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平成12年(行ケ)第114号 審決取消請求事件(平成13年3月7日口頭弁論
終結)
          判         決
       原      告   ダイワ精工株式会社
       代表者代表取締役   【A】
       訴訟代理人弁護士   竹 田   稔
       同    弁理士   鈴 江 武 彦
       同          中 村   誠
同復代理人弁理士峰   隆 司
       被      告   株式会社シマノ
       代表者代表取締役   【B】
       訴訟代理人弁護士   野 上 邦五郎
       同          杉 本 進 介
       同          冨 永 博 之
       同    弁理士   小 林 茂 雄
          主         文
      特許庁が平成10年審判第35478号事件について平成12年2月
28日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は、名称を「元竿」とする実用新案登録第1957943号考案(以
下、この実用新案登録を「本件実用新案登録」といい、この考案を「本件考案」と
いう。)の実用新案権者である。本件実用新案登録は、昭和58年5月20日に実
用新案登録出願された実願昭58-76278号出願の一部を同年7月28日に新
たな実用新案登録出願とし、平成5年3月24日に設定登録されたものである。
   原告は、平成10年10月5日に被告を被請求人として、本件実用新案登録
につき無効審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成10年審判第35478号事件として審理した上、
平成12年2月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、そ
の謄本は、同年3月14日、原告に送達された。
 2 本件実用新案登録に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案
登録請求の範囲(以下「本件実用新案登録請求の範囲」という。)の記載
   高強度繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグを巻回して径の変化率の小さい
テーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体を形成し、この竿本体の基端部に、該基
端部の径より大径の握り部を設けて成る元竿であって、前記プリプレグにより、前
記竿本体の基端部とほぼ同一肉厚で連続し、かつ、前記竿本体の径の変化率よりや
や大きい緩傾斜状で拡径し、前記竿本体との間に段部を持たない長さの長いテーパ
ー部と、該テーパー部の先端とほぼ同じ肉厚で連続し、前記テーパー部との間に段
差を持たないほぼ直線状の前記握り部とを前記竿本体の基端部に一体に形成したこ
とを特徴とする元竿。
 3 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件実用新案登録請求の範囲の記
載に不備があり、実用新案法5条(注、「昭和62年法律第27号による改正前の
実用新案法5条4項」の趣旨と解される。)の規定に違反するので、本件実用新案
登録は同法37条1項3号(注、「上記改正前の同法37条1項3号」の趣旨と解
される。)の規定により無効であるとする請求人(原告)の主張に対し、本件明細
書の記載に請求人の主張するような不備があるとは認められないから、請求人の主
張及び証拠方法によっては、本件実用新案登録を無効とすることはできないとし
た。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決の理由中、請求人(原告)の主張、審査基準の記載及び本件明細書の記
載についての認定(審決謄本4頁1行目~5頁24行目)は認める。
   審決は、本件実用新案登録請求の範囲の記載が技術的に不明りょうでない旨
誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 本件考案の目的
   本件明細書(甲第2号証)には、本件考案の目的ないし本件考案の特有の作
用効果として、「ほぼ直線状の握り部を把持できるようにしているため、握り部は
非常に把持し易いのであり、又、握り部をテーパー状に形成したものに比べて滑り
にくいので、殊更握り部の外周面に滑り止め部材を設けなくともよいし、また把持
する手の疲れも少ないのである。しかも、前記ほぼ直線状の握り部は、竿本体を形
成するためのプリプレグを巻回して形成するのであるから、簡単、容易に形成する
ことができ、それだけ作業性が良くて安価に提供できる」(4欄13行目~22行
目)、「小径の基端部と大径の握り部との間を竿本体を構成するプリプレグにより
ほぼ同一肉厚で一体に連続させ、その連続させるテーパー部を、緩傾斜状で長さが
長く、竿本体との間及び握り部との間いずれも段部や段差をもたない形状としたか
ら、異なる径間をプリプレグを用いてほぼ同一肉厚で連続させているにも拘らず、
前記テーパー部により、応力集中を緩和し、応力を分散せることができると共に、
竿本体の基端部側部分における剛性を連続的に径の大きい方に変化させることがで
き、径に対する強度を大きくでき、しかも、軽量にできるのであり、更に、握り部
に詰物がないため、魚釣時における当りを敏感に釣人に感じさせることができ、釣
果を高めることができる」(同欄23行目~37行目)との記載がある。
   しかしながら、以下のとおり、本件実用新案登録請求の範囲には上記本件考
案の目的を達成し、その作用効果を奏するために必要不可欠な技術的手段が記載さ
れているということはできないから、本件実用新案登録請求の範囲の記載が技術的
に不明りょうであるとはいえないとした審決の判断は誤りである。
 2 取消事由1(「径の変化率の小さい」との記載に関して)
  (1) 本件実用新案登録請求の範囲の「径の変化率の小さいテーパー角で先細状
に傾斜する中空竿本体」との記載につき、審決は、「径の変化率の小さいテーパー
角で先細状に傾斜する中空竿本体の基端部に、該基端部の径より大径の握り部を設
けて、該握り部を握持し易いようにした元竿では、竿本体の基端部外周に、糸、テ
ープなどの紐様体によって紙、綿などの詰物を巻付けてテーパー状に盛上げ、握り
部を形成しているため、上記(C)に記載されているような問題点(注、握り部を形
成するときの作業性が悪いという問題点、魚釣時に魚が餌をくわえたときの当たり
が詰物に吸収されて反応が悪いという問題点、詰物を用いる構造であるため径に対
する強度が小さく、重くなるという問題点、以下、これらを併せて「問題点C」と
いう。)があった。本件考案の目的は、径の変化率の小さいテーパー角で先細状に
傾斜する中空竿本体を形成するためのプリプレグを利用して竿本体の基端部に連続
するテーパー部を介して握り部を一体に形成することにより、上記問題点を解消す
るものである。そうすると、実用新案登録請求の範囲に記載された『高強度繊維に
合成樹脂を含浸したプリプレグを巻回して径の変化率の小さいテーパー角で先細状
に傾斜する中空竿本体』が、先細状に傾斜する従来の一般的な中空竿本体を意味し
ていることは明らかであり、・・・その『径の変化率の小さいテーパー角』はその
竿の種類等によって特定されるものであるから、『径の変化率の小さい』の程度が
不明りょうであるとはいえない。」(審決謄本5頁26行目~6頁3行目)と認定
判断した。
  (2) しかしながら、本件考案の属する技術分野においては、径の変化率(テー
パー率)を数値で示すことにより、考案の構成を明確にして、その考案の目的を達
成するための技術的手段を明らかにしている。ところが、本件実用新案登録請求の
範囲には「径の変化率の小さいテーパー角」との記載があるのみで、その変化率
(テーパー率)が明確にされていないので、本件実用新案登録請求の範囲に、本件
考案の目的を達成するために必要不可欠な技術的手段が記載されているということ
はできない。
  (3) 審決は、本件実用新案登録請求の範囲の「径の変化率の小さいテーパー角
で先細状に傾斜する中空竿本体」が、「先細状に傾斜する従来の一般的な中空竿本
体」を意味するものと認定する。
    しかしながら、審決も指摘するように、本件考案は、問題点Cを有する元
竿、すなわち、握り部をテーパー状に盛り上げるために、基端部外周に詰物を巻き
付ける必要がある形状の元竿に特定されるものであって、握り部に詰物を必要とし
ない形状の元竿は本件考案の範囲外であるが、審決の上記認定によれば、本件実用
新案登録出願前の出願に係る実開昭58-164470号公報(甲第6号証)、本
件実用新案登録出願前に公知の実公昭57-51654号公報(甲第7号証)及び
特公昭57-26087号公報(甲第8号証)にそれぞれ開示された竿本体の基端
部外周に詰物を巻き付けることなくテーパー状に盛り上げ、握り部を形成する構成
の先細状に傾斜する中空竿本体のように、問題点Cを元々有していない形状の元竿
まで、本件実用新案登録請求の範囲に包含されることになってしまう。
    さらに、基本的形状が先細のテーパー(傾斜)状に分類される中空竿本体
において、通常の釣竿設計で用いられる径の変化率(テーパー率)の程度の範囲
を、具体的な数値を用いないで表現する場合には、相対的に「小さい変化率」、
「大きい変化率」、「中間の変化率」等と表現せざるを得ず、また、これらの各変
化率の範囲は、釣竿の種類に無関係に用いられるものである。そして、本件考案
は、このうちの「小さい変化率」の形状に限定されることになるが、審決の上記
「径の変化率の小さいテーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体」が「先細状に傾
斜する従来の一般的な中空竿本体」を意味するとの認定によれば、「径の変化率の
大きい形状」までこれに含まれてしまうことになる。
    したがって、本件実用新案登録請求の範囲の「径の変化率の小さいテーパ
ー角で先細状に傾斜する中空竿本体」が「先細状に傾斜する従来の一般的な中空竿
本体」を意味するものとした審決の認定は誤りであり、この誤りを前提として、
「径の変化率の小さい」の程度が不明りょうであるとはいえないとした審決の判断
も誤りである。
 3 取消事由2(「ほぼ同一肉厚」及び「ほぼ同じ肉厚」との記載に関して)
  (1) 本件実用新案登録請求の範囲の「竿本体の基端部とほぼ同一肉厚」のテー
パー部及び「テーパー部の先端とほぼ同じ肉厚」の握り部との記載につき、審決
は、「竿本体の基端部にプリプレグにより一体に形成されるテーパー部は竿本体の
基端部と完全に同一肉厚である必要はなく、また、テーパー部の先端にプリプレグ
により一体に形成される握り部はテーパー部の先端の肉厚と完全に同じ肉厚である
必要はなく、それらの肉厚は、釣竿としての強度を有し釣竿としての機能を果たす
範囲内において不均一さが許容されるものである。そして、『竿本体の基端部とほ
ぼ同一肉厚』及び『テーパー部の先端とほぼ同じ肉厚』における『ほぼ』の意味す
る程度、すなわち、その許容される肉厚の不均一さは釣竿の種類等によって決まる
ものである。そうすると、『竿本体の基端部とほぼ同一肉厚』及び『テーパー部の
先端とほぼ同じ肉厚』の記載において、『ほぼ同一肉厚』、『ほぼ同じ肉厚』の比
較の基準、程度が不明りょうであるとはいえない。」(審決謄本6頁13行目~2
3行目)と認定判断した。
  (2) しかしながら、本件考案の属する技術分野においては、肉厚の均一性を具
体的に示すことにより、あるいは均一性を確保するための具体的な構成を示すこと
により、その考案の目的を達成するための技術的手段を明らかにしている。ところ
が、本件実用新案登録請求の範囲には「ほぼ同一肉厚」、「ほぼ同じ肉厚」との記
載があるのみであり、考案の詳細な説明にもその具体的な説明が一切ないので、本
件実用新案登録請求の範囲に、本件考案の目的を達成するために必要不可欠な技術
的手段が記載されているということはできない。
  (3) 審決は、「釣竿としての強度を有し釣竿としての機能を果たす範囲内にお
いて不均一さが許容されるものである」、「その許容される肉厚の不均一さは釣竿
の種類等によって決まるものである」とする。
    釣竿が商品として販売されている以上、釣竿としての強度を有し、その機
能を果たすように設計してあることは当然であるが、釣竿は、その種類等により意
図する機能、目的が異なるものであって、釣竿としての強度を有し、機能を果たす
範囲内において、通常は、肉厚等を釣竿の各部分で種々変化させて、その意図する
機能、目的を発揮するよう多様な設計をするものである。したがって、審決の上記
認定判断は、「ほぼ同一肉厚」、「ほぼ同じ肉厚」との記載が、実質的にこれらの
任意の肉厚としたものを含む旨認定したものと理解され、そうであるとすれば、審
決の認定は、テーパー部及び握り部に、竿本体を構成するプリプレグとは別個のプ
リプレグを用いたものをも包含することになる。しかし、本件考案は、竿本体を構
成するプリプレグを用いてほぼ同一肉厚で連続させるという構成を維持したまま、
技術課題とする応力集中の緩和、応力分散等を図るために、「緩傾斜状で拡径し、
前記竿本体との間に段部を持たない長さの長いテーパー部」、「テーパー部との間
に段差を持たない・・・握り部」との構成を採用したものであり、テーパー部及び
握り部に、竿本体を構成するプリプレグとは別個のプリプレグを用いたものは除外
されている。したがって、審決の上記認定判断は、本件考案の技術思想を全く無視
したものといわざるを得ない。
    また、本件考案の作用効果は、従来の通常の元竿の肉厚設計、すなわち、
釣竿としての強度を有し、その機能を果たすための通常の肉厚設計では奏し得ない
はずであり、「ほぼ同一肉厚」、「ほぼ同じ肉厚」との構成が、本件考案の作用効
果を奏するための重要な要素であるはずであるから、審決の上記認定判断が、「ほ
ぼ同一肉厚」、「ほぼ同じ肉厚」との記載に任意の肉厚としたものも含まれるとの
趣旨であるとすれば、それが誤りであることは明らかである。
  (4) 被告は、実公昭46-31163号公報(乙第2号証)の記載を引用し
て、釣竿の長さ方向の肉厚を均一にし、肉厚及び径を長さ方向に急変させないこと
により、均等な強度と弾性分布を有すること、すなわち、集中応力が発生しないこ
とが従来から一般的に知られていたと主張するが、同公報に、テーパー率が変化す
る場合に関する記載はなく、技術常識として、径の変化率が変わる中空竿本体の基
端部とテーパー部との境界で応力集中が発生することは明らかである。
    また、被告は、本件実用新案登録請求の範囲の「ほぼ同一肉厚」、「ほぼ
同じ肉厚」との記載が、肉厚及び径を長さ方向に急変させないことにより集中応力
の発生を防ぐ機能を発揮できる程度の「ほぼ同一(同じ)肉厚」との意味であると
も主張するが、本件明細書には、「急変させないこと」との記載や、肉厚及び径を
長さ方向にどの程度急変させなければ、応力集中の発生を防げるのかについての具
体的な記載はない。
 4 取消事由3(「やや大きい緩傾斜状」及び「長さの長い」との記載に関し
て)
  (1) 本件実用新案登録請求の範囲の「竿本体の径の変化率よりやや大きい緩傾
斜状で拡径」する「長さの長いテーパー部」との記載につき、審決は、「『元竿』
全体の長さやその基端部の径及び『握り部』の長さやその径は、釣竿の設計時にそ
の釣竿の種類等に応じて設定することであり、本件考案において、『テーパー部』
は竿本体の径の変化率よりやや大きい緩傾斜状で竿本体の基端部から『握り部』ま
で拡径するものであってプリプレグを巻回して段部を持たないように形成されるの
であるから、その『テーパー部』の長さ及び傾斜は、プリプレグを巻回して段部を
持たないように形成する、竿本体の基端部と握り部との径の差により決まるもので
ある。そうすると、『竿本体の径の変化率よりやや大きい緩傾斜状』及び『長さの
長いテーパー部』の記載において、『やや大きい緩傾斜状』及び『長さの長い』の
程度が不明りょうであるとはいえない。」(審決謄本6頁26行目~35行目)と
認定判断した。
  (2) しかしながら、元竿全体の長さやその基端部の径及び握り部の長さやその
径は、釣竿の種類に応じて一定に設定されるものではなく、適宜に決められるもの
であるから、これらが「釣竿の設計時にその釣竿の種類等に応じて設定すること」
であることを前提とする審決の上記認定判断は、その前提に誤りがある。
    また、竿本体の基端部の径と握り部の径との差に加えて、テーパー部の長
さが決まることによって、テーパー部の傾斜が決まるのであって、基端部の径と握
り部の径との差が決まったのみでは、テーパー部の長さ及び傾斜を算出することは
できない。なお、「プリプレグを巻回して段部を持たないように形成する」こと
は、テーパー状となっている区間に段部を持たないというだけであって、テーパー
部の長さ及び傾斜を決定するための要素とはなり得ない。したがって、審決の
「『テーパー部』の長さ及び傾斜は、プリプレグを巻回して段部を持たないように
形成する、竿本体の基端部と握り部との径の差により決まるものである」との認定
判断も誤りである。
    そして、本件実用新案登録請求の範囲には「竿本体の径の変化率よりやや
大きい緩傾斜状」、「長さの長い」との記載があるのみであり、考案の詳細な説明
にもそれがどのような構成を意味するかにつき具体的な説明が一切ないので、本件
実用新案登録請求の範囲に、本件考案の目的を達成するために必要不可欠な技術的
手段が記載されているということはできない。
 5 取消事由4(「ほぼ直線状」との記載に関して)
  (1) 本件実用新案登録請求の範囲の「ほぼ直線状の前記握り部」との記載につ
き、審決は、「釣竿の握り部は、完全な直線状である必要はなく、その握り部とし
ての機能を果たす程度の直線状であればよいのであるから、『ほぼ直線状』の程度
が不明りょうであるとはいえない。」(審決謄本7頁3行目~5行目)と認定判断
した。
  (2) 市販されている各種釣竿の握り部は当然その機能を果たすものであるか
ら、審決の上記認定判断は、「ほぼ直線状の前記握り部」との記載が、実質的に任
意の形状の握り部を含む旨認定したものと理解される。しかしながら、従来のテー
パー状の握り部であっても握り部としての機能を果たすものであるところ、本件明
細書(甲第2号証)の「ほぼ直線状の握り部を把持できるようにしているため、握
り部は非常に把持し易いのであり、又、握り部をテーパー状に形成したものに比べ
て滑りにくいので、殊更握り部の外周面に滑り止め部材を設けなくともよいし、ま
た把持する手の疲れも少ないのである」(4欄13行目~18行目)との記載によ
れば、本件考案が、テーパー状の握り部を排除しており、したがって、「ほぼ直線
状の前記握り部」は、少なくともテーパー状の握り部を含まない程度の直線状であ
ることを要することは明らかである。したがって、審決の上記認定判断では、比較
の基準、程度が不明りょうであって、その技術内容を理解することはできない。
    のみならず、本件考案の「握り部」とは竿尻部を意味するものと解される
ところ、釣竿において、竿尻部(握り部)をテーパー状に形成したものが、すっぽ
抜けたりせずに把持しやすく、また滑りにくくて把持する手の疲れも少ないという
効果を奏することは、当業者の技術常識である。したがって、直線状の握り部が、
テーパー状に形成した握り部よりも、把持しやすく、滑りにくく、把持する手の疲
れも少ない旨の上記本件明細書の記載は当業者の技術常識に反するものであるが、
「ほぼ直線状の前記握り部」との構成によって、どうしてそのような効果を奏する
ことができるかという点について、本件明細書には記載も示唆もないから、このこ
とからも、審決の上記認定判断では、本件実用新案登録請求の範囲に、考案の目的
を達成するために必要不可欠な技術的手段が記載されているとはいえない。
    さらに、本件明細書(甲第2号証)には、「竿本体の基端部外周に紙、綿
などの詰物を糸、テープなどの紐様体で巻付け」(1欄22行目~24行目)た従
来技術につき、「多大の手間を要して、作業性が非常に悪い」(1欄26行目~2
欄1行目)との記載があり、他方、本件考案の作用効果として、「ほぼ直線状の握
り部は、竿本体を形成するためのプリプレグを巻回して形成するのであるから、簡
単、容易に形成することができ、それだけ作業性が良くて安価に提供できる」(4
欄19行目~22行目)、「握り部に詰物がないため、魚釣時における当りを敏感
に釣人に感じさせることができ、釣果を高めることができる」(4欄34行目~3
6行目)との記載があるが、本件実用新案登録請求の範囲の記載のみによっては、
本件考案の握り部の構成が、竿本体を形成するためのプリプレグのみを巻回し、当
該プリプレグ以外のものは巻回することなく形成したものであると理解することは
できないから、どのようにして上記本件明細書記載の本件考案の作用効果を奏する
ことができるかが明確でなく、この点からも、本件実用新案登録請求の範囲に、考
案の目的を達成するために不可欠な技術的手段が記載されているとい
うことはできない。
  (3) 被告は、釣をする際に常に竿尻部のみを握っているわけではないから、
「握り部」が竿尻部を意味するとすることが誤りであると主張するが、釣をすると
きには、状況に応じて本件考案のテーパー部に相当する個所等を握ることもあり、
握る個所をすべて「握り部」であるとするならば、テーパー部も握り部としなけれ
ばならず、本件考案の構成及び作用効果と矛盾することになる。
    また、被告は、釣竿が引っ張られていない状態で竿を握る場合に、握り部
がテーパー状となっていれば径の小さい方へ滑りやすいことが技術常識であると
し、あたかも握り部が直線状であれば滑りにくいかのような主張をするが、釣竿
は、振り込み操作、魚の引込み、釣竿の前傾握持など、前方に引っ張られるときに
最も滑りが生じやすく、そのため、握り部は後方に向かって拡径したテーパー部を
設けているのが普通であって、握り部が直線状であれば滑りにくいとすることは実
態に反する。
 6 取消事由5(「径」との記載に関して)
  (1) 本件実用新案登録請求の範囲の「径の変化率の小さいテーパー角で先細状
に傾斜する中空竿本体」、「基端部の径より大径の握り部」、「竿本体の径の変化
率よりやや大きい緩傾斜状」との各記載における「径」につき、審決は、「中空竿
本体及び竿本体の基端部はプリプレグを巻回してほぼ同じ肉厚で形成されているの
で、『径』が内径を意味するか外径を意味するか明確でないとしても、『プリプレ
グを巻回して径の変化率の小さいテーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体』、
『該基端部の径』及び『竿本体の径』の記載内容が技術的に理解できないとはいえ
ない」(審決謄本7頁7行目~11行目)と認定判断した。
  (2) しかしながら、審決は、上記「ほぼ同じ肉厚」につき、上記3のとおり、
「釣竿としての強度を有し釣竿としての機能を果たす範囲内において不均一さが許
容されるものである」として、実質的に任意の肉厚としたものを含む旨認定してい
る。そして、中空竿本体の先端側に強度を補強する別個のプリプレグ(合わせシー
ト)を巻回した結果、内径に関しては「プリプレグを巻回して径の変化率の小さい
テーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体」の構成であっても、外形に関しては当
該構成でない場合などがあるから、このような場合に、径が外径を意味するか内径
を意味するかが特定されていなければ、本件実用新案登録請求の範囲の記載内容を
理解することができず、審決の認定判断によっては、比較の基準、程度が不明りょ
うであって、その技術的内容を理解することができないといわざるを得ない。
第4 被告の反論
   審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 本件考案の目的について
   本件考案は、本件実用新案登録請求の範囲に記載された構成によって、原告
が摘示する本件明細書記載の効果を奏するものであり、本件実用新案登録請求の範
囲に上記本件考案の目的を達成し、その作用効果を奏するために必要不可欠な技術
的手段が記載されていることは明らかである。したがって、本件実用新案登録請求
の範囲の記載が技術的に不明りょうであるとはいえないとした審決の判断に誤りは
ない。
 2 取消事由1(「径の変化率の小さい」との記載に関して)について
  (1) 本件実用新案登録請求の範囲の「径の変化率の小さいテーパー角で先細状
に傾斜する中空竿本体」との記載は、審決が認定するとおり、「先細状に傾斜する
従来の一般的な中空竿本体」(審決謄本5頁38行目)を意味するものであり、こ
のことは、本件明細書(甲第2号証)の「第1図に示した元竿は、径の変化率の小
さいテーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体1の先端側に、径の変化率の小さい
テーパー角で先細状に傾斜する3本の中間竿2,3,4と1本の穂先5とをそれぞ
れ継合しており、又、前記竿本体1の基端部11には、該基端部11の径より大径
の握り部13を設けている」(3欄8行目~14行目)との記載及び図面第1図に
照らしても明らかである。そして、本件実用新案登録請求の範囲の上記記載が、従
来の通常の中空竿(元竿)の形状を示したものである以上、特にそのテーパー角を
具体的に特定する必要性はない。
  (2) また、本件実用新案登録請求の範囲の上記記載は、中空竿本体の形状を特
定するための要件であって、実開昭58-164470号公報(甲第6号証)、実
公昭57-51654号公報(甲第7号証)及び特公昭57-26087号公報
(甲第8号証)にそれぞれ開示された中空竿が問題点Cを有するか否かは、この要
件に関わる問題ではない。
    さらに、中空竿本体の基本的形状を、先細か否か、テーパー状か否か、径
の変化率の程度が小さいか大きいかというような要素ごとに分類して、「径の変化
率の小さいテーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体」との記載をこれに当てはめ
ることも意味がない。例えば、全体が逆テーパ状で先太の釣竿や、径の変化率の大
きい急テーパ状の釣竿などはあり得ないのである。先細状に傾斜する従来の一般的
な中空竿が「径の変化率の小さい」ものであることは、当業者の技術常識である。
  (3) 原告は、本件考案の属する技術分野においては、中空竿本体の径の変化率
(テーパー率)を数値で示すことにより考案の構成を明確にしている旨主張する
が、誤りである。当該技術分野において、径の変化率(テーパー率)は、考案(発
明)の構成としてこれを限定するまでの必要がない場合には、その数値的な限定を
しないのが通常であり、また、考案の詳細な説明(又は発明の詳細な説明)におい
ても、その必要性に応じて開示されるにすぎない。したがって、中空竿本体の変化
率が明確にされていないからといって、本件実用新案登録請求の範囲に本件考案の
目的を達成するために必要不可欠な技術的手段が記載されていないということはで
きない。
 3 取消事由2(「ほぼ同一肉厚」及び「ほぼ同じ肉厚」との記載に関して)に
ついて
   実公昭46-31163号公報(乙第2号証)に「従来・・・釣竿の各竿を
構成するグラスロッドは・・・樹脂を加熱硬化させて製作されているが、その肉厚
は全長に渉り均一か、または一方向に直線的に変化している。この場合肉厚の均一
なものは各ロッド毎には均等な強度と弾性分布を有し、また肉厚が一方向に直線的
に変化したものは肉厚の方向に強度と剛性を増す」(1欄18行目~27行目)と
記載されているように、釣竿の長さ方向の肉厚を均一にし、肉厚及び径を長さ方向
に急変させないことにより、均等な強度と弾性分布を有すること、すなわち、集中
応力が発生しないことが従来から一般的に知られていた。
   そして、本件実用新案登録請求の範囲の「竿本体の基端部とほぼ同一肉厚」
のテーパー部及び「テーパー部の先端とほぼ同じ肉厚」の握り部との各記載に係る
「ほぼ同一肉厚」、「ほぼ同じ肉厚」とすることの技術的意義も、上記のように、
肉厚及び径を長さ方向に急変させないことにより集中応力の発生を防ぐことにある
から、そのような機能を発揮できる程度の「ほぼ同一(同じ)肉厚」との意味であ
ることは、当業者にとって明白である。
   審決の「竿本体の基端部にプリプレグにより一体に形成されるテーパー部は
竿本体の基端部と完全に同一肉厚である必要はなく、また、テーパー部の先端にプ
リプレグにより一体に形成される握り部はテーパー部の先端の肉厚と完全に同じ肉
厚である必要はなく、それらの肉厚は、釣竿としての強度を有し釣竿としての機能
を果たす範囲内において不均一さが許容されるものである。そして、『竿本体の基
端部とほぼ同一肉厚』及び『テーパー部の先端とほぼ同じ肉厚』における『ほぼ』
の意味する程度、すなわち、その許容される肉厚の不均一さは釣竿の種類等によっ
て決まるものである。」(審決謄本6頁13行目~20行目)との認定判断の趣旨
は、テーパー部が竿本体の基端部と、また、握り部がテーパー部の先端と、それぞ
れ完全に同じ肉厚であるまでの必要はなく、釣竿の種類等によって決まる範囲の不
均一さが許容されるということにすぎず、いずれにしても、「ほぼ同一(同じ)肉
厚」といえる範囲であることが前提であり、任意の肉厚としたものを含むとしたも
のではないし、まして、竿本体を構成するプリプレグとは別個のプリプレグを用い
たものをも包含すると認定判断したものではないことは明らかである。
   したがって、「『竿本体の基端部とほぼ同一肉厚』及び『テーパー部の先端
とほぼ同じ肉厚』の記載において、『ほぼ同一肉厚』、『ほぼ同じ肉厚』の比較の
基準、程度が不明りょうであるとはいえない。」とした審決の認定判断に誤りはな
い。
 4 取消事由3(「やや大きい緩傾斜状」及び「長さの長い」との記載に関し
て)について
  (1) 本件実用新案登録請求の範囲の「前記竿本体の径の変化率よりやや大きい
緩傾斜状で拡径し、前記竿本体との間に段部を持たない長さの長いテーパー部」と
の記載は、本件考案のテーパー部の構成を示したものであるが、本件考案の構成と
して、竿本体の基端部の径及び握り部の径は任意に設計されるものであり、特に特
定する必要はないものであるから、「やや大きい緩傾斜状」及び「長さの長い」と
の記載につき、それを具体的に特定する必要もない。これらは、当業者であれば具
体的な特定がなくとも十分理解し得るものである。
  (2) 原告は、竿本体の基端部の径と握り部の径との差に加えて、テーパー部の
長さが決まることによって、テーパー部の傾斜が決まるのであって、基端部の径と
握り部の径との差が決まったのみでは、テーパー部の長さや傾斜を算出することは
できないと主張する。
    しかしながら、審決の「『元竿』全体の長さやその基端部の径及び『握り
部』の長さやその径は、釣竿の設計時にその釣竿の種類等に応じて設定することで
あり、本件考案において、『テーパー部』は竿本体の径の変化率よりやや大きい緩
傾斜状で竿本体の基端部から『握り部』まで拡径するものであってプリプレグを巻
回して段部を持たないように形成されるのであるから、その『テーパー部』の長さ
及び傾斜は、プリプレグを巻回して段部を持たないように形成する、竿本体の基端
部と握り部との径の差により決まるものである」(審決謄本6頁26行目~32行
目)との認定判断は、「テーパー部」の長さ及び傾斜が同時に基端部と握り部との
径の差によって決まるとするものではなく、原告主張の誤りはない。
 5 取消事由4(「ほぼ直線状」との記載に関して)について
  (1) 審決の「釣竿の握り部は、完全な直線状である必要はなく、その握り部と
しての機能を果たす程度の直線状であればよい」(審決謄本7頁3行目~4行目)
との説示は、「直線状」である場合を基準として、「ほぼ直線状」との要件につき
完全な直線状であるまでの必要はない旨判断したものであり、「ほぼ直線状」とい
える範囲であることが前提であるから、任意の形状の握り部を含む旨認定したもの
ではない。このことは、技術常識を有する当業者であれば十分理解し得ることであ
る。
  (2) また、原告は、本件考案の「握り部」が竿尻部を意味することを前提とし
て、握り部をテーパー状に形成したものが、すっぽ抜けたりせずに把持しやすく、
また滑りにくくて把持する手の疲れも少ないという効果を奏することが当業者の技
術常識であると主張する。
    しかしながら、釣をする際に常に竿尻部のみを握っているわけではないこ
とは当業者の技術常識であるから、「握り部」が竿尻部を意味するとの前提自体が
誤りである。のみならず、本件明細書(甲第2号証)の「ほぼ直線状の握り部を把
持できるようにしているため、握り部は非常に把持し易いのであり、又、握り部を
テーパー状に形成したものに比べて滑りにくいので、殊更握り部の外周面に滑り止
め部材を設けなくともよい」(4欄13行目~17行目)との効果の記載が、釣竿
が引っ張られていない状態で竿を握る場合に、握り部がテーパー状となっていれば
径の小さい方へ滑りやすいとの技術常識を前提としたものであることは、当業者で
あれば当然理解し得るところである。原告の主張に係る振り込み操作、魚の引込み
時などにおける竿尻部からのすっぽ抜けの問題は、これとは全く異なる技術課題で
ある。なお、原告は、握り部が直線状であれば滑りにくいとすることは実態に反
し、握り部は後方に向かって拡径したテーパー部を設けているのが普通であるとも
主張するが、竿尻部にテーパーを設ける点は、「ほぼ直線状の握り部」の後端に、
太径の尻栓を取り付けるため、設計の都合上付加された事項であり、ほぼ直線状の
握り部を有している限り、本件考案の趣旨と矛盾するものではない。
    さらに、原告は、本件考案がどのようにして握り部に詰物がないことによ
る効果を奏するのかが明確ではないと主張するが、詰物がないことによる効果は、
「ほぼ同一肉厚」等の構成に係るものであり、「ほぼ直線状」の構成から導かれる
ものではないから、原告の上記主張はその前提を誤ったものである。
 6 取消事由5(「径」との記載に関して)について
   本件考案において、中空竿本体及び竿本体の基端部はプリプレグを巻回して
ほぼ同じ肉厚で形成されているので、本件実用新案登録請求の範囲の「径の変化率
の小さいテーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体」、「基端部の径より大径の握
り部」、「竿本体の径の変化率よりやや大きい緩傾斜状」との各記載における
「径」が、内径であっても外径であっても上記各記載に係る技術的意義は明確であ
る。
   原告は、中空竿本体の先端側に補強プリプレグを巻回した場合を例として、
内径に関しては「プリプレグを巻回して径の変化率の小さいテーパー角で先細状に
傾斜する中空竿本体」の構成であっても、外形に関しては当該構成でない場合があ
り、このような場合に径が外径を意味するか内径を意味するかが特定されていなけ
れば、本件実用新案登録請求の範囲の記載内容を理解することができないと主張す
るが、本件考案における「径」の問題が、付加的な補強プリプレグを考慮したもの
でないことは、当業者が十分理解し得ることである。その他、内径が本件考案の構
成を満たしても、外径が本件考案の構成を満たさない場合があるとすれば、それは
本件考案の構成を満たさないだけであり、何ら本件明細書の記載内容が理解できな
いということにはならない。
第5 当裁判所の判断
 1 本件考案の目的について
   本件明細書に、「一般に、此種元竿において、前記握り部を竿本体の基端部
径より大径とする場合、前記竿本体の基端部外周に紙、綿などの詰物を糸、テープ
などの紐様体で巻付けてテーパー状に盛上げ、握持し易い大きさに形成してい
る。」(審決謄本4頁29行目~32行目)、「所が、この従来の構造によれば、
前記握り部を形成するのに多大の手間を要して、作業性が非常に悪いばかりか、前
記握り部を握っての魚釣時、魚が餌を咥えたときにおける当りが、前記詰物を介し
て手に伝わるため、前記当りの一部が前記詰物により吸収され、その結果、当りの
反応が悪く、釣糸を引込むタイミングが遅れて釣果が悪い問題があり、又、詰物を
用いる構造であるため、径に対する強度が小さいし、又、重くなる問題があっ
た。」(同4頁34行目~39行目)、「本考案は・・・目的は、径の変化率の小
さいテーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体を形成するためのプリプレグを利用
し、このプリプレグにより、前記竿本体の基端部に連続するテーパー部を介して握
り部を一体に形成することにより、前記詰物をなくし、前記した問題を解消するも
のである。」(同5頁2行目~6行目)、「本考案は、・・・握り部は非常に把持
し易いのであり、又、握り部をテーパー状に形成したものに比べて滑りにくいの
で、殊更握り部の外周面に滑り止め部材を設けなくともよいし、また把持する手の
疲れも少ないのである。しかも、前記ほぼ直線状の握り部は、竿本体を形成するた
めのプリプレグを巻回して形成するのであるから、簡単、容易に形成することがで
き、それだけ作業性が良くて安価に提供できるのである。・・・前記テーパー部に
より、応力集中を緩和し、応力を分散させることができると共に、竿本体の基端部
側部分における剛性を連続的に径の大きい方に変化させることができ、径に対する
強度を大きくでき、しかも、軽量にできるのであり、更に、握り部に詰物がないた
め、魚釣時における当りを敏感に釣人に感じさせることができ、釣果を高めること
ができるのである。」(同5頁12行目~22行目)との各記載があることは当事
者間に争いがない。
   これらの記載によれば、本件考案は、元竿本体の基端部外周に詰物を巻付
け、テーパー状に盛上げて握り部を形成していた従来例における、作業性が悪いこ
と、魚が餌をくわえたときにおける当りの反応が悪いこと、径に対する強度が小さ
く重くなることという問題点Cを解決するため、本件実用新案登録請求の範囲に記
載された構成を採用し、握り部を、滑りにくくて把持しやすく、かつ、作業性よく
形成できるものとすること、応力集中を緩和し、基端部側部分における剛性を連続
的に径の大きい方に変化させて、径に対する強度が大きく、かつ、軽量であるよう
にすること、魚釣時における当りを敏感に釣人に感じさせるようにすることという
効果を奏することを目的とするものと認められる。
 2 取消事由1(「径の変化率の小さい」との記載に関して)について
  (1) 審決は、「実用新案登録請求の範囲に記載された『高強度繊維に合成樹脂
を含浸したプリプレグを巻回して径の変化率の小さいテーパー角で先細状に傾斜す
る中空竿本体』が、先細状に傾斜する従来の一般的な中空竿本体を意味しているこ
とは明らかであり、中空竿本体は様々な種類があり、その『径の変化率の小さいテ
ーパー角』はその竿の種類等によって特定されるものであるから、『径の変化率の
小さい』の程度が不明りょうであるとはいえない。」(審決謄本5頁36行目~6
頁3行目)と認定説示したところ、この説示に照らすと、審決は、本件実用新案登
録請求の範囲に記載された「径の変化率の小さいテーパー角で先細状に傾斜する中
空竿本体」が、「先細状に傾斜する従来の一般的な中空竿本体」全般を意味するも
の、すなわち、任意の「先細状に傾斜する従来の一般的な中空竿本体」を包含する
ものと認定したものと解される。また、この点につき、先細状に傾斜する従来の一
般的な中空竿が「径の変化率の小さい」ものであることは当業者の技術常識である
とする被告の主張もこれと同旨であると解される。
    しかしながら、「先細状に傾斜する従来の一般的な中空竿本体」全般を意
味するものとすれば、単に「先細状に傾斜する中空竿本体」と規定すれば足り、
「径の変化率の小さいテーパー角で」傾斜するとの要件を付す必要がないことは明
らかであるから、「実用新案登録請求の範囲には・・・考案の構成に欠くことがで
きない事項のみを記載しなければならない」とする昭和62年法律第27号による
改正前の実用新案法5条4項の規定に照らして、本件実用新案登録請求の範囲の
「径の変化率の小さいテーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体」との記載の意味
を上記のように解することは誤りであるといわざるを得ない。
    また、本件実用新案登録請求の範囲には中空竿の種類につき「元竿」とい
う以外に特段の限定はないから、審決の上記説示のように、「径の変化率の小さい
テーパー角」はその竿の種類等によって特定されるから、「径の変化率の小さい」
程度が不明りょうであるとはいえないとするためには、先細状に傾斜する中空竿本
体を有する元竿について、その種類をどのように分類した場合に、その種類ごとに
元竿の先細状に傾斜する中空竿本体部分における径の変化率がどのように定まるか
が明らかでなければならないが、その点を明らかにする的確な証拠はないから、審
決の上記説示も誤りというべきである。
  (2) なお、本件実用新案登録請求の範囲に記載された「径の変化率の小さいテ
ーパー角で先細状に傾斜する中空竿本体」が、「先細状に傾斜する従来の一般的な
中空竿本体」のうち、相対的に「径の変化率の小さいテーパー角で」傾斜する中空
竿本体を意味するものと解した場合には、「径の変化率の小さい」ものに該当する
中空竿本体を選択するための大小の比較の基準ないし「小さい」といえる程度が明
りょうでなければならないところ、本件実用新案登録請求の範囲に、このような比
較の基準ないし程度についての規定はなく、また、本件明細書(甲第2号証)の考
案の詳細な説明にもこの点についての記載は見当たらない。
    そうすると、「径の変化率の小さいテーパー角で先細状に傾斜する中空竿
本体」との記載を上記のように解したとしても、上記1の本件考案の目的を達成す
るために必要不可欠な技術的手段が記載されているということはできない。
  (3) したがって、本件実用新案登録請求の範囲の「径の変化率の小さいテーパ
ー角で先細状に傾斜する中空竿本体」との記載についての審決の上記認定判断は、
いずれにせよ誤りである。
 3 取消事由2(「ほぼ同一肉厚」及び「ほぼ同じ肉厚」との記載に関して)に
ついて
  (1) 本件実用新案登録請求の範囲には、「前記竿本体の基端部とほぼ同一肉厚
で連続し、・・・テーパー部」との記載及び「該テーパー部の先端とほぼ同じ肉厚
で連続し、・・・握り部」との記載があるところ、その「ほぼ同一肉厚」と「ほぼ
同じ肉厚」との各用語の間の差違がその用語自体によって明らかであるとはいい難
いが、本件明細書(甲第2号証)には、その差違を明らかにし得る記載は見当たら
ず、また、審決にもその点についての判断は存在しない。
    そうすると、本件実用新案登録請求の範囲の記載において、上記「ほぼ同
一肉厚」及び「ほぼ同じ肉厚」の各用語は、同じ意味で用いられているものと解さ
ざるを得ず、また、審決の「竿本体の基端部にプリプレグにより一体に形成される
テーパー部は竿本体の基端部と完全に同一肉厚である必要はなく、また、テーパー
部の先端にプリプレグにより一体に形成される握り部はテーパー部の先端の肉厚と
完全に同じ肉厚である必要はなく、それらの肉厚は、釣竿としての強度を有し釣竿
としての機能を果たす範囲内において不均一さが許容されるものである。そして、
『竿本体の基端部とほぼ同一肉厚』及び『テーパー部の先端とほぼ同じ肉厚』にお
ける『ほぼ』の意味する程度、すなわち、その許容される肉厚の不均一さは釣竿の
種類等によって決まるものである。そうすると、・・・『ほぼ同一肉厚』、『ほぼ
同じ肉厚』の比較の基準、程度が不明りょうであるとはいえない」(審決謄本6頁
13行目~23行目)との認定判断も、同旨の見解を前提としたものというほかは
ない。そして、そうだとすれば、本件考案の元竿は、竿本体の基端部からテーパー
部を経て握り部までが「ほぼ同一肉厚」で連続するものであることになる(テーパ
ー部の先端もテーパー部に含まれることは明らかであるから、竿本体の基端部とほ
ぼ同一肉厚となり、したがって、テーパー部の先端とほぼ同一肉厚である握り部も
竿本体の基端部とほぼ同一肉厚となる。)。
    しかしながら、実用新案登録請求の範囲の記載につき、同じ意味を表すの
に異なる用語を用いたとすれば、そのこと自体が明りょうさを欠くものというべき
であるが、仮に、その点はおくとしても、プリプレグを巻回して形成した中空竿に
おいて、同一肉厚のまま径が大きくなれば、その強度が減少することは技術常識で
あるから、「ほぼ同一肉厚」及び「ほぼ同じ肉厚」の各用語が同じ意味で用いられ
ているものとすると、本件考案は、竿本体の基端部と比べて大径である握り部の強
度が減少しているものと考えざるを得ないことになるが、元竿が、その握り部の強
度を竿本体の強度より減少させるような構成によって成るものとすることは、技術
常識に反するのみならず、上記1のとおり、本件明細書に、本件考案の作用効果と
して、竿本体の基端部側部分における剛性を連続的に径の大きい方に、すなわち握
り部の方に変化させることが記載されていることとも食い違うものである。
    したがって、本件考案につき、上記「前記竿本体の基端部とほぼ同一肉厚
で連続し、・・・テーパー部」との記載及び「該テーパー部の先端とほぼ同じ肉厚
で連続し、・・・握り部」との構成を満たした上で、その握り部の強度を竿本体の
強度より減少させないための技術手段を要することになるが、そのような技術手段
が、本件実用新案登録請求の範囲に記載された構成上明らかであるということはで
きない。
    なお、審決は、上記のとおり、「肉厚は、釣竿としての強度を有し釣竿と
しての機能を果たす範囲内において不均一さが許容されるものである。・・・『ほ
ぼ』の意味する程度、すなわち、その許容される肉厚の不均一さは釣竿の種類等に
よって決まるものである。・・・『ほぼ同一肉厚』、『ほぼ同じ肉厚』の比較の基
準、程度が不明りょうであるとはいえない」とするが、「ほぼ同一肉厚」又は「ほ
ぼ同じ肉厚」との規定の「ほぼ」によって許容される肉厚の不均一さは、例えば、
握り部に向かって一方向的に厚くなるといったような方向性を帯びているものでは
ないから、当該不均一さが上記技術手段となり得るものではないことは明らかであ
る。また、許容される肉厚の不均一さが釣竿の種類等によって決まるものであるか
ら、「ほぼ同一肉厚」又は「ほぼ同じ肉厚」の比較の基準、程度が不明りょうであ
るとはいえないとするためには、釣竿の種類等をどのように分類した場合に、その
種類ごとに許容される肉厚の不均一さがどのように定まるかが明らかでなければな
らないが、その点を明らかにする的確な証拠はないから、審決のこの点についての
説示は誤りというべきである。
  (2) 被告は、実公昭46-31163号公報(乙第2号証)の「従来・・・釣
竿の各竿を構成するグラスロッドは・・・樹脂を加熱硬化させて製作されている
が、その肉厚は全長に渉り均一か、または一方向に直線的に変化している。この場
合肉厚の均一なものは各ロッド毎には均等な強度と弾性分布を有し、また肉厚が一
方向に直線的に変化したものは肉厚の方向に強度と剛性を増す」(1欄18行目~
27行目)との記載を引用して、釣竿の長さ方向の肉厚を均一にし、肉厚及び径を
長さ方向に急変させないことにより、集中応力が発生しないことが従来から一般的
に知られていたとした上、本件実用新案登録請求の範囲の「ほぼ同一肉厚」、「ほ
ぼ同じ肉厚」との記載も、肉厚及び径を長さ方向に急変させないことにより集中応
力の発生を防ぐ機能が発揮できる程度の「ほぼ同一(同じ)肉厚」との意味である
旨主張する。
    しかしながら、上記実公昭46-31163号公報(乙第2号証)には、
肉厚がどの程度まで不均一であっても均等な強度と弾性分布を有しているといえる
かについての記載はないから、これによっても「ほぼ同一肉厚」又は「ほぼ同じ肉
厚」の比較の基準、程度が明確であるということはできないし、また、その記載に
よって、上記のとおり、握り部が、竿本体の基端部と比べ大径であるため、同一肉
厚であるというだけでは強度が減少することになる本件考案において、均等な強度
を得るための技術手段が明らかとなるものと認めることもできない。
  (3) したがって、「前記竿本体の基端部とほぼ同一肉厚で連続し、・・・テー
パー部」との記載及び「該テーパー部の先端とほぼ同じ肉厚で連続し、・・・握り
部」との記載に関しても、本件実用新案登録請求の範囲に上記1の本件考案の目的
を達成するために必要不可欠な技術的手段が記載されているということはできず、
この記載についての審決の判断は誤りというべきである。
 4 取消事由3(「やや大きい緩傾斜状」及び「長さの長い」との記載に関し
て)について
   審決は、本件実用新案登録請求の範囲の「竿本体の径の変化率よりやや大き
い緩傾斜状で拡径」する「長さの長いテーパー部」との記載において、「やや大き
い緩傾斜状」及び「長さの長い」の程度が不明りょうではないとし、その理由とし
て、「『元竿』全体の長さやその基端部の径及び『握り部』の長さやその径は、釣
竿の設計時にその釣竿の種類等に応じて設定すること」(審決謄本6頁26行目~
27行目)であること、「本件考案において・・・『テーパー部』の長さ及び傾斜
は、プリプレグを巻回して段部を持たないように形成する、竿本体の基端部と握り
部との径の差により決まるものである」(同6頁27行目~32行目)ことを挙げ
るが、いずれも「やや大きい緩傾斜状」及び「長さの長い」の程度が不明りょうで
はないとする理由とはなり得ないものである。
   すなわち、本件実用新案登録請求の範囲の記載上、本件考案の元竿は、竿本
体、テーパー部及び握り部から成るものと認められるところ、仮に、元竿全体の長
さ及び握り部の長さが、釣竿の設計時にその釣竿の種類等に応じて適宜設定される
ものであるとしても、元竿全体の長さから握り部の長さを差し引いた値は、竿本体
の長さとテーパー部の長さ(中央部分の直線の長さ)の合計に当たるにすぎないか
ら、これによってテーパー部の長さが定まるものではない。
   さらに、仮に、基端部(テーパー部の開始位置)の径及び握り部(テーパー
部の終了位置)の径が、釣竿の設計時にその釣竿の種類等に応じて適宜設定される
ものであるとしても、テーパー部の開始位置及び終了位置の径ないし径の差が定ま
っただけで、テーパー部の長さが定まらなければ、テーパー部が緩傾斜状で拡径す
る程度(径の変化率)が定まらないことは明白であり、また、このことは、テーパ
ー部が竿本体との間に段部をもたないからといって、変わるものでないことも明ら
かである。
   したがって、「やや大きい緩傾斜状」及び「長さの長い」の程度が不明りょ
うではないとした審決の認定判断は誤りである。
 5 以上によれば、その余の取消事由について判断するまでもなく、審決には判
決の結論に影響を及ぼすべき瑕疵があるというべきであり、違法として取消しを免
れない。
   よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官 篠   原   勝   美
            裁判官   石   原   直   樹
            裁判官   宮   坂   昌   利

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