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裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 検察官の上告趣意第一点について。
 所論は判例違反を主張するけれども、引用にかかる判例は、いずれも第一審の無
罪判決の理由の説示に関するものであつて、第一審の有罪判決に対する控訴につき、
控訴審裁判所が事実誤認の控訴趣意を容れ、その理由を説明の上第一審判決を破棄
自判し、無罪を言渡した本件には適切でない。のみならず犯罪の証明なしとの理由
によつて無罪の言渡しをする場合に、判決において個個の証拠につき、その採るを
えない理由を逐一説明する必要はないと解すべきである。ところで、原判決は記録
および証拠物ならびに原審における事実の取調べの結果のすべてを検討した上、第
一審判決中所論第六および第七の判示事実につき、有罪の認定を支持するに足る証
拠がない旨を判示しているものと認められるのであつて、個個の証拠についてその
採るをえないゆえんの説示を、第一審判決が有罪認定の証拠として掲げたものにつ
いてのみに止め、その他の証拠におよぼさなかつたからといつて何ら理由不備の違
法があるものとはいえない。
 同第二点について。
 所論は原判決は無罪部分において、審理不尽の違法があり、又証拠の信用性およ
び証明力に関する判断を誤まり、その結果重大な事実の誤認をした違法があるとい
うのであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べ、証拠を検討
するに、被告人Aおよび被告人Bに対する第一審判決判示第七の駐在所爆破の事実
については、被告人両名が深夜駐在所爆破直後その現場附近で逮捕されており、又
その成立を被告人Bにおいて争つてはいるが、同被告人の司法警察員Cに対する駐
在所の爆破は右被告人両名および氏名不詳者一名の共同犯行である旨の自白調書が
存在し、第一審においてその証拠調べがなされており、かつ被告人Aについては、
原判決が有罪と認定したダイナマイト等の爆発物等不法所持の事実があり、その他
にも形式的には被告人らの有罪を疑わしめる証拠が存在することは、論旨指摘のと
おりである。又他の無罪部分についても同様のことがいえる。しかしながら、記録
を精査しても、それらの証拠の採否に関する原審の判断が合理性を欠き、採用すべ
き証拠を排斥し、排斥すべき証拠を採用するの誤りをおかし、その結果原判決に重
大な事実を誤認した違法があるということは、これを認めることができない。
 被告人A、同Dの弁護人清源敏孝、同木下方一、同諸富伴造の上告趣意第一点に
ついて。
 所論は被告人Aの爆発物等不法所持の事実に対する証拠とされた裁判官吉田誠吾
の証人Eに対する尋問調書は、刑訴二二七条、二二八条により、被告人および弁護
人に審問の機会を与えずに作成されたもので、憲法三七条二項に違反し、無効であ
り、これを証拠とした原判決は憲法三七条二項に違反するというのである。
 しかし、憲法三七条二項の規定が反対尋問の機会を与えない証人その他の者の供
述を録取した書類は絶対に証拠とすることは許されないという意味を含むものでな
いことおよび刑訴二二八条二項において、同条の証人尋問に被告人、被疑者又は弁
護人の立会を任意にしたことが右憲法の条項に反するものでないことは、当裁判所
判例(昭和二三年(れ)第八三三号同二四年五月一八日大法廷判決集三巻六号七八
九頁および昭和二五年(あ)第七九七号同二七年六月一八日大法廷判決、集六巻六
号八〇〇頁)の示すところである。そして記録によれば、証人Eは第一審第五回、
第一四回および第一五回公判廷において、又原審第一四回公判廷において尋問され、
被告人側の反対尋問にさらされ、しかも原審においては所論の尋問調書につき尋問
を受けているのであつて、これを証拠とした原判決が憲法三七条二項に違反するも
のでないことは当裁判所判例(昭和二五年(し)第一六号同年一〇月四日大法廷決
定、集四巻一〇号一八六六頁)により明らかである。
 同第二点について。
 所論は被告人Aの爆発物等不法所持の事実につき事実誤認を主張するものであつ
て、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べたけれども、原判決に事
実誤認ありとは認められない。なお所論証人Fの証言はこれを無批判的に信用する
ことのできないことは勿論であるが、その全部が虚偽であるとは認められない。同
証人が昭和二七年五月下旬頃Gからダイナマイト等を受取つてこれを被告人Aに渡
した点については、証人Gおよび証人Eの各供述による裏附けがあるのであつて、
原審がこの点に関する証人Fの証言の一部を採用したことを以て採証法則に違背し
た誤りがあるとはいえない。
 同第三点について。
 所論は被告人Aの脅迫の事実につき事実誤認を主張するものであつて、刑訴四〇
五条の上告理由に当らない。また記録を調べたけれども、原判決に事実誤認ありと
は認められない。なお、引用にかかる判例は本件と事案を異にし、本件に適切でな
く、同被告人の原判示所為は脅迫罪にあたること明らかである。
 同第四点について。
 所論は被告人Dの匕首不法所持の事実につき事実誤認を主張するものであつて刑
訴四〇五条の上告理由に当らない。のみならず旧銃砲刀剣類等所持取締令にいう「
刃渡」とは鋩子と棟区とを直線で測つた長さをいうものと解すべきであつて(昭和
二六年(れ)第八九〇号同年九月六日第一小法廷判決、集五巻一〇号一八九一頁参
照)、記録および押収にかかる匕首を検討すると、その刃渡が一五糎あること明ら
かである。しかして、刃渡が一五糎以上あつたものでも、折れたり磨滅したりして
結果一五糎未満になつたような場合は別として、本件匕首の如く、たまたま金・に
よつて刃の部分が一部覆われていても、そのために刃渡の長さが変るものではない
と解するのが相当であつて、本件匕首を以て旧銃砲刀剣類等所持取締令(昭和二八
年法律第一四五号による改正前のもの)一条の刀剣類にあたるとした原判決の判断
は正当である。
 被告人A、同Dの弁護人諫山博、同今長高雄、同野尻昌次、同庄司進一郎の上告
趣意第一点について。
 所論は被告人Aの爆発物等不法所持の事実について、採証法則に違背して事実を
誤認した違法があるというのであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。記録
を調べるに、原判決が被告人Aの爆発物等不法所持の事実を認定するにあたつて引
用した第一審判決掲記の証拠中、論旨指摘の証人Hの供述は、原判決が駐在所爆破
の事実に関する証拠の判断において、これを「不自然なところがあつて、多く信用
はできない」としたものであり、又記録によれば押検二九号(ダイナマイト三本)、
同三〇号(導火線二本)は被告人Bが逮捕されたときにそのポケツトの中にあつた
ものとされ、同三四号(雷管一個)は駐在所爆破直後に駐在所玄関で、同三五号(
爆発物入りビール瓶一本)はその際駐在所前庭でそれぞれ発見されたものとされて
いるのであるが、原判決はこれらの「物件の存在の仕方に付いては種々疑問が残る」
と判示し、これらの証拠物と被告人Aとの結び付きに疑を表明しているのである。
従つて、原判決が第一審判決掲記の証拠を引用するにあたつては、これらの証拠を
除外すべきであつたのであり、これをそのまま他の証拠と一括して引用したのは原
判決の過誤と認められる。しかし、これらの証拠を除くその他の証拠によつて、原
判示事実を認めるに妨げないのであつて、原判決の右の過誤は判決に影響を及ぼす
ものとは認められない。なお、証人Fの証言の一部を採用したことが採証法則に違
背したものといえないことは、前記弁護人清源敏孝外二名の上告趣意第二点につい
て説明したとおりである。
 同第二点について。
 所論は被告人Aの爆発物等不法所持の事実について、原判決の証拠の価値判断に
くいちがいがあり、理由不備の違法があるというのであつて、刑訴四〇五条の上告
理由に当らない(なお、この点については第一点についての説明参照)。
 同第三点について。
 所論は被告人Aの爆発物等不法所持の事実について事実誤認を主張するものであ
つて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても、この点について
原判決に事実誤認ありとは認められない。
 同第四点について。
 所論は被告人Dの匕首不法所持の事実につき判例違反および事実誤認を主張する
ものであるが、この点については、さきに弁護人清源敏孝外二名の上告趣意第四点
について説明したところであり、原判決に事実誤認ありとは認められず、その判断
は論旨引用の判例に従つたものであつて、論旨は理由がない。
 同第五点について。
 所論は被告人Dの匕首不法所持の事実につき法令適用の誤り又は理由不備の違法
があるというのであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。しかし、原判決の
この点の判示を見ると、第一審判決判示第二の(一)(原判決に第二の(二)とあ
るのは誤記と認める)と同一の事実を認定する旨記されており、第一審判決には第
二の(一)の事実として同被告人が「刃渡約一五糎の匕首」を所持していた旨判示
されていることは所論のとおりであつて、「約一五糎」なる判示は明確を欠き不適
当であるとの誹りを免かれない。けれども、原判決は本件匕首の刃渡が一五糎ある
ことは、その控訴趣意に対する判断の中で明示しているのであつて、「約一五糎」
なる表現が一五糎未満を含む趣旨でないことは明らかであり、所論の如き違法があ
るとはいえない。
 被告人Aの上告趣意第一点について。
 所論中証人Eに対する裁判官の尋問調書が被告人又は弁護人を立会わせず、これ
らの者に審問の機会を与えずに作成されたことを以て憲法三七条に違反するとの論
旨は、弁護人清源敏孝外二名の上告趣意第一点と同旨に帰し、当裁判所の判断も右
上告趣意に対すると同様である。又原判決が公平な裁判所の公開裁判ではない旨の
違憲の主張については、公平な裁判所の裁判とは、組織構成において偏頗のおそれ
なき裁判所の裁判をいうものであつて(昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五月
五日大法廷判決、集二巻五号四四七頁)、所論の如き事由を以て原判決が公平な裁
判所の裁判でないということはできず、かつ記録を調べると、所論Eの証人尋問調
書は第一審第二一回公判廷において適法な証拠調べがなされており(記録第六冊三
丁参照)、その他原審ならびに第一審の訴訟手続に公開の原則に違背した点は認め
られないのであつて、公開裁判でないとの違憲の主張は前提を欠くものというべき
である。なお、所論中刑訴二二七条、二二八条の規定そのものが憲法三七条に違反
するとの主張の理由のないことは弁護人清源敏孝外二名の上告趣意第一点について
説明したとおりであり、その他は単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条
〇上告理由に当らない。刑訴二二七条の規定による証人尋問については同二二八条
二項により特に被告人、被疑者又は弁護人を立会わせる場合の外これらの者にその
通知をする必要はないものと解すべきである。
 同第二点について。
 所論は被告人Aの爆発物等不法所持の事実について事実誤認を主張するものであ
つて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても、原判決に事実誤
認ありとは認められない。
 同第三点について。
 所論は被告人Aの脅迫の事実について事実誤認および法令違反を主張するもので
あつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても、原判決に事実
誤認または法令違反のあることは認められない。
 被告人Dの上告趣意について。
 所論は同被告人の匕首不法所持の事実について、事実誤認および判例違反を主張
するものである。しかし、判例違反の主張は判例を具体的に示していないから不適
法である。かつ、この点については、さきに弁護人清源敏孝外二名の上告趣意第四
点について説明したとおりであつて、原判決に事実誤認および判例違反のあること
は認められない。
 よつて、刑訴四一四条、三九六条により主文のとおり判決する。
 この判決は証人Eに対する裁判官の証人尋問調書に関する憲法三七条二項違反の
各論旨につき、裁判官奧野健一の補足意見があるほか裁判官全員一致の意見による
ものである。
 裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。
 憲法三七条二項の「刑事被告人はすべて証人に対して審問する機会を充分に与へ
られ」るとは、反面こおいて被告人に審問する機会を十分与えられない証人の証言
及びその供述調書によつて有罪とされないということを保障したものと解する。そ
して「審問する機会を充分に与へる」ためには、原則として証人の供述の際に、被
告人を立ち会わせ、反対尋問の機会を与えることを要するものと解するのが当然で
ある。
 しかし、証人尋問の際に被告人に反対尋問の機会を与えなかつた場合でも、後の
公判期日において、その証人が再び尋問され、その際に曩にした証言部分について、
被告人側に反対尋問の機会が十分与えられているならば、結局反対尋問の機会が与
えられたことになるから、曩の証人の証言又はその供述調書を証拠とすることは必
ずしも違憲であるということはできないと考える。本件において証人Eは第一審第
五、第一四及び第一五四公判廷において、また原審第一四回公判廷において尋問さ
れ、被告人側の反対尋問にさらされ、しかも原審において所論の尋問調書につき尋
問を受けていることは記録上明白であるから、この意味において憲法三七条二項違
反の所論は採るを得ない。
 検察官 井本台吉、同玉沢光三郎、同神山欣治公判出席
  昭和三五年一二月一六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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