弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一、同荒木清上告趣意第一点について。
 しかし、原判決挙示の証拠で最初から強盗の意思があつたことを認定しているこ
とは肯認し得るところであつて実験則に反するものではない。そして証拠の採否は
事実裁判所の自由裁量に属するところであるから原審が所論第一審公判準備手続及
び原審公判における被告人の供述とは異つた原審公判における被告人の他の供述を
証拠に採つたからと言つて採証の法則に反するものといえない。所論は結局証拠の
採否に関する原審の裁量を非難するに帰しこれを採用することはできない。
 同第二点について。
 しかし、所論予審判事代理の訊問調書には被告人が最初から強盗の目的で判示A
方に押入り金品を強奪しようと考えていた旨の供述記載が存し、その供述は所論の
他の供述と不可分の一体をなすものではないから、その供述部分を採つて事実認定
の資料としても所論の違法ありといえない。また、強盗の目的ある場合には一般の
観念上刃物を買求めるのが普通で斧を買う筈がないとの経験則は存しないから強盗
の目的で斧を買求めた趣旨の司法警察官の第一回聴取書における被告人の供述記載
を採つて被告人が最初から強盗の目的で押入つたものと認定したからとて採証を誤
つた違法ありとはいえない。論旨はその理由がない。
 同第三点について。
 しかし、原判決は本件強盗殺人罪の構成要件たる犯罪事実の全部を被告人の自白
だけで認定したものではなく、単に「被告人が最初から強盗の目的で判示A方に押
入り金品を強奪しようと考えていた」という犯罪事実の一部を予審判事代理の訊問
調書竝びに司法警察官の第一回聴取書における被告人のこれと同趣旨の供述記載と
原審公判廷における被告人の供述によつて認められる 被告人が犯行当日の朝金物
商から判示手斧一挺を買求めこれと予て護身用に持つていた判示短刀一本とを携え
て判示A方に赴いた事実と被告人が判示Aから誰何されていきなり右の手斧で同人
に斬りつけてBにも同様斬りつけた事実とを綜合してこれを認定したものである。
そして原判決は本件犯罪事実全体としては被告人の供述の外検証調書、鑑定書、手
斧、短刀等他の証拠をも綜合して認定したものであるから被告人の自白を唯一の証
拠として犯罪を認定したものとはいえない。(昭和二二年(れ)第一五三号同二三
年六月九日宣告大法廷事件判決参照)。それ故原判決には所論の違法はない。
 同第四点について。
 しかし本件記録によれば原判決の証拠として引用した所論の書面は司法警察官吏
の捜査報告書の領置調書に該当するもので、原審第原審第一回公判調書によればこ
れにつき適法な証拠調が履践されていること明白であるから原判決には所論の違法
はない。
 同第五点について。
 しかし、死刑が所論憲法第三六条の残虐な刑罰に該当しないことは当裁判所の判
例とするところである。(昭和二二年(れ)第一一九号同二三年三月一二日大法廷
判決参照)。されば所論は理由がない。
 よつて刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 下 秀雄関与
  昭和二三年一〇月二一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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