弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 総務庁恩給局長が原告に対し昭和六〇年一〇月八日付けでした旧軍人普通恩給請
求を棄却する旨の裁定は無効であることを確認する。
第二 事案の概要
 本件は、俘虜収容所における俘虜監視員の職務に関して軍事裁判により戦争犯罪
人として一〇年七箇月間拘禁されていた原告が、旧軍人普通恩給請求を棄却した総
務庁恩給局長の裁定について、右拘禁期間を旧軍人としての在職年に通算しなかっ
た点に重大かつ明白な瑕疵があると主張して、右裁定の無効確認を求めている事案
である。
一 法令の定め
1 昭和二一年法律第三一号による改正前の恩給法(以下「旧恩給法」という。)
の定め
(一) 公務員及びこれに準ずべき者並びにその遺族は旧恩給法の定めるところに
より恩給を受ける権利を有するとされていた。
(旧恩給法一条)
(二) 右公務員とは、文官、軍人、教育職員及び警察監獄職員並びに旧恩給法二
四条所定の待遇職員をいい、右公務員に準ずべき者とは、準文官、準軍人及び準教
育職員をいうと定められていた。
(旧恩給法一九条)
(三) そして、軍人とは、①陸軍又は海軍の現役、予備役又は補充兵役にある
者、②国民兵役にある者で召集されたもの及び志願により国民軍に編入された者
を、準軍人とは、①陸軍の見習士官並びに海軍の候補生及び見習尉官、②勅令をも
って指定する陸軍又は海軍の学生生徒をいうと定められていた。
(旧恩給法二一条)
(四) また、准士官以上の軍人については在職年一三年以上で退職したときに、
下士官以下の軍人については在職年一二年以上で退職したときに、普通恩給を給す
るものと定められていた。
(旧恩給法六一条、六一条ノ二)
2 旧軍人軍属の恩給の廃止等
(一) 「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」(昭和二〇年勅令第
五四二号)に基づく「恩給法ノ特例ニ関スル件」(昭和二一年二月一日勅令第六八
号。以下「旧勅令第六八号」という。)が公布され、軍人若しくは準軍人、内閣総
理大臣の定める者以外の陸軍若しくは海軍の部内の公務員若しくは公務員に準ずべ
き者(以下「旧軍人軍属」という。)の普通恩給が廃止される(旧勅令第六八号一
条一号)など、旧軍人軍属の恩給が廃止又は制限された。
(二) 「昭和二十一年勅令第六十八号施行ニ関スル件」(昭和二一年閣令第四
号)一条は、旧勅令第六八号一条の内閣総理大臣の定める恩給廃止等の対象となら
ない者を、次のとおり定めていた。
(1) 陸軍又は海軍の警部、監獄看守長、警査、巡査又は監獄看守以外の判任官
である者
(2) 陸軍又は海軍の理事官、事務官、通訳官又は編修
(3) 陸軍又は海軍の警査、巡査、警守又は監獄看守以外の判任官又は高等官の
待遇を受ける者
(4) 前記(1)の者で各庁職員優遇令により奏任官となったもの又は退官若し
くは死亡に際し奏任官となったもの
3 「恩給法の一部を改正する法律」(昭和二八年法律第一五五号。以下「法律第
一五五号」という。)の定め
(一) 旧勅令第六八号が廃止された。
(法律第一五五号附則二条一号)
(二) 旧恩給法二一条に規定する軍人(以下「旧軍人」という。)若しくは準軍
人(以下「旧準軍人」という。)で、旧軍人又は旧準軍人としての在職年が旧軍人
又は旧準軍人の普通恩給についての最短恩給年限(前記1(四)に達する者で、失
格原因がなくて退職し、かつ、退職後恩給法に規定する普通恩給を受ける権利を失
うべき事由に該当しなかったものについては、法律第一五五号施行の時から、旧軍
人又は旧準軍人の普通恩給を受ける権利を取得するものとすると定められている。
(法律第一五五号附則一〇条一項一号イ)
(三) 旧勅令第六八号八条一項に規定する抑留又は逮捕により拘禁された者の在
職年の計算についての特例
(1) 旧恩給法の特例に関する件の措置に関する法律による改正前の旧勅令第六
八号八条一項(以下「改正前の旧勅令第六八号八条一項」という。)に規定する抑
留又は逮捕(連合国最高司令官による抑留又は逮捕)により拘禁された者(在職中
の職務に関連して拘禁された者をいう。)の拘禁前の公務員(公務員に準ずる者を
含む。)としての在職年の計算については、当該公務員としての在職年数に、拘禁
された日の属する月(その日の属する月において公務員として在職していた場合に
おいては、その月の翌月)から当該拘禁が解かれた日の属する月(その日の属する
月において公務員として在職していた場合においては、その月の前月)までの年月
数を加えたものによるとされ、右通算される年月数中に海外において拘禁された期
間がある場合における在職年の計算については、さらに、当該海外において拘禁さ
れた期間の一月につき一月の月数を加えたものによると定められている。
(法律第一五五
号附則二四条の三第一項、二項)
(2) なお、法律第一五五号附則二四条の三は、昭和三〇年法律第一四三号によ
り追加された規定であり、追加当初は、改正前の旧勅令第六八号八条一項の規定に
該当して(すなわち、連合国最高司令官により抑留又は逮捕され有罪の判決が確定
したことにより)拘禁された者(在職中の職務に関連して拘禁された者をいう。)
を右通算の特例の対象とし、また、普通恩給の最短年限に達するまでを限度とし
て、右拘禁中の期間を加えることとする規定であった。
 そして、昭和四六年法律第八一号により、法律第一五五号附則二四条の三が改正
され、右最短年限に達するまでを限度とする部分が削除された結果、右拘禁期間は
すべてその者の恩給公務員としての在職年に通算することとなった。
 また、昭和四八年法律第六〇号により、法律第一五五号附則二四条の三が改正さ
れ、「改正前の旧勅令第六八号八条一項の規定に該当して拘禁された者」が「改正
前の旧勅令第六八号八条一項に規定する抑留又は逮捕により拘禁された者」に改め
られた結果、有罪判決を受けなかった者の未決拘禁期間も在職年に通算することと
なった。
二 前提となる事実(各項末尾掲記の証拠により認められる。)
1 原告は、大正一四年一二月一日、台湾高雄州岡山郡α六六六番地(現在の高雄
県β二一二号)において出生した。
(甲八三、同八四)
2 原告は、昭和一七年七月一二日、陸軍軍属(傭人)として台湾軍司令部に採用
され、台湾の中部の白河訓練所において強化訓練を受けた後、同年八月四日、ボル
ネオ俘虜収容所クチン本所第一分遣所に転庸となり、俘虜監視員としての職務につ
いた。
 そして、原告は、昭和二〇年六月一〇日、臨時召集により、陸軍二等兵として独
立歩兵第五三八大隊(ボルネオ)に応召し、終戦を迎えた後、同年一〇月五日、ボ
ルネオ俘虜収容所に転属となった。
 ところが、原告は、同月六日、ボルネオ・クチンにおいて濠州軍により戦犯容疑
(ボルネオ俘虜収容所における俘虜抑留者の虐待殴打)で拘禁され、同年一一月一
日、ラブアン島の戦犯容疑者の収容所へ移送された後、昭和二一年一月三一日、連
合国軍(濠軍)軍事法廷において、一五年の刑が確定し、同日、復員となった。
 その後、原告は、同年三月三日にモロタイ島の収容所へ、同年五月二日にラバウ
ル島の収容所へ、昭和二四年にマヌス島の収容所へ、それぞれ移送され、昭和二八
年八月
九日、横浜に上陸のうえγプリズンに入所し、昭和三一年八月一八日、釈放された
(以下、原告の前記刑確定後の昭和二一年二月一日から昭和三一年八月一八日まで
の拘禁期間を「本件拘禁期間」という。)。
(甲七、同八三、同八四、同九一、乙一〇の二)
3 原告は、昭和二七年八月五日に発効した日本国と中華民国との間の平和条約に
より、日本国籍を喪失したが、昭和四七年一二月六日に日本に帰化した。
(弁論の全趣旨)
4 原告は、昭和五九年三月一九日、総理府恩給局長に対し、旧軍人普通恩給の請
求をしたが、総務庁恩給局長は、昭和六〇年一〇月八日、右請求を棄却する旨の裁
定をした(以下「本件裁定」という。)。
本件裁定の理由は、本件拘禁期間は、旧軍人在職中の職務に関連して拘禁されたも
のとは認められず、旧軍人としての在職年は昭和二〇年六月一〇日から昭和二一年
一月三一日までの八月であり、これに戦地戦務加算(昭和二〇年六月一〇日から同
年九月二日まで。一箇月につき三月を加算。)一年及び外国鎮戌加算(同年九月三
日から昭和二一年一月三一日まで。一箇月につき一月を加算。)四月の合計一年四
月の加算年を加えても、在職年は二年であるから、恩給法に規定する旧軍人普通恩
給についての最短恩給年限(下士官以下一二年)に達しないというものであった。
(甲三、弁論の全趣旨)
5 原告は、昭和六一年九月二二日、総務庁恩給局長に対し、本件裁定を不服とし
て異議申立てをしたが、同局長は、昭和六二年二月六日、これを棄却する決定をし
た。
(甲四)
6 原告は、昭和六二年五月二八日、総務庁長官に対し、審査請求をしたが、同長
官は、昭和六三年六月九日、これを棄却する裁決をした。
(甲五)
三 当事者双方の主張
(原告の主張)
 原告の主張の要旨は、別紙記載のとおりであり、その骨子は以下のとおりであ
る。
1 恩給制度の制度趣旨と戦後の運用
 恩給法による恩給は、公務員又は準公務員の忠実な職務に対して、国が当該公務
員との特殊な関係に基づいて、使用者としての立場において年金給付を行うもので
あり、その勤務によって失った経済的な取得能力を補うことを目的とするものとさ
れているから、支給対象者は旧軍人又は一部の旧軍属に限定されるべきものではな
い。
 軍属は本来的には戦闘員ではないとしても、その本質は極めて軍人に類似してお
り、特に第二次世界大戦では、近代兵器の登場により戦闘地域は広範囲に広がり、
軍人軍属の身分にかかわらず危険に身を晒し、戦死傷を被ることとなった。また、
俘虜監視員のように、身分は軍属でも職務内容は軍人とほとんど変わらず、軍隊の
組織に組み込まれてその指揮命令を受け、軍隊と同様の訓練を受けている場合に
は、その職務の性質から考えても、軍隊における身分の違いによって普通恩給の対
象とならないことは、著しく不合理である。加えて、第二次世界大戦中に恩給支給
対象を戦地勤務の軍属に拡大することが時代の要請となっていたのであり、戦後復
活した軍人恩給制度は、右歴史的経緯も踏まえた運用がされるべきである。
 そして、昭和二八年に旧軍人の恩給が復活した趣旨は、法の形式上は旧軍人の既
得権の復活であったが、その後の改正内容や支給の実態からすれば、軍務に従事し
たことに伴う経済的犠牲を補償するものにほかならず、順次支給対象及び内容を拡
大し、実質的に軍務従事者に対する戦後補償の機能を担っている。このことは、昭
和三〇年法律第一四三号により法律第一五五号附則二四条の三の規定が新設された
趣旨が、戦犯としての拘禁期間も恩給支給対象年数に通算することによって、本来
の軍歴のみでは恩給年限に達しない者に恩給を支給しようとするものであり、戦犯
としての拘禁も軍務に従事したことによる戦争犠牲であるとして補償するものであ
ることからも、明らかである。
 そうすると、俘虜監視員としての職務が、軍隊上の軍務に組み込まれたもので軍
人の職務と差異がなく、また、戦犯としての拘禁による犠牲において、軍隊上の身
分による差異がなく、加えて、被告は、BC級戦犯として処罰を受けた者について
判決確定日をもって復員(解職)の日とする取扱いをしているのであるから、戦犯
裁判の判決確定後においては、日本人も植民地人も軍隊上の身分を解かれた平等な
一私人として拘禁されたと解するほかないところ、平等な一私人として受けた拘禁
による痛苦に対する補償は、基本的に平等でなければならない。
 したがって、傭人も含めた戦地勤務の軍属を支給対象から除く運用は、前記の恩
給制度の趣旨と根本的に相容れないものであり、原告を恩給支給対象から排除する
ことは著しく不合理である。
2 憲法一三条、一四条に違反することについて
(一) 軍人恩給廃止制限前の軍人恩給制度は、公務員制度の一つであったかもし
れないが、憲法とは根本的に矛盾する思想を背後に持ち、一定の軍人軍属の特権的

益を保護する結果となる制度であったからこそ、廃止制限されたものである。
そして、憲法施行後の昭和二八年に復活し、その後も立法によって逐次改正されて
いる旧軍人恩給制度については、憲法に適合するように、軍務従事者に対する戦後
補償の機能を担うものとして、解釈運用がされなければならない。
(二) 道義的国家たるべき義務に基づく戦争犠牲に対する国の責任
日本は、「軍国主義の駆逐」、「民主主義的傾向の復活強化に対する障礙の除
去」、「言論、宗教及思想の自由並に基本的人権の尊重」という諸理念を掲げ、
「日本国国民の自由に表明せる意思に従ひ平和的傾向を有し且責任ある政府」の樹
立を目標とするポツダム宣言を受諾し、右ポツダム宣言及び同宣言が「カイロ宣言
の条項は遵守されるべく」と規定するカイロ宣言を根本規範として、その授権を受
けて国民が日本国憲法を制定したものである。そして、憲法が依って立つ根本規範
とは、ポツダム宣言の受諾によって日本が受け入れた諸理念とその背後にある近代
国家原理、明治以来の日本国家の侵略・植民地支配がかかる近代国家原理に違背し
ていたという歴史認識である。
 憲法前文は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする
ことを決意」と規定しているが、これは右の根本規範からみると、過去の侵略戦
争、植民地支配に対する反省の表明であると解すべきである。憲法は右の反省を踏
まえ、「恒久平和を念願」し、それを実現する方法として戦争放棄(九条)を規定
したが、前文が「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平
和のうちに生存する権利を有することを確認する」として、平和のうちに生きる権
利を「全世界の国民」の権利と規定していることにみられるように、憲法は九条で
実現される平和を単に戦争のない状態であるとみなしているのではなく、国家によ
る戦争をはじめとする構造的暴力の解消に積極的につとめていくことを日本国民の
義務としたと解されるのである。日本は、植民地支配と侵略戦争によってアジアの
人々の「平和のうちに生存する権利」を奪い、これらの人権侵害によってもたらさ
れた肉体的、精神的荒廃はいまだに被害者を苦しめ続けている。このような日本自
らの手による平和的生存権への侵害について謝罪し、その被害に対して補償を行う
ことは「全世界の国民」に平和的生存権を保障した憲法前文及び九条が当然に義務
付けている。
これは、九条によって戦力の不保持を規定した憲法が、自国の安全を「平和を愛す
る諸国民の公正と信義に信頼」して維持すると宣言していることからも導かれる。
すなわち、「諸国民の公正と信義に信頼」するといっても、一方的な信頼はあり得
ず、それは同時に平和を愛する諸国民から日本国の公正と信義が信頼されなければ
ならないことを意味する。侵略戦争、植民地支配を行ってきた日本が、それを反省
し、平和を愛する諸国民から公正と信義を信頼されるためには、まず、侵略戦争と
植民地支配の被害者に謝罪し、その損害ないし損失を賠償ないし補償しなければな
らないことは自明である。
 かかる意味で、憲法前文及び九条は、政府に対し、侵略戦争と植民地支配の被害
者に対する謝罪と賠償ないし補償を具体的内容とする「道義的国家たるべき義務」
を負わせているのである。
(三) 憲法一四条違反
 憲法が国家機関に前記の意味において道義的国家たるべき義務を課していると解
される以上、憲法の個々の条項についても右義務の履行にもとる解釈がなされては
ならない。
 一般的には憲法一四条は合理的差別を禁止するものではないとされているが、復
活した軍人恩給制度が実質的に軍務従事による戦争犠牲に対する国家補償的性格を
有している以上、侵略戦争を反省しその補償を実現すべき道義的義務を負う日本国
としては、植民地政策によって「日本人」として軍務に従事した人々を軍隊上の身
分のゆえに又は国籍のゆえに支給対象から排除することは、合理的差別ではあり得
ず、そのような法令の運用は同条に反するものである。
(四) 憲法一三条違反
 憲法一三条の個人の尊厳及び幸福追求権の規定も、日本国籍のある軍隊上の身分
上位の者のみに適用されるべきものではない。むしろ、右道義的国家たるべき義務
が国家機関に課せられていることにかんがみれば、侵略戦争や植民地政策によって
犠牲を強いられたアジアの人々の人権回復を日本国民以上に優先させるべきとすら
いえる。
 したがって、軍人恩給を植民地出身であることや軍隊上の身分のゆえに支給しな
いことは実質的に憲法一三条にも違反する。
(五) 合憲的修正解釈の可能性
 事件、争訟の解決を任務とする司法権には、権利の具体的実現を図る救済法の分
野において創造的解釈態度が要請されるところ、本件において、具体的に法令を類
推適用又は準用し、あるいは修正適用して、原告に普通恩給受給資格を認め
ることは不可能なことではない。
 旧恩給法及び同施行令は、職務上の地位身分の高い者又は職務の性質において当
時特に公共性が高いと判断された者を恩給支給対象者としているものと解される。
この趣旨からすれば、俘虜監視員の職務は公共性においてこれらの身分の者に劣る
ことはなく、少なくとも戦後においてその職務内容を客観的に評価すれば、俘虜の
取扱いは敵国の大きな関心事であり国際関係に影響を与えるべき公共性の高い職務
であるから、実態において最も近似する恩給受給対象職務に準じるものとして取り
扱うことが可能である。
 すなわち、監獄看守は恩給の対象たる軍属に含められているが、俘虜監視員とし
ての職務はこれに近似し、むしろ対象が敵国俘虜であるだけに、より対立的場面の
多い危険な、したがって、公共性の高い職務であって、これに準じるものとして運
用することは法技術的に不可能ではなく、むしろ合理的である。
 さらに、前記のとおり俘虜監視員としての実際の職務は軍隊に組み込まれた軍人
としてのそれと変わることはなかったのであって、旧恩給法二一条所定の「陸軍ノ
予備役又ハ補充兵役ニ在ル者」に準じると解することも可能である。
(六) 適用違憲
 仮に、法令において恩給支給対象となる軍属の範囲が限定され、俘虜監視員がこ
れから除外されることに何らかの合理性があるとしても、原告の場合に、右解釈を
適用をすることには合理性がなく、憲法一四条、一三条に違反するものである。
 原告が戦犯としての拘禁を余儀なくされたのは、究極的には昭和天皇又は日本国
が負うべき戦争責任の不当な肩代わりであり、原告が個人的に責任を負わせられる
べきものではなかった。また、俘虜監視員としての職務は敵国の俘虜に直接対峙す
る職務であり、しかもジュネーブ条約を故意に守らない政策の下での職務であるこ
とから、俘虜の憎しみや恨みを直接的に被る危険極まりない職務であった。原告が
戦犯として有罪とされた理由は、俘虜に対して懲戒の趣旨で「びんた」(殴打)を
したことにあるが、これは日本軍上官の命令によるものであり、上官の命令を拒絶
することはできず、いわば違法不当な肉体的心理的拘束下においてされた行為であ
る。本来日本帝国主義の被害者である原告が、加害者の一員としてその責任を負担
させられ、人生で最も貴重な期間を過酷な拘禁で空費させられてしまった。これは
原告と日本国との極めて特殊な関係であり
、これによって原告が失った経済的な取得能力は、一般の日本人軍人軍属の比では
ない。これを補うべく恩給を支給することは前記の憲法全体の体系や憲法下におけ
る軍人恩給制度、特に戦犯として拘禁された者に対する軍人恩給制度の趣旨からし
ても、日本国の義務であり、原告に対する本件裁定は憲法一四条、一三条に違反す
る。
3 市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第七号。以下「B規
約」という。)二条、二六条に違反することについて
(一) 日本は、昭和五四年六月二一日にB規約を批准し、B規約は、同年九月二
一日、日本において発効したところ、B規約は自力執行的な条約であり、これに反
する国家の行為は当然無効である。
(二) ところで、日本において戦後復活した旧軍人恩給受給権は単純に社会権に
分類されるべき権利ではなく、実質的に戦後補償にほかならず、一般社会保障制度
などの社会権とは異なり、戦争犠牲の救済という意味で、国家がより積極的に平等
な権利の確保を図るべき性質の権利といえる。
 そして、本件裁定は形式的には国籍を理由とする差別的取扱いではないが、俘虜
監視員の募集は旧植民地の台湾及び朝鮮韓国においてのみなされており、日本人の
陸軍軍属としての俘虜監視員は存在しないと解される。まして、戦犯として裁かれ
て長期の服役を強いられ、しかも、地位身分上恩給対象外とされる立場の者となる
と、旧植民地出身者にほぼ限定される。そうすると、陸軍軍属たる俘虜監視員とい
う軍隊上の地位身分を理由とする差別的取扱いは、間接的には国籍を理由とする差
別にほかならないというべきである。しかも、原告の国籍喪失は原告の意思によら
ないものであり、かつ、原告は、昭和四七年に帰化して日本国籍を再取得してい
る。また、巣鴨刑務所に移管された昭和二八年から現在に至るまで継続して日本の
住民であった。これらの事実からすれば、原告は日本人と同等の権利を保障される
べきである。
 そうであるとすると、原告の俘虜監視業務の内容は、日本人軍人が提供した軍務
の内容とその性質において変わることはなく、さらに、戦犯者として受けた拘禁に
おける痛苦の内容も日本人軍人のそれと変わることはなく、むしろ、軍務内容、拘
禁の長さや処遇内容において一般日本人軍人以上の過酷さを強いられたのであるか
ら、原告に対して、俘虜監視員としての身分を理由として恩給を支給しないこと
は、合理性のない
差別的取扱いにほかならず、B規約二条、二六条に違反する。
4 BC級戦犯裁判資料の記録と禁反言の法理
 法務省は戦犯裁判資料において当初原告を二等兵として記録していた。この記録
は一般公開を予定したものではなく直接原告に対してその記録した旨を通知したも
のではないが、少なくとも原告についての情報を記録したものであり、原告の法的
地位を決定するか、あるいはこれに影響を与えるべき記録であることは疑いがな
い。そして、行政官が右記録をした以上、以後日本国としては戦犯裁判との関係に
おいて原告を二等兵として取り扱う旨の意思表示を行ったものと解すべきである。
 仮に客観的事実としては原告が俘虜監視員でありその身分が傭人であるとして
も、戦犯裁判において二等兵として判決を受けその確認がなされ、さらにこれが日
本の資料に記録された以上、日本国としてもこれを二等兵として取り扱うべき義務
が生じたものというべきである(禁反言の法理)。
 してみると、原告の身分は戦犯裁判及びそれに基づく服役との関係においては二
等兵であり、法律第一五五号附則二四条の三の解釈においても、「在職中の職務に
関連して拘禁された」のは二等兵としての職務であると解釈しなければならない。
5 以上の解釈によれば、本件拘禁期間一〇年七箇月を在職年に通算すべきことと
なるから、原告は下士官以下の旧軍人の普通恩給についての最短恩給年限である一
二年を満たすこととなり、普通恩給を支給されるべきこととなる。
 そして、本件裁定の瑕疵は重大であり、右解釈適用の誤りは明白であるから、本
件裁定は無効である。
(被告の主張)
1 恩給制度について
(一) 恩給は、公務員制度の一環として、公務員と国との間の公法上の義務(退
職後の公務員の義務も含む。)の遂行を前提とする密接な関係の存在を前提に、恩
給公務員として一定年数以上在職し、又は公務により傷痍・疾病を受けるなど、一
定の要件を満たした場合に給されるものである。
 すなわち、官吏は、国家に対し、特別の義務を負うものとされ、その義務の内容
には、職務を尽くす義務、従順の義務、忠実の義務、秘密を守る義務及び品位を保
つ義務がある。また、秘密を守る義務などについては、退職後も負うものとされて
いる。そして、恩給制度は、かかる公務員と国との特別な関係に基づき、国がその
退職後において相応の保護を与えるというものであって、このことにより公務員の
忠実な義務の遂行を図り、もって行政の円滑な遂行をも保障するという、いわば公
務員制度の一環としての意義を有するものであり、この精神は、制度制定以来一貫
して受け継がれているものである。このように、恩給の支給は、明治新政府におけ
る公務員制度の発足以来、優秀な人材を確保し安定して職務に服させること等を目
的に、公務員制度の一環として官吏を対象としたものである。
(二) そして、憲法は、公務員制度の具体的内容の決定は、法律にゆだねている
と解されることから(憲法一五条、七三条四号)、公務員制度の一環としての恩給
制度の創設、運用等も法律にゆだねられていると解される。
 このように恩給権は、法律の規定を待って初めて生じるものであるが、どのよう
な要件の下にどのような給付を行うかについては、政治的、財政的、社会的その他
諸般の事情を適切に配慮して行われなければならないから、立法府には広範な裁量
が認められるべきである。
(三) 恩給法は、このような立法裁量権の行使として、全額国庫負担の下に(恩
給法一六条)、一定年限勤務した一定の公務員に対して普通恩給を給し、公務上負
傷した公務員に対して傷病恩給を給することとした。このように恩給制度が公務員
制度の一環であることから、公務員である軍人に恩給を給することとしたのであ
る。つまり、恩給制度は、あくまで公務員とその遺族を対象とした制度(恩給法一
条)であって、恩給を給する公務員の範囲、恩給を給する要件等は、恩給法等の法
令により明確に定められ、かつ、恩給を受ける権利は、恩給法上一定の要件を満た
した場合に初めて発生するものである。
 そうしたところ、傭人・雇員を、恩給の対象となる公務員とする旨の規定はな
く、傭人・雇員の在職期間を軍人の在職期間に通算する旨の規定もない。
(四) ところで、雇員・傭人等を恩給法の対象とするか否かの質疑は、大正一二
年の恩給法制定当時から、国会において度々なされているが、雇員・傭人には、職
種、常用か非常用か、雇用期間の長短、給料の多寡、恩給類似の国庫からの補助の
有無、職務規律の内容上の差異、共済組合制度の存否などからその種類は千差万別
であり、これらの雇員などを区別して恩給に通算することはかえって雇員間の不権
衡を来たすことや、国の財政負担に到底耐えられないことなどの様々な事情を考慮
して、雇員・傭人をむしろ恩給公務員としないことが適当であるとの政策
的判断を前提として、政府は一貫して、雇員・傭人等を恩給法の対象とすることは
できない旨答弁しているところであり、このような取扱いも国会が正当に考慮する
ことを許された諸処の事情を考慮した上での政策的判断であって、これが合理的な
理由がある立法裁量の範囲内であることは明らかである。
 仮に、傭人・雇員等を旧軍人の在職期間に通算する立法があり得るとしても、ど
のような傭人等について、どのような方法により、どの程度通算するかについて
も、さらに広範な立法裁量が認められるべきものである。
(五) なお、原告は、戦後に復活した軍人恩給制度の実質的制度趣旨を軍務従事
者に対する戦後補償であるとした上で、原告のような戦地勤務の陸軍軍属(傭人)
を支給対象に含めない恩給法の解釈運用は誤りであるとし、さらに、戦犯ないし抑
留者に対する恩給支給の実質的制度趣旨にかんがみても、陸軍軍属(傭人)として
の行為が拘禁の理由になった者について法律第一五五号附則二四条の三の規定の適
用を認めない恩給法の解釈運用は誤りである旨主張する。
 しかし、前記のとおり、恩給の支給対象に陸軍軍属(傭人)を含まない以上、恩
給を支給することを前提とする在職年の通算の規定が陸軍軍属(傭人)に対して適
用されないのは当然であって、また、恩給の支給対象に陸軍軍属(傭人)を含まな
いことが立法裁量の範囲内にある合理的なものである以上、在職年の通算の規定が
陸軍軍属(傭人)に対して適用されないことも何ら不合理なものとはいえない。そ
もそも、前記のとおり、恩給は、公務員制度の一環であり、大戦の有無や先の大戦
における戦争被害の有無にかかわらず一定の条件を満たした恩給公務員を対象とし
て給されるものであって、戦争被害が存することを前提とする戦後補償とは明らか
に一線を画する制度であるから、原告の右主張はその前提において失当である。
2 恩給法が陸軍軍属(傭人)を支給対象としないことが、憲法四条、一三条、B
規約二六条、二条に反しないこと
 憲法一四条一項は、法の下の平等を定めているが、合理的理由のない差別を禁止
する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の
差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有す
る限り、右規定に違反するものではない。また、B規約二六条も、不合理な差別的
取扱いを禁止するものであって、合理的な差異
を設けることまで排除するものではない。
 そして、前記のとおり、傭人たる陸軍軍属を恩給法の対象としない立法は、合理
的理由に基づく立法政策の範囲内のものであり、現行の制度にも合理的理由がある
のであるから、不合理な差別的取扱いではなく、憲法一四条、一三条に違反するも
のではないし、B規約二六条、二条に違反するものでもない。
3 原告に恩給を支給しないことが、憲法一四条、一三条に違反しないこと
 前記のとおり、恩給制度は、公務員とその遺族を対象とした制度(恩給法一条)
であって、公務員の範囲、給与の要件等は、恩給法等の法令により明確に定めら
れ、かつ、恩給を受ける権利は、恩給法上一定の要件を満たした場合に初めて発生
するものである。 
 しかるに、陸軍軍属(傭人)が恩給法に規定する公務員に該当しないこと、原告
は旧軍人在職中の職務に関連して拘禁されたものではないから、本件拘禁期間を旧
軍人の在職年に加えることはできず、したがって、原告の旧軍人としての在職年は
加算年を加えても二年であり、普通恩給についての最短恩給年限(下士官以下一二
年)に達しないところ、前記のとおり、恩給の給与対象に公務員に該当しない陸軍
軍属(傭人)を含まない旨の立法もなお合理的理由に基づく立法政策の範囲内のも
のであり、現行の制度にも合理的理由があることからすれば、本件裁定は、憲法一
四条及び一三条に反するものではない。
4 なお、本件裁定は、原告の旧軍人としての在職年が旧軍人普通恩給についての
最短恩給年限(下士官以下一二年)に達していないことを理由とするものであっ
て、恩給法九条一項三号の国籍条項を理由とするものではないから、国籍条項の有
効無効が本件裁定の適法性に影響を及ぼすものではない。
5 禁反言の法理についての原告の主張に対する反論
 原告の指摘する記録は、一般公開を予定せず、直接原告にその記録を通知したも
のではないとの原告の主張を前提としても、「二等兵」との記載をもって、外観を
信頼した者に対して責任を負うべき根拠となる真実に反する外観を作出したものと
評価することはできない。
 また、原告は、旧軍人恩給を申請して以来、本訴においても一貫して、陸軍軍属
(傭人)である俘虜監視員の在職中の職務に関連して有罪判決を受けて拘禁された
ことを認めてきたことからすると、原告が真実に反する外観を信頼した上である行
為をしたものと評価することもできない

 そして、右「二等兵」の記載は、軍事裁判当時の原告の階級を記載したものと解
し得るので、右記載を根拠として、被告において原告を二等兵として取り扱うべき
義務が生じるとか、原告について、法律第一五五号附則二四条の三第一項所定の
「在職中の職務」を二等兵の職務と解すべき効果が生じるものと解釈することはで
きない。
四 争点
 以上によれば、本件争点は次の各点である。
1 旧軍人普通恩給の在職年の算定に当たり、陸軍軍属(傭人)である俘虜監視員
の職務に関連して連合国最高司令官による抑留又は逮捕により拘禁された期間を通
算しないことが、憲法一三条、一四条、B規約二条、二六条に違反するものである
か否か。
(争点1)
2 原告についての旧軍人普通恩給の在職年の算定に当たり、本件拘禁期間を通算
しないことが、憲法一三条、一四条に違反するものであるか否か。
(争点2)
3 本件裁定が、禁反言の法理に反し許されないものであるか否か。
(争点3)
第三 当裁判所の判断
一 恩給の性質について
1 我が国の恩給制度は、判任官以上の文官を対象とした官吏恩給法(明治二三年
法律第四三号)、陸海軍軍人を対象とした軍人恩給法(同年法律第四五号)、市町
村立小学校の正教員を対象とした市町村立小学校教員退隠料及遺族扶助料法(同年
法律第九〇号)、府県立師範学校及び公立中学校の学校長、正教員等を対象とした
府県立師範学校長俸給並公立学校職員退隠料及遺族扶助料法(同年法律第九一
号)、巡査及び看守を対象とした巡査看守退隠料及遺族扶助料法(明治三四年法律
第三八号)等が個別に規定していたが、これらの規定は、大正一二年に公務員及び
これに準ずべき者並びにその遺族を対象とした旧恩給法に整理統合された。そし
て、第二次世界大戦後の昭和二一年には、旧勅令第六八号により旧軍人軍属の恩給
が廃止制限されたが、昭和二八年には、法律第一五五号により旧軍人軍属の恩給が
復元された。
 そこで、恩給の性質を検討するに、①公務員による恩給のための国庫への納付金
(恩給納金)の制度については、当初、旧軍人、小学校程度の学校の教育職員及び
警察監獄職員を対象とせず(昭和八年法律第五〇号による改正前の恩給法五九
条)、昭和八年法律第五〇号による改正によっても、旧軍人のうち兵を対象に加え
なかったこと(旧恩給法五九条)、②昭和二一年法律第三一号による改正後におい
て、恩給法五九条が公務員の恩給納金を
規定しているが、その後の国家公務員共済組合法(昭和三三年法律第一二八号)等
の制定により、在職者が共済制度に移行することとなり、右恩給納金は予定されて
いないことからすると、恩給の給付は恩給納金を基礎とする保険数理(国家公務員
法一〇七条三項参照)に基づく相互扶助としての社会保険制度と解することはでき
ない。
 また、普通恩給は、所定の年数(増加恩給を給されるときは、右年数未満でも支
給される。恩給法六〇条五項、六三条三項。)在職した後に退職した者に支給され
る年金給付であり、年齢及び所得による支給制限がある(恩給法五八条ノ三、五八
条ノ四)ことからすると、右年金給付には稼働能力の喪失を補填する意味合いもあ
るということもできるが、給付内容が、退職時の俸給年額(旧軍人及び旧準軍人に
ついては、退職時の階級に応ずる仮定俸給年額。法律第一五五号附則一三条。)と
在職年数に基づいて算定され、必要に即応した給付に限定されないことからする
と、公的扶助の制度であると断定することはできない。
 これらのことを勘案すると、恩給は、公務への忠誠、精励を確保するために、公
務員が相当年限忠実に勤務して退職した場合等において、国が公務員との特殊な関
係に基づいて使用者としての立場から退職公務員又はその遺族の生活の保障ないし
援助として行う金銭給付としての性質を有するものであり、公務員制度の一環をな
すものと理解するのが相当である。
2 これに対し、原告は、昭和二八年に旧軍人の恩給が復元された趣旨は、実質的
には軍務の従事に伴う経済的犠牲を補償する戦後補償の機能を担うことにあり、こ
のことは、法律第一五五号附則二四条の三の規定の新設の趣旨が、戦犯としての拘
禁期間も軍務の従事による戦争犠牲として補償するものであることからも、明らか
である旨主張する。
 確かに、平成八年度において、旧軍人普通恩給の受給者のうち、短期在職者(実
在職年だけでは最短恩給年限には達しないが、戦地勤務等の加算年を算入すること
により最短恩給年限に達する者)の比率は九七・八パーセントであり、実在職年が
六年未満の者の比率は五三・六パーセントであるところ(甲五三)、このことは、
右受給者の多くが、一般社会から召集され激戦地に赴いた応召兵であることを意味
するものである。また、旧軍人普通恩給の受給者の中には、法律第一五五号附則二
四条の三の規定により戦争犯罪人としての拘禁期間
を通算された者も少なからず存在すると推測されるところである。
 しかしながら、旧軍人及び旧準軍人の恩給が、純粋に戦争の犠牲に対する国家に
よる損失補償であるとするならば、右犠牲の程度に応じた給付内容でなければなら
ないところ、右普通恩給の額が退職時の軍における階級に応じて算定されることか
らして、右恩給を戦争犠牲に対する損失補償として理解することは困難である。そ
して、実在職年に仮想の在職年を加算して在職年を算定する加算年制度は、公務員
が在職中に特殊な勤務に服した場合に、右公務の特殊性を配慮するものであって、
また、戦争犯罪人としての拘禁期間を在職年へ通算することを定めた法律第一五五
号附則二四条の三の規定は、右通算の対象となる拘禁を在職中の職務に関連するも
のであることを定めているのであるから、いずれも公務員制度の一環としての前記
の恩給の性質を左右するものではないというべきである。
 そうすると、旧軍人の普通恩給について、人生の貴重な時期を犠牲にして戦場に
投ぜられたことに対する国家補償的意味合いがあり得るとしても、それはあくまで
も前記のとおり公務員制度の一環としての恩給の仕組みの枠内においてのことであ
り、実定法の裏付けもないまま、恩給制度が、右の仕組みの枠を超えて恩給の給付
を行うことにより、戦争犠牲に対する国家補償を図ることを当然に想定しているも
のと解することは困難である。
二 争点1について
1 法律第一五五号附則二四条の三第一項は、旧軍人普通恩給の在職年の算定に当
たり、連合国最高司令官による抑留又は逮捕により拘禁された期間は、右拘禁が在
職中の職務に関連するものである場合に限って、通算されることを規定しているの
であるから、恩給の支給対象とされていない雇員、傭人が、その後、恩給の支給対
象とされている公務員になっても、その者の雇員、傭人としての職務に関連して連
合国最高司令官による抑留又は逮捕により拘禁された場合には、右拘禁期間が公務
員としての在職年に通算されることはないこととなる。
2(一) そこで、右の定めが憲法一四条一項、B規約二条、二六条に違反するか
否かを検討するに、憲法一四条一項は、合理的理由のない差別を禁止する趣旨のも
のであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由と
してその法的取扱いに差異を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何ら
右規定に違反する
ものではないというべきである。そして、この理は、B規約二条、二六条について
も同じであると解される。
(二) ところで、憲法は、具体的な公務員制度の内容の決定を法にゆだねたもの
と解され(憲法七三条四号)、また、国の行う生活の保障ないし援助としての金銭
給付は、必然的に国の財政支出を伴うものであるから、公務員制度の一環としての
恩給制度の具体的内容は、財政的、社会的な問題をも考慮した立法府の政策的、技
術的な判断にゆだねられているというべきである。
 そして、立法府において、恩給の支給対象となる者の範囲から、雇員、傭人を除
外してきたのは、これらの範疇には、常用、非常用の別、雇用期間の長短、給料の
多寡、恩給類似の国庫からの補助の有無、職務規律の差異などの点からみて、多種
多様の者が含まれ、これらの者の間に不権衡を来すことのない恩給制度とすること
には困難があったこと、及び国の財政負担を考慮したことによるものであったとこ
ろ、右の政策的判断が、公務員制度の一環としての恩給の制度趣旨に照らし、著し
く不合理であるということはできない。
 そうであるとすると、雇員、傭人を恩給の支給対象外とした以上、その職務に関
連して戦犯として拘禁された期間を、公務員としての在職年に通算しないことも、
前記恩給の制度趣旨に照らし、不合理ではなく、憲法一四条一項に違反するという
ことはできない。
(三) これに対し、原告は、旧軍人の恩給が戦争犠牲に対する国家補償であり、
道義的国家の義務として、同じ軍務に従事した者を軍隊上の身分を理由に恩給の支
給対象から排除するのは不合理な差別であり、また、俘虜監視員が旧植民地出身者
に限られることからすると、間接的には、旧植民地出身者であることを理由とした
不合理な差別である旨主張する。
 しかし、恩給権が、戦争による犠牲についての国家に対する損失補償請求権では
ないことは前記のとおりである。また、旧植民地出身者であるがゆえに俘虜監視員
の職務につくことになったとしても、公務員制度の一環としての恩給制度において
は、他の雇員、傭人と同様に恩給の支給対象外となることは、右制度の趣旨に反し
て不合理であるとまでいうことはできない。
(四) 右のとおりであるから、旧軍人普通恩給の在職年の算定に当たり、陸軍軍
属(傭人)である俘虜監視員の職務に関連して連合国最高司令官による抑留又は逮
捕により拘禁された期間を加えない
ことが、憲法一四条、B規約二条、二六条に違反するものではないというべきであ
る。
3 次に、旧軍人普通恩給の在職年の算定に当たり、陸軍軍属(傭人)である俘虜
監視員の職務に関連して連合国最高司令官による抑留又は逮捕により拘禁された期
間を加えないことが、憲法一三条に違反するか否かを検討するに、恩給権は、恩給
に関する法律の規定を待って初めて発生するものであるところ、俘虜監視員の職務
に関連して戦犯として拘禁された期間を公務員としての在職年に通算しないこと
が、憲法一四条、B規約二条、二六条に違反しない以上、右通算を認めるべき法的
根拠はないというべきである。
 したがって、右通算を認めないことが、俘虜監視員の幸福追求権を侵害するもの
ではないから、右通算を認めない法律第一五五号附則二四条の三第一一項の規定
が、憲法一三条に違反するものではないというべきである。
三 争点2について
 原告は、仮に、法令において恩給支給対象から俘虜監視員が除外されることに合
理性があるとしても、原告に、右解釈を適用をすることは、憲法一四条、一三条に
違反する旨主張し、その根拠として、原告が戦犯として有罪とされたのは、ジュネ
ーブ条約を故意に守らない政策の下で、上官の命令により懲戒の趣旨で俘虜を殴打
したためであり、原告の拘禁は、昭和天皇又は日本国が負うべき戦争責任の不当な
肩代わりであり、原告が失った経済的取得能力は、一般の軍人軍属の比ではなく、
これを補うべく恩給を支給することは、憲法下における軍人恩給制度の趣旨からし
て、日本国の義務であることを挙げる。
 しかしながら、俘虜監視員の職務に関連して戦犯として拘禁された期間を公務員
としての在職年に通算しないことが、憲法一三条、一四条に違反しないことは前記
のとおりであり、恩給に関する法律の規定を待って初めて発生する恩給権の性質
上、原告についても、右通算を認めるべき実定法上の根拠はないというべきであ
る。
 そして、原告が本件拘禁期間中に過酷な経験をし、経済的取得能力の喪失等の多
大の損害を被り、右拘禁が、俘虜監視員として当時の国家の政策を誠実に果たした
ことに起因するものであったとしても、これに対する補償の要否及びその在り方
は、事柄の性質上、財政、経済、社会政策等の国政全般にわたった総合的政策判断
を待って初めて決し得るものであって、国家財政、社会経済、戦争による被害の内
容、程度等に関す
る資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたものと解するのが相当であ
るから、原告の指摘する事情があるからといって、そのことから、原告につき前記
の通算を認めないことが憲法一三条、一四条に違反することとなり、原告の旧軍人
普通恩給を受ける権利の取得が肯定されるものとなるというものではないというべ
きである。
四 争点3について
 証拠(甲九一)によれば、法務省の管理する戦犯裁判資料の中には、原告の階級
を二等兵と記載するものがあることが認められる。しかし、右記載は軍事裁判当時
の原告の階級を記載したものとも考える余地があり、右「二等兵」の記載が、直ち
に、有罪判決を受けた職務を表示したものと認めるに足りない。
 そして、法律第一五五号附則二四条の三第一項所定の「在職中の職務」とは、客
観的に認められる在職中の職務をいうものと解され、法務省の管理する資料中に、
前記の記載があるからといって、原告が陸軍軍属(傭人)である俘虜監視員の職務
に関連して拘禁された事実が、左右されるものではない。
 したがって、禁反言の法理に反する旨の原告の主張は採用できない。
五 よって、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二部
裁判長裁判官 市村陽典
裁判官阪本勝、同村松秀樹は差支えのため署名押印できない。
裁判長裁判官 市村陽典

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