弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中三〇日を本刑に算入する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人の上告趣意について。
 所論は、事実誤認の主張に帰するから、刑訴四〇五条の上告理由に当らないし、
また、記録を精査しても、同四一一条を適用すべきものとも認められない。
 弁護人小林直人の上告趣意について。
 所論は、憲法三二条違反とはいつているが、その実質は、単なる訴訟法違反の主
張と解されるから、刑訴四〇五条の上告理由に該当するものとは認め難い。
 次に、原審において、被告人が期間内に適法に控訴趣意書を差し出したこと、そ
の趣意書の内容は結局本件起訴事実を全部否認し第一審判決の判示第一乃至第三事
実の事実誤認を主張しているものと解すべきこと、並びに、原判決が被告人の右控
訴趣意について判断を与えず単に弁護人の指摘する第一審判決判示第三の事実につ
いてのみ事実誤認の有無を判断し、第一審判決の認定した第一、第二の事実の誤認
の有無については特に判断を示さなかつたことは、いずれも所論のとおりである。
そして、控訴審では、被告人のためにする弁論は、弁護人でなければ、これをする
ことができないものであり、また、公判期日には、検察官及び弁護人は、控訴趣意
書に基いて弁論をし、若し弁護人の出頭又は選任のないときは、原則として少くと
も検察官の陳述を聴かなければならないものであり、なお、控訴裁判所は、控訴趣
意書に包含された事項は、これを調査しなければならないものである。されば、本
件のように、被告人から期間内に適法に差し出された控訴趣意書がある場合には、
適法にその趣意書を撤回するか又は公判期日において適法にこれを陳述しない旨の
明確な意思表示のない限りは、裁判所はこれを調査しなければならないにかかわら
ず、原裁判所が被告人の控訴趣意については何等の判断をも与えなかつたことは、
明らかに違法であるといわざるを得ない。しかし、この点に関する主張は単なる訴
訟法違反の主張であつて刑訴四〇五条に定める上告理由には該当しない。なお、原
判決は、第一審判決の判示第三の事実については弁護人の控訴趣意に基く事実誤認
がない旨適法に判断を加え、従つてこの部分については、被告人の控訴趣意につい
て特に判断しなくとも原判決に影響を及ぼさないこと明白であるばかりでなく、原
判決は、第一審の量刑を不当であると認め第一審判決を破棄し、刑訴四〇〇条但書
に従い更に判決すべきものとし、職権をもつて第一審判決の認定した判示第一第二
の事実認定を是認引用したものと認めるを相当とする。従つて、第一審判決の事実
認定の全部に誤認がないものとの前提の下に、判示第一、第二の事実については刑
法二四六条一項を、その第三事実については同条二項を夫々適用し、併合罪の加重
をした刑期範囲内で第一審判決の一年の懲役刑を同一〇月に減軽したものである。
されば、原判決には前示のごとき違法はあるけれども、その違法は結局判決に影響
を及ぼさないものというべく、従つて本件においては、刑訴四一一条に従い原判決
を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認め難い。
 よつて刑訴四一四条、三九六条により判決で上告を棄却し、未決勾留日数の算入
につき刑法二一条に、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条にそれぞれ従い、裁判官
全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二七年一月一〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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