弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件訴を却下する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
         事    実
 一、 原告は、「異議申出人を原告、相手方をA及びBとする昭和四七年(懲
異)第二号懲戒請求事件について、被告が昭和四七年一一月一四日にした異議申出
を棄却する旨の裁決を取り消す。」との趣旨の判決を求め、請求の原因として、次
のとおり述べた。
 (一) A及びBはいずれも大阪弁護士会に所属する弁護士であるが、原告は、
右両名について懲戒事由があると思料し、同人らを相手方として同弁護士会に懲戒
請求をしたところ、昭和四七年二月一〇日右両名を懲戒に付さない旨の決定がなさ
れたため、原告は右決定に対して被告連合会に異議の申出をしたところ、被告連合
会は懲戒委員会の議決に基づいて、昭和四七年一一月一四日右異議申出を棄却する
旨の裁決をし、右裁決はその頃原告に送達された。
 (二) しかし、右裁決は、別紙「裁決に対する不服の理由」記載のとおり、公
正を欠き、弁護士法の精神に反するものであるから取消を免れない。
 (三) 弁護士法五六条の規定による懲戒についての審査請求を却下され、若し
くは棄却され、又は同法六〇条の規定により懲戒を受けた者は、同法六二条によつ
て東京高等裁判所にその取消の訴を提起することができる。
 ところで、右規定の解釈として、弁護士法六一条一項による異議の申出をした者
がそれを被告連合会により不適法として却下され又は理由なしとして棄却されたと
きはその取消の訴を裁判所に提起することができないとするのは正しくない。なぜ
なら、右の解釈によれば、懲戒を受けた弁護士は裁判所に訴を提起してその取消を
求めることができるのに反し、当該弁護士から害を受けてその懲戒の請求をした者
には、右と同様の不服申立の途が閉される結果となり、余りにも不公平で、特に弁
護士よりも弱い立場に在る者の保護に欠けることになり、ひいては憲法一四条の法
の下における平等の精神に反するからである。
 したがつて、本件のごとく、弁護士法五八条一項によつて弁護士の懲戒の請求
を、その弁護士の所属弁護士会に対してした者が、右請求を棄却されたので被告連
合会に、同法六一条一項に基づく異議の申出をしたところ、これも棄却された場合
においては、当然同法六二条により、右棄却の裁決の取消の訴が提起できると解さ
なければならない。
 二、 被告訴訟代理人は、「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とす
る。」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。
 (一) 弁護士法五八条は、何人も弁護士会に弁護士の懲戒を請求することがで
きる旨を規定し、また、同法六一条は懲戒請求者が日本弁護士会に対して異議の申
出をすることができる旨を規定しているが、日本弁護士連合会のした異議申出棄却
の裁決については、これを不服として裁判所に出訴することを認めた規定が存在し
ない。これは弁護士を懲戒するかどうかを弁護士会又は日本弁護士連合会の自主的
な判断に委せ、懲戒をしないとした場合にも、裁判所に対して懲戒を訴求すること
までは許さないとするのが弁護士法の精神であるからである。したがつて、本件訴
は、法の認めないものであるから不適法として却下を免れない。
 (二) 原告主張の請求原因(一)項記載の事実は認める。
         理    由
 一、 原告が、大阪弁護士会所属の弁護士A及び同Bに懲戒事由があるとして、
同弁護士会に対し、懲戒の請求をしたが、懲戒に付さない旨の決定がなされたた
め、これを不服として、被告連合会に対して異議の申出をしたところ、被告連合会
が、異議の申出を棄却する旨の裁決をしたことは、当事者間に争いがない。
 <要旨>原告は、右異議申出を棄却した裁決の取消を求めて本訴を提起したので、
その適否について考えるに、懲戒に関して、弁護士法の規定するところによ
れば何人も、弁護士について、その所属する弁護士会に懲戒の請求をすることがで
き(五八条)、所属の弁護士会により懲戒を受けた弁護士は、日本弁護士連合会に
対して、行政不服審査法による審査請求をすることができ(五九条)、右審査請求
について却下若しくは棄却の裁決を受けた者は、東京高等裁判所にその取消の訴を
提起することができ(六二条)、又日本弁護士連合会がみずから懲戒をした場合に
も、懲戒を受けた弁護士は東京高等裁判所にその取消の訴を提起することができる
が(六〇条、六二条)、他方弁護士の懲戒を請求した者は、その弁護士会が懲戒し
ない場合において、日本弁護士連合会に対して異議の申出をすることができると規
定されている(六一条)が、右異議の申出を棄却する旨の裁決がなされても、これ
に対して、裁判所に右裁決を取り消して懲戒すべきことを求める途を開いた明文の
規定は存在しない。
 ところで、弁護士法五八条所定の懲戒請求権や、六一条の異議申出権は、これら
申立をする者の個人的利益や満足のために設けられたものではなく、弁護士懲戒制
度の運用の公正を担保するため、もつぱら公益的見地から認められたものである。
したがつて、被告連合会の処分に対して懲戒請求者に不服があつても、法律によつ
て特に出訴を認めた定めのない限り、裁判所に対しその不服につき出訴することは
許されない(私人が公の利益を代表して訴訟の当事者適格を与えられ、出訴を許さ
れるのは、特別の場合であるから、法律に明定されていなければならない。行政事
件訴訟法四二条参照)。
 法が懲戒を受けた弁護士に対してのみ、裁判所に出訴する道を開いた所以は、懲
戒が弁護士に多大の不利益を被らせ、特に懲戒が除名処分に至るときには、弁護士
の身分に致命的な不利益をすらもたらすことに鑑み、慎重を期したからである。
 この制度は弁護士会の懲戒権の行使に対し懲戒を受ける弁護士の人権の保護とい
う観点から例外的に認められたものであるから、弁護士法に明文の規定を欠くにも
かかわらず、懲戒請求者にまでも拡張して訴の提起を許す解釈をとることは相当と
はいい難い。
 原告は、右のような解釈は、弁護士により損害を被つた社会的弱者の保護に欠
け、法の下の平等を規定する憲法一四条に反すると主張する。
 しかしながら、
 (一) 原告は弁護士法五八条一項により懲戒を請求する者即ち弁護士に対する
依頼者と考えているようであるが、右懲戒請求は何人でもできるとして規定されて
いる。また、弁護士の依頼者が弁護士に比し、常に社会的弱者であるということは
できないのみならず、そもそも懲戒請求者と弁護士との関係において、社会的強弱
を論ずることは無意味である。もし、懲戒手続内における立場の強弱を考えるなら
ば、弱者は明らかに懲戒請求を受けている弁護士である。なぜなら、右手続におい
て当該弁護士は懲戒を受ける惧れがあるのに対し、懲戒請求者は右手続の帰趨によ
り身分上その他の不利益を受けるものではない。したがつて、右手続は、対立二当
事者が裁判の結果により直接法律的拘束を受け、原告も場合により敗訴又は誘発さ
れた反訴における敗訴等により重大な不利益を負担するに至る惧れある民事訴訟と
は全く異なり、刑事訴訟手続に類するものであつて、このことは懲戒権は広義の刑
罰権に包含されることからも当然である。しかして、刑事訴訟手続においては、民
事訴訟手続のように当事者が全く平等には取り扱われておらず、手続上不利な立場
に立つ被告人の保護のために、公益を代表する検察官及び裁判権を行使する裁判所
の訴訟活動にも、種々制限を加えているのであり、弁護士懲戒制度もこのような観
点から被告人的立場にある弁護士に限つて裁判所への出訴が許されているのであ
り、そのことは何ら憲法一四条の精神に反しない。
 (二) なお弁護士により被害を受けた者がその弁護士について懲戒を請求した
にかかわらず懲戒が行われず、さらに異議の申出も棄却された場合に、裁判所に出
訴ができないのは、一見片手落のように見えるが、弁護士の行為によつてその権利
を侵害されたとする者が救済を求める方法が別にないわけではない。弁護士懲戒手
続の目的は弁護士の非行による被害者の救済ではなく、もつぱら弁護士の綱紀及び
品位の保持にある。被害者の権利の救済は民事訴訟手続等に依るべきであつて、懲
戒手続をもつてこれに代用することは右制度の運用を歪める惧れがある。また、懲
戒手続における懲戒請求者は右手続における当事者ではないと解されるから同人の
不服申立を懲戒の裁決を受けた弁護士の不服申立とを平等に扱わないと権衡を失す
るという説は相当でない。
 (また、刑事訴訟法上の準起訴手続は、実体につき何らの公権的判断を経ていな
い事件につき起訴するか否かを定める段階において認められた制度であるのに反
し、弁護士法六二条一項による出訴は、本来弁護士会の自治権に基づき二審級にわ
たつて有権的判断を経由した事件につき、更に行政訴訟法上の抗告訴訟としての訴
を許されたものであつてこの二つの制度は同日に論ずることはできない離れたもの
である。)
 二、 以上要するに、懲戒請求者たる原告が被告会社のした異議申出棄却の裁決
について、その取消を求める本訴は不適法であるから、これを却下することとし、
訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 裁判官 兼子徹夫)
別 紙
<記載内容は末尾1添付><記載内容は末尾2添付>

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