上げノブの回動操作が,
前記外歯と内歯との噛合によりスプールに伝達される構成を採用した点
に,従来のレンズ付きフィルムユニットにはみられない技術的思想の中
。,,核を成す特徴的部分があるすなわち本件特許発明2の本質的部分は
構成要件B2,C4,Dにあると認められる。
そして,撮影後に現像に出され,撮影済みのフイルムが抜かれた後の
原告製品は,内蔵されていたフイルム及びパトローネが存在しなくなっ
ていることから,本件特許発明2の構成要件A,CないしEを充足しな
いものである。そして,撮影後の原告製品を用いて被告ら製品を製造す
る工程は,前記第2の1(3))のとおりであり,市販されているフイルb
ムのスプール(巻軸)に,原告製品の巻上げノブに嵌合できるキー溝を
形成し(第2の1(3))①,フイルムロールを形成し(第2の1(3))bb)
⑬,パトローネ,フイルムロールをカメラ部にセットする工程(第2)
の1(3))⑭,⑮)を含むものであって,これらの工程を経て,本件特b
許発明2の本質的部分である構成要件C4,Dを充足する被告ら製品が
製作されることとなる。
そうすると,このような被告ら製品を製作する行為は,特許製品中の
特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交
換するものであるから,被告ら製品は,前記第2類型に該当するものと
認められる。すなわち,被告ら製品の上記製作行為は,特許発明の本質
的部分を構成する部材の全部又は一部に,原告製品の中古部品を取り付
け,組み立てる行為であると評価することができるのであり,本件特許
発明2の実施品の生産行為に当たる。
)被告らは,本件特許発明2の本質的部分を構成する部材は,底面に突c
出した駆動軸を有する巻き上げノブ及びそれを可能にしたユニット本体
,,の構造部分でありパトローネ付きフイルムは消耗品で交換が予定され
そのスプールの上端に軸孔を設ける作業も困難でないから,そのような
部材は本件特許発明2の本質的部分を構成する部材といえず,したがっ
て,キー溝を形成する作業は,本件特許発明2の本質的部分を構成する
部材の全部又は一部につき加工又は交換をするものでない旨主張する。
しかし,第2類型にいう「本質的部分」に該当するか否かは,前述の
とおり,もっぱら当該特許発明の技術的思想の観点から判断されるもの
であって,当該部分が消耗品であるかどうかや作業の困難性の観点から
の考慮によって判断が左右されるものではない。被告の上記主張も失当
というほかない。
(2)被告ら製品の輸入・販売について,脱退原告による黙示の許諾があった
か(争点2イ)について
被告らは,特許製品が市場での流通に置かれる場合,譲受人が目的物につ
き特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等することがで
きる権利を取得することを前提として取引行為が行われるから,譲渡人・譲
受人との間で特段の合意をした場合を除き,当該特許製品を使用・再譲渡等
する権利を移転することについて黙示の許諾があった旨主張する。
特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において
当該特許発明にかかる製品を譲渡した場合に,当該特許製品については特許
権は消尽し,特許権者は,当該特許製品の使用,譲渡,又は貸渡等に対し,
,,特許権を行使することができないところそのように解する理由のひとつは
一般に譲渡においては,譲渡人は,目的物について有するすべての権利を譲
受人に移転し,譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するもので
あり,特許製品が市場での流通に置かれる場合にも,譲受人が目的物につき
特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることがで
きる権利を取得することを前提として,取引行為が行われるものであって,
仮に,特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するというこ
とになれば,市場における商品の自由な流通が阻害され,特許製品の円滑な
流通が妨げられて,かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し,ひい
ては「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の
発達に寄与する(特許法1条参照)という特許法の目的にも反することに」
なるということにある(最高裁判所平成9年7月1日第三小法廷判決。)
そうすると,本件において被告らが黙示の許諾として主張するものは,特
許権の消尽を認めるか否かにおいて考慮されているものであり,特許権の消
尽か,黙示の許諾かは,特許権の行使を認めない理由についての表現の違い
にすぎない。
そして,本件において特許権の消尽が認められないことは,(1)で検討し
たとおりであるから,これと別個に検討するまでもなく,被告らの上記主張
は採用することができない。
(3)脱退原告の本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求は権利濫用に該
当するか(争点2ウ)について
被告らは,被告ら製品の販売行為は,資源の再利用及び廃棄物の減少化と
いう観点から社会的に評価されるものであるにもかかわらず,自らリユース
の努力を怠っていた脱退原告が本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求
権を行使することは権利の濫用として許されない旨主張する。
しかし,特許法は,発明をしてこれを公開した者に特許権を付与し,その
発明を実施する権利を専有させるものであるから,発明につき特許権が付与
されたときは,第三者は,その行為が特許権侵害行為に該当すると判断され
る場合には,特許発明に係る製品の再使用や再生利用しやすい資材の製造,
販売等をすることができないのであり,この意味において特許法と環境保全
(,の理念との対立が生じることがあることはやむを得ないところである仮に
常に環境保全の理念を優先させ,上記のような場合に第三者が自由に特許発
明を実施することができると解すると,新たな技術開発への意欲や投資を阻
害することにもなりかねない。そうすると,たとえ,特許権の行使を認。)
めることによって環境保全の理念に反する結果が生ずる場合があるとして
も,そのことから直ちに,当該特許権の行使が権利の濫用等に当たるとして
否定されるべきいわれはない(インクカートリッジ大合議判決参照。)
また,脱退原告は,原告製品のリサイクル(原料まで戻して新しいものを
作ること)ないしリユース(原料まで戻さずに,修理が必要なものには修理
を施した上で,そのまま再使用すること)を行っており,当初生産された原
告製品と同一品質を有する製品を再生産している(甲8,9,10の1ない
し7,11の1ないし5,12の1ないし5,13の1ないし3,23。)
これに対し,被告ら製品は,遮光テープの糊や紙ケースを被せる際に使用す
る糊が,樹脂に付着し,洗浄では十分に分離できないため,樹脂部分の再利
,,用ができなくなったりフラッシュユニット等の本来リユース可能な部品に
脱退原告のロゴを消すために傷をつけるため,リユース(再利用)ができな
くなるなど,リサイクル,リユースの観点からも問題がある(甲7。した)
がって,資源の再利用及び廃棄物の減少化という観点からみて非難されるべ
きはむしろ被告らのほうであり,脱退原告の特許権行使が権利濫用であるな
どということはできない。よって,被告らの上記主張を採用することはでき
ない。
(4)被告らが本件特許権1の非侵害の主張をすることは訴訟上の信義則によ
って制限されるか(争点2エ)について
承継参加人は,被告らは,被告らの脱退原告に対する特許権差止請求権不
存在確認請求事件(当庁平成15年(ワ)第15702号,東京高裁平成16
年(ネ)第1563号)において,被告ら製品の販売が本件特許権1を侵害す
ることについて主張・立証を尽くし,またはその機会が与えられていたもの
であるから,被告らが本件特許権1の非侵害の主張をすることは訴訟上の信
義則によって制限される旨主張するので,念のため判断する。
上記の事件においては,被告ら製品が本件特許発明1の技術的範囲に属す
ることを前提としつつ,本件特許権1が特許法39条3項に違反し無効かど
うかが争点となったものであって,特許権の消尽及び権利濫用については,
控訴審において被告らが主張したものの,時機に後れた攻撃防御方法の提出
であるとして民事訴訟法157条1項に基づき却下され,具体的な立証等は
行われておらず,裁判所の判断も示されていない(甲5。このような事情)
に鑑みれば,被告らが,本件において,主に特許権の消尽及び権利濫用を主
張して本件特許権1の侵害の有無を争うことが,ただちに訴訟上の信義則に
反するということはできない。
(5)小括
以上によれば,脱退原告ないし承継参加人は,被告ら製品について,本件
各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権に基づく権利行使をすることが許
される。
3損害額(争点3)について
承継参加人は,本訴において,平成12年3月1日から平成17年2月末日
までの間における被告らによる被告ら製品の輸入・販売行為について,本件各
特許権侵害を理由とする損害賠償を請求している。本件特許権1は,平成2年
7月23日に出願公告され,平成6年10月7日に登録されてから現在まで存
続し,本件特許権2は平成13年5月25日に登録されてから現在まで存続し
ているから,被告らの上記行為は,平成12年3月1日から平成13年5月2
4日までの期間については本件特許権1を侵害するものであり,平成13年5
月25日から平成17年2月末日までの期間については,本件特許権1及び本
件特許権2を侵害するものである。
,,,承継参加人は主位的に特許法102条2項に基づいて損害賠償を請求し
,,,予備的に同条3項に基づいて損害賠償を請求しているものであるからまず
被告らが上記期間内に上記行為により得た利益の額を算定する。
(1)特許法102条2項に基づく損害額(争点3ア)について
ア被告ら製品の売上高
)売上高a
第2の1(3))記載のとおり,被告大東貿易は,被告ら製品(製品名a
「」及び「トロウ君)を輸入して,被告ハマ・コーポレーFESTIVAL」
ションを含む他の企業に販売し,被告ハマ・コーポレーションは,被告
大東貿易から仕入れた被告ら製品を販売している。そして,計算鑑定の
結果によれば,平成12年3月1日から平成17年2月28日までの間
の,被告らにおける「」及び「トロウ君」の各売上高は,別FESTIVAL
紙A「被告らにおける譲渡数量,売上高,平均販売価格について」の各
被告別の表の各「売上高」欄及び「トロウ君売上高」欄にそFESTIVAL
れぞれ記載したとおりであると認められる(計算鑑定書2ないし4ペー
ジ,計算鑑定書の補充書2の2ページ*2,3ページ*6,5ページ*
9,*10,6ページ*13,*14。)
)売上高に関する承継参加人の主張についてb
承継参加人は,脱退原告独自の調査結果(以下「原告調査結果」とい
う)に基づき,上記計算鑑定結果により認められるものに比べ多額の。
売上高があった旨主張する。例えば,譲渡数量は,承継参加人がその主
張の根拠とする原告調査結果によれば,平成13年2月期は103万個
ないし125万個,平成14年2月期は95万個ないし107万個,平
成15年2月期は49万個ないし120万個,平成16年2月期は74
万個と推計されるのに対し(甲24,計算鑑定結果によれば,被告ら)
各々の譲渡数量を合計したとしても平成13年2月期は99万7240
個,平成14年2月期は54万0117個,平成15年2月期は58万
8647個,平成16年2月期は26万6495個であり(別紙A「被
告らにおける譲渡数量,売上高,平均販売価格について」記載の各被告
「」「」。),別の表の各譲渡数量欄及びトロウ君譲渡数量欄参照FESTIVAL
原告調査結果と計算鑑定の結果の売上高の差は,主としてこの譲渡数量
の差に起因するものである(なお,販売価格は,被告大東貿易における
平成16年2月期及び平成17年2月期の「」及び「トロウFESTIVAL
君」の平均販売価格並びに被告ハマ・コーポレーションにおける平成1
7年2月期の「」の平均販売価格を除き,それ以外の時期のFESTIVAL
平均販売価格は,原告調査結果と大差ないか,むしろ高額な場合が多い
のであって,計算鑑定結果と原告調査結果とに大差がない。。)
しかし,計算鑑定結果によれば,被告大東貿易の輸入数量は,
「」及び「トロウ君」を合計しても,平成13年2月期は9FESTIVAL
6万6560個,平成14年2月期は53万7960個,平成15年2
月期は56万2800個,平成16年2月期は33万0840個である
にすぎず,そもそも原告調査結果の譲渡数量よりも少ない(計算鑑定書
1ページ。)
また,上記計算鑑定の経緯については,計算鑑定人が被告大東貿易を
訪問し,同被告が保管していた被告らの会計帳簿等(被告ハマ・コーポ
レーションに係る資料も被告大東貿易において保管していた)を閲覧。
し,被告大東貿易の代表者,総務担当者及び顧問会計事務所の担当者に
質問した結果をふまえて行われたものであること,被告大東貿易におけ
る輸入数量,輸入原価及び項目別輸入経費に関する資料としては,被告
大東貿易の会計帳簿のほか原始証憑として事業年度ごとに一式で保管さ
れていた輸入時の通関資料(インボイス,パッキングリスト等)が存在
したこと,同原始証憑の記載は,被告ら製品のほかの詰替レンズ付きフ
イルムユニットも含めてひとくくりでなされていたため,原始証憑の記
載から被告ら製品のみの輸入数量等を明らかにすることは困難であった
ものの,商品別の仕入台帳(輸入台帳)の記載に基づき原始証憑の存在
をサンプリングで確認したところ,その整合性が確認されたため,仕入
台帳を基礎として,輸入数量等についての鑑定がなされたこと,被告ハ
マ・コーポレーションの仕入れについては同社の仕入台帳に基づいて鑑
定をしたこと,また,詰替レンズ付きフイルムユニットの譲渡数量,販
売価格,売上高については,被告らの得意先別の売上台帳が,良好に管
理されていると判断されたため,売上台帳の記載に基づき鑑定がなされ
たことが認められる(計算鑑定書6ページ。このような計算鑑定の経)
緯に鑑みれば,上記輸入数量等や譲渡数量等に関する計算鑑定結果は,
基本的に信用することができるものである。他方,承継参加人の主張す
る譲渡数量は,あくまで推定値であることに鑑みれば,その根拠となっ
ている原告調査結果は,譲渡数量,販売価格のいずれについても上記計
算鑑定結果に基づく認定を覆すに足るものではない。
よって,被告ら製品の売上高に関する承継参加人の上記主張は採用す
ることができない。
)販売数量に関する計算鑑定書の記載のうち「製造元区分」に関する記c
載及びこれに関する被告らの主張について
上記)に認定した売上高は,計算鑑定結果のうち,被告らの販売すa
るすべての「」及び「トロウ君」の販売数量の合計を基にしFESTIVAL
ている。しかし,計算鑑定書の「大東貿易の売上高」の項においては,
「」について「富士「コニカ「コダック」別に売上高FESTIVAL,」,」,
が記載され「トロウ君」についても「富士「バンダイ「コダッ,,」,」,
ク」別に売上高が記載されており(計算鑑定書2ページ,被告らは,)
被告らの販売する「」には,原告製品以外に訴外コニカ社,FESTIVAL
コダック社製品を詰め替えたものがあり「トロウ君」には,原告製品,
,,,以外に訴外バンダイ社コダック社製品を詰め替えたものがあるから
計算鑑定書に「富士(脱退原告)を製造元として記載された被告ら製」
品の販売数量(計算鑑定書2ページ)のみを基に被告ら製品の販売数量
を算定すべきであり「コニカ「コダック「バンダイ」を製造元と,」,」,
して記載された「」及び「トロウ君」は被告ら製品の販売数FESTIVAL
量として算定すべきではない旨主張する。
計算鑑定人が上記のような製造元区分別の記載をし,被告ら主張のと
,,,おり被告ら製品の販売数量を認定した理由は被告大東貿易の帳簿に
上記のような製造元区分が記載されており,計算鑑定人が,鑑定のため
被告大東貿易を訪問した際,被告大東貿易から,同一商品名を使用して
いるものの,得意先ニーズにより譲渡している商品の製造元は異なると
の説明を受けたことに基づくもののようである(計算鑑定書2,7ペー
ジ。)
しかし,計算鑑定人が被告らの主張に基づいてなした販売数量の上記
認定は,次の理由により採用し得ない。
①訴外日本カラーラボ協会が,平成15年5月及び平成17年7月に
市場に流通しているレンズ付きフイルムユニットの詰替品のボディの
製造元等を調査した際「FESTIVAL」及び「トロウ君」について,原,
告製品の詰替品は確認されたものの,他社製品の詰替品は確認されて
いない(なお,平成15年5月の調査では「トロウ君」の存在自体,
が確認されていない(甲28。。))
②脱退原告の社員が,平成15年以降,同原告に回収された詰替品を
確認したところ,やはり「FESTIVAL」及び「トロウ君」について,,
訴外コニカ社や訴外コダック社の製品を使用したものはなかった(甲
28。)
③原告において入手した,原告製品,訴外コニカ社製品及び訴外コダ
ック社製品の各詰替品を比較してみると,各社の製品それぞれ,レン
ズ開口部や充電スイッチ部等の形状及び外観に異なる特徴があり,そ
れに伴って各詰替品の紙ケースの形状も異なっており(甲29,形)
状及び外観が異なるカメラを同じ時期に同じ商品名で販売することは
考えにくい。
④被告らは,製造元が異なっても同じ製品名「FESTIVAL」で販売して
いることを示す証拠として「FESTIVAL」名称で紙ケースが異なる製,
品4点及び「NEWFESTIVAL」名称の製品1点の写真を提出する(乙
15。しかし,そのうち,被告が訴外コニカ社製の詰替品とするも)
の(乙15の写真2)については,当該製品のフラッシュ用スイッチ
部分が紙ケースで覆われ,使用できない状態になっているのにもかか
わらず,紙ケースに「FLASH2ボタン」との記載があるなど不自然な
点がある(甲30。また,それ以外の「FESTIVAL」名のものは,上)
記のとおり,訴外カラーラボ協会等による調査で存在が確認されてい
ない上,使用されているものは,訴外コダック社から平成5年ないし
(),平成7年ころに販売されていた製品であること甲30も考えると
詰替品がそもそも正規品よりも後に製造・販売されるものであること
を考慮したとしても,本件訴訟及び計算鑑定の対象である平成12年
以降に販売されていたものであるとは考え難い。また,被告が,訴外
コダック社の詰替品とするもの(乙15の写真3)のうち「NEWFE,
STIVAL」名のものは,そもそも本件訴訟の対象とされていないもので
ある。
以上の諸事情に加え,計算鑑定人が,弁論準備手続において,売上台
帳中の製造販売元の記載は後で全体を作った可能性はある旨コメントし
ていたこと(弁論の全趣旨(被告ら準備書面(7)において,このよう
なコメントがあったこと自体は,被告らも否定していない)を併せ。)
考慮すると,製造元区分に関する被告らの主張及び計算鑑定人の譲渡数
量の認定は採用することができないしたがってFESTIVAL及びト。,「」「
ロウ君」は,すべて原告製品の詰替品であって,他社製品は含まれてい
ないものであると認めるのが相当であり,上記アa)認定の売上高をもっ
て損害額算定の基礎とするのが相当である。
イ控除すべき費用
)被告大東貿易についてa
①輸入原価
被告大東貿易は,被告ら製品を輸入して販売しているから,その輸
入原価が控除されるべきことは明らかである。
計算鑑定の結果によれば,輸入時の平均単価は,別紙B「損害計算
表1」のとおり「」については,平成13年2月期が2,FESTIVAL
,,,40円平成14年2月期が225円平成15年2月期が231円
平成16年2月期が214円,平成17年2月期が198円であると
認められ「トロウ君」については,平成13年2月期が240円,,
平成16年2月期が195円,平成17年2月期が196円であると
認められる(トロウ君」は,平成14年2月期及び平成15年2月「
期は輸入されていない(計算鑑定書1ページ。承継参加人は,輸)。)
入時の平均単価は190円である旨主張するが,前記ア)で検討しb
たとおり,輸入数量及び輸入原価に関する計算鑑定結果は信用するこ
とができるから,承継参加人の上記主張は採用することができない。
そして,被告大東貿易における「」及び「トロウ君」のFESTIVAL
譲渡数量は,別紙A「被告らにおける譲渡数量,売上高,平均販売価
格について」の被告大東貿易についての表の「譲渡数量」FESTIVAL
欄及び「トロウ君譲渡数量」欄記載のとおりであると認められる(計
算鑑定書の補充書2の2,3ページ。)
したがって,被告大東貿易の被告ら製品の輸入原価は,上記輸入平
均単価に譲渡数量を乗じた額と認めるのが相当である。なお,例えば
平成15年2月期に販売したものが平成14年2月期に輸入したもの
の在庫であった場合には,輸入原価は,当該譲渡数量に平成14年2
月期の輸入平均単価を乗じて算出するのが正確であろうが,本件にお
いては被告らの在庫記録が不適切であったため,上記のような計算を
行うのは困難であり,また,在庫数量による影響は小さいものと考え
られるのであるから(計算鑑定書8ページ,計算鑑定書の補充書2ペ
ージ,輸入原価は,各期の譲渡数量に当該期の輸入平均単価を乗じ)
て(例えば,平成14年2月期の譲渡数量に平成14年2月期の輸入
平均単価を乗じて)算出することとする。また,平成14年2月期は
「トロウ君」を輸入した事実が認められないため,平成14年2月期
の譲渡数量に乗じる同期の輸入平均単価は,それに先立つ直近の輸入
時期である平成13年2月期のそれ(240円)を用いるのが相当で
ある。そうすると,輸入原価の額は,別紙B「損害計算表1」の被告
大東貿易に関する部分の「輸入原価」欄記載のとおりとなる(計算鑑
定書の補充書2の2ページ*3,4ページ*7参照。)
ところで,上記売上高から輸入原価を差し引いた額は,売上高の約
10%となる(計算鑑定書1ページⅡ1(1)「平均単価」欄,計算鑑
定書の補充書2の1ページ2(1)「売上高」欄及び「差引:粗利益」
欄参照。この点について,承継参加人は,被告大東貿易の確定申告)
書に基づくと同社の粗利益率は約20%と考えられ,主力商品の粗利
益率は他製品より高めに設定するのが常識であることや原告調査結果
に基づく1個あたりの販売マージンは60円(粗利益率24%)であ
ることにも沿うものであることからすると被告ら製品の粗利益率売,(
上高から輸入原価を控除したもの)は,20%として算出すべきであ
る旨主張する。
しかし,計算鑑定人が,原始証憑をサンプリングして確認したこと
などから,上記売上高及び輸入原価の算定の元となった,売上高及び
輸入状況に関する被告大東貿易の帳簿とこれに基づいた計算鑑定結果
が信用できるものであることは既に述べたとおりであるから,承継参
加人の上記主張を採用することはできない。
②その他輸入及び販売に係る経費
特許法102条2項の「侵害行為により得た利益」の算定において
,,,は侵害品の製造ないし販売に相当な因果関係のある費用すなわち
製造ないし販売に直接必要な変動費及び個別固定費を控除の対象とし
ていわゆる貢献利益(広義の限界利益)を算定すべきであって,侵害
品を製造ないし販売しなくとも発生する費用(一般固定費)は控除の
対象とすべきではない。例えば,大企業が多数種類の製品を製造販売
する中で,1種類の侵害品を製造販売している場合に控除される費用
は,直接の原材料費,運送費などの変動費だけになるのに対し,零細
な企業が侵害品のみを製造販売しているような場合,あるいは,侵害
品を製造販売するためにのみ新工場を建設した場合には,変動費に加
え,工場及び機械の減価償却費,工場従業員の給与などの固定費が侵
害品の製造販売に相当な因果関係のある個別固定費とみなされると考
えるべきであり,粗利益からこのような経費を差し引いて貢献利益を
算定すべきである。したがって,貢献利益の算定においては,被告と
なる企業の規模,被告となる企業の全売上げに占める対象製品の売上
げの割合,侵害品の製造販売に当たって必要となった施設,機械,労
力,侵害品の製造・販売の期間など様々な要素を全体的に考慮して,
侵害品の製造ないし販売に相当な因果関係のある費用(変動費及び個
別固定費)を算定する必要がある。
計算鑑定人は,()被告大東貿易の会計帳簿及び原始証憑に基づきi
輸入数量,輸入原価及び項目別輸入経費について調査した結果,上記
輸入原価以外の輸入経費は,会計帳簿上,販売費に属する各勘定にて
分散的に処理されており,輸入経費として商品別,月別に把握するこ
とは困難であり,販売経費についても,被告の資料管理状態では,特
に商品別に管理をしておらず,そのような必要性もない事業規模であ
ったため商品別に把握することはできないと判断し,また,月別の把
握も平成13年2月期及び平成17年2月期以外は月次試算表が存在
せず,月次での把握が困難であったものの「」等の輸入,FESTIVAL
譲渡は被告大東貿易の主要事業であったと推察されたため,被告大東
貿易の財務状況から「」等の輸入・譲渡に関する諸経費をFESTIVAL
推測することとしたこと,()事業年度ごとの販売経費は,確定申告ii
書に基づき把握し,その結果,販売費として,販売員給与,販売員旅
費,広告宣伝費,容器包装費,発送配達費,その他販売費が確認され
たこと,()上記各項目のうち販売員給与以外の項目についてはすべiii
て変動費であると判断され,また,販売員給与については,固定費的
要素が含まれると考えられるものの,被告大東貿易の売上高との関連
性では必ずしも固定的に発生しているとは判断できない状況にあった
こと,()したがって,販売経費を合理的に固定経費と変動経費に区iv
分して把握することは困難であると考えられたため,販売員給与も含
めた上記販売経費すべてが売上高に占める割合を求め,それを貢献利
益算定のための変動費及び個別固定費としたこと,()上記販売経費v
は,平成15年2月期のみ販売員給与の負担が大きく突出しているも
のの,概ね5%台後半から7%台前半で推移しており,各期平均の販
売費割合は売上高の7%であることから,上記販売経費を売上高の7
%と判断している(計算鑑定書2,4,6,7ページ。)
計算鑑定の結果によれば,被告大東貿易は,詰替品を輸入販売する
ことを主たる業務とし,その年間総売上げ額が,平成12年度3億7
881万7000円,平成13年度3億9436万5000円,平成
14年度4億4177万円,平成15年度2億5151万円,平成1
6年度2億4878万9000円の比較的小規模な会社である(計算
FESTIVAL鑑定書4ページそしてこの売上高の中で被告ら製品)。,(
及びトロウ君)が占める割合は,別紙C「被告大東貿易に係る変動経
費について」にあるように,平成13年2月期には約69%であった
,,,のが平成14年2月期は約35%平成15年2月期には約33%
平成16年2月期には約25%と低下したものの,約7割から2割5
分程度を占めていたものである(ただし,平成17年2月期には約5
%に減少している。。)
被告大東貿易の全売上高の中で被告ら製品及びト(「」「FESTIVAL
ロウ君)の売上高の占める割合が,平成13年2月期から平成16」
年2月期までの間,上記のとおり,7割から2割5分であったことを
考慮すると,販売員給与のうち,全売上げに占める被告ら製品の売上
げの割合に相当する分は,被告ら製品の輸入販売と相当因果関係にあ
る費用であると認めるのが相当であり,これらは個別固定費に該当す
るものと認められる。また,販売員旅費,広告宣伝費,容器包装費,
発送配達費はいずれも変動費であり,全売上げに占める被告ら製品の
売上げの割合に相当する分は,被告ら製品の販売と相当因果関係のあ
る費用と認められる。
以上からすれば,計算鑑定書が,販売員給与については,固定費的
要素が含まれると考えられるものの,被告大東貿易の売上高との関連
性では必ずしも固定的に発生しているとは判断できない状況にあった
ことから,販売員給与も含めた上記販売経費すべてが売上高に占める
割合を求め,各期平均の販売費割合が売上げ高の7%であると認めた
ことは相当である。
これに対し,承継参加人は,被告らは輸入した被告ら製品をそのま
ま販売しているにすぎないから,変動費は特にかかっていないと考え
られ,原告調査結果に基づく1個あたりの販売マージン60円がその
まま被告らの限界利益になると主張する。
しかし,輸入した製品をそのまま販売する場合にも販売に伴う経費
が発生するのが通常であると考えられ,実際,計算鑑定結果によって
も,販売員旅費等販売に伴う変動経費が発生していることは明らかで
あるから,販売マージンをそのまま限界利益と解するべきとの承継参
加人の主張は採用することができない。
また,承継参加人は,被告大東貿易が,被告ら製品以外の他のレン
ズ付きフィルム詰替品を輸入販売していることから,販売員給与は,
被告ら製品との関係のみにおいて発生するものではなく,固定費であ
り,経費として控除されるべきではない,と主張する。しかし,被告
大東貿易の全売上高に占める被告ら製品の占める割合が,主要な期間
において前記のように7割から2割5分もあることからすれば,販売
員給与は被告ら製品の販売と相当な因果関係のある費用とみるべきで
あり,個別固定費として,全売上げに占める被告ら製品の売上げの割
合分でこれを考慮するのが相当である。
さらに,承継参加人は,発送配達費についても,年毎に伸びている
ことからこれを変動費とみることはできない,と主張する。確かに,
全体の売上額が減少している平成16年2月期及び17年2月期にお
いて,発送配達費が伸びているのはいささか奇異であるものの,金額
的には僅少であり,全体への影響は少ないことから,上記認定の経費
割合の7%を変更するほどの必要はない。
そうすると,控除すべき変動経費の額は,別紙C「被告大東貿易に
係る変動経費について」の「変動経費」欄記載の額であると認められ
る。
)被告ハマ・コーポレーションについてb
①仕入原価
被告ハマ・コーポレーションは,被告ら製品を被告大東貿易から購
入(仕入れ)して販売しているから,その仕入原価が控除されるべき
ことは明らかである。
そして,上記認定の事実からすれば,仕入の際の単価は被告大東貿
易の平均販売価格に等しいか,これよりも低額になるはずである。し
かし,計算鑑定書2ページ(2)「ハマ・コーポレーションにおける仕
入れ状況」に記載された,被告ハマ・コーポレーションの仕入台帳の
,,記載に基づく仕入金額及び仕入数量から算出された仕入平均単価は
被告大東貿易の平均販売価格(計算鑑定書3ページ(3)「大東貿易の
平均販売価格」参照)より高額である。また,上記計算鑑定書3ペー
ジ記載の被告大東貿易の平均販売価格は,被告ハマ・コーポレーショ
ン以外に対する売上高及び販売数量を基に算出されたものであるが
(計算鑑定書3ページ注3参照,被告ハマ・コーポレーション向け)
の売上高及び販売数量をも併せた売上高,販売数量をもとに計算して
みても「」及び「トロウ君」の平均販売価格は,上記計,FESTIVAL
算鑑定書3ページ記載のそれとほぼ同様であり(別紙A「被告らにお
ける譲渡数量,売上高,平均販売価格について」の被告大東貿易に関
「」「」する表の平均販売価格欄及びトロウ君平均販売価格FESTIVAL
欄参照,被告ハマ・コーポレーションの仕入台帳の記載はこれと矛)
盾する。加えて,被告ハマ・コーポレーションの仕入れについては,
同社の仕入台帳に基づき算出されたものであるものの,平成13年2
月期から平成15年2月期までの間の「トロウ君」の仕入れが20個
しかないのに比べ,平成15年2月期の「トロウ君」の譲渡数量は1
800個あること(計算鑑定書2,4ページ)などからみて,被告ハ
マ・コーポレーションの仕入台帳の記載には不備な部分が多いこと,
計算鑑定人も,計算鑑定書3ページ記載の平均販売価格を用いて粗利
益を算定する旨の意見を述べていること(計算鑑定書の補充書2の5
ページ*11,6ページ*15)も考慮すれば,仕入単価は,計算鑑
定書3ページ記載の被告大東貿易の平均販売価格であると認めるのが
相当である。ただし「トロウ君」の平成14年2月期の平均販売価,
格370円は,同期の販売個数が120個と他の期に比べ極めて少量
であったことに起因するイレギュラーな数値と考えられるから,これ
をそのまま用いるべきでないが,平成13年2月期は「トロウ君」を
含め被告ら製品の売上げが最も多かった時期で,平成14年2月期以
(「,,降減少傾向にあったこと別紙A被告らにおける譲渡数量売上高
平均販売価格について」の被告大東貿易に関する表の「売FESTIVAL
上高「譲渡数量「トロウ君売上高「トロウ君譲渡数」,」,」,FESTIVAL
量」欄参照)からすれば,平成14年2月期については,減少傾向に
あり,平均販売価格が判明する最も近接した時期である平成16年2
月期の販売価格232円を用いて仕入原価を算定すべきであり(計算
鑑定書の補充書2の6ページ*15参照,被告大東貿易による販売)
の事実が認められない平成15年2月期の「トロウ君」の平均販売価
格も,同様の考え方に基づき,平成16年2月期の販売価格232円
を用いるのが相当である。なお,例えば平成15年2月期に販売した
ものが平成14年2月期に仕入れたものの在庫であった場合には,仕
入原価は,当該譲渡数量に平成14年2月期の仕入単価(被告大東貿
易の平均販売価格)を乗じて算出するのが正確であろうが,本件にお
いては被告らの在庫記録が不適切であったため,上記のような計算を
行うのは困難であり,また,算出される金額が少額であるため大きな
差異はないと考えられるのであるから(計算鑑定書9ページ,計算鑑
定書の補充書の2ページ,仕入原価は,各期の譲渡数量に当該期の)
被告大東貿易の平均販売価格を乗じて(例えば,平成14年2月期の
譲渡数量に平成14年2月期の被告大東貿易の平均販売価格を乗じ
て)算出することとする。
したがって,被告ハマ・コーポレーションの仕入原価を算出する際
の仕入単価は「」については,平成13年2月期が26,FESTIVAL
3円,平成14年2月期が255円,平成15年2月期が260円,
平成16年2月期が233円,平成17年2月期が220円であり,
「トロウ君」については,平成13年2月期が274円,平成14年
2月期ないし平成16年2月期が232円,平成17年2月期が23
1円となる。
そして,被告ハマ・コーポレーションが販売した被告ら製品の譲渡
数量は,計算鑑定結果によれば,別紙A「被告らにおける譲渡数量,
売上高,平均販売価格について」の被告ハマ・コーポレーションに関
する表の「譲渡数量」欄及び「トロウ君譲渡数量」欄に記FESTIVAL
載したとおりであると認められる(計算鑑定書4ページ。)
したがって,仕入原価は,上記認定の仕入単価(被告大東貿易の平
均販売価格)に上記被告ハマ・コーポレーションにおける販売数量を
乗じた額であると認められるところ,その額は,別紙B「損害計算表
1」の被告ハマ・コーポレーションに関する部分の「仕入FESTIVAL
原価」及び「トロウ君仕入原価」欄記載のとおりである(計算鑑定書
の補充書2の5ページ*11,6ページ*15参照。)
②販売に係る経費
販売に係る経費については,前記)②と同様の考え方に基づき,a
貢献利益を算定すべきである。
ただし,計算鑑定の結果(計算鑑定書4ページ(4)ハマ・コーポレ
ーションにおける譲渡数量,売上高,販売価格,10ページ(5)財務
状況についてのハマ・コーポレーションに関する表)によれば,被告
ハマ・コーポレーションの被告ら製品の売上高は,別紙D「被告ハマ
・コーポレーションに係る変動経費について」認定のとおり,全体の
売上高の0.2%から11%の間を変動しており,全期間を通じて平
均しても6.8%を占めるにすぎない。このように,被告ら製品の全
売上げ中に占める割合が低い場合は,販売員給与は,被告ら製品の販
売がなかったとしても生じる経費であって,被告ら製品の販売と相当
な因果関係にある経費とみることはできず,単なる固定費であり,経
費として差し引くのは相当ではない。計算鑑定人は,被告ハマ・コー
ポレーションにおける販売に係る変動経費についても,被告大東貿易
に関するそれと同様の考え方に基づき,販売員給与,広告宣伝費,容
器包装費,発送配達費,他販売費をすべて変動経費として判断してい
る(計算鑑定書8ページ,計算鑑定書の補充書2の5ページ*12,
7ページの*16。しかし,このうち,販売員給与は経費として差)
,,し引くべきではないから被告ハマ・コーポレーションの経費割合は
別紙D「被告ハマ・コーポレーションに係る変動経費について」のと
,.。おりとなり被告ら製品の売上げに対し57%であると認められる
承継参加人は,計算鑑定における経費割合の認定については,被告
大東貿易に関するそれと同様に論難している。しかし,輸入した製品
をそのまま販売する場合にも販売に伴う経費が発生するのが通常であ
ると考えられ,実際,計算鑑定結果によっても,広告宣伝費等販売に
伴う経費が発生していることが認められるから,販売マージンをその
まま限界利益と解するべきとの承継参加人の主張は採用することがで
きないことは前同様である。また,発送配達費についてみると,その
推移は同別紙Dに示したとおりであり,やはり発送配達費の増減と被
告ハマ・コーポレーション全体の売上げの増減とが関連しているもの
と認められるから,これについても被告大東貿易の発送配達費と同様
に,変動経費として控除するのが相当である。
したがって,被告ら製品の販売に係る変動経費として控除すべき項
目は,前記計算鑑定結果に現れた販売費のうち,広告宣伝費,容器包
装費,発送配達費及び他販売費であると認められる(発送配達費を除
いたこれらの経費を変動経費として扱うことについては,承継参加人
も争っていない。そして,これらの額は,計算鑑定結果によれば,。)
別紙D「被告ハマ・コーポレーションに係る変動経費について」記載
のとおりであると認められ(計算鑑定書8ページ【ハマ・コーポレー
ションの販売費内訳】の「広告宣伝費「容器包装費「発送配達」,」,
費「他販売費」欄参照,その全体の売上高に占める割合の平均は」,)
約5.7%であるから(同別紙「上記販売費の全体の売上高に占める
割合」欄の備考参照,被告ら製品の売上高に占める変動経費の割合)
は,多く見積もったとしても,前記ア)認定の被告ら製品の売上高a
の5.7%を超えるものではないと認めるのが相当である。
そうすると,控除すべき変動経費の額は,同別紙の「変動経費」欄
記載の額であると認められる。
ウ小括
)以上によれば,特許法102条2項に基づく損害額は,被告大東貿易a
による被告ら製品の輸入・販売に係る分については,上記認定の被告大
東貿易における被告ら製品の各売上高から輸入原価及び個別固定費(販
売員給与)及び変動経費を控除した額,被告ハマ・コーポレーションに
よる被告ら製品の販売に係る分については,上記認定の被告ハマ・コー
ポレーションにおける被告ら製品の各売上高から仕入原価及び変動経費
を控除した額に相当する額と認められる。
その額は,別紙B「損害計算表1」の各被告に関する「損害額」欄記
載のとおり,被告大東貿易による販売に係るものが,1940万522
0円,被告ハマ・コーポレーションによる販売に係るものが,106万
5851円である。
)そして,被告大東貿易による輸入・販売のうち被告ハマ・コーポレーb
ションに対する販売に係る行為及び被告ハマ・コーポレーションによる
販売は,被告ハマ・コーポレーションが被告ら製品をすべて被告大東貿
易から購入して販売していること,被告大東貿易の取締役が被告ハマ・
コーポレーションの代表取締役であること,本件以前から,被告大東貿
易は,訴外株式会社フィールテックが製造した本件特許権1を侵害する
製品を輸入し,被告ハマ・コーポレーションは,その発売元として販売
していたもので,共同して,被告に対し,本件特許権1が無効であるこ
とを主張して特許権差止請求権不存在確認の訴えを提起したことなど
(),。甲5に鑑みれば被告らの共同不法行為であることは明らかである
他方,被告大東貿易による輸入・販売のうち,被告ハマ・コーポレー
ション以外の者に対する販売に係る行為については,被告らの共同不法
行為であるとは認められない。すなわち,上記認定のとおり,被告らは
,,密接な関係にあることは認められるものの被告らは別法人であること
本件において,被告大東貿易の他者に対する販売に被告ハマ・コーポレ
ーションも関与していたというような事情は何ら窺われないことからす
れば,被告大東貿易による輸入・販売のうち被告ハマ・コーポレーショ
ン以外の者に対する販売に係る行為については,被告らの共同不法行為
であると認めることはできない。
)したがって,被告らは,承継参加人に対し,被告大東貿易による被告c
ハマ・コーポレーションに対する販売に係る利益及び被告ハマ・コーポ
レーションによる販売に係る利益の限度で連帯して損害賠償の責を負う
ものであり,被告大東貿易による被告ハマ・コーポレーション以外の者
に対する販売に係る利益については,被告大東貿易のみが損害賠償の責
を負うものである。
被告大東貿易による販売に係る損害合計1940万5220円のう
ち,被告ハマ・コーポレーションに対する販売に係る利益は,被告大東
貿易による譲渡数量に被告ハマ・コーポレーションに対する譲渡数量が
占める割合に応じて算出するのが相当である。そして,利益を算出する
際に控除すべき費用のうち,輸入原価は「」及び「トロウ,FESTIVAL
君」で異なるから,各商品の売上高のうち被告ハマ・コーポレーション
向けの分から,各商品の輸入原価のうち被告ハマ・コーポレーション向
けの分を控除すべきであり,その他輸入及び販売に係る経費は商品別に
分けられていないから,被告ハマ・コーポレーション向けの
「」及び「トロウ君」の各売上げから上記各輸入原価を控除FESTIVAL
した額から,その他輸入及び販売に係る経費の額に「」及びFESTIVAL
「トロウ君」の譲渡数量合計に被告ハマ・コーポレーション向けの
「」及び「トロウ君」の譲渡数量合計が占める割合を乗じてFESTIVAL
算出した被告ハマ・コーポレーション向けの経費を控除し,被告ハマ・
コーポレーション向けの販売に係る損害額を算出すべきである。
そして,各期の「」の販売に,被告ハマ・コーポレーショFESTIVAL
ン向けのそれが占める割合は,別紙E「損害計算表2」の「割合①」欄
記載のとおりであり,各期の「トロウ君」の販売に,被告ハマ・コーポ
レーション向けのそれが占める割合は,同別紙の「割合②」欄記載のと
おりであり,各期の被告ら製品の販売全体に被告ハマ・コーポレーショ
ン向けの占める割合は,同別紙「譲渡全体に対する割合③」欄に記載し
たとおりである。よって,被告ハマ・コーポレーション向けの販売に係
る損害は,以下の計算式に基づき算出されるところ,その額は,同別紙
「被告ハマ・コーポレーション向け販売に係る損害額」欄に記載した額
(小数点以下切り捨て)であるから,これをもって,被告ハマ・コーポ
レーション向けの販売に係る損害と認めるのが相当であり,その合計額
は,55万7768円である。
〔計算式〕
被告ハマ・コーポレーション向け販売に係る損害
=(各期売上高−各期輸入原価)×各期割合①FESTIVALFESTIVAL
+(各期トロウ君売上高−各期トロウ君輸入原価)×各期割合②
−その他輸入及び販売に係る経費×割合③
)よって,被告大東貿易のみが賠償すべき額は,被告大東貿易による販d
売利益額合計1940万5220円から上記)の被告大東貿易によるc
被告ハマ・コーポレーション向けの販売による利益額合計55万776
8円を差し引いた1884万7452円であり,被告らが連帯して賠償
すべき額は,上記)の被告大東貿易の被告ハマ・コーポレーション向c
け販売による利益の額55万7768円に被告ハマ・コーポレーション
による利益の額106万5851円を加えた,162万3619円であ
る。
(2)特許法102条3項に基づく損害額(予備的主張(争点3イ)について)
承継参加人は,予備的に特許法102条3項に基づく実施料相当額の損害
賠償を請求している。この承継参加人の予備的主張は,仮に,同条2項の利
益の額の損害額が,同条3項に基づく実施料相当額の損害額より低い金額で
あるとすれば,同条3項の実施料相当額を請求するとの趣旨であるから(弁
論の全趣旨,次に,同条3項の実施料相当額について判断する(特許権者)
は,特許法102条各項に基づくいずれかの損害のうち,自己に有利なもの
。,を選択的に請求することが可能であると解すべきであるこのような解釈は
同条2項による利益の額が極めて僅少な金額となる場合もあること,及び,
利益の額も,実施料相当額も,いずれもその認定は裁判所の判断に最終的に
委ねられるものであり,特許権者が裁判所の最終的な判断を正確に予測し得
るわけではないこと,特許権侵害が認定された場合は,損害を被った特許権
,。)。者を合理的に保護すべきであることを考慮すれば是認されるべきである
ア)実施料相当額の損害を算定する際に基礎とすべき実施料率についてa
本件各特許権の内容・作用効果は,前記第2の1(2),第4の2(1)イ
),ウ)のとおりであり,それらにかんがみると,本件各特許権はいずaa
れも原告製品において重要な役割を占めるものであることが明らかであ
る。すなわち,本件特許権1は原告製品の基本構造に関わる重要な特許
であり,本件特許権2も,原告製品を特徴付ける重要な特許であると認
められる。また,本件特許1が出願された昭和62年当時のレンズ付き
フイルムユニットの国内販売数は年間数百万個であったが,その翌年に
は年間1000万個を越え,以後急速にその販売数は増加し,近年デジ
タル撮影機器が急速に普及したことに伴い販売数が減少しているとはい
え,平成16年でも年間約6000万個が販売されており,カラーネガ
フイルムに占めるレンズ付きフイルムユニットの率は増加していること
(甲8)などからみて,原告製品が,消費者に広く受け入れられ,多額
の売上げをあげていると認められ,以上からすれば,本件各特許権の実
施料率を低く算定するのは相当ではない。
また,カメラ等の精密機械器具の実施料率の平均は,イニシャルあり
の場合は5.3%,イニシャルなしの場合は6.8%で,いずれの場合
も5%台とする例が最も多い(実施料率が8%以上の例の大半は技術で
はなく商標に関わるものであり,技術に関する例の中でも大半は,メガ
ネ,サングラス,時計,計測器等カメラ以外に関するものである(甲2
5の1ないし4。)。)
以上の事情を総合考慮すれば,本件各特許権侵害において,実施料相
当額の損害を算定するに当たり基礎とすべき実施料率は,本件特許権1
について5%,本件特許権2について3%と認めるのが相当である。
)損害額算定の基礎とすべき被告ら製品の各年度(前年の3月から当年b
の2月までの間)毎の売上高は,別紙A「被告らにおける譲渡数量,売
,」「」上高平均販売価格についての各被告別の表の各売上高FESTIVAL
欄及び「トロウ君売上高」欄にそれぞれ記載したとおりであると認めら
れる(前記(1)ア。)
そして,前記のとおり,本件特許1は,平成6年10月7日登録で現
在まで存続し,本件特許2は,平成13年5月25日登録で現在まで存
続しているものであるから,平成12年3月分から平成13年5月分ま
では,被告ら製品の売上高に本件特許権1のみの実施料率5%を乗じて
損害額を算定し,平成13年6月以降の分は本件特許権1及び2の実施
料率合計8パーセントを乗じて損害額を算定すべきである。平成13年
2月から同年5月までの月別の売上高,平成13年6月から平成14年
2月までの間の月別の売上高は,計算鑑定の結果によれば,別紙F「損
害計算表3」の各被告別の表の各「売上高」欄及び「トロウFESTIVAL
君売上高」欄にそれぞれ記載したとおりであると認められる(計算鑑定
書添付資料1(1)の月別・取引先別売上状況−大東貿易,(2)FESTIVAL
トロウ君の月別・取引先別売上状況−大東貿易,同2(1)のFESTIVAL
月別・取引先別売上状況−ハマ・コーポレーション,(2)トロウ君の月
別・取引先別売上状況−ハマ・コーポレーション,(3)等のFESTIVAL
月別仕入状況−ハマ・コーポレーション。。)
)以上によれば,特許法102条3項に基づく損害額は,別紙F「損害c
計算表3」の各被告に関する表の「損害額」欄記載のとおりであり,被
告大東貿易による輸入・販売に係るものが,4034万6250円(1
546万1850円と2488万4400円の合計,被告ハマ・コー)
ポレーションによる販売に係るものが,94万3630円(3550円
と94万0080円の合計)である。
被告大東貿易が支払うべき損害額は,特許法102条2項に基づく損
害額が1940万5220円であり,同条3項に基づく損害額が403
4万6250円であるから,被告大東貿易については同条3項に基づく
予備的主張に係る損害額を認めることになる。一方,被告ハマ・コーポ
レーションが支払うべき損害額は,特許法102条2項に基づく損害額
が106万5851円であり,同条3項に基づく損害額が94万363
0円であるから,被告ハマ・コーポレーションについては,同条2項に
基づく主位的主張に係る損害額を認めることになる。
イ共同不法行為による損害について
)被告大東貿易による輸入・販売のうち被告ハマ・コーポレーションにa
対する販売に係る行為及び被告ハマ・コーポレーションによる販売は,
前記認定のとおり,被告らの共同不法行為である(被告大東貿易による
輸入・販売のうち,被告ハマ・コーポレーション以外の者に対する販売
に係る行為については,被告らの共同不法行為であるとは認められない
ことも前記認定のとおりである。。)
したがって,被告らは,承継参加人に対し,被告大東貿易による被告
ハマ・コーポレーションに対する販売及び被告ハマ・コーポレーション
による販売により生じる損害についてのみ連帯して損害賠償の責を負う
ものである。
)特許権侵害行為について複数の被告間に共同不法行為が認められる場b
合における損害額の算定については,特許法102条2項に基づく利益
,()の額の損害賠償請求の場合においては複数の被告の損害額利益の額
を合算した損害額について連帯して賠償を認めるべきであり,また,同
条3項に基づく実施料相当額の請求の場合には,通常もっとも高額とな
る末端の販売額に実施料率をかけた実施料相当額を上限とした損害額に
ついて連帯してその賠償を認めるべきである。また,本件のように,被
告大東貿易について実施料相当額の損害賠償を認め,被告ハマ・コーポ
レーションについて,利益の額を損害とする賠償を認め,被告ハマ・コ
ーポレーション販売分についてのみ共同不法行為を認める場合において
は,両者の行為を共同不法行為として一体としてみる以上,上記の二つ
の類型のいずれかのうち,もっとも高額な損害額すなわち本件において
は双方の利益の額(損害額)を合算した損害額を上限として,連帯して
その賠償を認めるべきである。本件においては,被告大東貿易による販
売に係る損害合計4034万6250円のうち,被告ハマ・コーポレー
ションに対する販売に係るものについての実施料相当額は,別紙F「損
害計算表3」の被告大東貿易に関する表の「損害額:被告ハマ・コーポ
レーション向け」欄記載のとおりであり,その合計は,91万4810
円であるが,その販売行為により得た利益の額は,前記認定のとおり,
55万7768円である。また,被告ハマ・コーポレーションの販売行
為により生じた損害は,前記のとおり,利益の額106万5851円で
ある。そうすると,被告らが連帯して賠償すべき額は,被告大東貿易が
支払うべき実施料相当額91万4810円のうち,利益の額の相当する
内金55万7768円に,前記被告ハマ・コーポレーションによる販売
に係る損害106万5851円を加えた,162万3619円である。
なお,被告大東貿易のみが賠償すべき損害は,被告大東貿易による輸
入・販売に係る損害額4034万6250円から上記55万7768円
を差し引いた3978万8482円(4034万6250円−55万7
768円)である。
(3)小括
以上のとおり,被告大東貿易については,特許法102条2項に基づく
損害額よりも同条3項に基づく損害額のほうが多額であるので,予備的主
張である同条3項に基づく損害額をもって,被告らの行為によって本件各
特許権が侵害されたことによる損害の額と認め,被告ハマ・コーポレーシ
ョンについては,特許法102条2項に基づく損害額の方が多額であるの
で,主位的主張である同条2項に基づく損害額をもって,本件各特許権が
侵害されたことによる損害の額と認め,また,両者が連帯して支払うべき
損害額については,それぞれが侵害行為により得た利益の合算額を上限と
して認めることとする。
第5結論
以上の次第で,承継参加人の請求は,被告大東貿易に対し,3978万84
82円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年8月9日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払,被告らに対し,連帯し
て162万3619円及びこれに対する各訴状送達の翌日(被告大東貿易につ
いて平成17年8月9日,被告ハマ・コーポレーションについて平成17年8
月7日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求め
る限度で理由があるので認容し,その余の請求は理由がないので棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官設樂隆一
裁判官古河謙一
裁判官間史恵

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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シフトは週40時間以上
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