弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人増井和男、同河村吉晃、同高野伸、同佐村浩之、同折目斎、同寳金敏
明、同山田知司、同植垣勝裕、同柳井康夫、同原優、同田村耕三、同本間章一、同
田辺豊、同松田喜久の上告理由について
 外国人である母が子を懐胎した場合において、母が未婚であるか、又はその子が
戸籍の記載上母の夫の嫡出子と推定されないときは、夫以外の日本人である父がそ
の子を胎児認知することができ、その届出がされれば、国籍法二条一号により、子
は出生の時に日本国籍を取得するものと解される。これに対し、外国人である母が
子を懐胎した場合において、その子が戸籍の記載上母の夫の嫡出子と推定されると
きは、夫以外の日本人である父がその子を胎児認知しようとしても、その届出は認
知の要件を欠く不適法なものとして受理されないから、胎児認知という方法によっ
ては、子が生来的に日本国籍を取得することはできない。もっとも、この場合には、
子の出生後に、右夫と子との間の親子関係の不存在が判決等によって確定されれば、
父の認知の届出が受理されることになるが、同法三条の規定に照らせば、同法にお
いては認知の遡及効は認められていないと解すべきであるから、出生後に認知がさ
れたというだけでは、子の出生の時に父との間に法律上の親子関係が存在していた
ということはできず、認知された子が同法二条一号に当然に該当するということに
はならない。
 右のように、戸籍の記載上嫡出の推定がされない場合には、胎児認知という手続
を執ることにより、子が生来的に日本国籍を取得するみちが開かれているのに、右
推定がされる場合には、胎児認知という手続を適法に執ることができないため、子
が生来的に日本国籍を取得するみちがないとすると、同じく外国人の母の嫡出でな
い子でありながら、戸籍の記載いかんにより、子が生来的に日本国籍を取得するみ
ちに著しい差があることになるが、このような著しい差異を生ずるような解釈をす
ることに合理性があるとはいい難い。したがって、できる限り右両者に同等のみち
が開かれるように、同法二条一号の規定を合理的に解釈適用するのが相当である。
 右の見地からすると、客観的にみて、戸籍の記載上嫡出の推定がされなければ日
本人である父により胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情がある場合
には、右胎児認知がされた場合に準じて、国籍法二条一号の適用を認め、子は生来
的に日本国籍を取得すると解するのが相当である。そして、生来的な日本国籍の取
得はできる限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましいことに照らせば、
右の特段の事情があるというためには、母の夫と子との間の親子関係の不存在を確
定するための法的手続が子の出生後遅滞なく執られた上、右不存在が確定されて認
知の届出を適法にすることができるようになった後速やかに認知の届出がされるこ
とを要すると解すべきである。
 所論は、戸籍の記載上嫡出の推定がされる場合においても、父が胎児認知の届出
をすれば、その届出は、いったん不受理とされるものの、後に前記の親子関係の不
存在が確定されれば、改めて受理されることになり、その結果、子は、父との法律
上の親子関係が出生時からあったものと認められ、国籍法二条一号により、日本国
籍を取得するに至るから、右の場合にも嫡出でない子の生来的な日本国籍取得のみ
ちが閉ざされているわけではないと主張する。しかしながら、不適法として受理さ
れない胎児認知の届出をあえてしておく方法があることをもって国籍取得のみちが
あるというのは、適当でないことが明らかである。のみならず、所論の場合に子の
生来的日本国籍取得を認めることは、出生の時点では父と子の間に法律上の親子関
係があるとはいえなかったにもかかわらず、後の事情変更により、当初から法律上
の親子関係があったと取り扱う例を示すものにほかならず、父が、胎児認知を届け
出ても不適法として受理されないと考えて、まず認知の届出が適法に受理されるた
めの手続を進め、その完了後速やかに認知の届出をするという方法を採った場合に、
前記要件の下に同号の適用を認めることも、同号の合理的な解釈として許されるも
のというべきである。
 原審の適法に確定した事実関係等によれば、(1) 被上告人は、平成四年九月一
五日、韓国人である母Dの子として出生した、(2) 当時Dは日本人であるEと婚
姻関係にあったため、被上告人の出生前に適法な胎児認知をすることはできなかっ
た、(3) 同年一一月四日、DとEは協議離婚した、(4) 同年一二月一八日、E
と被上告人との親子関係不存在確認の調停が申し立てられ、同五年四月二七日、右
親子関係不存在確認の審判がされて、同年六月二日、右審判が確定した、(5) 同
月一四日、日本人であるFが被上告人を認知する旨の届出をした、というのである。
右事実関係によれば、被上告人の出生後遅滞なくEと被上告人との親子関係不存在
を確認するための手続が執られ、これが確定した後速やかにFが認知の届出をした
ものということができ、客観的にみて、戸籍の記載上嫡出の推定がされなければF
により胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情があるというべきであり、
このように認めることの妨げになる事情はうかがわれない。そうであれば、被上告
人は、日本人であるFの子として、国籍法二条一号により、日本国籍を取得したも
のと認めるのが相当である。
 以上と結論において同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論
旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものであり、採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
大西勝也、同根岸重治の各補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文の
とおり判決する。
 裁判官大西勝也の補足意見は、次のとおりである。
 国籍法二条一号にいう「出生の時に父が日本国民であるとき」とは、一般には、
子の出生時において、日本国民である父との間に法律上の父子関係が形成されてい
ることを意味し、子の出生後にされた認知の効力が出生時に遡及する(法例一八条、
民法七八四条)結果、出生時に法律上の父子関係が形成されるような場合は含まれ
ないと解すべきである。したがって、外国人を母とする非嫡出子が生来的に日本国
籍を取得するのは、一般には、子が胎児である間に日本国民である実父から認知さ
れ、出生時において法律上の親子関係が形成されているというような場合に限られ
ることとなる。この点は、第一審判決及び原判決が一致して判示するところであり、
法廷意見もこのことを前提としている。
 本件においては、被上告人出生時に至るまでGがEと婚姻関係にあったため、F
が胎児認知の届出をしても受理されないであろう客観的事情にあったことは明らか
である。このような場合に、国籍法二条一号の「出生の時」という文言をどのよう
に解釈すべきかが、本件の問題である。
 国籍は、国家の構成員たる資格であるが、何人が自国の国籍を有する国民である
かを決定することは、国の固有の権限に属し、日本国憲法一〇条は、「日本国民た
る要件は、法律でこれを定める。」と規定している。すなわち、国籍法は、国家の
構成員の範囲を定める国家存立の基本に関する公法であり、その解釈に当たっては、
拡張解釈や類推解釈を極力避けることが要請される。しかし、一方において、国籍
法は、親子関係等私法の規定によって決定される法律関係を前提とすることが多く、
その解釈に当たっても、これらの先決的な問題の影響を受ける場合があることも、
否定することができない。
 被上告人の援用する昭和五七年一二月一八日付民二第七六〇八号法務省民事局長
回答は、韓国人男と離婚した韓国人女の胎児について、離婚後三箇月目に日本人男
が認知の届出をし、子の出生前であるため摘出の推定を受けることとなるか否かが
未確定であったがゆえに届出が受理されたところ、その後認知された子が離婚後三
〇〇日以内に出生したが、事後において母の前夫と子との間に親子関係不存在の裁
判が確定した場合には、前の胎児認知届は有効とされ、その結果、子は国籍法二条
一号に該当するから、日本国籍を取得するとされた例である。この回答は、離婚後
三〇〇日以内に出生することによって、いったん嫡出の推定を受けることとなりな
がら、その後親子関係不存在の裁判が確定したことによって、当初から嫡出の推定
を受けないこととなった事案に関するものであって、たまたま戸籍上の取扱いとし
て、胎児認知の届出が受理されていたため、右胎児認知の届出を有効と解したのに
対し、本件の場合は、戸籍上の取扱いとして、胎児認知の届出は受理されないこと
となっているため、有効な届出をすることができなかったにすぎない。両者とも、
子の生理的な意味での出生時において、父が日本国民であることが法律上確定して
いなかったことにおいては何ら変わりがなく、国籍法二条一号の「出生の時」の解
釈上、両者を全く別異に考えるのは相当でない。
 もとより、一般に行政実例を解釈の直接の根拠にすることが本末転倒であること
は、所論の指摘するとおりであり、また、前記の回答の当否については、議論のあ
るところであろう。しかし、前示のとおり、国籍の決定は国の固有の権限に属し、
国籍及びそれに連なる戸籍の取扱いは、これらに関する法令の解釈を含めて、第一
次的には、これらの事務を所掌する国の行政機関の決するところにゆだねられてい
るのであるから、国籍の得喪について、国がいかなる解釈の下に、いかなる取扱い
をしているかを度外視することはできない。前記回答は、国家が一定の解釈を示す
ことにより、その権限に基づき国籍を決定した例として、参酌すべきものである。
 そうすると、子の出生前に胎児認知をすることができなかったが、子の出生の約
三箇月後に母の夫と子との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続が執ら
れ、その不存在が確定されて適法に認知の届出ができるようになった日から一二日
後に認知の届出をしたという本件の場合も、前記回答の場合と同様に国籍法二条一
号に該当すると解するのが相当である。右法条の「出生の時」の意義について、生
理的意味における出生の時より広い時間的範囲を含むと解することが、やや文理に
合致しないとのそしりは免れないにしても、両者とも右「出生の時」に含まれると
解することが、国家の統一的意思を示す合理的解釈というべきである。
 付言するに、以上のような解釈は、法廷意見が述べるとおり、母の夫と子との間
の親子関係の不存在を確定するための法的手続が子の出生後「遅滞なく」執られ、
右不存在が確定されて認知の届出を適法にすることができるようになった後「速や
かに」認知の届出がされることを前提としている。本来出生子の生来的国籍が浮動
的であることは、国家の立場はもちろん本人の立場からも好ましいことではなく、
生来的国籍は、できるだけ出生時点ないしそれに近接する時点において確定的なも
のとする必要がある。その意味では、右親子関係不存在の確定手続及び認知の届出
をすべき期間を具体的数値をもって示すことにより、画一的基準を設定することが
望ましく、また、これらについて、民法、国籍法、戸籍法等に参考とすべき規定が
ないわけではないが、結局は立法的解決を待つほかはないであろう。本件は、国籍
の浮動性防止の観点からしても、前記の解釈が許容される範囲内にある事例という
べきである。
 裁判官根岸重治は、裁判官大西勝也の補足意見に同調する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    福   田       博

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛