弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金五千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
     原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人唐津志都磨の控訴趣意は別紙記載の通りである。
 控訴趣意第一点中理由くいちがいの論旨について。
 論旨は、原判決はその事実摘示においてくいちがいがあると主張する。仍て検討
するに原判決は被告人が昭和二十六年三月二十日発行の旬刊新聞「A」の紙上にB
及びCに関する原判示の如き記事を執筆掲載してその頃右新聞数百部を購読者に頒
布した事実を右両名の名誉を毀損した行為と認定した趣旨であること明かであり、
原判決が事実摘示の後段において「右掲載の事実中Bが右の如く不当高額の二重請
求した点やCが決算せず取支報告をもせず又でたらめをしているとかいう事実はそ
の真実たることの証明なきもの」と判示したのは原判示記事中の重要な点について
真実なることの証明がないことを判示したものであり、如何なる点が名誉毀損にな
るかの点につき必ずしも所論の如く原判決の事実摘示にくいちがいがあるとはいえ
ない。論旨は理由がない。
 同第一点中事実誤認の論旨について。
 (一) 論旨はBに関する記事中不当高額の二重請求をした点についてはその真
実なることの立証がなされていると主張する。しかし論旨摘録の証人D、同E、同
Fの原審公判廷における各証言(原審第二回及び第四回各公判調書参照)によつて
はFが被告人又はDに対し原判示記事内容の如き事実を話したことを認め得るに止
まり未だ本件記事内容が客観的に真実であることを認めるに十分でなく、その他原
審が取調べた各証拠に徴するもBに関する原判示記事内容が真実であることの証明
があつたものとは見られない。尚同人に関する原判示記事中二重請求の点が所論の
如く重要ならざる細目に関する点であるとはいえない。
 (二) 論旨はCに関する記事中同人が決算をせず収支報告もせず又でたらめを
しているという点については真実なることの証明がなされていると主張する。而し
て所論の如く原審における証人B、同Cの各証言(原審第二回公判調書参照)に徴
すればG株式会社においてはその会計年度は六月一日より翌年五月三十一日迄であ
つてその年度末に決算報告をすることと定められていることを認め得るけれども、
本件記事はCは帳簿も全部握つていて当然決算或は収支報告をすべきであるに拘ら
ずこれをしないとの趣旨であるから、当時未だ年度末でないから右Cが決算報告を
しなかつたという事実が認められるとしても直ちに右記事の内容が真実であるとは
いえない。原審が取調べた各証拠を検討してもCに関する原判示記事内容が真実で
あることの証明がなされたものとは見られない。またCが種々でたらめをしている
との点が所論の如く本件記事中重要ならざる細目に該当する部分であるとはいえな
い。
 <要旨>(三) 論旨は次に被告人は本件記事内容は真実であると信じていたもの
であるから犯意がないと主張する。仍て先ず刑法第二百三十条の二の場合に
おいて摘示事実が真実であることの証明がなされなかつたとしても行為者が事実の
真実であることを信じていたときは犯意の成立を阻却するや否やの点につき考察す
るに、刑法第二百三十条の二は同条所定の要件を充たす名誉毀損行為については真
実なることの証明があつたときはこれを罰しない旨規定しているから当該摘示事実
が真実であることの証明がなされたときは行為の違法性を阻却するものと謂はなけ
ればならない。従て行為者が摘示事実を真実なりと信じた場合は行為の違法性阻却
事由を認識していた場合であり犯意の成立を阻却するものと一広謂うことができ
る。しかし本条の場合は所論の如く行為者が単に事実を真実と信じたのみで犯意が
阻却されると解するは相当でなく、刑法第二百三十条の二が真実なることの証明が
あつたときのみこれを罰しない旨規定していることとにらみ合せて考えるときは、
行為者において摘示事実が真実であると信ずることが健全な常識に照し相当と認め
られる程度の客観的状況の存在が立証されたとき初めて犯意の成立を阻却するもの
と解しなければならない。今本件につき観るに被告人はFよりB及びCに関する原
判示の如き事実を聞くや右事実は徳原が他より聞いた事実であるに拘らずその真否
を十分確めることなく漫然その言を材料として旬刊新聞に本件記事を執筆掲載した
ことを本件証拠上認め得るに止まり、原審が取調べた各証拠に徴するも被告人が本
件摘示事実が真実であると信ずることが相当と認められる状況は未だこれを認める
ことができない。従つて本件においては被告人に犯意がなかつたものと見ることは
できない。
 これを要するに本件全証拠に徴するも原判示記事内容が真実であるとの証明があ
つたとはいえずまた被告人に犯意がなかつたとは見られず、原判決の認定は蓋し相
当であつて所論の如き事実誤認は認められない。従って論旨は採用できない。
 同第二点について。
 論旨は原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼす法令の違反があると謂うのであ
る。
 (一) 原審第三回公判調書(昭和二十六年十一月十九日の公判)に徴すれば証
人H及び証人Iの各尋問に際し尋問前宣誓を命じ且つ偽証の罰を告げた旨の記載の
ないこと所論の通りでおる。しかし昭和二十六年最高裁判所規則第十五号による改
正前の刑事訴訟規則第四十四条によれば証人に宣誓を命じたこと及び偽証の罰を告
げたことは公判調書の所謂必要的記載事項とされていないから公判調書にその旨の
記載がないからといつて直ちにこれ等の手続が履践されなかつたものと見ることは
できない。而して前記公判調書の末尾にはH及びIの各宣誓書が添付されて居り且
っ証人尋問前の手続につき訴訟関係人より異議の申立がなされた形跡はなくその他
右各手続が行われなかつたことを窺うに足る資料も存しないから証人の宣誓及び偽
証の罰の告知等の手続は寧ろ適法に行わしたものと認めるを相当とする。
 (二) 原審第四回及び第五回各公判調書に徴すれば証人B、同J、同Cを各再
尋問するに際し裁判官はさきになした宣誓の効力を維持する旨告げ新に宣誓をさせ
ていないこと所論の通りである。しかし裁判所が同一の証人を重ねて尋問する場合
に前回なされた宣誓を維持することによつてあらためて宣誓手続をなすことを省略
しても手続法違背とならないことは従来旧大審院が判例として認めたところであ
り、新刑事訴訟法の下においてもこれを違法とすべき理は見出せない。従て前掲各
証人の再尋問に際し前回の宣誓の効力を維持した原審の措置が刑事訴訟法第百五十
四条刑事訴訟規則第百十八条等の規定に違背するものとはいえない。
 これを要するに原審の訟訴手続に所論のような違法は認められず、論旨は理由が
ない。
 同第三点について。
 論旨は原判決の量刑は不当であると謂うのである。仍て本件記録を精査して考察
するに被告人はFの言を軽信して十分その真否を確めることなく「A」なる題号の
旬刊新聞に原判示の如き記事を執筆掲載してB及びCの各名誉を毀損したことは相
当責むべきであるけれども、被告人は嘗て物価統制令違反罪により一回罰金に処せ
られたことがある外前科のないこと、本件行為は被告人の正義感情より発したもの
であることが窺えることその他諸般の情状を彼此斟酌すれば原審が本件について禁
錮刑を選択(禁錮一月但し一年六月間執行猶予)したのは科刑稍重きに失すると認
められる。従て論旨は理由がある。
 仍て刑事訴訟法第三百八十一条第三百九十七条により原判決を破棄し同法第四百
条但書の規定に従い当裁判所において自判することとする。
 罪となるべき事実及びこれを認める証拠は原判決の示す通りである。
 (法令の適用)
 Bの名誉毀損の点につき刑法第二百三十条第一項第二百三十条の二第一項罰金等
臨時措置法第二条第三条
 Cの名誉毀損の点につき刑法第二百三十条第一項第二百三十条の二第三項罰金等
臨時措置法第二条第三条
 刑法第五十四条第一項前段第十条(Bの名誉を毀損した罪の刑に従い罰金刑選
択)
 刑法第十八条
 刑事訴訟法第百八十一条
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

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