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平成13年(ネ)第6457号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁
判所平成13年(ワ)第7138号)(平成14年5月15日口頭弁論終結)
判     決
    控訴人      スカラ株式会社
    訴訟代理人弁護士    中 山   徹
       同           柿 沼 太 一
       同           小 林 幸 夫
       補佐人弁理士  鈴 木 正 剛
       同           村 松 義 人
       同           佐 野 良 太
       同           石 崎 依 子
    被控訴人       株式会社モリテックス
    訴訟代理人弁護士    金 森   仁
       同           山 田   学
    補佐人弁理士      川 尻   明
       同           澤 野 勝 文
主     文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の拡大撮像装置を製造、販売しては
ならない。
(3) 被控訴人は、その保管中の原判決別紙物件目録記載の拡大撮像装置及びそ
の半製品を廃棄せよ。
(4) 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の拡大撮像装置を製造するための金
型を廃棄せよ。
(5) 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する平成13年4
月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人
   主文と同旨
第2 事案の概要
 1 控訴人は、名称を「拡大観察用の照明機構」とする発明(特許第30079
78号、以下「本件発明」といい、その特許権を「本件特許権」という。)の特許
権者であり、被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の拡大撮像装置(以下「被控訴
人製品」という。)を製造、販売している。本件は、被控訴人製品が本件発明の技
術的範囲に属し、被控訴人製品の製造、販売が本件特許権を侵害するとして、控訴
人が、被控訴人に対し、被控訴人製品の製造、販売の差止め及び廃棄、不法行為に
よる損害賠償等を求めている。
 原審は、被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属さず、被控訴人製品の製
造、販売が本件特許権を侵害しないとして、控訴人の請求を棄却した。
  本件の当事者間に争いのない事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、
次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2
 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
 2 控訴人の当審における主張
  (1) 文言侵害
   ア 被控訴人製品における内側LED121bは、それからの光が、本件発明におけ
る遮断用偏光板に相当する第2偏光板215を透過して偏光化されるものであって、本
件発明における偏光化用偏光板である第1偏光板214を透過するようになっていない
から、これを本件発明における偏光用光源とすることはできない。
   イ 原判決は、被控訴人製品の有する二つの光源が、いずれも偏光板を透過
することにより偏光化されて被観察物に照射されるから、偏光用光源であると認定
するが、誤りであり、被控訴人製品の内側LED121bは、本件発明における非偏光用光
源に該当する。すなわち、被控訴人製品は、2種類の画像を選択的に撮像し得るも
のであるから、その撮像原理に照らし、被控訴人製品が備える選択的に点灯可能な
二つの光源が互いに異なる機能を持たなければならない。被控訴人製品における二
つの光源がいずれも偏光用光源であるとすれば、2種類の画像を撮像することは不
可能となる。被控訴人製品の二つの光源のうち外側LED121aが本件発明における偏光
用光源に該当することは当事者間に争いがないから、他方の光源である内側
LED121bが非偏光用光源に該当すると解するほかはない。
   ウ 被控訴人製品の内側LED121bは、形式的には、自然光を被観察物に照射す
るという構成を具備せず、一見、非偏光用光源に該当しないかのように見える。し
かしながら、被控訴人製品の第2偏光板215の外周部分は、第1偏光板214と偏光面
が同方向となるように配置されているから、減光手段以外に何ら技術的意義はな
く、「それからの光が、偏光化用偏光板を透過して偏光化されることなく」という
構成を具備しているというべきである。そうすると、被控訴人製品の内側
LED121bは、本件発明の非偏光用光源に該当し、被控訴人製品は、本件発明の構成を
すべて具備した上、その作用効果に何ら影響のない不要な第2偏光板215を付加した
ものにすぎない。
   エ 本件明細書では、「照明」と「照射」が使い分けられており、前者は光
学系CCDに到達する光の性質を、後者は被観察物に当たる光の性質を問題としてい
る。本件発明は、照明機構の発明であるから、「照明」の観点がより重要であり、
2種類の光源から「照射」される光がいずれも偏光であることを理由として被控訴
人製品が本件発明の技術的範囲に属しないとする原判決の判断は、「照明」の観点
が欠落している。
  (2) 均等論
   ア 発明の本質的部分
     本件発明は、間接反射光を主体とした被観察物内部の観察と、直接反射
光を主体とした被観察物表層の観察とを選択的に行い得る照明機構のパイオニア発
明ではなく、その照明を単純で製作容易な機構で制御することを可能とした応用発
明である。均等の成立要件である発明の本質的部分とは、本件発明において、2種
類の光源及びこれに基づく2系統の照明系の一方で間接反射光主体の撮像を、他方
で直接反射光主体の撮像を行うことを可能とし、これらの光源を選択的に発光させ
るだけで、上記2種類の撮像を選択的に行い得ることである。原判決は、被控訴人
製品が非偏光用光源による照明を選択し得ないことから、本件発明の作用効果を奏
することもないと判示するが、誤りである。この判断は、非偏光が自然光であると
いう認定に基づくものであるが、本件発明における照明光の選択は、被観察物の内
部及び表層を選択的に観察するために行われるのであり、この観察が可能である限
り、本件発明の本質的部分を具備しているということができる。
   イ 置換可能性
     均等の成立要件である置換可能性の有無を判断するに際し、発明の奏す
る作用効果とは、発明の本質的部分の奏する作用効果であると解すべきである。本
件において、発明の本質的部分の奏する作用効果は、「故障的要素の少ない、より
単純で製作が容易な機構で偏光の制御が行える」という作用効果に限られ、「直接
反射光を主体とする観察を行う際に自然光を照射する」ことは、これに含まれな
い。被控訴人製品は、環状に配列された光源を複数のブロックに分けて形成された
2種類の光源を設け、これらの光源を選択的に発光させることを可能とする構成を
採用しているのであり、本件発明の作用効果を奏するということができる。
     原判決は、非偏光による照明を選択することができなければ本件発明の
作用効果を奏することもないと判示するが、本件発明における照明光の選択は、被
観察物の内部及び表層を選択的に観察するために行われるのであり、これが可能で
ある限り、本件発明の作用効果は奏される。原判決は、被控訴人製品が非偏光によ
る照明を選択することができないと判断するが、非偏光が自然光と同一の意義であ
ると解するものであって、誤りである。
     被控訴人製品は、技術的に意味のない偏光板を光路中に置くことで、本
件発明と同一の作用効果を奏するものであって、本件発明と置換可能性がある。本
件明細書(甲第1号証)の【従来の技術】欄に記載された、特開平3-13527
6号公報(特願平1-273419号公報、甲第7号証)には、光源からの照明光
が、偏光板を機械的に動かすか又はその偏光面を回転させることにより、偏光化さ
れた状態又は自然光の状態で選択制御される構成が開示されている。被控訴人製品
が置換可能性を有することは、上記公報の記載からも明らかである。
 3 被控訴人の当審における主張
  (1) 文言侵害
    本件発明における「偏光用光源」と「非偏光用光源」の意義は、そこから
偏光又は非偏光が照射されるものであり、被控訴人製品の第1偏光板と第2偏光板
の向きが直交しないからといって、控訴人主張のように内側LED121bが非偏光用光源
に該当するということはできない。
  (2) 均等論
   ア 発明の本質的部分
     本件発明の本質は、「偏光用光源」及び「非偏光用光源」という選択的
に発光可能な二つの光源を備えた拡大観察用の照明機構において、単純で製作が容
易な機構により照明光の制御を行うことに尽きる。
   イ 置換可能性
     偏光は、ある特定の方向にのみ振動する光であるのに対し、自然光は、
様々な振動方向を有する偏光の集合であることは、控訴人も認めるものである。両
者は光学要素が相違するから、非偏光用光源を偏光用光源に置換することはできな
い。
第3 当裁判所の判断
   当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次
のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の
判断」のとおりであるから、これを引用する。
 1 原判決の補正
(1) 原判決7頁24行目の「照明機構において,」の次に「偏光用光源及び非
偏光用光源は、環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であ
り,」を加える。
  (2) 同8頁10行目から11行目までを「も合致するものである。」に改め、
18行目の「光源は,」の次に「そこからの光が,」を加え、23行目の「被告装
置」を「被控訴人製品」に改める。
  (3) 同9頁1行目の「照明機構において,」の次に「偏光用光源及び非偏光用
光源は,環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であるとい
う構成を採用することにより,」を加え、8行目の「を『偏光用光源』に」から9
行目「認められないから,」までを「は,本件発明の本質的部分であるから,これ
を具備しない」に改める。
 2 控訴人の当審における主張について
  (1) 文言侵害
   ア 控訴人は、被控訴人製品における内側LED121bは、それからの光が、本件
発明における遮断用偏光板に相当する第2偏光板215を透過して偏光化されるもので
あって、本件発明における偏光化用偏光板である第1偏光板214を透過するようにな
っていないから、これを本件発明における偏光用光源とすることはできないと主張
する。
     しかしながら、本件発明においては「選択的に発光可能とされた偏光用
光源と非偏光用光源とを設け、そして、偏光用光源からの光については偏光化用偏
光板を透過させる」(原判決3頁の構成要件ア。以下、単に「構成要件ア」などと
いう。)という構成が採用されているから、それからの光が偏光化用偏光板を透過
しない光源は「非偏光用光源」であることとなるけれども、本件においては、被控
訴人製品がこのような本件発明の構成を具備するかどうかが争点であるから、控訴
人主張のような推論をすることは、被控訴人製品が本件発明の構成を具備すること
を前提として結論を先取りするものであり、誤りである。すなわち、被控訴人製品
の内側LED121bは、本件発明の偏光化用偏光板に相当する第1偏光板を透過していな
いが、このことから直ちに内側LED121bが本件発明の非偏光用光源に該当するという
ことはできないのであって、そのようにいうためには、被控訴人製品が本件発明の
構成要件アを充足することが前提となる。本件発明と被控訴人製品が同一の作用効
果を奏するとしても、一般に、複数の異なる構成が同一の作用効果を奏することは
あり得るから、被控訴人製品が、偏光用光源を有し非偏光用光源を有しないにもか
かわらず、本件発明と同一の作用効果を奏することはあり得ることである。
     なお、被控訴人製品が本件発明の構成要件ウを充足することは当事者間
に争いがなく(原判決3頁)、被控訴人製品において、本件発明の「偏光化用偏光
板」に相当する第1偏光板214の透過により形成された偏光を、本件発明の「遮断用
偏光板」に相当する第2偏光板215が遮断するけれども、このことは、被控訴人製品
の内側LED121bが「非偏光用光源」に該当することを何ら推認させるものではない。
   イ 原判決は、被控訴人製品の有する二つの光源が、いずれも偏光板を透過
することにより偏光化されて被観察物に照射されるから、偏光用光源であると認定
するところ、控訴人は、被控訴人製品の内側LED121bは、本件発明における非偏光用
光源に該当すると主張する。しかしながら、上記引用に係る原判決の説示(6頁1
9行目~8頁21行目)のとおり、被控訴人製品の内側LED121bからの光は、第2偏
光板215を透過することにより偏光化されて被観察物に照射されるから、内側
LED121bが本件発明における非偏光用光源に該当するということはできない。
     控訴人は、被控訴人製品が2種類の画像を選択的に撮像し得るものであ
るから、その撮像原理に照らし、被控訴人製品が備える選択的に点灯可能な二つの
光源が互いに異なる機能を持たなければならないとか、被控訴人製品における二つ
の光源がいずれも偏光用光源であるとすれば2種類の画像を撮像することは不可能
になると主張する。しかしながら、被控訴人製品において、内側LED121bからの光
は、第2偏光板215を透過することにより偏光化されて被観察物に照射されるが、被
観察物表面からの直接反射光は、その偏光化の向きが第2偏光板215によって遮断さ
れないものであるから、被控訴人製品における二つの光源をいずれも偏光用光源と
解しても、その撮像原理に照らし、2種類の画像を撮像することは可能であって、
内側LED121bを偏光用光源ということは何ら妨げられるものではない。
   ウ また、控訴人は、第2偏光板215の外周部分が第1偏光板214と偏光面が
同方向となるように配置されているから、被控訴人製品の内側LED121bは、減光手段
以外に何ら技術的意義はなく、「それからの光が、偏光化用偏光板を透過して偏光
化されることなく」という構成を具備しているというべきであると主張する。しか
しながら、原判決説示(前同)のとおり、被控訴人製品の内側LED121bからの光は、
第2偏光板215を透過することにより偏光化するのであるから、内側LED121bが「そ
れからの光が、偏光化用偏光板を透過して偏光化されることなく」という構成を具
備するということはできない。
   エ さらに、控訴人は、本件明細書では「照明」と「照射」が使い分けられ
ており、前者は光学系CCDに到達する光の性質を、後者は被観察物に当たる光の性質
を問題としているとした上、本件発明が照明機構の発明であるから、「照明」の観
点がより重要であるとか、被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属しないとする
原判決の判断は「照明」の観点が欠落していると主張する。しかしながら、本件明
細書における「照明」と「照射」の使い分けについてはさておいても、被控訴人製
品の内側LED121bからの光が第2偏光板215を透過することにより偏光化する以上、
内側LED121bが本件発明の非偏光用光源に該当しないことは上記のとおりであって、
このことは、本件明細書における「照明」と「照射」の使い分けいかんによって左
右されるものではない。
  (2) 均等論
   ア 発明の本質的部分
     控訴人は、本件発明について、間接反射光を主体とした被観察物内部の
観察と直接反射光を主体とした被観察物表層の観察とを選択的に行い得る照明機構
のパイオニア発明ではなく、その照明を単純で製作容易な機構で制御することを可
能とした応用発明であると主張する。
     確かに、間接反射光を主体とした被観察物内部の観察と直接反射光を主
体とした被観察物表層の観察とを選択的に行い得る照明機構については、本件明細
書(甲第1号証)の【従来の技術】の欄に記載された、特開平3-135276号
公報(特願平1-273419号公報、甲第7号証)において、光源からの照明光
が、偏光板を機械的に動かすか(特許請求の範囲の請求項4)、又は偏光面を回転
させる(同1)ことにより、偏光化された状態又は自然光の状態で選択制御される
構成が開示されている。また、本件明細書には、「【0003】このような制御の
例としては、例えば、特願平1-26462号及び特願平1-27341号(注、
「273419号」の誤記と認める。)等に示される技術がある。これらの技術
は、何れも偏光板を機械的に動かすか、あるいは偏光面を回転させるための手段を
設けることにより偏光の選択制御を行うようにしている。しかし、このように偏光
板を機械的に動かしたり、偏光面回転手段を設けるようにする技術には、その作動
機構の構成がなかなか面倒であり、またそのために全体が複雑化し、さらには故障
的要素が多くなる等の欠点がある。【0004】【発明が解決しようとする課題】
そこで、この発明では、偏光板を動かしたり偏光面回転手段を設けたりすることな
く偏光の制御を行えるようにした拡大観察用の照明機構の提供を目的とする」との
記載がある。
これらの証拠によれば、本件発明の本質的部分は、偏光板を動かしたり
偏光面回転手段を設けたりすることなく、その照明を単純で製作容易な機構により
制御することを可能とした点、すなわち、特許請求の範囲の記載中「偏光用光源及
び非偏光用光源は、環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々
であり」(構成要件イ)の部分であるというべきであるから、非偏光用光源を有し
ない被控訴人製品は、本件発明の本質的部分を具備しないものであって、本件発明
と均等のものとしてその技術的範囲に属するということはできない。
   イ 控訴人は、本件発明における照明光の選択は、被観察物の内部ないし表
層を選択的に観察するために行われるのであり、これが可能である限り、本件発明
の作用効果を奏するということができると主張する。しかしながら、被控訴人製品
が本件発明の技術的範囲に属するというためには、その構造が本件明細書の特許請
求の範囲に記載された要件を文言上具備するか、又はこれと均等であることが必要
である。仮に、被控訴人製品が本件発明の奏する効果と同様の効果を奏したとして
も、本件明細書の特許請求の範囲に記載された「非偏光用光源」を具備せず、した
がって、本件発明の本質的部分である「偏光用光源及び非偏光用光源は、環状に形
成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であり」との構成を具備せ
ず、均等ということもできない場合には、被控訴人製品は本件発明の技術的範囲に
属するということはできない。
   ウ 控訴人は、本件発明の非偏光用光源と被控訴人製品の内側LED121bの置換
可能性についても主張するが、被控訴人製品が本件発明の本質的部分である「偏光
用光源及び非偏光用光源は、環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロッ
クの各々であり」の構成を具備しない以上、上記置換可能性につき判断するまでも
なく、被控訴人製品が本件発明と均等であるということはできない。
3 結論
以上のとおり、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、控訴人の本
件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴
訟法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠 原 勝 美
            裁判官   岡 本   岳
            裁判官   長 沢 幸 男

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