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裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。 
         理    由
 上告代理人横溝徹の上告理由について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、平成四年三月三一日、逗子市情報公開条例(平成二年逗子市条例
第六号。以下「本件条例」という。)八条に基づき、本件条例三条二項所定の実施
機関である上告人に対し、いずれも逗子市の住民の請求に係る昭和五九年三月一七
日付け住民監査請求(以下「五九年監査請求」という。)に関する一件記録及び同
六〇年二月一四日付け住民監査請求(以下「六〇年監査請求」という。)に関する
一件記録の各公開を請求した(以下、この請求を「本件請求」という。)。
2 上告人は、被上告人に対し、平成四年四月二一日付けの書面により、本件請求
に係る右各一件記録に含まれている関係人の事情聴取記録につき、「市又は国の機
関が行う争訟に関する情報であり、公開することにより当該事務事業及び将来の同
種の事務事業の目的をそう失し、また円滑な執行を著しく妨げるもの」であって、
本件条例五条(2)ウの規定する非公開事由があるという理由を付記して、これら
を公開しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をした。
3 五九年監査請求は、いわゆる池子弾薬庫跡地内に所在した町道、堤塘、原野等
の土地(以下「本件係争地」という。)について逗子市所有地としての適正な管理
等の処置を執ることを求めたものである。これを受けて、逗子市監査委員は、監査
を行い、昭和五九年五月一五日付けで、右請求には理由がないとする監査結果を請
求人に通知した。
 また、六〇年監査請求は、逗子市が右同日に本件係争地について真正な登記名義
の回復を原因として国に対し所有権移転登記をしたことにつき、逗子市長が登記承
諾書を国に交付した行為が違法であり、かつ、本件係争地の管理を違法に怠るもの
であるとして、必要な措置を講ずべきことを請求したものである。これを受けて、
逗子市監査委員は、監査を行い、同六〇年四月一二日付けで、右請求には理由がな
いとする監査結果を請求人らに通知した。
 六〇年監査請求の請求人らは、右監査結果に不服があるとして、地方自治法二四
二条の二第一項四号に基づき、国に対して、前記土地についての所有権移転登記の
抹消登記手続等を求める住民訴訟(以下「本件住民訴訟」という。)を提起した。
本件住民訴訟については、一審の横浜地方裁判所が、平成三年八月二八日、請求棄
却の判決をし、控訴審の東京高等裁判所が、同六年三月一〇日、控訴棄却の判決を
したので、右請求人らが最高裁判所に上告した(なお、その後、最高裁判所第三小
法廷が、同九年九月九日、上告棄却の判決をしたことが、当裁判所に顕著である。)。
 さらに、池子弾薬庫敷地内のいまだ国の所有名義になっていなかった土地につい
て、所有名義人らが国に対して所有権確認等を求める訴訟を提起し、これに対し、
国が右所有名義人らに対し所有権移転登記手続等を求める反訴を提起した(以下、
この訴訟を「本件民事訴訟」という。)。本件民事訴訟については、一審の横浜地
方裁判所横須賀支部が、同四年三月二三日、本訴請求棄却、反訴請求認容の判決を
し、控訴審の東京高等裁判所において、当事者間に裁判上の和解が成立した。
4 本件処分により非公開とされた事情聴取記録は、具体的には、五九年監査請求
に関する一件記録のうち、本件係争地につき国に対してされた前記所有権移転登記
の事務に関係した逗子市所管課に同監査請求当時に在籍した職員から逗子市監査委
員が事情聴取をした内容を記録した文書、六〇年監査請求に関する一件記録のうち、
右所管課、横浜地方法務局横須賀支局、大蔵省関東財務局横浜事務所横須賀出張所
及び横浜防衛施設局施設部にそれぞれ同監査請求当時に在籍した各職員から同監査
委員がそれぞれ事情聴取をした内容を記録した各文書(以下、これらの非公開とさ
れた文書を「本件各文書」という。)である。
5 被上告人は、本件各文書は本件条例所定の非公開文書に当たらないと主張して、
本件処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。本件訴訟において、上告人は、本
件住民訴訟及び本件民事訴訟が本件条例五条(2)ウにいう「争訟」に該当し、本
件各文書は「争訟の方針に関する情報」に当たると主張するほか、本件各文書は、
住民監査請求に関する判断資料であって、同条(2)アの「意思決定過程における
情報」に該当するから、本件処分は適法であると主張する。
6 本件条例五条は、実施機関が非公開とすることができる情報として(1)及び
(2)の各号の規定を置き、その(2)は、柱書きにおいて、「市が実施する事務
又は事業に関する情報であって、公開することにより当該事務又は事業の公正又は
円滑な執行に著しい支障をきたす情報で次に掲げるもの」とした上で、アからエま
での情報を列挙している。そのうち、アは「市の機関内部若しくは機関相互又は市
の機関と国等(国又は他の地方公共団体をいう。以下「国等」という。)の機関と
の間における調査、研究、検討、審議等の意思決定過程における情報であって、公
開することにより公正又は適正な意思決定を著しく妨げるもの」と、ウは「市又は
国等の機関が行う監査、検査、取締り、徴税等の計画又は実施要領、渉外、争訟及
び交渉の方針、契約の予定価格、試験問題、採点基準、用地買収計画その他市等の
機関が行う事務又は事業に関する情報であって、公開することにより当該事務若し
くは事業又は将来の同種の事務若しくは事業の目的を失わせるもの又は公正かつ円
滑な執行を著しく妨げるもの」と、それぞれ規定している。
 また、本件条例九条四項前段は、実施機関が公開請求に係る情報の閲覧、視聴取
及びその写しの交付を拒むときは、非公開決定の通知に併せてその理由を通知しな
ければならないと規定している。
二 右事実関係の下において、原審は、次のとおり判断した。
 1 本件条例五条(2)ウにいう「争訟の方針に関する情報」とは、現に係属し
又は係属が具体的に予想される事案に即した事件の見通しなどの浮動的な法律解釈
や事実認定に関する事項、更には処理方針に限定されるものと解される。
 本件各文書は、関係行政機関の従前の取扱いや法的解釈について聴取した部分を
含め、事実関係の調査結果の範ちゅうを超えるものと認めるには足りないから、右
の「争訟の方針に関する情報」に当たるとは認められない。住民監査請求に係る関
係行政機関の事務処理に適正を欠くものがあったことが裏付けられる事実関係に関
する情報は、仮にこれが新たな争訟を誘発することになるにしても、右「争訟の方
針に関する情報」に当たるとは解されない。上告人は、池子弾薬庫跡地内の土地に
つき国に対して移転登記をしたこと等の原因に必ずしも明らかになっていない点が
あり、この点が公開されることになると、将来の市有地の移転、更には市政に対す
る疑いを広げることになり、市政の公正かつ適正又は円滑な執行を妨げる結果にな
ると主張するが、そこに争訟の方針に関する事項がどのように示されているのかに
ついての具体的主張はないし、市政の公正かつ適正又は円滑な執行を妨げる結果に
なるとの点を認めるに足りる証拠もない。その他本件各文書が本件条例五条(2)
ウ所定の非公開とすることができる情報に該当すると認めるべき事実はない。
2 上告人は、本件各文書が本件条例五条(2)アに該当するとも主張するが、本
件条例九条の規定の趣旨、目的に照らし、被上告人に対する本件処分の通知書に付
記しなかった非公開事由をもって、同通知書に付記した事由に代替させ、あるいは
それを補充することは許されず、これにより本件処分の瑕疵の治癒を認めることは
できないと解されるから、右主張は、それ自体失当として採用の限りでない。
3 のみならず、本件請求時においては、五九年監査請求及び六〇年監査請求につ
いてはいずれも監査結果の通知が請求人にされていたのであるから、本件各文書を
公開することにより当該監査の意思決定を妨げることがないことは明らかであるし、
監査委員の調査の結果を公開することが一般的に公正、適正な監査の意思決定を妨
げることになるとも認められない。したがって、本件各文書が本件条例五条(2)
アに該当するとはいえない。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のと
おりである。
1 本件条例五条(2)ウが「争訟の方針に関する情報」を非公開とすることがで
きるものとしている趣旨は、逗子市、国若しくは他の地方公共団体又はその機関が
一方当事者として争訟に対処するための内部的な方針に関する情報が公開されると、
それが正規の交渉等の場を経ないで相手方当事者に伝わるなどして、紛争の公正、
円滑な解決を妨げるおそれがあるからであると解される。そうすると、右規定にい
う「争訟の方針に関する情報」は、所論のように争訟の帰すうに影響を与える情報
のすべてを指すものと解するのは相当でないが、現に係属し又は係属が具体的に予
想される事案に即した具体的方針に限定されると解すべきではなく、右の団体又は
その機関が行うことのあるべき争訟に対処するための一般的方針をも含むものと解
するのが相当である。したがって、右の一般的方針が含まれている場合には、本件
各文書は争訟の方針に関する情報に当たるというべきである。
 【要旨第一】上告人の主張によれば、横浜防衛施設局施設管理課職員からの事情
聴取書には、全国の未登記土地に関する国と所有名義人との間における民事上の紛
争の処理の仕方、手法についての供述や、国の民事訴訟解決の手の内も示されてい
るというのである。そうであるなら、これらの情報は国の争訟の方針に関する情報
に当たり、これが公開されることになれば、現在及び将来の国のかかわる未登記土
地等に関する争訟の遂行に著しい支障を生ずることになる可能性があるものという
べきである。したがって、前記二1の解釈に基づいて右主張に係る情報が「争訟の
方針に関する情報」に当たらないとした原審の判断には、本件条例五条(2)ウの
解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、右違法が原判決に影響を及ぼすこ
とは明らかである。
2 【要旨第二】本件条例九条四項前段が、前記のように非公開決定の通知に併せ
てその理由を通知すべきものとしているのは、本件条例二条が、逗子市の保有する
情報は公開することを原則とし、非公開とすることができる情報は必要最小限にと
どめられること、市民にとって分かりやすく利用しやすい情報公開制度となるよう
努めること、情報の公開が拒否されたときは公正かつ迅速な救済が保障されること
などを解釈、運用の基本原則とする旨規定していること等にかんがみ、非公開の理
由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してそのし意を抑制す
るとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立て
に便宜を与えることを目的としていると解すべきである。そして、そのような目的
は非公開の理由を具体的に記載して通知させること(実際には、非公開決定の通知
書にその理由を付記する形で行われる。)自体をもってひとまず実現されるところ、
本件条例の規定をみても、右の理由通知の定めが、右の趣旨を超えて、一たび通知
書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消
訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はな
いとみるのが相当である。したがって、上告人が本件処分の通知書に付記しなかっ
た非公開事由を本件訴訟において主張することは許されず、本件各文書が本件条例
五条(2)アに該当するとの上告人の主張はそれ自体失当であるとした原審の判断
は、本件条例の解釈適用を誤るものであるといわざるを得ない。
3 そこで、本件においては、進んで、本件各文書が本件条例五条(2)アに該当
する情報であるか否かを検討することとする。
 本件各文書は、逗子市監査委員が五九年監査請求又は六〇年監査請求につき監査
を行い、これらに理由があるか否かなどを決定するための資料とする目的で収集し
た情報であるから、逗子市の機関内部における意思決定過程における情報に当たる
ものと解される。したがって、これが本件条例五条(2)アの規定に該当するか否
かは、これを公開することにより公正又は適正な意思決定を著しく妨げるか否かに
より決定されることになる。
 右規定にいう「意思決定を妨げる」とは、当該意思決定それ自体を妨げることの
ほか、将来における同種の意思決定の障害となることも含まれるものと解するのが
相当である。そして、当該情報を公開することにより、今後行われることのあるべ
き同種の意思決定のための資料の収集に支障を生ずることも、これに含まれると解
される。
 【要旨第三】右のような観点から検討すると、上告人の主張に照らせば、逗子市
監査委員が監査を行うための資料として関係行政機関の職員から事情を聴取した結
果を記載した文書の中には、地方自治法二四二条が監査記録を公開することを予定
していないため、同監査委員限りで参考にするにとどめ公開しないことを前提とし
て提供された機密にわたる情報が含まれている可能性があり、仮にそのような情報
が含まれているとするなら、これを無条件に公開することは、関係行政機関との間
の信頼関係を損ない、将来の同様の事情聴取に重大な支障を及ぼし、公正又は適正
な監査を行うことができなくなるおそれがあるものというべきである。したがって、
そのような情報は、本件条例五条(2)アに該当するとして、これを非公開とする
ことが許されるものというべきである。
 ところが、原審は、本件各文書が当該監査の意思決定を妨げることがなく、監査
委員の調査の結果を公開することが一般的に公正適正な監査の意思決定を妨げるこ
とになるとも認められないとの理由をもって、本件各文書に将来の監査における意
思決定を著しく妨げるおそれのある情報が含まれているか否かを具体的に検討する
ことなく、これらが右規定に該当しないと断じたものであるから、右判断には、本
件条例の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。
 以上によれば、前記2のとおり理由付記に関する本件条例の解釈適用を誤り、ま
た、右のとおり本件条例五条(2)アの解釈適用を誤った結果、本件各文書には右
条項に規定する非公開事由があるという上告人の主張を排斥した原審の判断には、
違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというべきである。
4 論旨は、以上と同旨をいう限りにおいて理由があり、原判決は全部破棄を免れ
ない。そして、本件については、以上に述べたところに従って非公開事由の有無に
ついて具体的に審理判断を尽くすため、原審に差し戻すのが相当である。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川
弘治 裁判官 梶谷 玄)

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