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平成30年3月22日判決言渡
平成29年(行ケ)第10170号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年1月25日
判決
原告エフイートレード株式会社
同訴訟代理人弁護士鮫島正洋
高瀬亜富
森下梓
丸山真幸
同訴訟代理人弁理士泉通博
被告株式会社クレフ
主文
1特許庁が無効2016-890058号事件について平成29年7月20日
にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2前提となる事実(証拠を掲記した以外の事実は,弁論の全趣旨により認めら
れるか,当裁判所に顕著な事実である。)
1特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。(甲4
2,43)
登録商標PPF(標準文字)
登録番号第5840125号
出願日平成27年10月23日
査定日平成28年3月8日
登録日平成28年4月8日
商品及び役務の区分第17類
指定商品熱可塑性ポリウレタンフィルム,自動車本体の保護
用プラスティックフィルム,自動車本体の保護用熱可
塑性ポリウレタンフィルム,自動車本体の保護用塩化
ビニル樹脂フィルム,プラスティック基礎製品(以下
「本件指定商品」という。)
(2)原告は,平成28年9月29日,本件商標について,商標登録無効審判を
請求した(無効2016-890058号。甲40,42)。
特許庁は,上記請求について審理した上,平成29年7月20日,「本件
審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月28日,
原告に送達された。
(3)原告は,平成29年8月25日,審決の取消しを求めて,本件訴訟を提起
した。
2審決
(1)審判手続における原告(請求人)の主張の要旨
ア本件商標は,自動車分野において,「PaintProtectionFilm」の頭文字
を組み合わせた略語であって,本件商標の登録査定日よりも前に,その商
品の内容である自動車本体の保護フィルムを普通に用いられる方法で表示
するものとして一般的に認識されていた。
「PPF」の語は,自動車の傷を修復するフィルムを意味する用語とし
てウェブサイトやブログで使用されているし,原告も,本件商標の登録出
願前に,「PPF」の語を上記フィルムを意味する用語として普通に用い
られる方法で使用していた。さらに,動画においても,「PPF」の語は,
自動車の車体を保護するフィルムを意味する用語として普通に使用されて
いる。
このように,本件商標は,自動車関連の分野において,その商品の原材
料,品質を普通に用いられる方法で表示するものとして認識されるもので
あり,商標の機能である自他商品の識別標識として認識され得ない。また,
「PPF」の語は,取引一般において,取引の内容を説明するために必要
かつ適切な表示として機能するものであるから,誰もが自由に使用できる
ようにしておく必要があり,特定人の独占的使用を認めると,円滑な取引
を阻害するなど公益上の問題が生じるおそれがある。
したがって,本件商標は,商標法3条1項3号に該当する。
イ仮に,本件商標が商標法3条1項3号に該当しないとしても,「PPF」
の語は,多数の業者が取引に際して用いているものであるから,「PPF」
の語を使用しても,何人の業務に係る商品であるのか認識することができ
ず,商標の機能である出所識別機能を有しない。
したがって,本件商標は,商標法3条1項6号に該当する。
ウ本件商標は,自動車関連の分野において,「PaintProtectionFilm」の
略語として一般的に用いられている。そうすると,本件商標を自動車関連
商品以外の指定商品である「熱可塑性ポリウレタンフィルム」及び「プラ
スティック基礎製品」について使用すると,商品の品質について誤認を生
ずるおそれがある。
したがって,本件商標は,商標法4条1項16号に該当する。
エよって,本件商標の登録は,無効とすべきである。
(2)審決の理由
審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。その概要は,本
件商標は,商標法3条1項3号,同項6号及び同法4条1項16号のいずれ
にも該当しないというものである。
第3原告主張の取消事由
1取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)
(1)「PPF」の語は,「PaintProtectionFilm」の各単語の頭文字を組み合
わせた略称であるところ,本件商標の登録査定日前において,「自動車の車
体表面を保護するためのフィルム全般」という商品(以下「本件商品」とい
う。)の普通名称として,日本国内の取引者及び需要者の間で広く知られて
いた。また,本件商品が,「塗装の保護」という効能及び用途を有し,かつ
「フィルム(膜)状」の形状を有するという品質の商品であるという点につ
いても,その取引者及び需要者の間で共通認識となっていた。
(2)本件商品の商流
本件商品は,主として米国勢を中心とした海外メーカーによって製造され,
遅くとも平成20年ころから,当該メーカーの日本法人,輸入代理店及び施
工業者等を通じて日本に輸入されている。また,原告,リンテック株式会社
など,日本国内で独自に本件商品の開発・製造を手掛けているメーカーもあ
る。
本件商品の大半は,メーカーから直接又は流通業者を通じて施工業者に販
売され,当該施工業者によって車体へ貼り付ける施工が行われた後,需要者
であるユーザーに供給される。本件商品のユーザーには,高級車や外国車の
所有者が多いが,これは,車の価格帯や希少価値が高くなるほど,車体表面
を傷付けずきれいに保ちたいというニーズが高まるからである。ユーザーは,
メーカーや施工業者のウェブサイト,車雑誌の記事及び広告,他のユーザー
のブログ等を通じて本件商品の存在を知り,施工業者へ問い合わせることが
多い。
なお,海外メーカー製の本件商品は,日本国内の流通業者・施工業者によ
って海外から輸入され,ユーザーに提供されている。特に,本件商品は,①
米国発祥の商品で,当初は日本製の本件商品が存在しなかったため,取引者
の間でも「海外の物」という認識が定着していること,②比較的高価格帯
の商品であることから,日本国内での流通価格が妥当なものであるかを確認
するため,製造元である海外メーカーのウェブサイトで販売価格を確認する
必要があること,③施工に技術を要するため,施工方法について説明した
動画を参照する必要があること,などの理由から,日本国内の流通業者・施
工業者において,英語で記載された海外のウェブサイトを閲覧する必要性が
高い。また,本件商品の需要者も,各メーカーの製品を比較し,施工すべき
フィルムを検討するのに際し,外国語で書かれた文献を参酌する必要がある。
(3)「PPF」の語には,その語義からして自他商品識別力がないこと
ア「ペイントプロテクションフィルム」及び「PaintProtectionFilm」の
語は,本件商品の普通名称であるところ,この語は,「塗料」を意味する
「ペイント(paint)」,「保護」を意味する「プロテクション(protection)」
及び「膜」を意味する「フィルム(film)」を順に並べたものにすぎない
し,用いられている英単語もせいぜい高校生レベルのものであるから,本
件商品の主たる取引者及び需要者として想定される18歳以上の者(自動
車の運転が法令上認められている者)は,容易にその意味を理解すること
ができる。
そうすると,「ペイントプロテクションフィルム」及び「PaintProtection
Film」の語に接した取引者及び需要者は,この語が示す商品が「塗装面」
を「保護」する機能を有することや,当該商品が「膜」状に成型された形
状を有することなどを容易に推測することができる。すなわち,「ペイン
トプロテクションフィルム」及び「PaintProtectionFilm」の語自体は,
単に商品の効能,用途,形状及び品質等を説明する文言にすぎず,識別力
を有しない。
イそして「PPF」の語についても,「ペイントプロテクションフィルム
(PPF)」のように,「ペイントプロテクションフィルム」の略称であ
ることが一見して分かるような態様で使用されている例が相当数ある。
さらに,「ペイントプロテクションフィルム」及び「PaintProtectionFilm」
という表記が冗長であることから,取引者及び需要者の間には,「PPF」
と短縮して表記・呼称したいというニーズがある。例えば取引の現場にお
いて,「ペイントプロテクションフィルム」の語を併記せず,「PPF」
の語のみで,本件商品の一般的な名称として,又はその効能,用途,形状
及び品質等を示すものとして用いている例が多数ある。ユーザーの間では,
本件商品を示すものとして「PPF」の語の方が広く使用されているし,
「PPF」の語が本件商品の用途,効能,形状及び品質を意味することも
広く知られていた。
(4)「PPF」の語は本件商品の一般的名称又はその効能,用途,形状及び品
質等を示すものとして実際に使用されていること
ア本件商品の海外メーカーのウェブサイト等では,次のように,「Paint
ProtectionFilm」及び「PPF」の語が,単に本件商品の一般的名称又は
その効能,用途,形状及び品質等を示すものとして使用されている。
(ア)3M社のウェブサイト(平成26年5月26日時点)では,「PP
F」の語を,単に自動車用保護フィルムという商品の一般的名称又はそ
の効能,用途,形状及び品質等を示すものとして使用し,自他商品を識
別するために「SCOTCHGARD」との文字を構成要素とする標章
を付している。
(イ)LLumar社は,平成27年7月27日に「LLumarPPF-Full
Hood」という見出しを付した公式動画を公開しているほか,同社のウェ
ブサイト(同月1日時点)には,「LLumarPaintProtectionFilmSeries」
などといった記載がある。これらの記載から,同社が「PPF」の語を
本件商品の一般的名称又はその効能,用途,形状及び品質等を意味する
ものとして用いていること,同業他社も「PaintProtectionFilm」の語
を用いているため,「LLumar」という社名を付して自社商品と他
社商品とを区別していることが明らかである。
(ウ)XPEL社のウェブサイト(平成28年3月3日時点)では,「Paint
ProtectionFilm」の見出しの下,様々な本件商品が紹介されている。商
品名に「PPF」の語は使われていないが,「PaintProtectionFilm」
の語が各商品の上位概念としての一般的名称,又は本件商品の効能,用
途,形状,品質等を意味するものとして使用されている。
(エ)AveryDennison社が平成27年に作成したパンフレ
ットには,「PaintProtectionFilm」,「PPF」の各語が記載されて
いる。一方,本件商品の商品名は「1500PUGloss」など
とされているから,「PaintProtectionFilm」,「PPF」の各語は,
本件商品の一般的名称又はその効能,用途,形状及び品質等を示すもの
として用いられているというべきである。
イ本件商品の国内メーカーである原告及びリンテック株式会社も,遅くと
も平成25年以降,ウェブサイトやカタログ,パンフレット,雑誌記事・
広告において,「PPF」,「PaintProtectionFilm」,「ペイントプロ
テクションフィルム」及び「プロテクションフィルム」の各語を本件商品
の一般的名称,又はその効能,用途,形状及び品質等を表示するものとし
て用いている。このことは,原告が「UNIGLOBE」又は「ユニグロ
ーブ」というブランド名を用いて自社商品と他社商品とを区別しているこ
とからも明らかである。
ウわが国における本件商品の流通業者・施工業者の間でも,次のとおり,
「PPF」の語は,「ペイントプロテクションフィルム」又は「PaintProtection
Film」の略語として,また,本件商品の効能,用途,形状及び品質等を示
すものとして広く認識・使用されていた。
(ア)被告自身,次のとおり,「PPF」の語を,本件商品の効能,用途,
形状及び品質等を意味するものとして,自他商品識別力を有しない態様
で用いている。
a被告は,ウェブサイトにおいて,「ボディに貼る透明フィルム『ペ
イント・プロテクション・フィルム(PPF)』が登場。…Yes!
PPFは日本で最も多くの施工実績を持ち,…高い施工技術と商品知
識を持つPPFのプロ集団です。」(平成25年6月21日時点)や,
「ペイント・プロテクション・フィルム(以下:PPF)とは,透明
のポリウレタン製フィルムを自動車やバイクなどのボディ表面に貼る
ことで,外的な要素からボディを保護し,傷がつくことを防ぐ製品の
ことを指します。ほかにも『ヌードブラ』や『クリアーブラ』,『ス
クラッチガード』など様々な名称がありますが透明フィルムで塗装面
を保護するという点で同じ『プロテクション・フィルム』と総称され
ています。」(平成23年11月11日時点)と記載している。
b平成20年12月1日発行の「ゲンロク12月号」及び平成21年
3月24日発行の「Specialcars(モーターファン別冊)」
に,被告を紹介する特集記事が掲載されているところ,この中で,被
告は,「ペイントプロテクションフィルム」の語を本件商品の一般的
名称,又は効能,用途,形状,品質等を表示するものとして用いてお
り,特定の商品を指し示すときには「ルーマー」等の企業名で区別し
ている。
また,平成24年6月26日発売の「ゲンロク8月号」には,「さ
らに進化したPPF」の見出しの下,「北米・テキサス州に本拠を構
えるXPEL社が取り扱うペイント・プロテクション・フィルム(P
PF)。専門メーカーである強みを活かし,さまざまなモデルに対応
したPPFを世界中に販売する。」との記載がある。
さらに,「afimp.2012年(平成24年)11月号」に
は,「最高峰の『PPF』技術を求めて,アメリカXPEL社で武者
修行!ボディを柔軟性のある透明フィルムで保護するペイントプロ
テクションフィルムが今,新しい。」,「ボディ保護に効く新技,P
PFの存在に注目を!」,「日本のスタイルアップシーンでは,ヘッ
ドライトへのカラード施工でまずは注目を集めたペイントプロテクシ
ョンフィルム(PPF)。ラッピングに使われるフィルムとは違って,
PPFは透明のポリウレタン製で非常に柔軟性が高い。」との記載が
ある。
c平成25年5月25日発売の「ゲンロク7月号」に被告が掲載した
広告には「ペイント・プロテクション・フィルム(PPF)」と記載
されており,このほかにも,本件商標の登録査定日前に,ゲンロク誌
に同様の広告が定期的に掲載されていた。
(イ)被告以外の流通業者・施工業者も,被告と同様に,「PPF」の語を
本件商品の一般的名称又は効能,用途,形状,品質等を表示するものと
して使用している。
エ複数のユーザーが執筆したブログにおいても,「PPF」の語は,「ペ
イントプロテクションフィルム」や「PaintProtectionFilm」と同様に,
本件商品の一般的名称,又はその効能,用途,形状,品質等を意味するも
のとして使用されている。
オインターネット上の辞書ともいうべきウィキペディア(英語版)の平成
22年9月16日付けのアーカイブでは,「PaintProtectionFilm(PP
F)」が「熱可塑性ウレタン製フィルムを新車や中古車の塗装された表面
に貼り付けることで,飛び石,虫,小さな擦り傷等の外的要因から保護す
るためのフィルム」と定義されている。
また,平成28年2月21日に発行された市場調査レポートの表題に「ペ
イントプロテクションフィルム(PPF)市場」と記載されているとおり,
「PPF」の語が本件商品全般及びその効能,用途,形状及び品質等を意
味するものとして用いられており,特定のメーカーの製品等を示すものと
して用いられていないことは明らかである。
(5)以上のとおり,「PPF」の語は,本件商標の登録査定日である平成28
年3月8日より前の時点で,本件商品の効能,用途,形状及び品質等を示す
ものとして用いられており,インターネット上の辞書においても,自動車の
車体表面を保護するためのフィルム全般を意味するものとして定義されてい
る上,そもそも,その語義からしても自他商品識別力がなく,商標としての
機能を果たし得ない。
したがって,本件商標は,本件指定商品のうち,「自動車本体の保護用プ
ラスティックフィルム,自動車本体の保護用熱可塑性ポリウレタンフィルム,
自動車本体の保護用塩化ビニル樹脂フィルム」との関係で,その商品の効能,
用途,形状,品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商
標であって,商標法3条1項3号に該当し,無効とされるべきものである。
(6)なお,審決は,「PPF」の語の使用状況についての認定において,「本
件商標の登録出願日前の情報といい得るものは,…僅か3件のみである」(同
12頁)と判断したが,商標法3条1項3号該当性の有無は商標の登録査定
時又は審決時を基準として判断すべきであり,審決の判断にはその前提にお
いて誤りがある。
また,審決は,本件商標の登録出願日前の情報であると認定した甲10号
証,甲11号証及び甲15号証の3件の証拠につき,作成日付との関係では
証明力を有すると判断したにもかかわらず,その内容に触れずに原告に不利
な判断を行っており,審理不尽の違法がある。
さらに,甲8号証,甲9号証及び甲12号証については,本件商標の登録
査定日前に同じ内容がウェブサイトに掲載されていたことが明らかとなった
ので,審決の判断は結果として誤りである。
加えて,原告が審判請求書とともに提出した証拠は,「PPF」の語の代
表的な使用態様を示すものにすぎないのに,審決は,審判手続で提出された
証拠の件数及び作成日付に拘泥し,原告に有利な証拠には一切言及せず,結
果として「PPF」の語がわずかな需要者によって用いられていたにすぎな
いとの誤った判断をしたものであって,この判断が結論に影響を及ぼすこと
は明らかであるから,審決はこの一事をもって取り消されるべきである。
2取消事由2(商標法3条1項1号該当性についての判断の誤り)
(1)「ペイントプロテクションフィルム」及び「PPF」の語は,本件商品が
日本に導入された平成20年ころ以降,「自動車の塗装面を飛び石から保護
するためのフィルム」を表すものとして,メーカーの別を問わず,各社の製
品に共通の意味で使用されてきた。本件商品の施工業者においても,それぞ
れ取り扱う製品の製造元や種類に違いはあるものの,当初から上記の意味で
用いられてきた。需要者であるユーザーにおいても,「ペイントプロテクシ
ョンフィルム」及び「PPF」の語は,「自動車の塗装面を保護するための
フィルム」の意味で広く浸透している。
このように,「ペイントプロテクションフィルム」及び「PPF」の語は,
本件商標の登録査定日より前の時点で,「自動車の塗装面を保護するための
フィルム全般」を意味するものとして,日本国内の取引者及び需要者の間で
広く知られていた。
(2)そして,本件商標の登録査定日より前の時点で,「PPF」の語が自動車
の塗装面を保護するためのフィルム全般を意味する「ペイントプロテクショ
ンフィルム」の略称として,日本国内の取引者及び需要者の間で広く使用さ
れていたことは,上記1(4)イからエにおいて主張したとおりである。
(3)したがって,本件商標は,本件商品,すなわち「自動車の塗装面を保護す
るためのフィルム全般」を意味する普通名称として,日本国内で広く使用さ
れていた商標であるから,本件指定商品のうち,「自動車本体の保護用プラ
スティックフィルム,自動車本体の保護用熱可塑性ポリウレタンフィルム,
自動車本体の保護用塩化ビニル樹脂フィルム」との関係で,商標法3条1項
1号に該当し,無効とされるべきである。
(4)なお,原告は,審判手続において,商標法3条1条1号を明示して主張し
ていなかったが,同条3号該当性に関連して,「PPF」の語は自動車本体
を保護するフィルムを意味する用語として普通に使用されている,と実質的
には同条1号に違反するとの主張をしていたものである。
3取消事由3(商標法3条1項6号該当性についての判断の誤り)
仮に,本件商標が,商標法3条1項1号又は3号に該当しないとしても,「P
PF」の語は,本件商標の登録査定時において,本件商品を意味する「ペイン
トプロテクションフィルム」の略称,又は「塗装面」を「保護」する「膜」状
の製品であることについて,日本国内の取引者及び需要者の間で広く知られて
おり,更に,本件商品を製造するほぼすべてのメーカー,流通業者・施工業者,
ユーザーが,特定のメーカーの製品を指すものではなく,様々なメーカーの商
品を全て包含する態様で「PPF」との商標を用いていたことを踏まえると,
本件商標は,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することがで
きない商標であるといえる。
したがって,本件商標は,本件指定商品のうち,「自動車本体の保護用プラ
スティックフィルム,自動車本体の保護用熱可塑性ポリウレタンフィルム,自
動車本体の保護用塩化ビニル樹脂フィルム」との関係で,商標法3条1項6号
に該当し,無効とされるべきである。
4取消事由4(商標法4条1項16号該当性についての判断の誤り)
本件商標は,本件指定商品のうち,「熱可塑性ポリウレタンフィルム」及び
「プラスティック基礎製品」との関係で,「自動車の車体表面を保護するため
のフィルム」以外の商品(例えば,対象物の表面を保護するという用途・効能
を有しない商品や,形状がフィルム状でない商品)について使用される場合に
は,商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標に当たるから,商標法4条1
項16号に該当し,無効とされるべきである。
第4被告の反論
原告の主張は,いずれも争う。
第5当裁判所の判断
1当裁判所は,審決の判断は誤りであり,原告主張の取消事由2及び取消事由
4はいずれも理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決
は取り消されるべきであると判断する。
その理由は以下のとおりである。なお,事案に鑑み,取消事由2,取消事由
4の順に検討する。
2取消事由2(商標法3条1項1号該当性についての判断の誤り)について
(1)原告は,審判手続において,商標法3条1項1号該当性について明示的に
は主張していないものの,上記第2の2(1)のとおり,「その商品の内容であ
る自動車本体の保護フィルムを普通に用いられる方法で表示するものとして
一般的に認識されていた。」と主張し,審判請求書(甲40)には,より直
接的に「以下の動画においても,『PPF』は,自動車本体を保護するフィ
ルムを意味する用語として普通に使用されている。」(18頁から19頁)
と記載していたのであるから,実質的には本件商標が商標法3条1項1号に
該当する旨を主張していたと認めるのが相当である。
したがって,審決が本件商標の商標法3条1項1号該当性の判断を誤った
かどうかについても,本件訴訟の審理の対象になるというべきである。
(2)後掲各証拠によれば,本件商標の登録査定前の本件商品に関連する「PP
F」等の語の使用状況について,以下の事実が認められる。
ア海外メーカーのウェブサイト等
(ア)3M社のウェブサイト(平成26年5月26日時点。甲47)
「PaintProtectionFilmofthefutureisherenow.IntroducingNEW
3MTM
ScotchgardPaintProtectionFilmProSeries」(訳:Paint
ProtectionFilmの未来は,今,ここにあります。3M(商標)の新しい
スコッチガードPaintProtectionFilmプロシリーズを紹介。)の見出し
の下,「Therearemanychoicesinthemarkettodayforpaintprotection
films(PPF),…」(訳:paintprotectionfilms(PPF)の市場には
たくさんの選択肢があります。)との記載がある。
また,「WherecanIputPaintProtectionFilmonmyvehicle?」
(訳:PaintProtectionFilmを車のどこに貼ることができますか。)の
見出しの下,「PaintProtectionFilmcanbeprofessionallyinstalled
anywhereyouwanttoprotectyourvehiclefinishfromscratches,
chips,stainsandotherdamagingelements.」(訳:PaintProtection
Filmは,あなたが傷,切粉,汚れなどの損傷から車の仕上げを保護した
いと考えるあらゆる場所に,専門家の手により施工することができます。)
との記載がある。
(イ)LLumar社作成の公式動画(平成27年7月27日公開。甲49
の1)
「LLumarPPF-FullHood」の見出しの下,「Thisvideodemonstrates
howtoinstallLLumarpaintprotectionfilmtothefullhoodofa
vehicle.」(訳:このビデオは,車両のフルフードにLLumarのpaint
protectionfilmを施工する方法を示します。)との記載と共に,ある人
物がフィルム状の物を自動車の車体に貼り付けようとしているサムネイ
ル画像が表示されている。
(ウ)AveryDennison社のパンフレット(平成27年作成。
甲50)
自動車の画像及びフィルム状の物を自動車の車体に貼り付けようとし
ている画像と共に,「AveryDennisonAWF1500SeriesPaintProtection
Filmoffersprotectionagainststonechips,roaddebris,insect
stainsandweathering,withoutdegradingtheoriginalpaintcolour.」
(訳:AveryDennisonのAWF1500シリーズのPaint
ProtectionFilmは,元の塗料の色を損なうことなく,飛び石,道路の破
片,虫による汚れ及び風化を防ぎます。)との記載があるほか,「1500PU
Gloss」,「1502PUMatte」との商品名を付した本件商品の諸元が記載
されている。
(エ)XPEL社のウェブサイト(平成28年3月3日時点。甲48)
「PAINTPROTECTIONFILMS」の見出しの下,「XPELpaintprotection
filmworksasaninvisiblelayerofarmoroveryourcar’sfinish」
(訳:XPELのpaintprotectionfilmは,あなたの車の仕上げの上に,
目に見えない装甲の層として機能します。)との記載と共に,「XPEL
ULTIMATE」,「XPELSTEALTH」,「XPELTRACWRAP」,「XPELXTREME」
及び「XPELARMOR」との商品名を付した本件商品が紹介されている。
イ国内メーカー,業者のウェブサイト等
(ア)カーコーティング業者のブログ(甲78の1,78の2)
平成23年9月3日のエントリに,「『ペイントプロテクション・フ
ィルム』施工致します」,「『ペイントプロテクション・フィルム』は
1枚の透明な特殊フィルムで塗装面をコーティングすることで飛び石や
キズから愛車を守る新しい発想のボディー保護アイテムです。」との記
載,同年11月22日のエントリに,「GRANDSLAMからPP
Fまで,新車施工でずっとキレイを保っていただきます!」,「とりあ
えずPPFを施工しました!」,「良い事ばかりのPPF…」との記載
がある。
(イ)被告のウェブサイト
a平成23年11月15日時点(甲54の2)
「What’sPPF?」の見出しの下,「ペイント・プロテク
ション・フィルム(以下:PPF)とは,透明のポリウレタン製フィ
ルムを自動車やバイクなどのボディ表面に貼ることで,外的な要素か
らボディを保護し,傷がつくことを防ぐ製品のことを指します。ほか
にも『ヌードブラ』や『クリアーブラ』,『スクラッチガード』など
様々な名称がありますが透明フィルムで塗装面を保護するという点で
同じ『プロテクション・フィルム』と総称されています。」,「PP
Fはアメリカで誕生しました。その起源はカーナビゲーションや携帯
電話と同様に軍用で,ヘリコプターや戦闘機のキャノピー(搭乗座席
窓)やプロペラなどの保護が目的でした。…2000年代に入り,自
動車用のマーケット拡大のために自動車用としての製品開発が始まり,
今ではアメリカを中心に10社程度のフィルム製造メーカーがビジネ
スを行っています。」との記載がある。
b平成25年6月21日時点(甲54の1)
「透明フィルムでボディを守る愛車保護の新しいスタンダード」の
見出しの下,「そこでボディに貼る透明フィルム『ペイント・プロテ
クション・フィルム(PPF)』が登場。…Yes!PPFは日本で
最も多くの施工実績を持ち,限られた施工店にて取り扱いをすること
で高い施工技術と商品知識を持つPPFのプロ集団です。」との記載
がある。
(ウ)原告のウェブサイト(平成25年2月22日時点。甲51の1)
「PaintProtectionFilm透明なフィルムが愛車を守る」の表題,「P
PF-Movie」の見出しの下,自動車のボンネット部分が透明な素
材で覆われているかのような画像と共に,「…初公開したプロテクショ
ンフィルム(開発編)のプロモーションムービーを公開致します。」,
「車を所有していると色々な原因でキズついてしまいます。ユニグロー
ブペイントプロテクションフィルムは,そんなキズからボディを透明な
フィルムで保護する画期的な製品です。貼って,剝がせて,元通りにな
る…」との記載がある。
(エ)3Mジャパン社のウェブサイト(平成27年3月12日時点。甲58)
「スクラッチガード」の見出しの下,「車体を傷やサビから守ったり,
摩耗・異音の発生などを効果的に防止したりなど,様々な用途に使える
透明ペイントプロテクションフィルム(PPF)です。」,「スクラッ
チガードは,厚さ0.21mmの透明ペイントプロテクションフィルム
(PPF)です。愛車の様々な箇所に貼ることで,ボディをキズから守
ることが出来ます。」との記載がある。
ウ国内雑誌の記事,広告等
(ア)ゲンロク平成20年12月号(同月1日発行。甲55の1)
被告を紹介する記事中に,「すでにボディコーティングを施行(判決
注・原文のまま)しているXKですが,いま注目のペイントプロテクシ
ョンフィルムを装着してみました。」,「…私の目的は,飛び石などに
よるキズ防止フィルム“ルーマー”の施行(判決注・原文のまま)であ
る。もともとルーマーは,ビルの窓に貼る飛散防止フィルムとか,サッ
シに貼る盗難防止フィルムなど建材用フィルムを扱うアメリカの会社で,
クルマ用のプロテクションフィルムを新たに開発したという。」との記
載がある。
(イ)スペシャルカーズ(モーターファン別冊)(平成21年3月24日発
行。甲55の2)
「貼るだけで飛び石の被害を低減!ボディを守る透明の鎧」,「L
LumarPAINTPROTECTIONFILMルーマー・
ペイントプロテクションフィルム」,「…透明な保護フィルムを塗装の
上に貼ってしまう“ルーマー”のペイントプロテクションフィルムだ。
このルーマーペイントプロテクションフィルムは,高分子,高透過ポリ
ウレタンでできた厚さ150μの無色透明なフィルム」,「愛車を飛び
石から守りたい人にとって,要注目のアイテムとなりそうだ。」との記
載がある。
(ウ)ゲンロク平成24年8月号(同年6月26日発売。甲55の3)
被告を紹介する記事中に,「PPF,施工しました」の表題,「さら
に進化したPPF」の見出しの下,「北米・テキサス州に本拠を構える
XPEL社が取り扱うペイント・プロテクション・フィルム(PPF)。
専門メーカーである強みを活かし,さまざまなモデルに対応したPPF
を世界中に販売する。」,「…今月は以前から気になっていたボディチ
ューニング,ペイント・プロテクション・フィルム(PPF)を施行(判
決注・原文のまま)した。」,「PPFは柔軟性が高くて硬化しにくい
ポリウレタンを基本素材としています。例えば走行中のクルマの場合,
ボディ面にとっての最大の敵は飛び石になります…。…PPFで保護し
ておけば,安心だと思います」,「さてPPFの仕上がりのほどは,次
号詳しく報告するつもりだ。」との記載がある。
(エ)afimp.平成24年11月号(甲28)
「最高峰の『PPF』技術を求めて,アメリカXPEL社で武者修行!
ボディを柔軟性のある透明フィルムで保護するペイントプロテクション
フィルムが今,新しい。」,「ボディ保護に効く新技,PPFの存在に
注目を!」,「日本のスタイルアップシーンでは,ヘッドライトへのカ
ラード施工でまずは注目を集めたペイントプロテクションフィルム(P
PF)。ラッピングに使われるフィルムとは違って,PPFは透明のポ
リウレタン製で非常に柔軟性が高い。」との記載がある。
(オ)アメ車マガジン平成24年12月号(甲27)
「PAINTPROTECTIONFILM」の見出しの下,「アメリカで人気爆発の注
目アイテム『PPF』」,「今,アメリカで話題のプロダクツがある…そ
の名も『ペイント・プロテクション・フィルム(PPF)』」,「ペイ
ント・プロテクション・フィルム(以下PPF)というものを聞いたこ
とがあるだろうか?読んで字のごとくだが,愛車の塗装面を飛び石や
イタズラ,鳥のフンや虫の体液,荷物の積み降ろしなどで発生するキズ
から守ってくれるフィルムだ。」との記載がある。
(カ)ゲンロク平成25年7月号(同年5月25日発売。甲57の1)に,
被告が取り扱うXPEL社製の本件商品の広告が掲載されており,「P
rotectionfilm=Yes!PPF」の見出しの下,「X
PEL『フィルム』で守る,愛車保護の新しいスタンダード」,「ペイ
ント・プロテクション・フィルム(PPF)をご体感いただく…」との
記載がある。
また,同誌平成26年4月号(同年2月26日発売)から平成28年
3月号(同年1月26日発売)にかけての少なくとも8号に掲載された
被告の広告に,「ペイント・プロテクション・フィルム(PPF)」と
の記載がある。(甲57の4,57の5,57の7から57の12)
(キ)各雑誌の購読者及び発行部数
上記各雑誌の購読者は,主に高級車及び外国車の愛好家であり,発行
部数は次のとおりである。(甲101,103から104の2,111)
ゲンロク15万部(平成28年10月時点)
アメ車マガジン15万部(平成25年4月時点)
afimp.15万部
エユーザーのブログ等
平成22年から平成28年1月にかけて執筆された本件商品に関する投
稿記事(本件商品を施工した,少なくとも異なる13名のユーザーによる
もの。)において,本件商品を指すものとして「PPF」の語が単独で,
又は「ペイントプロテクションフィルム」,「PaintProtectionFilm」の
語と共に使用されている。(甲15,86から97)。
オウィキペディア(英語版。平成22年9月16日時点。甲45の1)
「Paintprotectionfilm」の項目に,「PaintProtectionFilm(PPF)AKA
ClearBraisathermoplasticurethanefilmthatisappliedtothe
leadingpaintedsurfacesofaneworusedcarinordertoprotectthe
paintfromstonechips,bugsplatterandminorabrasions.」(訳:Paint
ProtectionFilm(PPF),別名ClearBraは,新車や中古車の塗装面を
飛び石や虫,軽度な擦り傷から守るために塗装面に施工される熱可塑性ウ
レタンフィルムです。),「Thefilmismanufacturedbythesemajor
companies3M,Llumar,Bekaert,AveryDennison–nanofusion,XPEL–
value,standardandpremium,Sharpline-DuraShield+,VentureShield
andothers.」(訳:フィルムは次の主要メーカーによって製造されていま
す:3M,Llumar,Bekaert,AveryDenniso
n-nanofusion,XPEL-value,standard
及びpremium,Sharpline-DuraShield+,V
entureShieldほか)との記載がある。
(3)上記(2)の認定事実を前提として,「PPF」の語が本件商品の普通名称に
当たるか否かを検討する。
ア本件商品は,軍用ヘリコプターの回転翼の損傷を防ぐためのフィルムを
起源とするもので,その技術が自動車の塗装面を保護するためのフィルム
として転用されたものである。(甲2,54の2)
本件商品は,飛び石や虫などによる自動車の車体の傷や汚れを防ぐため
の保護フィルムであるから,主な需要者は,自動車の車体にそのような傷
や汚れが付くことを特に厭うような高級車や外国車の所有者であり,主な
取引者は,本件商品の製造者,輸入者などのほか,本件商品を自動車の車
体に施工する業者と認めるのが相当である。(甲76,98)
イ上記(2)ア及びオによれば,外国における本件商品の主要メーカーのウェ
ブサイトでは,本件商品を指す用語として「paintprotectionfilm」及び
「PPF」の語が特段の注記もなく使用されており,自社商品を識別する
ために,3M社は「Scotchgard」,AveryDennison社は「AWF
1500シリーズ」,XPEL社は「XPELULTIMATE」等といった独自の商標を
用いていることが認められる。さらに,インターネット上の百科事典とい
えるウィキペディア(英語版)には,「Paintprotectionfilm」の項目に,
「PPF」の語と共に本件商品の説明が記載されている(なお,ウィキペ
ディアは,誰もが自由に記事を執筆できるものであるが,正確性を担保す
るための一定の仕組みが構築されているし(甲45の2から45の4),
本件において問題となっている項目の記載内容は,本件商品の主要メーカ
ー等のウェブサイトにおける記載と整合しているから,信用するに足りる
ものというべきである。)。これらの事実によれば,英語圏においては,
本件商標の登録査定当時,「paintprotectionfilm」の語は本件商品の一
般的名称として,「PPF」の語はその略称(「paintprotectionfilm」
の各単語の頭文字を組み合わせたものであることは明らかである。)とし
て,それぞれ使用されていたと認めるのが相当である。
ウそして,上記(2)イからエにおいて認定したとおり,本件商品の国内メー
カーや施工業者のウェブサイト,雑誌の記事及び広告,ブログの投稿記事
において,本件商品が,アメリカ発の先端的商品としてしばしば紹介され,
かつ,その記事の中で,本件商品を指す用語として,「ペイントプロテク
ションフィルム」,「PPF」,「ペイント・プロテクション・フィルム
(PPF)」の各語が繰り返し使用されていたことも明らかである。
そうすると,本件商品の取引者や需要者は,本件商標登録査定当時,(2)
イからエに認定したような国内の記事を通じて,あるいは,(2)アに認定し
た国外の商品紹介記事等に直接接することによって(アにおいて認定した
とおり,本件商品の需要者は,高級車や外国車を保有する消費者であるか
ら,車やその美観の維持等について関心や意識が高いことが予想され,ま
た,取引者は,そのような需要者を相手とする業者であることを考えると,
国内の記事に関心を持った需要者や取引者が,国外の情報をも得ようとす
ることは十分に考えられるところであるし,現に,そのようなことが起こ
っていたことがうかがわれる。),「ペイントプロテクションフィルム」
は,車の保護フィルムである本件商品一般を指す言葉であり,「PPF」
はその略称であると認識していたものと認められる。
エこの点,ゲンロク平成27年9月号から平成28年3月号にかけて掲載
された被告の広告には,いわゆるチェックマークと「Yes!PPFP
AINTPROTECTIONFILM」を組み合わせて意匠化した
ロゴと,「ペイント・プロテクション・フィルム(PPF:ピーピーエフ)」
の語が記載されているところ(甲57の10から57の12),これらの
広告のみを見る限りにおいては,「PPF」の語が,被告の販売・施工す
る自動車用車体・ガラス保護フィルムの出所識別標識として使用されてい
るとみる余地もある。
しかし,これらの広告は,本件商標の登録査定日の約半年前からされた
ものにすぎず,それ以前からされている他者による「PPF」の語の使用
状況に鑑みると,本件商品の取引者及び需要者においては,「PPF」の
語が本件商品の一般的な略称として用いられていたとの判断を左右するに
足りないというべきである。
オ以上によれば,本件商品の取引者及び需要者は,本件商標の登録査定時
において,「PPF」の語を本件商品の一般的な略称と認識していたと認
めるのが相当である。
したがって,「PPF」の語は本件商品の普通名称に当たるというべき
である。
(4)そして,本件商標は標準文字からなるものであるから,普通に用いられる
方法で表示する標章のみからなる商標に該当することは明らかである。
したがって,本件商標は,本件指定商品のうち,「自動車本体の保護用プ
ラスティックフィルム,自動車本体の保護用熱可塑性ポリウレタンフィルム,
自動車本体の保護用塩化ビニル樹脂フィルム」との関係で,商標法3条1項
1号に該当する。
よって,原告主張の取消事由2は理由がある。
3取消事由4(商標法4条1項16号該当性についての判断の誤り)について
上記2において認定したとおり,「PPF」の語は本件商品の普通名称に当
たるところ,熱可塑性ポリウレタンフィルムは本件商品の代表的な素材である
と認められるから(甲2,8,18の3,45の1,51の2,54の2,5
8),本件商標を「熱可塑性ポリウレタンフィルム」全般に使用すると,他の
用途に用いるための当該フィルムについても,自動車の車体表面を保護するた
めのものであると誤って認識される可能性があるというべきである。
また,本件商品はプラスチック製品の一種であるから,本件商標を「プラス
ティック基礎製品」に使用すると,自動車の車体表面の保護以外の用途や,フ
ィルム以外の形状を有するものに用いるための当該基礎製品についても,自動
車の車体表面を保護するためのフィルム全般に関連する製品であると誤って認
識される可能性がある。
したがって,本件商標は,本件指定商品のうち,「熱可塑性ポリウレタンフ
ィルム」及び「プラスティック基礎製品」との関係で,本件商品以外の商品に
ついて使用される場合には,商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とい
え,商標法4条1項16号に該当する。
よって,原告主張の取消事由4は理由がある。
4結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告主張の取消事
由2及び取消事由4はいずれも理由があるから,審決は取り消されるべきであ
る。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
杉浦正樹
裁判官
間明宏充

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