弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役20年に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人は,平成19年5月10日午後11時過ぎころ,埼玉県北飾郡a町
b丁目c番d号所在の居酒屋「A」に入店し,ビールを飲むなどしながら同店
経営者B(当時65歳)と話をするうち,同女から,同棲相手の女性を侮辱さ
,,れたなどと感じて激高し組んだ両手で上記Bの頭部を殴打して転倒させた上
所携の円筒形携帯用灰皿でその頭部等を殴り付けるなどの暴行を加えた。その
ため,同女は,頭部等から多量の出血をしながら,被告人にしがみつき,大声
で助けを求めるなどしたが,力尽きて動けなくなった。ところが,被告人は,
上記暴行の発覚を恐れ,顔を見知られた同女を殺害しようと決意した。
そこで,被告人は,翌11日午前零時過ぎころ,同店内において,床上に横
臥している上記Bに対し,殺意をもって,その頸部にタオルを巻いて絞め付け
た上,同頸部を左手で押さえ付け,よって,そのころ,同所において,同女を
頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。
第2被告人は,同日,前記第1の犯行に引き続き,同所において,上記B所有の
現金約1万8000円を財布から抜き取り窃取した。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,被告人が,居酒屋の女性店主の首を押さえ付けるなどして殺害し,その
,,。直後に同女の財布から現金を抜き取って窃取したという殺人窃盗の事案である
1被告人の刑事責任を基礎付けるべき事情
一連の犯行状況は,戦慄を覚えさせるほどに凶暴かつ残虐で執ようであり,
常軌を逸した冷酷非道なものである。
アまず,殺害行為に至る前の暴行自体,極めて凄惨なものである。すなわち,
被告人は,被害者の言葉に激高するや,いきなりその背後から近付き,振り返った
同女の右側頭部に組んだ両手を2回振り下ろして強打し,同女を転倒させてその頭
を床に打ち付けさせている。
さらに,被告人は,少し冷静さを取り戻したというのに,被害者がひざまずくよ
うな姿勢で自分につかみかかろうとしたとして,その場から逃げるべく,被害者の
,(「」。)頭部等を円筒形の硬質プラスティック製携帯用灰皿以下本件灰皿という
の底で,血が飛び散るほどに力一杯殴り続けて,再び転倒させている。
その後,被害者から太股付近にしがみつかれるや,被告人は,これを振り払って
あくまで逃走しようと,大声で助けを求める被害者を引きずるようにして後ずさり
しながら,同女が力尽きて手を放すまで,再び同女の頭部等を本件灰皿で強打し続
けただけでなく,その髪の毛をつかんで後頭部付近を床に何度かたたき付け,その
腕を左足で蹴り付けるなどしているのである。
イ次いで,被告人は,殺意を生じてからは,確実に被害者を死亡させようとし
ている。すなわち,被告人は,自らの犯行の発覚を恐れて被害者を殺害することを
決意するや,目に入ったタオルを手に取り,いったんは同女の首に巻き付けて絞め
殺そうとしたが,左手に力が入らなかったことから,左手の平を仰向けに横たわる
同女の喉付近に載せ,体重を掛けるようにして押さえ付け,同女の首を絞め続けて
殺害したものである。しかも,被告人は,被害者の力が抜けた感触を感じ,その呼
吸や脈拍からも同女の死亡を確認した後,立ち上がろうとした際,自己の右肘が近
くのテーブルに当たって,これが同女の首付近に倒れ込んだのに,これをそのまま
放置している。
ウさらに,被告人は,血の付いた手を洗おうとしてカウンター内に入った際,
壁際の台の上にあった財布を見付けるや,手も洗わないまま,指紋が残らないよう
にして,紙幣をすべて抜き取り窃取している。
エ加えて,被告人は,被害者の呼吸や脈拍からその死亡を確認していたのに,
なお不安を覚えたため,カウンター内のまな板の上に置かれていた包丁でとどめを
刺すこととし,指紋が付かないようにおしぼりを使ってその柄をつかみ,同女の左
胸部にその刃体部分がほとんど埋まるくらいに深く突き刺しているのである。
オこのように,被告人は,被害者が悲鳴を上げ,血液が多量に飛び散る凄惨な
現場において,必死に抵抗する被害者の頭部等を,硬い円筒形の本件灰皿の底で殴
り続けて,挫裂創を伴う多数の擦過打撲傷を生じさせており,殺害行為前の暴行か
らして,その執ようさや凶暴さは顕著である。しかも,被告人において,自らの凶
行により瀕死の重傷を負った被害者を救護することを全く考えないまま,犯行の発
覚を恐れてためらうことなくその殺害を決意する冷酷さ,殺害直後に,財布から現
金を抜き取ることを思い立ち,その際,指紋にまで気を配る狡猾さ,さらに,死亡
を確認しながら,なおも念入りにとどめを刺す執念深さは,およそ理解を超えた残
虐かつ非道なものである。
カなお,検察官は,本件と事後強盗殺人とは,被害者の死亡時期と財物奪取の
時期との先後関係がわずかに違うだけであるから,本件は事後強盗殺人にも比類す
。,,べき悪質な犯行であると主張するしかし事後強盗を強盗として問擬する趣旨は
,,窃盗犯人が暴行又は脅迫をしたとき暴行又は脅迫により財物を確保している点で
実質的にみて,強盗と同視し得るほか,窃盗の現場では,窃盗犯人が被害者らに暴
行又は脅迫を加えることが多いという刑事学上の実態に着目して,被害者らの人身
の保護の観点からも,強盗罪に準ずる犯罪として取り扱うことにしたものであると
ころ,本件では,被害者殺害までに,被告人に財物奪取の犯意が生じたと認めるに
足りる証拠がない以上,上記主張はその前提を欠くというべきである。とはいえ,
殺人の犯行後に,被害者の財物を奪取したばかりか,とどめまで刺している本件が
凶悪極まりない犯行に変わりのないことは,いうまでもない。
結果は余りにも重大であり,被害者遺族の処罰感情も峻烈である。
ア被害者は,何らの落ち度もないのに,いきなり,頭部等に上記のような苛烈
,,,で執ような暴行を受けて手による防御もままならず顔中血まみれになりながら
「やめて」と叫び,大声で助けを求めたのも空しく,ついには,タオルで首を絞め
られ,手で首を押さえ付けられて殺害されており,その際,同女が感じたであろう
,,。衝撃や恐怖心肉体的苦痛は想像を絶するものがあって結果は極めて重大である
さらに,被害者は,息絶えた後にも,首付近にテーブルが倒れ込み,左胸部を包丁
で深々と突き刺されるなど,その尊厳を著しく踏みにじられた挙げ句,発見される
まで約18時間もの間,無惨な姿のまま放置されたものであって,このような形で
その生涯を終えなければならなかった被害者の無念さは察するに余りある。
イ被害者は,夫及び長男家族と二世帯住宅で同居して,3人の孫にも懐かれ,
家族仲良く暮らしており,孫の成長,とりわけ,一番下の孫が成人するまで長生き
して,得意の和裁で晴れ着を作ってやるのを楽しみにしていたところ,突然,その
夢をこのように無惨な形で絶たれている。しかも,被害者は,働き者であり,念願
であった居酒屋「A」を平成17年1月ころに開店させた後は,家事にも手を抜く
ことなく,常連客らとの触れ合いを楽しみに,生き甲斐のように仕事に励んでいた
のに,その店の中で,理不尽にも,客からこのような形で惨殺されたのは,余りに
残酷であるというほかない。
ウ被害者の長男は,第一発見者として惨状を目の当たりにしたこともあって,
「それ以来,母との思い出を思い浮かべるたび,母のことを考えるたびに,被告人
に殺され血まみれで横たわっている母の姿しか思い出されません」と,当公判廷で
も述べるように,最愛の母の無惨な遺体を目の当たりにした衝撃,恐怖,悲しみ等
の精神的苦痛は計り知れないものがある。
また,被害者の遺族らはそれぞれに,被害者を迎えに行っていたらなどと自分を
責めており,とりわけ,被害者の夫は,毎晩枕が濡れるまで涙を流すなど,悲しみ
に暮れている。同居していた長男の嫁も,5キロも体重が落ちるほど精神的衝撃を
受け,孫たちも,被害者の変わり果てた姿を見て驚き,号泣し,その後も情緒不安
定な状態であることがうかがわれる。
このように,被害者を失った遺族らの悲しみはそれぞれに深く,精神的な苦痛は
筆舌に尽くし難いものがあることからすると,自分が犯人を殺してやりたい,死刑
を望むなどと異口同音に述べるほどに,遺族らの処罰感情が厳しいのは至極当然と
いうべきである。
犯行の動機も,余りにも短絡的で身勝手なものというほかない。
ア被告人は,犯行に至る経緯や動機について,関係修復の努力も空しく,同棲
相手との別れが決定的となり,経済的にも窮迫する中,相談相手になってもらおう
とも思って居酒屋「A」に入り,ビールを飲むなどしながら,被害者に同棲相手の
女性が部屋を出て行くことを話したところ,被害者から「最初から住む場所が目,
的で,あんたと付き合ったんじゃないの「あんたのことなんか,好きでもなんで」,
もなかったんだよ,きっと「本当にずるい女だね」などと言われたことから,同」,
棲相手を侮辱された,自分の苦労をかき消されたなどと感じて激高し,本件犯行に
及んだ,などと述べている。
イしかし,被害者は,被告人の同棲相手と何らの利害関係もなく,被告人の話
以外に何の情報も持ち合せていないから,仮に被告人の述べるような発言をしたと
しても,それは,同棲相手を批判することによって,客である被告人を慰めようと
したものとも考えられるのであり,被害者に落ち度のないことは明らかである。ま
た,被告人は,以前,被害者に同棲相手の不幸な生い立ちを話していたことが,怒
りを募らせた要因となったとも述べるが,被告人が同店を訪れたのは本件時を含め
わずか3回にすぎないのであり,ほとんど事情を知らない被害者の言葉に怒りを募
らせるというのも,視野の狭さや余裕のなさからくる独りよがりの受け止め方との
そしりを免れない。
ウのみならず,仮に,被害者の言葉で気分を害したとしても,制止する,文句
を言う,帰るなど,無難な対応はいくらもあり得たのであり,被告人の挙げる事情
,。はおよそ被害者に対する暴行を正当化するものとはなり得ないというべきである
ところが,被告人は,問答無用とばかりに無防備の被害者にその自らのむき出しの
感情をぶつけ,安易にもいきなり暴力に訴えただけでなく,自己の犯行が発覚する
ことを恐れて殺害行為や財物奪取行為にまで及んだのであって,他者の生命や心情
を一顧だにしない余りにも短絡的で身勝手な態度は,極めて厳しい非難に値する。
エなお,弁護人は,同棲相手との関係修復を望みながらも,全く改善できない
,,現状に悶々とする中被害者の言葉を冷静に受け止める精神的余裕がなかったため
同棲相手に対する深い愛情も相まって,被害者の言葉が引き金となり,感情を抑制
できなくなったとして,この点には酌むべき事情がある旨主張する。しかし,先に
みたとおり,被害者に落ち度がないことはもちろん,感情を抑制できなかったこと
がやむを得ないともいえないから,弁護人指摘の点は,本件が計画的犯行でないと
いう限度で考慮できるにとどまるというべきである。
周到に証拠隠滅を図っている。
被告人は,血まみれの被害者が倒れており,周囲には被害者の血液が飛散した跡
や血だまりが存在する凄惨な現場において,自己が触ったビール瓶やグラス,小皿
についた指紋をおしぼりで丁寧に拭き取り,現場から逃げる際も,ドアノブに指紋
が付かないようにおしぼりでドアノブをつかむなどした上,自己が使用した割り箸
や指紋を拭いたおしぼりを現場から持ち出し,本件灰皿とともに投棄しただけでな
く,被害者の血が付着した衣類等もゴミ袋に入れて投棄するなど,念入りに証拠隠
滅を図っており,被告人の狡猾さは際だっている。
犯行後の情状も劣悪である。
被告人は,犯行からわずか約10時間後に,以前から下見をして予定していたパ
チスロのイベントに予定どおりに赴き,盗んだ現金でパチスロを約10時間も遊技
し,その金を使い果たしており,盗んだ現金でパチスロをすることについて,特に
抵抗を感じなかったと述べている。
2被告人のために酌むべき事情
事実を詳細に供述し,被害者の遺族に謝罪文を送るなど,被告人なりに反省
の態度を示している。
,,被告人は被害者の言動や自己の性格等に責任を転嫁するような供述をするなど
自己弁護ともとれる態度がかいま見られ,十分な内省が深まっているとまでは言い
難いものの,謝罪文を被害者の遺族に書き送っているほか,被害者には申し訳ない
という気持ちしかない,社会復帰が許されたら,まず被害者の墓参りに行きたいと
述べるとともに,毎日被害者の冥福を祈っていることがうかがわれるなど,被告人
なりに反省の態度を示している。また,被告人は,捜査段階から一貫して,事実を
詳細に供述して本件の真相解明に協力している。
被告人の母が慰謝の努力をしたり,情状証人として出廷している。
被告人の母は,できる限りの賠償金を準備して,弁護人に預けた上,北海道から
出てきて,被害者遺族に対する謝罪の気持ちを述べるとともに,被告人とはこれか
らも親子関係を続ける,本件を一緒に背負って生きていきたい旨述べている。
その他
被告人は,本件犯行の1年ほど前まで約18年間同じ会社に勤続するなど,それ
なりに真面目に生活してきたこと,直近の前科は20年以上前のものであること,
その他被告人のために酌むべき事情も認められる。
3結論
以上みてきたとおり,犯行態様の凶暴さや残虐さ,殺害した被害者からその財物
を奪取した上,とどめまで刺すという冷酷非道さ,結果の重大性,動機の短絡さや
,。身勝手さといった事情からは被告人の刑事責任は非常に重大といわざるを得ない
したがって,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人については懲
役20年に処するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役23年)
さいたま地方裁判所第二刑事部
(裁判長裁判官中谷雄二郎,裁判官福渡裕貴,裁判官大竹瑶子)

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