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裁判例


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主文
,,,112010011127被告市は原告に対し万円及びうち万円に対する平成年月日から
うち万円に対する平成年月日から,各支払済みまで年分の割合による金員20122285
を支払え。
原告の被告市に対するその余の請求及び被告乙に対する請求を棄却する。2
被告乙の請求を棄却する。3
訴訟費用は,本訴反訴を通じて,原告に生じた費用の分のを被告乙の,被告市に431
生じた費用の分のを原告の負担とし,その余を各自の負担とする。21
この判決第項は,仮に執行することができる。51
事実及び理由
第請求1
本訴事件1
45040011127被告らは原告に対し,連帯して,万円及び,うち万円に対する平成年月
日から,うち万円に対する平成年月日から,各支払済みまで年分の割合に50122285
よる金員を支払え。
反訴事件2
100124135原告は被告乙に対し万円及びこれに対する平成年月日から支払済みまで年,
分の割合による金員を支払え。
第事案の概要2
本訴事件は,原告が,下記()アの調査旅行の際,同イのホテルの被告乙の部屋で,同13
被告による後示()アのセクシュアル・ハラスメント行為があったと主張して,①被告21
709715乙に民法条による損害賠償を②被告市に(a)使用者責任として主位的に民法,,,
,,,条項による予備的に国家賠償法条項による損害賠償を(b)上記行為に関連して111
後示()ウの予防義務,相談苦情の対応機関の設置義務,迅速かつ適切に解決すべき義21
709務説明義務及び守秘義務の違反を主張して被告市独自の責任として主位的に民法,,,
条による,予備的に国家賠償法条項による損害賠償を各請求する事案である。11
反訴事件は,下記()()の文書送付とマスコミ報道等に関し,被告乙が後示()アの名14624
誉棄損を主張して,原告に損害賠償を請求する事案である。
争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実1
()当事者1
ア原告は,昭和a年生まれの女性で,後示本件調査旅行当時,ロシア国立プーシキン大
学大学院修士課程(言語学)の学生としてモスクワに住んでいた者である(甲)。58
イ被告乙は,昭和d年生まれの男性で,後示本件調査旅行当時,Z市立大学人文社会学
部(以下それぞれ「本件大学「本件学部」という。)の教授だった者である。」
ウ被告市は,本件大学を設置している地方公共団体である。
()本件調査旅行までの概要2
ア原告は,昭和年から平成年まで国内の旅行代理店に勤務しており,被告乙と原637
告は,当時,旅行の依頼主と社員として知り合った(甲)。58
イその後,平成年月被告乙は,他の研究者らとシベリアへの調査旅行(下記()イ1077
の研究費申請上の研究課題は「シベリア狩猟・牧畜民の生き残り戦略の研究。以下「平,」
成年調査旅行」という。)を行い,原告は,同被告の依頼で,通訳等の研究協力者とし10
てこれに参加した。
ウまた,平成年月には原告が本件大学の被告乙の研究室(以下「本件研究室」とい108
う。)で,資料整理のアルバイトをしたことがあり,平成年月には,被告乙がモスク113
ワを訪れて,原告に会い,二人でバレエや人形劇を観たりしたことがあった(被告市の関
係では甲)。58
エ一方,被告乙は原告に対し,本件研究室で資料整理等を行う秘書として働いてくれる
よう要請していた(被告市との関係では甲)。58
()本件調査旅行及び平成年月日の出来事311624
ア平成年月日から同月日にかけて,被告乙は,国立民族学博物館民族文化1161730
研究部のA助教授らと共に,ロシア・サハ共和国で調査旅行(下記()イの研究費申請上の7
研究課題は平成年調査旅行と同じ。以下「本件調査旅行」といい,各調査旅行を一括10
して「本件各調査旅行」という。)を行った。
,,。原告は被告乙の依頼で同月日から同月日まで本件調査旅行に参加した(甲)182959
イ本件調査旅行中の平成年月日,原告と被告乙は,ヤクーツク市のホテルパー11624
ルスないしパルラス(以下「本件ホテル」という。)に宿泊したが,同日の夕食時,被告乙
は原告に自分の部屋(以下「本件客室」という。)に来るよう誘い,原告は,夕食後同客室
を訪れた(被告市の関係では甲)。59
ウこの際,被告乙は,同客室内で原告に,A助教授の経歴・私生活について話をし,ま
た「甲子さんに特別な思いがある」旨を述べるなどした(被告市の関係では甲。以下,59
このときの同客室内での二人だけの時間帯を指して「本件機会」という。ただし,この機
会に後示()アのセクシュアル・ハラスメントがあったか争いがある。)。21
()原告の文書送付等4
ア平成年月日,原告は,文書(乙ロのの資料。以下一括して「本件文書11721821
Ⅰ」という。)に別紙主張対比表Ⅰ(反訴請求の原因)()摘示の内容を記載して,本件大12
学と本件学部に送付した(以下別紙主張対比表の記載は,各々の符号で「対比表Ⅰ」等と
略称して引用する。)。
イ平成年月日,原告名義及びその母親名義の文書(乙,。以下各々「本件117222627
文書Ⅱ「本件文書Ⅲ」という。)が本件大学の事務室にファクシミリで送信され,これ」
らには対比表Ⅰ(反訴請求の原因)()摘示の記載があったが,うち本件文書Ⅱは,原告が11
作成したものであった(本件文書Ⅲが原告の作成・送信によるものか争いがある。)。
ウその後,原告は,下記①ないし⑤の文書(以下各々「本件文書Ⅳ」ないし「本件文書
Ⅷ」という。)に,それぞれ対比表Ⅰ(反訴請求の原因)()ないし()摘示の各内容を記載137
117288238したうえ①平成年月日付けで本件大学に文書(乙ロのの資料)を②同年,,
月日付けで被告市に文書(同資料)を,③同年月日付けで被告市に文書(同資料)254915
を,④同年月日付けで本件大学に文書(同資料)を,⑤同年月日付けで本件111514126
大学に文書(同資料)を送付した(以上本件文書ⅠないしⅧの記載を一括して,以下「本19
件各記載」という)。
,,,。エまた本訴事件の提起に際し平成年月日原告代理人が記者会見を行った12217
()被告市の対応等5
ア平成年月日原告から本件大学に送付された本件文書Ⅰには,前示()アのほ117214
か,要旨「被告乙から,本件研究室で秘書として働くよう強く求められていますが,貴,
大学での就労を決めかねております。このような事態に対し,どのような対処をすればよ
ろしいか,ご教授願いたく存じます」との記載があった(乙ロのの資料)。。821
イ本件大学では,平成年月日セクシュアル・ハラスメント臨時苦情処理委員会1196
を設置して,同月日から調査を開始し,結局同委員会は,同年月日,要旨「被161220,
告乙が,本件機会に,原告を本件客室に呼び寄せ,部屋の鍵を掛けようとし,また本件客
室内で誤解されるような話をして,原告を不快にさせた」との事実を認定したうえ,①。
被告乙の行為は,本件大学が定義するセクシュアル・ハラスメントに該当する,②同被告
に対する地方公務員法条項の懲戒処分としては,戒告処分が適当である旨の認定及291
び提言を行い被告市の市長は平成年月日付けで被告乙を戒告処分に付した(乙,,12225
ロの・,の,のないし,のないし)。812192251426111
ウこの間,原告は,平成年月日到達の本件文書Ⅷ(前示()ウ⑤)で被告らに損111274
害賠償等を請求し,被告らはこれを拒絶した。
()マスコミの報道6
,,「」,,平成年月日中日新聞朝刊がZ市大教授セクハラ疑惑等の見出しで要旨12131
「本件学部の男性教授(歳)が,代の日本人女子留学生に対する会話等につき,本件6530
委員会からセクハラ行為と認定されていたことが明らかになった」との報道をし,これ。
以降各新聞が同趣旨の報道をした(乙及びの各ないし,のないし)。2829163014
()本件調査旅行の出張手続,費用負担及び研究成果の発表等7
ア本件調査旅行の際,被告乙は,本件大学学長の平成年月日付け旅行命令(以11517
下「本件旅行命令」という。)により,昭和年月日Z市長決裁「Z市立大学教員62327
海外派遣基準」(以下「被告市派遣基準」という。)条項所定の第種(我が国又は外213
国の政府,大学その他これらに準ずる公共的機関若しくは学術の研究調査を目的とする団
体等から費用の全部又は一部の支給を受けて,海外において国際会議若しくは学会への出
席,学術研究,教授又は講演その他これらに類する目的のため,教育公務員特例法条20
の規定により海外において研修をする場合)の海外派遣(以下第種海外派遣という)「」。3
として,ロシアへの出張を行った(甲,乙ロ)。3712
,,「」イ本件調査旅行の費用は全額当時の文部省の科学研究費補助金(以下単に科研費
という。)によって賄われた。
ウ原告の本件調査旅行参加の報酬は,被告乙との間で日万円と合意され,同旅行中11
の平成年月日と同月日に,同被告から各々ルーブルとドルが支払116282950001000
われた。一方,被告乙は,同年月日付けで,研究テーマに関する原告の文献の閲覧727
及び複写作業の謝金に充てるものとして科研費の申請をし,万円の支払を受けた105000
(甲の・,,,乙ロのの資料)。16123642825
エ被告乙は,研究代表者となって,本件各調査旅行等による自己と他の参加者の研究成
1231果を,論文集「シベリアへのまなざしⅡ」として編集し,同論文集は,平成年月
日,本件学部から発行された(甲)。55
()セクシュアル・ハラスメントに関する諸規定8
ア雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「雇用機
会均等法」という。)は「事業主は,職場において行われる性的な言動に対するその雇,
用する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は
当該性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう管理上必要な
配慮をしなければならない」と規定している(同法条項)。。211
イ国家公務員法に基づく人事院規則−「セクシュアル・ハラスメントの防止等」1010
(以下人事院規則−という)は同規則のセクシュアル・ハラスメントを他「」。,,「1010
の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外に
おける性的な言動」と規定している(同規則条号)。21
1011134421010また,①人事院事務総長通達(平成年月日職福−)は,人事院規則−
の「他の者を不快にさせる」とは「職員が他の職員を不快にさせること,職員がその職,
務に従事する際に接する職員以外の者を不快にさせること及び職員以外の者が職員を不快
にさせること」をいうと規定し,②上記規則の運用通知は「職員間のセクシュアル・ハ,
ラスメントにだけ注意するのでは不十分であること。行政サービスの相手方など職員がそ
の職務に従事する際に接することとなる職員以外の者及び委託契約又は派遣契約により同
じ職場で勤務する者との関係にも注意しなければならない」旨を記載している(甲,。29
乙ロ)。6
ウ平成年月日文部省訓令号「文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの113304
防止等に関する規程」(以下「セクハラ防止に関する文部省訓令」という。)は,同訓令の
セクシュアル・ハラスメントを「職員が他の職員,学生等及び関係者を不快にさせる性,
的な言動並びに学生等及び関係者が職員を不快にさせる性的な言動」と規定しており(同
訓令条号),また上記規程の運用通知(平成年月日文人審号)は,同規程2111330115
の「関係者」とは「学生等の保護者,関係業者等の職務上の関係を有する者(職員及び,
学生等を除く。)」をいうと規定している(甲)。31
1141エ被告市のZ市セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する要綱(平成年月「」
。「」。,。日施行以下被告市セクハラ防止要綱という)には以下等の規定がある(乙ロ)5
条この要綱は,セクシュアル・ハラスメントの防止及び排除に関し必要な事項を定め,1
もって職員が快適に働くことができる職場環境を確保し,職員の利益の保護及び職員の能
力の発揮を図ることを目的とする。
条項この要綱において「セクシュアル・ハラスメント」とは,他の者を不快にさせる23
職場における性的な言動又は職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動に
より,職員の職場環境が害されること及び当該性的な言動への対応に起因して職員がその
勤務条件につき不利益を受けることをいう。
争点2
本件の主たる争点は,①本件機会における被告乙のセクシュアル・ハラスメント行為の有
無(下記()ア及び()。本訴請求原因及び反訴抗弁),②被告市の責任の有無(下記()イ,151
ウ。本訴請求原因)である。これらの争点に関し,当事者は,以下のほかに,対比表Ⅰ,
Ⅱのとおり主張している。
()本訴事件に関する原告の主張1
ア被告乙は,ストーカー的な行為によって強引に原告に本件調査旅行への参加を強制し
たうえ,A助教授が一足先に帰国する日程になっていたのを秘匿するなど計画的に,かつ
自己の性的欲求を満たす目的のもとに,原告が同被告の指揮命令下でロシア語の通訳又は
研究補助者として働いていたという上下関係を利用して,原告を本件客室に呼び寄せ,本
件機会に,対比表Ⅰ(原告の主張)第のないしのとおり性的な話をし,本件客室に鍵346
を掛けて原告を監禁,強姦しようとしたほか,これが失敗した後も,愛人関係を持つよう
に迫るなどのセクシュアル・ハラスメント行為(以下「本件セクハラ行為」という。)に及
んだ。
イしたがって,被告乙には,対比表Ⅰ(原告の主張)第のとおり民法条による責任4709
があり,被告市には,使用者として,対比表Ⅱ(原告の主張)第の,のとおり,主位212
的に民法条項による,予備的に国家賠償法条項による責任がある。715111
ウまた,被告市には,対比表Ⅱ(原告の主張)第の,のとおり予防義務,相談苦情334
の対応機関の設置義務,迅速かつ適切に解決すべき義務,説明義務及び守秘義務の違反が
あるから,独自にも,主位的に民法条による,予備的に国家賠償法条項による責70911
任がある。
エ原告は,対比表Ⅰ(原告の主張)第のとおり,頼る人もいない辺ぴなヤクーツクで強5
姦されそうになる恐怖を味わい,秘書になるように執拗に勧誘されて,心的外傷によるP
TSD(トラウマ後ストレス障害)の被害を受け,また本件研究室で就労する機会を失って
経済的損害を被ったほか,対比表Ⅱ(原告の主張)第のとおり,その後被告市が迅速適切5
に対応しなかったため,一層大きな精神的苦痛も被っており,その慰謝料は万円を,400
本訴事件の弁護士費用は万円を下らない。50
オよって,原告は被告らに対し,連帯して損害賠償万円及び,①うち慰謝料万450400
円に対する前示()ウの本件文書Ⅷの到達日である平成年月日から,②うち弁1511127
護士費用万円に対する本訴訴状送達日(被告乙につき平成年月日,被告市につ5012229
き同月日)から,各支払済みまで民法所定年分の割合による遅延損害金の支払を求め285
る。
()本訴事件に関する被告乙の主張2
前示()アの本件セクハラ行為と同エの損害は否認し,同イの主張は争う。1
本件機会の実際の経過は,対比表Ⅰ(被告乙の主張)のとおりであり,原告の主張は,全く
別の文脈でした話を巧みに織り混ぜながら,数々の発言をねつ造し,全体の話を作り上げ
たものであって,不当な請求である。
()本訴事件に関する被告市の主張3
ア前示()アの事実は不知。同イの主張は次項のとおり争い,同ウの主張も対比表Ⅱ(原1
告の主張)第に対する(被告市の主張)のとおり争う。同エのうち被告市の対応に起因す3
る損害は否認する。
イ対比表Ⅱ(原告の主張)第に対する(被告市の主張)のとおり,広範な研究の自由を有2
する大学教授の研究活動が,それ自体,設置者の事業の執行と認められるためには,大学
施設内の研究であるか,設置者から委託された研究であることを必要とすると解すべきで
あるが,本件調査旅行は,目的地が被告市の管理の及ばないヤクーツクであり,費用も全
額科研費で賄われているから,被告市の事業の執行には当たらない。
,,本件調査旅行が被告市の事業の執行に当たるとしても報償責任や支配可能性の観点から
被告市が使用者責任を負うべき行為は,原則として本件大学の施設内での行為に限定され
るところ,本件セクハラ行為は,本来勤務時間外である夕食後,本件客室で雑談中に行わ
れたもので,研究と関係のない純然たる私的行為というべきであり,場所的,時間的にも
被告市の支配が不可能であるから,被告市は,責任を負わない。
同様に,本件セクハラ行為は,国家賠償法条項の職務を行うにつきなされたものにも11
該当しない。
ウ仮に本件セクハラ行為が被告市の事業の執行につきなされたとしても対比表Ⅱ(被,,
告市の主張)「民法条項但書について」のとおり,被告市は,事業の監督につき必7151
要な注意を払っていたから免責される。
()反訴事件に関する被告乙の主張4
ア原告は,前示()のとおり,本件各記載をした本件文書ⅠないしⅧを本件大学等に14
送付したほか,本訴事件提起に当たって記者会見を行うなどし(以下これら行為を一括し
て「本件文書送付等」という。),その結果,前示()のとおり,あたかも被告乙が実際16
にセクシュアル・ハラスメントを行ったかのようなマスコミ報道がなされたが,この名誉
棄損による精神的苦痛の慰謝料は万円を下らない。100
よって,同額及び反訴訴状送達の日の翌日である平成年月日から支払済みまで民12413
法所定年分の割合による遅延損害金の支払を求める。5
イ後示()イの事実は否認する。前示()のとおり,本件各記載は事実に反し,本件文書52
送付等は,正当な権利行使に当たらない。
()反訴事件に関する原告の主張5
ア前示()アのうち,本件文書Ⅲの作成・送信を除く本件文書送付等とマスコミ報道は4
認めるが,両者の因果関係は否認し,名誉棄損の成立も争う。
イ上記文書送付等は,対比表Ⅰ(反訴被告の主張)のとおり,真実に基づき,かつ原告の
正当な権利行使のためになされたものであるから,名誉棄損に当たらない。
第争点に対する判断3
本件の事実経過1
①前示第の()ないし(),()の各事実,②甲及びの各・,,,のない2115712124561
37813912101112161217131819しのないしの・ないしの各・のないし,,,,,,,,,
122032404245495354125556571の・ないしないし及びの各・及びの各,,,,,,,
261626669113251268101112・ないし③乙のないしないしの各・ないし,,,,,,,,,
131214151612171819132021221及びの各・,,,の・,,,のないし,,及びの各
2232627333512581911222111231・④乙ロのののないしの,,,,,,,,,,,,,
ないし,,のないし,のないし,,,⑤証人Aの証言,⑥いず13242514261112728
れも後示採用できない部分を除く甲ないし,乙,,乙ロの,原告及び被告5860323482
乙の各本人尋問の結果によれば,本件機会及びその前後の経過並びに本件大学の対応等に
ついて,以下の事実が認められる。
()原告(昭和a年b月c日生まれ)は,昭和年に大学を卒業後,旅行代理店有限会社163
Yに勤務したが,平成年同社を辞めて,ロシア留学を目指し,平成年月モスクワ大791
学予科に入学して,同年月同科を卒業し,さらに同年月にプーシキン大学大学院修士69
課程に進学して本件調査旅行当時言語学を専攻しながらモスクワ市に在住していた(そ,,
の後,平成年月日同大学院を卒業し,同年月日帰国した。)。11628719
原告は,未婚で,日本では母親と二人で暮らしている。
()被告乙(昭和d年e月f日生まれ)は,昭和年京都大学を卒業し,各地の大学で勤234
務後,本件大学教養部助教授を経て,昭和年から同学部教授に,さらに学部改編で,53
7812平成年月本件学部教授に就任し本件調査旅行当時その職にあった(その後平成,,,
年月本件大学を定年退職した。)。3
被告乙は,人文地理学が専門で,平成年以降「シベリア牧畜民の民俗学的研究」等の5,
研究課題に基づき,サハ共和国科学アカデミー人文科学研究所(以下「サハ人文科学研究
所」という。)の協力を得て,他の研究者らと共に,科研費によってシベリアでの反復的
な現地調査を行っており,その成果に基づき「シベリアの学術調査「ヤクーチアのト,」,
ナカイ飼育」等の論文を発表したほか,研究代表者となって,論文集「シベリアへのまな
ざし」を編集し,同論文集は,平成年月本件大学教養部から発行された。83
被告乙には,妻がおり,その間に成人した息子がいる。
()原告と被告乙は,同被告の前示()の現地調査の際,当時Yに勤務していた原告がシ32
ベリア旅行の手配をしたことから,旅行の依頼主と代理店社員として知り合った。
その後,原告は,被告乙の依頼で,ロシア語の堪能なBを,本件研究室の秘書として紹介
したことがあり(左記及び後示()以下に認定の秘書の地位等については,後示()のとお427
9810112り),また,原告のロシア留学後は,平成年月ころ及び同年ないし月ころの
回,被告乙が調査旅行等でモスクワを訪問した際に,Bなどの紹介で,原告と同被告が知
人を交えて食事したことがあったが,回目の会食の際,今後も世話になるかも分からな2
いからとして,被告乙がモスクワでの連絡先を教えてくれるように依頼し,原告がこれを
手紙で伝えて,その後両者の間に,以下に認定するような手紙等のやり取りが行われるよ
うになった。
,,,「」()一方被告乙は平成年度以降もシベリア狩猟・牧畜民の生き残り戦略の研究49
との研究課題に基づき,シベリアでの現地調査を行っており,平成年度は,夏季にサ10
ハ共和国(ヤクーチア)を含む東西シベリアでの調査旅行を企画し,これには,馬乳酒の調
査のために酪農学園大学助手のC博士が参加する予定になっていたが,前示()の回目32
の会食後,被告乙は,モスクワの原告に,C博士の参加で女性同士の方がいろいろと頼み
やすいので上記調査旅行に通訳として加わってほしいと手紙で依頼し,この手紙は,当時
の郵便事情の悪さから,平成年月末ころ原告のもとに着いた。原告は,それまで通101
訳の実績はなかったが,良い経験になると考えて,すぐこれを承諾し,調査旅行同行につ
いてのプーシキン大学大学院の承諾書など科研
,。費申請に必要な書類を準備して同年月日から同月日までの調査旅行に参加した72028
この平成年調査旅行で,原告は,ロシア語ができないC博士や会話の不得手な被告乙10
のためロシア語・日本語間の通訳をしたほか,研究資料の写真撮影や,自炊時の食事の支
度等の雑用も担当した。
そして,原告は,報酬として,被告乙と合意した日ドルの割合の金員を受け取り,1100
同被告は,さらにこれを科研費で賄ったが,科研費の手続上,原告の参加資格は,研究協
力者となっていた。
また,遅くともこの平成年調査旅行以降,被告乙は,原告に帰国後本件研究室で秘書10
として働いてほしい旨を要請するようになったが,原告は,承諾の返事をしておらず,同
被告は,以後も同様の要請を繰り返していた。
そのほか,この旅行中に原告は,年長のC博士から,あなたの方が年上かと思っていたと
言われ,不愉快に感じたことがあった。
()その後平成年月,原告は,夏季休暇で日本に帰国したが,被告乙の依頼で,同5108
月中旬から下旬にかけて本件研究室でアルバイトをし,平成年調査旅行で撮影された10
10多量の写真をスライド用に整理するなどの作業をしたこのアルバイトの報酬は平成。,
年調査旅行の場合と同様日ドルと合意され,被告乙から支払われたが,同被告は,1100
これも科研費で賄った。そして,アルバイト代を渡す際,被告乙は,その中には通信費が
含まれているので,モスクワに帰ったら,その到着を知らせ,また生のロシア情報も知ら
せてほしいと求め,原告もこれを承諾した。
一方,このアルバイトの最中,被告乙は,翌年夏季の調査旅行にも通訳として参加してほ
しいと依頼したが,毎年その時期にプーシキン大学大学院の卒業論文の審査が行われる通
例だったことから,原告は,都合がつくかどうか分からないと返事をしていた。
また,このころから被告乙は,原告を「甲子さん」と呼ぶようになったが,外国暮らしで
ファーストネームで呼ばれるのに慣れていた原告は,特に強い違和感を感じていなかった
《,。》,。(乙ロのの通し頁頁以下同号証の頁数は通し頁の頁数で表示する頁)82117129
さらに,被告乙は,アルバイト中の原告に自分の訳書など書籍冊余りや,原告が買お10
うとしていた短波ラジオや変圧器等を贈ったり,その卒論について積極的にアドバイスし
,。,,,たり(原告は結局この助言に従わなかった)アルバイト最終日に自分から希望して
ポラロイドカメラで撮った互いの写真を交換させたりした。
()平成年月原告は,モスクワに帰ったが,その後も被告乙は,頻繁に手紙を出し6109
て近況を尋ねたり,翌年月に予定されていた後示()のモスクワ訪問時の都合を聞くな37
どし,これに対し,原告は,返信を書き,約束どおりロシアの現状を種々書き記したり,
131また,被告乙から上記のモスクワ訪問がなくなるかもしれないと聞いて,手紙(乙の
・)に「正直申し上げて残念に思っています」と書き添えたりするなどのやり取りが2,。
あった。
しかし,そのほかにも被告乙は,①モスクワ帰還の際,現地の通貨流通の混乱から,原告
が,同被告に言われていた到着の連絡をしなかったところ,これを心配して度もファッ2
クスを入れ,原告の実家にも電話するなどし,②同年月末ころには,原告が同年夏前11
ころモスクワでアフリカ人の男子留学生につきまとわれて困っていたことを共通の知人か
ら聞きつけ,早速「その事はきれいに解決されたのかと拝察しますがもし,万一まだで,
したら,是非とも勇気を出してきっぱりと処理してください。それが,私の調査や研究へ
のご協力,論文のアドバイスをはじめとするお付き合いのための大前提です。解決したと
のご返事をいただけば,以後この件を持ち出すことは致しませんし,あなたへの信頼に何
の変わりもありません」などと,一方的に原告。
の私生活に立ち入る内容の同月日付けのはがき(甲)を書き送り,また,③平成年30511
b月c日の原告の誕生日のころには,誕生日を祝って,前年の中国旅行の際に入手したカ
ードを送る旨の手紙(甲のないし)を出したが,これには「かなり選んだ末にこの613,
カードを手にいれました。表の中国語のお祝いのことばは,ほぼ意味をとれることと思い
。」,ます(中略)(いささか恥かしいですから翻訳しません)という思わせぶりな文章と共に
要旨「あなたの誕生日は,私にあなたへの深い気持ちを引き起こさせる。私は心からあ,
なたに願いを込めて祈る。この上もなく幸福で,願い事がかなうことを。あなたの周りの
,。。お友達もだれも皆この日を喜び祝うでしょうあたかもあなたのそばにいるかのように
とてもすばらしい生活があなたにある
ことを願い,すべてがあなたのものであることを……」という内容の中国語の詩文を記し
たカードが入れられていた(実際にこのカードは,被告乙が,中国の恋人同士の贈答用品
等を扱うコーナーで選んだものだった−平成年月日付け被告乙本人調書頁)。1310318
被告乙のこれら働きかけに対し,原告は,上記①に対して,通貨流通の混乱で連絡できな
かった旨をはがきで知らせ,上記②に対しては,やむを得ず,原告が被告乙の自宅に架電
して留守番電話に解決済みである旨を吹き込み,上記③に対しては,特に返事を書かなか
ったが,一方上記②③の連絡後も,モスクワの下宿先の親族のために,被告乙に,ロシア
国内では入手困難な外国製の医療器具(人工肛門用のパウチ)の購入を依頼する手紙を出し
たり,同被告への返信中に,モスクワは水質が悪いので,来訪時は入浴剤を用意したほう
がよいなどと書き添えたりしていた。
,。,,()平成年(以下()まで同年中の日付けは月日のみで表示する)月被告乙は711263
モスクワを訪問した。もともと同被告は,同地では他の研究者の調査に同行するだけの予
,,,定でありその後同人がモスクワ行きを取りやめ同地に赴く主要な理由がなかったのに
同月日から同月日まで滞在し(以下「平成年月モスクワ訪問」という。),この48113
間,原告を誘って観劇等の案内をさせた。一方,原告は,風邪で体調を崩していたが(同
被告もその点についての認識を認める−平成年月日付け同本人調書頁),求13103110
められて,やむなく人形劇やバレエ「くるみ割り人形」等への案内を行った。
そして,モスクワを離れる平成年月日,被告乙は,わざわざ原告のビザの更新用1138
,,,,と称して自分のカメラで原告の写真を撮りまた別れ際には原告に握手を求めて後日
「クルミ割人形のコーラスとあなたのイメージが重なってしきりに思い出されます。空港
での手の温もり,失礼でなかったら大切にします」と記したはがき(甲)を送った。。10
8218さらに,被告乙は,上記日,空港までの車中で原告に封書通を渡し,うち通(甲
のないし)には「ひな祭と国際婦人デーの間にお会いできて本当によかったと思って13,
います。甲子さんは私にとって,この二つの祝日にふさわしい大切なパートナーです。ひ
,。な祭にちなんでは美しく大事な人であり国際婦人デーにちなんでは有能な秘書ですから
プーシキン大学での課程をめでたく修了されて,帰国される日を心から待っています」。
19122と記し,もう通(甲の・)には,ロシア語で親密な関係の相手に対して使用する
人称で「おまえを愛している」と書かれた市販のカードを入れていた(なお,原告は,本
,。件機会の後になるまでこれらの封書を開封しなかった旨陳述している−甲の頁)5826
そのほか,この平成年月モスクワ訪問中,被告乙は,原告に何度も同年月のサハ1136
共和国への調査旅行に参加するよう誘ったが,前示のとおり卒論審査と日程が重なること
などから,原告は,承諾しないでいた。
()しかし,被告乙は,帰国後も再三ファックスで,原告に上記調査旅行に参加するよ8
う求め,科研費申請に必要な書類の作成も要求した。
これに対し,原告は,従前と同じくこれに応じず,月日には直接被告乙に電話して参42
加できないと伝え,さらに同月日付けのはがき(乙)では「今夏,ヤクーツク行き1118,
が無くなったので,月にはペテルブルグとベラルーシのミンスク在住の友人を訪ねよう7
と計画」していると,不参加の意向をはっきりと書き送った。
ところが,それから間もなく原告の卒論審査日程が発表され,サハ共和国での調査旅行に
は支障がないことが判明した。そのため,原告は,平成年調査旅行の際に,サハ人文10
科学研究所のD所長から,是非,来年も同地方の夏至祭りを見に来るよう誘われていたこ
となどから,考えを変えて,被告乙に,月日から同月日までヤクーツク夏至祭り62528
の調査に参加する旨をファックスで伝え,月日付けの手紙(乙の・)でも「乗4241912,
り気でいます」と連絡したが,さらにその後D所長の故郷への訪問にも参加を希望するよ
うになり,月日付けのファックス(乙)で,月日から同所に連れて行ってもら51120622
,,,,いたいと伝え結局本件調査旅行に全面的に参加することになった(そのほか原告は
上記ファックスで「ヤクーツ,
クの件,お返事をお待ちしています」と伝え,モスクワの天候や国家試験の成績等の近。
況や,夏季の予定を知らせたりしている。)。
()その後,原告の卒論作成も終了し,月(以下()まで,同月中の日付けは日にちの9617
みで表示する。)日,被告乙及び国立民族学博物館民族文化研究部のA助教授がモスク17
ワに到着し,翌日原告を加えた人が本件調査旅行のため,空路サハ共和国に向かっ183
た。
,,,,このとき原告は被告乙の指示で同被告とA助教授の航空券をリコンファームしたが
そこで初めて,A助教授だけが,日一足先にサハ共和国から帰還する日程になってい24
るのを知った。
一方,A助教授は,モンゴル等の牧畜文化が専門分野だったが,原告とは事前に専門用語
の翻訳の打合せをしておらず,原告が同助教授の調査活動の通訳を行うのは困難であり,
その役割は,主に下記の院生が務め,結局,調査活動についての原告の役割は,専ら被告
乙のために後示のような民俗行事等のビデオ撮影や通訳を担当することだけとなった(な
お,それまで原告がビデオ撮影の訓練を受けたことはない。)。しかし,それ以外では,
原告は,前示リコンファームやパスポート管理など各種の旅行手続や大金を除く金銭の管
理のほか,被告乙とロシア語ができないA助教授のために,日常生活関係全般の通訳やそ
の他の雑用をほとんど担当した。
また,本件調査旅行には,ほかにも千葉大学の大学院生名が参加していたが,同人は,1
現地の女性と結婚していたため,旅行中も自宅等に宿泊する予定で,ホテルなどの宿泊施
設は,原告と被告乙,A助教授のみが利用する予定になっていた。
()日,一行は,サハ共和国の首都ヤクーツク市に到着し,まず今回の調査旅行の1019
協力機関であるサハ人文科学研究所にあいさつに赴いたが,ここで被告乙がD所長に,原
告を自分の秘書と紹介したため,原告は,これを嫌がった(乙のの頁。なお,被82138
告乙は,従前もサハ人文科学研究所に,原告の身分を「Z市立大学秘書・通訳」と連絡,
しており,月日付けで,同研究所からその旨の招待状が発行されていた。)。413
その後一行は,日はニュルバ市,日はD所長の故郷ジャルハン村等に赴き,同日夕2021
方からヤクーツク市に移って,民俗行事や牧畜文化等の調査をした後,日と日は,2425
同市でヤクーツク・ポーランド国際会議に出席,日は同市の夏至祭の見学等をして調26
査を終了し,日は休暇を取って,日モスクワに向かったが,うち日から日ま27282127
では,ヤクーツク市内の本件ホテルを利用した(ただし,日のA助教授の帰国後は,原24
告と被告乙のみが同ホテルに宿泊した。)。
一方,同ホテルのレストランは,不定期的にしか開いておらず,一行は,被告乙の部屋で
ある本件客室で食事をとることが多く,特に朝食は,ほとんど同所でとっていた。また,
本件調査旅行中,一行は,度々夕食後に,本件客室などの私室で翌日の日程等について打
合せを行っていた。
()ところで,この旅行中,原告とA助教授は,日と日の夕食後,相当長時間に112223
わたって,私生活や職業を持つ女性の生き方,原告の就職先等いろいろな話題について女
同士で親密な会話をする機会があったが,その中で,A助教授は,原告に,①嫌なことは
被告乙にはっきり言わなくてはいけない旨を述べたり,②観光地のレンスキーストルブま
で船旅をする話が出ていたため,個室での船旅は避けた方がよいと述べたりしたことがあ
った。また,③これらの会話の中で,同助教授が「セクハラ」という言葉に言及したこ,
ともあったが(これらの言葉の趣旨や原告の受け止め方については,後示()()認定の289
とおり),反対に,原告が被告乙からのセクシュアル・ハラスメント被害を訴えることは
なかった。そのほか,④C博士について,原告が,同
博士は平成年調査旅行の際,前示()末尾のように原告の方が年上だと言ったりして大104
変失礼な人だとか,うまくコミュニケーションが取れなかったと話したのに対し,同じ研
究者のA助教授が,とりなす趣旨で,同調査旅行の際,C博士が初対面の被告乙から,未
婚のままで研究を続けているなどと失礼なことを言われたり,旅行中,研究対象の馬乳酒
にうまく出会えなかったため,不愉快になっていたのが原因ではないかとの推測を話した
ことがあった。
一方,日午後の市内散策中には,原告が見つけた民族衣装を気に入り,被告乙に現金22
を出してもらって買うという出来事もあった(甲の・写真枚目には,原告が同衣装1735
を着て笑っている様子が同被告により撮影されている。なお,原告は,これを立替払と陳
述しているが《甲の頁,証拠を精査しても,その後清算が実施されたか明確でな5911》
い。)。
()しかるところ,前示のとおり,日にA助教授がサハ共和国を離れ,原告と被告1224
乙は,二人して本件ホテルのバーで同日の夕食をとったが,このとき同被告は,A助教授
がいろいろと苦労している旨の話をし,食事が終わったら同助教授の経歴などを話してあ
げようと言って,原告を自分の泊まっている本件客室に誘い,原告も結局これに応じて,
翌日の朝食用の食料を用意したうえ,午後時ころ本件客室を訪れた。9
当時,高緯度のヤクーツク市は白夜に近く,同時刻でも外は明るかった。また,本件客室
は,本件ホテル階の居間と寝室からなるスイートルームで,別にバスルームの設備もあ4
ったが,入り口のドアは,内外両側から直接鍵で錠を掛け外しする旧式のもので,オート
ロック等は付いていなかった。
原告が本件客室に入ると,被告乙は,ドアを開けたまま居間のソファーに座り,原告を別
のソファーに座らせたが,実際には同被告は,この機会に原告と性的関係を持ちたいと考
えて,あらかじめ入手した性的不能治療薬のバイアグラを強精剤代わりに服用しており,
まず「バイアグラを飲んどいたよ」などと述べて,間接的に自分の性的意図を明らか,。
にする趣旨の発言をした。しかし,平成年に日本を離れ,ロシアに留学していた原告は9
,。,バイアグラの名称や薬効を知らず上記発言の趣旨がすぐには伝わらなかったそのため
被告乙も,それ以上性的欲求をほのめかす発言は続けられず,その後二人は,従前夕食後
にしていたように,ヤクーツク・ポーランド国際会議への出席などの翌日の日程について
打合せをした。そして,これが終わると,原告
は,のどが渇いたのでお茶を飲みたいと提案して,自分からバスルームに入り,お茶の準
備を始めた。
すると,その間に被告乙は,原告に感づかれないように入り口のドアに近寄り,内側から
錠を掛けようとしたが鍵の操作に手間取っているうちに原告がその物音に気付き扉,,,「
は開けたままにしておいてください」と声を掛けたため,これは失敗に終わった。。
()その後,原告は,被告乙の前示意図には必ずしも気付かないながらも,入り口のド13
アを更に広く開け,居間に戻ってソファーに座り,今度は,夕食時に言っていたA助教授
の経歴を話してくれるよう求めた。
これに対し,被告乙は,その後かなりの時間にわたって,同助教授の離婚・再婚歴や前夫
及び現夫の経歴などの夫婦関係のほか,Bやその他の知人らの経歴・行状等,さらにC博
士に関する話などをしゃべった。この中には,A助教授は,前夫とは子供を作るまでいか
なかったとか乙教授は私の愛人だと言っていたなどの部分もあったが一方前示(),「。」,11
前段の会話の際に,原告がA助教授自身から聞いたのと同様な内容も相当含まれていた。
また,ここでは話の途中で原告が口を挟むこともかなりあって,例えば,原告が,C博士
,「,に関してA助教授がした前示()④の話を念頭に置いてA先生から聞いたんですけど11
先生はロシアにたつ前の成田のホテルで,Cさんになにか失礼なことを言いませんでした
か「Cさんに,いきなり『甲さんて私より年上ですよね』と聞かれて,思わず『え,。」,,
私って老けて見えますか』って言っちゃったんです。このことをEさんに話したら『甲。,
さん,そのリアクションは悪い』って笑われました」などとしゃべり,これに対して,。
被告乙が,笑いながら「そう,あれはひどい。だれが見たって明らかにCさんの方が年,
上ですよ」などと応じ,その後しばらく二人でC博士の言動について会話するというよ。
うな場面もあった。
,,,()ところが前示()のような性的意図を持っていた被告乙は会話の途中で段々と1412
「僕は,家ではねえ,妻とはもう長いこと……ないんだよね「寝室まで別なんだよね。」,
え」などとあからさまに性的な話題を持ち出し,また「僕は,甲子さんには特別な感。,
情を持っていてねえ「今回は,あなたと一緒に旅行ができて本当にうれしい」など。」,。
と,原告に対する自分の感情を露骨に表すような話を始めた。
そこで,ここに至って被告乙の意図を察した原告は,前示()②③の手紙や同()第段の672
はがきを引き合いに出しつつ「それは,そういうことだったんですね」と,同被告が,。
従前から自分に性的意図ないし恋愛感情を持っていたのかを確かめる趣旨の質問をした
が,被告乙は「僕は,いつもそういう目であなたのことを見ていますよ」と,実質的,。
にこれを認める趣旨の発言をした。そのため,これに憤慨した原告は,同被告の発言を制
止し申し込まれていた秘書の話も再考したいとの趣旨も述べたがさらに被告乙はあ,,,「
なたが結婚するまでいいんだから。あなたが結婚したら,僕はサッと手を引きます」な。
どと,あたかも原告が結婚するまでの一時的な性的関係を希望するかのような言葉を繰り
返した。
この結果,原告は,本件客室にいられなくなり,憤慨したまま外に出て,午後時前半10
ころ自室に戻った。一方,原告のこの態度を気にした被告乙は,夜中に原告の部屋に電話
をかけて様子を探ったりした。
()翌日以降,原告と被告乙は,前示()第段の日程でサハ共和国での調査旅行1525102
を続け,日空路モスクワに戻ったが,この間,日夕食後と日の飛行機搭乗中に,282528
本件機会の出来事について話をしたことがあり,いずれも被告乙が原告を怒らせたのを謝
り,本件機会の発言に悪意はなかったと弁明したのに対し,原告は「女として,やっぱ,
。」。,,,り許せないと態度を硬化させる場面もあった一方日の話の際には被告乙から25
今後秘書として働いてほしいと依頼があったが,原告は,結論を留保するような返事をし
て,これを明確に拒否しなかった(甲の頁)。5925
他方,日以降の旅行中,調査活動時には,原告は,ほぼ従前同様にビデオ撮影や通訳25
を行って,被告乙の調査に協力した。また,それ以外では,日の休日などに別行動を27
とったことがあったが,一緒に行動した場合もあって,例えば本件機会の翌日の日の25
,,,。朝食時原告は自分から本件客室に行って朝食の支度をし被告乙と食事をとっていた
2511また,日の夕食時に,原告の報酬について話が出たが,被告乙が交通費込みで日
万円を提案したのに対し,原告は,従前同様の日ドルあるいは交通費別で日万110011
円を要求するなどした(原告は,最終的に,自分の主張どおりに決まったと陳述している
−甲の頁)。5924
()そして,原告と被告乙は,前示のとおり,日に飛行機でヤクーツクからモスク1628
ワに戻ったが,同日原告は,本件調査旅行の報酬の一部として,ルーブルを受け取5000
った。モスクワ到着後,原告は,当日に早まった大学院の卒業式と謝恩会に出席し,その
後,被告乙に日本の実家に持っていってもらうための荷物を用意し,結局段ボール箱分3
の荷造りをした。
そして,この日,原告は,実家の母親に,電話で本件機会の経過を知らせたが,その28
とき,被告乙が飲んでいた薬は「バイオ,ナイアガラ」というような名称だった旨を伝,
えた。
翌日昼ころ,原告は,被告乙のホテルを訪れ,上記荷物を預けると,一緒に昼食をとりた
がっていた同被告を中華レストラン「上海」に案内した。
,,,,同所でも被告乙は本件機会での発言は冗談だなどと性的意図がなかった旨を弁明し
原告に卒業を祝うカード(甲の・)を渡したが,これには祝福の言葉以外に「この1512,
度のサハ調査旅行に際し,厳しいお言葉と本音を聞かせていただいたことを感謝と共に肝
に命じ,私の研究・教育活動へのご協力をいただく中で,それらに対して誠意をもってお
。。」。,答えして行こうと思いますご帰国をお待ちしていますと記されていたこれに対し
,,,原告は本件機会の発言の意図は不純なものではなかったかとただすなどしたが一方で
「確かに先生のおっしゃるように,私は性格的にまじめすぎるのかも知れません。それに
私の物の解釈の仕方が,他人と違って特別なのかもしれないし……。今後のためにも,第
三者の意見を聞いてみたいです。第三
者の立場から見たら先生の意見が正しいのかもしれないですし……」などとも述べた。。
また,この際も被告乙は,本件研究室での就労を要請したが,原告は「すぐには,ご返,
592532事できませんと即答を避けただけでやはり明確に拒絶しなかった(甲の頁乙。」,,
の枚目)。5
そして,被告乙は,空路帰国したが,同日原告は,本件調査旅行の報酬の残金の支払を要
求し,ドルを受け取った。1000
()その後,原告は,上記()の「上海」での発言どおり,本件機会の出来事はセクシ1716
ュアル・ハラスメントとして問題にすべき事柄か,単なる冗談にすぎないのかについて知
人の意見を聞くため(平成年月日付け第回口頭弁論の同本人調書頁),同じく1382936
日夕食後から,記憶やヤクーツクで書き留めたメモに基づいて本件機会の経過等をま29
とめ始め,翌日までにその文書(乙。以下「本件原文書」という。)を書き上げた。そ32
して,原告は,これに「本件研究室で働くかどうかを悩んでいる」旨の文章を添えて,A
助教授,C博士及びYの元同僚の人あてに送付し,モスクワの友人らにも同様の相談を3
したほか,月日には,当日たまたま下記アルバイトで知り合ったモスクワ在住の外交71
官の夫人に,本件研究室に勤
務すべきかを相談し,さらにこれ以降他の人物にも同様の相談を続けていった(例えば甲
の・は,その返事と考えられる。)。また,このころから原告は,後に本件文書Ⅰ6412
となる文書をパソコンで作成し始めた。
一方,原告は,ペテルブルグ等への旅行に必要な知人との連絡が取れなかったこともあっ
て,これを取りやめたが,月日から建築工事の通訳のアルバイトを始め,同月日7118
モスクワを離れるまで,ほぼ毎日これを続けた。
また,原告は,前示報酬を科研費から支出するのに必要な書類に押印して,被告乙に送付
し,これに対し同被告は,月日付けで,その返信のほか,秘書として本件研究室での75
就労を依頼する手紙を,また同月日付けで,勤務条件の決定や採用の手順等を知らせ17
る手紙を送ったが,後者の手紙には,秘書の採用のため月日に本件研究室に来てほ721
しい旨と,本件大学の事務室に出す履歴書が必要だとの旨を記載した。
()原告は,月日に日本に帰国し,前項末尾の手紙を読んだが,当時はいまだ本18719
件研究室で秘書として働くか迷っており,これに否定的な気持ちの一方で,被告乙にきち
んとした処分がなされ,就労場所を第三者が監督するなど安全が保障されれば,本件研究
室で働いてもよいなどとも考えながら(平成年月日付け第回口頭弁論の原告本138294
人調書頁),上記手紙にあった履歴書の提出をしないでいた。43
一方,被告乙の上記手紙で本件大学への履歴書提出を求められたことや,前示科研費関係
,,,の領収証書等に本件大学の関与をうかがわせる記載があったことなどから原告は当時
問題の秘書を本件大学の雇用する職員と考えており,そのため,履歴書の提出が遅延して
いる理由を本件大学に知らせる必要性を感じ,月日と同月日に,モスクワから書72021
き続けた本件機会やその後の経過等をまとめて本件文書Ⅰを作成し,冒頭に「乙先生か,
らは,彼の研究室で秘書として働くよう,強く求められていますが,この度,別紙のよう
な次第が起こりましたので,貴大学での就労を決めかねております。このような事態に対
し,どのような対処をすればよろしいか,ご教授願いたく存じます」との一文(以下「本。
件原告側手紙」という。)を添えて,月7
日,本件大学学長と本件学部事務局あてに発送した。他方,原告は,上記の本件文書21
Ⅰに,本件機会とその後の経過を記載していたが,本件原文書にはなかった本件機会及び
2「」,上海での会話以外の部分が書き足されまた本件機会の経過にも差異があった(後示
()以下のとおり)。3
また,原告は,同月日に労働省愛知女性少年室等にも相談に行った。21
()その一方で,原告は,さらに同じ月日に,本件研究室では働くことができな19721
い旨の本件文書Ⅱを作成し,翌日午前中,原告の母親が,同女作成の本件文書Ⅲと共22
に,直接被告乙あてのつもりでファックスで送信したが,実際は,これらは本件大学の事
務室に届いた。これに対して,被告乙は,いずれも同月日付けで,原告のファックス22
8には大きな誤解があり,本件機会の言動に不純な動機はなかった旨のファックス(乙ロ
のの頁)を送り,また,関係者に弁明する旨知らせるはがき(甲)を送付したが,24918
このはがきには「治安上の問題が気になり部屋のドアは閉めました。モスクワのホテル,
などでもやったことで侵入者避けのつもり以外に他意はありませんでした「あの晩の。」,
ドアを閉めたことも抗議されて,私は当惑し
ました」などの弁明が記載されていた。。
さらに,原告は,前示()と同様の相談のため,月日前示()のとおり本件研究室で177213
2223728働いていたBに翌日にはA助教授に日にはC博士にと順次電話しさらに月,,,
日には他の知人にもファックスで事情を知らせるなどしたが,このうちA助教授に対する
電話では,名称が判然としないながらも,本件機会に被告乙が薬を飲んでいた旨の話をし
たため,同助教授が「それってバイアグラ」と尋ねる一幕があった。一方,原告は,,。
上記ファックスで断りを入れた旨を述べながら,いまだに被告乙の下で働くか迷っている
ような話もしたため,あきれたA助教授は,働きたくないのなら,そう言えばいいだけだ
と意見を述べた(乙の頁)。333
また,原告は,これらの間に月日,同月日と名古屋国際センターのロシアフェス72223
ティバルに参加した。
()他方,本件文書Ⅰを受け取った本件大学では,セクシュアル・ハラスメントに関す20
る事項が記載されているという認識を持つ一方で,同文書からは,原告がどのような解決
・手続等を求めているのか,その真意が判然としなかったため,すぐ事務局総務課から原
告宅に電話したが,応対した原告の母親は,電話でのやり取りは誤解を生むのでコメント
できない,手紙で返事がほしい旨を述べて,原告の真意については回答を拒絶した。
そこで,本件大学では,月日付けで原告あてに「学長及び人文社会学部事務室宛の723,
お手紙を拝見いたしました。乙教授のヤクーツクでの言動について詳細に書かれており,
ご心痛のこととお察しいたします」という書き出しで始まる手紙(乙ロのの資料。。822
以下「本件大学側手紙」という。)を出して,大学側では原告の真意を把握しかねている
旨を伝えるとともに,学生のセクシュアル・ハラスメント被害の場合を例に,まずカウン
セラーに相談し,解決しない場合には苦情処理機関で対応することになっていると,セク
シュアル・ハラスメントの一般的な対処の仕方を説明し「ご希望であればカウンセラー,
への相談については,本学の学生と同様に相談に応ずるよう配慮させていただきます」。
との提案を行った。また,前示()のとおり18
本件原告側手紙が,秘書を本件大学に雇用される職員とする前提を取っていたことから,
,,,その点に注意を促すためにも研究室の秘書は飽くまで研究室が私的に採用するもので
本件大学の職員ではない旨を書き添えた。
これに対し,原告は,弁護士に相談し,その事実を明らかにしたうえで,月日付け728
の本件文書Ⅳで,①本件文書Ⅰを出したのは,前示()のとおり履歴書の提出が遅れてい18
る理由を知らせるためであり,②カウンセリングの必要性は感じていない,③秘書が教授
に私的に雇われるにせよ,本件大学と無関係ではないので,セクハラ委員会で審議し,被
告乙に厳重な処分をなすよう切望するとの意向を明らかにしたが,一方,同文書や本件文
書Ⅰには,後示()の本件文書Ⅴ,Ⅵのような暴行未遂等の記載はなく,現在セクシュア22
ル・ハラスメントを受けているとか,また後示()のように,本件セクハラ行為で重篤31
な精神的被害を被っている旨の記載もなかった。
()本件文書Ⅳを受け取った本件大学では,原告の厳重処分の希望を見て,重大な問題21
と位置付け,月初め,学長らも含めて対処方針を協議した。8
ところで,被告市では,平成年月日の改正雇用機会均等法の施行に合わせて,同1141
日付けで被告市セクハラ防止要綱を定めるとともに,総務局職員部人事課に苦情処理委員
会を設置し,本件大学でも,学生生活委員会にセクハラ対策小委員会を設置して,セクシ
ュアル・ハラスメントに関する苦情処理の方法や,そのための体制作りを協議しており,
また,従前から外部の専門家(臨床心理士)に委託して相談室を開設していたほか,各学部
にセクシュアル・ハラスメント学内相談員を置いていたが,いまだ大学自体の常設の苦情
処理機関は設置されていなかった。一方,月日に本件学部長が被告乙から事情聴取し85
たところ,同被告はセクシュアル・ハラスメントを否定する説明をしたため,教育公務員
特例法条項,条項の定めとの関係でも9252
,何らかの機関を設置して原告の申し立てた問題に対応する必要が生じたが,ちょうど当
時は夏季休暇中で,その協議に当たるべきセクハラ対策小委員会の構成員の多くが出張し
ているなど日程調整が極めて困難であった。
896そのため,本件大学では,月中から原案作りなどの準備のうえ,休暇明け早々の月
日,学部長・部局長会で,原告の申し立てた問題のみに対処する苦情処理機関とその下部
の調査機関として,セクシュアル・ハラスメント臨時苦情処理委員会及び調査委員会(以
下各々「苦情処理委員会「調査委員会」という。)を設置し,同月日に第回の調査」161
委員会を開催した。
,,,この苦情処理委員会は学生部長のF教授を委員長とし各学部長を委員として構成され
調査委員会は,処理委員会委員で自然科学研究教育センター長のG教授を委員長とし,各
学部のセクシュアル・ハラスメント学内相談員等を委員として構成された(なお,調査委
員会の委員長は,当初本件学部の教授が務めていたが,公平性確保のためG教授と交代し
た。また,調査委員会は,男女構成の適正化のために,女性委員を名増員して男女同数1
とされた。)。また,これら委員会の事務方は,本件大学の事務局総務課等が担当し,秘
密保持のため十分配慮しなければならない旨が定められた。さらに,下記()のとおり原22
告の不信感が強いことを受けて,原告との直接の連絡は,同じ女性で経済学部セクシュア
ル・ハラスメント学内相談員のH教授が担当す
ることになった。
()この間,原告は,本件大学の対応や本件大学側手紙の内容に不満を募らせ,22
82218この点や被告乙の言動について,友人・知人らに相談していたが(乙ロのの頁),
月日付けで被告市の総務局職員部人事課等に本件文書Ⅴを出して,今回の被告乙の言25
動は,単なるセクシュアル・ハラスメントではなく,ストーカー的手段を含んだ計画的犯
行であるとの見解を示し,被告市と本件大学には,事実を緊急かつ子細に検証して公表す
る責務があり,被告乙に対する解雇を含む厳重な処分を要求する旨の意思を表示した。
そして,同文書中で,原告は,自己を被告乙による暴行再発の被害者だと主張し,その論
拠等として,①A助教授から,昨年同被告乙がC博士(文中では匿名)に暴行まがいのこと
をしているので,くれぐれも気を付けるよう言われた,②平成年月モスクワ訪問等113
の際も,二人きりの密室状態を作り出して暴行する機会を画策していた,③本件調査旅行
も,原告との間に性的関係を持ち続けるための準備行動にすぎない等々と記載した。
また,同文書には,資料として本件調査旅行での被告乙の言動に関する詳細な記載が添付
されており,これには,本件文書Ⅰまでになかった同旅行前後の経過が付加され,旅行中
,,,の出来事についても種々の付加等があったが一方原告の精神的肉体的被害については
要旨「性的な暴行によって傷つけられた女性は,どんなに努力しても一生消すことので,
きない心の傷を負わされたことを意味しています」などの一般的記載があっただけで(乙。
ロのの頁),具体的症状や治療についての訴えはなかった。8222
さらに,原告は,月日付けで,被告市に本件文書Ⅵを出して,自分が本件大学の秘書91
として本件調査旅行に参加した旨主張し,原告の肩書が「Z市立大学秘書・通訳」と記さ
れたサハ人文科学研究所の招待人名簿等を提出したほか,本件セクハラ行為は監禁未遂,
強姦未遂だと訴えた。
()一方,本件大学では,前示()のとおり,月日から苦情処理委員会と調査委2321916
員会の活動が実質的に開始されたが,翌年月には被告乙の定年退職が予定されていたこ3
とから,それまでに,教育公務員特例法の規定に従って,大学教員である被告乙の懲戒処
分に関する結論を出すよう手続を進め,月日に被告乙の第回目の事情聴取を行っ9221
た後,ほぼ週間に回の割合で調査委員会を開催して,月日に原告の,同月日1110913
にA助教授の,月日には被告乙の第回目の事情聴取を行い,随時,苦情処理委員11102
会も開催したが,双方の言い分が食い違い,客観的証拠も乏しいことから,セクシュアル
,。,・ハラスメントの認定に積極消極双方の意見が出て事実認定には困難が伴ったそして
前示()のとおり原告が本件セクハラ行為を前22
年のC博士に対する暴行の再発と主張していたことから,調査委員会では,傍証を得るた
め,月日付けの手紙(乙ロのの資料)で同博士に照会する一方,並行して報告11188216
書の取りまとめを進めた結果,月下旬には苦情処理委員会の方針を出し,その後教授12
会と評議会の審議を経て,翌年月中旬ころ懲戒に関する最終的な処分が決定される見込2
みとなり,そのことは,月日付けの文書(乙ロのの資料)でG調査委員長から11248215
原告に連絡された。
,,,,しかるに原告は弁護士を通じて月日付けの本件文書Ⅷで本件大学の手続には126
解決の遅延や委員会の人員構成の不公正,その他不適正な点があり,本件セクハラ行為に
ついて迅速かつ適切な対応を怠った責任があると主張して,①年内に被告乙に対する処分
を決定すること,②解決を遅延させた責任及び監督責任を怠った慰謝料万円を支払う200
12138ことを要求し,これに対し,本件大学は,月日付けで原告の要求を拒否した(乙ロ
のの資料)。220
()苦情処理委員会は,月日付けで,要旨「被告乙は,本件機会に原告を本件241220,
客室に呼び寄せ,部屋の鍵を掛けようとし,また,本件客室内で誤解されるような話をし
て,原告を不快にさせた」との事実を認定のうえ,①被告乙の行為は,本件大学が定義。
291するセクシュアル・ハラスメントに該当する,②同被告の行為は,地方公務員法条
項号及び条に抵触し,同法条項号の戒告処分が適当である旨の認定と提言を3332911
し(乙ロの),教授会と大学評議会の審議を経て,平成年月日,被告乙に対す8112225
る戒告処分が実施されたが,原告は,同月日本訴を提起した。17
なお,この間,調査委員会は,面接による事情聴取を原則とし,また,相手方の言い分を
確かめる問いかけは,身構えた受け答えになり,事実確認に適正でないという配慮から,
双方ともに相手方の言い分を伝達しないとの調査方針を立てて,そのように実施された。
,,,一方調査委員会から原告に対してはH教授を通じて頻繁にファックスで経過を知らせ
同委員会からも前示()のとおり経過を知らせる文書が出されていたが,原告は,当初書23
面での事情聴取にこだわり,口頭での聴取を拒否して,その理由を明らかにせず「調査,
委員会が何のために性急に事を運んでいるのか全く理解できません」などと主張したた。
め,事情聴取が実現するまでにH委員から回のファックスが発信された。8
また,原告は,自分の事情聴取について調査委員会の記録化に異議を唱え,自己の作成し
た記録を採用するよう主張し,やむなく調査委員会では,双方の文書を正式の記録として
採用したが,この調整に一定の時間を要した。
そのほか,月日付けで原告から,各委員会の構成等の開示の要求があり,月日926105
に大学側からその連絡がなされた。
()一方,前示()の事情聴取において,被告乙は「本件客室のドアはオートロック2523,
であり,ロシアでは防犯上の配慮から必ず閉める,本件機会にドアを閉め,鍵を掛けよう
827172としたことは防犯上以外のなにものでもない旨を供述していた(乙ロのの,。」,
頁)。
また,原告は,①前示()の事情聴取の際に「帰国前のA助教授から『乙先生からセ23,,
クハラを受けていない』と聞かれて『受けていない』と答えた」旨を述べたため,。,。。
さらに委員から「この時点では,甲さんには,セクハラを受けているという感覚はなか,
。」,「。」ったんですねと質問されてセクハラを受けているという感覚はありませんでした
と答え(乙ロのの,,頁),②本件文書Ⅰにバイアグラの記載が抜けている82115116128
点を質問されて,(本件文書Ⅰは)「とりあえず出さなくてはと思って出したので,記述が
抜けただけですと弁明し(乙ロのの頁)同席した原告の母親が後で前示()。」,,,8211416
62882133のとおり月日原告からバイオナイアガラと聞いた旨を述べた(乙ロのの,「,」
頁)。
()本件調査旅行に際し,被告乙は,本件大学学長の月日付け本件旅行命令に基26517
づき,被告市派遣基準条項の第種海外派遣としてロシアへ出張したが,同海外派遣213
については,上記条項で「我が国又は外国の政府,大学その他これらに準ずる公共的機,
関若しくは学術の研究調査を目的とする団体等から費用の全部又は一部の支給を受けて,
海外において国際会議若しくは学会への出席,学術研究,教授又は講演その他これらに類
,」,する目的のため教育公務員特例法条の規定により海外において研修をする場合と20
教育公務員特例法条所定の研修の一種である旨が定められていた。20
また,本件各調査旅行による被告乙及び他の参加者の研究成果は,同被告が研究代表者と
なって,論文集「シベリアへのまなざしⅡ」に編集し,同論文集は,平成年月日1231
本件学部から発行された。
()本件各調査旅行の費用は,全額,当時の文部省の科研費によって賄われ,原告に支27
。,払われた前示()の本件調査旅行参加の報酬も科研費から支出されたもともと科研費は16
個々の研究者に交付されるもので,本件調査旅行の場合,参加する研究者が複数の研究機
関にまたがるため,研究代表者である被告乙に交付されたが,文部省の通知により,その
交付申請手続は,すべて研究機関で取りまとめて行うことになっており,そのため,本件
でも本件大学がその手続を行ったが,飽くまで本件大学が支出する資金ではなかった(前
示()第段の原告の判断は,これらの点に関する本件大学の関与を見て,大学の職員で182
はないかと誤解したものである。)
また,被告市や本件大学には,秘書という職員の身分はなく,それまで本件研究室にいた
,,,秘書も被告市との雇用関係はなくその費用は被告乙が科研費などから捻出していたが
原告は,その事実を知らなかった。
本件セクハラ行為の有無及び経過2
()前示()ないし()認定の事実によれば,被告乙は,①本件機会に,旅先のホテ111214
ルで独身女性と二人きりになった状況を利用して,原告の意思に反し,かつ,これに秘し
て,本件客室のドアを閉め錠を掛けるという物理的な行動によるセクシュアル・ハラスメ
ントに着手し,これが失敗に終わった後にも「僕は,家ではねえ,妻とはもう長いこと,
……ないんだよね」などと性的な話題を出したり「僕は,甲子さんには特別な感情を。,
持っていてねえ「いつもそういう目であなたのことを見ていますよ」などと原告に。」,。
対する自己の性的欲求ないし恋愛感情をほのめかしたり「あなたが結婚したら,僕はサ,
ッと手を引きます」などと,あたかも原告との一時的な性的関係を望むかのような発言。
をするなどの言語によるセクシュアル・ハラスメン
トを行ったと認めるのが相当であるが,そればかりではなく,②あらかじめバイアグラを
服用していた点や,ドアに鍵を掛けようとした上記行為は,原告が容易に外に出られず,
助けを呼べない状況を作り出す意図に基づくものと評価できる点などからすれば,少なく
とも被告乙は,必要なら原告を無理矢理説得し,困惑させ,あるいは多少の有形力を行使
する等の方法によって,これと性的関係を結ぶ目的を有しており,かつ少なくとも原告を
本件客室に誘った夕食の時点から,これらを計画的に行おうとしていたと認めるのが相当
である。
そして,③以上認定のようなセクシュアル・ハラスメントの目的をもって,原告を本件客
室に誘うに当たり,被告乙は,自己が本件調査旅行の研究代表者として参加者の行動に事
実上影響を与え得る地位にあり,他方原告は,ビデオ撮影などの調査研究活動以外に,日
常生活全般にわたる通訳や雑用等を担当するため,被告乙の意向に従って行動せざるを得
ない立場にあって,また,その仕事の性格上,明確な勤務時間の定めがないことも利用し
て,夜間に機会を作り,前示のような行為に及んだと認めるのが相当である。
()以上の認定に対し,被告乙は,本件セクハラ行為の成立を争い,①「バイアグラを2
飲んどいたよ」などの発言やその服用,あるいは本件機会途中で本件客室のドアを閉め。
ようとした事実を否認するほか,②「甲子さんには特別な感情を持っていてねえ「い。」,
つもそういう目であなたのことを見ています「あなたと一緒に旅行できて本当にうれ。」,
しい」などの発言については,少なくともその趣旨を争い,いずれも性的意図等を伴わ。
ない旨主張しており,甲,乙,被告乙本人の供述のほか,乙ロの中の同被告の183482
提出・供述にかかる部分には,これら主張に沿う記載がある。
また,③甲には「私は彼女をいわゆる女性としては意識したことはなく」と,原告に18,
対する恋愛感情やこれに類する感情,関心等を否定する趣旨の部分があり,被告乙本人の
供述中にも同趣旨の部分がある。
しかしながら,まず上記③の点からみるに,被告乙が原告に対し,秘書としての能力に対
する期待のほかに,少なくとも恋愛感情あるいはこれに類する感情を有していたことは,
前示()②③や同()の手紙やカード等の記載から否定し得べくもない。そうすると,上167
記②の「原告に特別の思いがある」などの発言についても,このような恋愛感情等の文脈
で理解するのが自然であって,これらの言葉に原告に対する恋愛感情ないし性的意図をほ
のめかす趣旨が含まれていることは否定できない。
次に,被告乙が本件機会の途中で本件客室のドアを閉めようとしたか否かの点について検
討するに,現在同被告は,防犯上の見地から原告が本件客室に入った時点でドアを閉め,
鍵も掛けた旨主張し,乙には,これに沿う部分があるが,前示()の調査委員会か34123
8らの事情聴取時においては本件客室のドアはオートロックだったと供述しており(乙ロ,
のの頁),これは実質的に,内側から鍵を使って錠を掛ける動作をしなかったことを271
意味する供述になるところ,同被告は,その後A助教授の証言でオートロックではなかっ
たことが判明してから,前示のとおりに主張を変遷させているもので,供述に一貫性がな
い。また,A助教授の証言や調査委員会に対する発言を精査しても,当時本件ホテルが,
当然に入り口のドアに鍵を掛けるほどに治安が悪
かったとも認められない(乙ロのの頁以下)。82136
さらに「バイアグラ」との発言の有無についてみるに,日本を離れロシアで言語学を専,
攻していた原告が同薬剤の名称や薬効を知らず,バイアグラという発音を正確に覚えられ
ないまま,母親やA助教授に被告乙が薬剤を服用していた旨を訴え,かえって相手から薬
の名称を教えてもらうなどしたのは,前示()()()に認定のとおりであって,この1161925
ような経過は,上記のような原告の経歴等に照らし,自然で信用性の高いものということ
ができる。
したがって,以上を総合すれば,他方前示()の認定の基礎の一部になった原告側証拠に1
も,次項以下のとおりの問題点があることを考慮しても,直ちに被告乙に有利な前示証拠
を採用して,前示や前示()の認定を左右することはできないというべきである。11
()一方,上記原告側証拠のうち,特に原告作成の文書や陳述書類については,以下の3
ような問題点を指摘することができる。
すなわち本件機会後原告が経過等をまとめて記載した陳述書類は前示()()(),,,1171822
,,,,認定のとおり本件原文書を最初としてその後平成年月日付けの本件文書Ⅰ11721
82558同年月日付けの本件文書Ⅴを経て本訴事件提起後に作成された原告の陳述書(甲,
ないし。以下一括して「当審陳述書」という。)に至っているが,後に提出されたもの60
ほど対象となる時期・範囲が広範に拡大するばかりか,極端に詳細な内容が付加されてお
り,それだけで,これら陳述書類(特に,後刻作成されたもの)が真に記憶等に従って作成
1されているのか疑問がないではない(なお,原告がヤクーツクで書き留めたという前示
()のメモは,当法廷に提出されていない。)。17
そのうえ,これら陳述書類を対照すると相互に齟齬が認められ,例えば,本件セクハラ行
為の存否についての中心問題である本件機会の経過は,①本件原文書では,大略,(a)バ
,,,イアグラの件(b)スケジュールの打合せ(c)被告乙がドアに鍵を掛けようとした一件
(d)A助教授の経歴に関する話(e)平成年調査旅行でC博士が不機嫌だった件(f),,10
最終的に前示()以下の言葉によるセクシュアル・ハラスメントが行われる場面へと順114
次展開するものが,②現在の完成版とされる当審陳述書では,A助教授の経歴に関する話
(上記(d))が,ドアに鍵を掛けようとした一件(上記(c))の前に移り,しかも,その経過
が,要旨「A助教授や他の人物の経歴に関し被告乙の性的ないし不愉快な話が長時間続,
いたので,その場の雰囲気を変えるため,お茶
を提案したところ,ドアに鍵を掛けられそうになった」との趣旨に変更されているが,こ
のような変更には明らかに一貫性がない(当審陳述書以前の本件文書Ⅰ,Ⅴでは,いずれ
も話の順序や経過自体は,次の点を除き本件原文書とほぼ同一で,上記鍵括弧内の趣旨を
うかがわせる記載もない。)。
また,本件原文書や本件文書Ⅰでは,上記(e)の挿話には,前示()第段で認定した1133
ように,むしろ緊張感を欠く雑談的な内容が相当程度含まれており,本件機会における被
告乙の言動の全部が性的ないし不愉快な内容ではなかった様子をうかがわせているが,こ
,,のような同挿話中の雑談的な部分は本件文書Ⅴや当審陳述書では完全に抹消されており
緊張感を演出するための脚色がなされている疑いが払しょくできない。
()逆に,本件原文書を当審陳述書と対比すると,前者では,本件機会に被告乙が話し4
たA助教授の詳細な経歴や,それ以外の関係者(C博士その他)の経歴等に関する話がほと
,んど脱落しているのがうかがえるところ(前示()()認定の原告の入退室時刻からも11214
,。,本件原文書記載のやり取りだけではこの間の時間経過に不足するのは明らかである)
前示()認定のとおり,本件機会における重要な会話等を友人・知人に知らせてセクシ117
ュアル・ハラスメントか否かの判断を仰ぐという本件原文書の目的からすれば,このよう
な省略自体は,同文書の信用性を減殺する事情とはいえないが,これは一方で,当時原告
が,本件機会にA助教授等の経歴などに関して被告乙がした話をセクシュアル・ハラスメ
ントと意識していなかった一証左というべきであ
って,要するに当審陳述書は,従前原告がほとんど問題にしていなかった上記の点を,セ
クシュアル・ハラスメントないし不愉快な挿話に改変しようとしているというべきであ
る。
そして,同様の改変はほかにも指摘でき,例えば,(a)原告は,前示()認定の経過か17
らうかがわれるように,体調が悪かった平成年月モスクワ訪問の際,被告乙の観光113
案内の要求を好ましく思わなかったことは当然としても,それ以外は,前示の()①の125
調査委員会に対する供述内容のとおり,平成年月日ないし同月日の時点で,1162223
それ以前の被告乙の言動等をほとんど問題と感じておらず,また,(b)前示()第段154
のとおり「甲子さん」と名前で呼ばれることにも強い抵抗は感じていなかったとみられ,
るのに,当審陳述書は,いずれもこれらを不愉快な挿話やその連続に変更してしまってい
る(特に,本件文書Ⅴの付加的な部分《乙ロのの頁》で,平成年月モスクワ8239113
訪問の際に被告乙からホテルに泊まるよう誘われた
旨の内容が急に出てくるなどの箇所には到底信用性が認められない。)。
()一方,本件原文書には,このような問題が比較的少ないと思われるが,それでも,5
例えば,同枚目の「いやあー嬉しかった。まんまと引っかかったとも思った「それ3。」,
598じゃぁ私はエサにくいついた魚ですか?とのやり取りについては当審陳述書(甲の」,
頁)によれば,平成年月日にもほとんど同じ経過があったというのであって,そ11620
れから日後の本件機会になって,同様のやり取りがそのまま再現されるというのは,い4
かにも不自然である。結局,本件原文書中のこのような部分は,他の場面の出来事が混入
している可能性が否定し切れず,信用性に乏しいといわざるを得ない。
そして,本件原文書の内容に,前示()第段のとおり,これから脱落しているとみられ41
るA助教授や他の人物の経歴等に関する被告乙の話や,そのときあったと考えられる原告
との会話などを挿入すると,全体の経過は,本件原文書にあるより,かなり間延びしたも
のとなり,言語によるセクシュアル・ハラスメントといえるのは,冒頭のバイアグラの話
を除くと,専らそのうち最後の方の一部にとどまるというのが相当である。
()したがって,本件機会の経過の認定に関しては,できるだけ本件原文書と被告乙の6
認める発言等を基礎として,これから上記のように他の場面との混同の可能性のある部分
等を除外し,かつ,被告乙の意図については,前示()第段判示のような手紙等の客観23
的証拠に基づいて認定するのが相当であり,本件機会に,前示()ないし()に認定し11214
た以上のセクシュアル・ハラスメントが行われたと認定することは困難である。
()これに対し,原告は,本件セクハラ行為を強姦未遂と主張し,被告乙が強度の暴行7
等に着手しようとしていたかのような趣旨の主張もするが,本件客室のドアに鍵を掛けよ
,。うとして失敗した以外に本件機会に被告乙が原告に直接暴行等しようとした形跡はない
,,,,,そして本件機会当時被告乙が歳だったのに対し原告はg歳と若くまた甲の64173
,。,21などの写真や弁論の全趣旨(各本人尋問時の観察を含む)からうかがわれるとおり
被告乙と原告に必ずしも大きな体格差があるとはいえないことも考慮すると,同被告が,
多少の有形力の行使はともかく,完全に原告の反抗を抑圧して強姦等の行為に出ようとし
ていたかは疑問があり,結局その企図していた行動の内容については,前示()②の程度1
と認定するのが相当である。
()そのほか,原告は,前示第,()アのとおり,本件調査旅行への参加も被告乙の8221
ストーカー的な行為によって強制されたものである旨を主張し,当審陳述書等には,これ
に沿う部分があるが,当審陳述書のこのような部分が信用性に乏しいのは,上記()以下3
に判示のとおりである。
そして,原告が,平成年月ころ自己の判断でいったんは本件調査旅行への不参加を114
決定したが,その後再び自分の考えで参加を決めていった経過は,前示()認定のとお18
りである。
また,一般的に,特定の行為がストーカー行為と評価されるかは,相手方がそれをどのよ
うに受け取るかに大きく依存する問題というべきであるが,前示のとおり,被告乙が原告
に恋愛感情ないしこれに類する感情を抱き,原告との接触の場面を増やそうと希望し,原
告の本件調査旅行への参加に腐心していた事実は認められるが,原告の方は,本件調査旅
行へ参加する以前の被告乙の行為を強く問題視していなかったのは,前示()第段に判42
示のとおりである。そして,特定の時点で問題でなかった行為が,その後相手方に不愉快
と受け取られるようになったとしても,これをストーカー行為などと評価できないことは
当然であって,原告の上記主張は容易に採用できない。
()また,原告は,前示の()第段①ないし③のとおり,本件セクハラ行為が自己91222
及び他者に対する反復的なセクハラ行為の一部である旨を主張し,当審陳述書などには同
様の趣旨をいうかのような部分がある。さらに,原告は,前示()第段のA助教授と1111
の会話を,この点に関して自己に有利な証拠として援用している。
しかしながら,前示()④のC博士に関する挿話について,A助教授が被告乙の発言と111
,,して証言等するのはせいぜい未婚のまま研究を続けているといった程度の内容にすぎず
しかもこれは,前示()④のとおり,原告が同博士のことを非難するのをとりなそうと111
する話の一事情として出てくるにすぎないのであって,原告が問題とする「にもなっ40
て男を知らないのはかわいそうだ。何なら私がお手伝いしましょうか」などという発言。
とは隔絶した内容であり,前示の()第段①にいう暴行まがいの行為にも当たらない1222
のは当然である。そして,被告乙の上記鍵括弧内の発言を裏付けると認めるに足りる証拠
は全く存在しない。
また,前示()第段のA助教授との会話の際に,同助教授から「セクハラ」という言1111
葉が出ていたとしても,同会話中で,原告が被告乙からのセクシュアル・ハラスメントを
1訴えずまた当時それまでの同被告の行為を特に問題と感じていなかったことは前示,,,
()①と前示()認定のとおりであるそしてA助教授の証言などに照らせば前示()254111。,,
①ないし③が,被告乙によるセクシュアル・ハラスメントを具体的に懸念しての発言であ
るとは容易に認め難く,また前示()末尾の事情なども考慮すれば,前示の()第段41222
②③の点も直ちに採用できない。
結局,本件セクハラ行為を原告自身に対する過去のセクシュアル・ハラスメントの再発と
とらえることも困難であって,上記主張も採用できない。
本件セクハラ行為後の原告の被害状況3
()この点について,原告は,本件セクハラ行為によって,いわゆるPTSD被害を被1
13627ったと訴え,その典型的な諸症状が出ている旨を主張している。また,平成年月
日の口頭弁論における本人尋問中,原告が供述を続けられなくなり,一時中断したことは
当裁判所に顕著な事実である。
()しかしながら,本件では,原告のPTSD罹患を証明する医師等の診断書は存在せ2
ず,原告が病院での診断やカウンセリングを受けた形跡も認められない。
そして,本件セクハラ行為後の原告の活動等をみても,前示()以下に認定のとおり,115
旅行中の調査活動への協力はほぼ従前同様にこなし,大学の卒業式出席やその後の通訳の
アルバイトなどにも格別支障があった様子がないし,短期間のうちに,本件原文書や本件
文書Ⅰ等の作成なども順調に進め,本件セクハラ行為について,多数の友人・知人や関係
機関等に極めて積極的に相談を持ちかけるなど,この当時,原告に抑うつ的な傾向は,ほ
とんど認められない。
また,一般にPTSDにおいては,ストレスの原因に対する強い回避傾向は必発の症状と
いってよいものであるところ,前示()以下に認定の経過を検討しても,原告が被告乙115
に対し,このような強い回避の態度を示した事実は容易に認められず,特に,いかに就職
難であるといっても,PTSD被害を受けたはずの者が,前示()()()()のよう115161819
に,その原因である被告乙のいる本件研究室での秘書就任を断るか否か迷っていたという
のは誠に理解し難いところである。そして,そのほかにも,原告には,前示()末尾の115
とおり,被告乙に対して極めてはっきりした要求を行っている場面なども見受けられる。
さらに,前示()の場合以外に,原告が人前でいわゆるフラッシュバックその他の強い精1
神身体症状を示したと認めるだけの証拠はないし,前示()の本人尋問の場面でも,一時1
的な中断があった以外に,原告の法廷供述が内容的に不十分なものとなった等の形跡はな
いのである。
そして,本件原文書をみると,そもそも原告自身が描写する本件セクハラ行為直後の状況
は「私はすでに廊下に出ていた。あまりあからさまに怒りを表現して,先生がアルバイ,
ト代をくれなくなるのも困ると考え,ぐっと自分の感情を抑えて,明日の朝食の時間を決
め,:ごろ部屋に戻った。くよくよ考えても仕方がない。あからさまに先生に対し1030
て冷たい態度をとったら自分の立場を不利にするだけだと考え,今起きたことが気になり
ながらもベッドに横になった」などという,比較的冷静さを保った,感情の抑制された。
ものであり(乙の枚目),また,これからほどなくして書かれた本件原文書の作成目324
的も,前示()認定のとおり,本件機会の出来事がセクシュアル・ハラスメントなのか117
冗談なのか他人の意見を聞くという程度のもので
あったのが,本件大学に対して出された一連の手紙等の中で次第に被害感情が明確になっ
てゆき,前示()のとおり,途中の本件文書Ⅴや同Ⅵから,暴行,監禁未遂,強姦未遂122
などの主張が出てくるようになり,さらに本訴提起後になって,前示()のとおり極端23
に詳細な当審陳述書が出てくるという経過をたどっているのであって,その結果,本件セ
クハラ行為後の被害状況等に関する当審陳述書の記載(例えば甲の頁以下)が,本件5922
原文書の上記記載などに比べて装飾誇張されたものとなっていることは明らかである。
,,,したがって以上を総合すれば当審陳述書など原告に有利なその他の証拠を考慮しても
原告主張のPTSDの事実は容易に認めることができず,他の精神的症状についても,現
在これを認めるだけの証拠はない。
結局,原告は,辺ぴなシベリアで強引に性的関係を求められそうになって,相応の不安,
苦痛を感じたことは間違いないものの,それを超えて,恒久,重篤な精神的外傷(トラウ
マ)等を被ったと認めることはできないというのが相当である。
()さらに,原告が最初に本件大学に対応を求めた平成年月ころの精神的状況等に3117
ついても検討するに,原告は,前示の()()のとおり,本件大学から提案されたカウ12022
,,,ンセリングを断り精神的被害の申告もしなかったものでありこれらの点を考慮すると
当時,前示のPTSDはもちろん,そのほかの精神的症状を被っていたとは容易に認めら
れないし,これらあるいは一般的な不安,抑うつ,焦燥等のために特別の医学的配慮を必
要とする状態だったとも考え難い。
そのうえ,原告は,前示()のとおり,弁護士に相談しており,必要ならば,その専門120
的援助も受けられる状況にあったものであり,かつ弁護士に相談している事実を告げてい
たのであるから,当時本件大学側において,原告に何らかの精神的症状が存在するとか,
そのために通常の判断力が損なわれているとか,あるいはこれに関し,特に本件大学の助
力を必要としていたなどと想定するのは極めて困難な状態だったことは明らかであり,こ
の認定を左右するに足りる証拠はない。
被告市の使用者責任4
()前示の()認定の事実によれば,本件調査旅行中の被告乙のロシア出張は,本件1126
大学学長の本件旅行命令に基づくものであり,かつ,被告市派遣基準の第種海外派遣に3
該当するというのであるから,本件調査旅行は,単なる自主研修ないしは職務専念義務免
除研修ではなく,教育公務員特例法条中のいわゆる職務研修に当たるというのが相当20
11であるところ,教員のこのような職務研修上予定された調査活動等は,国家賠償法条
項所定の公権力の行使に当たるというのが相当である。
そして,前示()③認定の事実によれば,被告乙は,本件セクハラ行為を行うに当たっ21
て,自己が本件調査旅行の研究代表者であり,原告が通訳や雑用等の担当者であるという
両者の上下関係から生じる事実上の影響力を巧妙に利用して不法行為に及んだものと認め
るのが相当であり,この認定を左右するに足りる証拠はない。
したがって,そのほか,前示()()認定のとおり本件調査旅行中しばしば本件客室が11012
日程の打合せに使用されており,現に本件セクハラ行為の際にも,本件客室内で翌日の日
程の打合せがなされていたなどの事情も考慮すれば,本件セクハラ行為は,職務研修上予
定された調査活動を契機として行なわれ,かつこれと密接な関連性を有する行為と認める
のが相当であるから,公権力の行使に当たる職員である被告乙が,その職務を行うにつき
なした違法有責な行為というべきであって,結局被告市には,国家賠償法条項に基づ11
き,これによって原告に生じた損害を賠償する責任があるといわねばならない。
他方,本件は,以上のとおり公権力の行使に係るものとして国家賠償法が適用される場合
であるから,民法条の適用は排斥され,この点に関する原告の主張は採用できない。715
()次に,原告の損害について検討するに,前示の原告の被害状況のほか,本件セク23
ハラ行為当時,原告と被告乙との間で秘書就任に関する同被告の勧誘が継続しており,こ
れに対し原告が承諾した事実は認められないものの,前示()のとおり,秘書としての118
就労を一切拒否する態度に出ていたわけでもないから,本件セクハラ行為によって,原告
は,この点に関する一種の期待権類似の地位を侵害されたといえなくもないことや,その
ほか前示及び後示に現れた本件の一切の事情を考慮すれば,原告の精神的苦痛に対する慰
謝料は,万円が相当というべきである。100
さらに,弁護士費用について検討するに,本件訴訟提起に至る経緯や訴訟追行の状況等に
かんがみれば,本件訴訟追行に要する弁護士費用のうち万円が本件セクハラ行為と相20
当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
したがって,被告市には,合計万円及び,うち慰謝料万円に対する本件セクハラ120100
行為の後日である平成年月日から,うち弁護士費用万円に対する同じく本件1112720
セクハラ行為の後日である平成年月日から,各支払済みまで民法所定の年分の122285
割合による遅延損害金の支払義務がある。
()以上に対し,被告市は,本件調査旅行が同被告の事業の執行に属さず,本件セクハ3
2ラ行為も夕食後の自由時間になした純然たる私的行為である旨を主張しているが前示,,
()③及び前示()に判示したところに照らし,容易に採用することができない。また,本11
件調査旅行の費用が科研費から出ていることも,以上の認定を左右するものではない。
被告市独自の責任5
()原告は,被告市に対して,以上のほかに,前示第の()ウのとおり,予防義務,1221
相談苦情の対応機関の設置義務,迅速かつ適切に解決すべき義務,説明義務及び守秘義務
の違反がある旨主張しているので検討するに,以下のとおり,いずれの義務違反も認める
ことができないというのが相当である。
()まず,原告は,これらの義務の前提となり得る法的規制として,対比表Ⅱ(原告の主2
張)第ののとおり,雇用機会均等法条,人事院規則−,セクハラ防止に関す32211010
る文部省訓令及び被告市セクハラ防止要綱を挙げて,これらが本件に適用になるか,ある
いはその違反が民法上ないし国家賠償法上の過失推定の根拠となる旨主張するので検討す
るに,これらの主張は容易に採用することができない。
すなわち,前示第の()ア,イ及びエのとおり,雇用機会均等法条は,セクシュア21821
1010ル・ハラスメントの対象を雇用する女性労働者に限定しており,また人事院規則−
は,国家公務員を対象とする規定であり,さらに被告市セクハラ防止要綱は,被告市の雇
用する職員の職場環境の確保と,職員の利益の保護及び職員の能力の発揮を目的としてい
るものであって(同要綱条),職員以外の者の利益の保護を目的としているとは解せられ1
ない。したがって,これらは,いずれも本件セクハラ行為に適用になるものではなく,過
失推定の根拠になると考えることもできない。
また,セクハラ防止に関する文部省訓令は,その法形式上,規範的効力を有するものでは
ないことが明白である。
()そこで,以下においては,これら法的規制以外の条理などの根拠についても考慮し3
,,つつ原告主張の前示()の義務ないしその違反が認められるか否かについて検討するに1
これも容易に肯定することができない。
アまず,原告主張の予防義務についてみるに,民法条ないし国家賠償法条項に70911
おける結果回避義務は,当該具体的状況において結果発生を予見できる場合に限り認めら
れるところ,本件全証拠を精査しても,あらかじめ被告市の関係者が原告に対する本件セ
クハラ行為の発生を具体的に予見できたと認めるに足りる証拠はない(本件セクハラ行為
を過去のセクシュアル・ハラスメントの再発と認めることができないのは,前示()の29
とおりである。)。
イ次に,相談苦情の対応機関の設置義務,迅速かつ適切に解決すべき義務及び説明義務
の存否についてみるに,契約や個別の法的規制があるなど明文の規定がある場合を除き,
セクシュアル・ハラスメントの加害者と目される者を雇用する使用者は,原則として,原
告主張の上記のような法的義務を負うものではないというのが相当である。
すなわち,一般にセクシュアル・ハラスメントは,閉鎖的な環境で行われる場合が少なく
なく,事実関係の確定などに困難を伴うのが通常であるが,使用者は,このような場合の
事実認定について専門的な能力を備えているものではなく,また,必要な調査権限も与え
られていないのであって,このような状況下で,当該加害者と目される者の処分を行わね
ばならないとすれば,事実誤認などによって生じる不利益を常に使用者が負担せざるを得
,,ないこととなって不当な結果を招くことになる(本件でも本件大学の調査過程において
,。。,,事実認定に困難が伴ったことは前示()のとおりである)またこのような場合123
事案の調査と事実認定に相当の期間を要することは当然であるし,使用者の調査内容が,
その後行われた裁判等による事実認定と,結
果的に異なるものとなったとしても,直ちにそのことをもって不当だとか,適切でないと
評価することはできない。
したがって,そもそも使用者は,原告の主張する意味において,セクシュアル・ハラスメ
ントに関する紛争を迅速かつ適切に解決すべき義務を負うものではないと解するのが相当
であって,その違反が独立の損害賠償責任の根拠となるということは困難である。
そして,使用者がセクシュアル・ハラスメントに関する紛争を解決する責任を負わない以
,,,上これに関する手続についてセクシュアル・ハラスメントの被害者とされる者に対し
法的な意味での説明義務を負っているということもできない。
また,同様に,使用者は,自身がセクシュアル・ハラスメントの被害者に適切な相談やカ
ウンセリング等を行う能力を有しているものではないのであって,相談苦情の対応機関の
設置を義務付けられるものともいえない。なお,セクシュアル・ハラスメントの被害者が
,,重大な精神的被害等を被り自己の法益を自らの手で保護できないような緊急の場合には
信義則上,加害者の使用者がこれに一定の保護や配慮をなすべき場合も想定されないでは
ないが,前示()に認定の事情に照らせば,本件の原告がこのような場合に該当するも33
のでないことは明らかである。
ウそして,前示()以下に認定の事実に照らせば,以下のとおり,実際にも,本件大120
学の対応に特に不当な遅延や不備があったとは認められない。
(ア)この点に関し,原告は,まず前示()の本件大学側手紙を「あなたがどのよう120,
な対処を希望しているか分からない「カウンセリングに来い」という誠意のないも。」,。
のだったと非難しているが,そもそもセクシュアル・ハラスメント被害を訴える当事者の
言い分・立場には極めて多様なものがあるのであって,その内容だけでも,現在進行中の
セクシュアル・ハラスメントからの救済,既に発生した過去のセクシュアル・ハラスメン
トに起因する精神的症状に対する心理的ケア等の要請,過去のセクシュアル・ハラスメン
ト被害に対する雇用関係上の処分の要請あるいは損害賠償等の要求,さらには職場環境の
整備等の単純な依頼など非常に多彩なものがあり得る。また,被害者が自己のプライバシ
ー保護や,あるいは反対に手続の迅速性等にどの
程度の重要性を置いているかも,その意向によって一律でない。
そして,その後加害者と目される者の使用者が取るべき方策は,被害者のこれら意向等に
よって,全く異なるものとならざるを得ない(例えば,被害者がプライバシー保護を非常
に重視している場合,本件で原告が要求した懲戒処分などの手続が進行することを,自己
の希望や利益に反すると感じるケースも想定されないではない。)。さらに,実際のケー
スでは,被害直後の被害者が混乱を来しており,専門家のケアや援助を必要としているな
どの可能性も直ちに排除することができないのが通常というべきである。
したがって,前示()第段のとおり「このような事態に対し,どのような対処をす1182,
ればよろしいか,ご教授願いたく存じます」とのみあって,具体的な解決方法の希望等。
を述べない本件原告側手紙に対し,解決方針の希望を含めた事情の聞き取りを行い,必要
ならば前示()第段の臨床心理士など専門家の助言も得られるようにするために,本1212
件大学側がカウンセリングを提案したのは,極めて一般的な対応であり,これをもって不
当ということはできない。
そして,本件大学側手紙の記載は,前示()第段認定のとおり,原告の被害に対する1202
同情,配慮を含むものというべきであり「ご心痛のこととお察しいたします」との書,。
き出しで始まり「ご希望であれば」カウンセリングの配慮をする旨を述べているのであ,
って,これをもって「カウンセリングに来い」との内容だとする原告の主張は,不当,。
な非難といわねばならない。
また,前示()のとおり,原告が本件研究室の秘書の法的地位について錯誤に陥ってい118
た本件では,表現の巧拙はともかく,本件大学側手紙の最後に前示()第二段末尾認定120
のような文言を書き添える必要性が全面的に否定されるものでもない(原告は,その後も
前示()末尾のとおり,なお同趣旨の主張を繰り返している。)。122
(イ)次に,原告は,本件大学側の対応の遅延を主張し,また苦情処理委員会や調査委員
会の構成等について積極的な説明がなされなかった等の趣旨を主張している。
しかしながら,本件では,前示()のとおり,原告自身が本件文書Ⅳをもって,弁護士120
に相談した事実を明らかにしたうえで,①被告乙の厳重な処分と,②「セクハラ委員会」
での審議を要求しているのである。
したがって,まず上記①の点からみると,地方公務員である被告乙に対する懲戒処分は,
性質上行政処分とならざるを得ず,後で抗告訴訟等が提起される場合に備えて,慎重な手
,,,続が求められるのは当然であるがそればかりでなく被告乙が大学の教員である関係上
教育公務員特例法に基づき,事前に審査事由についての説明手続を行い,陳述の機会を与
えなければならないし(同法条項,条ないし項),同法及び大学の自治の要請に92525
従って,大学管理機関である評議会及び教授会の審査を経ねばならないのも見やすい道理
である(同法条項,条項号)。そうすると,これら手続を行う関係機関の構成912513
や,必要な事案の調査,事実認定及び審査手続に相応の時間を要するのは当然なのであっ
て,そのことを非難することはできない(
原告は,専門家である弁護士と相談のうえ,上記のような要求方針を決定したのであるか
ら,そのアドバイスを得て,自己の要求に必然的に付随するこれらの諸事情をあらかじめ
検討しておくことが可能であった。)。
また,原告は,上記②のとおり,本件大学等にある審査機関の存在を前提としたうえで,
これによる審査の実施を求めており,しかも弁護士と相談した旨も明示していたのである
から,本件大学側が,原告から開示要請があるまで,苦情処理委員会や調査委員会の構成
等を開示する必要性を感じず,これらを積極的に説明等しなかったとしても,これを格別
不当ということはできない。そして,前示()のとおり,平成年月日にあった12411926
開示要請に対し,同年月日に本件大学から連絡がなされているのであって,特に遅105
延も認められない。
さらに,原告は,前示()第段のC博士に対する事実照会を不要な手続の遅延等と非1231
難しているが,上記照会に至ったのは,前示()のとおり,原告自身が本件セクハラ行122
為を同博士などに対する過去のセクシュアル・ハラスメントの再発と主張していたことに
起因するものであって,原告の上記非難は,この点を忘れた不当なものであるし,照会結
果が原告に有利なものでなかったからといって,直ちにこれを不要な手続ということもで
きない(C博士の回答は,前示()に判示したところと同様に,被告乙からの強度のセク29
シュアル・ハラスメントを否定する趣旨のものであった。)。
そのほか,原告は,弁護士を通じて行った前示()末尾の早期処分要求等を,本件大学123
側が実行しなかった点を非難しているが,上記説示のとおり,被告乙に対する処分に際し
ては,苦情処理委員会の結論が出た後も評議会等の審査を経なければならないのは,教育
公務員特例法等の要請するところであり,前示()第段のとおり,G調査委員長から1231
原告にこれら手続の日程が知らされていたのであるから,原告の上記処分要求は,その事
情を知りながら,あえて違法な懲戒処分手続を求めるものであって,適切を欠くというべ
きである。
したがって,以上のほかにも,前示()認定のとおり,原告が書面による事情聴取にこ124
だわって口頭での聴取を拒否し続けたり,自己の作成した記録に固執したため,一定の時
間を必要としたことも考慮すれば,他面原告からの事情聴取の際,本件大学側に録音ミス
,。があった点などを勘案しても本件大学の対応に不当な遅延があるということはできない
そして,原告に対し相応の経過説明がなされていたことは,前示()第段認定のとお1243
りである。
(ウ)また,原告は,本件文書Ⅷ等において,苦情処理委員会や調査委員会の構成が不公
正で,手続に各種の欠陥がある旨を主張しているが,原告主張の諸事情のために,実際に
これら各委員会の結論等が不当なものとなったことを認めるに足りる証拠はないし,委員
会の構成や原告との連絡方法,あるいは秘密保持等について相当の注意が払われていたこ
とは,前示()第段に認定したとおりであって,原告の上記主張も容易に採用するこ1214
とができない。
エさらに,守秘義務違反の点についてみるに,本件マスコミ報道が,被告市側の情報流
1出によると認めるべき証拠はなく,この点についての原告の主張も採用できない(前示
()()()のとおり,原告は,相当数の友人・知人に事情説明等を行っており,これら171922
からの情報の流出も考えられないではない。)。
被告乙の責任6
前示のとおり,本件は,国家賠償法が適用される場合であるから,被告市のほかに被告乙
が個人責任を負うものではなく,同被告に対する民法条の主張は失当である。709
被告乙の反訴請求について7
本件セクハラ行為について,前示及び同()のとおりのものが認定される以上,本件121
文書送付等に係る原告の申立て事実は,本件機会の同行為に関する限り,その主要部分に
おいて真実と認めるのが相当である。また,前示()以下の経過によれば,本件文書送118
付等は,本件大学等に本件セクハラ行為による被害を申告し,これに行政上の処分を要請
するなどの正当な目的に基づいて行われたと認めることができるから,結局原告のこれら
行為が,被告乙に対する事実無根の誹謗中傷ということはできず,違法に同被告の名誉を
侵害する場合には当たらない。
結論8
120100以上の次第で原告の被告市に対する本訴請求は損害賠償万円及びうち慰謝料,,,
1112720万円に対する本件セクハラ行為の後日である平成年月日からうち弁護士費用,
万円に対する同じく本件セクハラ行為の後日である平成年月日から,各支払済み12228
まで民法所定の年分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余5
は理由がなく,被告乙に対する本訴請求は,すべて理由がない。
また,被告乙の反訴請求も,すべて理由がない。
名古屋地方裁判所民事第部1
裁判長裁判官橋本昌純
裁判官夏目明徳
裁判官大橋弘治
(別紙省略)

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