弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。  
         理    由
 上告代理人大谷美都夫、同泉谷恭史の上告理由第一点について
 民法一四五条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により
直接利益を受ける者に限定されると解すべきである(最高裁昭和四五年(オ)第七
一九号同四八年一二月一四日第二小法廷判決・民集二七巻一一号一五八六頁参照)。
後順位抵当権者は、目的不動産の価格から先順位抵当権によって担保される債権額
を控除した価額についてのみ優先して弁済を受ける地位を有するものである。もっ
とも、先順位抵当権の被担保債権が消滅すると、後順位抵当権者の抵当権の順位が
上昇し、これによって被担保債権に対する配当額が増加することがあり得るが、こ
の配当額の増加に対する期待は、抵当権の順位の上昇によってもたらされる反射的
な利益にすぎないというべきである。そうすると、【要旨】後順位抵当権者は、先
順位抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当するものではなく、
先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができないものと解するのが
相当である。論旨は、抵当権が設定された不動産の譲渡を受けた第三取得者が当該
抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる旨を判示した右判例を指摘
し、第三取得者と後順位抵当権者とを同列に論ずべきものとするが、第三取得者は、
右被担保債権が消滅すれば抵当権が消滅し、これにより所有権を全うすることがで
きる関係にあり、右消滅時効を援用することができないとすると、抵当権が実行さ
れることによって不動産の所有権を失うという不利益を受けることがあり得るのに
対し、後順位抵当権者が先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することがで
きるとした場合に受け得る利益は、右に説示したとおりのものにすぎず、また、右
の消滅時効を援用することができないとしても、目的不動産の価格から抵当権の従
前の順位に応じて弁済を受けるという後順位抵当権者の地位が害されることはない
のであって、後順位抵当権者と第三取得者とは、その置かれた地位が異なるもので
あるというべきである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ
る。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に
現われた本件訴訟の経過に照らし、正当として是認することができ、その過程に所
論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難
し、原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうか、又は独自の見解に立って原
判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井
正雄 裁判官 大出峻郎)

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