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平成18年9月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第4933号不正競争行為差止等請求事件
(口頭弁論終結の日平成18年8月31日)
判決
埼玉県川口市<以下略>
原告アクアクロス株式会社
訴訟代理人弁護士秋山佳胤
神奈川県横浜市<以下略>
(商業登記簿上の住所)神奈川県横浜市<以下略>
被告株式会社レーベン販売
訴訟代理人弁護士又市義男
同南かおり
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造,販売してはならない。
2被告は,別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1050万円及びこれに対する平成18年3月30
日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
本件は,原告が,原告の製造・販売する耳かきの形態は原告の商品等表示と
して周知・著名なものになっており,被告が,原告製品の特徴的形態と酷似す
る耳かきを製造,販売したことは,不正競争防止法2条1項1号,2号所定の
不正競争行為に該当するとして,被告の製品の製造,販売の差止め,被告の製
品の廃棄及び損害賠償を求めた事案である。これに対し,被告は,原告の製品
の形態は,原告の商品等表示として周知・著名なものになっているものではな
いし,被告製品の形態は,原告製品の形態と同一若しくは類似ともいえないな
どと主張して争っている。
1前提となる事実(当事者間に争いのない事実,該当箇所末尾掲記の各証拠及
び弁論の全趣旨により認められる事実)
()当事者1
原告は,新商品の研究開発,企画,立案等を業とする株式会社である。
,,,,,,被告は食器類インテリア用品工芸品家庭用雑貨衣料品等の設計
企画,製造,販売等を業とする株式会社である。
()原告製品2
原告は,別紙原告製品目録記載の耳かき(以下「原告製品」という)を。
製造・販売している。原告製品の形態は,同目録記載のとおりで,その先端
は,弾性を有する金属製の線材を螺旋状に加工したスパイラルヘッドである
(検甲1。)
()被告製品3
被告は,別紙被告製品目録記載の耳かき(以下「被告製品」という)を。
製造・販売している。被告製品の形態は,同目録記載のとおりである(検甲
2。)
2本件における争点
()被告製品の製造・販売は,不正競争防止法2条1項1号,2号の不正競争1
行為に該当するか(争点1。)
()損害額(争点2)2
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告製品の製造・販売は,不正競争防止法2条1項1号,2号の不
正競争行為に該当するか)について。
()原告1
ア原告製品の形態が周知又は著名な商品等表示であること
)特別顕著性a
従来の耳かきは,竹製で,その先端(耳垢をとる部分)の形状はいわ
ゆる小さなスプーン型のものがほとんどであった。これに対し,原告製
品の先端は「弾性を有する金属製の線材を螺旋状に加工したスパイラ,
ルヘッド」であることを特徴とし,従来製品と明確に識別し得る独特の
形態的特徴を有している。なお,原告製品の形態は,被告のいう「旧形
状(甲4,5)も「新形状」も「弾性を有する金属製の線材を螺旋状」
に加工したスパイラルヘッド」との特徴的な部分の変更は一切なく,商
品の形態の同一性を維持しているものである。
原告製品は,このような既存の耳かきとしての常識を覆す極めて独創
的・特徴的かつ審美的な形態ゆえに,発売と同時に各所で話題となり,
1280円(消費税別)という耳かきとしては今までになかった高価格
な値段設定にもかかわらず,後記のとおり大ヒット商品になり,大きな
売上げを記録した。また,原告製品は,平成11年,グッドデザイン賞
(Gマーク)を受賞し,原告自身が宣伝費をかけなくても,その話題性
から,多数のテレビ番組,新聞,書籍,雑誌等で好意的に取り上げられ
た。このように,原告製品が従来製品と全く違う極めて特徴的な形態を
有していることは,商品の形態自体が極めて強い識別力を有することを
意味するのであり,当然,見る者にも一度見たら忘れない強い印象を与
え,周知商品表示性を基礎付ける強い理由になるものである。
)長期間の継続的独占的使用b
原告製品は,平成11年3月に,東急ハンズにて販売を開始し,東急
ハンズ全店,ランキンランキン全店において,耳かき部門で販売数,売
上高1位を占めており,平成16年度は,東急ハンズ新宿店において,
耳かき以外の製品も含めた全取扱いアイテムの売上高上位ベスト10に
入り(甲72,西武ロフトにおいても,ロフト全店の耳かき部門にお)
ける売上本数,売上高で1位を占めている(甲75。また,大手卸・)
販売店「木屋」においても,平成12年より全国100店舗以上の有名
百貨店で原告製品を定番として取り扱っているが,販売開始以来現在ま
で,耳かきとしては異例の月500個以上出荷し,ヒット商品としてそ
の販売数を維持している(甲73。さらに「紀伊國屋「三省堂,),」,」
「有隣堂」等(全国157店舗)への出荷数量は,現在,耳かきとして
は異例の月4400個を超えている(甲76。その販売数は,発売以)
来平成17年9月までの6年6か月間で累計40万1216本を記録
し,また,累計販売額も5億1355万7200円を記録している(甲
86。)
)まとめc
前記のとおり,原告が,極めて特徴的な形態を有し,強い識別力を有
している原告製品を,平成11年3月以降,長期間継続して独占して販
売してきた実態,強力な宣伝広告等に基づいて使用されてきた実態に照
らし,原告製品の形態は,遅くとも,被告が被告製品の販売を開始した
と主張する平成14年9月の時点において,日本国内の耳かきの取引業
者,耳かきを好んでする需要者に対して,周知商品表示性を獲得してお
り,また,被告製品の販売が開始された平成17年9月の時点において
も,日本国内の耳かきの取引業者,日常的に耳かきをする需要者に対し
て,周知商品表示性を獲得しており,それは現在においても変わるとこ
ろはない。
イ原告製品と被告製品の形態の類似性
)先端の形状の類似a
被告製品の先端の形状は,弾性を有するステンレス製の線材を螺旋状
に加工したスパイラルヘッドを有する点で原告製品と共通するだけでな
く,先端螺旋状の最上部より下方右回りに螺旋状に加工し,軸(芯)に
巻き回し,固定され,その固定した根本の支持によって先端は上下前後
左右360度可動可能となり,外耳道の表皮にその弾力性を発現してい
る点でも同一である。
)先端のサイズの類似b
螺旋形状の最上部より軸に巻き回した根本までのサイズ(いずれも約
),,(.,10㎜及び最も膨らんだ螺旋部のサイズ原告製品が約42㎜
被告製品が約4.5㎜)においても,極めて類似している。
)形状がもたらす効果の同一性c
被告製品は,原告製品の先端の形状を模倣することにより,耳垢を螺
旋の内側に保持するという効果さえ同一にしている。
)形態の相違点(被告の主張に対する反論)d
原告製品と被告製品とは,その形態に以下のような相違がある。しか
し,これらは,いずれも些細なものであり,特徴的部分が類似している
ことに影響を与えるものではない。
①柄部の形状の差異
柄の部分は,要するに棒状であれば足り,この点で,原告製品の柄
と被告製品の柄に差異はない。耳かきの形状で,需要者に認識される
重要部分は,耳をかく先端であるから,柄の形状の差異は,類似性を
否定する理由にはならない。
②先端の微妙な差異
先端の内部にある芯の長さは,原告製品のほうが短い。しかし,い
ずれの製品も,外側の弾性金属線材の螺旋形状の部分が,外観上需要
者に印象を与える部分であって,それが全く共通しているのに対し,
芯は,螺旋状の線材に半ば隠れているもので,需要者に与える印象に
ほとんど影響を与えない。
また,原告製品,被告製品のいずれも,ワイヤー部分の先端の直径
は,ワイヤー部分の最大の直径(中央の直径)よりも減少している。
被告製品のほうが,若干この減少の程度が大きいものの,これはごく
僅かな差異であり,従来のスプーン型の耳かきに比べれば,ほとんど
無視できる微細な違いに過ぎない。
③一重螺旋と二重螺旋との差異(被告の主張に対する反論)
螺旋が一重か二重かは,需要者において外観上ほとんど区別し得る
ものではなく,類否の判断に影響を与えるものではない。
④ワイヤーの直径の差異(被告の主張に対する反論)
原告製品のワイヤーの太さは0.3㎜であるのに対し,被告製品の
それは0.4㎜であるが,需要者がかかる違いを計測しかつ認識して
耳かきを選ぶことはあり得ず,外観上,需要者に与える印象に何ら影
響を与えるものではない。
)まとめe
以上の原告製品の形態の極めて強い周知商品表示性と,原告製品と被
告製品との類似性により,取引者及び需要者において,被告製品を原告
会社のものあるいは原告会社と何らかの関係があるものと混同するおそ
れがあることは明らかである。
()被告2
ア原告製品の形態が周知又は著名な商品等表示でないこと
)特別顕著性a
原告製品の形態は,周知又は著名な商品等表示ではない。耳かきの先
端の形状は,従来から様々であり,スプーン型のものが多数を占めては
いたものの,先端にワイヤーを螺旋状に巻いた耳かき,ネジ式の形状を
,。有する耳かき円盤を複数枚重ねた形状の耳かき等が存在するのである
)長期間の継続的・独占的使用b
原告製品が広く広告宣伝されてきたことはない。
イ原告製品と被告製品の形態の類似性
)被告製品は,弾力性を有する金属製の線材を有している点で原告製品a
と共通しているものの,両製品の先端には,以下の差異がある。
①原告製品の先端は,根本から先端にかけてラッパ状の末広がりであ
るのに対し,被告製品の先端は,中央部分が太い繭状である。
②被告製品の先端には根元部分から先端までの芯があり,綿棒等と同
様に周りに巻いたワイヤーが芯によって支えられていることを特徴と
しているのに対し,原告製品の先端は,耳垢に接する部分が360度
自由に回転することからその部分においては芯が存在しない(しては
ならない)ことを特徴とする。
,,③被告製品の先端はワイヤーが一方向のみの一重に巻かれているが
原告製品の先端は左右双方から交差するように二重螺旋の構造となっ
ている。
.,.④被告製品のワイヤーは直径04㎜原告製品のワイヤーは直径0
3㎜である。0.3㎜では柔らかすぎて被告製品の先端には使用でき
ず,0.4㎜は二重螺旋とするには固すぎる。
)また,前記のように,種々の形態の耳かきが販売されていることからb
しても,原告製品と被告製品が誤認混同をきたすとの原告の主張に理由
はない。
2争点2(損害額)について
()原告1
被告は,平成17年9月ころから現在まで,少なくとも被告製品を3万本
製造販売している(甲57。原告製品1本あたりの利益額は,約350円)
である。
よって,原告は被告に対し,上記の被告の譲渡数量に原告製品1本あたり
の利益額を乗じた1050万円を,損害賠償として請求する(不正競争防止
法5条1項。)
()被告2
原告の主張を否認し争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告製品の製造・販売は,不正競争防止法2条1項1号,2号の不
正競争行為に該当するか)について。
()商品の形態の商品等表示性について1
不正競争防止法2条1項1号が,他人の周知な商品等表示と同一又は類似
の商品等表示を使用することを,同項2号が,他人の著名な商品等表示と同
一又は類似の商品等表示を使用することを,それぞれ不正競争行為と定めた
趣旨は,上記の使用行為により,周知な商品等表示に化体された他人の営業
上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し(1
号,又は,著名な商品等表示に化体された他人の高い信用,名声,評判に)
より商品や営業の売上げを促進させる顧客吸引力へのただ乗り行為を防止し
(2号,もって,周知又は著名な商品等表示が有する営業上の信用を保護)
することにある。
商品の形態は,本来的には,商品としての機能・効用の発揮や商品の美観
の向上等のために選択されるものであり,商品の出所を表示する目的を有す
るものではない。しかし,特定の商品の形態が独自の特徴を有し,かつ,こ
の形態が長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間でも強力な宣
伝等が伴って使用されることにより,その形態が特定の者の商品であること
を示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,当
該商品等の形態が,上記各号にいう「商品等表示」として保護されることに
なると解すべきである。
()原告製品の形態の商品等表示性について2
ア原告製品の形態の特徴について
,,,原告製品の形態は別紙原告製品目録記載のとおりでありその先端は
弾性を有する金属製の線材を螺旋状に加工したスパイラルヘッドである。
原告製品の先端は,発売当初は螺旋状の部分が一重螺旋であり,芯も螺旋
状の部分には出ていなかった(甲4,5)が,後に二重螺旋になり,芯の
先端が螺旋状の部分の内部に出ている形状(乙1)になるなど,細部で変
更された部分がある。また,原告製品の販売単価は,1280円(税別)
のもの,2000円(税別)のもの(甲86)と数種類あるものの,いず
れも,弾性を有する金属製の線材を螺旋状に加工したスパイラルヘッドを
有するものであることに変わりはない。
従来の耳かきは,竹製で,その先端(耳垢をとる部分)の形状は,スプ
ーン状のものが多く,そのほかに,ネジ状(スクリュー状)のもの,円板
,,を複数枚重ねた形状のものループ状に曲げた金属製の線材を重ねたもの
綿棒状のもの,電動掃除機型のもの,ライト付きのもの,内視鏡付きのも
のなど様々なものがある。しかし,先端に金属製の線材を螺旋状に巻き付
けた形状のものは,原告製品と被告製品のほか,2製品(乙6の3・7,
())(,,,,乙9乙6の7と同じ製品しか見当たらない甲151012
13,15,16,26,32,35ないし38,40,41,43,4
6,53ないし55,78ないし80,82ないし84,89,乙6の1
ないし9,乙7,8,9。しかも,上記2製品はいずれも,螺旋状に巻)
いた線材の両端が芯に巻き付いており,ネジ状のものに類する形態である
のに対し,原告製品は,螺旋状の部分の根本のみが芯と接するもので,こ
のような形態は原告製品及び被告製品のほかに見当たらない上(但し,被
,。),告製品は螺旋状の部分の先端近くまで芯があるのが原告製品と異なる
上記2製品の販売開始は,平成15年ないし平成16年と,原告製品の販
売開始後である(乙6の3・7,弁論の全趣旨。)
また,原告製品は,後記のとおり,テレビ番組等で紹介されているが,
クイズ形式で商品を紹介するテレビ番組において,出演者や街頭の通行人
に原告製品を示して,これが何かと質問したところ,クイズ形式による商
品紹介という番組の形式ゆえに,物珍しさや意外性等を強調するために制
作者による作為が施されていることは考えられるとしても,耳かきである
と回答した者はなかった(別紙「テレビ番組一覧表」記載の平成13年1
0月21日放送の「新体感クイズTVタッチアンサーズ(甲1)及び平」
成17年1月17日放送の「朝は楽しく!(甲78。」))
以上の事実を考え併せれば原告製品の先端の形態は他の同種商品耳,,(
かき)とは異なる独自の特徴を有しているものと認められる。
イ原告製品の売上げ及び宣伝広告について
)原告製品は,平成11年3月1日に販売が開始され,当初は,東急ハa
ンズ池袋店で販売されていた。原告は,その後,新宿,横浜,名古屋等
全国の東急ハンズのほか,日本橋三越本店,伊勢丹浦和店,そごう大宮
店等のデパート,木屋,丸善,ロフト,サライの店「王様のアイディ,
」(),ア平成12年当時で全国15店舗のようなアイデア商品の専門店
一部のコンビニエンスストア,渋谷駅構内や福岡市天神地下街等のラン
キンランキン,その他紀伊國屋書店,三省堂書店,有隣堂書店等の書店
でも原告製品を販売するなど販路を拡大し,東急ハンズや木屋などによ
る通信販売でも販売している(甲3,7ないし9,11,12,18,
22,24ないし28,33,34,36,38,39,44,46,
47ないし53,65,70ないし73,75,76,80,81。)
上記販売開始後平成18年7月31日までの間の原告製品の販売本数
は以下のとおりである(甲86。被告製品の販売開始は平成14年9)
月ころであるが(乙4,弁論の全趣旨,原告製品の販売開始から,被)
告製品の販売開始時までの間の原告製品の販売本数は,16万0071
本であり,平成18年7月までの間の販売本数は,55万1985本で
ある。
平成11年3月∼12年3月1万2250本
平成12年4月∼13年3月4万0543本
平成13年4月∼14年3月5万1827本
平成14年4月∼15年3月7万2072本
平成15年4月∼16年3月7万0552本
平成16年4月∼17年3月11万8148本
平成17年4月∼18年3月12万8353本
平成18年4月∼18年7月5万1985本
原告製品は,東急ハンズ全店,ランキンランキン全店において,耳か
き部門で販売数及び売上高1位となり,平成16年度は,東急ハンズ新
宿店において,耳かき以外の製品も含めた全取扱い商品の売上高上位1
0位以内に入り(甲72,ロフトにおいては,ロフト全店の耳かき部)
門における販売数及び売上高で1位を占めている(甲75。木屋にお)
いては,平成12年から全国100店舗以上の有名百貨店で原告製品を
定番商品として取り扱っており,販売開始以来現在まで,月500本以
上を出荷し(甲73,さらに,書店への出荷数量は,現在,月440)
0本超である(甲76。)
b)原告製品は,その販売開始以後,新聞,雑誌,テレビ番組等で何度か
取り上げられている。
原告製品を紹介した新聞・雑誌等の発売日ないし掲載日,その名称,
媒体の種別,発行ないし発売元,発行部数,販売地域等(全国か特定の
地域か,一般に市販されているか特定の会員にのみ頒布されるものか
等,当該記事に記載された販売先,当該記事に原告製品の形態が紹介)
されているか否か及びその紹介の方法(原告製品の写真が付いているか
否か等,当該記事に原告名が紹介されているか否かは,別紙掲載雑誌)
等一覧表に記載したとおりである(なお,同表の発行部数,販売地域等
欄が空欄のものは,これらについて不明なもの,同表の紹介した販売先
欄,原告名の表示等欄が空欄のものは,当該記事において販売先や原告
名が記載されていないものである(甲3ないし55,70,79,。)
80,82ないし84,89,90,弁論の全趣旨。)
また,原告製品を紹介したテレビ番組の放送日,番組名,放送局名,
放送開始時間,放送地域,紹介内容等は,別紙テレビ番組一覧表のとお
りである(なお,同表の開始時間欄,放送地域欄,内容等欄が空欄のも
のは,これらについて不明なものである(甲1,69,78,弁論。)
の全趣旨。)
その他,原告製品は,ラジオ番組でも「ぱっと見,耳かきに見えな,
い・・・螺旋状・・・」のもの(平成13年3月3日放送「谷五郎の。
旅は続くよ(山陽放送「先っぽ,ばねのよう・・・柔らかいスパ」)),
イラルヘッド(平成13年11月14日放送「沢木久雄のとりたてラ」
ジオ(SBS静岡ラジオ)などと紹介された(甲2。」))
ウ原告製品の形態の周知性・著名性について
a)耳かきが日本全国どの家庭にも存在する日用品であること,また,一
般の消費者は耳かきを薬屋(ドラッグストア,雑貨屋あるいはコンビ)
ニエンスストアなどで購入することを考えると,本件における原告製品
の形態の周知性・著名性は,日本全国における一般消費者を需要者とし
て,また,一般の薬屋,雑貨屋,コンビニエンスストアなどを取引者と
して考えるのが相当である。
)原告製品の売上げは,上記認定のとおり,販売開始以降少しずつ伸びb
ているものの,その販売本数は平成14年9月までで累計16万007
1本,平成18年7月までで累計55万1985本であり,その数は日
本全国の一般消費者の数あるいは日本全国の世帯数を考慮すると多いと
。,,,はいえないまた原告製品を取り扱っているのは前記認定のとおり
東急ハンズ等の専門店,デパート,一部の大手書店等であり,原告製品
を一般の薬屋,雑貨店あるいは一般のコンビニエンスストアなどで広く
取り扱っていることを認めるに足りる証拠はない。
)原告製品については,原告による宣伝広告はほとんどなされていないc
(雑誌サライの平成18年5月18日号の裏表紙広告(甲81)等があ
る程度である。しかし,原告製品が耳かきとしては,独特な機能・。)
形状を有していることから,別紙掲載雑誌等一覧表のとおり,これを紹
介する記事がときおり新聞・雑誌等に掲載されている。その記事は,平
成12年から平成16年にかけて,年に数回程度,平成17年以降は年
に10数回程度掲載されており,そのうち,毎日新聞家庭欄(平成12
年6月,400万部,甲3,毎日新聞朝刊(平成14年9月,400)
万部,甲14,日経夕刊(平成15年7月,約163万部,甲24,))
朝日新聞be(平成16年10月,800万部,甲33,産経新聞朝)
刊(平成17年12月,220万部,甲53,朝日新聞be(平成1)
8年6月,甲83)は,日刊新聞の全国版であることからすれば,これ
らの紹介記事が,原告製品について相応の宣伝広告の効果を奏するもの
であることは否定し得ないところである。しかし,このうち,上記日経
夕刊や産経新聞朝刊には,その形態を端的に認識しうる原告製品の写真
は掲載されていない。また,その余の新聞記事には,原告製品の写真が
掲載されているものの,大きくても約4ないし6㎝四方程度の小さなも
のである。また,これらの記事は,1,2年に1回程度のものであり,
その間,原告自身による宣伝広告がほとんどなされないことは前記のと
おりである。さらに,新聞以外の雑誌等の紹介記事についても,別紙掲
載雑誌等一覧表記載のとおりであり,これらの雑誌は,いずれも,全国
で販売されているものの販売数が少ないもの,特定の販売地域において
販売されているにすぎないもの(甲19,22,26,36,37,3
8,頒布対象者が会員に限定されているもの(甲9,28,90)及)
びその内容等から購読者が限定されると思われるもの(甲8,16,1
7,29)などがあるにすぎず,その購読者が限られていること,並び
に,雑誌等による原告製品の紹介記事の多くは,複数の耳かきを対比し
ながら同時に紹介するものであり,原告製品のみを紹介するものではな
いこと(甲5,10,12,13,15,16,29,32,35ない
し38,40,41,43,46,53ないし55,79,80,82
ないし84,89)からすれば,これらの紹介記事による原告製品の形
態の宣伝広告の効果はあまり期待し得ないものである。
原告自身がほとんど原告製品の宣伝広告をしていないことを考え合わ
せると,新聞・雑誌等のこれらの紹介記事により,原告製品の形態が広
く一般の需要者及び取引者に知られているということは困難である。
)原告製品を紹介等しているテレビ番組についてみると,別紙テレビ番d
組一覧表のとおり,そもそも視聴者が少ないことが容易に推測される深
夜ないし早朝(23時半以降7時まで)に放映されているものが28件
中17件を占めている上,ほか2件(BS朝日及びスカイパーフェクト
TV)は契約者のみが視聴できるものであり,さらに1件はUHF(M
Xテレビ)である。そして,深夜ないし早朝放映のものの中には通信販
,,売番組も相当数含まれていることを考慮するとこれら20件の番組は
いずれもその視聴者の数はかなり少ないものと推認される。なお,原告
は,多数の者がテレビ番組を視聴していることを示す証拠として視聴率
データ報告書(甲69)を提出するものの,同報告書自体に,世帯視聴
率データから視聴者数を推計することは薦めない旨記載されていること
からすれば,原告が主張する視聴者数は必ずしも信用性のある数値では
ない。
また,別紙テレビ番組一覧表中の上記以外の8件のテレビ番組につい
ては,ⅰ)平成15年1月16日9時21分日本テレビ放映の「情報ツ
ウ(関東・札幌,ⅱ)同年12月12日9時55分関西テレビ放映の」)
「痛快!エブリディ(関東,ⅲ)平成16年11月25日21時TB」)
S放映の「金曜日のスマたちへ(全国,ⅳ)平成17年1月17日8」)
時13分テレビ東京放映の「朝は楽しく!(関東,ⅴ)平成18年3」)
月6日8時30分TBS放映の「はなまるマーケット(全国,ⅵ)同」)
年3月14日8時テレビ朝日放映の「スーパーモーニング(全国,」)
ⅶ)同年3月18日8時40分フジテレビ放映の「ベリーベリーサタデ
ー(全国)及び,ⅷ)同年3月30日福岡放送放映の「めんたいワイ」
ド(北部九州)がある。これらのテレビ番組の中には,原告製品を好」
意的に紹介するものもあることは否定できない(別紙テレビ番組一覧表
参照。)
しかし,前記テレビ番組のうち,平成13年10月21日放送の「新
体感クイズTVタッチアンサーズ」においては,街頭で複数の通行人に
対し,原告製品を示して,それが何かと尋ねても,全員が耳かきである
旨答えられず,原告製品を知らなかったことが放送されており,この番
組は,クイズ形式で新製品を紹介するものであることから,原告製品の
物珍しさ,新規性等を強調するために,編集段階において番組制作者側
の作為が加えられていたことはあり得るとしても,このような番組にお
いて原告製品がクイズの対象として登場すること自体からも,平成13
年10月の段階において,大多数の者が原告製品の形状を知らなかった
ことを推認させるものである。加えて,上記ⅳ)の番組のように,ゲス
ト4名及び通行人60名に原告製品を見せて,何の商品かを質問をした
ところ,耳かきであると回答できる者がいなかったこと,すなわち,平
成17年1月ころにおいて,原告製品の形態を見て耳かきであることす
ら分からない者が多数いたことを明らかにしている番組も存在している
のである。この番組が原告製品を発明品として紹介する番組であったた
め,その編集過程において,原告製品を耳かきと答えた通行人をカット
するなどの作為が加わっている可能性があることを考慮したとしても,
多くの人が原告製品の形態から耳かきであることすら想像し得なかった
ことは否定し得ず,このことからすれば,平成17年においても,原告
製品の形態が商品等表示として需要者及び取引者間に周知,著名であっ
たと認めることは困難であるといわざるを得ないのである。
なお,原告製品を採り上げた前記ラジオ番組は,言語による説明であ
って,原告製品の形態を端的に認識しにくい上,いずれも特定の地方に
おいてのみ放送されたものであるにすぎない。
)上記のような事実にかんがみれば,原告製品は,平成11年3月からe
販売され始めたものであり,未だ長期間継続的かつ独占的に使用されて
きたものとはいえず,また,短期間でも強力な宣伝等が伴って使用され
てきたものともいうことができず,その形態は,被告製品の販売開始時
のみならず,現在においても,日本全国の取引者及び需要者に広く認識
されているものと認めることはできない。
不正競争防止法2条1項1号及び2号は,前記のとおり,周知又は著
名な商品等表示が有する営業上の信用を保護することをその趣旨とし,
商品の形態が,その出所を表示するものとして,その需要者及び取引者
間で広く認識されている場合に「商品等表示」として上記各号の保護,
を受けることとなるものである。これに対し,弾性を有する金属製の線
材を螺旋状に加工した原告製品の形態は,耳かきとしての機能と密接に
関連しているものであり,螺旋状の部分が弾性を有し,従来のスプーン
型の耳かきのように点ではなく,線で,かつ,全方向で耳に接する構造
とされ,また,線材の太さも,細すぎると痛みを伴い,太いと耳垢がと
りにくくなるということから,現在の太さ(0.3㎜)にされたもので
(,,,,,,,,)。ある甲18916192833ないし353978
そして,スプリングのような弾力を持つ螺旋状の先端が全方向で当たる
構造であるため,耳への当たりが柔らかで,痛みがなく,使用感が心地
良いということが,原告製品の宣伝の際の売り文句となり,試用した者
を惹き付けるポイントともなっているのであり,上記のような原告製品
の形態は,専らこのような使用感,耳かきとしての機能との関連で紹介
されている(甲1,3ないし11,14,15,17ないし19,22
ないし25,27,29ないし31,37,38,40,42ないし4
6,49ないし55,78,81ないし83,89,90。このよう)
な事情にかんがみれば,需要者,すなわち日本全国の一般消費者におい
て,原告製品を選択し購入する場合,その心地よさなどの使用感や効率
よく耳垢をとることができるかなどの機能性が重要な役割を果たしてい
るものと推認されるのであり,原告製品を購入する動機を直ちに不正競
争防止法2条1項1号及び2号が保護している周知あるいは著名商品等
表示の営業上の信用と結び付けることは短絡にすぎよう。
原告製品のような商品の保護は,その構成あるいは機能については,
特許法あるいは実用新案法による法定期間内の保護が,また,斬新なデ
ザインについては意匠法による法定期間内の保護が認められ得るとして
も,不正競争防止法2条1項1号及び2号による保護を認め,その新規
な構成あるいは機能ないしデザインを半永久的に独占的に保護をする結
果となることは,他の知的財産権の保護とのバランスからみても相当で
はないというべきである。
エよって,原告製品の形態を,不正競争防止法2条1項1号及び2号にお
ける周知商品等表示とも,著名な商品等表示とも認めることはできない。
2結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,い
ずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民訴法61
条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官設樂隆一
裁判官間史恵
裁判官荒井章光

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