弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について、
 起訴状には公訴事実第二として、「黒塗お平椀蓋付五個、同壺椀蓋付五個、赤塗
盆膳五枚、九寸五分角々切赤塗膳五個、盛もの皿十枚、洋食皿五枚、電線コード約
一貫」を窃取しとあるに対し、第一審判決は「ひらわんふた附五個外じゆう器六十
点ばかり、電線コード一貫ばかり」を窃みと認定したが、該認定は引用の証拠(A
作成の盗難被害始末書)と符合しないこと所論のとおりである。(而して右は第一
審裁判所において、起訴状に盛もの皿とあるを、盛もの四十枚と誤読したことに由
来するものと考えられる。)しかし右違法あればとて、之をもつては未だ原判決を
破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められないから、論旨は採るを得な
い。
 同第二点について、
 第一審判決は証拠説示にあたり、Bの任意提出始末書を引用し、公判調書におい
ても検甲第五号Bの任意提出始末書の証拠調を了した旨の記載があること所論のと
おりである。而して右始末書末尾の作成名義はCとなつているけれども、同始末書
の冒頭にはD妻Bなる記載があり、その内容も夫Dの持ち帰つた品物を妻Bから提
出する旨の記載があることに徴すればCがBに代つて右始末書を作成したことが窺
われ、判示Bの表示は、明らかにCの誤記と認められるから、証拠調を経ない証拠
を断罪の資に供したとの論旨はその前提を欠き採用するを得ない。
 同第三点について、
 刑訴四〇〇条但書に「及び」の辞句を用いているからといつて、控訴裁判所が訴
訟記録並びに第一審で取り調べた証拠のみによつて直ちに判決することができると
認める場合でも、常に新らたに証拠を取り調べた上でなければ、いわゆる破棄自判
ができない旨を規定しているものと解すべきでないことは当裁判所の判例とすると
ころである(昭和二五年(あ)第二九八一号、同二六年一月一九日第二小法廷判決)。
論旨もまた採用し符ない。
 同第四点について、
 しかし、被告人は第一審公判廷において、E作成の盗難被害始末書を証拠とする
ことに同意し、その反対尋問権を抛棄しているのである。尤も右始末書の内容は所
論の如くその証拠価値は極めて乏しいものであつて、かゝる書類を断罪の資料に供
することは好ましいことではないが、元来被告人は右書面の作成者を証人として喚
問を求めその反対尋問権をもつているところであり、未だもつて証拠能力のないも
のとは断じ難いのである。さればその公判廷における被告人の自白の補強証拠とし
て之を採証した第一審判決並びに之を是認した原判決には所論の違法はないのであ
るから論旨は採用し難い。
 その他記録を精査しても本件につき刑訴法四一一条を適用すべきものとは認めら
れない。
 よつて刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
  昭和二七年六月六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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