弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人奥村一彦の上告受理申立て理由について
1本件は,宮津市(以下「市」という。)が,丹後地区土地開発公社(以下
「本件公社」という。)との間で,土地の先行取得の委託契約を締結し,これに基
づいて本件公社が取得した同土地の買取りのための売買契約を締結したところ,市
の住民である上告人が,同土地は取得する必要のない土地であり,その取得価格も
著しく高額であるから,上記委託契約は地方財政法等に違反して締結されたもので
あって,これに基づいてされた上記売買契約の締結も違法であると主張して,地方
自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)242条の2第
1項4号に基づき,市に代位して,上記売買契約の締結時に市長の職にあった被上
告人に対し,上記売買契約の代金に相当する額の損害賠償を求めた事案である。
2原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)本件公社は,市がその周辺の町と共同して公有地の拡大の推進に関する法
律に基づき設立した土地開発公社であり,設立団体である市又は町の委託を受けて
公有地となるべき土地の先行取得を行うこと等をその業務としている。
(2)市は,平成8年12月19日,本件公社との間において,第1審判決別紙
物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき代金3858万9646
円で先行取得を行うことを本件公社に委託する旨の契約(以下「本件委託契約」と
いう。)を締結した。本件委託契約において,市は,本件土地を本件公社から上記
先行取得の代金の額にその調達のための借入れの利息等の額を加えた金額で同14
年3月31日までに買い取るべきこととされていた。
(3)本件公社は,平成8年12月24日,本件委託契約に基づき,本件土地を
代金3858万9646円で取得した。
(4)市は,平成14年3月18日,本件委託契約に基づき,本件公社との間に
おいて,本件土地を代金4214万7762円で買い受ける旨の契約(以下「本件
売買契約」という。)を締結し,同月29日,本件公社に対し,上記代金をすべて
支払った。上記代金の額は,前記先行取得の代金の額に借入れの利息の額を加えた
金額であった。
3原審は,前記事実関係等の下において,次のとおり判断して,上告人の請求
を棄却すべきものとした。
(1)市は,本件委託契約に基づいて,本件公社に対し,本件土地を先行取得の
代金の額に借入れの利息の額を加えた金額で平成14年3月31日までに買い取る
べき義務を負っていた。仮に本件委託契約の締結が違法なものであったとしても,
そのことによって本件委託契約が私法上当然に無効になるわけではない。市として
は,本件土地を取得する必要があろうとなかろうと,取得価格が不当に高額であろ
うとなかろうと,本件委託契約に基づく義務の履行として,本件土地を上記金額で
上記期日までに買い取るほかなかったのであるから,本件売買契約の締結を財務会
計法規上の義務に違反する違法なものと評価することはできない。
(2)また,本件売買契約の代金の額は,本件公社が本件委託契約に基づく事務
を処理するために要した費用の額と一致するものであるから,本件売買契約により
市が新たに損害を被る余地もない。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づく代位請求に係る当該職
員に対する損害賠償請求訴訟は,財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に
対し,職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損
害賠償義務の履行を求めるものであるから,当該職員の財務会計上の行為がこれに
先行する原因行為を前提として行われた場合であっても,当該職員の行為が財務会
計法規上の義務に違反する違法なものであるときは,上記の規定に基づく損害賠償
責任を当該職員に問うことができると解するのが相当である(最高裁昭和61年
(行ツ)第133号平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号275
3頁参照)。
ア土地開発公社が普通地方公共団体との間の委託契約に基づいて先行取得を行
った土地について,当該普通地方公共団体が当該土地開発公社とその買取りのため
の売買契約を締結する場合において,当該委託契約が私法上無効であるときには,
当該普通地方公共団体の契約締結権者は,無効な委託契約に基づく義務の履行とし
て買取りのための売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負
っていると解すべきであり,契約締結権者がその義務に違反して買取りのための売
買契約を締結すれば,その締結は違法なものになるというべきである。
本件において,仮に,本件土地につき代金3858万9646円で先行取得を行
うことを本件公社に委託した市の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があ
り,本件委託契約を無効としなければ地方自治法2条14項,地方財政法4条1項
の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められるという場合には,本件委託契
約は私法上無効になるのであって,前記3(1)のように,本件土地を取得する必要
性及びその取得価格の相当性の有無にかかわらず本件委託契約が私法上無効になる
ものではないとして本件売買契約の締結が違法となることはないとすることはでき
ない。
イまた,先行取得の委託契約が私法上無効ではないものの,これが違法に締結
されたものであって,当該普通地方公共団体がその取消権又は解除権を有している
ときや,当該委託契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確
保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,客観的にみて当該普通地方公共団体
が当該委託契約を解消することができる特殊な事情があるときにも,当該普通地方
公共団体の契約締結権者は,これらの事情を考慮することなく,漫然と違法な委託
契約に基づく義務の履行として買取りのための売買契約を締結してはならないとい
う財務会計法規上の義務を負っていると解すべきであり,契約締結権者がその義務
に違反して買取りのための売買契約を締結すれば,その締結は違法なものになると
いうべきである。
本件において,仮に本件委託契約が私法上無効ではなかったとしても,上記のよ
うな場合には,本件売買契約の締結は財務会計法規上の義務に違反する違法なもの
になり得るのであって,前記3(1)のように,市が本件委託契約上本件土地を買い
取るべき義務を負っていたことから直ちに本件売買契約の締結が違法となることは
ないとすることもできない。
ウそうすると,本件委託契約が私法上無効であるかどうか等について審理判断
することなく,本件売買契約の締結が本件委託契約に基づく義務の履行であること
のみを理由として,市の契約締結権者が本件売買契約を締結してはならないという
財務会計法規上の義務を負うことはないとすることはできないものというべきであ
る。
(2)また,本件売買契約の締結が財務会計法規上の義務に違反する違法なもの
である場合において,本件委託契約が私法上無効であるときには,市は本件公社に
対し本件委託契約に基づく事務を処理するために要した費用を支払うべき義務を負
わないことになるし,本件委託契約が私法上無効ではないときであっても,上記財
務会計法規上の義務が尽くされ,本件委託契約が解消されていれば,市は上記費用
を支払うべき義務を負わないことになるのであって,前記3(2)のように,本件売
買契約により市が新たに損害を被る余地がないとすることはできない。
5以上によれば,本件委託契約が私法上無効であるかどうか等について十分に
審理することなく,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に
影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして
理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記各点のほか本訴請求に係る財
務会計上の行為がどのようなものであるか(本件売買契約の締結か,それともその
代金の支出命令か)及びこれに関する被上告人の権限があるか等について更に審理
を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今井功裁判官津野修裁判官中川了滋裁判官
古田佑紀)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛