弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人に関する部分を破棄する。
     被告人を懲役五年および罰金五、〇〇〇円に処する。
     原審における未決勾留日数中三五〇日を右懲役刑に算入する。
     右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算
した期間被告人を労役場に留置する。
     押収してある模造けん銃一丁(当庁昭和四八年押第一四〇号の1)、冊
子「A」一冊(同号の15)、冊子「B」一冊(同号の16)、電気剃刀外筒一個
(同号の19の1)、火薬の粉末一包(同号の19の2)、金鋸一丁(同号の2
3)および鉄パイプ爆弾二本(当庁昭和四八年一四二号の6および7)をそれぞれ
没収する。
     原審における訴訟費用中、証人C、同Dに関する分は被告人の負担と
し、証人E(二回共)、同Fに関する分は各その二分の一を被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人田口康雅が提出した控訴趣意書に記載されたとおりであ
り、これに対する答弁は検察官提出の答弁書に記載されたとおりであるから、いず
れもこれを引用し、これらに対し、当裁判所は次のとおり判断する。
 控訴趣意第一点(事実誤認)について。
 所論は、(1)原判示第一(一)(二)の鉄パイプ爆弾(以下本件鉄パイプ爆弾
と略称する)が爆発物取締罰則(以下罰則と略称する)にいう爆発物にあたらない
のにこれを爆発物と認めたこと、(2)本件鉄パイプ爆弾の製造および所持につき
原審相被告人Gと共謀関係にないのにこれを認めたこと、(3)被告人の本件鉄パ
イプ爆弾の製造および所持につき治安妨害の目的が認められないのにこれを認めた
ことにおいて、原判決第一の(一)(二)には事実誤認がある、というのである。
 しかしながら、原判決挙示の関係証拠によれば十分に原判示第一の(一)および
(二)の爆発物製造および所持の各事実を認めることができる。そして、所論
(1)(2)の点について、原裁判所が(主たる争点に対する当裁判所の判断)の
項でくわしく説示するところもまた肯認しうるところである。
 すなわち、原裁判所は、本件鉄パイプ爆弾の爆発力の判断について、これと同一
規模の爆弾の実験結果を基礎とするものではなく、これと同質の原判示の小型爆弾
の実験結果を基礎とするものであるが、その内容物、構造等からみて原判示の起爆
装置を用いれば本件鉄パイプ爆弾も相当強度の爆発力を呈示することは容易に推認
しうるところである。そして、たとえ、爆発物の管体の密閉度や内容、薬物の乾燥
度等の点で本件鉄パイプ爆弾の性能が実験に供した爆弾に比し若干劣り、ないしは
多少の欠陥(もつとも、これらの欠陥については、本件のセロテープに代え他の種
類の丈夫なテープで密閉度を強めることができることや乾燥度を高める方法が存在
すると認められる)があつたとしても、その内容物、および構造等に徴し、原判示
のように爆竹花火の爆薬等を起爆剤として用いることにより爆発を惹起する蓋然性
は大きく、きわめて高度の危険性を有するものであつたことが認められるのであつ
て、製造者本人としては不完全な失敗作と思つていたにせよ、本件鉄パイプ爆弾が
右罰則三条にいう爆発物に該当することは、明らかなところというべきである。
 もっとも、弁護人は、本件鉄パイプ爆弾に爆発力を認めうるとしても、起爆装置
を欠く以上、右罰則にいう爆発物ではないとも主張する。
 <要旨>そこで、この点について考えると、右罰則三条にいう爆発物は爆発を惹起
すべき装置を具備するのが通常であるが、右罰則全体の趣旨・目的ならびに
同罰則三条が、爆発物使用の予備に関する規定であり、「爆発物」のほか「其使用
に供すべき器具」の製造、所持等をも独立して処罰の対象としていることにかんが
みれば、たとえ、起爆装置を欠くとしても、手許に起爆に必要な資料が収集されて
いて、これを用いて起爆装置を付加することが容易であり、それによつて容易に爆
発現象を惹起しうるものであれば、同罰則三条にいう爆発物に該当するものと解す
るのが相当である(なお、旧罰則三条の爆発物に関する判例として大審院明冶二四
年刑三五一号同二五年一月一四日判決、大審院判決録明治二五年一月二月分二一頁
参照)。
 そして前述のとおり、本件鉄パイプ爆弾は、原判示の内容物および構造等からみ
て爆竹花火の爆薬等を起爆剤として用いることにより優に公共の安全をみだし、人
の身体財産に危害を及ぼすに足りる相当強度の爆発を惹起しうるものであるとこ
ろ、被告人は本件鉄パイプ爆弾を製造所持するとともに手許に多量の爆竹を収集所
持していたのであるから、爆竹花火に含まれる少量(約四g)の爆薬および爆竹の
みちび(導火線)を利用して起爆装置を作り、これを本件鉄パイプ爆弾に取りつけ
ることは比較的に容易であつて、それにより右爆弾を爆発させうるものであること
は、関係証拠(なかんずく原審第二回および第八回各公判調書中の証人Eの各供述
部分、警視庁科学検査所長の昭和四六年一二月九日付、同月二一日付および昭和四
七年七月二〇日付「鑑定結果回答について」と題する各書面ならびに司法警察員H
作成の実況見分調書謄本等)により十分に認められる。
 してみれば、本件鉄パイプ爆弾は起爆装置を欠くとしても、右罰則三条にいう爆
発物に該当することが明らかであつて、これと同旨の原裁判所の判断は正当であ
り、弁護人の右主張も採用できない。
 また、所論(3)については、原判決挙示の関係証拠なかんずく被告人の検察官
に対する昭和四六年一一月三〇日付および同年一二月八日付各供述調書によれば、
被告人はI共闘の武力闘争に心を寄せ、鉄パイプ爆弾についてもこれを製造してI
共闘にカンパして同共闘の在日米軍基地等の爆破闘争に使用させる意図を有してい
たものであることが認められ、現に被告人が密輸したけん銃と実包は同共闘の組織
員に供与されているのであつて、被告人において社会共同生活の安全と秩序を妨
げ、人の身体財産を害する目的を有していたことを認定することができる。
 そしてさらに、所論(1)ないし(3)の全般に徴して、記録および証拠物を調
査し、当審における事実取調の結果を合わせ考えても、原判示第一の(一)(二)
の認定について、事実誤認を疑わせるに足りるものはない。したがつて論旨は理由
がない。(なお、被告人の上申書中、鉄製パイプ爆弾の内容物・成分につき硫黄等
は含まれていないという部分があるが、硫黄類も収集した形跡があり、昭和四六年
一二月九日付鑑定の結果回答についてと題する書面その他関係証拠によれば原判示
の内容物・成分であることに誤認があるとはいえず、また、いわゆる電気かみそり
爆弾につき、被告人は樹脂製円筒を用いた旨述べているけれども、証拠上金属製円
筒であることは明らかであつて、右爆弾が原判示の構造を有することにも誤認はな
い。)
 同第二点(法令適用の誤り)について。
 所論は、(イ)原判示第二(一)の本件けん銃の輸入と同(二)(1)のその所
持、同第(二)(一)の実包の輸入と同(二)(2)の実包の所持とはそれぞれ包
括一罪を構成するものであるのに、原判決は併合罪であるとした点、(ロ)かり
に、原判示のように第二(一)のけん銃の輸入と実包の輸入、同(二)(1)のけ
ん銃の所持と同(2)の実包の所持が、それぞれ観念的競合による科刑上一罪であ
るとしても、右科刑上一罪とされた(一)の輸入罪と(二)の所持罪とは牽連犯に
よる科刑上一罪であるのに、原判決は併合罪であるとしている点、いずれも法令の
適用を誤つたものである、というのである。
 しかし、所論(イ)の点については、本件けん銃等の無許可輸入と輸入後の所持
とは、それぞれの取締りの目的・法益を異にし、可分的な各別の禁止規範に違反す
る別個独立の所為というべく、前者に当然伴うものと認められる程度の所持は前者
にそのまま吸収されるものの、そうでなく本件の場合のようにその後一か月有半な
いし約五か月の間継続してなされた不法な所持は輸入行為の単なる延長と目すべき
ものではなく、別個独立に構成要件を充足するものと解するのが相当であつて、両
者は包括一罪ではなく、併合罪の関係にあるものというべきである。
 所論(ロ)の点については、本件けん銃等の輸入罪と所持罪とはその性質上通常
手段結果の関係にあるものとはいえないので、両者は上述のように併合罪の関係に
あると解すべきである。したがつて、所論(イ)、(ロ)はいずれも採用しえな
い。
 同第三点(量刑不当)について。
 論旨は、原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。
 そこで、記録および証拠物を検討し、当審における事実取調の結果を参酌して諸
般の情状を考えると、本件各犯行の罪質・態様・動機・目的・社会に与えた不安な
いし影響等にかんがみれば、原判決が量刑事情として指摘するように被告人の本件
所為の社会的危険性ははなはだ大きく、実際にも本件拳銃はJの手に渡りいわゆる
K事件において殺害の用に供せられた形跡もあり、若年浅慮の結果とはいえ、被告
人の責任はまことに重大であるというべく、他方において被告人に前科のないこ
と、犯行の動機が一身の利害関係に基づくものでないこと、幸いにして本件爆発物
は使用前に押収され、実害を生じなかつたこと、被告人の年齢・経歴・家庭の事情
等酌むべき情状を考量しても、原判決の時点で被告人に対する原判決の量刑はやむ
をえないものであつたといわなくてはならない。しかし、原判決後の情状、すなわ
ち原審相被告人であつて現在被告人の妻であるGは被告人の出所後共に印刷業に従
事すべく、その準備のため真蟄な努力をしており、幸い被告人の家庭およびその妻
の実家も被告人らの更生のため協力援助を続けており、被告人自身も今日までの長
期にわたる勾留を通じて自己の所為を深く反省し、今後再びかかるあやまちなきを
期していることなどを酌むべき前記諸事情に合わせ考えると、今日原判決の量刑を
そのまま維持することは重過ぎて相当でなく、原判決のうち被告人に関する部分を
破棄しなければ明らかに正義に反すると判断される。
 よつて、刑訴法三九七条二項により原判決のうち被告人に関する部分を破棄し、
同法四〇〇条但書を適用して、さらに当裁判所において、次のとおり判決をする。
 原判決が確定した事実に、原判決と同一の法令の適用をして、所定の刑期および
罰金額の範囲内で被告人を懲役五年および罰金五、〇〇〇円に処し、原審における
未決勾留日数の算入、労役場の留置、没収、原審における訴訟費用の負担につき原
判決と同一の法令を適用して、主文のように判決をする。
 (裁判長裁判官 吉田信孝 裁判官 大平要 裁判官 粕谷俊治)

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