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平成23年9月8日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10345号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年8月25日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1特許庁が不服2009-10189号事件につい
て平成22年6月25日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判の請求について,特許庁が特許請求の範囲を下記2(1)から(2)へと補
正する本件補正を却下した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の
本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主
張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,平成10年8月25日,発明の名称を「圧力波機械付きの内燃機
関」とする特許を出願したが(甲1。特願2000-508891(国際出願番
号:PCT/EP98/05375)。パリ条約による優先権主張日:平成9年
(1997年)8月29日(欧州特許庁)),平成21年2月17日付けで拒絶査定
を受けたので(甲5),同年5月25日,これに対する不服の審判を請求する(甲
6)とともに,手続補正(甲7。以下「本件補正」という。)をした。
(2)特許庁は,前記請求を不服2009-10189号事件として審理し,平
成22年6月25日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との本件審決をし,その謄本は,同年7月13日,原告に送達された。
2本件補正前後の特許請求の範囲の記載
(1)本件補正前の特許請求の範囲の記載(ただし,平成21年1月22日付け
手続補正書(甲4)による補正後のものである。)は,次のとおりである。以下,
【請求項1】に記載の発明を「本願発明」という。
【請求項1】圧力波機械と,機関と圧力波機械との間に配置した調整済み三元触媒
と,触媒および圧力波機械に作用する加熱装置とを組み合わせた火花点火機関にお
いて,加熱装置が触媒と圧力波機械との間に配置してあり,加熱装置が空気,燃料
供給源からなるバーナあるいは電気式加熱装置であることを特徴とする火花点火機

【請求項2】請求項1に記載の組み合わせにおいて,触媒を2つの部品で構成して
あり,加熱装置がこれら2つの触媒部品間に配置してあることを特徴とする組み合
わせ
【請求項3】請求項1または2に記載の組み合わせにおいて,三元触媒の後に酸化
触媒が設けてあり,この酸化触媒が圧力波機械の出口と排気管との間に配置してあ
ることを特徴とする組み合わせ
【請求項4】圧力波機械および加熱装置と組み合わせたディーゼル機関において,
ディーゼル機関の後に酸化触媒が設けてあり,加熱装置がディーゼル機関の排気口
と圧力波機械の排気ガス入口との間に配置してあり,加熱装置が空気,燃料供給源
からなるバーナあるいは電気式加熱装置であることを特徴とするディーゼル機関
【請求項5】請求項4に記載の組み合わせにおいて,ディーゼル機関の後に酸化触
媒が設けてあり,この酸化触媒が,圧力波機械の出口と排気管との間か,あるいは,
機関排気口と圧力波機械の排気ガス入口との間かのいずれかに配置してあることを
特徴とする組み合わせ
【請求項6】請求項4または5に記載の組み合わせであって,機関排気口と圧力波
機械の排気ガス入口との間に配置した酸化触媒を包含する組み合わせにおいて,加
熱装置が触媒と排気ガス入口の間に配置してあることを特徴とする組み合わせ
【請求項7】請求項1~6のうちのいずれか1つに記載の組み合わせにおいて,チ
ャージャ・スロットルが,掃気用空気の量を制御するために,圧力波機械の入口に
設けてあることを特徴とする組み合わせ
【請求項8】請求項1~7のうちのいずれか1つに記載の組み合わせにおいて,制
御手段が,給気圧力を調整するために,圧力波機械の出口に設けてあることを特徴
とする組み合わせ
【請求項9】請求項8に記載の組み合わせにおいて,制御手段がウェイスト・ゲー
ト・フラップを包含することを特徴とする組み合わせ
【請求項10】請求項1~9のうちのいずれか1つに記載の組み合わせにおいて,
圧力波機械が,圧力波機械のセル・ロータの速度を安定化させるのに役立ち,電気
的または機械的に駆動される駆動部を包含することを特徴とする組み合わせ
(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。なお,下線部
分は本件補正(甲7)による補正箇所であり,「/」は,原文における改行箇所を
示す。以下,【請求項1】に記載の発明を「本件補正発明」といい,本願発明及び
本件補正発明に係る明細書(甲1)を「本件明細書」という。
【請求項1】圧力波機械と,機関と圧力波機械との間に配置した調整済み三元触媒
と,触媒および圧力波機械に作用する加熱装置とを組み合わせた火花点火機関にお
いて,機関の排気側の管路において,加熱装置が前記管路の上流側に設けられた触
媒と前記管路の下流側に設けられた圧力波機械との間に配置してあり,加熱装置が
空気,燃料供給源からなるバーナあるいは電気式加熱装置であることを特徴とする
火花点火機関
【請求項2】請求項1に記載の組み合わせにおいて,触媒を2つの部品で構成して
あり,加熱装置がこれら2つの触媒部品間に配置してあることを特徴とする組み合
わせ
【請求項3】請求項1または2に記載の組み合わせにおいて,三元触媒の後に酸化
触媒が設けてあり,この酸化触媒が圧力波機械の出口と排気管との間に配置してあ
ることを特徴とする組み合わせ
【請求項4】圧力波機械および加熱装置と組み合わせたディーゼル機関において,
ディーゼル機関の後に酸化触媒が設けてあり,/酸化触媒は,圧力波機械の出口と
排気管との間か,あるいは,機関排気口と圧力波機械の排気ガス入口との間に設け
られ,/機関の排気側の管路において,加熱装置が前記管路の上流側の触媒と,前
記管路の下流側の圧力波機械との間に配置してあり,加熱装置が空気,燃料供給源
からなるバーナあるいは電気式加熱装置であることを特徴とするディーゼル機関
【請求項5】請求項4に記載の組み合わせにおいて,酸化触媒が,機関排気口と圧
力波機械の排気ガス入口との間に配置され,加熱装置は,触媒と排気ガス入口との
間に配置してあることを特徴とする組み合わせ
【請求項6】請求項1~5のうちのいずれか1つに記載の組み合わせにおいて,チ
ャージャ・スロットルが,掃気用空気の量を制御するために,圧力波機械の入口に
設けてあることを特徴とする組み合わせ
【請求項7】請求項1~6のうちのいずれか1つに記載の組み合わせにおいて,制
御手段が,給気圧力を調整するために,圧力波機械の出口に設けてあることを特徴
とする組み合わせ
【請求項8】請求項7に記載の組み合わせにおいて,制御手段がウェイスト・ゲー
ト・フラップを包含することを特徴とする組み合わせ
【請求項9】請求項1~8のうちのいずれか1つに記載の組み合わせにおいて,圧
力波機械が,圧力波機械のセル・ロータの速度を安定化させるのに役立ち,電気的
または機械的に駆動される駆動部を包含することを特徴とする組み合わせ
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件補正発明は,下記アの引用例1に記載
の発明を主引用発明とした場合,当該発明,下記イの引用例2に記載の発明及び下
記ウないしカに記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができ
たものであり,引用例2に記載の発明を主引用発明とした場合,当該発明,引用例
1に記載の発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであるから,独立特許要件を満たさないとして,平成18年法律第55号改
正附則3条1項により同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用す
る同法126条5項に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用す
る同法53条1項の規定により本件補正を却下し,本件出願に係る発明の要旨を本
願発明のとおり認定した上,本願発明は引用例1及び2に記載の各発明並びに上記
周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特
許法29条2項により特許を受けることができないとしたものである。
ア引用例1:特開昭62-20630号公報(甲13)
イ引用例2:特公昭60-2495号公報(甲14)
ウ周知例1:特開昭52-44337号公報(甲15)
エ周知例2:特開昭52-64511号公報(甲16)
オ周知例3:特開昭64-56924号公報(甲17)
カ周知例4:特開昭57-151021号公報(甲18)
(2)なお,本件審決が主引用発明として認定した引用例1に記載の発明(以下
「引用発明1A」という。),本件補正発明と引用発明1Aとの一致点及び相違点並
びに引用発明1Aを主引用発明とした場合の引用例2に記載の発明(以下「引用発
明2B」という。)は,以下のとおりである。
ア引用発明1A:圧力波過給機と,エンジンと圧力波過給機との間に配置した
触媒とを組み合わせたガソリンエンジンにおいて,エンジンの排気通路において,
前記排気通路の上流側に触媒を設け,前記排気通路の下流側に圧力波過給機を設け
たガソリンエンジン
イ一致点:圧力波機械と,機関と圧力波機械との間に配置した触媒とを組み合
わせた内燃機関において,機関の排気側の管路において,前記管路の上流側に触媒
を設け,前記管路の下流側に圧力波機械を設けた内燃機関
ウ相違点1:「内燃機関」が,本件補正発明では「火花点火機関」であるのに
対して,引用発明1Aでは「ガソリンエンジン」である点
エ相違点2:「触媒」が,本件補正発明では,「調整済み三元触媒」であるのに
対して,引用発明1Aでは,どのような触媒であるか不明である点
オ相違点3:本件補正発明では,「触媒および圧力波機械に作用する加熱装
置」であって,「空気,燃料供給源からなるバーナあるいは電気式加熱装置である」
「加熱装置」を「排気側の管路において,」「管路の上流側に設けられた触媒と前記
管路の下流側に設けられた圧力波機械との間に配置してあ」るのに対して,引用発
明1Aでは,本件補正発明のような「加熱装置」を備えておらず,したがって,
「排気通路(排気側の管路)」の上流側に設けられた「触媒(触媒)」と,「排気通
路(管路)」の下流側に設けられた「圧力波過給機(圧力波機械)」との間に,「加
熱装置」を配置した構成を備えていない点(なお,丸括弧内の記載は,引用発明1
Aの発明特定事項に相当する本件補正発明の発明特定事項を示す。)
カ引用発明2B:圧力波機械と,圧力波機械に作用する加熱装置とを組み合わ
せた内燃機関において,機関の排気側の管路において,加熱装置が前記管路に設け
られた圧力波機械の上流側に配置してある内燃機関
(3)また,本件審決が主引用発明として認定した引用例2に記載の発明(以下
「引用発明2A」という。),本件補正発明と引用発明2Aとの一致点及び相違点並
びに引用発明2Aを主引用発明とした場合の引用例1に記載の発明(以下「引用発
明1B」という。)は,以下のとおりである。
ア引用発明2A:圧力波機械と,圧力波機械に作用する排気冷却・中間加熱器
とを組み合わせた内燃機関において,エンジンの排気流路において,排気冷却・中
間加熱器が前記排気流路に設けられた圧力波機械の上流側に配置してある内燃機関
イ一致点:圧力波機械と,圧力波機械に作用する加熱装置とを組み合わせた内
燃機関において,機関の排気側の管路において,加熱装置が前記管路に設けられた
圧力波機械の上流側に配置してある内燃機関
ウ相違点4:「内燃機関」が本件補正発明では「火花点火機関」であるのに対
して引用発明2Aでは「火花点火機関」であるか明らかではない点
エ相違点5:本件補正発明では,「調整済み三元触媒」が「機関と圧力波機械
との間」に配置され,「排気側の管路において,加熱装置が前記管路の上流側に設
けられた触媒と前記管路の下流側に設けられた圧力波機械との間に配置してあ」る
のに対して,引用発明2Aでは,本件補正発明のような「調整済み三元触媒」を備
えておらず,したがって,「調整済み三元触媒」が「エンジン(機関)と圧力波機
械(圧力波機械)との間に」配置されておらず,また,「排気流路(排気側の管
路)において,排気冷却・中間加熱器(加熱装置)が排気流路(管路)の上流側に
設けられた触媒と,排気流路(管路)の下流側に設けられた圧力波機械(圧力波機
械)との間に配置」されていない点(なお,丸括弧内の記載は,引用発明2Aの発
明特定事項に対応する本件補正発明の発明特定事項に相当する。)
オ相違点6:本件補正発明では,「加熱装置」が「空気,燃料供給源からなる
バーナあるいは電気式加熱装置」であるのに対して,引用発明2Aでは,「排気冷
却・中間加熱器(加熱装置)」が,「空気,燃料供給源からなるバーナあるいは電気
式加熱装置」ではない点(なお,丸括弧内の記載は,引用発明2Aの発明特定事項
に対応する本件補正発明の発明特定事項に相当する。)
カ引用発明1B:圧力波機械と,機関と圧力波機械との間に配置した触媒とを
組み合わせた内燃機関において,機関の排気側の管路において,前記管路の上流側
に触媒を設け,前記管路の下流側に圧力波機械を設けた内燃機関
4取消事由
(1)引用発明1Aとの関係における本件補正発明の容易想到性に係る判断の誤
り(取消事由1)
ア引用発明2Bの認定の誤り
イ相違点3についての判断の誤り
ウ作用効果についての判断の誤り
(2)引用発明2Aとの関係における本件補正発明の容易想到性に係る判断の誤
り(取消事由2)
ア本件補正発明と引用発明2Aとの一致点並びに相違点5及び6の認定の誤り
イ相違点5及び6についての判断の誤り
ウ作用効果についての判断の誤り
第3当事者の主張
1取消事由1(引用発明1Aとの関係における本件補正発明の容易想到性に係
る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)引用発明2Bの認定の誤りについて
ア本件審決は,引用発明2Bが本件補正発明の「加熱装置」を備えている旨を
認定している。
イしかしながら,本件補正発明及び本願発明は,欧州及び韓国で特許された国
際公開公報WO97/33080(甲11)に記載の火花点火機関(触媒と「加熱
装置」の位置関係が逆であるほかは本件補正発明及び本願発明と同様である。以下
「本件先行発明」という。)に対し,触媒のみならず圧力波機械のコールド・スタ
ート特性をも改善することを目的とするものであり(本件明細書【0003】),
「機関の排気側の管路」の「上流側に設けられた触媒」と「下流側に設けられた圧
力波機械との間に配置」された「バーナあるいは電気式加熱装置」からなる「触媒
および圧力波機械に作用する加熱装置」により,「一方では,触媒の最適な動作温
度がより急速に得られ,他方では,ガスがより高い温度で圧力波機械に達する」か
ら,「触媒機能およびチャージャ機能の両方が有利に影響を受け」,コールド・スタ
ート特性が著しく向上するものである(本件明細書【0014】【0015】【00
17】)。なお,本件補正発明及び本願発明の「加熱装置」は,例えば管路を媒体と
した熱伝導や放射伝熱によって上流側にも移動するので,上流側に位置する触媒を
昇温させることも可能となっている。
このような目的を達成するために,本件補正発明及び本願発明の圧力波機械の流
入ガスは,機関の排気よりも高温にする必要がある(本件明細書【0012】~
【0014】)。しかるに,引用例2に記載の発明が備える「排気冷却・中間加熱
器」は,熱交換機であって,圧力波機械の流入ガスがエンジンの排気から受熱する
だけで,本件補正発明及び本願発明の「加熱装置」すなわち「バーナあるいは電気
式加熱装置」が行うように当該流入ガスを積極的・能動的に加熱してエンジンの排
気よりも高温にするような加熱を行うことができず,圧力波機械の流入ガスを機関
から排出された直後の排気の温度にさえ昇温させることができないから,圧力波機
械のコールド・スタート特性の改善に何ら結びつかない。この点で,引用例2に記
載の発明が備える「排気冷却・中間加熱器」は,本件補正発明及び本願発明の「加
熱装置」とは決定的に異なる。
ウよって,引用例2に記載の発明が備える「排気冷却・中間加熱器」は,本件
補正発明及び本願発明の「加熱装置」と同様には作用せず,「加熱装置」には相当
しないから,本件審決の前記認定は,誤りである。
(2)相違点3についての判断の誤りについて
ア本件審決は,相違点3に関して,同一の技術分野に属する引用発明1A及び
2Bについて,周知技術を考慮した上で,圧力波機械の上流側にバーナや電気式加
熱装置である「加熱装置」及び触媒を配置する構成とすることに格別の困難性はな
く,「加熱装置」と触媒のいずれを上流側に配置するかは当業者が適宜なし得る設
計事項にすぎない旨を説示する。
イしかしながら,本件補正発明及び本願発明は,前記のとおり,触媒及び圧力
波機械のコールド・スタート特性の改善を目的としており,本件先行発明を改良し
て,触媒機能及びチャージャ機能の双方が有利に影響を受けるように,触媒及び圧
力波機械に作用する「加熱装置」を,触媒の下流側に配置したものである。
これに対して,引用例1及び2には,コールド・スタート特性の改善や「加熱装
置」について何らの開示も示唆もない。むしろ,引用例1には,「この部分に触媒
22’を設けても触媒が高温になり,溶損するといった問題を発生する危険が少な
い。」とあるように,触媒が高温に曝されることを是としない旨の記載があり,こ
のことは,引用例1に記載の発明である圧力波過給機付きエンジンに対して触媒に
作用してこれを高温にする「加熱装置」と組み合わせることの阻害事由となる。
ウよって,引用例1及び2に接した当業者が,これらに記載の発明を組み合わ
せることによって「加熱装置」を機関の排気側の管路の上流側に設けられた触媒と
下流側に設けられた圧力波機械との間に配置することは,適宜なし得る設計事項で
はない。そして,本件補正発明及び本願発明は,いずれも上記「加熱装置」を特徴
としているから,引用発明1Aに基づいて容易に想到し得たものではなく,この点
の判断を誤った本件審決は,取り消されるべきである。
エなお,被告は,圧力波機械に流入する排気を加熱することによってコール
ド・スタート特性を改善することは,一般的課題であると主張して甲11を援用す
るが,本件特許出願優先日は,甲11の発行日よりも先行する。また,原告は,引
用例1においては触媒が高温で溶存する事態を懸念していることを主張しているの
であって,この懸念は,「触媒22’」が配置された部分に限られないし,本件補正
発明及び本願発明のような「加熱装置」を設ければ,その設置箇所によっては触媒
を溶存するほどの高温に曝すことにもなる。
(3)作用効果についての判断の誤りについて
ア本件審決は,本件補正発明及び本願発明が,引用発明1A及び2B並びに周
知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない旨を説示する。
イしかしながら,本件補正発明及び本願発明は,前記のとおり,コールド・ス
タート特性を著しく向上させるものであり,コールド・スタート特性の改善につい
ては引用例1及び2には開示も示唆もないのであるから,引用発明1A及び2B並
びに周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものである。
ウしたがって,本件審決は,この点の判断を誤っている。
〔被告の主張〕
(1)引用発明2Bの認定の誤りについて
ア引用例2には,ガスタービンから排出され圧力波機械に供給される排気を,
「排気冷却・中間加熱器」に通してエンジンとガスタービンとの間の排気通路中の
高温の排気の熱により加熱して,圧力波機械における仕事能力を上昇させることが
示されている一方,本件補正発明及び本願発明の「加熱装置」は,ガス(排気)を
加熱して機関パワーの向上すなわち圧力波機械の仕事能力を上昇させるものである
(本件明細書【0013】【0014】)。したがって,引用例2に記載の発明が備
える「排気冷却・中間加熱器」は,その機能・作用からみて,本件補正発明及び本
願発明における「加熱装置」に相当する。
イ原告は,引用例2に記載の発明が備える「排気冷却・中間加熱器」が圧力波
機械の流入ガスを積極的・能動的に加熱するものではない旨を主張する。しかしな
がら,本件審決は,「加熱装置」が電気式加熱装置等である点などを相違点6とし
て認定し,このような点が周知技術であると判断しているから,原告の上記主張は,
その前提に誤りがある。
また,原告は,本件補正発明及び本願発明が圧力波機械のコールド・スタート特
性の改善を目的としているから,圧力波機械の流入ガスを機関の排気よりも高温に
する必要がある旨を主張する。しかしながら,本件補正発明及び本願発明の特許請
求の範囲の記載においては,排気温度が何ら特定されていないから,原告の上記主
張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるし,コールド・スタート特性
は,圧力波機械に供給される排気の温度が上昇すれば,機関の排気温度より高温に
ならなくても改善する。さらに,引用例2に記載の発明における圧力波機械も,
「排気冷却・中間加熱器」によってエンジンからの高温の排気ガスの熱を受熱して,
素速く加速されることに違いはない。
ウよって,引用例2に記載の発明が備える「排気冷却・中間加熱器」を「加熱
装置」と認定した本件審決に誤りはない。
(2)相違点3についての判断の誤りについて
ア過給機の一種である圧力波機械に流入する排気を加熱することによってコー
ルド・スタート特性を改善することは,一般的課題であるから(甲11,18,乙
1),引用発明1Aにおいても内在する自明の課題である。また,引用例2には,
前記のとおり,圧力波機械に供給される排気を加熱して仕事能力を上昇させること
が記載されているから,排気温度が低いときに仕事能力が低いことから,圧力波機
械に流入する排気を加熱することによって,コールド・スタート特性を改善すると
いう課題が示されているといえる。このように,引用例1及び2には,圧力波機械
に流入する排気を加熱することでコールド・スタート特性を改善するという本件補
正発明及び本願発明と共通する課題が内在又は示されている。
しかも,前記のとおり,引用例2に記載の発明が備える「排気冷却・中間加熱
器」は,本件補正発明及び本願発明の「加熱装置」に相当する。
イ引用例1に記載の発明において本件補正発明の調整済み三元触媒と対応する
のは,「触媒22」であり,原告が阻害事由として主張する引用例1の箇所が言及
する「触媒22’」とは異なる。しかも,上記箇所は,「触媒22’が高温になって溶
損する危険が少ない」と記載されているのであって,原告が主張するように「触媒
が高温に曝されることを是としない」とまで拡張して解釈することはできない。
また,仮に,上記のような拡張解釈が可能であるとしても,触媒が溶存するよう
な温度まで昇温させないことは,技術常識であるから,引用例1の上記記載は,本
件補正発明又は本願発明を想到するに当たって阻害事由とはならない。
ウ引用例1及び2に記載の発明は,排気側の管路に圧力波機械を備えた内燃機
関という同一の技術分野に属し,前記のとおり,圧力波機械に流入する排気を加熱
することによってコールド・スタート特性を改善するという本件補正発明及び本願
発明と共通する一般的課題を有するから,引用発明1Aに引用発明2Bを適用する
ことは,当業者にとって容易に想到し得る程度のことであるし,このことについて
阻害事由はない。
そして,上記一般的課題を考慮して加熱装置が触媒及び圧力波機械に作用するよ
うに配置することは,当業者にとって自明であるところ,内燃機関の排気側の管路
において触媒の下流側に加熱装置を配置することは,技術常識であり(乙3~5),
これにより上流側の触媒も昇温されることも,明らかである(乙2)ばかりか,1
個の加熱装置で複数の対象を加熱できるような配置を採用することも,技術常識で
ある(甲11,乙3)から,本件補正発明又は本願発明において,「加熱装置」を
触媒の上流側と下流側のいずれに配置するかは,これらの技術常識を考慮して決定
すべきことであり,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
(3)作用効果についての判断の誤りについて
前記のとおり,引用発明1Aに引用発明2B並びに周知技術を適用すれば,本件
補正発明又は本願発明と同様の構成になるから,その作用効果は,引用発明1A及
び2Bから当業者が予測し得る範囲のものである。
2取消事由2(引用発明2Aとの関係における本件補正発明の容易想到性に係
る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件補正発明と引用発明2Aとの一致点並びに相違点5及び6の認定の誤
りについて
ア本件審決は,引用発明2Aの「排気冷却・中間加熱器」を本件補正発明の
「加熱装置」に相当する(一致点)旨を説示し,これを前提として相違点5及び6
を認定している。
イしかしながら,前記1〔原告の主張〕(1)イに記載のとおり,引用例2に記
載の発明が備える「排気冷却・中間加熱器」は,本件補正発明及び本願発明の「加
熱装置」と同様には作用せず,「加熱装置」には相当しないから,本件審決の前記
認定は,誤りである。
(2)相違点5及び6についての判断の誤りについて
ア本件審決は,相違点5及び6に関して,同一の技術分野に属する引用発明2
A及び1Bについて,周知技術を考慮した上で,圧力波機械の上流側にバーナや電
気式加熱装置である「加熱装置」及び触媒を配置する構成とすることに格別の困難
性はなく,「加熱装置」と触媒のいずれを上流側に配置するかは当業者が適宜なし
得る設計事項にすぎない旨を説示する。
イしかしながら,前記1〔原告の主張〕(2)イに記載のとおり,引用例1及び
2に接した当業者が,これらに記載の発明を組み合わせることによって「加熱装
置」を機関の排気側の管路の上流側に設けられた触媒と下流側に設けられた圧力波
機械との間に配置することは,適宜なし得る設計事項ではない。そして,本件補正
発明及び本願発明は,いずれも上記「加熱装置」を特徴としているから,引用発明
2Aに基づいて容易に想到し得たものではなく,この点の判断を誤った本件審決は,
取り消されるべきである。
なお,前記1〔原告の主張〕(2)エの記載のとおり,被告の主張には理由がない。
(3)作用効果についての判断の誤りについて
ア本件審決は,本件補正発明及び本願発明が,引用発明2A及び1B並びに周
知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない旨を説示する。
イしかしながら,本件補正発明及び本願発明は,前記のとおり,コールド・ス
タート特性を著しく向上させるものであり,コールド・スタート特性の改善につい
ては引用例1及び2には開示も示唆もないのであるから,引用発明2A及び1B並
びに周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものである。
したがって,本件審決は,この点の判断を誤っている。
〔被告の主張〕
(1)本件補正発明と引用発明2Aとの一致点並びに相違点5及び6の認定の誤
りについて
前記1〔被告の主張〕(1)ア及びイに記載のとおり,引用発明2Aの「排気冷
却・中間加熱器」が本件補正発明及び本願発明の「加熱装置」に相当すると認定し
た本件審決に誤りはない。
(2)相違点5及び6についての判断の誤りについて
前記1〔被告の主張〕(2)ア及びイに記載のとおり,引用例1及び2に記載の発
明は,排気側の管路に圧力波機械を備えた内燃機関という同一の技術分野に属し,
前記のとおり,圧力波機械に流入する排気を加熱することによってコールド・スタ
ート特性を改善するという本件補正発明及び本願発明と共通する一般的課題を有す
るから,引用発明2Aに引用発明1Bを適用することは,当業者にとって容易に想
到し得る程度のことであるし,このことについて阻害事由はない。
そして,上記一般的課題を考慮して加熱装置が触媒及び圧力波機械に作用するよ
うに配置することは,当業者にとって自明であるところ,内燃機関の排気側の管路
において触媒の下流側に加熱装置を配置することは,技術常識であり(乙3~5),
これにより上流側の触媒も昇温されることも,明らかである(乙2)ばかりか,1
個の加熱装置で複数の対象を加熱できるような配置を採用することも,技術常識で
ある(甲11,乙3)から,本件補正発明又は本願発明において,「加熱装置」を
触媒の上流側と下流側のいずれに配置するかは,これらの技術常識を考慮して決定
すべきことであり,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
よって,原告の主張には理由がない。
(3)作用効果についての判断の誤りについて
前記のとおり,引用発明2Aに引用発明1B及び周知技術を適用すれば,本件補
正発明又は本願発明と同様の構成になるから,その作用効果は,引用発明2A及び
1Bから当業者が予測し得る範囲のものである。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(引用発明1Aとの関係における本件補正発明の容易想到性に係
る判断の誤り)について
(1)本件補正発明について
本件補正発明は,前記第2の2(2)に記載のとおりであるが,本件明細書には,
おおむね次の記載がある。
ア本件補正発明は,圧力波機械及び少なくとも1つの触媒を包含する内燃機関
に関するものである(【0001】)。
イ本件先行発明では,機関排気口と三元触媒との間に加熱装置を配置すること
で,触媒のコールド・スタート特性が改善され得たが,圧力波機械のコールド・ス
タート特性は,改善されなかった。そこで,本件補正発明は,その特許請求の範囲
の特徴部分によって,特に圧力波機械のコールド・スタート特性を改善することを
目的としている(【0003】)。
ウ機関排気口での排気ガス温度が低い場合,コールド・スタート状況において,
触媒の変換率が小さくなるため,排気放出物が高くなる(【0012】)ばかりか,
チャージャ(圧力波機械)での圧力波プロセスがますます問題となり,極端な場合,
完全に停止することすらあるから,機関がコールド状態のときには,吸気圧力が低
下し,これが機関パワーの低下を招く(【0013】)。
エこれらの問題は,三元触媒と圧力波機械の排気管入口との間に,排気ガス温
度が低いときに起動するバーナを配置することによって,相殺され得る。このよう
にして,触媒の最適な動作温度がより急速に得られ,かつ,ガスがより高い温度で
圧力波機械に達するから,圧力波プロセスは,機関がまだ冷たい間に開始され,機
関のフルパワーが利用できる(【0014】)。
オバーナは,その代わりに,他の加熱装置(例えば電気作動式ヒータ)を使用
してもよいが,触媒機能及びチャージャ機能の両方が有利に影響を受けることが重
要である(【0015】)。
カ本件補正発明により,重要なパワー向上が可能となり,また,NOX(窒素
酸化物)をより効果的に除去するなどして汚染物質をかなり低減することができる
ほか,コールド・スタート特性をかなり向上させることなどができる(【0016】
【0017】)。
(2)引用例2に記載の発明について
引用例2に記載の発明について,本件審決は前記第2の3(2)カ及び(3)アに記載
の引用発明2A及び2Bのとおり認定しているが,引用例2には,そこに記載の発
明についておおむね次の記載がある。
ア本発明は,内燃機関排気の2段階に分割された圧力勾配が燃焼用空気を2段
階圧縮するために使用されている,内燃機関への過給用装置に関するものである。
イこのような2段階圧縮は,1段で達成され得るブースト比が十分でないなど
の場合に用いられるが,各過給機に排気タービン式過給機を用いた場合,低圧ター
ビン式過給機が極めて緩慢にしか負荷変化に対応せず,エンジンの加速に対する応
答に長時間がかかり,その際に激しい煤の突出が生じて車両用エンジンに使用でき
ない。他方,圧力波機械のみによる2段式給気は,不可能である。圧力波機械では,
膨張部と圧縮部が互いに独立しておらず,膨張されるべきガス(排気)と圧縮され
るべきガス(給気)が直接接触するので両者の圧力水準を任意に選択することがで
きないため,圧力波機械を使用する2段式給気では,特に高圧機械の低圧力段で困
難が生じる。
ウ本発明の目的は,応答時間が短く,かつ,給気装置の作動特性領域が広いと
いう必要条件に良好な効率をもって適応している内燃機関への過給用装置を提供す
ることである。
この目的は,排気タービン式過給機が高圧圧縮段用に,圧力波機械が低圧圧縮段
用に使用されることにより達成され,これにより特に車用エンジン用2段式給気が
可能になる。低圧タービン式過給機を圧力波機械に置き換えることで,加速の際の
内燃機関の応答時間が本質的に短縮され,煤の突出も減少し得る。
エ本発明に係る2段式給気においては,排気を高圧段中での膨張後に中間加熱
し,それによって排気のエンタルピ,すなわち排気の低圧段における仕事能力を上
昇させることが可能である。エンジンにおいて過給によって生じ得る高温度の排気
温度は,状況によっては高圧圧縮段用の排気タービン式過給機のガスタービンの許
容入口温度を越え得る。この排気温度の降下は,上記の排気の中間加熱と結合して
生じ得る場合に極めて有利であり,また必要である。
本発明では,エンジンとガスタービン(高圧圧縮段用の排気タービン式過給機)
との間の排気流路中に,排気冷却・中間加熱器が接続されており,排気は,ガスタ
ービン中での膨張後,圧力波機械に流入する前に,この排気冷却・中間加熱器を再
度貫通する。これによって,高温排気は,それよりも低い圧力段にある排気によっ
てガスタービンの許容入口温度まで冷却され,同時に,より低い圧力段の排気が中
間加熱される。
オ本発明は,原理的には高圧圧縮段用の排気タービン式過給機と低圧圧縮段用
の圧力波機械とを逆に,すなわち圧力波機械を高圧段として,排気タービン式過給
機を低圧段として,使用することも可能である。
(3)引用発明2Bの認定の誤りについて
ア本件補正発明における「加熱装置」と引用例2に記載の発明における「排気
冷却・中間加熱器」との関係について
(ア)本件明細書の記載(前記(1)ウないしカ)によれば,本件補正発明におけ
る「加熱装置」は,内燃機関の排気側の管路のうち,三元触媒と圧力波機械との間
に設けられたバーナ又は電気作動式ヒータであり,触媒の最適な動作温度がより急
速に得られ,かつ,ガスがより高い温度で圧力波機械に達するようにすることで,
特にコールド・スタート特性を改善するものであるといえる。
(イ)これに対して,引用例2の記載(前記(2)エ及びオ)によれば,引用例2
に記載の発明における「排気冷却・中間加熱器」は,2段式給気を行う内燃機関か
らの排気がガスタービンの許容入口温度を越えないようにする一方,ガスタービン
からの排気の圧力波機械における仕事能力低下を防ぐために,これらの各排気の間
で熱交換を行わせ,もって内燃機関からの排気の温度を降下させることに伴ってガ
スタービンからの排気の温度を上昇させるものである。すなわち,「排気冷却・中
間加熱器」は,機関の排気系において,ガスタービンの上下流の各排気間で常に加
熱と冷却を伴う一体不可分の熱交換を行う装置である。
さらに,引用例2に記載の発明では,高圧圧縮段用の排気タービン式過給機と低
圧圧縮段用の圧力波機械とを逆にして使用することも可能であって(前記(2)オ),
この場合,「排気冷却・中間加熱器」は,圧力波機械との関係では圧力波機械に流
入する排気を冷却させることになり,圧力波機械の仕事能力を低下させる面を有す
ることになる。
(ウ)以上によれば,本件補正発明の「加熱装置」は,機関の排気側の管路にお
いて圧力波機械に流入する排気を外部の熱源又は電気エネルギー源(以下「熱源
等」という。)により加熱することで特に圧力波機械のコールド・スタート特性を
改善するものである一方,引用例2に記載の「排気冷却・中間加熱器」は,2段式
給気を行う機関の排気系において排気間での熱交換を行うものであって,排気を外
部の熱源等により加熱するものではなく,むしろ圧力波機械を高圧圧縮段用に配置
した場合には圧力波機械の仕事能力を低下させるものであるから,本件補正発明の
「加熱装置」とは,その構成,機能及び作用がいずれも異なっているというほかな
い。
イ被告の主張について
(ア)被告は,本件補正発明の「加熱装置」及び引用例2に記載の発明における
「排気冷却・中間加熱器」が,いずれも圧力波機械に供給される排気ガスの温度を
上昇させ,圧力波機械の仕事能力を向上させるものであって,両者の相違は,相違
点6において別途認定している旨を主張する。
しかしながら,前記のとおり,引用例2に記載の発明における「排気冷却・中間
加熱器」は,2段式給気を行う機関の排気系において排気間での熱交換を行うもの
であって,排気を外部の熱源等により加熱するものではなく,むしろ圧力波機械を
高圧圧縮段用に配置した場合には圧力波機械の仕事能力を低下させるものであるか
ら,圧力波機械に流入する排気を外部の熱源により加熱する「加熱装置」とは異な
るというほかない。
そして,「排気冷却・中間加熱器」が「加熱装置」に相当するとの被告の主張は,
両者の間の特定の場面における限定的な類似点を指摘するにとどまり,両者の構成,
機能及び作用の相違を無視するものであるというべきであって,相違点6で両者の
他の相違を認定しているからといって,両者が相当関係にあるものということはで
きない。
よって,被告の上記主張は,採用できない。
(イ)被告は,機関の排気温度より高温でなくても,圧力波機械に供給される排
気温度が上昇すればコールド・スタート特性が改善する旨を主張する。
しかしながら,引用例2に記載の発明における「排気冷却・中間加熱器」は,機
関からの排気が持つ熱を熱源としているところ,コールド・スタート特性が問題と
なるのは,機関からの排気及びその有する熱が十分ではない状況であるから,引用
例2に記載の発明においては,コールド・スタート特性を改善するに足りる排気温
度の上昇が,それ自体何ら想定されていないことは,明らかである。
よって,被告の上記主張は,前提を欠くものとして採用できない。
(ウ)被告は,本件補正発明が排気温度に関して何ら特定していないから,圧力
波機械の流入ガスを機関の排気よりも高温にする必要がある旨の原告の主張が請求
項に基づかないものである旨を主張する。
しかしながら,本件補正発明の「加熱装置」が,圧力波機械に流入する排気を外
部の熱源等により加熱するものであることは,その特許請求の範囲の記載に照らし
て明らかであり,このことは,本件明細書に圧力波機械のコールド・スタート特性
を改善する旨の記載があることによっても裏付けられる。したがって,排気温度を
特定するまでもなく,本件補正発明の構成は,本件補正発明の特許請求の範囲の記
載等によって明らかであって,被告の上記主張は,採用できない。
ウ小括
以上のとおり,引用例2に記載の発明における「排気冷却・中間加熱器」は,本
件補正発明の「加熱装置」に相当せず,引用例2に記載の発明は,「加熱装置」の
構成を備えているとは認められないから,本件審決による引用発明2Bの認定には
誤りがある。
(4)相違点3についての判断の誤りについて
ア引用例1の記載について
引用例1に記載の発明について,本件審決は,前記第2の3(2)ア及び(3)カに記
載の引用発明1A及び1Bのとおり認定しているが,引用例1には,そこに記載の
発明についておおむね次の記載がある。
(ア)本発明は,ガソリンエンジンに圧力波過給機を適用する場合の給気通路構
成に関するものである。
(イ)圧力波過給機(圧力波機械)は,吸排気条件が厳しく制約され,吸排気の
圧力バランスが適正にとられなければならないこと,内部環流排気ガス(内部EG
R)が存在すること,ロータの冷却のため吹き抜けエアが必要なこと,排気温度限
界が比較的低いこと,さらには耐久性から回転数をあまり高くできないことなどの
制約条件があるため,回転数レンジが広く圧力バランスが崩れやすいガソリンエン
ジンには採用されていない。すなわち,圧力波過給機の耐久性からくる回転限界か
らプーリの増速比を小さくすると,エンジン低回転域では極端にロータの回転数が
落ちて圧力波過給機の小室(セル)が比較的長くポートに開口することになり,圧
力波の伝播作用が良好でなくなり,本来の過給作用が不十分となったり,内部EG
R量が増大するなどの問題が生じる。
(ウ)本発明は,圧力波過給機の吸気吐出口を2分し,その一つに吸気通路開閉
弁(Aバルブ)を設ける一方,圧力波過給機の排気吐出口も2分し,その一つに排
気通路開閉弁(Bバルブ)を設け,エンジン回転数が比較的低速である場合にはA
バルブを「閉」,Bバルブを「開」とすることで,吸気導入口から排気吐出口への
吸気の吹き抜け量を増やすことができるとともに,吸気吐出口から吸気に混入され
る内部EGR量の増大を抑制し,燃焼性の悪化を防止することができる。また,比
較的高速である場合には,Bバルブを「開」とすることにより,圧力波過給機の吹
き抜け量を増大させ,これでもって高温排ガスにより加熱されるロータの冷却をは
かることができる。
イ本件補正発明の「加熱装置」に関する構成に係る容易想到性について
本件補正発明と引用発明1Aとでは,本件補正発明が「空気,燃料供給源からな
るバーナあるいは電気式加熱装置」である「加熱装置」を三元触媒と圧力波機械と
の間に配置する構成を備えている点で相違しているところ(相違点3),引用発明
1Aを主引用発明とした場合,当該発明,引用例2に記載の発明及び周知技術を基
にして,当業者が当該構成を容易に想到することができたか否かについて以下に検
討する。
(ア)本件補正発明は,エンジンのコールド・スタート特性を改善することを主
たる技術的課題としているが,これは,内燃機関の技術分野において一般的に存在
する技術的課題であると認められる(甲18,乙1)。
(イ)しかしながら,引用例1には,前記(1)に認定のとおり,エンジンのコー
ルド・スタート特性に関する記載や示唆がない。
しかも,前記(1)ウに認定のとおり,引用例1に記載の発明は,低速領域で圧力
波過給機の吸気導入口から排気吐出口への吸気の吹き抜け量を増やすことができる
とともに,圧力波過給機の吸気吐出口から吸気に混入される内部EGR量が増大す
ることを抑制するものであって,エンジンのコールド・スタート時には,この機能
があるからといって圧力波過給機又はこれに流入する排気の温度を上昇させる作用
が生じるとは考え難い。むしろ,引用例1に記載の発明は,吸気の吹き抜け量の増
加により,圧力波過給機を冷却する可能性を内包するものであるから,圧力波機械
に流入する排気を加熱する構成を採用する上では阻害事由があるというべきである。
(ウ)引用例2にも,前記(2)に認定のとおり,エンジンのコールド・スタート
特性に関する記載や示唆がない。
また,引用例2に記載の発明は,「排気冷却・中間加熱器」を備えてはいるが,
これは,機関からの排気が持つ熱を熱源としているところ,コールド・スタート特
性が問題となるのは,機関からの排気及びその有する熱が十分ではない状況である
から,「排気冷却・中間加熱器」による熱交換によっては,コールド・スタート特
性を改善するに足りる排気温度の上昇を想定することができない。むしろ,引用例
2に記載の発明における「排気冷却・中間加熱器」は,熱交換により高圧圧縮段の
過給機(圧力波機械を含む。)に流入する排気を冷却するものであるから,圧力波
機械に流入する排気を加熱する構成を採用する上では阻害事由があるというべきで
ある。
ウ小括
以上のとおり,引用例1及び2は,いずれもエンジンのコールド・スタート特性
に関する記載や示唆がないから,当該特性の改善とは関係のない技術に関するもの
であって,これらに記載された発明を基にしてコールド・スタート特性を改善する
ことを想到するに足りる動機付けがない。むしろ,引用例1に記載の発明は,圧力
波機械を冷却する可能性を内包しており,引用例2に記載の発明は,熱交換により
圧力波機械を含む過給機に流入する排気を冷却するものでもあるから,圧力波機械
に流入する排気を加熱する構成を採用する上では,いずれも阻害事由がある。
したがって,コールド・スタート特性の改善が一般的な課題であり,かつ,火花
点火機関に三元触媒を用いる技術及び内燃機関の排気側の管路に,空気,燃料供給
源からなるバーナや電気式加熱装置である加熱装置を設ける技術が周知であったと
しても,引用発明1Aに接した当業者は,当該課題を解決するため,引用例2に記
載の発明及び上記周知技術を適用し,「空気,燃料供給源からなるバーナあるいは
電気式加熱装置」である「加熱装置」を三元触媒と圧力波機械との間に配置するこ
とで圧力波機械に流入する排気を加熱する構成(相違点3)を採用することを容易
に想到できなかったものというべきである。
(5)よって,引用発明1Aを主引用発明とした場合,当該発明,引用発明2B
及び周知技術に基づいて当業者が本件補正発明を容易に想到し得たとして,独立特
許要件を欠くことを理由に本件補正を却下した本件審決は,その判断を誤るもので
ある。
2取消事由2(引用発明2Aとの関係における本件補正発明の容易想到性に係
る判断の誤り)について
(1)本件補正発明と引用発明2Aとの一致点並びに相違点5及び6の認定の誤
りについて
前記1(3)に認定のとおり,引用例2に記載の発明における「排気冷却・中間加
熱器」は,本件補正発明の「加熱装置」に相当せず,引用例2に記載の発明は,
「加熱装置」との構成を備えているとは認められないから,本件補正発明と引用発
明2Aとの一致点並びに相違点5及び6の認定にも誤りがある。
そして,本件補正発明と引用発明2Aとの一致点は,「圧力波機械を備えた内燃
機関」であり,相違点5及び6は,「本件補正発明では,「調整済み三元触媒」が
「機関と圧力波機械との間」に配置され,「空気,燃料供給源からなるバーナある
いは電気式加熱装置」である「加熱装置」が「排気側の管路において,前記管路の
上流側に設けられた触媒と前記管路の下流側に設けられた圧力波機械との間に配置
してあ」るのに対して,引用例2に記載の発明では,本件補正発明のような「調整
済み三元触媒」及び「加熱装置」を備えていない点」に尽きるというべきである。
(2)相違点5及び6についての判断の誤りについて
前記(1)に認定の本件補正発明と引用発明2Aに記載の発明との相違点に係る構
成について,引用発明2Aを主引用発明とした場合,当該発明,引用発明1B及び
周知技術を基にして当業者が当該構成を容易に想到することができたか否かについ
て検討すると,前記1(4)イに認定のとおり,引用例1及び2は,いずれもエンジ
ンのコールド・スタート特性に関する記載や示唆がないから,当該特性の改善とは
関係のない技術に関するものであって,これらに記載された発明を基にしてコール
ド・スタート特性を改善することを想到するに足りる動機付けがない。むしろ,引
用例1記載の発明は,圧力波機械を冷却する可能性を内包しており,引用例2に記
載の発明は,熱交換により圧力波機械を含む過給機に流入する排気を冷却するもの
でもあるから,圧力波機械に流入する排気を加熱する構成を採用する上では,いず
れも阻害事由がある。
したがって,コールド・スタート特性の改善が一般的な課題であり,かつ,火花
点火機関に三元触媒を用いる技術及び内燃機関の排気側の管路に,空気,燃料供給
源からなるバーナや電気式加熱装置である加熱装置を設ける技術が周知であったと
しても,引用発明2Aに接した当業者は,当該課題を解決するため,引用発明1B
及び上記周知技術を適用し,上記本件補正発明と引用発明2Aとの相違点に係る構
成を採用することを容易に想到できなかったものというべきである。
(3)よって,引用発明2Aを主引用発明とした場合,当該発明,引用発明1B
及び周知技術に基づいて当業者が本件補正発明を容易に想到し得たとして,独立特
許要件を欠くことを理由に本件補正を却下した本件審決は,その判断を誤るもので
ある。
3結論
以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,本件審決は取
り消されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光
(別紙)
当事者目録
原告スイスオートエンジ
ニアリングエスアー
同訴訟代理人弁護士松田純一
丸山幸朗
大橋君平
近森章宏
森田岳人
高垣勲
菅原清暁
村上康聡
桝屋美那子
山口智寛
伊藤卓
岡本明子
佐藤康之
夏苅一
西村公芳
白井潤一
同弁理士清水善廣
同訴訟復代理人弁理士内島裕
被告特許庁長官
同指定代理人加藤友也
西山真二
黒瀬雅一
伊藤元人
板谷玲子

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