弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所へ差し戻す。
         理    由
 上告代理人阿部正一の上告理由について。
 原審は所論引用のとおり、甲第一、二号証のみから「控訴人(被上告人)は現に
被控訴会社(上告会社)の株主であることを肯認するに十分」であるとしたうえ、
右認定に反する一審証人Dの証言および一審における被控訴会社代表者本人尋問の
結果は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はないと判示している。
 なるほど、右認定資料とされた甲第一、二号証は、被上告人名義の上告会社の株
券であつて、その成立について争いがなく、かつこれが甲号証として被上告人から
提出されたことからすれば、右認定は一見これを肯認しうるもののようである。し
かしながら、記録によれば、右甲第一、二号証は、一審においては提出されず、原
審になつてはじめて提出されたものであり、被上告人(原告)の一審における本人
尋問の結果中には「乙第二号証の一の七項に本契約と同時に株券一、〇〇〇株を甲
に渡すとありますが、この株券は現在Eがもつていると思います、私は現在これを
もつておりません。」との供述部分があり(一五五丁末行以下)、成立に争いのな
い乙第七、八号証にも被上告人が本件株式を上告会社代表者Eに譲渡した事実を推
認せしめる記載がみられる。のみならず、被上告人が一審において、上告会社の株
券は右Eが全部所持しているとして文書提出命令の申立をしている事実、および前
記甲第一、二号証の裏面裏書欄に被上告人の裏書がなされている事実は、被上告人
が一審においては甲第一、二号証を所持せず、これを他に裏書譲渡しており、上告
会社の株主ではなかつたことを窺わせるに足りる資料といわなければならない。し
からば、原審としては、被上告人を上告会社の株主であると認定するためには、以
上の証拠を排斥するか、しからざれば、被上告人がその後あらためて他から上告会
社の株式を取得した事実を認定しなければならない筈である。そして、もし後者の
場合であるならば、その取得は、取得者の氏名および住所を株主名簿に記載しなけ
ればこれをもつて会社に対抗しえない(商法二〇六条一項)のであるから、原審は
その事実をも審理判断すべきであつたといわなければならない。しかるに原審は何
らこの点について審理判断することなく、前記の如く原審においてはじめて提出さ
れ、その裏面に被上告人の裏書のある甲第一、二号証のみから、漫然と被上告人を
上告会社の株主と認定しているのである。したがつて、原審の判断には、この点に
おいて審理不尽、理由不備の違法があるというべく、論旨は理由があり、原判決は
破棄を免れない。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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