弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人市島成一、同大橋茹の上告趣意第一点について。
 所論のうちには判例違反をいう点があるけれども、所論引用の大審院判例及び大
阪高等裁判所判例は、他人より財物の交付を受け又は財産上の利益を領得すべき正
当なる権利を有する者がこれを実行するに当り欺罔又は恐喝の手段を用い義務者を
して正数以外の財物を交付せしめ又は正数以上の利益を供与せしめた場合には、そ
の財物又は利益が法律上可分であるかぎり、詐欺、恐喝の罪は右権利の範囲外にお
いて領得した財産又は利益の部分についてのみ成立するものと解すべき旨判示した
ものであるところ、本件は要するに、判示大型切断機一台(時価八〇万円)が真実
は被告人が取締役である判示会社においてこれを購入したのに、恰も被告人が理事
長である判示協同組合が購入した如く仮装して、被告人が福井県に対し、右大型切
断機一台並びに自動かがり柄削機一台(時価一八万五千円)及び瓦斯熔接機一台(
時価四万四千円)合計三台の代金の半額を貸与されたい旨の中小企業等協同組合共
同施設設置資金の貸付方を申請し、同県係員をして右大型切断機一台は判示協同組
合において購入したものと誤信させて貸借名下に金員を騙取した事案であり、而し
て原審の確定したところによれば、他の二台の機械は真実判示協同組合において購
入したものであつたにしても、右貸付は前記大型切断機を主眼としてなされたもの
であり、もし他の機械二台だけであつたとすれば全く貸付が行われなかつたもので
あるというのである。(原判決は、「福井県係員の供述証拠を綜合」して、右貸付
が大型切断機を主眼としてなされた事実を認定し、福井県係員の何人であるかを判
文上明確にしていないけれども、それは主として原審証人A〔昭和三一年六月頃よ
りB課長の職にあり、その以前は課長補佐〕の原審公判廷における供述を指すもの
であること記録に徴し明らかである)従つて所論引用の各判例は、本件におけるが
如く大型切断機を除外して他の二台の機械だけであれば貸付が行われなかつたとい
う関係にある場合とは事案を異にし適切を欠くものであり、その余の論旨は単なる
訴訟法違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 同第二点について。
 所論は判例違反をいう点があるけれども所論引用の各判例は事案を異にする本件
には不適切であり、その余の論旨は事実誤認の主張であつて、適法な上告理由に当
らない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三九年七月八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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