弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人河和金作上告趣意第一点について。
 しかし、原判決の判示した事実を、原判決挙示の証拠によつて原審が認めたこと
は、当裁判所において肯認することができる。すなわち、原判決の証拠として挙示
した証拠就中被告人の第一審第一回公判調書中の自分はA翼賛壮年団科野村支部団
長の経歴があるに拘らず云々誰れも自分が団長をした経歴を記載してないのに気付
いた事はなかつた云々の供述記載、被告人に対する昭和二二年四月七日附司法警察
官の聴取書中自分が判示調査表に判示支部団長の経歴を書かなければ処分されるこ
とはよく承知していたが云々、判示支部団長をやつていたが為め公職追放となつて
は経済的にも精神的にも堪えられない事であつたがため、判示支部団長のことだけ
を書かずに提出したのであるとの趣旨の供述記載並びに原判決に摘示した証人Dの
原審訊問調書中の被告人は昭和一九年一月八日附で判示団長に指名された記憶があ
る。そして同二一年一月二六日後任者就任迄その職にあつた旨の供述記載及び原審
第四回公判調書中の証人BのC翼賛壮年団関係書類を彼此綜合すると被告人が判示
期間判示団長をしていたことが判る旨の供述記載を綜合すれば、判示事実を原審が
認定したことは充分肯認し得られる。それ故原判決は所論のごとく虚無の証拠に基
き不当に事実を認定した違法はない。所論は判示団長就任の事実はその実際に就任
した事実によるべきものではなく、専ら任命形式により決定されるものであるとの
見解の下に事実裁判所である原審の自由裁量に属する事実の認定並びに証拠の取捨
判断就中Bの供述記載の取捨判断を非難するものに外ならないから到底是認するを
得ない。
 同第二点について。
 しかし、判示A翼賛壮年団科野村支部団長に就任した事実は実際上正式にその地
位にあつたか否かにより決定すべく、所論のごとく内申書及び辞令の有無等専らそ
の任命形式のみによらねばならぬものではない。そして記録によれば原審において
は任命手続は勿論その他諸般の事項につき多数の証人を数回に亘り詳細に取調べ、
その上判決において被告人が判示期間判示団長の地位にあつた事実を判示し、その
挙示の証拠によりこれを認めた理由を説示したものであるから、所論経歴に関する
審理判断において欠くるところはない。それ故、原審が任命の形式手続に関し審理
を為さない趣旨の論旨及びこれを判決中に明示してその証拠理由をも示さないのは
判断遺脱なりとする所論は到底これを採ることができない。
 同第三点について。
 しかし、原判決が証拠として採用した所論原審第四回公判調書(記録二四五丁裏
乃至二六〇丁)中における証人Bの供述記載はその供述記載で明らかなように、C
翼賛壮年団の幹事たりし同人が同団の団史編纂の希望を以て所持していた同団の関
係書類を調査実験した事実に因り推測した事項を供述したもので単なる意見若しく
は根拠なき想像ではない。そしてかゝる供述は証言たるの効力を妨げられるもので
ないこと刑訴第二〇六条の規定に照し明白であるから、原判決には所論のごとき採
証の法則に違背した違法はない。論旨はその理由がない。
 同第四点について。
 しかし、原判決は判示事実を認定するのに被告人の第一審並びに警察等における
供述のみを採つて認定したものではなく第二審における被告人並びに証人の供述の
一部をも採用したものである。また原判決は被告人の第一審並びに警察等における
供述全部を漫然証拠として採用したものではなく、寧ろ判示団長に就任した期間に
ついてはその供述を措信せず却つてこれを排斥して採用しなかつたものであること
その摘示の証拠説明に照し明らかなところである。しかのみならず証拠の取捨判断
は事実審たる原裁判所が法令その他実験則に反せざる限り良心に従い諸般の事情に
応じ独立自由に決定すべく、しかも原審が右被告人の第一審並びに警察における供
述の一部を証拠として採用した点については何等法令その他実験則に反したところ
を見出し得ないから所論は結局原審の自由裁量を非難するに過ぎないものである。
また有罪判決においては罪となるべき事実を認めた証拠上の理由を説明しなければ
ならないけれども、更にその証拠の取捨すなわち採用又は排斥の理由をも説明せね
ばならぬものではない。それ故原審が被告人の第一審並びに警察における供述の一
部の外第二審における証人の供述等をも証拠として採用した理由若しくは所論被告
人の第二審における否認の供述並びにこれを裹書する証人の証言を排斥し採用し難
き所以を説明しなかつたからと言つて所論のごとき違法ありとはいうない。論旨は
いずれの点より見るもその理由がない。
 同第五点について。
 しかし、原判決は判示事実を認定する証拠として被告人の第一審並びに警察にお
ける供述記載の一部(特に判示団長に就任した期間についての供述部分を除く)の
外原審における被告人の供述の一部、同証人Eの供述、同証人D、同Bの供述記載
及び押収の資格調査表における所定事項不存在の事実等を綜合して認定したもので
所論被告人の供述記載就中その自白の部分のみを唯一の証拠としたものではない。
従つて所論は既にその前提においてその理由なきものである。
 同第六点について。
 しかし、所論被告人の原審における供述は単に刑訴第三六〇条第一項にいわゆる
「罪トナルベキ事実」を否認した主張であつて、同条第二項の「法律上犯罪ノ成立
ヲ阻却スヘキ原由タル事実上ノ主張」に該らない。そして原判決は右被告人の否認
した事実を逆に肯定して明確に判示し、その証拠理由をも詳細に掲げているもので
あるから、その反面において被告人の右主張とこれを裏書する証拠とを排斥した趣
旨の判断を与えたものであること明白である。それ故原判決には所論の違法は毫も
存しない。本論旨も採るを得ない。
 よつて刑訴第四四六条に則り主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 下秀雄関与
  昭和二三年八月九日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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