弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
       事   実
第一 双方の求める裁判
(原告)
1、昭和四一年審判第四、二四四号事件について特許庁が昭和四三年一〇月一六日
にした審決を取り消す。
2、訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決
(被告)
主文と同旨の判決
第二 原告の請求の原因
一、訴外【A】は、昭和三七年九月七日「抽斗箱の中仕切装置」の考案につき、特
許庁に実用新案登録の出願をしたが(同年実用新案登録願第五一、二七〇号)、昭
和四一年五月一九日拒絶査定をうけたので、同年六月一七日審判の請求をした(同
年審判第四、二四四号)。
 原告は、同人から右出願中の実用新案登録をうける権利を譲りうけ、昭和四一年
一二月一九日被告に出願人名義変更届をした。この出願につき昭和四二年七月二〇
日出願公告がなされたが、訴外【B】から登録異議の申立てがあつたので、原告は
昭和四二年一二月一八日明細書および添付図面の全部を補正する手続補正書を提出
したところ、特許庁は、昭和四三年一〇月一六日、右補正を却下する決定をすると
ともに、右登録異議の申立てにつき、理由があるとする決定ならびに前記審判事件
につき、審判請求は成り立たない旨の審決をし、その審決謄本は同年一一月一三日
原告に送達された。
二、本件実用新案の右補正前の「登録請求の範囲」は、
a、抽斗箱1の底2に縦横任意の方向に適宜列数の小孔3を列設し、
b、之に中間仕切板4をねじ5で締付けるようにした抽斗箱の中仕切装置。
というのであり、右補正後のそれは、
a′、抽斗箱1の底板2に縦横任意の方向に適宜列数の小孔3を多数穿設すると共
に、
b′、小孔3……の穿設ピツチと等しいピツチの切込溝7を上下方向に向けて形成
した仕切板支持板6を抽斗箱1の内壁面に設け、
c′、一方、該仕切板支持板6の切込溝7と対向するそれと同様な切込溝7′を形
成した仕切板支持板6′を両側に突設し、
d′、且つまた、
下端部と抽斗箱1の底板2とを面接合させる為の折曲部4′を下端部に形成した中
間仕切板4を抽斗箱1の上記切込溝7内に挿入して支持し、
e′、更に中間仕切板4と抽斗箱1の底板2との面接合部分を小孔3に通したねじ
5で締付けた抽斗箱の中仕切装置。
というのである。
三、そして、前記補正却下の決定の理由の要旨は、
 補正後の登録請求の範囲に記載された事項により構成される考案は、スイス国特
許第二四八、九九九号明細書(昭和二四年一一月二五日特許庁陳列館受入)(以
下、第一引例という。)および実用新案出願公告昭和二九年第九、二一三号公報
(以下、第二引例という。)に記載された考案にもとづいて、きわめて容易に考案
することができたものである。すなわち、補正後の登録請求の範囲のうち、(イ)
前記a′の点は、第一引例の「抽斗基板には直角な列をなし一定間隔を保つ孔を設
ける」構造と同じであり、(ロ)b′の点は、第二引例の「引出の内部両側に適当
数の隆起条を設けて多数の縦溝を列設する」構造と同じであり、c′の点は、第二
引例の右の構造と比較して作用効果上格別の差異がなく単なる設計変更にすぎず、
(ハ)また、d′、e′の点は、第一引例の「断面H状の隔壁3を中板を通じてね
じ4により抽斗基板1の孔2に締付け固定する。そしてこの隔壁は抽斗内部を仕切
る部材を構成する」のと同じであり、(ニ)とくに、仕切板の下端部と底板とを面
接合させるための折曲部を仕切板下端部に設けることは当業者が右引例の記載から
きわめて容易に考案をすることができる程度のものである。
 したがつて、この補正は実用新案法第一三条、特許法第六四条第二項、第一二六
条第三項の規定に違反し許されないものである、
というにある。
 そして、本件審決の理由の要旨は、まず本願実用新案の要旨を前記補正前の登録
請求の範囲の記載のとおりに認定したうえ、これと第一引例とは「抽斗箱の底に縦
横任意の方向に適宜列数の小孔を列設し、之に中間仕切板をねじで締付けるように
した抽斗箱の中仕切装置」である点において、まつたく一致しているから、本願考
案は実用新案法第三条第一項第三号の規定により登録をうけることができない、と
いうものである。
四、しかしながら、右審決はつぎのとおり判断を誤つた違法のものであるから、そ
の取消しを求める。
 すなわち、審決は、原告が前記のとおり本願実用新案の明細書全部の補正をした
のに、補正前の登録請求の範囲の記載にもとづいて考案の要旨の認定をし、その登
録要件を否定したのであるが、これは、前記のとおり右補正を却下する旨の決定を
したうえ、これにより補正がないものとして審決したことによるものである。しか
し、右補正却下の決定は、つぎの点で判断を誤つた違法なものであり、したがつ
て、またこれを前提として前記の判断をした本件審決も、本願考案の要旨の認定を
誤つた違法がある。すなわち、
い、前記補正却下決定の理由要旨中、(イ)の点について
 本件考案の抽斗箱の底板も第一引例のものも、ともに底板に小孔を穿設した点で
は一致するが、引例の底板の小孔は両端部のもののみが隔壁を支持するための小孔
であり、その他の底板中央にある小孔はすべて他のパーツを支えるための小孔であ
つて、本件考案のそれとは目的が異なる。したがつて、両者を同一であるとした決
定は誤りである。
ろ、同(ロ)の点について
(1) 第二引例は、引出の内部両側のみに多数の縦溝を設けたものであるのに対
し、本件考案はーその仕切板支持板を設けたことに関しては、つぎの(2)にゆず
り、ここではふれない。ー抽斗内の左右壁のみならず前後壁にも、すなわち内面四
囲全面に多数の縦溝を設けるほか、中間仕切板4の両側面にもこれを設けたもので
ある。この構成上の差異にもとづいて、第二引例のものが引出内部を前後に分割す
ることしかできないのに対し、本願のものが抽斗内部を碁盤目に仕切ることができ
るという作用効果の相違が存在する。
(2) また、第二引例の縦溝は、引出の側壁じたいの隆起条に設けられるのに対
し、本件考案は、抽斗箱側壁とは別体に構成された仕切板支持板に縦溝を設けてい
る。
 そして、中間仕切板の両側に直接溝を構成しようとすると強度の点で満足なもの
を得ることができないが、本件考案は中間仕切板の両側に別体に仕切板支持板を設
けているから、強度的にも十分満足なものを得られるという作用効果がある。
(3) さらに、第二引例は底板に孔を設けておらず、したがつて小孔のピツチと
等しいピツチの切込溝を設けるという点についてなんら示唆するところがない。
したがつて、両者が同一または単なる設計変更にすぎないとした決定の判断は誤り
である。
は、同(ハ)の点について
(1) 第一引例は、隔壁が抽斗基板に設けた小孔にねじ止めされる点で本件考案
と共通するが、その隔壁はねじ4・4によつてその端部が抽斗基板に止められてい
るだけである。これによつてみると、その隔壁は、抽斗内を仕切ることのみを目的
とするもので、抽斗板を強化することはまつたく考慮されていないと考えざるをえ
ない。
(2) また、同引例の隔壁は抽斗の側壁とはなんら関連がないのに対し、本件考
案の隔壁(中間仕切板)は、抽斗側壁に設けた仕切板支持板の縦溝にその側壁を嵌
合させて支持されているため、隔壁に直角方向の力が加わつたとしても、その力が
縦溝によつて受けられるから隔壁の強度が大となるという、引例にない効果を有す
る。
したがつて、両者を同一であると認定した決定は誤つている。
に、同(ニ)の点について
 一枚板の下端を折り曲げて接触面を作ることについての記載は、第一引例にはな
い。また、本件考案が中間仕切板の下端部を折り曲げて抽斗箱の底板と接する面を
構成したために、仕切板じたいの厚味を非常に少なくすることが可能となり、その
両側に仕切板支持板を突設しても、第一引例のものよりはるかに厚味を少なくする
ことができる、という効果がある。
 したがつて、この点を第一引例からきわめて容易に考案しうるものと判断した決
定は誤りである。
第三 被告の答弁
一、請求の原因一ないし三の事実は認めるが、同四の審決を違法であるとする主張
は争う。
二、い、請求原因四、い、について
 第一引例の第一図と第六図によれば、同引例の隔壁を支持するための小孔2とし
て、明らかに底板中央の小孔が指示されている。また、この抽斗は重い工具を収納
するものであるから抽斗板を強化する必要が大きいものであり、隔壁がねじによつ
て端部だけを止められているとしても、このねじを多くして抽斗板の強度を高める
ことは、きわめて容易になしうることである。
ろ、請求原因四、ろ、について
(1) 第二引例に、引出の内部両側に仕切板を挿入する多数の切込溝を設けるこ
とが示されている以上、切込溝を引出の内面四囲および中間仕切板に設けること
は、単なる設計変更にすぎない。
(2) 抽斗箱側壁と仕切板支持板とを別体に構成して溝を形成するか、側壁じた
いに溝を形成するかは、当業者がきわめて容易に取捨選択しうる単純な設計上の問
題にすぎず、作用効果においても格別の差異はない。
(3) また、小孔のピツチと等しいピツチの切込溝を設ける点は、仕切板を小孔
に係止するさいに起こる当然の設計上の問題であつて、格別の作用効果をもつもの
ではない。
は、請求原因四、は、について
(1) 第一引例の抽斗箱は重い工具を収納するものであり、当然抽斗板を強化す
る必要が考えられるものであり、このことからいつても、隔壁のねじ止めが端部だ
けに限定されているという原告の主張は誤りである。
(2) 第二引例においても、隔壁はその側端を引出側壁に嵌合されて支持されて
いることが明記されている。
に、請求原因四、に、について
 およそ板と板とを直角に接合するさいに、片方の板の下端部を折り曲げて他の板
に接する面を構成することは、きわめて普通のことで、むしろ第一引例のように断
面H状に隔壁を形成すると底板を強化しうるものである。
第四 証拠(省略)
       理   由
1、原告の請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経過、本件実用新
案のー補正前および補正後におけるー登録請求の範囲ならびに本件審決および補正
却下の決定の各理由の要旨)は、当事者間に争いがない。
 ところで、実用新案法第四一条が同法の審判に準用する特許法第一五九条第一項
の規定が、同法第五四条の規定を同法第一二一条第一項の審判に準用しているとこ
ろからすれば、右争いのない事実にみられる本件の手続におけるように、実用新案
登録願の拒絶査定に対する審判において、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達
後になされた明細書および図面の補正につき、該当法条に違反するものとして、こ
れを却下する決定がなされ、そしてこれにより補正がないものとして拒絶の審決が
なされたという場合には、審判請求人は、右審決に対する取消し請求の訴訟におい
て、右決定における違法を主張してこれを争い、よつてこの決定にもとづいてなさ
れた審決の違法を主張しうるものと解するのが相当である。そして本件における右
の補正が、「登録請求の範囲の減縮」を目的とするものであることは、補正の前後
における「登録請求の範囲」を比較すれば明らかであるから、この考慮のもとに以
下原告が請求原因四で主張する補正却下決定が違法であるとする事由について判断
する。
2、請求原因四、い、の点について
 本件考案における前記a′の構成(すなわち、「抽斗箱の底板に縦横任意の方向
に適宜列数の小孔を多数穿設する。」)が、甲第五号証(本件の各書証は、成立に
つき争いがない。)によつて認められる第一引例の「抽斗基板には互いに直角な列
をなし一定間隔を保つ孔を設ける。」という構成と一致することは明らかである。
そして、本件考案の小孔も第一引列の孔も、各孔の列の両端部のもののみならず中
間部のものも、隔壁を抽斗底板にねじ止めする目的をもつことは、後記4、(1)
のとおりであるから、前記a′の構成について、引例との間に目的の相違があるこ
とを根拠として、本件考案と引例との差異をいう原告のこの点の主張は、採用でき
ない。
3、請求原因四、ろ、の点について
(1) その(1)について
 第二引例が、引出の内部両側のみに多数の縦溝を設けたものであり、したがつ
て、その縦溝に仕切板を挿入することにより、引出を前後の方向に分割することが
できるにすぎないことは、甲第六号証により明らかであり、したがつて、本件考案
において、抽斗内壁四囲および中間仕切板の両側にも(仕切板支持板を介して)多
数の縦溝を設け、これにより補助仕切板の使用とあいまつて抽斗内部を碁盤目に仕
切ることができるのと、構成および作用効果のうえに差異があることは原告主張の
とおりである。
 しかしながら、箱体の内壁四囲に多数の縦溝を設け、この縦溝に嵌合させるべき
仕切板の両側にも同ピツチの縦溝を対応して設け、大小数箇の仕切板を縦溝方向に
適宜組み合わせて互いに嵌合させ、箱体内部の所望の大きさ・区画に仕切るような
ことは、本件出願前から印箱などに用いられる慣用の手段であることは周知に属す
る。そして、前記のとおり引出(箱)内部両側に設けられた縦溝と仕切板との嵌合
により、引出(箱)内部を前後に区分する第二引例が公知である場合に、これに右
の慣用手段を適用して本件考案の前記構成のようにすることは、当業者がきわめて
容易になしうるところである。
(2) その(2)について
 甲第六号証によれば、第二引例の縦溝は、「引出の内部両側」に設けた隆起条に
列設されるものとされており、そして同添付図面に示す右隆起条は引出の側壁じた
いの彎曲により構成されていることを認めることができるが、同引例の「実用新案
の性質、作用及効果の要領」の項にも「登録請求の範囲」の項にも、単に引出の内
部両側に適当数の隆起条を設ける旨の記載があるにとどまり、この隆起条が引出じ
たいの内部構成部分すなわち側壁じたいの内部両側部分に形成せられるべきことを
限定する趣旨の記載も示唆も見当たらないのであつて、この引例の記載全体からす
れば、その隆起条は、必ずしも原告主張のように引出の側壁じたいに設けられてい
るものと解することはできない。したがつて、隆起条(仕切板支持板)が引出側壁
じたいであるか別体であるかの相違があることを前提として、本件考案と第二引例
との差異をいう原告の主張は失当である。のみならず、仕切板支持板を中間仕切板
と別体に設けたことによる原告主張の作用効果については、本件の明細書になんら
記載がないから、これを根拠とする原告の主張も採用できず(なお仮に原告主張の
作用効果があるものとしても、本件考案にかかる装置じたいの性質、その用途にか
んがみれば、その作用効果のもたらす利点が必ずしも重要な意味をもつものとは考
えられない。)、したがつて仮に原告のいう両者の構成上の差異点があるとして
も、それは結局単なる設計上の微差というに帰着する。
(3) その(3)について
 前記のとおり第二引例は、単に仕切板両端を引出内壁の縦溝に嵌入して引出内を
仕切るものであるから、縦溝のピツチを小孔のピツチと等しくする構想がないこと
は当然である。一方、第一引例は、つぎの4、(1)で説示するごとく、隔壁をね
じにより抽斗基板の孔に(両端部の孔のみでなく中間部の孔においても)締めつけ
固定するものであるから、孔のピツチを縦溝のピツチと等しくする構想をもたない
のは、当然である。
 そして、本件考案は、第二引例の縦溝嵌入の機構と、第一引例のねじ止めの機構
とを併用して、仕切板を抽斗内に強固に固定するものというべきであるから、仕切
板を固定するための縦溝とねじ孔との各穿設ピツチを等しくすべきことは、右の併
用にあたり何人も思いつく当然の手段にすぎないことで、そのことじたいになんら
かの考案力を必要とするかのごとき原告の主張は採用できない。
4、請求原因四、は、の点について
(1) その(1)について
 甲第五号証によれば、第一引例には、「抽斗基板1には互いに直角な列をなし一
定間隔を保つ孔2を設ける。……断面H状の隔壁3を中板を通じてねじ4により抽
斗基板1の孔2に締め付け固定する。そしてこの隔壁は抽斗内部を仕切る部材を構
成する。」との記載があり、ねじによる締めつけ箇所については隔壁のいずれの部
分であるかにつき格別の限定がないこと、添付第一図には、抽斗基板に二箇の隔壁
3および3がそれぞれねじ4・4および4により孔に締め付け固定された外観平面
図が一部切欠して、また、第六図にはその横断面図が示されているが、その第一図
中一箇の隔壁3(同図の中央よりやや上部に示されているもの)は、両端部のねじ
4・4で固定されていて、その中間部には数箇の記号用駒が隔壁の上面に散在して
おり、また、他の隔壁3(同図の下端に一部切欠して示されているもの)は、その
ほぼ中央部においてねじ4で固定されていること、そして、この後者のねじ4に対
応する前者の隔壁の該当位置には、記号用駒が存在すること、がそれぞれ認められ
る。これらの記載によつてみれば、第一引例の各隔壁3および3は、いずれもその
両端部のほか、中間部においてもねじにより抽斗基板に固定されているものとみる
のがむしろ相当であつて、原告主張のように、第一図中の右前者の一箇の隔壁の外
観図のみを根拠に、ねじ止めは両端のみであると断定するのは早計である。
 したがつて、本件考案における、中間仕切板と抽斗底板とを小孔に通したねじで
締めつける構成と、第一引例の、前記隔壁をねじにより抽斗基板の孔に締めつける
構成との間に格別の差異は認められず、したがつてそこから得られる作用効果をも
同じくするものというべきである。
 このような構成を採用する目的につき、本願は抽斗箱の底板の「補強」を明示し
ているのに対し、引例にはとくにかかる意図が明示されていないにしても、そのこ
とは両者の考案としての同一性を否定するものではない。
(2) その(2)について
 第一引例の隔壁に原告主張のような抽斗側壁との嵌合という構成およびそれによ
る作用効果がないとしても、かかる構成、作用効果が第二引例に存することは明ら
かであるから、この点の原告主張は失当である。
5、請求原因四、に、の点について
 板と板とを直角に接合するために、一方の板の下端部を直角に折り曲げて他方の
板に接する面を構成するようなことは、本出願前からきわめて周知慣用の手段に属
するところであり、そしてまた、本件考案において中間仕切板にこの手段を適用し
たことにーこの手段の本来的な効果である接合上の利益のほかにー、仕切板の構成
として、原告主張のような格別の利点をもたらす効果のあることについては明細書
になんら記載されていないのであるから、本件考案の中間仕切板に、第一引例の断
面H状の隔壁との主張のような構成上の差異があつても、それは単なる構造上の微
差であるにすぎず、そこに考案力の存在を認めることはできない。
6、以上2ないし5において説示したところを要約して、本件考案と第一、第二各
引例とを対比するに、本件考案は、これら各引例に示された各隔壁固定機構に、前
記箱体を縦横に区画するための慣用技術その他の慣用方法をとり入れて、抽斗箱内
部を強固に大小様々に仕切ることができるようにしたものということができ、その
結合に新規なものを認めうるとしても、そこに期待しうる作用効果は、各公知、慣
用の技術がもつものの総和の域を出ないというべきであり、結局、右各引例にもと
づいて当業者がきわめて容易に考案しうる程度のものというほかはない。
7、そうすると、本件補正後の本件実用新案について登録要件を否定し、その補正
を許さなかつた補正却下の決定は正当であり、したがつて、補正がないものとして
本件実用新案の要旨を認定した審決の判断には原告主張のような違法がないから、
その取消しを求める原告の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき
民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 古原勇雄 杉山克彦 武居二郎)

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