弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
      上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 1 上告人及び上告代理人森貴子,同服部訓子の上告理由第1について
 所得税法56条は,事業を営む居住者と密接な関係にある者がその事業に関して
対価の支払を受ける場合にこれを居住者の事業所得等の金額の計算上必要経費にそ
のまま算入することを認めると,納税者間における税負担の不均衡をもたらすおそ
れがあるなどのため,居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の
営む事業所得等を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対
価の支払を受ける場合には,その対価に相当する金額は,その居住者の当該事業に
係る事業所得等の金額の計算上,必要経費に算入しないものとした上で,これに伴
い,その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき
金額は,その居住者の当該事業に係る事業所得等の金額の計算上,必要経費に算入
することとするなどの措置を定めている。
 同法56条の上記の趣旨及びその文言に照らせば,【要旨1】居住者と生計を一
にする配偶者その他の親族が居住者と別に事業を営む場合であっても,そのことを
理由に同条の適用を否定することはできず,同条の要件を満たす限りその適用があ
るというべきである。
 同法56条の上記の立法目的は正当であり,同条が上記のとおり要件を定めてい
るのは,適用の対象を明確にし,簡便な税務処理を可能にするためであって,上記
の立法目的との関連で不合理であるとはいえない。このことに,同条が前記の必要
経費算入等の措置を定めていることを併せて考えれば,同条の合理性を否定するこ
とはできないものというべきである。他方,同法57条1項は,青色申告書を提出
することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他
の親族で専らその居住者の営む前記の事業に従事するものが当該事業から給与の支
払を受けた場合には,所定の要件を満たすときに限り,政令の定める状況に照らし
その労務の対価として相当であると認められるものの限度で,その居住者のその給
与の支給に係る年分の当該事業に係る事業所得等の金額の計算上,必要経費に算入
するなどの措置を規定し,同条3項は,上記以外の居住者に関しても,同人と生計
を一にする配偶者その他の親族で専らその事業に従事するものがいる場合について
一定の金額の必要経費への算入を認めている。これは,同法56条が上記のとおり
定めていることを前提に,個人で事業を営む者と法人組織で事業を営む者との間で
税負担が不均衡とならないようにすることなどを考慮して設けられた規定である。
同法57条の上記の趣旨及び内容に照らせば,同法が57条の定める場合に限って
56条の例外を認めていることについては,それが著しく不合理であることが明ら
かであるとはいえない。
 以上によれば,【要旨2】本件各処分は,同法56条の適用を誤ったものではな
く,憲法14条1項に違反するものではない。このことは,当裁判所の判例(最高
裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号2
47頁)の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は,正当として是
認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 2 同第2について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条
1項又は2項所定の場合に限られるところ,論旨は,理由の不備・食違いをいうが
,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,上記各項に規定する事由に
該当しない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田
宙靖)

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