弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を高松高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 高松高等検察庁検事長代理次席検事岡正毅の上告趣意第一点について。
 原判決が、その判示三において、労動争議の本質、争議行為が正当であるか否か
の基準等につき所論摘示のごとく判示したこと、並びに、その判示四において、本
件各証拠を綜合して認められる事実として、昭和二十七年十一月七日午前十時より
同十二時まで判示a変電所における停電ストライキの争議行為に対し、B会社側が
これに対抗して停電を拒否して送電を継続するため、同会社b支店の庶務課長C、
同労務係長Dは臨時工員E、同Fと共に同日午前九時半頃同a変電所に行き、Cは
会社側からの同変電所の器物に触れてはならない旨その他の記載をした業務命令書
を読み上げた上、これを同所の掲示板に貼つた後C及びDは同日午前一〇時少し前
判示配電盤前に立ち居たるに対し、同日午前十時過被告人は同配電盤のオイルスイ
ツチを切るため同盤に近づき同人等に対し「切りますよ」と言うと、同人等は切つ
てはいかんと言いCは右手で同スイツチのハンドルを握り左手で被告人の腰の辺を
押し、被告人は一旦退いたが、また配電盤に近づきC、Dの隙を見て、同人等が握
つていた同ハンドルの先を掴んで引きしやくつて同スイツチを切つたこと、そこで
Cは、前示技術屋のEを呼び、Eは早速同スイツチを入れたところ、被告人は、同
午前十時十五分頃再び右配電盤前に行き、被告人が近づいて来たのを知つて同配電
盤の椅子に腰掛けていたC、Dが右スイツチのハンドルを守るため立ち上るや、被
告人は、その椅子に掛けた上、C、Dが技術屋でないためスイツチ開閉装置である
ことを知らなかつた同配電盤の前面下方にあつたリレーのプランジヤーを右両名の
足下から手を延ばして押し上げてスイツチを切つて屋外に出たこと、これに応じて
被告人から指揮を受けていたいずれもB株式会社b支店勤務員でA労働組合員であ
つたG、H、I、J、Kの五名は、右配電盤の前に行きCが前示Eを呼んで同スイ
ツチを入れさせようとするのを防ぐため約五分間スクラムを組んだこと、および、
被告人は、同日午前十時半頃屋外の南方の柱上開閉器の紐を引いてスイツチを切り、
他の者が北方の柱上開閉器のスイツチを切り同日午前十一時五十分頃までに及んだ
旨の事実を認定したこと、および、原判決が、その判示五において、被告人の本件
右各行為は、正当な争議行為であると判断したことは、いずれも、所論のとおりで
ある。
 そして、所論第一点、二、(3)掲記のL本社の仮処分事件についての昭和二七
年一〇月二二日最高裁判所大法廷判決(民事判例集六巻九号八五七頁以下)竝びに、
昭和二三年(れ)一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決(刑事判例集四巻一
一号二二五七頁以下)が、「同盟罷業は、必然的に業務の正常な運営を阻害するも
のではあるが、その本質は、労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行に
あり、その手段方法は、労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させない
ことにあるのであつて、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさ
んとする業務の遂行行為に対し暴行、脅迫をもつてこれを妨害するがごとき行為は
もちろん、不法に、使用者側の自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止
するような行為をすることは、許されないものといわなければならない旨」を判示
していることが明らかである。そして、その趣旨は、その後昭和二七年(あ)四七
九八号昭和三三年五月二八日大法廷判決(刑事判例集一二巻八号一六九四頁)にお
いても判示するところである。ことに、後の判決は、右判示に引き続いて、「され
ば、労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するため執られ
た労働者側の威力行使の手段が、諸般の事情から見て正当な範囲を逸脱したものと
認められる場合には、刑法上の威力による業務妨害罪の成立を妨げるものではない。」
と判示しているのである。
 従つて、原判決の判示は、労働争議の本質、争議行為が正当であるか否かの基準
等についてなした前記判例の趣旨に違反するものであり、原判決の認定した前記の
事実関係によれば、被告人の所為は、労働争議における労働者側の争議手段として
正当な範囲を逸脱することも明白であるといわなければならない。にもかかわらず、
原判決が被告人の本件行為は、正当な争議行為であると判断したことは、違法であ
つて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。されば、本論旨
は結局その理由あるに帰し、原判決は、刑訴四一〇条一項、四一一条一号により、
すでにこの点において破棄を免れない。
 よつて、他の論旨に対する判断を省略し、刑訴四一三条本文に従い、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 神山欣治公判出席
  昭和三三年一二月二五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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