弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
検察官の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は事実誤認,量刑不当の主
張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは
認められない。
被告人の量刑につき,付言すると,本件は,中国から留学してきた被告人が,親
からの送金を無計画に費消するなどしたことから,生活費等を得るため,(1)中
国人留学生1名と共謀の上,遊客を装ってホテルの客室に呼び出した女性から金銭
及びキャッシュカードを強取しようと企て,被告人において,大阪市内のホテルの
客室で,被害者からキャッシュカード2枚を強取した上,逃走する際,被害者が声
を出したことから,犯行の発覚を免れるため,殺意をもって,被害者を刃体の長さ
約15㎝のペティナイフで突き刺して殺害したという,強盗殺人,銃砲刀剣類所持
等取締法違反の事案,(2)(1)の共犯者を含む中国人及び韓国人の留学生4名と共
謀の上,高齢で二人暮らしの資産家である被害者夫妻から金銭及びキャッシュカー
ド等を強取しようと企て,いずれも刃体の長さ約21.2㎝の刺身包丁3本等を携
帯して大分県内の民家に侵入した上,妻に対して暴行を加えたが,金品強取の目的
を遂げず,その際,共犯者らのいずれかにおいて,妻を上記刺身包丁で突き刺して
全治34日間を要する胸部刺傷,腹部刺傷等の傷害を負わせ,続いて,夫を同包丁
で突き刺して死亡させたという,住居侵入,強盗致死,強盗致傷,銃砲刀剣類所持
等取締法違反の事案である。
いずれの犯行動機も専ら利欲に基づくものであって酌量の余地はない。(1)の犯
行態様は,被告人が,被害者に対し,あらかじめ準備していた上記ナイフをいきな
り突き付けて脅迫し,その両手首及び両足首をクラフトテープで緊縛して,キャッ
シュカード2枚を奪うなどしたもので,計画的犯行であり,さらに,抵抗できない
被害者の左側胸部等を同ナイフで十数回にわたり力を込めて突き刺すなどして被害
者を殺害したもので,殺害態様は執よう,残虐である。また,(2)の犯行態様も,
計画的,組織的である上,被告人ら4名が,深夜,上記包丁3本等の凶器を携帯し
て被害者夫妻方に侵入し,妻に対し,その頭部や顔面等を木製棒や素手で多数回殴
打するなどの暴行を加え,さらに,共犯者のいずれかが,共謀の範囲を超えたもの
とはいえ,同包丁で,妻の胸部及び腹部を数回突き刺すなどし,続いて,妻を助け
ようとした夫の左腰部を突き刺して殺害したもので,凶悪極まりない。これらの犯
行により,2名が死亡し,1名が重傷を負っており,その結果は極めて重大であっ
て,その遺族や被害者の処罰感情は厳しい。特に,(2)の犯行は,身元保証人にな
るなど中国人留学生の受入れ等に尽力していた被害者夫妻が,理不尽にも,自らが
面倒を見た者を含む中国人留学生らによる凶行に遭ったものである。いずれの犯行
についても社会に与えた衝撃は大きい。しかも,被告人は,(1)の犯行を犯したわ
ずか3週間余り後に(2)の犯行に及んでいる。
これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は誠に重大であって,被告人に対し
て死刑を選択することも考慮されるところである。
しかしながら,他方,(2)の犯行において,被告人らは,被害者夫妻を上記包丁
で脅して,金銭及びキャッシュカードを奪い,その暗証番号を聞き出すなどして,
現金を引き出すことを共謀したのであり,被告人には被害者夫妻の殺害に関する共
謀の成立及び殺意の存在が認められないにもかかわらず,共犯者の一人が被害者夫
妻に対する殺害行為に及んだのであって,被告人は,強盗致死,強盗致傷の範囲で
責任を負うにとどまること,しかも,被告人は,同犯行の主犯ではなく,むしろ,
妻が悲鳴を上げるなどし,夫の大きな声が聞こえたため,いち早く屋外に逃げ出
し,共犯者らにも逃走を呼び掛けるなど,犯行の途中から,その言動は消極的なも
のにとどまっていること,被告人は,詳細に事実関係を供述し,反省の情を示して
いること,犯行当時未成年であったことなどの諸般の事情をも考慮すると,被告人
を無期懲役に処した第1審判決を維持した原判決について,その量刑がこれを破棄
しなければ著しく正義に反するとは認められない。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官宮川光治裁判官甲斐中辰夫裁判官櫻井龍子裁判官
金築誠志)

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