弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
第1 事案の概要
 1 本件は,上告人が被上告人に対し,被上告人が農業災害補償法(平成15年
法律第91号による改正前のもの)87条の2に基づき滞納処分としてした本件差
押えの無効確認又は取消しを求める事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 農業災害補償法(平成11年法律第69号による改正前のもの。以下「法」
という。)は,農業者が不慮の事故によって受けることのある損失を補てんして農
業経営の安定を図り,農業生産力の発展に資することを目的として,農業共済組合
等の行う共済事業,農業共済組合連合会の行う保険事業及び政府の行う再保険事業
から成る農業災害補償を行うものとしている(法1条,2条)。農業共済組合は,
1又は2以上の市町村の区域に設けられ,共済事業として,水稲等についての農作
物共済等を行う(法5条,83条,84条)。農業共済組合の区域内に住所を有す
る水稲等の耕作の業務を営む者で,その耕作面積が一定の規模以上のものは,当該
組合の組合員たる資格を有し,その組合員とされ,組合員たる資格の喪失,死亡な
どの事由がない限り,任意に組合から脱退することができない(法15条1項,1
6条1項,19条)。上記の資格を有する組合員と農業共済組合との間では,農作
物共済の共済関係が当然に成立し(法104条1項),組合員は,定額の共済掛金
の支払義務を負担し,事務費を賦課される(法86条,87条)。組合員が支払う
べき農作物共済の共済掛金の額は,農業共済組合が定款で定める共済金額(法10
6条)及び農作物共済掛金率(法107条)によって算出される。国庫は,水稲等
の農作物共済に関して組合員の支払うべき共済掛金のうち,2分の1に相当する金
額を負担する(法12条1項)。農業共済組合は,水稲等につき,風水害,干害,
冷害,雪害その他気象上の原因による災害,火災,病虫害及び鳥獣害によって生じ
た損害について,組合員に対して農作物共済の共済金を交付する(法84条1項1
号)。農業共済組合連合会は,農業共済組合等が共済事業によって負う共済責任を
相互に保険する事業を行う(法121条1項)。政府は,農業共済組合連合会が保
険事業によって負う保険責任を再保険する(法133条)。
 (2) 上告人は,被上告人の区域内で水稲耕作の業務を営む者であり,被上告人
の組合員の資格を有し,被上告人の組合員とされており,上告人と被上告人との間
には農作物共済の共済関係が成立している。上告人は,平成9年ないし11年産の
水稲に係る農作物共済の共済掛金及び事務費賦課金を支払わなかった。
 被上告人は,上告人が支払うべき共済掛金等を,平成9年産については58万3
579円,同10年産については24万8193円,同11年産については44万
6278円とそれぞれ算定し,同12年9月8日及び11月1日に,上告人の上記
共済掛金等に係る滞納処分として,法所定の手続に従い,上告人の有する金融機関
に対する預金払戻請求権について本件差押えをした。
第2 上告代理人房川樹芳の上告理由第2のうち憲法22条1項違反をいう部分に
ついて
 法が,水稲等の耕作の業務を営む者でその耕作面積が一定の規模以上のものは農
業共済組合の組合員となり当該組合との間で農作物共済の共済関係が当然に成立す
るという仕組み(法15条1項,16条1項,19条,104条1項。以下「当然
加入制」という。)を採用した趣旨は,国民の主食である米の生産を確保するとと
もに,水稲等の耕作をする自作農の経営を保護することを目的とし,この目的を実
現するため,農家の相互扶助の精神を基礎として,災害による損失を相互に分担す
るという保険類似の手法を採用することとし,被災する可能性のある農家をなるべ
く多く加入させて危険の有効な分散を図るとともに,危険の高い者のみが加入する
という事態を防止するため,原則として全国の米作農家を加入させたところにある
と解される。法が制定された昭和22年当時,食糧事情が著しくひっ迫していた一
方で,農地改革に伴い多数の自作農が創設され,農業経営の安定が要請されていた
ところ,当然加入制は,もとより職業の遂行それ自体を禁止するものではなく,職
業活動に付随して,その規模等に応じて一定の負担を課するという態様の規制であ
ること,組合員が支払うべき共済掛金については,国庫がその一部を負担し,災害
が発生した場合に支払われる共済金との均衡を欠くことのないように設計されてい
ること,甚大な災害が生じた場合でも政府による再保険等により共済金の支払が確
保されていることに照らすと,主食である米の生産者についての当然加入制は,米
の安定供給と米作農家の経営の保護という重要な公共の利益に資するものであって
,その必要性と合理性を有していたということができる。
 もっとも,その後,社会経済の状況の変化に伴い,米の供給が過剰となったこと
から生産調整が行われ,また,政府が米穀管理基本計画に基づいて生産者から米を
買い上げることを定めていた食糧管理法は平成7年に廃止されるに至っている。し
かしながら,上告人が本件差押えに係る共済掛金等の支払義務を負った当時におい
ても,米は依然として我が国の主食としての役割を果たし,重要な農作物としての
地位を占めており,その生産過程は自然条件に左右されやすく,時には冷害等によ
り広範囲にわたって甚大な被害が生じ,国民への供給不足を来すことがあり得るこ
とには変わりがないこと,また,食糧管理法に代わり制定された主要食糧の需給及
び価格の安定に関する法律(平成15年法律第103号による改正前のもの)は,
主要食糧の需給及び価格の安定を図ることを目的として,米穀の生産者から消費者
までの計画的な流通を確保するための措置等を講ずることを定めており,災害補償
につき個々の生産者の自助にゆだねるべき状態に至っていたということはできない
ことを勘案すれば,米の生産者についての当然加入制はその必要性と合理性を失う
に至っていたとまではいえないと解すべきである。
 このように,上記の当然加入制の採用は,公共の福祉に合致する目的のために必
要かつ合理的な範囲にとどまる措置ということができ,立法府の政策的,技術的な
裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であることが明白であるとは認め難い。
したがって,上記の当然加入制を定める法の規定は,職業の自由を侵害するものと
して憲法22条1項に違反するということはできない。
 以上は,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和30年(オ)第478号同33年2月
12日判決・民集12巻2号190頁,最高裁昭和45年(あ)第23号同47年
11月22日判決・刑集26巻9号586頁)の趣旨に徴して明らかである。これ
と同旨の原審の判断は正当として是認することができ,原判決に所論の違憲はない。
論旨は採用することができない。
第3 その余の上告理由について
 論旨は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠
くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当し
ない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田
宙靖)

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