弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 参加人らを申立人、原告を被申立人とする愛労委昭和五〇年(ネ)第二号不当
労働行為救済申立事件につき、被告が昭和五一年八月一四日付でなした別紙命令書
記載の命令主文第一項中Aに関する部分を取消す。
二 原告その余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、参加による分を含めて、原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
(一) 参加人らを申立人、原告を被申立人とする愛労委、昭和五〇年(ネ)第二
号不当労働行為救済申立事件につき、被告が昭和五一年八月一四日付でなした別紙
命令書(以下「命令書」という。)記載の命令(以下「本件命令」という。)主文
第一、第二項を取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 請求原因
一 本件命令
(一) 被告は、昭和五一年八月一四日付で参加人らの申立にかかる愛労委昭和五
〇年(ネ)第二号不当労働行為救済申立事件につき、別紙命令書主文記載のとおり
の本件命令を発し、この命令は同月一六日原告に送達された。
(二) 本件命令は理由中において、(1)昭和四八年度までの賃金改訂は事実上
四月に実施されたと認められないことはないこと、(2)参加人民放労連名古屋放
送労働組合(以下「組合」という)組合員に対する昭和四九・五〇年度の賃金改定
は五月から実施されているが、この両年度の非組合員及び無所属従業員に対する賃
金改定は四月から実施されていること、(3)原告給与規則六条に、昇給は原則と
して毎年四月に行うと規定されており、昭和四九・五〇年度には組合との間の賃金
改定に関する協定がなく、単なる額についての議事録による確認があるに過ぎない
こと、並びに組合が同意した額は組合員以外の従業員に対して実施されたものと同
一であること、との事実を認定し、以上の点から考えると「組合が自己の力を過信
し、情勢判断を誤つて五月に交渉を持ち込んだ責任の一端があるとはいえ、この組
合員に対してのみ五月から賃金改訂を実施した原告の行為は、従前からの表面的な
妥結月実施を理由として組合員を不利益に取扱い、ひいては組合の弱体化を企図し
たものであり、労組法七条一号及び三号に該当する不当労働行為である」というの
である。
二 本件命令の違法性
 本件命令理由中前記一(二)(2)の説示はそのとおりであるが、同一(二)
(1)(3)の説示は事実誤認であり、これを前提とする本件命令は、以下述べる
とおり違法である。
(一) 議事録確認書による合意
1 本件命令は「会社と組合との間には実施時期に関する合意がなされておらない
のに、会社がその決定により何ら合理的な理由なく組合員以外の従業員より一ケ月
遅れた五月から賃金改訂を実施したのは組合員に対する不利益取扱いであり、ひい
ては組合の弱体化を企図したものである」とするが、次のとおり五月実施には組合
との合意という根拠が存するのであつて、この点において既に本件命令は失当であ
る。
2 前述の如く、昭和四九・五〇両年度の賃金改定交渉は原告と組合との間の議事
録確認書の作成により終結した。この議事録確認書は、原告・組合両当事者の署名
捺印ある書面に作成され、労働協約としての効力を有する。而した右議事録確認
は、両年度ともその内容を同じくし、「金額その他の内容は組合の了承があつたと
受けとつて、ベアは五月から実施する」旨の合意が明示されており、両年度の賃金
改定は五月から実施することを確認のうえ妥結していることは明らかである。
(二) 妥結月実施の労使慣行の成立
 仮に右(一)の主張が理由ないとしても、妥結月実施は、労使慣行となつている
のである。
 原告就業規則五〇条(昭和五〇年度においては改正就業規則五二条)には「社員
の給与については別に定める給与規則による」と規定され、給与規則六条には「昇
給は原則として毎年四月に行う」と規定されている。
 組合結成前においては、原告の決定により原則どおり四月に賃金改定が行われて
いたところ、昭和三八年六月組合結成後は、労働組合の自主性・団体交渉権尊重の
立場から各年度の賃金改定は、原告の一方的決定によらずに、組合と交渉して労働
協約を締結し、これに基づき実施している。すなわち組合結成後の昭和三九年度春
以来賃金改定はすべて、組合(昭和四四年七月に若竹会が結成された後は、組合及
び若竹会)と交渉した結果に従い実施してきたのであるが、賃金改定実施の時期を
「合意のできた月の初日」即ち妥結月からすることは、昭和三九年春闘以来今日ま
で一貫して実行されてきた。その状況は計一〇回の賃金改定につき、四月実施が昭
和四〇年、四三年、四五年乃至四八年の六回、五月実施が昭和四一年、四二年、四
四年の三回、六月実施が昭和三九年の一回であり賃金改定の実施時期について妥結
月実施は労使間の慣行となつているのである。
 原告は、祝金・奨励金を会社の業積向上、目標達成等の理由により支給している
が、その金額は賃金改定の四月遡及分に見合うものではなく、また支給対象は組合
所属従業員に限定されず、組合に加入していない一般従業員も管理職も含まれてお
り、更に四月から賃金改定が実施されている年にも支給されているのであつて、祝
金・奨励金の支給により四月分昇給額を補填し、事実上賃金改定の四月実施がなさ
れているなどということはない。
(三) 妥結月実施の正当性
1 賃金改定は雇用契約の本質的内容たる賃金という労働条件に関し、従来の賃金
額を変更することである。このように労働条件の変更である賃金改定は、労働者と
の個別的合意により行われるのが原則であるが、一般的には労働契約の内容をも規
律する法規範である就業規則(給与規則等を含む)の規定に従い、労働契約の内容
となつている労働者の包括的合意に基づき、使用者が一方的にこれを実施してい
る。
 しかしながら、労働組合の存在する企業にあつては、労働組合の自主性・団体交
渉権尊重の立場から、労働組合と組合員の賃金基準につき改定交渉を行い、賃金の
基準改定に関する労働協約を締結し、これに従つて賃金改定が実施される。この協
約中には賃上額基準・配分方法・個々の組合員たる労働者の賃金改定基準ととも
に、実施期日も含まれるのが普通である。そして、一旦協約が締結された後は、原
則として新たなる賃金改定に関する協約が締結されるまで前の協約どおりの賃金が
支払われることとなる。
2 労働協約は、労使間の自主的判断に基づく意思の合致による合意によつて成立
するものである。従つて、その効力発生時期は、特段の定めがない限り、労使の意
思表示が合致し、協約が成立した時点であることは論をまたないから、賃金改定の
協約も特段の定めのない限り、協約成立の日より賃金改定の効力が生ずるわけであ
る。右協約中に含まれる実施期日の定めは、この効力発生時期に関する特約であ
る。即ち、「妥結月実施」の定めは、協約による賃金改定基準による個々の労働者
の賃金改定の実施日を協約が成立した日が属する月の初日に遡及させる特約であ
る。
3 労働協約締結のための交渉は、労使が対等の立場に立つて自主性に且つ自由な
意思に基づきこれを行うものであつて、この中で使用者が協約の効力発生時期に関
して「妥結月実施」を提案することは何ら不当なものではない。賃金改定を妥結月
の如何にかかわらず、四月から実施している企業の多いことは事実であるが、これ
が社会的慣行となつているわけではない。
 むしろ、妥結月のいかんにかかわらず、四月に遡及して実施する、ということに
なれば、妥結月がいくら遅れても組合は不利にならないため、組合は使用者たる原
告の誠意ある回答を顧みることなく、不当な高額要求を掲げていつまでも闘争を続
けたり、他の問題(例えば多項目に亘る権利要求)を掲げてこれとの駆引に賃金改
定交渉を利用したりして、徒らに闘争を長引かせることとなり、却つて組合の団交
権・争議権の濫用を是認することとなり、正常な労使関係維持にむしろ悪幣をなす
こととなるとともに、労使双方にとつて時間と労力の無駄となり、その損失も大き
い。殊にスケジユール闘争が労働組合の一般的運動傾向となつている現在において
は、この不当性は一層顕著となる。
 更に、組合があくまでもその要求を通すために会社の誠意ある提案に反対して、
賃金改定の実施時期の遅れを覚悟して闘つたために四月中に妥結せず、最終的には
自らの判断の誤り、交渉力の不足等のために会社の提案をのまざるを得なかつたと
いう場合に、今度はこの実施を四月に遡及しろというのは虫の良過ぎる主張という
外なく、これを安易に認めることは、健全な労使関係形成のうえでかえつてマイナ
スになる。同一企業内に二つ以上の交渉団体が存し、各交渉団体がその自主的な判
断により妥結の可否についての判断をなし、その判断が異つたために協約の締結日
が異つた場合には、先に妥結した交渉団体との関係でも右主張の不合理性は一層顕
著である。
4 妥結月実施の制度は、以上の如き悪幣を防止するため、できる限り早期に且つ
妥当な基準での賃金改定の実施を促進するもので、合理的なものである。
(四) 組合の賃金改定が遅れた理由等
1 原告は、前記妥結月実施の慣行の中で、昭和四九、五〇両年度に亘り四月中に
妥結可能な誠意を示すなど、早期妥結に努力しこそすれ、これを阻害した事実は全
く存しない。
 原告が、組合及び若竹会のいずれにも属さない従業員に対する賃金改定の基準
を、四月三〇日に若竹会員のそれと同一内容で決定したことも、原告がその時点で
それ以上の基準は出し得ないと考えていたこと、従業員の大多数が若竹会に所属し
ており、これらの者の賃金改定基準が決定したにも拘らず、無所属の従業員の基準
決定を遅らせることは不相当と判断したためであつて何ら不当なものではない。
2 昭和四九年度において、組合が賃金改定交渉を四月中に終結せず五月に持ち込
んだことについては何ら正当な理由はない。すなわち、組合結成以来今日まで原告
は春季賃上げ団体交渉において、原告の最終回答を必ず四月中に提示することを基
本方針としており、昭和四九年春季賃上げ交渉においても、組合は原告が五月一日
以降回答内容について更に積み上げを行う見込のないことを熟知していた。
 原告は四月一七日に最終回答を提示し、組合とは四月二六日に団体交渉を行つた
が合意に至らず、同月三〇日更に団体交渉を行つたが、組合はこの団交に先立つ同
日昼、組合大会を開いてさらに交渉を五月段階に持ち込むことを決めていた。しか
し五月に入つても組合は特別の手段方法を講じた事実がなく、団体交渉も五月一七
日に形式的に一回行つただけで五月二七日、二八日両日の団体交渉では四月遡及の
問題が議論されただけであつた。
 昭和五〇年度についてもこの間の事情はほぼ昭和四九年度と同様であり、昭和五
〇年四月二四日原告は組合に最終回答を提示し、翌二五日が四月中最終の団体交渉
となり、次いで五月一六日に形式的な団体交渉を行つただけで五月二六日の団体交
渉で議事録確認書を作成して終つているのである。
3 而して、昭和四九年度五〇年度の原告最終回答の金額、回答時期、同業他社と
の回答内容の比較、春闘の妥結状況、原告内部の事情等全ての事情を総合して勘案
しても、この両年度の四月末の時点で組合が原告の回答を受諾できない特別の事情
はなく、組合が回答受諾を五月時点に引き延ばした理由は、単に妥結月払いの原告
回答撤回要求を具体的な意味のあるものとするだけのためであり、このような事案
に対し労働委員会が救済命令を発する利益ないし必要性は全くなかつたのである。
(五) 以上のとおり、妥結月実施は一般的にもその正当性が肯認されるばかりで
なく、妥結月実施の労使慣行の成立、昭和四九年・五〇年度の各賃金改定交渉の経
緯に鑑みるとき、何らの不当労働行為性も存在しないことは明白である。
 組合は、被告委員会の認定しているとおり、自己の力を過信し、情勢判断を誤つ
て交渉を五月に持ち込んで妥結するに至つたもので、この自主的な団体交渉の結果
として発生した事態については、組合は、自己責任の原則に基づき、当然自ら甘受
すべきものである。
(六) また本件命令は、申立人組合員中にAをも包含させているが不当である。
即ち、原告は、同人に対し、名古屋地方裁判所昭和四一年(ヨ)第六三二号地位保
全仮処分命令等に基づき一定の金員を支払つてきているが、同人に対する金員の支
払は仮処分命令手続によるべきものであつて、本件命令に同人に対する給付を包含
させることは明らかに誤りである。
三 よつて、原告は、被告が参加人ら申立にかかる原告を被申立人とする愛労委昭
和五〇年(ネ)第二号不当労働行為救済申立事件について、昭和五一年八月一四日
付でなした本件命令主文第一項第二項の取消しを求めるため本訴に及んだ。
第三 被告の答弁
一 請求原因一(一)の事実は認める(但し命令書が原告に送達されたのは八月一
四日である)。
 同一(二)の事実は認める。なお本件命令書では「組合員は、組合員以外の者と
同一職場で同一業務に従事している」ことも併せ考えて判断している。
二 同二(一)の事実中、議事録確認と題する書面には、原告の発言として「実施
期日は別として、金額その他の内容は組合の了承があつたから、それを事実上の合
意・妥結があつたと受けとつて、ベアは五月から実施する」と記載されていること
は認め、その余は争う。
 同二(二)の事実中、原告が組合に対して昭和三九年度以降妥結月実施を提案し
てきていること、昭和四九年度及び昭和五〇年度についても賃金改定に関する第一
次回答で妥結月実施を明示していることは認め、その余は争う。
 同二(三)(四)は争う。
 同二(五)の事実中、本件命令書中に組合が自己の力を過信し情勢判断を誤つて
本件両年度の賃金改定交渉を五月に持ち込んだ」との説示のあることは認め、その
余は争う。
 同二(六)は争う。原告は、被告の本件命令審査中Aに関する主張は全くしてい
なかつた。
第四 参加人らの答弁
一 議事録確認について
 議事録確認では、金額等の内容面についての合意はできているが、原告の妥結月
実施・組合の四月実施という従前からの主張については「実施時期は別として」と
記載されているとおり合意がなかつたことは明白である。
二 妥結月実施の慣行について
 右慣行はなく、五月以降に妥結した場合でも、むしろ実質的には四月遡及と同じ
扱いが講ぜられてきた。
 即ち春闘の妥結が実際的にも五月以降になった昭和三九年・四一年・四二年・四
四年においては、その都度四月遡及したならば支払われるであろう金額に見合う額
が、春闘妥結直前ないし直後に祝金名目で支払われており、妥結月実施の慣行は存
在せず、いわば妥結月実施と四月実施の対立は実質的に祝金により解決されてき
た。ところが、組合の分裂後五月以降に妥結した本件昭和四九年、五〇年度春闘に
おいて実質的四月遡及がなされなくなつた。これは組合に対する不当労働行為意思
によるものというべきである。
三 妥結月実施の違法性
 原告は昭和三九年組合結成以来春闘において妥結月実施を主張し、これを低額回
答の武器としてきた。
 ところで、原告の就業規則五〇条、給与規則六条によれば昇給は原則として毎年
四月に行うと定められており、これは労働契約の内容をなす。労使間で実施月につ
き合意が成立した場合には、前記原則に優先するが、合意が成立しない場合には特
別に合理的な例外事由なき限り、四月実施の原則をはずし、妥結月実施を強要する
ことは許されない。
 とりわけ、組合のほかに若竹会ならびに無所属従業員が併存し、しかも組合員も
同額で妥結しているにも拘らず、若竹会員及び無所属従業員に対してのみ四月実施
をなして差別扱いをする合理的理由は全くなく、それが組合と若竹会及び無所属従
業員の併存関係の中で組合のみに対する不利益扱い、ひいては組合の弱体化を企図
してなされた不当労働行為であるとした本件命令は正当である。
四 Aについて
 原告の従業員としての地位を保有し、かつ参加人組合員であれば、昭和四九年度
五〇年度の賃金改定各四月分の不支給が不当労働行為である以上、右各四月分の支
給を受ける権利を有するところ、Aは昭和四一年六月二八日原告により解雇処分に
付されたが、昭和四一年七月二〇日名古屋地方裁判所同年(ヨ)第六三二号仮処分
事件で仮の地位を認められ、その後右仮処分事件はAの勝訴が確定したから、同人
は、原告の従業員としての地位があるという法律状態が形成されており、右地位が
他の法的手続により取消されない限り、同人は原告と雇用関係にあり、かつ同人は
参加人組合員でもあるから、Aは参加人組合員に対し加えられた本件不当労働行為
の救済対象に他の組合員と同様に含まれる筈である。仮にAを救済範囲から排除す
るなら、その範囲で原告の不当労働行為を労働委員会が許容する結果となり、かつ
Aについては、同人の本案訴訟の最終的確定を待たなければならないとすれば、除
斥期間その他により同人の労働委員会において救済を求める権利が否定されるおそ
れもある。
第五 証拠(省略)
       理   由
一 本件命令
 原告の請求原因第一項(一)(二)の事実は当事者間に争いがない(但し本件命
令は遅くとも昭和五一年八月一六日までには原告に送達されたことが当事者間に争
いない)。
 ところで、本件命令は要するに昭和四九・五〇両年度の賃金改定にあたり若竹会
及び無所属従業員には四月(妥結月)から実施したのに対し、組合員に対しては五
月(妥結月)から実施した原告の四月分不支給の行為は不当労働行為であるという
のであり、これに対し、原告は、組合員に対する五月実施は、(一)議事録確認に
よる合意に基づくものであること、(二)そうでないとしても妥結月実施は労使間
の慣行であること、(三)慣行とまでは認められないとしても妥結月実施には合理
性があり、原告には不当労働行為意思はないから、いずれにしても本件命令は違法
として取消されるべきであると主張する。そこで以下順次原告の右主張について判
断する。
二 議事録確認について
 成立に争いのない乙第一号証の四、五、七ないし一〇、第二号証の二五、二六、
四九、第三号証の五、三六ないし三八、弁論の全趣旨により成立を認め得る乙第二
号証の一、二四、証人B、同Cの各証言によれば、次の事実が認められる。
 原告は昭和三七年四月一日開局した放送事業免許に基づきテレビ放送を主たる事
業とする株式会社であり、本件救済命令申立時の昭和五〇年三月当時の従業員は約
二五〇名、そのうち管理職員は四九名であつた。組合は昭和三八年六月結成され
た。
 そして、後記若竹会結成直前頃の組合員の数は約一五〇名であつたが、本件申立
当時の組合員は三八名であつた。ほかに原告内には昭和四四年七月原告の従業員で
組織された親睦団体である若竹会があり、本件申立当時の会員は約一〇〇名であ
り、組合及び若竹会のいずれにも加入していない従業員は約六〇名であつた。
 昭和四九・五〇両年度の賃金改定交渉は、いずれも原告と組合間の議事録確認書
の作成により一応終結した。右各議事録確認書は、原告・組合の署名捺印ある書面
で、同書面には「実施時期は別として、金額その他の内容は組合の了承があつたと
受けとつて、ベアは五月から実施する」旨の文言が存するが、右文言の趣旨は、右
両年度の賃金改定交渉は、実施期日を除いては合意に達し、実施期日については、
原告が妥結月実施を、組合が四月一日遡及を主張して互に譲らず、ただ五月一日以
降からの実施分は、結論的に争いがないことになるので、右争いのない範囲内でベ
アを実施するとの趣旨であり、右のように、実施期日について基本的な合意に達し
なかつたので議事録確認の形式をとつたものであることが認められる。右認定に反
する証人Cの証言分部、乙第一号証の一〇、第三号証の五の各記載部分は措信でき
ず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
 右事実によると、昭和四九・五〇両年度の賃金改定においては、金額その他内容
面についての合意は成立したが、実施時期については、妥結月実施の合意は成立し
なかつたのであり、このことは議事録確認書の文言上も明らかである。従つて妥結
月実施は議事録確認書による合意に基づくものであるという原告の主張は採用でき
ない。
三 妥結月実施の慣行
 前掲乙第三号証の五、成立に争いのない乙第一号証の八、九、第三号証の六ない
し一六、二〇、三一、弁論の全趣旨により成立を認め得る乙第二号証の二〇、甲第
五、第六号証、証人C、同Bの各証言によれば、次の事実が認められ、他に右認定
を左右するに足りる証拠は存しない。
 原告における賃金改定については、就業規則五〇条(昭和五〇年度においては五
二条)に「社員の給与については別に定める給与規則による」と規定され、これを
うけて給与規則六条に「昇給は原則として毎年四月に行う」と規定されているとこ
ろ、昭和三七・三八両年度は右規則に従い、昇給・賃金改定共に、原告の一方的決
定により四月に実施されたが、組合が結成された昭和三九年度以降は、昇給・賃金
改定共に組合と原告との団体交渉により実施されており、その実施状況は別紙賃金
改定実施、祝金等支給一覧表(以下「別紙一覧表」という)記載のとおりである。
そして、組合は賃上げの要求を、昭和四四年までは二月中旬頃までに、昭和四五年
以降昭和五〇年までは三月初旬頃までになし、これに対し原告は三月末から四月二
〇日前後にかけて回答し、その際常に妥結月実施を提案し(昭和三九年春闘におい
て、二次回答がなされた四月二八日が最初の提案で、それ以来一貫して同一の提案
を続けている)、これに対し組合は常に右提案に反対し、四月実施を主張していた
ものの、昭和四八年度までは妥結月実施の線で協定が成立し、そのとおり実施され
て来た。即ち昭和四〇年、四三年、四五年は協定書の調印手続は五月であつたが、
実質上四月中に妥結の合意が成立していたため、実施期日はいずれも四月一日とさ
れ、昭和四四年は協定書の調印手続は六月であつたが、実質上五月中に妥結の合意
が成立していたため、実施期日は五月一日とされ、その余の年度は妥結月と実施期
日が同一月内となつている(四月中妥結四月一日実施は、昭和四〇年、四三年、四
五年ないし四八年である)。
 以上認定の事実によると、妥結月実施が労使の慣行になつていたと言えなくもな
い。しかし、元来労使慣行とは、当該企業における労使間において一般に当然のこ
ととして異議をとどめず事実上の規範として確立していると認められるものである
ことを要すると解すべきところ、前記のとおり組合は、常に妥結月実施提案に反対
して来たのであり、昭和四九、五〇両年度においては、妥結月実施の合意は労使間
に成立しなかつたこと等に照らすと、右妥結月実施の慣行は、労使間の事実上の規
範としての効力をもつ労使慣行とまで認めることは困難である。
 ところで、参加人らは、四月に賃金改定が実施されなかつた年は、「祝金」「奨
励金」の支給により四月分昇給額の補填がされ、賃金改定は実質上の四月実施がな
されている旨主張する。
 しかしながら、祝金奨励金は実質的には賃金の一部であるとしても、先に認定し
た別紙一覧表記載の各年度の祝金の額、支給理由に加えて、証人C、同Bの各証言
を併せ考えると、祝金奨励金は原告が業績の向上、目標達成等の理由により従業員
に一律に一定金額を支給したもであり、その金額は必ずしも四月遡及分に見合うも
のでなく、支給対象者には組合所属従業員のみならず組合に加入していない一般従
業員、管理職も含まれていること、四月実施の年度である昭和三七年、三八年、四
〇年、四三年、四五年ないし四八年にも支給されていることが認められる。
 右事実によると、祝金奨励金の支給目的は、妥結月実施に伴う四月の不支給分補
填のためになされたものとは認められないから、祝金等支給の事実は賃金改定は実
質上四月実施であつたと認めるに足りる資料とはなし難く、参加人らの主張に沿う
証人B、同Aの各証言部分及びB証人の証言により成立を認めうる乙第二号証の三
一の記載部分は、たやすく信用し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠は存しな
い。
四 妥結月実施の正当性、合理性の存否
(一) 昇給ないし賃金改定につき妥結月実施の労働協約ないし労使慣行の存しな
い企業において、五月以降に妥結が持ちこされ、使用者はあくまで妥結月実施を主
張し、組合は四月一日遡及実施を主張し、互に譲らないときは、四月一日から妥結
月の前日までの昇給ないし賃金改定の支払をめぐる労使の法律関係は、個別的労働
契約の内容いかんにより決する外はない。
(二) これを本件についてみるに、前掲乙第二号証の二五、第三号証の五、七な
いし一六、三一、成立に争いのない乙第二号証の四、八ないし一〇、一二、一五な
いし一七、四七、四八、第三号証の三二ないし三五、弁論の全趣旨により成立を認
め得る乙第二号証の二九によれば、次の事実が認められ、他に右認定を左右するに
足りる証拠は存しない。
 原告の賃金体系上基準内賃金は、基本給と役職手当、住宅手当、家族手当等に区
分され、基本給は年齢給と職能給に区分され、この内年齢給は年齢に応じ定めら
れ、職能給は一級職ないし五級職及び技能職に区分され、右各職級につき考課によ
る昇給幅が定められている。そして原告においては組合成立以前の昭和三七・三八
両年度における原告の一方的決定のときも、組合成立後の昭和三九年以降の労使協
定においても、昇給(いわゆる定昇)と賃金改定(いわゆるベア)とは同時に行わ
れており、協定の方式は、各年度共に年齢給については、一律に基準額を増額(ベ
ア分)した上各従業員につき一律に一齢分を加算し(定昇分)、職能給について
は、各職級毎に一律増額(ベア分)と査定分(定昇分)を定めている。
 昭和四九・五〇両年度における組合の要求、これに対する会社回答も右と同一の
方式に基づくものであつた。
(三) 以上の事実によれば、原告においては、定昇とベアは一体のものとして同
時に実施されて来たことは明らかであるから、前記給与規則六条にいう昇給の中に
は賃金改定(ベア)も包含されていると解釈することが労使の合理的意思に適合す
るというべきである。
 してみると、右給与規則六条は、特別事情なき限り、個別的労働契約の内容をな
すものであるから、原告の従業員である組合員も、労働契約上は、四月一日から妥
結月の前日までの賃金改定及び定昇分の支払請求権を取得していると解するのが相
当である。
(四) ところで、妥結月実施とは、妥結が五月以降に持ち込まれたときは、右の
労働契約上の賃金債権を支払わないということであり、その旨の労使間の合意があ
れば格別、右の合意がない限り、使用者が独断でこのような措置をとることは私法
上認められないこと多言を要しない。
 そして、労使の合意なき限り、私法上認められない妥結月実施方式を使用者があ
くまで固執する場合は、特別事情なき限り、組合の運営に対する支配介入ないし組
合員に対する不利益取扱として労組法七条一、三号に該当するというべきである。
 蓋し、妥結月実施方式の右のような性質にかんがみると、それは、使用者がいわ
ゆる春闘をできるだけ早期に解決するため、協定遅延の制裁を故なく組合に科した
ものとのそしりを免れず、合理性が認められず、一方組合としては、この制裁を免
れるためには、不本意であつても、早期に妥結せざるを得ず、早期妥結を強要され
る結果となるから、組合の団交権に対する不当な抑圧的機能を営む面のあることは
否定できず、これは、ひいて、組合からの脱落を促進する弊害を生む因子ともなり
かねず、個々の組合員に対しては、正当な理由なき不利益取り扱いとなるから、労
組法七条一、三号の不当労働行為と評価されても致し方あるまい。そして、この理
は、二組合併存のときであると一組合のみのときであるとを問わず妥当すると考え
る。
五 そこで本件につき特別事情の存否について以下判断する。
 前掲乙第一号証の八、九、第二号証の四、九、一〇、一二、一五ないし一七、二
四ないし二六、四七ないし四九、第三号証の五、成立に争いのない乙第二号証の三
〇、四〇、四五、五八、第三号証の二、三、二四、弁論の全趣旨により成立を認め
得る乙第二号証の五、一一、一四、一八ないし二三、三六ないし三八、四一ないし
四四、五〇、五一、五六、証人B、同Cの各証言によれば、次の事実が認められ
る。
(一) 昭和四九年度賃金改定交渉の経緯
1 組合は昭和四九年三月四日付の要求書をもつて、昭和四九年度の賃金改定に関
し、一律五万円のベースアツプ、諸手当の増額等本社勤務、妻・子一人の労働者で
約六万八〇〇〇円増額の要求をなし、三月一五日までに回答するよう求めた。
2 三月一八日団体交渉が行われたが、原告は会社の業績の見通しが難しく、経済
の動向が流動的であるから、回答は三月下旬か四月下旬になるであろうこと、要求
が非常に高額かつ多岐にわたつているので、組合が満足するような回答を出すこと
は困難と思われることなど説明した。
3 原告は四月一日組合に対し、ベア二万〇六〇七円諸手当四二九八円合計二万四
九〇五円及び従前どおり妥結月実施とするとの第一次回答をなした。原告の右回答
は、民放各社の第一次回答の平均二万二九二九円を若干上廻つていた。これに対し
組合は、平均三万円を下廻る回答は物価上昇に見合わず不当であるとして、更に一
万円以上の積み上げ要求を行うこととし、五日にその旨の要求書を原告ヘ提出し
た。
4 原告と組合は第一次回答の後何度か折衡を重ねていたが、原告は四月八日に鉄
鋼大手五社に二万五五〇〇円、造船重機八社に二万七五〇〇円の回答があり、四月
一三日に私鉄が中労委斡旋で二万八五〇〇円で妥結、同日公共企業体が二万七六九
一円の公労委仲裁裁定で妥結したことから、賃金交渉の早期解決のためには積み上
げ修正を行う必要があると判断し、四月一七日賃上額を二万二六〇九円、諸手当七
八四〇円合計三万〇四四九円及び妥結月実施とする旨の第二次回答をした。これは
同年の民放各社の最終的な妥結額平均三万〇〇六〇円を若干上廻るものであつた。
5 しかし、組合は春闘相場は三〇%をこえていると新聞報道されていることなど
を理由に、第二次回答を不満とし、四月二二日文書をもつて、物価上昇は二五%を
こえており、手当こみで二五%に満たない第二次回答は不当であるから、最低一律
五〇〇〇円の再積上げを要求した。
 四月二六日団交が開かれたが、原告は右要求を拒否した。
 四月三〇日、組合は臨時大会を開催し、五〇〇〇円の再積上げ、健康保険料、厚
生年金保険料の全額会社負担、嘱託従業員の住宅手当支給、インフレ昂進物価高の
生活圧迫深刻化など事情変更による賃金再交渉に関する協定、妥結月実施撤廃の要
求を確認し、大会終了後原告と団交を行つたが、団交は不調に終つた。
 翌五月一日組合は右の新要求を文書にして提出した。
6 五月一七日団交が行われたが、原告は第二次回答以上に積上げる考えはなく、
妥結月実施の撤廃要求に応ぜられない妥結遅延により会社は損失を蒙るから、その
責任を組合がとる意味からしても、妥結月実施は当然であるとして、双方の主張は
平行線をたどり、何らの進展もみられなかつた。組合は五月二三・二四日の両日臨
時大会を開催して討議した結果、原告の第二次回答を受入れざるを得ないが、妥結
月実施については引続き交渉することを決定し、その旨原告に通告した。
7 五月二七・二八日の両日も団交を重ねたが、実施時期を、組合は四月一日原告
は妥結月実施と主張して互に譲らず、かくて五月二八日組合と原告とは、昭和四九
年度の賃金改定につき前記のとおり「実施時期は別として、金額その他の内容は組
合の了承があつたから、それを事実上の合意、妥結があつたと受けとつて、ベアは
五月から実施する。」旨議事録で確認し、原告は五月三〇日組合員に対して五月分
の増額分を支給した。
8 若竹会は三月一〇日頃要求書をもつて賃金改定を要求した。原告は組合に対す
ると同時期に同一内容の回答をなしたが、若竹会幹事会は四月一七日の第二次回答
以来原告と折衝を重ね、同月二六日右回答額で妥結することに決し、同月三〇日協
定を締結した。
 若竹会が妥結したのは、主としてこれ以上の積上げは期待できず、妥結月実施方
式そのものには強い不満はあるが原告がこの方式を撤回しない以上四月中に妥結し
た方が良いとの判断に基づくものであつた。
9 昭和四九年度賃金改定について民放労連加盟のうち二六組合は五月以降になつ
て妥結したのであるが、四月に遡及して賃金改定が実施されなかつたのは日本テレ
ビと原告名古屋放送のみである。しかし日本テレビは解決金名目で一律二万円を支
払い、手当増額分については四月から実施している。
(二) 昭和五〇年度賃金改定交渉の経緯
1 組合は、三月五日要求書をもつて、昭五〇年度の賃上げ額平均九万円(七%)
等の要求をなし、同月六日団交を行い、組合は要求内容について原告に説明した。
2 三月二八日原告は、基本給諸手当合計平均一万七七二九円(アツプ率一三
%)、妥結月実施とする旨の第一次回答をしたが、これはこの日までに出た民放各
社の回答一〇社の平均一万六五五一円を若干上廻つていたが、組合はこれを拒否し
第二次回答を要求した(昭和五〇年度における鉄鋼五社は一万八〇〇〇円、一四・
八%で妥結し、民間大手企業の春闘は平均要求額三万七四四七円に対し、妥結額平
均一万五二七九円、一三・一%であつた)。
 四月一八日原告は、基本給を二四〇〇円増額し、二万〇一二九円の第二次回答を
したが、組合はこれを拒否した。
3 四月二四日原告は、第三次回答として基本給と住宅手当の積上げをして二万三
一九六円を提示した。これは、民放各社の最終的な平均妥結額二万〇六三〇円を上
廻るものであつた。組合は、原告の第三次回答は日経連経営者側が提唱していた一
五%ガイドラインに沿つた内容であり、金額、アツプ率ともに低く、また妥結月実
施を撤回していないなどの点から原告の再考を求めた。
4 四月三〇日組合は原告に対し、妥結月実施に反対を表明し、かつ第三次回答は
賃上げ率一五%以下で不当であり、一六%に達するよう再考を求めたが、原告はこ
れを拒否した。
5 民放各社の春闘は五月に入つてなお続いたが、五月八日現在原告の回答は定昇
込み平均の比較で全国順位二四位、二五歳二七位(前年二一位)、三〇歳二五位
(同一八位)、三五歳二二位(同一三位)であつた。このような状況下で組合は五
月七日の事務折衝及び同月一六日の団交で再積上げ、及び妥結月実施の撤回を要求
したが、原告はこれを拒否し、結局組合は、同月二六日実施時期について合意に達
することのないまま、金額については第三次回答を受け入れ、ここに双方は前記の
とおり「実施期日は別として、金額その他の内容は組合の了承があつたから、それ
を事実上の合意妥結があつたと受けとつて、ベアは五月から実施する。なお、五月
分の差額は五月二八日に現金で支給する。」旨議事録確認書に作成し、原告は組合
員の賃金改定を五月から実施した。
6 若竹会は、三月四日要求書を提出し、原告は組合に対してなしたと同様に、同
月二八日総額平均一万五四四六円の第一次回答、四月一八日総額平均二万〇一九七
円の第二次回答、四月二四日総額平均二万三一九六円の第三次回答をなした。これ
に対し若竹会は、低額回答であることに不満であつたが、四月二八日に第三次回答
額で妥結することを決定し、賃金改定交渉を妥結させた。原告は若竹会所属従業員
の賃金改定を四月から実施した。
7 昭和五〇年度賃金改定について民放労連加盟中五月以降に妥結した単組は五二
組合あるが、五月から実施したのは新潟放送と原告名古屋放送のみで、ほかはすべ
て四月遡及実施である。
六 以上に認定した昭和四九・五〇両年度における原告と組合の団交の経緯からす
れば、原告としては、民放各社の最終的平均妥結額を若干上廻る額を最終回答とし
て提示しており、早期に一次、二次ないし三次回答をなし、四月中に妥結すべく団
交等に誠実に努力したことは明らかである。しかし、前記のとおり、民放各社の組
合のうち五月以降に妥結したものは、昭和四九年度で二六組合、昭和五〇年度で五
二組合も存するのであり、組合が原告に対し再積上げを要求し、団交を五月に持ち
越したことは、他の組合の妥結状況と比較検討しながら要求を進めるのが通常であ
る組合として無理からぬものというべきであり、また組合が故なく団交を拒否した
り、過大要求を固執したりして、そのため有形無形の損害を原告に蒙らせたという
事情は何ら存しない。
 従つて、前記判断を覆えし、不当労働行為性を阻却するような特別事情は認めら
れないという外はないから、原告が妥結月実施を固執し、組合員に対し、昭和四
九・五〇両年度における四月分の増額賃金を支給しないことは、若竹会に対する四
月分の支給とは関係なしに、そのこと自体労組法七条一、三号に該当する不当労働
行為と認めざるを得ない。
七 Aについて
 同人は原告から昭和四一年二月二八日に解雇されたこと、同人の解雇については
名古屋地方裁判所から仮に従業員の地位を保全する旨の仮処分命令及び数次に亘り
賃金仮払仮処分命令が発せられ、昭和四九年度の賃金については同裁判所昭和四九
年(ヨ)第八二〇号仮処分命令によつて同年五月から、昭和五〇年度の賃金につい
ては、同裁判所昭和五〇年(ヨ)第五八九号仮処分命令によつて、同年五月からそ
れぞれ改定増額賃金の仮払が命ぜられていることが成立に争いのない甲第一、第二
号証により認められる。
 従つて、同人に対する右両年度の改定賃金額の四月分の不支給は、他に特段の事
情なき限り他の組合員とは異なり、同人が、被解雇者であり、かつその旨の賃金仮
払処分命令が発せられていないことを理由とするもので不当労働行為意思に欠ける
と推認するのが相当であり、右特段の事情については何らの立証も存しないから、
同人に対する右不支給が労組法七条一、三号に該当することは俄かに即断できな
い。
 これに反する参加人らの主張は採用しない。
 なお、原告が被告の本件命令審査中Aに関する主張をしていなかつたとしても、
右事実は、主張、証拠の制限規定の存しない救済命令取消訴訟の制度上右判断に何
らの消長を来さないことは当然である。
八 本件命令の適否
 労働委員会による不当労働行為の救済命令は、必要な事実上の措置を命ずること
により、労使間の関係を、当該不当労働行為がなかつたのとできる限り同じ状態に
回復させる目的のために必要な事実上の措置をとることを命ずるものであるが、い
かなる場合にどのような内容の救済命令を発するかについては法令に特段の定めは
なく、右目的の範囲内において労働委員会の裁量に委ねられているものと解せられ
る。してみれば、本件において、被告が原告に対し、前示不当労働行為の救済に必
要な措置として、参加人組合所属の組合員に生じている不利益を回復するための昭
和四九年度及び昭和五〇年度の賃金改定をそれぞれ四月一日に遡及して実施し、実
施前支払済額との差額支払(但しA分を除く)と、原告が参加人組合所属の組合員
を、賃金改定の実施時期についての不利益取扱禁止を命じたことは、いずれも相当
というべく、ただAに対しても前記差額支払を命じたことは失当というべきであ
る。
九 結論
 以上のとおり、原告の本訴請求は本件命令中Aに関する部分は正当であるから認
容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用及び参加費用につき民訴法
八九条、九二条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(別紙命令書)
       主   文
一 被申立人名古屋放送株式会社は、申立人民放労連名古屋放送労働組合の別紙記
載の組合員に対し、昭和四九年度及び昭和五〇年度の賃金改定をそれぞれ四月一日
にそ及して実施し、実施前支払済額との差額をすみやかに支払わなければならな
い。
二 被申立人名古屋放送株式会社は、申立人民放労連名古屋放送労働組合の組合員
を、賃金改定の実施時期について不利益に取扱つてはならない。
三 申立人らのその余の申立ては棄却する。
(別紙省略)
 賃金改定実施・祝金等支給一覧表
<19603-001>
<19603-002>
<19603-003>
〔参考資料〕
 命令書
愛知地労委昭和五〇年(不)第二号
昭和五一年八月一四日 命令
申立人 民放労連名古屋放送労働組合 外二名
被申立人 名古屋放送株式会社
       主   文(省略)
       理   由
第一 認定した事実
一 当事者等
(1) 申立人民放労連名古屋放送労働組合(以下「組合」という。)は、被申立
人名古屋放送株式会社の従業員をもつて昭和三八年六月結成され、申立人日本民間
放送労働組合連合会及び申立人民放労連東海地方連合会に加盟する労働組合であ
り、本件申立時の組合員は三八人であつた。本件申立後の昭和五〇年四月一五日組
合員Eは、会社を任意退職し、組合員資格を喪失した。
(2) 申立人日本民間放送労働組合連合会(以下「民放労連」という。)は、全
国の民放労連加盟の単位労働組合をもつて組織された連合団体であり、本件申立時
の組合員は約一一、〇〇〇人であつた。
(3) 申立人民放労連東海地方連合会(以下「東海地連」という。)は、東海地
方の民放労連加盟の単位労働組合をもつて組織された連合団体であり、本件申立時
の組合員は約五六〇人であつた。
(4) 被申立人名古屋放送株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社
を置き、東京及び大阪に支社を、豊橋、岐阜及び津に支局を有し、放送事業免許に
基づきテレビ放送を主たる事業とする株式会社であり、本件申立時の従業員は約二
五〇人であつた。
(5) 会社には、組合のほかに、昭和四四年七月会社の従業員で組織された親睦
団体としての「若竹会」があり、本件申立時の会員は約一〇〇人であつた。そのほ
か、組合及び若竹会のいずれにも加入していない従業員(以下「無所属従業員」と
いう。)が本件申立時に約六〇人いた。
二 労使関係
(1) 組合結成後の昭和三九年七月二八日会社は春闘時の組合活動を指導した組
合役員全員に出勤停止処分及びけん責処分を初めて行い、その後三回ほど組合役員
に対し、春闘・夏闘時の組合活動等を指導した責任を追及して同様の処分を行つ
た。
(2) 夏季一時金交渉中の昭和四一年七月八日組合が指名ストライキを放送の中
枢部門である送出部門に拡げたため、会社は全組合員にロツクアウトを通告し、以
後一か月間組合員を会社構内から排除した。
(3) 昭和四二年九月二七日以後組合員Dが女子三〇歳定年制により会社を退職
し、嘱託契約者として会社で就労することになつたため、組合は、以後毎月二七日
を女子三〇歳定年制撤廃の統一行動日として、一日ストライキ等の抗議を行つた。
(4) 昭和四四年四月三日会社が組合員Fを女子三〇歳定年制により退職扱いと
したため、同人は名古屋地裁へ地位保全の訴を提起し、組合は四月二四日同人の支
援ストライキを行い会社に抗議した。
 当時報道職場を拠点に「スボボダ」なるビラを会社内で配付していたスボボダ派
の組合員が、前記D及びFの女性二人は組合にあやつられた猿回しの猿のようだと
記載したビラを配付したことに端を発し、組合の分裂が表面化した。
(5) そして、昭和四四年五月一二日から一五日にかけて、職場ごとにまとまり
組合員が大量脱退したが、会社の六月一六日付労務情報第七号には「組合の執行部
は組合という組織をかりてその政治目的達成のために狂奔しており、組合の中にあ
つてこのような実体を知つた多数の組合員は激しい非難やつるし上げにも負けず勇
気をもつて彼等とたもとを分かちました。管理職各位にも、更に積極的な姿勢で企
業と生活の防衛に努力されるよう要望する。」旨が掲載され、これが会社の役員及
び管理職に配付された。
(6) 昭和四四年七月組合脱退者によつて親睦団体若竹会が結成されたが、一
方、組合の方は、分裂前約一五〇人ほどいた組合員は六八人に激減した。
(7) その後組合は、組合員に対する不利益取扱いの是正、組合員Aの解雇撤
回、女子三〇歳定年制の撤廃等七項目からなる全面解決要求書を会社に提出して交
渉してきたが、物別れに終つた。
(8) 昭和四九年七月一〇日組合、民放労連及び東海地連(以下総称して「申立
人ら」という。)並びに組合の組合員一六人は、昇進人事において不利益に取扱わ
れたとしてその是正を求めて当委員会に不当労働行為救済申立てをし、昭和五一年
七月二〇日当委員会は、組合員一六人中、一一人を主事又は副参事に昇格させるよ
う会社に対して救済命令を発した(愛労委昭和四九年(不)第一三号事件)。
三 過去の賃金改定状況
(1) 会社は、昭和三七年度及び昭和三八年度の賃金改定については、会社の給
与規則第六条(昇給は原則として毎年四月に行う。)に基づき実施した。組合結成
後の賃金改定は昭和三九年度からで、会社は、賃金改定については妥結した月から
実施するとの基本方針のもとに、組合と賃金改定につき団体交渉(以下「団交」と
いう。)を経て、改定額、実施時期につき合意を得たうえで、賃金改定に関する協
定を組合との間で締結して実施しており、昭和三九年度から昭和四八年度までの賃
金改定状況は表一のとおりである。
表一
<19603-004>
(2) また、昭和四四年七月若竹会が結成されてからも会社は、妥結月実施の方
針のもとに若竹会と賃金改定につき組合とほぼ歩調を合せて交渉を行い、改定額、
実施時期につき合意を得たうえで、賃金改定に関する協定を締結して実施してお
り、組合との間に締結された協定と同じであつた。
(3) 更に、会社は、組合結成後の昭和三九年度から昭和四四年度までの間、非
組合員に対する賃金改正の実施にあたつては当時従業員の四分の三以上が加入して
いた組合との間で締結された協定を適用し、若竹会結成後の昭和四五年度から昭和
四八年度までの間、無所属従業員に対する賃金改定の実施にあたつては組合及び若
竹会の協定(いずれも同一内容)をそれぞれ適用した。
四 祝金支給状況
(1) 会社は、開局以来会社の従業員に対して、開局記念、開局一周年記念、社
屋完成、目標売上額突破等の際、祝金を支給してきたが、その状況は表二のとおり
である。
表二
<19603-005>
<19603-006>
(2) 前記祝金支給のうち、昭和四一年六月の一律五、〇〇〇円の支給にあたつ
て会社は、同年五月二八日の組合との団交で、妥結月から支払うというのが基本方
針であるが、何らかの形で誠意を示す旨、また、昭和四二年六月の一律一〇、〇〇
〇円の支給にあたつては、同年五月一一日の団交で、祝金は四月分の賃金改定分及
び定期昇給分に見合うものであるがごとき発言をした。
五 昭和四九年度の賃金改定
(1) 組合は、昭和四九年三月四日賃上げ額一律五〇、〇〇〇円と、物価上昇に
よる賃金スライド制の導入、諸手当の増額等からなる春季要求書を会社に提出し、
三月一八日第一回の団交を行つたが、組合の要求説明程度で終つた。
(2) 会社は、四月一日組合に対し、賃上げ額二〇、六〇七円、諸手当四、二九
八円及び妥結月実施とするとの第一次回答をした。組合は、平均三〇、〇〇〇円を
大きく下回る回答は生活破壊を示す狂乱回答であるとして、四月四日ストライキ集
会を開き、第一次回答に対する抗議と一〇、〇〇〇円以上の積上げ要求を文書にし
て会社へ提出した。
(3) 会社は、四月一七日組合に対し、賃上げ額二二、六一九円、諸手当七、八
四〇円及び妥結月実施とする旨の第二次回答をした。組合は、四月二二日、第二次
回答で妥結することはできないとして、最低五、〇〇〇円の積上げを求める要求書
を会社に提出した。更に、組合は、四月三〇日臨時大会を開催し、改めて五、〇〇
〇円の積上げ、妥結月実施の撤廃等五項目からなる要求を確認し、大会終了後会社
と団交を行つたが、要求につき前進が見られないため、五月に入つてからも交渉を
継続することを会社に通告した。
(4) 五月一七日組合と会社との間で団交が行われたが、組合の積上げ及び妥結
月実施反対の要求については何らの進展も見られなかつた。組合は、五月二三・二
四日と臨時大会を開催し、情勢等を検討した結果、改定額については会社の第二次
回答額を受け入れざるを得ないが、妥結月実施については引続き交渉することを決
定し、会社に妥結通告を行つた。通告の中で組合は、妥結月実施は受入れ難いこ
と、四月一日から実施することで賃金改定に関する協定を締結すること及び仮にそ
の締結が不可能な場合でも給与規則第六条に基づき四月一日から実施することを申
入れた。
(5) 更に、組合は、五月二七・二八日会社と団交を重ね、実施時期を四月一日
とすること等について会社の再考を求めたが、その要求は認められず、結局、実施
時期については合意を見ることができないまま会社に対し、第二次回答額で合意す
る旨伝えた。
 会社は、昭和四九年度の賃金改定については、実施時期は別として、額について
は合意があつたものとみなし、五月から実施すると組合に伝え、その趣旨を組合と
の間の議事録で確認した。そして、会社は組合員の賃金改定を五月から実施した。
(6) 一方若竹会は、三月一〇日ころ賃金改定に関する要求書を会社に提出し、
以後交渉を進め四月三〇日第二次回答額で妥結した。会社は、若竹会に対する第一
次回答の中でも妥結月実施を明示しており、若竹会に属する従業員の賃金改定を四
月から実施した。
(7) 更に、会社は、無所属従業員に対する賃金改定については、労働組合法
(以下「労組法」という。)第一七条の一般的拘束力の考え方により若竹会との協
定内容で実施することを決定し、若竹会と四月三〇日妥結した直後その内容を発表
した。賃金改定の時期が若竹会は四月、組合は五月とそれぞれ異なる結果になつた
のは初めてであつたため、会社は、念のため会社の決定を無所属従業員に通知し、
異議のないことを文書で確認したうえ賃金改定を四月から実施した。
六 昭和五〇年度の賃金改定
(1) 組合は、昭和五〇年二月二七日臨時大会で昭和五〇年度の賃上げ額平均九
〇、〇〇〇円(アップ率七〇%)、ポイント賃金体系導入等の要求を決定し、三月
五日春季要求書として会社に提出し、翌六日会社と団交を行つた。席上会社は、昭
和五〇年度の賃金改定については、三月二五日開催される会社の役員会で決定され
てからでないと結論が出ず、どの程度にするか現在資料を検討中であり、組合の要
求した回答指定日の三月二四日までには回答しかねると通告した。
(2) そして会社は、三月二八日組合に対し、賃上げ額平均一七、七二九円(ア
ツプ率一三%)、妥結月実施とする旨の第一次回答をした。組合は、この第一次回
答を拒否し、アツプ率三五%を打ち出し、第二次回答を要求してストライキを決行
した。
(3) 会社は、四月一八日組合に対し、賃上げ額平均二〇、一二九円(アツプ率
一四%)の第二次回答をしたが、組合はこれも拒否した。
(4) 更に、会社は、四月二四日組合に対し、賃上げ額平均二三、一九六円(ア
ツプ率一六%)の第三次回答をした。組合は、会社の第三次回答は日経連、経営者
側が提唱していた一五%ガイドラインに沿つた内容であり、生活実態から考えて額
及びアツプ率ともに低く、年齢別ポイント賃金体系導入要求及び賃金以外の諸要求
にいずれも答えていないこと、妥結月実施の攻撃に屈して妥結するのは基本的に誤
りであること等を理由に、五月に入つてからも交渉を継続することを決定した。
(5) 組合は、五月に入つてからも賃上げ額の積上げ及び妥結月実施反対の要求
を掲げてストライキ等を行つたが、前進を見ることができず、結局、実施時期につ
いは合意を見ることができないまま五月二六日の団交で、第三次回答願を受入れこ
れで収拾する旨会社に通告した。会社は、昭和五〇年度の賃金改定については、実
施時間は別として、額については合意があつたものとみなし、五月から実施すると
組合に伝え、その趣旨を組合との間の議事録で確認した。そして、会社は組合員の
賃金改定を五月から実施した。
(6) 一方、若竹会は、三月四日ころ、基本給三五%アツプの賃金改定に関する
要求書を会社に提出し、以後会社と交渉した。若竹会は、会社の第一次回答に対し
ては、要求アツプ率三五%に達しないとして拒否し、第二次回答を要求した。更
に、会社の第二次回答を得た若竹会は、四月二一日低額回答打破の全員集会を開催
し、声明文を採択して会社に提出し、四月二二日第三次回答を要求して会社と交渉
した。若竹会は、会社の第三次回答に対しても不満を示し、幹事の有給休暇取得を
評議員会で決議した。四月二五日有給休暇を取得した若竹会の幹事が会社と交渉し
て再考を求めたが、何らの進展も見られず、結局、若竹会は四月二八日会社の第三
次回答願で妥結することを決定し、会員間に不満を残したまま賃金改定要求を収拾
した。そして会社は、若竹会に属する従業員の賃金改定を四月から実施した。
(7) 更に、会社は、四月三〇日無所属従業員に対する賃金改定については、昭
和四九年度と同様若竹会との協定内容で実施することを決定し、無所属従業員の同
意確認を取ることなく四月から実施した。
第二 判断及び法律上の根拠
一 民放労連及び東海地連の申立適格
 会社は、組合の組合員は民放労運及び東海地連に直接所属しているものではな
く、組合が民放労連及び東海地連に加盟しているにすぎない、従つて、組合の組合
員が民放労連及び東海地連の組合員として組合活動をなしたことはないから、会社
が民放労連及び東海地連に対する支配介入とか、組合の組合員に対する民放労連及
び東海地連の組合活動を理由とする不利益取扱いは理論的には考えられず、民放労
連及び東海地連の本件申立適格は甚だ疑問であると主張するので、以下判断する。
 第一、一、(1)から(3)で認定したとおり、民放労連及び東海地連は、それ
ぞれ加盟する単位労働組合をもつて組織された連合団体であり、その下部組織であ
る組合の団結権の行使について多大の関心をもつのは当然で、直接的でないにせよ
利害関係をもつ上部団体であるから、本件につき申立権を有するものと解するのが
相当であり、会社の主張は当を得ていない。
二 賃金改定の実施
 申立人らは、従前の賃金改定では、昭和三九・四一・四二・四四年度には五月あ
るいは六月に妥結したが、その都度妥結の直前・直後に、四月そ及に見合う金額が
祝金の名目で組合員を含む全従業員に支給されており、これは妥結月遅れによる賃
金差額の事実上の補てんであり、賃金改定につき妥結月実施の慣行は全くないと主
張する。
 これに対して、会社は、祝金は会社の業績向上奨励等の場合、理由を明示して支
給している恩恵的支給金であり、組合結成以前の昭和三七・三八年はもとよりのこ
と、四月から賃金改定した昭和四五・四八年においても支給しており、祝金の支給
と賃金改定の実施時期とは何ら関係のないものであり、賃金改定に関する協定に基
づく妥結月実施は組合結成以来の労使慣行であると主張するので、以下判断する。
 会社における組合との間の昭和四八年度までの賃金改定の実施状況は第一、三、
(1)で認定した表一のとおりであり、また、会社の従業員に対する祝金の支給状
況は第一、四、(1)で認定した表二のとおりである。そして表一及び表二を対比
してみると、なるほど組合結成以前及び組合結成後においても四月から賃金改定の
実施がされた昭和四五・四七・四八年の四月から六月に祝金が支給されている。し
かしながら、第一、四、(2)で認定した発言が賃金改定の団交でなされている事
実からみると、組合結成後五月又は六月に賃金改定が実施された昭和三九・四一・
四二・四四年の各六月に支給された祝金が、それぞれ目標売上額突破等の理由があ
るとしても、四月から賃金改定がなされなかつたことに対する補てんの意味も含ま
れていたと認められ、昭和四八年度までの賃金改定は事実上四月に実施されたと認
められないことはない。
三 昭和四九年度及び昭和五〇年度の賃金改定実施
 申立人らは、組合との賃金改定にあたつて会社は、昭和四九年度においては妥結
月実施と第二次回答に固執し、昭和五〇年度においては妥結月実施と一五%ガイド
ラインに固執し、いずれも実施時期につき合意のないまま組合員に対して五月から
実施し、一方、無所属従業員に対しては組合と同額で四月に妥結した若竹会の例に
ならい四月から実施した、会社の給与規則第六条によれば昇給は原則として毎年四
月に行うと規定され、これは単なる労働者の期待権ではなく、労働契約の内容とい
うべきものであるから、労使間で実施につき合意ができた場合は格別、本件のごと
く組合と会社との間に実施時期につき合意のない場合には原則にかえつて若竹会及
び無所属従業員と同じ扱いにすべきであり、会社が組合員に対してのみ五月実施し
たものは、労組法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為であると主張す
る。
 これに対して、会社は、賃金改定は一般的に給与規則に従い従業員の包括的合意
に基づき会社が一方的にこれを実施するが、組合が結成されてからは、組合の自主
性、団交権を尊重し、賃金改定に関する協定を締結して実施してきたものであつ
て、昭和四九・五〇年度の賃金改定においても会社は四月中に妥結可能な回答を組
合及び若竹会に提示したのに、組合が四月中に妥結し得なかつたのは、ひとえに組
合が力を過信し、高額要求の獲得に固執して交渉を継続した組合の判断の誤りに起
因するものであり、一方、若竹会は四月に妥結し、無所属従業員については若竹会
の例にならうこととし昭和四九年度は念のため確認書をとつて、それぞれ四月実施
したものであり、組合と若竹会及び無所属従業員との間の実施時期に差異が生じた
のは、各々の自主交渉の単なる結果にすぎず、会社には組合を差別しようとの意図
はないと主張するので、以下判断する。
(1) 第一、三で認定したとおり、会社は、組合結成以後若竹会結成までの間賃
金改定にあたり、当時従業員の四分の三以上の者が加入する組合とは団交を経て協
定を締結して実施し、一方、少数の非組合員に対しては、会社の給与規則第六条
(昇給は原則として毎年四月に行う。)によることなく、組合との間で締結された
協定を適用して、昭和三九年度は六月、昭和四一・四二・四四年度は各五月から実
施した。また、若竹会結成後の昭和四五年度から昭和四八年度までの間賃金改定に
あたり、会社は、組合及び若竹会とそれぞれ個別交渉を経て同一内容の協定を締結
して実施し、無所属従業員に対いては組合及び若竹会との協定を適用して実施し
た。
 そして、昭和四九・五〇年度の賃金改定についても第一、五及び六で認定したと
おり、会社は、無所属従業員の賃金改定については、労組法第一七条の一般的拘束
力の考え方により若竹会との間で締結された協定を適用することを決定し、四月か
ら実施している。
(2) ところで、組合員に対する昭和四九・五〇年度の賃金改定は五月から実施
されているが、会社の過去の賃金改定の実施状況は前記二で判断したとおりである
こと、非組合員及び無所属従業員に対する賃金改定の実施状況は前記(1)のとお
りであること、給与規則第六条が存在する反面、第一、五、(5)及び第一、六、
(5)で認定したとおり、昭和四九・五〇年度には組合との間の賃金改定に関する
協定がなく、単に額についての議事録による確認があるに過ぎないこと並びに組合
が同意した額は組合員以外の従業員に対して実施されたものと同一であり、組合員
はそれら従業員と同一職場で同一業務に従事していることを併せ考えれば、組合が
自己の力を過信し、情勢判断を誤つて五月に交渉を持込んだ責任の一端があるとは
いえ、この組合員に対してのみ五月から賃金改定を実施した会社の行為には合理性
を見出すことはできない。
 むしろ、第一、二で認定した労使関係をも併せ考えると、組合の自主性、団交権
尊重と従前からの表面的な妥結月実施を理由として組合員を不利益に取扱い、ひい
ては組合の弱体化を企図したものと判断するのが相当であり、これは労組法第七条
第一号及び第三号に該当する不当労働行為である。
四 その他
(1) 第一、一、(1)で認定したとおり、組合の組合員Eは、本件申立後の昭
和五〇年四月一五日会社を任意退職し、組合員資格を喪失した。従つて、同人に係
る申立ては救済の対象から除外するのが相当である。
(2) 申立人らは差額の支払いにあたつて年六分の利息を付して支払うよう求め
ているが、不当労働行為救済制度の趣旨及び本件紛争の経緯にかんがみ、申立人ら
の請求は認容し難い。
(3) 申立人らの求める昭和四九・五〇年度の各四月一日からの賃金改定に関す
る協定の締結並びに陳謝文の交付及び掲示については、主文第一項及び第二項のと
おり命令することによりその目的を果し得ると判断する。
よつて、当委員会は、労組法第二七条及び労働委員会規則第四三条により主文のと
おり命令する。

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