弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中一八〇日を本刑に算入する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人の上告趣意について。
 所論は、第一審判決の証拠とした被告人の司法警察員に対する供述、証人の供述
等の証拠能力又は証拠価値を争いその証拠の取捨、判断を非難するか又は被告人に
十分な陳述の機会を与えない不公平があると主張し結局無実の事実を有罪とした事
実誤認があるというに帰する。されば、明らかに刑訴四〇五条の上告理由として採
用することができない。
 弁護人横田真一の上告趣意第一点について。
 所論は、原審の単なる訴訟法違反の主張であるから、刑訴四〇五条の上告理由に
当らない。そして、原審の第二回公判期日に被告人並びに原審の弁護人出頭し判決
宣告期日は来る三月二三日である旨の告知を受け、同日の第三回公判期日に被告人
は出頭したが弁護人は何等正当な理由を示すことなく出頭しなかつたので、裁判所
は検察官及び被告人の意見を求めた上判決宣告期日を来る三月三〇日午前一〇時に
変更する旨告知したものであこと記録上明白である。されば、原審裁判所がかかる
弁護人に更らに期日変更の通知をしなくとも違法であるとはいえない。
 同第二点、第四点について。
 所論は、原審で主張しなかつた第一審判決が証拠とした被告人の司法警察員に対
する第一乃至第三回供述調書の証拠能力等を新らたに当審で争うものであるから、
刑訴四〇五条の上告理由に明らかに該当しない。そして、第一審裁判所は所論調書
の任意性については第一審第七回公判において証人大塚義一を交互尋問の方法で尋
問し被告人並びに弁護人に尋問の機会を与え更らに被告人に弁解を求めなお証拠の
証明力を争うことができる旨を告げた上これを証拠としたものであること記録上明
らかであるから、該供述を任意にされたものでない疑があると認めなかつたものと
いわなければならないし、その他該調書を証拠とすることにつき所論の違法を認め
ることができない。
 同第三点について。
 所論鑑定書については、被告人及び弁護人が第一審においてその証拠調の請求に
ついて何等の異議もなく、これを証拠とすることに同意し且つ原控訴趣旨において
も何等不服がなかつたこと明らかであるから、所論は、刑訴四〇五条の適法な上告
理由と認め難い。
 同第五点について。
 所論は、第一審判決の理由不備、採証法則違反を当審で新らたに主張するもので
あるから、第二審判決に対する適法な上告理由を定めた刑訴四〇五条各号のどれに
も当らない。そして、所論証拠は、第一審判決の挙示した多数の綜合証拠の一つで
あつて、この証拠だけで判示事実を認定したものではないし、また、判示事実との
間に存する所論日時、方法等の差異は、必ずしも判示事実を認定する妨げとなる程
の矛盾とは認められないから、所論のごとく信憑性のない虚偽の自白とも断ぜられ
ない。従つて、これを証拠の一つとして採用したからといつて、所論の違法がある
ともいえない。
 同第六点について。
 所論は、第一審判決の理由不備、審理不尽等単なる訴訟法違反を当審で新らたに
主張するものであるから、第二審判決に対する適法な上告理由を定めた刑訴四〇五
条に該当しない。そして、第一審判決の判示によれば、被害者Aの死亡の時が明瞭
には判示されていないが判示日午前六時頃までの間判示遺書を作成した後ち同日午
前六時より六時半頃被告人が判示Bを立ち去る以前であることを窺い知ることがで
きるし、その事実は、被告人の司法警察員に対する第一回供述調書、判示鑑定書そ
の他原判決挙示の証拠を綜合して考え合わせると肯認できるから、第一審判決には
所論の違法も認め難い。
 同第七点について。
 仮りに被告人の逮捕が所論のごとく違憲又は違法であるとしてもその一事だけで
直ちにその後に作成された司法警察員に対する弁解録取書が無効であり、従つて、
これを証拠とした第一審判決を違法であるといえないこと当裁判所大法廷の判例の
趣旨とするところである。(判例集二巻七号六五八頁以下参照)そして、所論弁解
録取書については、被告人並びに弁護人は第一審公判廷においてこれが証拠調を為
し且つこれを証拠とすることに同意したものであること記録上明白であつて、原審
においても控訴の趣意として異議を述べなかつたのである。されば、所論は結局刑
訴四〇五条の上告理由として採ることができない。
 同第八点について。
 所論は、事実誤認の主張であるから、刑訴四〇五条の上告理由と認め難い。そし
て、記録を精査しても同四一一条三号を適用すべきものとも認められない。
 同第九点について。
 所論は、事実誤認を前提をする擬律錯誤の主張に帰するから、刑訴四〇五条の上
告理由に当らない。そして、第一審判決は、本件被害者が通常の意思能力もなく、
自殺の何たるかを理解しない者であると認定したのであるから、判示事実に対し刑
法二〇二条を以て問擬しないで同法一九九条を適用したのは正当であつて、所論の
違法も認められない。
 よつて刑訴四一四条、三八六条一項三号、刑法二一条、刑訴一八一条に従い、裁
判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
  昭和二七年二月二一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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