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平成19年(行ケ)第10190号審決取消請求事件
平成20年1月16日判決言渡,平成19年12月6日口頭弁論終結
判決
原告アルゼ株式会社
訴訟代理人弁理士正林真之,井口嘉和
被告株式会社オリンピア
訴訟代理人弁理士黒田博道,北口智英,石井豪
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が無効2006−80146号事件について平成19年4月18日にし
た審決を取り消す」との判決。
第2事案の概要
本件は,被告の有する下記1(1)の特許(以下「本件特許」という)について,。
原告が無効審判請求をしたところ,特許庁は,被告の訂正請求を認めた上,同審判
請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,同審決の取消しを求める事案で
ある。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件特許(甲第5号証の1,2)
本件特許に係る出願は,特願昭61−150205号出願(原出願)の一部を,
新たな特許出願としたものである。
特許権者:株式会社オリンピア(被告)
発明の名称:スロットマシン」「
原出願に係る出願日:昭和61年6月26日
出願日:平成5年4月6日(特願平5−78394号)
設定登録日:平成8年8月23日
特許登録番号:第2083348号
(2)本件手続
審判請求日:平成18年8月10日(無効2006−80146号)
訂正請求日:平成18年10月20日(以下「本件訂正」という)。
審決日:平成19年4月18日
審決の結論:訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成19年5月1日(原告に対し)
2本件訂正
本件訂正は,特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正し(訂正事項1。な
お請求項の数は本件訂正の前後を通じて1個である発明の詳細な説明の課,,。),「
題を解決するための手段」に係る記載(段落【0009)を上記訂正事項1に合】
わせて訂正する(訂正事項2)ものである。
(1)本件訂正前の請求項1
「所定枚数のメダルの投入後のスタートレバーの操作によって複数の回転リールを
回転させ,前記回転リールの回転を停止スイッチの操作によって停止させ,その停
止時に回転リールの表面に表示された絵柄の組合せによって設定枚数のメダルを払
い出すスロットマシンにおいて,
上記回転リールの絵柄には,特定絵柄を表示し,
前記スロットマシンには,前記回転リールの停止時に,回転リールの表面に表示
された絵柄の組合せを判定する判定装置を設け,
前記判定装置には,
前記回転リールの停止時に入賞絵柄が揃っているか否かを判定する入賞絵柄判定
手段と,
この入賞絵柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていると判定された場合には,当
該入賞絵柄の組合せによって設定枚数のメダルを払い出すメダル払い出し制御手段
と,
前記回転リールの停止時に前記特定絵柄の有無を判定する特定絵柄判定手段と,
前記入賞絵柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていないと判定され,かつ前記特
定絵柄判定手段により,回転リールの停止時に前記特定絵柄が有ると判定されたこ
とを条件に,メダルの投入無しにスタートレバーの操作が行なえるように制御する
スタートレバー制御手段と
を備えたことを特徴とするスロットマシン」。
(2)本件訂正後の請求項1(下線部が訂正箇所である)。
「所定枚数のメダルの投入後のスタートレバーの操作によって複数の回転リールを
回転させ,前記回転リールの回転を停止スイッチの操作によって停止させ,その停
止時に回転リールの表面に表示された絵柄の組合せによって設定枚数のメダルを払
い出すスロットマシンにおいて,
上記回転リールの絵柄には,特定絵柄を表示し,
前記スロットマシンには,前記回転リールの停止時に,回転リールの表面に表示
された絵柄の組合せを判定する判定装置を設け,
前記判定装置には,
前記回転リールの停止時に入賞絵柄が揃っているか否かを判定する入賞絵柄判定
手段と,
この入賞絵柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていると判定された場合には,当
該入賞絵柄の組合せによって設定枚数のメダルを払い出すメダル払い出し制御手段
と,
前記回転リールの停止時に前記特定絵柄の有無を判定する特定絵柄判定手段と,
前記入賞絵柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていないと判定され,かつ前記特
定絵柄判定手段により,回転リールの停止時に前記特定絵柄が有ると判定されたこ
とを条件に,新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投
入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態でスタートレバーの操作が行な
えるように制御するスタートレバー制御手段とを備え,スタートレバーの操作に
よって再遊技が行えるように形成したことを特徴とするスロットマシン」。
3審決の認定した発明の要旨
審決は,本件訂正を認め,本件発明の要旨を,本件訂正後の請求項1に記載され
た下記のとおりのものと認定した(以下,本件訂正後の請求項1に記載された発明
を「本件訂正発明」という。。)
「所定枚数のメダルの投入後のスタートレバーの操作によって複数の回転リールを
回転させ,前記回転リールの回転を停止スイッチの操作によって停止させ,その停
止時に回転リールの表面に表示された絵柄の組合せによって設定枚数のメダルを払
い出すスロットマシンにおいて,
上記回転リールの絵柄には,特定絵柄を表示し,
前記スロットマシンには,前記回転リールの停止時に,回転リールの表面に表示
された絵柄の組合せを判定する判定装置を設け,
前記判定装置には,
前記回転リールの停止時に入賞絵柄が揃っているか否かを判定する入賞絵柄判定
手段と,
この入賞絵柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていると判定された場合には,当
該入賞絵柄の組合せによって設定枚数のメダルを払い出すメダル払い出し制御手段
と,
前記回転リールの停止時に前記特定絵柄の有無を判定する特定絵柄判定手段と,
前記入賞絵柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていないと判定され,かつ前記特
定絵柄判定手段により,回転リールの停止時に前記特定絵柄が有ると判定されたこ
とを条件に,新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投
入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態でスタートレバーの操作が行な
えるように制御するスタートレバー制御手段とを備え,スタートレバーの操作に
よって再遊技が行えるように形成したことを特徴とするスロットマシン」。
4審決の理由の要点
審決は,上記3のとおり,本件訂正を認め,本件発明の要旨を本件訂正発明のと
おり認定した上,本件発明(本件訂正発明)が,原告(審判請求人)の引用した下
記各刊行物にそれぞれ記載された発明(以下,刊行物の証拠番号に従って「甲第1
」。,。)号証発明などというなお審決中の証拠番号は本訴におけるものと共通である
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないと
判断した。
甲第1号証:実願昭58−128414号(実開昭60−37381号)のマイ
クロフィルム
甲第2号証:実願昭59−121693号(実開昭61−36686号)のマイ
クロフィルム
甲第3号証:実願昭53−6163号(実開昭54−110286号)のマイク
ロフィルム
甲第4号証:1975Model1083DOUBLEORNOTHINGBallySLOTMACHINES,Electro-“”
(,,Mechanicals1964-1980LIBERTYBELLBOOKS,p.45なお審決が指摘するとおり
甲第4号証は,その発行日を明らかにする証拠がないから,特許法29条1項3号
所定の本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に当たると認
めることができないものである)。
審決の理由中,訂正の適否についての判断,甲号各証の記載事項の認定,本件訂
正発明の容易想到性に関する認定判断の部分は,以下のとおりである(略称を本判
決で指定したものに改めた部分がある。。)
(1)訂正の適否についての判断
ア訂正事項1について
「上記訂正事項1の内容は,特定の条件下でのスタートレバーの操作に関して『新たなメダ,
ルの投入無しに』行なえること『特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同,
一枚数のメダルが投入された状態で』行なえること,さらに『スタートレバーの操作によって
再遊技が行えるように形成した』ことを付加することにより,特許請求の範囲の記載を明確化
し,下位概念化するものであるから,明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を
目的としたものに該当し,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また,特許明細書の段落0022には『・・・特定絵柄がある場合には,メダル投入後の状
,,。態即ちステップ40の前に戻って新たなメダルの投入なしに再遊技が行なえることとなる
・・・』と記載されており『再遊技』が『新たなメダルの投入無しに』行なえることが記載,
されている。そして,同段落中の『ステップ40』とは『スタートレバーの操作』であることを
考慮すると(段落0018及び第2図参照『スタートレバーの操作によって再遊技が行える),
ように形成した』ことについても実質的に記載されている。さらに,本発明がゲームの内容に
『引き分け』の概念を持ち込むものであって(段落0005及び段落0026参照,特定絵)
柄が有ると判定された遊技の『引き分け』による『再遊技』を行なうものであることを考慮す
ると,同段落中の『メダル投入後の状態』が『特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダ
ル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態』を意味することは自明である。よって,上記訂
正事項1は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであ
る」。
イ訂正事項2について
「上記訂正事項2の内容は,特許請求の範囲の請求項1を上記訂正事項1のとおりに訂正した
ことに対応して発明の詳細な説明を訂正するものであるから,明りょうでない記載の釈明を目
的としたものに該当し,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする
ものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない」。
ウ独立特許要件について
「請求人は,上記訂正請求による訂正事項は独立特許要件を満たしていないと主張するが,独
立特許要件は,平成6年改正前特許法第126条第3項を準用する特許法第134条の2第5
項の規定(読み替え部分参照)により,無効審判が申し立てられている請求項に関する訂正に
ついては適用されず,無効審判が申し立てられていない請求項に関する訂正についてのみ適用
されるものであるから,請求人の主張は失当である。
なお,訂正後における特許請求の範囲の請求項1に係る発明が甲第1号証乃至甲第4号証に
記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
あるかについては『6対比・判断』において判断している」,。
エむすび
「,,,以上のとおり上記訂正請求は平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し
特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に
適合するので,これを認める」。
(2)甲号各証の記載事項の認定
ア甲第1号証について
「甲第1号証(実願昭58−128414号(実開昭60−37381号)のマイクロフィル
ム)には,図面とともに,以下の記載がある。
『2.実用新案登録請求の範囲
周縁部にそれぞれ複数種類の絵柄が配列された複数個のリールが回転停止された際に,所定
の入賞ライン上に位置する各リールの絵柄の組み合わせによつて入賞が決定されるスロツトマ
シンにおいて,前記リールの少なくとも1個についてその複数種類の絵柄のうちの特定の絵柄
が前記入賞ライン上に停止しているか否かをゲーム毎に検出する検出装置と,この検出装置か
らの検出信号を積算計数する計数装置とを備え,この積算計数値が所定値に達することにより
。』()補助入賞特典を与えるよう構成したことを特徴とするスロツトマシン第1頁第5∼15行
『本考案はスロツトマシンに関し,特に従来のスロツトマシンにおける入賞の外に,補助的
入賞を付加したスロツトマシンに係るものである(第1頁第17∼19行)。』
本考案は以上のような従来のスロツトマシンにおける難点に鑑み通常の入賞すなわちリー『,
ルの全ての絵柄の組み合わせによる入賞の決定の外に,特定の絵柄(エキストラ絵柄)の現出
回数をカウントし,その積算値が一定値に対すると,例えば一定数のコインの払い出し,又は
望ましくない絵柄が現われている任意のリールを再回転させることができる補助入賞特典が与
えられる(第2頁第14行∼第3頁第1行)。』
『第1図は本考案スロツトマシンの一例を示す外観図で,遊戯者はコイン投入口1より1∼
3枚のコインを投入することによりゲームを開始できる。このコインの投入枚数に応じて入賞
,,。ライン212223の何ラインが入賞判定の際に有効化されるかが決められることになる
こうしてコイン投入後にスタートレバー2が操作されると全リール3,4,5が回転させるこ
とゝなるが,第1リール3,第2リール4は例えば乱数制御などによるランダム性をもつて適
当な時間の経過後に自動的に順次停止される。この時点で所定の入賞ライン上にもたらされる
,,第1リール3第2リール4の絵柄が決定されることになりその絵柄は対応するリール窓13
14から識別される。この後,第3リール5は低速で回転するとともに,操作許可表示8が点
灯してストツプボタン7の操作が可能であることが表示される。その後ストツプボタン7が操
作されると第3リール5も停止し,全てのリールの絵柄が決定されることになり,入賞の判定
がなされると共に遊戯者もこの絵柄の組み合わせをリール窓13∼15より観察できる。本考
案のスロツトマシンにおいては,前述した補助入賞が設けられている。これはリール周縁部に
配列されている複数種類の絵柄のうち,第2図に示すような特定の絵柄(以下,これをエキス
トラ絵柄と称する)である『UNIVERSAL(登録商標』が入賞ライン上で停止された)
場合に,エキストラポイント“1”が得られるようになつている。なお,例えば1回のゲーム
に際して投入されたコインが3枚であれば,第1図における入賞ライン21,22,23全て
が有効化されるので,そのいずれかの入賞ラインに前記のエキストラ絵柄『UNIVERSA
L』が停止されゝば,投入コイン数に応じてエキストラポイント“3”が得られる。従つて,
仮に第1図における第1リール3,第2リール4が入賞を構成し得ない絵柄の組み合わせで停
止されていても,遊戯者は第3リール5に関してエキストラ絵柄を狙つてストツプボタン7を
操作するというゲーム性が残されていることになる。このエキストラポイントの有無は毎回の
ゲーム毎に判定され,その結果はゲームの続行中順次エキストラポイント表示部24に積算表
示されてゆき,遊戯者はエキストラポイントが何点になつているかを識別できるようになつて
いる。そして例えばエキストラポイントの積算値が“20”点になると補助入賞としてすでに
停止されている第1又は第2リールのうち希望する1つのリールについて再度回転できる特典
が得られる(第3頁第4行∼第5頁第11行)。』
『第3図は本考案の電気的構成を示す機能ブロツク図である。コインの投入後に,スタート
レバー2を手前に引くと,これに連動するスイツチ30がONし,発生したスタート信号をマ
。,,イクロコンピユータ31に入力するこのマイクロコンピユータ31は周知のようにCPU
ROM,RAM,I/Oポート,制御回路とから構成されるものであるが,この第3図ではマ
イクロコンピユータ31の機能に基づいてブロツク化されている。
前記スイツチ30がONすると,モータ制御部32,33が作動を開始し,パルス発生部3
4からのパルスをモータ駆動回路35∼37に送つて,パルスモータ38∼40をそれぞれ駆
動する。
乱数発生部42は,2個の乱数値をサンプリングし,この乱数値に応じてモータ制御部32
を制御する。すなわち,パルスモータ38の始動後約2秒経過すると,乱数発生部42からサ
ンプリングした乱数値に応じてパルスモータ38を停止させる。更に,約1.5秒経過すると,
もう1つの乱数値に応じてパルスモータ39が停止する。このようにして第1及び第2リール
3,4が順次停止する。
前記第2リール4の停止と同時にモータ制御部33はパルスモータ40の回転を低速高,,(
速時の1/8)に切り換える。このパルスモータ40が低速回転になると,第1図に示すスト
ツプボタン操作許可表示8が点灯する。遊戯者は,第3リール5の絵柄を見ながら,入賞絵柄
の配列が完成されるように,ストツプボタン7を押す。このストツプボタン7が押されると,
。,モータ制御部33は周数数の低いパルスをモータ駆動回路37へ送るのを停止するこの結果
第3リール5の回転が停止する。
前記モータ駆動回路35∼37に入力されるパルスは,カウンタ44∼46でカウントされ
。,,,,ているこゝで各リール3∼5の遮光片3a4a5aが光検出器47∼49で検出され
リールの原点位置を示す信号が出力され,この原点信号で前記カウンタ44∼46がそれぞれ
。,,リセツトされるしたがつて各カウンタ44∼46はリールが1回転する毎にリセツトされ
原点位置からのパルスの個数をカウントすることになる。
前記各カウンタ44∼46の内容は,各リールの絵柄の配列を記憶した絵柄検出部50∼5
2に送られ,入賞ラインにある絵柄が何であるかを検出する。具体的には,絵柄のピツチは5
個のパルスに対応しているから,パルスが5個入力された時に,各カウンタ44∼46は10
進法で『1』ずつカウントアツプし,このカウンタ44∼46の内容をアドレス信号として絵
柄判定部50∼52をアクセスすればよい。なお,中央の入賞ラインの上又は下に位置する入
賞ラインにある絵柄は,各カウンタ44∼46の内容に『+1』又は『−1』を加えてから絵
柄判定部50∼52をアクセスすればよい。こうして得た3個の絵柄の組合せは,入賞判定部
,。,53に記憶された各入賞絵柄と比較され当りであるかどうかが判定される当りの場合には
コイン排出制御部54はホツパー55の駆動を制御し,入賞絵柄に応じた個数のコインを排出
する。
前記絵柄検出部50∼52の出力は,エキストラ絵柄判定部58に入力され,入賞ラインに
エキストラ絵柄が現われているかどうかが判定され,1個のリールに対してエキストラ絵柄が
現われている場合には,エキストラポイント『1』が与えられる。なお,このエキストラ絵柄
判定部58は,投入されたコイン数をエキストラポイントに垂算する。したがつて,投入コイ
ン数が3の時にはエキストラポイントが『3』となり,また最大エキストラポイントはリール
の個数が『3』の場合に『9』である。
,,エキストラ絵柄判定部58から出力されたエキストラポイントはカウンタ59で加算され
その加算結果は,駆動回路60を介してエキストラポイント表示部24に表示される。
エキストラポイントが『20』になると,再スタート制御部61が作動され,操作許可表示
部9が点灯して第1リール3又は第2リール4のうち任意のリールの再回転を許容する。こゝ
で,望ましくない絵柄が現われているリールに対応する再スタートスイツチ6を押せば,選ん
だリールが再回転する。その後,乱数発生部42でサンプリングした乱数値に応じて回転して
いるリールが停止する(第6頁第1行∼第10頁第4行)。』
『本考案スロツトマシンにおいては,通常の入賞すなわち複数リール全てによる絵柄の組み
合わせによる入賞の他に,少なくとも1個のリールに関して特定の絵柄が有効入賞ライン上に
得られた場合には補助入賞による得点が与えられるようにしたので,ゲーム性を一層高めるこ
とができることになる。
なお,例えば3個のリールのそれぞれを停止ボタン操作により任意停止させるスロツトマシ
ンについても本考案は等しく適用できることはもとより,この場合ゲームの興味を最後まで持
続させる意味で,最終停止させるリールに対して補助入賞が与えられるように各リールのリー
ル停止ボタンの操作順序を監視しながら,補助入賞判定部を作動させるようにすることもcpu
処理プログラムにより容易に実現できる(第10頁第12行∼第11頁第7行)。』
以上の記載事項及び第1図乃至第3図を参酌すると,甲第1号証には次の発明が記載されて
いる(以下『甲第1号証発明』という。,)
『コイン投入後にスタートレバー2が操作されると全リール3,4,5が回転され,3個の
リールのそれぞれを停止ボタン操作により任意停止させ,リールの絵柄の組合せが当たりの場
合には,入賞絵柄に応じた個数のコインを排出するスロツトマシンにおいて,
リールの絵柄には,エキストラ絵柄を表示し,
スロツトマシンには,リールの停止時に,入賞ラインにある絵柄が何であるかを検出する絵
柄検出部50∼52を備えたマイクロコンピュータ31を設け,
マイクロコンピュータ31には,
絵柄の組合せを入賞絵柄と比較して,当たりであるかどうか判定する入賞判定部53と,
入賞絵柄判定部53により,当たりであると判定された場合には,入賞絵柄に応じた個数の
コインを排出するコイン排出制御部54と,
リールの停止時にエキストラ絵柄が現れているかどうかを判定するエキストラ絵柄判定部5
8と,
リールの停止時にリールに対してエキストラ絵柄が現れている場合には,エキストラ絵柄判
,『』,定部58から所定のエキストラポイントが出力されエキストラポイントが20になると
すでに停止されているリールのうち希望するリールの再回転を許容する再スタート制御部が作
動され,対応する再スタートスイッチ6を押せば,選んだリールが再回転するスロツトマシ
ン」。』
イ甲第2号証について
「甲第2号証(実願昭59−121693号(実開昭61−36686号)のマイクロフィル
ム)には,図面とともに,以下の記載がある。
『1(a)スタートスイッチの作動により複数個のステッピングモータヘ励磁パルスを送る
ドライバー手段,
(b)ステッピングモータに対応して設けられている停止スイッチ,および
(c)各停止スイッチの最初の作動によりドライバー手段からの励磁パルスの送出を止め,2
回目の作動によりドライバー手段から対応したステッピングモータに再励磁パルスを送出し,
3回目の作動により再励磁パルスの送出を止める再回転手段
を有してなる電動型スロットマシンのリール再回転装置(第1頁第7∼19行,実用新案登。』
録請求の範囲)
電動型スロットマシンは多数の絵柄がその周囲に表示されている複数通常3本のリー『,()
ルと,各リールごとにリールを回転駆動するステッピングモータと,各リールをそれぞれ停止
する停止スイッチを有しており,メダルを投入し,ステッピングモータを駆動させることによ
りリールを回転させ,遊戯者が任意に停止スイッチを作動させることにより対応するリールを
順次停止させ,停止した各リールの特定位置における表示絵柄の組合せを検出し,それらの絵
柄の組合せが特定の組合せであるばあいのみ,所定枚数のメダルを払出すように構成されてい
る。
このように,従来のスロットマシンは電動型に限らず機械的に駆動されるものを含めてすべ
て,一旦停止スイッチを作動させてリールを停止させると,ゲームが終了するまでもはやその
リールを回転して絵柄を移動させることができないものである(第2頁第12行∼第3頁第。』
10行)
『本考案は,一旦停止したリールを再回転させることにより絵柄の変更を可能にすることに
より,遊戯者がゲームに参加できる部分を拡大しうるリール再回転装置を提供しうるものであ
る(第3頁第12∼15行)。』
本考案のリール再回転装置は第1図に示す機能実現手段とスイッチ群とステッピングモー『,
タを組合わせることによって実現できる(第4頁第12∼14行)。』
『第1図に示す機能実現手段は,たとえばマイクロコンピュータを用いる第2図に示すハー
ドウェアにより達成できる。
(10)はインプットポートでありスタートスイッチ(1)および停止スイッチ(b1)(b2)(b3),,,
からの出力を受ける。(11),(12),(13)はそれぞれCPU,ROMおよびRAMである。アウトプッ
トポート(14)からはステッピングモータ(d1),(d2),(d3)に励磁パルスおよび再励磁パルスが
送出される(第6頁第2∼11行)。』
『スタートスイッチの作動(100)により,各停止スイッチに対応したカウンタの内容を『ゼ
ロ』にし(101),全リールを回転させる(102)。ついでいずれか1つの停止スイッチが作動する
(103)と,その停止スイッチがどのリールの停止スイッチであるかを判断し(104)(108),つ,
いでカウンタの内容が『ゼロ』か否かを見る(105),(109),(112)『ゼロ』ならばカウンタの。
内容を『1』に更新し(106),(110),(113),リールを停止する(107),(111),(114)(第8。』
頁第2∼12行)
『第5A∼5C図につぎの規定に基づいて実行されるプログラムの一実施例のフローチャート
を示す。
(4):他のリールが回転していても再回転可能
(5):任意の1本のリールのみ再回転可能
(6):再回転前に全リールを停止したばあいは,所定時間内のみ再回転可能
第5A図中(300)から(314)までの処理および判断は第3図における(100)から(114)に対応し
ている。ただし,作動した停止スイッチのカウンタの内容が『ゼロ』でないばあいは第5B図
に示す<A>で始まるサブルーチン(400)∼(405)に入る。
すなわち,作動した停止スイッチのカウンタの内容が『ゼロ』でない(1』である)ばあ『
い,再回転カウンタ(再回転により内容が『1』となり,再停止により内容が『2』となる)
『』,『』『』,の内容が2であるか否かを判断し(400)2でなければ1であるかを判断し(401)
『1』でなければ再回転カウンタの内容を『1』とし(402),リールを再回転する(403)。再回
転カウンタの内容が『1』であれば再回転カウンタの内容を『2』とする(404)と共にリール
を再停止する(405)。
処理(307),(311),(314),(403),(405)ののちは,全リールが停止しているか否かを判断
し(315),停止していれば再回転カウンタの内容が『2』であるか否かを判断する(316)。再回
転カウンタの内容が『2』であれば表示絵柄を比較し(320),当りであれば(321),コインまた
はメダルを払出す(322)(第10頁第4行∼第11頁第14行)。』
『本考案の装置を用いるときは,一旦停止したリールを再度回転させて絵柄を変更すること
ができるので,ゲームへの興味を倍増させることができると共に,ゲームへの参加の度合を増
やすことができる(第12頁第7∼11行」。』)
ウ甲第3号証について
「(())甲第3号証実願昭53−6163号実開昭54―110286号のマイクロフィルム
には,図面とともに,以下の記載がある。
『(1)外周に数種類の図柄を表示した複数個のリールが特定の図柄の組合せ位置に停止し
た場合に,所定回数ハンドルをロック解除の状態に置き,以後所定回数メダルの投入無くして
ハンドル操作を可能とする機構及び電気回路を有し,且つ前記ハンドル操作により回転せしめ
たリールの夫々を単独で停止し得るようにし,その停止位置の図柄が一定の場合にペイアウト
回路を作動させ,所定枚数のメダルを払戻すように構成したスロットマシン(第1頁第5∼。』
14行,実用新案登録請求の範囲)
『ところが本考案装置は,確率は極めて低いが特定の図柄の組合せの場合,例えば第1図に
,『,,』,,示す如く3つの図柄が共に777となってリール(3)(3)(3)が停止した場合には
引き続き『特別のゲーム』を続行し得るようにし,その際メダル投入口(1)よりメダルを投入
することなくして,ハンドル(2)を操作し得るようにしてある(第5頁第12∼19行)。』
『而してこの『特別のゲーム』につき先ず第1図に基き説明すると,前述の如く特定の図柄
の組合せの場合にはゲームを続行でき,メダルを投入することなくハンドル(2)の操作が可能
で,3つのリール(3)(3)(3)を同時に高速回転させることができる(第6頁第4∼9行)。』
『図のLD1はステッピングリレーで,ハンドル(2)を引く毎にその接続点は①→②→③→④
→①と移動するように構成してあり,所定回数(この場合4回)ハンドル(2)を引くと,接続
点は最初の位置①へ戻る。その際リレーR2はブレークする。従って前記リレーR2は所定回数
ハンドル(2)を引くまでは励磁状態にあり,これによりハンドルロック回路(G)の接点r2を閉
じた状態とし,ハンドルロック解除コイル(19)を励磁して,ハンドル(2)をロック解除の状態
におく。
第2にメダルの投入なくしてハンドル操作を可能としこれにより同時に各リール(3)(3)(3),
を独立回転させる構成としている(第9頁第6∼19行」。』)
エ甲第4号証について
「甲第4号証(1975Model1083“DOUBLEORNOTHING”,BallySLOTMACHINES,
Electro-Mechanicals1964-1980,LIBERTYBELLBOOKS,p.45)には次の記載がある。
「Whenawinshowsonanyorallqualifiedpaylines,playermaypressbuttontocollect
winorwins.OrhemaypullhandleagaintospinDouble-or-NothingReel,normally
concealedbutopentoview,duringdouble-or-nothingspin.」
また,上記記載事項は,請求人が甲第4号証の翻訳文として提出した甲第4号証の1による
と,次のように翻訳される。
『限られたペイライン(入賞ライン)のどれかまたは全てで当たりが表示されると,遊技者
はボタンを押して当たりを受け取れます。あるいは,もう一度ハンドルを引いて,ダブルオア
ナッシングリールを回すことができ,このダブルオアナッシングリールは通常,隠れています
が,ダブルオアナッシングのスピン時に見えるようになります』。
なお,被請求人が主張するとおり,甲第4号証は発行日が明らかでなく,請求人も発行日に
ついてなんら主張・立証していないので,当審としては,甲第4号証が本件特許に係る出願の
出願前に頒布された刊行物であると認めることはできないものの,甲第4号証の記載事項につ
いては以下の検討に含めることとする」。
(3)本件訂正発明の容易想到性
ア対比
「本件訂正発明と甲第1号証発明を比較すると,甲第1号証発明の『コイン』は本件訂正発明
の『メダル』に相当し,以下同様に『スタートレバー2』は『スタートレバー』に『リール,,
3,4,5』は『回転リール』に『停止ボタン』は『停止スイッチ』に『リールの絵柄の組,,
合せが当たりの場合には,入賞絵柄に応じた個数のコインを排出する』は『停止時に回転リー
ルの表面に表示された絵柄の組合せによって設定枚数のメダルを払い出す』に『スロツトマ,
シン』は『スロットマシン』に『エキストラ絵柄』は『特定絵柄』に『入賞ラインにある絵,,
柄が何であるかを検出する絵柄検出部50∼52を備えたマイクロコンピュータ31』は『回
転リールの停止時に,回転リールの表面に表示された絵柄の組合せを判定する判定装置』に,
絵柄の組合せを入賞絵柄と比較して当たりであるかどうか判定する入賞判定部53は入『,』『
賞絵柄が揃っているか否かを判定する入賞絵柄判定手段』に『入賞絵柄判定部53により,,
当たりであると判定された場合』は『入賞絵柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていると判定
された場合』に『コイン排出制御部54』は『メダル払い出し制御手段』に『エキストラ絵,,
柄が現れているかどうかを判定するエキストラ絵柄判定部58』は『特定絵柄の有無を判定す
る特定絵柄判定手段』にそれぞれ相当する。
また,甲第1号証発明の『リールの停止時にリールに対してエキストラ絵柄が現れている場
合には,エキストラ絵柄判定部58から所定のエキストラポイントが出力され,加算されたエ
キストラポイントが『20』になると』と,本件訂正発明の『前記入賞絵柄判定手段により,
入賞絵柄が揃っていないと判定され,かつ前記特定絵柄判定手段により,回転リールの停止時
に前記特定絵柄が有ると判定されたことを条件に』とは『回転リールの停止時に特定絵柄が,
有ると判定され,さらに所定の条件を満たす場合』で共通する。
さらに,甲第1号証発明の『すでに停止されているリールのうち希望するリールの再回転を
許容する再スタート制御部が作動され,対応する再スタートスイッチ6を押せば,選んだリー
ルが再回転する』と本件訂正発明の『新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定され
た遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態でスタートレバーの操作が行
なえるように制御するスタートレバー制御手段とを備え,スタートレバーの操作によって再遊
技が行える』とは『新たなメダルの投入無しに,回転リールを再回転できる』で共通する。,
したがって,両者は,
『,所定枚数のメダルの投入後のスタートレバーの操作によって複数の回転リールを回転させ
前記回転リールの回転を停止スイッチの操作によって停止させ,その停止時に回転リールの表
面に表示された絵柄の組合せによって設定枚数のメダルを払い出すスロットマシンにおいて,
上記回転リールの絵柄には,特定絵柄を表示し,
前記スロットマシンには,前記回転リールの停止時に,回転リールの表面に表示された絵柄
の組合せを判定する判定装置を設け,
前記判定装置には,
前記回転リールの停止時に入賞絵柄が揃っているか否かを判定する入賞絵柄判定手段と,
この入賞絵柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていると判定された場合には,当該入賞絵柄
の組合せによって設定枚数のメダルを払い出すメダル払い出し制御手段と,
前記回転リールの停止時に前記特定絵柄の有無を判定する特定絵柄判定手段と,
前記回転リールの停止時に前記特定絵柄が有ると判定され,さらに所定の条件を満たす場合
に,新たなメダルの投入無しに,前記回転リールを再回転できるスロットマシン』。
である点で一致し,以下の点で相違する。
(相違点1)回転リールを再回転することができる条件として,本件訂正発明では,入賞絵
柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていないと判定され,かつ特定絵柄判定手段により,回転
リールの停止時に特定絵柄が有ると判定されたことを条件にしているのに対して,甲第1号証
発明では,入賞絵柄が揃っていないと判定されることを条件とせず,特定絵柄判定手段から出
力・加算されたエキストラポイントが『20』になることを条件にしている点。
(),,相違点2回転リールを再回転することにより行われる遊技の内容が本件訂正発明では
特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態で
行なわれる『再遊技』であるのに対して,甲第1号証発明では,すでに停止されているリール
のうち希望するリールから選ばれた回転リールの再回転である点。
相違点3回転リールを再回転するための操作手段が本件訂正発明ではスタートレバー(),,
制御手段により制御されるスタートレバーであるのに対して,甲第1号証発明では,再スター
ト制御部により制御される再スタートスイッチである点」。
イ判断
上記相違点2について検討するに請求人は弁駁書において訂正後の発明における再「,,,『『
遊技』については,訂正明細書には,その説明がなされていないし,実施態様についても説明
されていないので『再遊技』とはリールを再回転させて再び遊技を開始することを包含する,
ものと解される』と主張し,さらに『特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と
同一枚数のメダルが投入された状態で』という限定事項についても,甲第2号証及び甲第3号
証に記載された発明を引用しつつ『このような限定はリールの再回転の条件設定として容易に
想定し,選択しうるものにすぎない』と主張している。
しかしながら,上記相違点2の『再遊技』は,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メ
ダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態で行なわれるものであって,いわば特定絵柄が
有ると判定された遊技を最初からやり直すものであるから,甲第1号証発明の『すでに停止さ
れているリールのうち希望するリールから選ばれた回転リールの再回転』とは本質的に異なる
ものである。また,この点は,甲第2号証乃至甲第4号証にも記載も示唆もされていないし,
従来周知の技術とも認められない。
そして,上記相違点2に係る構成によって『ゲームの内容に引き分けの概念を持ち込み,,
引き分け時には新たなメダルの投入がなくても次のゲームが行なえるようにして,ゲーム性の
向上及び同一枚数のメダルを用いての遊技時間の延長を図ることができる』という明細書に記
載の顕著な効果を奏するのであるから,上記相違点2に係る構成は,甲第1号証乃至甲第4号
証に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たものとすることは
できない。
したがって,本件訂正発明は,甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明及び従来周知の
技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない」。
(4)審決の「むすび」
「以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許を無効とするこ
とはできない。
また,他に本件特許を無効とすべき理由を発見しない」。
第3原告の主張の要点
1取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)
(1)審決は,訂正事項1に係る「再遊技」が「新たなメダルの投入無しに」行,
なえること「スタートレバーの操作によって再遊技が行えるように形成した」こ,
と「特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが,
投入された状態」で「スタートレバーの操作」が行えることが,本件訂正前明細書
(),,,甲第5号証の1に記載され又は実質的に記載されているから訂正事項1は
願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであると
判断した。
しかしながら,本件訂正前明細書に「引き分けの時には新たなメダルの投入が,
なくても次のゲームが行なえるスロットマシンを提供して(2頁左欄27∼29,」
行)との記載があることからすると,引き分けの時に新たなメダルの投入がなくて
も行なえるゲームは「次のゲーム,すなわち,再度行なうゲームであると解され」
る。本件訂正前明細書には「再遊技」の定義及び技術的な意味についての記載は,
ないことから「再遊技」とは,再度行える任意のゲームに相当することは明らか,
である。
そうすると,本件訂正前明細書には「再遊技」について,本件訂正事項1のよ,
うに「新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダ
ル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態」で行えると限定することができるよ
うな具体的な記載もなければ,本件訂正前明細書の記載に接した当業者であれば,
本件出願当時の技術常識に照らして,そのようなことが記載されているものと同然
であると特定し得るような記載もないというべきである。また,そのような「再遊
技」に関して「スタートレバーの操作によって再遊技が行えるように形成した」,
点についても,本件訂正前明細書に記載がないというべきである。
したがって,本件訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲
内においてなされたものでなく,新規事項の追加に当たるものであるから,平成6
(「」。)年法律第116号による改正前の特許法以下平成6年改正前特許法という
134条2項ただし書に違反するものである。
(2)本件訂正の目的は,特許請求の範囲の減縮,明りょうでない記載の釈明のい
ずれにも当たらない。
審決は「本発明がゲームの内容に『引き分け』の概念を持ち込むものであって,
(段落【0005】及び段落【0026】参照,特定絵柄が有ると判定された遊)
技の『引き分け』による『再遊技』を行なうものであることを考慮すると」本発,
明のゲームは,特定絵柄が有ると判定された遊技の「引き分け」による「再遊技」
を行なうものであると認定した。
しかしながら,上記(1)のとおり,本件訂正前明細書には「再遊技」の定義及び,
技術的な意味について何ら記載されていないから「再遊技」の技術的な意味は不,
明りょうである。
また,スタートレバーの操作は,各回転リールを回転駆動させるためのものであ
るにすぎず,遊技の種類(次のゲームであるか,再遊技であるか)又はその条件を
選択する手段が不明である。
すなわち,本件訂正明細書(甲第9号証)には次の記載がある。
「新たなメダルの投入無しに・・・スタートレバーの操作が行なえるように制御するア,
スタートレバー制御手段とを備え(特許請求の範囲)」
「」(【】)イ回転リール12の回転を開始させるためのスタートレバー26段落0015
「・・・メダルを投入すると,回転リール12の回転スタートレバー26が操作可能ウ
となり,かつこの回転スタートレバー26を投入することによって回転リール12が回転を開
始することとなる。このように回転リール12が回転している時に各回転リール12に対応す
る停止スイッチ30を押すと,その停止スイッチ30を押した回転リール12が回転を停止す
る(段落【0016)。」】
これらの記載によれば,本件訂正明細書に記載されたスタートレバー26は各回
転リール12を回転させるためのものであって,スタートレバーの操作によって再
遊技を選択し,選択された再遊技を行うものであることについて記載されていない
ので,スタートレバーの操作と再遊技を行うこととの関係が一致しておらず,本件
訂正事項1は発明の構成を不明りょうにするものである。
このように,本件訂正は,発明の構成を不明りょうにするものである以上,本件
訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるということもできない。
また,本件訂正は誤記の訂正でないことは明らかである。
したがって,本件訂正は,平成6年改正前特許法134条2項ただし書に違反す
るものである。
(3)本件訂正は実質上特許請求の範囲を変更するものである。
,,「」,「,すなわち本件訂正前明細書には再遊技に関し特定絵柄がある場合には
メダル投入後の状態,即ちステップ40の前に戻って,新たなメダルの投入なしに
再遊技が行なえることとなる(段落【0022)との記載とともに「停止し。」】,
た回転リール12の内の1の回転リール12に特定絵柄が表れた時には,再遊技で
はメダルを1枚投入した状態でゲームが行われ,2つの回転リール12に特定絵柄
が表れた時には再遊技ではメダルを2枚投入した状態でのゲーム3つの回転リー,,
ル12に特定絵柄が表れた時には,3枚のメダルを投入した状態でのゲームが各々
行えるようにすることもできる(段落【0024「また,例えばこのように。」】),
してメダルが1枚あるいは2枚投入した状態でゲームが開始されるような時には,
更に遊技者がメダルを追加投入することができるようにしてもよい(段落【00。」
25)との各記載がある。そうすると,本件訂正前の特許請求の範囲の「メダル】
の投入無しにスタートレバーの操作が行なえるように制御する」との規定及び本件
訂正前明細書の「再遊技」との文言の技術的意義には「再度の遊技(投入された,」
メダルの枚数とは無関係に,もう一度遊技を行えるようにすること)が含まれるも
のと解することができる。
そして,本件訂正前明細書にあるように「投入メダル枚数に応じて設定された,
ラインを表示するためのライン表示21(段落【0014)を備えたスロットマ」】
シンでは,一般に,1回の遊技に1∼3枚のメダルが投入でき,投入枚数の多いほ
ど入賞となるラインが多くなるから,ほとんどのプレイヤーは,3枚のメダルを投
入する「3枚賭け」を行うのが通常であるところ,このようなスロットマシンで1
回の遊技に3枚のメダルを投入した後に,上記「再度の遊技」の1場合として,1
枚のメダルを投入した状態になれば,プレイヤーは「3枚賭け」の状態とするた,
めに,2枚のメダルを投入するという工程が必要になるのである。
したがって,プレイヤーは通常1回の遊技に3枚のメダルを投入するというプレ
イの実際を踏まえた場合には,本件訂正後の特許請求の範囲が「再遊技」を「特,,
定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入され
」,「」た状態での再遊技に限定することはメダル投入の工程があり得る再度の遊技
とは異なるものとなるから,本件訂正は,特許請求の範囲を実質上変更するものと
いうべきであり,平成6年改正前特許法134条5項が準用する同法126条2項
に違反するものである。
2取消事由2(本件訂正発明と甲第1号証発明との相違点2の認定の誤り)
審決は,本件訂正発明と甲第1号証発明との相違点2として「回転リールを再,
回転することにより行われる遊技の内容が,本件訂正発明では,特定絵柄が有ると
判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態で行なわ
れる再遊技であるのに対して甲第1号証発明ではすでに停止されているリー『』,,
ルのうち希望するリールから選ばれた回転リールの再回転である点」を認定してい
るが,誤りである。
すなわち,本件訂正後の特許請求の範囲は「特定絵柄が有ると判定された遊技,
での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態でスタートレバーの操作
が行なえるように制御するスタートレバー制御手段とを備え,スタートレバーの操
」,,作によって再遊技が行えるように形成したと規定するところ本件訂正明細書に
例えば「本発明は,ゲームの内容に引き分けの概念を持ち込み,引き分けの時に,
は新たなメダルの投入がなくても次のゲームが行なえるスロットマシンを提供し
て(段落【0005「回転リール(12)の停止時に表われる絵柄(13)」】),
が特定絵柄(13)であった場合には,次ゲームが新たなメダルの投入なしに,単
()。」(【】)にスタートレバー26を操作するだけで再遊技が行なえる段落0010
との記載があることに照らせば,本件訂正発明における「再遊技」は,特定絵柄が
有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態で
スタートレバーの操作によって行なえる「次のゲーム,すなわち,特定のゲーム」
ではなく任意の次のゲームであり,甲第1号証に記載された,所定の条件下で任意
のリールを再回転させて再び開始できる任意の遊技を包含するものである。
したがって,審決の上記相違点2の認定は誤りである。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
審決は,その認定に係る本件訂正発明と甲第1号証発明との相違点2について,
「相違点2の『再遊技』は,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数
と同一枚数のメダルが投入された状態で行なわれるものであって,いわば特定絵柄
が有ると判定された遊技を最初からやり直すものであるから甲第1号証発明のす,『
でに停止されているリールのうち希望するリールから選ばれた回転リールの再回
転』とは本質的に異なるものである「上記相違点2に係る構成によって『ゲー。」,,
ムの内容に引き分けの概念を持ち込み,引き分け時には新たなメダルの投入がなく
ても次のゲームが行なえるようにして,ゲーム性の向上及び同一枚数のメダルを用
いての遊技時間の延長を図ることができる』という明細書に記載の顕著な効果を奏
する」とした上で「相違点2に係る構成は,甲第1号証乃至甲第4号証に記載さ,
れた発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たものとすることは
できない」と判断したが,誤りである。。
すなわち,特定の図柄の組合せが揃った場合に再遊技が行えるようにする条件に
ついては,甲第2号証に,第5A図において,表示絵柄の比較320を行い,当た
りでなければ「NO」となって,スタートスイッチON/OFF判断ステップ30
,,0の前に戻りスタートスイッチの操作が可能な状態になることが図示されており
甲第3号証においても「複数個のリールが特定の図柄の組合せ位置に停止した場,
合に・・・以後所定回数メダルの投入無くしてハンドル操作を可能とする機構及,
び電気回路を有(する・・・ように構成したスロットマシン(実用新案登録請求)」
の範囲)が記載されているように,再遊技の条件として種々のものが想定される。
そうすると,特定絵柄があると判定された場合,新たなメダルの投入なしに,特
定絵柄があると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入され
た状態でスタートレバーの操作が行えるように制御する制御手段を備え,スタート
レバーの操作によって再遊技が行えるように形成することは,当業者が容易に想到
し得るものといえる。
次に,作用効果については,甲第1号証に,複数リールすべての絵柄の組合わせ
による入賞でない場合に,少なくとも1個のリールに関して特定の絵柄が有効入賞
ライン上に得られたときには,補助入賞による再遊技が行えるようにしてゲーム性
を一層高めることができるとともに,遊技時間の延長を図ることができることが,
実質上開示されており,甲第2号証には,効果に関して「本考案の装置を用いる,
ときは,一旦停止したリールを再度回転させて絵柄を変更することができるので,
ゲームへの興味を倍増させることができると共に,ゲームへの参加の度合いを増や
すことができる(12頁7∼11行)との記載があり,甲第3号証にも,遊技者。」
は特定の図柄組み合わせの場合に引き続き特別のゲームを行うことができるととも
に各リールのそれぞれについて勝負を行うことができ複雑かつ興味あるゲー,,,,
ムを楽しむことができるという作用効果を奏することが記載されているから,本件
訂正発明が甲第1∼第3号証発明と比べて格別優れた作用効果を奏するものとは認
められない。
したがって,本件訂正発明は,甲第1∼第3号証発明及び周知の技術的事項に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は特許
法29条2項の規定に違反してされたものであって,特許法123条1項2号の規
定により無効とされるべきものである。
第4被告の主張の要点
1取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)に対して
(1)本件訂正が新規事項の追加に当たるものであるとの主張に対して
本件訂正は「メダルの投入無しにスタートレバーの操作が行なえるように制御,
するスタートレバー制御手段」を「新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有る,
と判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態でス
タートレバーの操作が行なえるように制御するスタートレバー制御手段とを備え,
スタートレバーの操作によって再遊技が行えるように形成した」と訂正したもので
ある。
しかるところ,本件訂正前明細書には「第2図に示したのは,このような各種,
の判定を示したフローチャートである。この図において,メダルの投入が行なわれ
て,ゲームがスタート可能となった時を『スタート』とする。このような状態でス
タートレバー26の操作を行なう(ステップ40。すると,各回転リール12が)
回転を開始することとなる(ステップ41(段落【0018「これに対し,)。」】),
特定絵柄がある場合には,メダル投入後の状態,即ちステップ40の前に戻って,
新たなメダルの投入なしに再遊技が行なえることとなる(段落【0022)と。」】
の記載がある。
上記各記載及び第2図のフローチャートによれば特定絵柄がある場合にはス,,「
タート(メダルの投入が行なわれて,ゲームがスタート可能となった時)の後で」
あって「ステップ40(スタートレバー操作)の前に戻るのであるから「新た,」,
なメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同
一枚数のメダルが投入された状態」となり「スタートレバーの操作によって再遊,
技が行える」ことが,訂正前明細書に記載されていることは明らかである。
したがって本件訂正は平成6年改正前特許法134条2項ただし書にいう願,,「
書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてする訂正であり,
原告の主張は失当である。
(2)本件訂正の目的は,特許請求の範囲の減縮,明りょうでない記載の釈明のい
ずれにも当たらないとの主張に対して
本件訂正は「スタートレバーの操作が行なえるように制御するスタートレバー,
制御手段」を「特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数,
のメダルが投入された状態でスタートレバーの操作が行なえるように制御するス
タートレバー制御手段」とするものであり「スタートレバーの操作が行える」た,
めの条件として「特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚,
数のメダルが投入された状態で」との条件を付加したものであるから「スタート,
レバーの操作が行える」ことがどのような条件下で行えるのかということを明りょ
うにしようとするとともに「スタートレバーの操作が行える」ための条件の限定,
により特許請求の範囲の減縮をしようとするものである。
したがって,本件訂正は,平成6年改正前特許法134条2項ただし書に違反す
るものではないとした審決の判断に誤りはない。
(3)本件訂正は実質上特許請求の範囲を変更するものであるとの主張に対して
原告は,本件訂正により,訂正後の特許請求の範囲の「再遊技」が「再度の遊,
技(投入されたメダルの枚数とは無関係に,もう一度遊技を行えるようにするこ」
と)と異なるものとなるから,本件訂正は,特許請求の範囲を実質上変更するもの
であると主張するが,誤りである。
「再遊技」の語は,本件訂正により,特許請求の範囲の「メダルの投入無しにス
タートレバーの操作が行なえるように制御するスタートレバー制御手段」との規定
を「新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダ,
ル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態でスタートレバーの操作が行なえるよ
うに制御するスタートレバー制御手段とを備え,スタートレバーの操作によって再
遊技が行えるように形成した」と訂正する際に,特許請求の範囲に加えられたもの
である。
そして,上記訂正は,訂正前明細書に「特定絵柄がある場合には,メダル投入後
の状態,即ちステップ40の前に戻って,新たなメダルの投入なしに再遊技が行な
えることとなる(段落【0022)との記載があることを踏まえ「再遊技」。」】,
のための「スタートレバーの操作が行なえる」際に設定される状態を,単に「メダ
ルの投入無しに」というものから「新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有る,
と判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態」に限
定したものであって,特許請求の範囲の減縮に相当するものの,実質上の変更には
該当しない。
したがって,本件訂正が平成6年改正前特許法134条5項が準用する同法12
6条2項の規定に適合するとの審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(本件訂正発明と甲第1号証発明との相違点2の認定の誤り)に対
して
原告は,本件訂正発明の「再遊技」が,甲第1号証発明の「すでに停止されてい
るリールのうち希望するリールから選ばれた回転リールの再回転」を含むものであ
ると主張する。
しかしながら,本件訂正明細書の段落【0016】∼【0018【0022】】,
に記載されたとおり,本件訂正発明における手順は,
①メダル投入
②スタートレバー投入による回転リールの回転開始
③各回転リールに対応する停止スイッチを押して対応する回転リール12の回転
停止
④全リールの回転停止時に入賞絵柄が揃っているか否かの判定
⑤揃っていればメタルを払い出して①に戻る
⑥揃っていないときには再遊技のための特定絵柄の有無の判定
⑦特定絵柄があるときには②に戻る
というものであり,このような手順が,特許請求の範囲に記載された「前記入賞,
絵柄判定手段により,入賞絵柄が揃っていないと判断され,かつ前記特定絵柄判定
,,手段により回転リールの停止時に前記特定絵柄が有ると判定されたことを条件に
新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数
と同一枚数のメダルが投入された状態でスタートレバーの操作が行なえるように制
御するスタートレバー制御手段とを備え,スタートレバーの操作によって再遊技が
行えるように形成した」ものであって「回転リールを再回転することにより行わ,
れる遊技の内容が,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚
『』」。数のメダルが投入された状態で行なわれる再遊技であることが明らかである
したがって,本件訂正発明の「再遊技」は,甲第1号証発明の「回転リールを再
回転することにより行われる遊技の内容が,すでに停止されているリールのうち希
望するリールから選ばれた回転リールの再回転である」場合を含んでいないことは
明らかであって,審決の上記相違点2の認定に誤りはない。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対して
原告は,甲第2,第3号証に開示されているところによると,再遊技の条件とし
て種々のものが想定されるから,特定絵柄があると判定された場合,新たなメダル
の投入なしに,特定絵柄があると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数の
メダルが投入された状態でスタートレバーの操作が行えるように制御する制御手段
を備え,スタートレバーの操作によって再遊技が行えるように形成することは,当
業者が容易に想到し得るものといえるし,格別優れた作用効果を奏するものとは認
められないと主張する。
しかしながら,審決が説示するとおり,相違点2の「再遊技」は,特定絵柄があ
ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態で行
われるものであって,いわば特定絵柄があると判定された遊技を最初からやり直す
ものであるから,甲第1号証発明の「すでに停止されているリールのうち希望する
リールから選ばれた回転リールの再回転」とは本質的に異なるものである。また,
この点は,甲第2∼第4号証に記載も示唆もされていないし,従来周知の技術とも
認められない。
そして,上記相違点2に係る構成によって「ゲームの内容に引き分けの概念を,
持ち込み,引き分け時には新たなメダルの投入がなくても次のゲームが行なえるよ
うにして,ゲーム性の向上及び同一枚数のメダルを用いての遊技時間の延長を図る
ことができる」という明細書に記載の顕著な効果を奏するのであるから,上記相違
点2に係る構成は,甲第1∼第4号証に記載された発明及び従来周知の技術に基づ
いて当業者が容易になし得たものとすることはできない。
したがって,相違点2についての審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)について
(1)本件訂正が新規事項の追加に当たるものであるとの主張について
ア原告は,本件訂正前明細書には「再遊技」について,本件訂正事項1のよ,
うに「新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダ
ル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態」で行えると限定することができるよ
うな具体的な記載もなければ,本件訂正前明細書の記載に接した当業者であれば,
本件出願当時の技術常識に照らして,そのようなことが記載されているものと同然
であると特定し得るような記載もなく,そのような「再遊技」に関して「スター,
トレバーの操作によって再遊技が行えるように形成した」点についても記載がない
というべきであると主張する。
イ本件訂正前明細書には,以下の各記載がある。
(ア)「発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来のスロットマシンは,ゲームを【
スタートさせるためには,必ずメダルの投入が必要とされていた。このことは,スロットマシ
ン自体がオールオアナッシングという考え方に基づいて作られたものであり,引き分けという
概念がなかったからである。
一方,スロットマシンもギャンブル的に使用するだけでなく,ゲームを楽しむことが行なわ
れるようになってきた。したがって,同一のメダル枚数で,比較的長時間ゲームが続行できる
ことが望ましいものとなってきた。そこで,本発明は,ゲームの内容に引き分けの概念を持ち
込み,引き分けの時には新たなメダルの投入がなくても次のゲームが行なえるスロットマシン
を提供して,ゲーム性の向上及び同一枚数のメダルを用いての遊技時間の延長を図ることを目
的とするものである(段落【0004【0005)。」】,】
(イ)「作用】本発明によれば,次のような作用を奏する。すなわち,回転リール(12)の停【
止時に表われる絵柄(13)が特定絵柄(13)であった場合には,次ゲームが新たなメダルの投入な
しに,単にスタートレバー(26)を操作するだけで再遊技が行なえる(段落【0010)。」】
(ウ)「実施例・・・【】
このようにして3つの回転リール12がすべて回転を停止した時に,表示窓20にあらわれた
各回転リール12の絵柄13が入賞絵柄となっているか否かを絵柄13の判定装置によって判定
し,入賞している時には,その入賞時の絵柄13の組合せに応じて,あらかじめ設定した枚数
のメダルを払い出すものである。さらに,入賞絵柄でない場合であっても,次に判定装置が再
遊技を行なうための特定絵柄が有るか否かを判定する。
第2図に示したのは,このような各種の判定を示したフローチャートである。この図におい
て,メダルの投入が行なわれて,ゲームがスタート可能となった時を「スタート」とする。こ
のような状態でスタートレバー26の操作を行なう(ステップ40。すると,各回転リール12)
が回転を開始することとなる(ステップ41。)
・・・
これに対し,特定絵柄がある場合には,メダル投入後の状態,即ちステップ40の前に戻っ
て,新たなメダルの投入なしに再遊技が行なえることとなる。上記一連の処理は,判定装置の
スタートレバー制御手段により行われている。すなわち,上記スタートレバー制御手段は,ス
テップ43で”N”と判定され,かつステップ45で”Y”と判定されたことを条件に,メダル
。」(【】の投入無しにスタートレバーの操作が行なえるように制御するものである段落0012
∼【0022)】
(エ)「発明の効果】本発明は,以上のように構成されているので,以下に記載されるよう【
な効果を奏する。本発明によれば,ゲームの内容に引き分けの概念を持ち込み,引き分け時に
は新たなメダルの投入がなくても次のゲームが行なえるようにして,ゲーム性の向上及び同一
枚数のメダルを用いての遊技時間の延長を図ることができる(段落【0026)。」】
,,,ウ上記イの各記載によると本件訂正前明細書には本件訂正前発明について
以下のことが記載されていると認められる。
(ア)本件訂正前発明は,ゲームの内容に引き分けの概念を持ち込み,新たなメダ
ルの投入がなくても次のゲームが行えるようにして,同一枚数のメダルを用いての
遊技時間の延長を図ることができるようにしたものである(上記イ(ア),(エ)。)
(イ)本件訂正前発明における「再遊技」とは,回転リール12の停止時に表われ
る絵柄13が特定絵柄13であった場合に,新たなメダルを投入することなく,単
にスタートレバー26を操作するだけで行える次ゲームであり(上記イ(イ),特定)
絵柄がある場合に,ステップ40の前のメダル投入後の状態,すなわち,ゲームが
スタート可能となったメダル投入後の状態に戻って,新たなメダルの投入なしに行
うことができるゲームである(上記イ(ウ)。)
(ウ)特定絵柄がある場合に,新たなメダルの投入なしにスタートレバーの操作が
行えるようにする一連の処理は,スタートレバー制御手段により行われる(上記イ
(ウ)。)
エ本件訂正前明細書には,上記ウのとおり「再遊技」が「新たなメダルの投,
入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダ
ルが投入された状態で・・・スタートレバーの操作によって行える」ものであるこ
と及び「新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メ
ダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態でスタートレバーの操作が行なえる
ように制御するスタートレバー制御手段とを備え,スタートレバーの操作によって
再遊技が行えるように形成した」点が記載されているというべきであるから,本件
訂正が新規事項の追加に当たるとする原告の主張は失当である。
(2)本件訂正の目的は,特許請求の範囲の減縮,明りょうでない記載の釈明のい
ずれにも当たらないとの主張について
ア原告は,本件訂正前明細書に「再遊技」の定義及び技術的な意味について,
何ら記載がないから再遊技の技術的な意味は不明りょうであると主張するな,「」(
お,原告の主張は,本件訂正前明細書についてのものであるが,本件訂正が,不明
りょうな記載の釈明に当たるか否かを問題とする以上「再遊技」の技術的な意味,
が不明りょうなものでなくなったか否かは,本件訂正明細書(特許請求の範囲を含
む)について判断されるべきであり,原告の主張は,その趣旨であるものとして。
検討する。。)
本件訂正後の特許請求の範囲は前記入賞絵柄判定手段により入賞絵柄が揃っ,「,
ていないと判定され,かつ前記特定絵柄判定手段により,回転リールの停止時に前
記特定絵柄が有ると判定されたことを条件に,新たなメダルの投入無しに,特定絵
柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状
態でスタートレバーの操作が行なえるように制御するスタートレバー制御手段とを
備え,スタートレバーの操作によって再遊技が行えるように形成した」と規定する
ものであるから,その「再遊技」は,新たなメダルの投入なしに,特定絵柄がある
と判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態で,ス
タートレバーの操作によって行えるものであることが明らかである。
,,また本件訂正前明細書における上記(1)ア(ア)∼(エ)に摘示した部分の各記載は
本件訂正によっても訂正されず,本件訂正明細書にも同一の各記載が存在するとこ
ろ,これらの記載により,①「再遊技」とは,回転リール12の停止時に表われる
絵柄13が特定絵柄13であった場合に,新たなメダルを投入することなく,単に
スタートレバー26を操作するだけで行える次ゲームであり,特定絵柄がある場合
に,ステップ40の前のメダル投入後の状態,すなわち,ゲームがスタート可能と
なったメダル投入後の状態に戻って,新たなメダルの投入なしに行うことができる
ゲームであること,②特定絵柄がある場合に,新たなメダルの投入なしにスタート
レバーの操作が行えるようにする一連の処理は,スタートレバー制御手段により行
われると認められることは,上記(1)ウ(イ),(ウ)と同様であるから,本件訂正明細
書における「再遊技」についての記載は,本件訂正後の特許請求の範囲の規定と符
合するものである。
したがって,原告の上記主張は失当である。
イ次に,原告は,本件訂正明細書に記載されたスタートレバー26は,各回転
リール12を回転させるためのものにすぎず,遊技の種類又はその条件を選択する
手段が不明であるとか,スタートレバーの操作と再遊技を行うこととの関係が一致
していないと主張する。
しかしながら,本件訂正後の特許請求の範囲は,上記アのとおり規定するもので
あるから,スタートレバーが,特定絵柄があること等の所定の条件下において,新
たなメダルの投入なしに,特定絵柄があると判定された遊技での投入メダル枚数と
同一枚数のメダルが投入された状態で操作が行えるように制御されていること,す
なわち,スタートレバーが,その操作により,再遊技を行うことができるように形
成されていることは明らかである。また,本件訂正明細書に,特定絵柄がある場合
に,新たなメダルの投入なしにスタートレバーの操作が行えるようにする一連の処
理は,スタートレバー制御手段により行われることが記載されていることも,上記
アのとおりであって,この記載は,本件訂正後の特許請求の範囲の規定と符合する
ものである。
なお,原告は「本件訂正明細書に・・・スタートレバーの操作によって再遊技,
を選択し,選択された再遊技を行うものであることについて記載されていない」な
どと,あたかも,本件訂正発明は,プレイヤーが,スタートレバーを操作すること
,,()により再遊技を行うか次のゲーム新たにメダルを投入して行う通常のゲーム
を行うかを選択するものであるかのような主張をするが,本件訂正後の特許請求の
範囲の上記アの規定によれば,所定の条件が実現したときに,スタートレバー制御
手段が「新たなメダルの投入無しに,特定絵柄が有ると判定された遊技での投入,
メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態でスタートレバーの操作が行なえ
るように制御する」ものであること,すなわち,再遊技をいわば選択するのは,ス
タートレバー制御手段であることが認められる。
したがって,原告の上記主張も失当である。
ウ以上によると,本件訂正が発明の構成を不明りょうにするものであるとの原
告の主張は失当であるところ,本件訂正のうち,訂正事項1に係る訂正は,訂正部
分を付加することにより,特許請求の範囲の記載を明確化し,下位概念化するもの
であるから,明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするも
のであり,訂正事項2は,訂正事項1のとおりの訂正に対応して,明りょうでない
記載の釈明を目的として発明の詳細な説明を訂正するものであって,これと同旨の
審決の判断に誤りはない。
(3)本件訂正は実質上特許請求の範囲を変更するものであるとの主張について
原告は,本件訂正前の特許請求の範囲の「メダルの投入無しにスタートレバーの
操作が行なえるように制御する」との規定及び本件訂正前明細書の「再遊技」との
文言の技術的意義には「再度の遊技(投入されたメダルの枚数とは無関係に,も,」
う一度遊技を行えるようにすること)が含まれていたところ,プレイヤーは通常1
回の遊技に3枚のメダルを投入するというプレイの実際を踏まえた場合には,本件
訂正後の特許請求の範囲が「再遊技」を「特定絵柄が有ると判定された遊技での,,
投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態」での再遊技に限定すること
は,メダル投入の工程があり得る「再度の遊技」とは異なるものとなるから,本件
訂正は特許請求の範囲を実質上変更するものであると主張する。
しかしながら,本件訂正の特許請求の範囲に係る訂正事項(訂正事項1)は,訂
正前の「メダルの投入無しにスタートレバーの操作が行なえるように制御するス
タートレバー制御手段とを備えた」との記載を「新たなメダルの投入無しに,特,
定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入され
た状態でスタートレバーの操作が行なえるように制御するスタートレバー制御手段
とを備え,スタートレバーの操作によって再遊技が行えるように形成した」との記
載に訂正するものであり,特許請求の範囲の記載上,訂正の前後を通じ,原告が主
「」。,張するようなメダル投入の工程につき何ら規定するものではないそうすると
「メダル投入の工程」の有無を理由として,本件訂正が特許請求の範囲を実質上変
更するものであるとする原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものと
いわざるを得ず,失当である。
2取消事由2(本件訂正発明と甲第1号証発明との相違点2の認定の誤り)につ
いて
原告は,本件訂正明細書の段落【0005】及び【0010】の各記載を挙げ,
本件訂正発明における「再遊技」は,特定のゲームではなく任意の次のゲームであ
り,甲第1号証に記載された,所定の条件下で任意のリールを再回転させて再び開
始できる任意の遊技を包含するものであるから,審決の本件訂正発明と甲第1号証
発明との相違点2の認定が誤りであると主張する。
,【】【】,しかしながら本件訂正明細書の段落0005又は0010の各記載が
その記載中の「次のゲーム」又は「次ゲーム」との文言につき「任意の次のゲー,
ム」を意味するとか,任意のリールを再回転させて再び開始できる任意の遊技を包
含するなどと解する根拠となり得るものとは,到底解されないのみならず,本件訂
正発明における「再遊技」は,新たなメダルの投入なしに,特定絵柄があると判定
された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態で,スタート
レバーの操作によって行えるものであることは,上記1(2)アのとおりであるとこ
ろスロットマシンにおいて通常はメダルが投入された状態でスタートレバー,,,,
の操作をすることにより,任意のリールのみの回転を開始することができるもので
はないことは,技術常識というべきであるから,原告の上記主張は失当といわざる
を得ない。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
(1)原告は,特定の図柄の組合せが揃った場合に再遊技が行えるようにする条件
については,甲第2,第3号証に記載があるように,種々のものが想定され得るか
ら,本件訂正発明のように構成することは当業者が容易に想到し得るものであり,
本件訂正発明が格別優れた作用効果を奏するものとも認められないから,特定絵柄
があると判定された場合,新たなメダルの投入なしに,特定絵柄があると判定され
た遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態でスタートレバー
の操作が行えるように制御するスタートレバー制御手段とを備え,スタートレバー
の操作によって再遊技が行えるように形成することは,当業者が容易に想到し得る
ものと主張する。
(2)甲第2号証の第5A図には,表示絵柄の比較320を行い,当たりでなけれ
ば「NO」となって,スタートスイッチON/OFF判断ステップ300の前に戻
り,スタートスイッチの操作が可能な状態になることが示されているが,これは,
リールが停止したときに当たりの図柄でなければ,次のゲームを開始する前の状態
に戻るという,スロットマシンの通常のゲームの進行を示すものにすぎず,そのほ
かに,甲第2号証において,本件訂正発明の「特定絵柄が有ると判定された遊技で
の投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態で行なわれる『再遊技」』
について開示又は示唆する記載はない。
また,甲第3号証に記載された発明は「外周に数種類の図柄を表示した複数個,
のリールが特定の図柄の組合せ位置に停止した場合に,所定回数ハンドルをロック
解除の状態に置き,以後所定回数メダルの投入無くしてハンドル操作を可能とする
機構及び電気回路を有し,且つ前記ハンドル操作により回転せしめたリールの夫々
を単独で停止し得るようにし,その停止位置の図柄が一定の場合にペイアウト回路
を作動させ,所定枚数のメダルを払戻すように構成したスロットマシン(実用新。」
案登録請求の範囲)であり,特定図柄が停止表示された場合に,所定回数,メダル
の投入なしに,ハンドル操作によるリールの回転を行えるようにする技術が開示さ
れている。
しかしながら,この甲第3号証発明については,かかるメダルの投入を要しない
リールの回転を行えるのは,停止表示された複数個のリールの図柄が特定の組合せ
である場合に限られ,かつ,メダルの投入が不要であるとされているのはリールの
回転のみである(実施例としては,回転しているリールを停止させるために,メダ
ルの投入が必要である例が示されている。6頁9∼12行)ことのほか,メダルの
投入なしにリールを回転させることにより行われる遊技の内容は,各リールを単独
,,で停止し得るようにしその停止したリールに係る停止位置の図柄が一定の場合に
所定枚数のメダルを払い戻す旨が規定されているものであって,勝ち負けが複数の
リールの停止位置の図柄の組合せにより決まる通常のゲームとは異なる「特別の
ゲーム(6頁4行)とされているのであるから,本件訂正発明の「特定絵柄が有」
ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメダルが投入された状態で行
なわれる『再遊技」の構成を開示し,又は示唆するものということはできない。』
したがって,甲第2,第3号証の記載により,本件訂正発明のように構成するこ
とは,当業者が容易に想到し得るとする原告の主張は失当である。
(3)本件訂正明細書は,上記1(1)イ(エ)で認定したとおりの記載があるとおり,
本件訂正発明は,回転リールを再回転することにより行われる遊技の内容を,相違
点2に係る「特定絵柄が有ると判定された遊技での投入メダル枚数と同一枚数のメ
ダルが投入された状態で行なわれる『再遊技」とする構成を採用することによっ』
て「ゲームの内容に引き分けの概念を持ち込み,引き分け時には新たなメダルの,
投入がなくても次のゲームが行なえるようにして,ゲーム性の向上及び同一枚数の
メダルを用いての遊技時間の延長を図る」という作用効果を奏するものと認められ
る。
しかるところ,原告は,本件訂正発明の上記作用効果が甲第1∼第3号証発明の
効果と比べて格別優れたものではないと主張する。
しかしながら,上記2のとおり,甲第1号証発明は,相違点2に係る本件訂正発
明の構成を備えるものでない点で本件訂正発明と相違するものであり,甲第2,第
3号証も,かかる構成を開示又は示唆するものではないことは,上記(2)のとおり
であるから,当業者が,甲第1∼第3号証の記載から,本件訂正発明の上記作用効
果を予測できたものとはいうことはできず,したがって,本件訂正発明の作用効果
を甲第1∼第3号証発明の作用効果と比較して,優れたものでないとする原告の主
張は失当である。
4結論
以上のとおり,取消事由はいずれも理由がないから,本訴請求は棄却されるべき
である。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
石原直樹
裁判官
古閑裕二
裁判官
杜下弘記

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