弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aの控訴を棄却する。
     原判決中被告人Bに対する有罪部分を破棄する。
     被告人Bを懲役八月に処する。
     但しこの判決確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。
     被告人Bに対し原審における訴訟費用は同被告人及び同A、いずれも原
審相被告人であるC、D、Eの連帯負担とする
         理    由
 被告人Aの弁護人兵頭吉太郎、同岡林靖、同武田博及び被告人Bの弁護人三好真
一の各控訴趣意はそれぞれ別紙に記載の通りである。
 本件記録を精査し総べての証拠を検討するに
 第一 被告人Aの弁護人兵頭吉太郎の控訴趣意について
 一、 原判決挙示の証拠により
 被告人B、F等は共謀して外国である沖縄方面に木材を密輸出し、同方面より鉄
銅屑等を密輸入しようと企て、被告人Aの所有機帆船G丸(総屯数八七屯三六)を
傭船し、昭和二十六年五月上旬鹿児島県のa港、b港、屋久島において杉五分板二
百七十石位、松杉角材二百石位を同船に積み込も、税関の免許を受けないで、出港
して同月中旬南西諸島の輿論島、伊是名島、沖縄本島のcに到り、これらの貨物を
陸揚げし、更に右伊是名島で真鍮、銅、鉄、鉛屑約十噸を同船に積与、同五月三十
日愛媛県北宇和郡d村eに帰航し、税関の免許を受けないで同貨物を陸揚げしよう
としたが、取締官に発見せられて未遂に終つた原判示事実、その際被告人Aはその
所有の右G丸の船長として、被告人B等が免許を受けないで同船によつて沖縄方面
に木材を輸出し、同地方より鉄屑等を輸入しようとすることを知りながら、同船に
乗組んで、右のように貨物の輸送をした原判示事実を認めることができる。原判決
は被告人Aには本件関税法違反罪の犯意即ち被告人B等が税関の免許を受けないで
貨物を沖縄方面に輸出し、同地方より貨物を輸入することを知りながら、G丸の船
主兼船長としてその貨物を同船で輸送する意思があつたことを認定した上、その輸
出の点につき被告人Aは、キリスト教会の世話で許可を受けることになつていると
思い込まされていたため違法性の認識(右の行為が法の許さないものであることを
意識していること)がなかつたにしても、諸般の情況上右犯意を阻却するものでな
いと説明(不精確な部分もある)しているのは形式理論上は正当である。しかし元
来犯意の成立には違法性の認識を必要としないもの(最高裁判所昭和二四年(れ)
第二二七六号同年一一月二八日第三小法廷判決参照)であるのみならず、本件の場
合は証拠上原判決の言うように被告人Aには判示輸出につき違法性の認識がなかつ
たのではなく、未必的ながらその違法性の認識がおつたものと認めなければならな
いのである。
 二、 原判決が前示被告人Aの関税法違反の事実を無免許輸出罪(関税法第七十
六条第項)及び無免許輸入未遂罪(同法第七十六条第二項)そのものの各幇助罪に
該当するものとして法令を適用したのは正当であり、密輸出入罪の外に立つて単に
その犯罪に係る貨物を輸送するに過ぎない関税法第七十六条の二の密輸貨物の運搬
罪以て律すべきものではない。
 三、 関税法第七十六条の犯罪行為の用に供した船舶は犯人の所有又は占有に係
る場合は同法第八十三条第一項により没収すべきものであるから、原判決が右第七
十六条の幇助罪を犯した被告人A所有の機帆船G丸を右の理由により没収したのは
正当である。
 論旨はいずれも理由がない。
 第二 被告人Aの弁護人岡林靖の控訴趣意について
 一、 被告人Aの本件所為は密輸出入貨物の運搬罪(関税法第七十六条の二)を
構成するものであつて、貨物密輸出入の幇助罪に清らない、との論旨について、
 被告人Aは前承認定のように、被告人B、F等がいず朴も税関の免許を受けない
で、鹿児島県から沖縄方面に木材を輸出し、同方面より鉄銅屑等を輸入しようとす
ることを知りながら、被告人所有の機帆船Gに船長として右B等と共に乗組んで、
それぞれその貨物を輸出入するため同船で輸送したのであるから、少くとも被告人
B等の右違反行為の幇助犯が成立するものと認めざるを得ないのであつて、被告人
B等の右犯行が関税法第七十六条第一項の無免許輪出罪及び同条第二項の無免許輸
入未遂罪に該当する以上、被告人Aのそれらの罪の幇助の成立することは、前示兵
頭弁護人の論旨につき説示した通りであり、いわゆる事後従犯に属するものと解せ
らしる関税法第七十六条の二の密輸出入に係る貨物の運搬罪を以て律する余地はな
いのである。論旨はいずれも被告人Aの本件関税法違反の行為が同法第七十六条の
幇助罪に該当するものでないと強弁するものであつて採用し難い。
 二、 関税法第八十三条の船舶の没収に関する規定は、同法第七十四条、第七十
五条、第七十六条の犯罪の供用船をその犯人から没收する規定であり、これらの罪
の幇助犯はこれらの罪そのものではないから、その幇助犯人からそれらの供用船を
没収することはできない、と言うのであるが、関税法第八十三条の「第七十四条、
第七十五条若は第七十六条の犯罪行為の用に供したる船舶にして犯人の所有又は占
有に係るものは之を没収す」とあるその犯人とは、それらの犯罪の実行正犯の与な
らず単にその幇助行為をした幇助犯人をも含むものと解すべきもの(大審院大正一
三、六、二五判決参照)であるから、論旨は理由がない。
 三、 本件GについてはH金庫が五七五万円の債務のたに担保権を有しているか
ら、いわゆる没収不能の場合であり、かゝる場合にも没収し得るとなすは憲法(第
二十九条その他)違反であると言うのであるが、<要旨>没収は物に対する所有権そ
の他一切の物権を失わせて、これを国庫に帰属させる刑事処分であり、これによ 要旨>つて国庫はその物に対する権利を原始的に取得するのである没収によつてその
物の担保権者が不利益を蒙ることあるも止むを得ないところであり、かゝる場合に
もその没収の判決が憲法第二十九条に違反するものでないことは、ある被告人に実
刑を科することによつてその家族が生活困難に陥るとしても、その判決は憲法第二
十五条に違反するものでない(最高裁判所昭和二二年(れ)第一〇五号同二三年四
月七日大法廷判決参照)のと同様である。
 四、 本件の場合は関税法第八十三条第一項により被告人A所有の機帆G(総屯
数八七屯三六)を没収しなければならないこと、先に兵頭弁護人の論旨につき説示
した通りであるから、同条によつて没収すべきでないことを前提する論旨は理由が
ない。
 第三 被告人Aの弁護人武田博の控訴趣意について
 一、 原判決には犯意を阻却し犯罪を構成しない被告人Aの行為を犯罪と認定し
た違法があるとの点について
 被告人Aが、被告人B、F等が何等の許可免許等を受けないで鹿児島県から沖縄
方面に木材を輸出し、同方面より金属屑を輸入しようとすることを知りながら、被
告人A所有の機帆船Gに船長として同人等と共に乗り組んで、それらの輸送に当つ
たものであること、その行為につき被告人Aが違法性の認識を有していたと認めら
れることは、前示第一において説示した通りであり、被告人Aには本件犯罪の構成
要件に該当すべき事実につき錯誤があつたとは認められないから、論旨は理由がな
い。
 二、 本件Gについては債権者H金庫が担保権を有しているから没収することが
できない場合であり、これを没収した原判決は違法であり、憲法第二十九条にも違
反していると言うのであるが、その違法でないことは前示第二の岡林弁護人の論旨
につき解明した通りである。
 第四 被告人Bの弁護人三好真一の控訴趣意について
 論旨は原審の被告人Bに対する刑は過重であると言うのである。同被告人の本件
関説法違反行為は前示第一に示す通りであるが、記録に現れている諸般の情状を考
慮するに、被告人Bには約十九年乃至三十年前に銃砲火薬類取締法施行規則違反、
恐喝未遂等で三回にわたり軽きは懲役六月重きは二年六月に処せられた前歴がある
にしても、同被告人を懲役八月に処しその執行を猶予しなかつた原審の量刑は過重
と認められるのである。
 よつて被告人Aに対しては刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却し、
被告人Bに対しては刑事訴訟法第三百八十一条第三百九十七条により原判決中有罪
部分を破棄し、同法第四百条但し書きの規定に従い当裁判所は判決する。
 被告人Bの罪となるべき事実及びこれを認める証拠は原判決の示す通りである。
 (被告人Bの所為に対する法令の適用)
 判示木材を無免許にて輸出した点につき関税法第七十六条第一項刑法第六十条、
判示無免許にて金属屑を輸入しようとして未遂に終つた点につき関税法第七十六条
第二項第一項刑法第六十条。いずれも懲役刑選択。
 刑法第四十五条前段第四十七条第十条第二十五条。刑事訴訟法第百八十一条第一
項。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

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