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平成12年(ネ)第2884号 貸金、詐害行為取消、特許権実施料請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成6年(ワ)第8190号[甲事件]、第22696号
[乙事件]、同8年(ワ)第7181号[丙事件])(平成13年1月31日弁論終
結)
          判         決
       控訴人    A
       控訴人    株式会社エフ・アイ・シー
       代表者代表取締役    B
       両名訴訟代理人弁護士  河   合   弘   之
       同           町   田   弘   香
       同           木   下   直   樹
       同           松   井   清   隆
同泊       昌   之
同           松   村   昌   人
同           蓮   見   和   也
同           松   尾   慎   祐
同           上   田   直   樹
同           久   保   健 一 郎
同           望   月   賢   司
       控訴人    株式会社協同宣伝
       代表者代表取締役    C
       訴訟代理人弁護士    丸   山   和   也
       同           辻       洋   一
       被控訴人    株式会社ヒューネット
       代表者代表取締役    D
       訴訟代理人弁護士    鈴   木   一   郎
          主         文
本件控訴をいずれも棄却する。
      控訴費用は控訴人らの負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人ら
  (1) 原判決主文第一ないし第五項を取り消す。
  (2) 前項の部分につき被控訴人の請求をいずれも棄却する。
  (3) 原判決主文第七項を取り消す。
  (4) 被控訴人は、控訴人株式会社エフ・アイ・シーに対し、金4043万25
42円及びこれに対する平成6年8月11日から支払済みまで年6分の割合による
金員を支払え。
(5) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人
   主文と同旨
第2 事案の概要
   甲事件は、被控訴人が控訴人A(以下「控訴人A」という。)に対し、貸金
元本並びにその利息及び遅延損害金の支払を求める事案、乙事件は、被控訴人が控
訴人株式会社協同宣伝(以下「控訴人協同宣伝」という。)に対し、控訴人Aと控
訴人協同宣伝との間の金銭消費貸借契約に基づく債権の担保のために控訴人Aが控
訴人協同宣伝に対してした抵当権の設定及び上記金銭消費貸借契約に基づいて控訴
人Aが控訴人協同宣伝に対してした弁済が詐害行為に当たるとして、その取消しを
求めるとともに、上記抵当権の設定登記の抹消登記手続並びに上記弁済額相当の金
員及びその遅延損害金の支払を求める事案、丙事件は、控訴人株式会社エフ・ア
イ・シー(以下「控訴人エフ・アイ・シー」という。)が被控訴人に対し、特許権
実施契約の実施料及びその遅延損害金の支払を求める事案である。
   本件の前提となる事実、当事者の主張及び争点は、以下のとおり当事者の当
審における主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概
要」の二~五項のとおりであるから、これを引用する。
 1 控訴人A及び控訴人エフ・アイ・シー
(1) 実施料債務の発生時期
  原判決は、株式会社松村エレクトロニクス(以下「松村」という。)が本
件装置を被控訴人に納品したときに、被控訴人の控訴人エフ・アイ・シーに対する
本件実施料債務が発生すると判断するが、本件においては、被控訴人が自ら本件装
置を製造する場合があり得るのであるから、そのような場合との均衡を考慮する
と、本件実施料債務は、松村が本件装置を製造した時点において発生すると解すべ
きである。このように解しないと、被控訴人が松村の納品を不当に拒絶した場合に
実施料債務が発生しないという不都合が生ずる。
  被控訴人が控訴人エフ・アイ・シーに対し、松村から実際に納入された台
数に応じて対価を支払っていたとしても、その履行期が実施料債務の発生時期に一
致するとは限らない。
  原判決は、実施料は、元来、実施許諾を得た者がその実施によって得た利
益の一部を特許権者に還元する性質のものであるとするが、特許権者の関心は、許
諾を得た者が実施した数量であって、その者が得た利益の額ではない。また、上記
利益とは、実施権者が現実に受けた利益ではなく、受けると見込まれる利益で足
り、このような利益は、実施品の製造時に発生する。
  本件三者契約には、本製品が日本以外で「生産」された場合を含むと規定
され、日本以外で「販売」された場合が規定されていないから、本件三者契約の当
事者間においては、本製品の生産時期に着目して契約がされている。
(2) 松村が生産した本件装置の台数
  松村は、被控訴人に対して本件商品8000台分の見積書を提出し、これ
を受けて松村と被控訴人が協議を行い、被控訴人から前受金1億円が支払われ、松
村は金型を発注した。松村は、平成5年8月31日までに、本件製品として納入済
みの1470台のほか、3000台を製造した。仮に、松村の製造行為が被控訴人
の発注に基づかないものであったとしても、このことは、松村と被控訴人の内部事
情であり、控訴人エフ・アイ・シーとの関係では、実施料債務が発生する。
(3) 被控訴人の受領遅滞
  松村は、本件商品2700台分の部材費を被控訴人に請求するとともに、
同部材の引取りを被控訴人に請求した。被控訴人はこれを不当に拒絶したのであ
り、このような被控訴人の行為は、本件製品の受領拒絶に当たり、この時点で本件
実施料債務が発生したというべきである。
(4) 控訴人協同宣伝の詐害意思
  平成6年3月14日当時、控訴人協同宣伝の代表者であったCは、控訴人
Aの被控訴人に対する貸金債務の存在を全く知らなかった。Cは、控訴人Aが代表
取締役であった控訴人エフ・アイ・シーの監査役を務めていたが、同控訴人代表取
締役のBとの関係で名目的な監査役に就任したにすぎない。
 2 控訴人協同宣伝
(1) 実施料債務の発生時期
  控訴人A及び控訴人エフ・アイ・シーの主張と同旨
(2) 詐害行為の不成立
  既に抵当権が設定されている不動産を処分して当該抵当権者に弁済がされ
たとしても、一般債権者の共同担保を減少させることにはならないから、詐害行為
は成立しない。当初の抵当権設定が詐害行為に当たらなければ、その後の弁済も詐
害行為とはならない。
  仮に、当初の抵当権設定行為が一般債権者の共同担保を減少させるとして
も、控訴人協同宣伝は、控訴人Aに対し月額100万円の顧問料を支払って控訴人
A及び控訴人エフ・アイ・シーの本件事業を支援していたのであるから、控訴人エ
フ・アイ・シーが従前の立替金についての担保権の設定を受けても、実態は、控訴
人A及び控訴人エフ・アイ・シーの事業維持を図るものにほかならず、詐害行為性
を否定すべき特段の事情がある。
(3) 控訴人協同宣伝の詐害意思
  Cは、控訴人Aに対する他の債権者の存在を知らなかったのであり、仮
に、その存在を知ったとしても、本件マンションについて登記簿上表れた、先順位
抵当権者である住宅金融公庫のみである。控訴人Aが本件抵当権を設定しても、先
順位抵当権者を害することはないから、Cに詐害意思は存しない。
(4) 信義則違反
  被控訴人と控訴人協同宣伝は、ともに本件事業のために資金提供をしてい
たのであるが、被控訴人は、上記事業の中途において実施料を控訴人エフ・アイ・
シーに支払わなくなった。このような被控訴人が詐害行為取消権を行使して自己の
資金を回収することは、信義則に反し許されない。
 3 被控訴人
(1) 実施料債務の発生時期
  被控訴人は、本件三者契約において、松村の出荷台数を基準に1台当たり
2万4500円という実施料を合意したのであるから、出荷を基準として実施料債
務が発生すると解される。現に、本件三者契約が解除されるまでは、この合意に従
って実施料の支払がされたのである。
  被控訴人は、本件商品が製造されただけでは、流通、販売の余地がなく、
収益の可能性もないのであるから、このような段階で実施料債務が発生すること
は、被控訴人に酷な結果を招来する。また、被控訴人が松村に発注していない分に
ついては、松村が生産しても被控訴人が実施料債務を負担するのは不合理である。
(2) 松村が生産した本件装置の台数
  被控訴人が松村に本件装置8000台を発注した事実はない。被控訴人に
は、このような大量発注の必要はなく、松村に対する製造委託契約の予定しないも
のである。被控訴人は、金型の制作を松村に依頼したが、その制作費用は被控訴人
が負担したから、被控訴人の大量発注を前提とするものではない。
(3) 控訴人協同宣伝の詐害意思
  Cは、控訴人Aに対する抵当権設定当時、控訴人Aが他の債権者から新し
いマンション購入のための借入を行ったことを知っており、詐害の意思を有してい
た。詐害の意思とは、債務者の財産処分行為によって一般財産が減少し一般債権者
の共同担保に不足を生ずることを知ることであり、特定の債権者を害することの認
識までは必要ではないから、抵当権設定及び弁済の時点において控訴人協同宣伝が
詐害の意思を有していたということができる。
第3 当裁判所の判断
   当裁判所も、被控訴人の請求は原判決主文第一ないし第五項記載の限度で理
由があり、控訴人エフ・アイ・シーの請求は理由がないものと判断する。その理由
は、当審における主張に対し次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」
欄の「第三 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
 1 実施料債務の発生時期について
(1) 控訴人らは、被控訴人が自ら本件装置を製造する場合があり得るのである
から、そのような場合との均衡を考慮すると、本件実施料債務は、松村が本件装置
を製造した時点において発生すると解すべきであり、このように解しないと、被控
訴人が松村の納品を不当に拒絶した場合に実施料債務が発生しないという不都合が
生ずる旨主張する。
  しかしながら、原判決説示(38頁10行目~40頁6行目)のとおり、
被控訴人が本件特許の実施品の製造を他社に委託する場合には、被控訴人が実施品
の納品を受けて、初めて本件特許の実施によって利益を得る現実的可能性が生ずる
のであって、本件商品が製造されただけでは、流通、販売の余地がなく、収益の可
能性もない。これら原判決認定の事実関係に照らすと、本件において、被控訴人の
控訴人エフ・アイ・シーに対する実施料債務は、松村が被控訴人に本件装置を納品
した時点において発生するというべきである。
(2) 控訴人らは、特許権者の関心は、許諾を得た者が実施した数量であって、
その者が得た利益の額ではないと主張するところ、本件において、実施料の額は実
施数量によって決定されるのであるから、特許権者がその実施数量に関心を有する
ことは、当然のことにすぎない。本件における問題は、実施された数量を確定する
前提として、どの段階で製造がされたということができるかであって、特許権者が
上記のような関心を有するということは、実施料債務の発生時期の認定に影響を及
ぼすものではない。
  また、控訴人らは、上記利益とは、実施権者が現実に受けた利益ではな
く、受けると見込まれる利益で足りると主張するが、実施品の製造を他社に委託す
る場合に、特許権の実施許諾を受けた者が現実に実施による利益を得る可能性を取
得するのは、被控訴人が実施品の納品を受けて販売をすることが可能となる時点で
あり、それ以前の段階においては、実施許諾を受けた者は、実施による利益を得る
可能性すらないというべきである。
(3) さらに、控訴人らは、本件三者契約に、本製品が日本以外で「生産」され
た場合を含むと規定されていることを主張するが、日本国外における生産の場合に
あっても、生産されたというべき時点が問題となることは、日本国内で製造された
場合と異なるところはないから、本件三者契約の上記規定は、実施料債務の発生時
期を判断する根拠とはなり得ない。
(4) そうすると、実施料債務の発生時期に関する原審の判断は正当であるか
ら、松村が製造した台数及び被控訴人の受領遅滞に係る控訴人らの主張について判
断するまでもなく、実施料債務の額についての原審の認定は正当である。なお、被
控訴人の受領遅滞によって、被控訴人の松村に対する契約上の責任が生ずることは
格別、これによって被控訴人の控訴人エフ・アイ・シーに対する実施料債務が発生
するということはできない。
 2 詐害行為の成否について
(1) 詐害行為の不成立
  控訴人協同宣伝は、従前の立替金について担保権の設定を受けても、その
実態は、控訴人A及び控訴人エフ・アイ・シーの事業維持を図るものであって、詐
害行為性を否定すべき特段の事情があると主張するが、このような事情があるとし
ても、控訴人Aの一般債権者について共同担保の減少を甘受させるべき理由とはな
らないから、上記担保権の設定について詐害行為性を否定すべき特段の事情がある
ということはできない。
(2) 控訴人協同宣伝の詐害意思
  控訴人らは、控訴人共同宣伝の代表者であるCが先順位抵当権者である住
宅金融公庫以外に控訴人Aに対する他の債権者の存在を知らなかったと主張する。
しかしながら、原判決説示(54頁11行目~61頁9行目)のとおり、Cは、遅
くとも本件各不動産に抵当権を設定する時点において、Aには他にめぼしい財産も
収入もなく、控訴人協同宣伝以外の第三者から多額の借入をしていることを認識し
ていたと認めることができる。当審で提出された乙第78号証中、これに反する部
分は、上記の原審認定事実に照らし採用することができない。
  また、控訴人協同宣伝は、Cが控訴人エフ・アイ・シー代表取締役のBと
の関係で名目的な監査役になったものにすぎないと主張するが、そのような経緯に
つき検討するまでもなく、原判決認定の事情に照らすと、Cが詐害の意思を有して
いたと認定することができる。
(3) 信義則違反
  控訴人協同宣伝は、被控訴人と控訴人協同宣伝が共に本件特許権に係る事
業のために資金提供をしていたことなどを主張し、被控訴人のみが詐害行為取消権
を行使して自己の資金回収をすることは信義則に反すると主張するが、詐害行為取
消権は、一般債権者の共同担保を確保するための制度であって、取消権を行使する
債権者がそれにより優先弁済を受けることができるものではないから、被控訴人に
よる本件詐害行為取消権の行使が信義則に反するということはできない。
 3 結論
   以上のとおり、被控訴人の請求は原判決主文第一ないし第五項記載の限度で
理由があり、控訴人エフ・アイ・シーの請求は理由がないから、原判決は相当であ
って、本件控訴は理由がない。
   よって、本件控訴をいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民事
訴訟法67条1項本文、61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決す
る。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠原勝美
    裁判官 石原直樹
    裁判官 長沢幸男

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