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裁判例


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主         文
1 被告は,原告に対し,82万6698円及びこれに対する平成14年5月1日
から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決主文第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
主文と同旨
第2事案の概要
1 請求原因及び抗弁の各要旨
本件は,貸金業者である被告との間で,別紙「貸金計算書」(以下単に別表とい
う)記載のとおりの金銭の借入・返済を重ねた原告が,これを利息制限法所定の利
率で計算し,その超過支払分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当
利得を理由に民法703,704条に基づき当該過払金の一部である82万669
8円及び最終支払日の翌日からの法定利息の請求をしたのに対し,被告が,貸金業
法43条の適用を主張して争っている事案である。
2 前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(該当箇所に掲記)及び弁論の全趣
旨によって認定することができ,この認定の妨げとなる証拠はない。
(1) 被告は,貸金業法3条所定の登録を受けた貸金業者である(乙2)。
(2)原被告間の包括的基本取引
平成7年2月10日,原告と被告は,次のような金銭消費貸借基本契約(以下「本
件基本契約」という)を締結した(乙9)。
取引極度額   600万円
利率      年365日の日割計算とし,利率は個別の借用書に明 記する。
 
遅延損害金  年39.8パーセント
(3)本件基本契約に基づく個別的金銭消費貸借契約
① 平成7年2月10日,本件基本契約に基づき,被告は原告に対し,次のとおり
業として名目350万円を貸し渡した(以下「第1貸付」という)。
貸付金額    350万円
ただし,事務手数料として10万5300円,印紙代として2400円,公正証書
作成費用として1万6000円の総計12万3700円が差し引かれ,原告には3
37万6300円が交付された(甲4,乙1の1)。
返済金額    平成7年3月から平成16年11月まで毎月1日限り7万210
0円,同年12月1日には5万1048円を支払う(甲1)。
利息      年21.9パーセント(年365日の日割計算)
遅延損害金   年39.8パーセント(年365日の日割計算)
返済方法    債権者の店頭への持参払い
なお,債権者が同意した場合は,送金又は訪問集金
特約      債務者が債務の支払いを遅滞したときは,当然に期限の利益を失
い直ちに債務を完済しなければならない。
② 平成13年11月9日,本件基本契約に基づき,被告は原告に対し,次のとお
り業として名目200万円を貸し渡した(以下「第2貸付」という)。
貸付金額    200万円
ただし,印紙代として2200円,公正証書作成費用として1万1000円が差し
引かれ,原告には198万6800円が交付された(乙1の85)。
返済金額    平成16年11月3日に200万円を一括完済
平成13年12月から毎月3日限り利息を後払い(甲2,乙1の86ないし乙1の
91)。
利息      年18パーセント(年365日の日割計算)
遅延損害金   年29.2パーセント(年365日の日割計算)
返済方法債権者の店頭への持参払い
なお,債権者が同意した場合は,送金又は訪問集金
特約      債務者が債務の支払いを遅滞したときは,当然に期限の利益を失
い直ちに債務を完済しなければならない。
(4) 原告は,被告に対し,別表入金日欄記載の日にちに入金金額欄記載の金額を返
済した。 
3 論点
第1貸付時における事務手数料等の引き去りをどのように評価するか。
第3 当裁判所の判断
1 みなし利息の天引と貸金業法43条
(1) 被告は,第1貸付時に,事務手数料として10万5300円,印紙代として2
400円,公正証書作成費用として1万6000円の計12万3700円を差し引
いている。ところで,貸金業法43条2項3号は,出資の受入れ,預り金及び金利
等の取締りに関する法律(以下「出資法」という)5条2項に違反する(利息)契
約に基づく支払には貸金業法43条1項のみなし弁済規定を適用しないとしてい
る。そして,出資法5条4項は,利息が天引された場合も,その利率が出資法5条
2項の利率を超えるか否かを確認する旨規定し,同条6項は利息とみなされる金銭
に対しても同様の検証をするよう要求している。そこで,本件第1貸付時の事務手
数料等の引き去りによるみなし利息の利率が,当時の出資法5条2項の規定する年
40.004パーセン
トを超えるものであるか否かにつき検討する。
(2) 出資法5条6項は,金銭の貸付けを行う者がその貸付けに関し受ける金銭は,
礼金,割引料,手数料,調査料その他何らの名義をもってするを問わず,利息とみ
なすとし,みなし利息につき利息制限法3条但書のような例外を設けていない。そ
うすると,契約の締結及び債務の弁済の費用といえどもその例外としない趣旨であ
ることは明らかであり(最高裁判所昭和57年12月21日決定・判例時報106
5号191頁),第1貸付時のみなし利息は12万3700円ということになる。
また出資法5条4項は,利息を天引する方法による金銭の貸付けにあっては,その
交付額を元本額として利息を計算すると規定する。したがって元本額は337万6
300円となる(3,500,000-123,700=3,376,300)。
では天引された12万3700円はどの期間に対応する利息となるのだろうか。甲
3の1の融資計算書(償還表)によれば,第1貸付の各回の返済方式は,元利均等
払いで,残元本の利用期間に対応する利息を後払いし,残元本を逐次逓減させると
いうものである。そうすると,第1貸付時に天引されたみなし利息は,第1貸付時
の元本額の法定果実,すなわち第1貸付時から最初に弁済があった時までの元本の
利用の対価ということになり,その期間は,平成7年2月11日(貸付日を算入し
ない合意が認められる-乙1の2)から同年3月1日までの19日間となる。以上
から,みなし利息の利率は,年70.38パーセントとなり(123,700÷19×365÷
3,376,300≒0.70383),出資法5条2項に違反することは明らかである。したがっ
て,貸金業法43条の要件に
つき逐一検討するまでもなく,同条2項3号により,第1貸付に同条を適用するこ
とは許されないこととなる。
(3) 第1貸付につき貸金業法43条は適用されないので,利息制限法により計算す
ると,原告の返済金額の充当関係は別表記載のとおりとなるが,個々の金額の算出
根拠につき若干説明する。
第1貸付は350万円全額につき成立する。第1貸付時のみなし利息は,利息制限
法3条から10万5300円(印紙代及び公正証書作成費用を除く)となり,これ
を同法2条に従い計算すると,上記19日間の利息は2万6506円,残る7万8
794円は貸付けと同時に元本の支払いに充てたものとみなされ,元本は342万
1206円に減額される。
(3,500,000-105,300)×0.15×19÷365=26,506
105,300-26,506=78,794
3,500,000-78,794=3,421,206
また,第1回の支払日である平成7年3月1日に支払われた7万2100円につい
ては,すでにこの間の利息は支払われており,かつ当事者間で低額の繰上償還は禁
止されていない(甲1の連帯借用証書第4条)ことから,全額が元本に充当された
と解される(民法491条)。
なお,平成8年及び同12年は閏年なので,当該暦年の利息は366日の日割計算
とした。
(4) 被告は,第1貸付は7万2100円を毎月1日限り(平成9年1月は6日限
り)支払うという約定であるところ,原告はこれを怠り平成9年1月7日に弁済し
たので期限の利益を失ったと主張する。そこで,この点につき判断する。
確かに,原告は,平成9年1月6日に支払うべき支払を怠っており(乙1の2
4),特約によれば期限の利益を喪失したことになる。しかしながら,平成9年1
月7日付けの領収書であるご利用明細書(乙1の24)には,次回支払日として平
成9年2月3日との指定があり,かつ支払予定額の内訳として,遅延損害金ではな
く,利息と記載されている。また,これ以降の返済の際にもその都度同様の記載の
ある領収書が交付されていることが認められる。これらの事実からすれば,被告
は,いったん期限の利益を失った原告に対し,支払の都度期限の利益を付与してい
たものと解するのが相当である。したがって,この点についての被告の主張も理由
がない。
2 第2貸付について
同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消
費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の
制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を残元本に充当してもなお過
払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなどの
特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在
する他の借入金債務の利息及び元本に充当され(最高裁判所平成15年9月11日
第一小法廷判決・裁判所時報1347号6頁)る。
これを本件についてみると,平成13年11月9日の第2貸付時には,原告は71
万5483円が過払いとなっており,かつ,同日,被告から200万円を受け取
り,192万8997円を返済していることが認められる。してみると,原告が被
告から実質7万1003円を受領したとしても,全額が過払金に充当されることに
なり,原告が過払い状態にあることに変わりはないこととなる。
3 被告の悪意について
原告は,民法704条に基づく一部請求として,原告が最終弁済した翌日である平
成14年5月1日からの法定利息を請求しているものと理解される。そこで,被告
の悪意につき以下判断する。
民法704条の悪意とは,利得につき法律上の原因のないことを知っていたか重大
な過失により知らなかったことである。本件のような事例においては,貸金業法4
3条の適用がないことを知りながら,あるいは知らないことにつき重大な過失があ
りながら,利息制限法所定利率を超える利息の弁済を受けていた場合がこれに当た
ると解すべきである。被告は長年にわたり貸金業を営み,かつ,貸金業法43条に
より利息を受領していた法人であることからすれば,貸金業の関連法規を熟知して
いたはずであり,高額なみなし利息を天引することによる法的効果を知っていた
か,あるいは知らないことにつき重大な過失があったものと推認され,民法704
条の悪意の受益者と認めるのが相当である。
4 結論
別表記載の個々の貸付及び返済の日付け,金額については当事者間に争いがなく,
被告の貸業法43条に基づく主張については理由がない。当事者間の個々の貸付及
び返済を利息制限法所定の利率によって計算すると別表記載のとおりとなり,原告
の請求を優に認めることができるので,主文のとおり判決する。
名古屋簡易裁判所
裁 判 官   下   村   資   樹
                 
回数貸付日貸付金額入金金額日数利息年率元金充当額貸付残高
入金日損害金
平成7年2月10日3,500,000105,300H7.2.11~H7.3.11926,50615.00%78,7943,421,206
1平成7年3月1日72,10072,1003,349,106
2平成7年4月3日72,100H7.3.2~H7.4.33345,41915.00%26,6813,322,425
3平成7年5月1日72,100H7.4.4~H7.5.12838,23015.00%33,8703,288,555
4平成7年6月1日72,100H7.5.2~H7.6.13141,89515.00%30,2053,258,350
5平成7年6月30日72,100H7.6.2~H7.6.302938,83215.00%33,2683,225,082
6平成7年8月1日72,100H7.7.1~H7.8.13242,41215.00%29,6883,195,394
7平成7年9月1日72,100H7.8.2~H7.9.13140,70815.00%31,3923,164,002
8平成7年10月2日72,100H7.9.2~H7.10.23140,30815.00%31,7923,132,210
9平成7年11月1日72,100H7.10.3~H7.11.13038,61615.00%33,4843,098,726
10平成7年12月1日72,100H7.11.2~H7.12.13038,20315.00%33,8973,064,829
11平成7年12月29日72,100H7.12.2~H7.12.292835,26615.00%36,8343,027,995
12平成8年2月1日72,100H7.12.30~H8.2.13442,20015.00%29,9002,998,095
13平成8年3月1日72,100H8.2.2~H8.3.12935,63315.00%36,4672,961,628
14平成8年4月1日72,100H8.3.2~H8.4.13137,62715.00%34,4732,927,155
15平成8年4月30日72,100H8.4.2~H8.4.302934,78915.00%37,3112,889,844
16平成8年5月31日72,100H8.5.1~H8.5.313136,71515.00%35,3852,854,459
17平成8年7月1日72,100H8.6.1~H8.7.13136,26515.00%35,8352,818,624
18平成8年8月1日72,100H8.7.2~H8.8.13135,81015.00%36,2902,782,334
19平成8年9月2日72,100H8.8.2~H8.9.23236,48915.00%35,6112,746,723
20平成8年10月1日72,100H8.9.3~H8.10.12932,64515.00%39,4552,707,268
21平成8年11月1日72,100H8.10.2~H8.11.13134,39515.00%37,7052,669,563
22平成8年12月2日72,100H8.11.2~H8.12.23133,91615.00%38,1842,631,379
23平成9年1月7日72,100H8.12.3~H9.1.73638,84415.00%33,2562,598,123
24平成9年2月3日72,100H9.1.8~H9.2.32728,82815.00%43,2722,554,851
25平成9年3月3日72,100H9.2.4~H9.3.32829,39815.00%42,7022,512,149
26平成9年4月1日72,100H9.3.4~H9.4.12929,93915.00%42,1612,469,988
27平成9年5月1日72,100H9.4.2~H9.5.13030,45115.00%41,6492,428,339
28平成9年6月2日72,100H9.5.2~H9.6.23231,93415.00%40,1662,388,173
29平成9年7月1日72,100H9.6.3~H9.7.12928,46115.00%43,6392,344,534
貸金計算書
期       間
回数貸付日貸付金額入金金額日数利息年率元金充当額貸付残高
入金日損害金
平成10年12月1日15.00%1,541,488
47平成11年1月6日72,100H10.12.2~H11.1.63622,80515.00%49,2951,492,193
48平成11年2月1日72,100H11.1.7~H11.2.12615,94315.00%56,1571,436,036
49平成11年3月1日72,100H11.2.2~H11.3.12816,52415.00%55,5761,380,460
50平成11年4月1日72,100H11.3.2~H11.4.13117,58615.00%54,5141,325,946
51平成11年5月6日72,100H11.4.2~H11.5.63519,07115.00%53,0291,272,917
52平成11年6月1日72,100H11.5.7~H11.6.12613,60115.00%58,4991,214,418
53平成11年7月1日72,100H11.6.2~H11.7.13014,97215.00%57,1281,157,290
54平成11年8月2日72,100H11.7.2~H11.8.23215,21915.00%56,8811,100,409
55平成11年9月1日72,100H11.8.3~H11.9.13013,56615.00%58,5341,041,875
56平成11年10月1日72,100H11.9.2~H11.10.13012,84515.00%59,255982,620
57平成11年11月1日72,100H11.10.2~H11.11.13112,51815.00%59,582923,038
58平成11年12月1日72,100H11.11.2~H11.12.13011,37915.00%60,721862,317
59平成12年1月5日72,100H11.12.2~H12.1.53512,39815.00%59,702802,615
60平成12年2月1日72,100H12.1.6~H12.2.1278,88115.00%63,219739,396
61平成12年3月1日72,100H12.2.2~H12.3.1298,78715.00%63,313676,083
62平成12年4月3日72,100H12.3.2~H12.4.3339,14315.00%62,957613,126
63平成12年5月1日72,100H12.4.4~H12.5.1287,03515.00%65,065548,061
64平成12年6月1日72,100H12.5.2~H12.6.1316,96315.00%65,137482,924
65平成12年7月3日72,100H12.6.2~H12.7.3326,33315.00%65,767417,157
66平成12年8月1日72,100H12.7.4~H12.8.1294,95815.00%67,142350,015
67平成12年9月1日72,100H12.8.2~H12.9.1314,44615.00%67,654282,361
68平成12年10月2日72,100H12.9.2~H12.10.2313,58715.00%68,513213,848
69平成12年11月1日72,100H12.10.3~H12.11.1302,62915.00%69,471144,377
70平成12年11月30日72,100H12.11.2~H12.11.30291,71515.00%70,38573,992
71平成13年1月5日72,100H12.12.1~H13.1.5361,09215.00%71,0082,984
72平成13年1月31日72,100H13.1.6~H13.1.31263115.00%72,069-69,085
73平成13年2月28日72,100H13.2.1~H13.2.282800.00%72,100-141,185
74平成13年3月30日72,100H13.3.1~H13.3.303000.00%72,100-213,285
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