弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中「当審の末決勾留日数中三十日を原判決の刑に算入する」との
部分を破棄する。
     検察官のその余の部分に対する本件上告並びに被告人の本件上告を棄却
する。
         理    由
 被告人本人の上告趣意について。
 第四点の二は違憲を主張するものであるが、刑法五六条、五七条の再犯加重の規
定が所論憲法の条規に違反するものでないことは、憲法一四条につき、当庁昭和二
四年新(れ)第八八号、同二五年一月二四日第三小法廷判決、集四巻一号五四頁。
同三九条につき当庁昭和二四年(れ)第一二六〇号、同年一二月二一日大法廷判決、
集三巻一二号二〇六二頁のそれぞれ明示するところであり、論旨は理由がない。
 その余は違憲をいう点もあるが、結局は単なる法令違反、事実誤認、再審請求事
由及び量刑不当を主張するに帰し、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 弁護人河鰭義三郎の上告趣意について。
 第一点は、福岡高等検察庁検事長草鹿浅之介の上告趣意と同旨に帰し、右は原判
決を被告人の不利益に是正せんことを求める主張であるからそれ自体適法な上告理
由となり得ないものである。
 第二点は法令違反(そして所論常習についての主張は独自の見解であつて採るを
得ない。この点に関する原判決の判示は正当である)、第三点は量刑不当の主張で
あつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 福岡高等検察庁検事長草鹿浅之介の上告趣意について。
 記録によれば、被告人は本件につき起訴前の昭和三二年七月二日勾留状の発付執
行を受け、爾来第一審並びに原審を通じ勾留を継続されていたものであるが、これ
より先き被告人は昭和二六年二月二三日福岡高等裁判所において別件窃盗罪により
懲役二年の言渡を受け、右判決は同年三月一〇日確定し(右刑は昭和二七年政令第
一一八号減刑令により懲役一年六月に減刑)たので、昭和二九年一二月九日から右
刑の執行を受け、昭和三〇年一二月一五日刑の執行停止により一旦釈放されたが、
本件常習累犯窃盗被告事件についての勾留中の昭和三二年一〇月三〇日から更にそ
の残刑の執行を受け、その刑期は昭和三三年四月二三日に終了すべき筋合であつた
ところ、被告人は本件第一審判決に対し昭和三二年一一月二日控訴を申し立て、原
審はこれに対し昭和三三年一月二九日控訴を棄却すると共に原審における未決勾留
日数中三〇日を第一審判決の本刑に算入する旨の判決を言い渡したものであること
を明認できる。さすれば原判決は原審における未決勾留の全期間が前示確定刑の執
行と重複執行されていたにもかかわらず、これを前示の如く第一審判決の本刑に算
入する旨言い渡したものであることが明らかである。右のように刑の執行と勾留状
の執行とが競合している場合には懲役刑の執行としては一個の拘禁のみが存在する
ものと解すべきであるから、かかる場合に重複する未決勾留日数を本刑に算入する
ことは不当に被告人に利益を与えることとなり違法といわざるを得ない。されば原
判決は刑法二一条の適用を誤つた違法があり且つ所論判例(当庁昭和二九年(あ)
第三八九号、同三二年一二月二五日大法廷判決、集一一巻一四号三三七七頁参照)
にも反するが故に論旨は結局理由があり、原判決の前記未決勾留日数を算入した部
分は違法であつて破棄を免れない。
 よつて刑訴四〇五条二号、四一〇条一項本文、四一三条但書により原判決中「当
審の未決勾留日数中三十日を原判決の刑に算入する」との部分を破棄し、右未決勾
留日数を本刑に算入しないものとし検察官のその余の部分に対する上告は、上告趣
意として何ら主張がなく従つてその理由がないことに帰し、また被告人の上告はそ
の理由がないから、以上は同四一四条、三九六条によりいずれもこれを棄却すべき
ものとし、なお刑訴一八一条一項但書を適用して主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 本件公判出席検察官熊沢孝平
  昭和三三年七月一一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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