弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 被告は,原告に対し,4536万6952円を支払え。
2 被告は,原告に対し,別紙1「裁判所認容額一覧表」の「月例賃金,賞与」欄
の「昭和60年分」欄ないし「平成4年分」欄の各「差額相当額」欄記載の各金額
に対する,対応する「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,別紙1「裁判所認容額一覧表」の「退職金」欄のうち,
「一時払分」,「年金分」欄の「平成4年分」欄ないし「平成14年分」欄,及び
「上記の現在価額」欄の各「差額相当額」欄記載の各金額に対する,対応する「遅
延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告に対し,別紙1「裁判所認容額一覧表」の「公的年金」欄のう
ち,「年金分」欄の「平成4年分」欄ないし「平成14年分」欄及び「上記の現在
価額」欄の各「差額相当額」欄記載の各金額に対する,対応する「遅延損害金起算
日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告に対し,400万円に対する平成4年5月31日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
8 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,5290万9148円を支払え。
2 被告は,原告に対し,別紙2「原告請求額一覧表」のうち,「85年年間賃
金」欄ないし「92年年間賃金」欄,「退職金」欄の「一時払」欄及び「92年年
金分」欄ないし「02年年金分」欄,「公的年金」欄の「92年年金分」欄ないし
「02年年金分」欄の各「差額賃金(B)-(A)」欄記載の各金額に対する,対
応する「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
3 被告は,原告に対し,別紙2「原告請求額一覧表」のうち,「年金将来分*
1」欄,「公的年金将来分*1」欄の各「差額賃金(B)-(A)」欄記載の各金
額に対する,対応する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
4 被告は,原告に対し,912万円に対する平成4年5月31日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,被告を退職した原告が,在職中,賃金について女性であることを理由に
差別的な取扱いを受けたとして,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償(昭和6
0年1月以降退職時までの差額賃金相当額,差額退職金相当額,差額公的年金相当
額,慰謝料及び弁護士費用。請求1)及びこれらに対する民法所定の遅延損害金
(請求2ないし4)の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠を掲げない事実は,争いがないか又は弁論の全趣旨によ
り認められる。)
(1) 当事者等
ア 被告は,石油類,石油代替エネルギー及びそれらの副産物の採掘,製造,加
工,貯蔵,売買並びに輸出入等を目的とした株式会社である。
 被告は,昭和17年8月1日,昭和石油株式会社として設立されたが,昭和60
年1月1日,シェル石油株式会社(以下「シェル石油」という。)を合併して,現
社名になった(以下,この合併を単に「合併」といい,合併前の被告を「昭和石
油」という。)。
 昭和四日市石油株式会社(以下「昭和四日市石油」という。)は,昭和32年1
1月1日,昭和石油が75パーセント,三菱グループが25パーセントを出資して
設立された株式会社であり,四日市製油所(三重県四日市市所在)における石油精
製及び石油製品の供給を業としている。
(乙1~3,弁論の全趣旨)
イ 原告(昭和7年5月29日生)は,昭和26年3月,鴎友学園女子高等学校を
卒業し,同月20日,昭和石油にアルバイトとして採用され,同年8月1日,昭和
石油に正式に雇用された後,昭和32年11月1日,昭和石油に在籍したまま昭和
四日市石油に出向し,昭和60年1月1日の合併後も被告に在籍したまま昭和四日
市石油に出向し,平成4年5月31日,定年により退職した。
 原告が昭和石油に正式雇用された後における所属部署及び担当業務は,次のとお
りであった。
(ア) 昭和26年8月~昭和31年7月
所属部署 昭和石油総務部株式課
担当業務 株券の名義書換に関する受付業務
(イ) 昭和31年7月~同年12月
所属部署 昭和石油建築部技術第1課
担当業務 一般事務(製油所の建設に関する書面の作成等)
(ウ) 昭和31年12月~昭和52年3月
所属部署 昭和石油建築部
     昭和四日市石油本社総務課(昭和32年11月から出向)
担当業務 和文タイプ業務
(エ) 昭和52年3月~昭和62年8月
所属部署 昭和四日市石油本社総務課
担当業務 英文タイプ業務,データ電送業務,端末データ入力業務,テレックス発
信業務(昭和55年ころ以降)等
(オ) 昭和62年9月~退職時
所属部署 昭和四日市石油東京事務所(本社が三重県四日市市に移転したのに伴
い,従前東京所在の本社事務所が東京事務所と改称)
担当業務 ①什器備品・事務用品等の管理及び課内庶務,②文書受発信等に関する
業務,③新聞・図書の購入管理,④パソコンデータの受発信の実施及びOA機器の
管理,⑤指定統計法に基づく関係官庁との折衝・報告等の関連業務,⑥製品・半製
品の出荷及び受入れに係る連絡,油量月報による資料作成
(2) 昭和石油,被告における賃金等に関する制度
ア 昭和石油における制度
(ア) 昭和石油人事部が,昭和38年4月,従業員への説明用に作成した「今年
の昇給について」(乙4)には,組合員資格を有する従業員の定期昇給(以下「定
昇」ともいう。)について,次の内容が記載されている(乙4,証人P1)。
a 昇給の基本方針
 入社後6年ころまでの者は昇給基準線による1コマの昇給とランク別の成績査定
により,中堅以上の者はランクと結びついた昇給とランク別の成績査定により,そ
れぞれ昇給額を定める。
b 定期昇給の基準
 職務内容及び能力に応じて従業員を格付けし(ランク制),昇給は,各ランクに
ついて,職務内容,学齢,勤続及び年齢の各要素を次の基準で考慮して定める。
      職務内容       学歴   勤続     年齢(卒年)
A,B,C 考慮せず       考慮する 殆ど考慮せず 考慮する
D     やや考慮       やや考慮 やや考慮   やや考慮
E,F   ランクとして考慮する 考慮せず やや考慮   考慮せず
                 能力評定  (終身雇用制との妥協)
c ランクの種類及び決定要因等
(a) ランクの種類
Fランク 係長クラス又は上級スタッフのランク
Eランク 組長クラス又は中級スタッフのランク
Dランク 中堅層のランク(大学卒初任資格)
Cランク 短大(専門卒)初任資格(潜在能力)
Bランク 高校卒初任資格(潜在能力)
Aランク 中学卒初任資格(潜在能力)
 なお,入社から6年ころまでは,A,B,Cランクのいずれかのランクに位置づ
けられる。
(b) ランクの決定の要因等
 別紙3「ランク決定の要因」,「ランクと職制例の比較」のとおりである。
(イ) 被告人事部勤労課社員が本訴提起後に作成した「昭和石油のランクについ
て(組合員資格を有する者のランク)」と題する書面では,合併直前である昭和5
9年当時,昭和石油において,組合員資格を有する者のランクは,上から順にF
1,F2,E1,E2,D1,D2,D3,D4,C,B1,B2,B3,無ラン
クに分類されており,各ランクの定義が次のとおりであった旨記載されている(乙
9)。
Fランク 係長相当職
     一般管理区分を預かり,高度な専門知識と 業務経験を有する者及びこ
れと同様の能力を有する者
Eランク 組長相当職
     一般作業区分を預かり,相当な専門知識と 業務経験を有する者及びこ
れと同様の能力を有する者
Dランク 一般職A(D1,D2)
     定型業務に従事し,十分な基本知識と相当な業務経験を有する者
     一般職B(D3,D4)
     定型業務に従事し,ある程度の基本知識と業務経験を有する者
B,Cランク 補助職
       補助業務に従事する者
イ 被告における制度
(ア) 概要
 被告は,従業員に対し,月例賃金,年2回(夏季,冬季)の賞与(一時金)を支
給し,退職した従業員に対し,退職金を支給している。
 月例賃金は,基準内賃金,基準外賃金及び特別手当で構成され,基準内賃金は,
本給,家族手当,住宅手当,勤務地手当,職能手当及び管理専門職手当(職務手
当,資格手当)で構成される。
 本給は,職務職能給と年齢給により構成される。職能手当は,職能資格等級に基
づき定められた額とする(ただし,4月1日現在満55歳以上の者については,所
定額の2分の1の額とする。)。
 なお,昭和四日市石油における賃金に関する制度は,昭和石油又は被告と同様で
あった。
(乙20の1,証人P1)
(イ) 「人事諸制度-ガイドブック」の概要
 被告の人事部が平成元年10月に作成した「人事諸制度-ガイドブック(社員
用)」(乙7)には,概要次のとおり記載されている。
a 職能資格等級について
 職能資格等級は,社員各人の能力開発の努力目標となるとともに,賃金管理を行
う基準となる。
 職能資格等級は,上から管理専門職(M),監督企画判定職(S),一般職
(G)の各職群に分かれ,管理専門職は,上から順にM1,M2,M3,M4A
(以上が管理職),M4B,監督企画判定職は,上から順にS1,S2,S3A,
S3B,一般職は上から順にG1,G2,G3,G4の各職能資格に分かれる。
 それぞれの職能資格等級の要件又は基準は,「職能資格要件概要」,「職務およ
び能力の特徴」,「望まれる能力要件」,「望まれる情意」として記載されてお
り,これらの記載内容は,別紙4のとおりである。
b 本給及び賞与について
(a) 本給
 本給は,入社時に初任本給が決定され,その後,定期昇給,昇格昇給,特別昇
給,ベースアップ等により改定される。
 定期昇給は,年齢定昇と職務職能定昇によって構成され,毎年1月1日に実施さ
れる。年齢定昇は,生計費を配慮し,年齢別に定額を定めたものであり,職務職能
定昇は,年1回行う能力開発考課による評価に基づき,職能資格等級ごとの評価別
に定額を定めたものである。
 職能資格昇格者には,昇格昇給として,定期昇給の他に別途昇給を行う。
 本給は,賃金表(職能資格等級別,年齢別に本給額の上限,下限を設定したも
の)により管理され,定期昇給時に通常の定昇額を加算した新本給が上限を超える
場合は,原則として上限に達するまでの範囲で昇給を行い,新本給が下限を下回る
場合は,原則として下限に達する範囲で特別昇給を行う。
 ベースアップは,会社と労働組合との団体交渉を経て妥結した額や配分方法に従
い,当年3月31日在籍者を対象に,通常同年4月1日に実施する。
(b) 賞与
 賞与は,会社と労働組合との間の団体交渉により決定され,夏季と冬季の2回に
分けて支給される。賞与には,会社の業績や個人の業績が反映されるという要素が
あり,個々人の努力や成果を受けとめるものとして,賞与考課(対象期間は,夏季
が前年10月から当年3月まで,冬季が当年4月から10月まで)が行われる。
b 人事考課について
(a) 能力開発考課
 年1回,能力開発考課と称する人事考課が行われる。内容は,評価,来年の昇格
申請の有無,能力開発と職務態度改善の方向,将来の育成配置計画等であり,この
うち,評価は,前年10月から当年9月までの期間について,成績,能力,情意の
各評価項目ごとに,上から順にS,A,B(標準,本人の能力をやや上回る目標を
達成した場合),C,Dの5段階で評価し,これを総合して5段階で評価する。
 各評価項目の内容は,別紙5の「評価項目」,「評価項目の意味」のとおりであ

(b) 賞与考課
 毎年夏季は前年10月から当年3月までの期間を対象として,冬季は当年4月か
ら10月までの期間を対象として,それぞれ賞与考課が行われる。評価項目は,別
紙5の「賞与考課表」のとおりである。
(3) 原告に関する事情
ア ランク又は職能資格等級等
 原告は,昭和石油において,昭和60年1月の合併直前にD2ランクであった
が,合併に伴い,被告において,職能資格等級がG3となり,昭和61年1月にG
2に昇格し,以後退職時までG2であった。
 合併後における原告の能力開発考課の結果は,昭和60年から昭和62年までの
間がBであり,昭和63年から退職までの間がCであった(証人P1)。
イ 賃金,退職金及び公的年金
 原告は,合併時である昭和60年1月以降,被告から別紙6「原告に対して支給
された賃金」記載の賃金(月例賃金及び賞与)を支給されていた。被告における月
例賃金の支払日は毎月20日(20日が休日の場合は,その直前の平日)であっ
た。
 原告は,被告から,平成4年5月29日,退職金一時金として1004万755
2円を支給され,同年6月以降,退職年金として毎月20日に月額10万4383
円を支給されている。
 原告は,退職した平成4年5月以降,老齢厚生年金として,年額223万993
7円を支給されている。
2 争点
(1) 昭和石油又は被告は,原告に対し,昇格及び定期昇給評価,ひいては賃金
について,女性であることを理由に男性と差別的に取り扱ったか。そうであったと
して,これは不法行為に当たるか。
(2) 損害(差額賃金・退職金相当損害金,差額公的年金相当損害金,慰謝料及
び弁護士費用)の額
3 当事者の主張の骨子
(1) 争点(1)について
(原告の主張)
ア 男女間における集団的かつ著しい格差
 以下のとおり,昭和石油及び被告において,賃金について,男女間で集団的かつ
著しい格差が存在した。
(ア) 昭和石油における格差
a 昭和石油労働組合が昭和39年4月1日現在で作成した「資料と報告」は,同
組合が実施した昭和石油社員に対するアンケート調査に基づき,ランク及び賃金の
内容を集計したものであるが,これによると,ランク,昇給及び賃金額において男
女間に顕著な格差がみられる。
b 昭和石油は,上記組合に対し,ランク,昇給及び賃金額に関するモデル(モデ
ル賃金)を明らかにしていたが,このモデル賃金は,一貫して男女別及び学歴別の
ものであり,昭和石油では,この男女別学歴別モデル賃金に基づいて昇給及び賃金
管理を行っていたというべきである。
 すなわち,昭和57年,昭和58年,昭和60年における各モデル賃金及び本給
分布図により,高卒者の本給を比較すると,21歳から男女の格差が生じ,40歳
で4万円強の格差が生じており,また,本給額の分布を比較すると,男性は,35
歳以上のグループが,34歳以下のグループとはかけ離れて高額になっているのに
対し,女性は,34歳以下では,右肩上がりの分布となっている同年齢の男性グル
ープより低額に抑制され,35歳以上においても,その傾向は変わらず,その結
果,同年齢の男性より格段に低い額となっており,女性の最高額は男性の最低額よ
りはるかに低いという形で,集団的な分離を示している。
c また,昭和57年4月1日現在の「資料と報告」によると,ランクの昇格,定
昇金額においても明確な性別分離がみられる。
 昇格時期をみると,Dランクでは,高卒男性は,25歳で自動的にD4又はD3
に上がり,26歳ではごく例外を除きD1又D2に上がるのに対し,高卒女性でD
1又はD2に上がった者は,32歳,34歳,35歳で各1名しかいない。Eラン
クでは,高卒男性は,37歳で全員がEに上がっているのに対し,女性は,55歳
の社長秘書を除き,誰もEに上がっていない。Fランクでは,高卒男性は,43歳
からFに上がり始め,数年でほぼ半数がFになっており,ライン系の現業に従事し
ている者を除くと,46歳以上の者の9割強がFとなっている(なお,この数字は
管理職になった者を含んでいない。)。これに対し,女性でFになった者はいな
い。
 定昇金額をみると,Eランク以上の定昇金額は,それ以下の定昇金額と比較して
格段に高額になっており,前記のとおり,Eランク,Fランクの者が女性1名を除
き男性であることに照らすと,男女間の昇格格差が男女間の本給格差の大きな要因
となっているといえる。しかも,B,C,Dの各ランクの定昇金額をみても,いず
れも男性が女性より高額のグループを形成している。
d 以上によると,昭和石油は,男女別の賃金表に基づき賃金管理を実施し,ラン
ク及び定昇金額を決定してきたというほかない。
(イ) 合併時における格差
a 被告人事部勤労課が作成した「1985年合併時の格付けについて」(乙1
1)により分析すると,従前D3以上のランクにあった者について,男性は,57
9名のうち575名がG1に格付けされたのに対し,女性は,117名のうち6名
しかG1に格付けされておらず,従前にD4のランクにあった者については,男性
は,全員がG2に格付けされたのに対し,女性は,D4以上のランクにあった者全
員をみても,G1又はG2に格付けされたのは,全体の23.4パーセントにすぎ
ず,残りの者はG3に格付けされている。
 これによると,被告が,合併時の格付けにおいて,女性を男性に比較して低い職
能資格に格付けしたことは明らかであり,女性に対して不合理な差別をしたことを
強くうかがわせるものである(被告においては,職務職能定昇,昇格昇給,職能手
当,一時金における職能資格別定額等,職能資格がより大きく賃金に反映されるた
め,職能資格の違いが賃金格差に一層反映されることになる。)。
b また,合併時には,昭和石油とシェル石油との賃金水準の格差を是正するた
め,賃金水準が低かった昭和石油社員に対して合併後3年間にわたり賃金調整がさ
れたが,この賃金調整は,合併前の昭和59年4月の定昇時における査定を基準と
する定額調整と,合併前の資格を基準とする職群別定額調整及び年齢別調整で構成
されていたことから,昭和石油のころのランク付けの差別や定昇での査定差別(前
記(ア)c)が,賃金調整額の格差となって反映されている。
c 以上のとおり,合併時における格付け及び賃金調整において,女性は差別さ
れ,男性より賃金を低く抑えられた。
(ウ) 被告における格差
 被告が提出した「1984年12月時点旧昭和石油在籍の中・高卒男女現在籍者
に関するデータ」(乙24)及び全石油昭和シェル労働組合が所持しているデータ
をみると,高卒男性は,G4ないしG1の各職能資格において,同一年度入社者が
ほぼ同時期に昇格しており,例えば,G1には27歳又は28歳で昇格しているの
に対し,高卒女性の場合,男性のような年功による自動昇格的運用はG3までしか
なされず,G2以上には勤続年数が同じでも一斉に昇格することはなく,G1への
昇格は最も早い者でも31歳と,男性より3年以上遅れている。また,S以上の職
能資格をみても,高卒男性は,年功的に資格,賃金が上がっており,52歳までに
ほとんどの者がS2以上になるのに対し,高卒女性は,63名のうちS3Bになっ
た1名を除き,G1以下に留まっており,平成4年当時,50歳代の女性はG1が
1名,G2が2名であった(高卒男性でG1以下に留まっている者は,40歳を超
える者157名のうち40歳代の2名のみである。)。
 以上によると,被告が,男女を別々に昇格に関する管理をし,女性の昇格を意図
的に遅らせ,賃金を抑制する意図をもって,職能資格制度を運用してきたことは明
らかである。
イ 原告と男性社員の賃金に関する格差
(ア) 昭和39年
 「資料と報告」(甲132)に基づき,昭和39年4月1日時点において,原告
と同じ年齢(31歳),同じ勤続年数(12年)の高卒社員18名(男性15名,
女性3名)をみると,ランクは,原告を含む女性3名がDであるのに対し,男性1
5名のうち7名はEであり,定期昇給額は,女性3名が1200円であるのに対
し,男性が1300円から1600円の範囲で,その大半が1500円である。そ
の結果,原告の本給額及び基準内賃金額は,男性1名を除く14名より低くなって
いる。
 また,35歳高卒者のうち勤続年数10年以上の者25名(男性23名,女性2
名)のランクをみると,女性は2名ともDであるのに対し,男性は,2名を除く2
1名がE又はFであり,また,中卒者で夜間高校を卒業した者は37歳で全員がE
になっている。
(イ) 昭和57年
 原告は,昭和57年4月1日(当時49歳),当時の本給額からランクはD2で
あったと推定されるが,同時点の資料(甲1の2)によると,高卒男性の大半は4
6歳までにFに昇格しており,事務職に関してはFの割合はさらに高くなってい
る。
(ウ) 合併時
 原告は,合併時にD2ランクから職能資格等級G3になったが,男性は,D2ラ
ンク,D3ランクのほぼ全員がG1になっている。
(エ) 東京事務所又は被告の総務部門に所属していた男性社員との比較
a 原告と一緒に東京事務所に所属していた男性社員をみると,P2(高卒,昭和
14年生)は,出荷関連の業務に20年以上にわたり従事していたが,合併直前の
Fから合併時にS2となり,51歳でS1に昇格しており,また,P3(高卒,昭
和15年生)は,20年以上同じ業務に従事しており,同期の中では昇格が遅かっ
たが,それでも53歳でS2に昇格した。
 また,原告の業務経験に近い,被告の総務部門に長く勤務した男性社員をみる
と,P4は,中卒入社で事務部門のみを異動し,定年前の業務は,メールの発受・
配布,事務用品の発注・管理・配布,お茶関係,雑務関係等であったが,定年時に
職能資格等級がS1であり,P5は,入社時から一貫して電算室でテレックス業務
にのみ従事していたが,昭和63年(当時50歳)までにS2に昇格しており,P
6は,複数の部署で総務関係の業務に従事していたが,昭和63年(当時46歳)
にS2に昇格していた。
 このように,原告と同様に,総務関係の業務に長く従事していた男性社員は,い
ずれもS2以上の職能資格等級になっている。
b 被告は,東京事務所又は被告の総務部門に所属する男性社員と原告との職能資
格等級の格差は,業務内容又は勤務態度の違いによるもので,何ら不当でない旨主
張する。しかし,これら男性社員と原告との間で業務内容について格段の違いはな
く,被告が挙げる相違点は職能資格等級の格差を何ら根拠付けるものではない上,
原告の勤務態度に関する被告の主張も,女性に対する偏見に基づく差別的な評価に
基づく,不当なものである。
ウ 原告以外の女性社員と男性社員の賃金に関する格差
 被告の経理部門においても,各社員が経理業務を同じように分担し,協力して業
務に従事しているにもかかわらず,男性社員は全員S3A以上になっているのに対
し,女性は42歳でもG2に留まっている。
 支店のガソリンスタンド施設関連業務をみても,東京支店SS課において,男性
社員と変わりない業務に従事してきたP7社員はG2に留まっているのに対し,男
性社員は全員S以上(おそらくS2以上)になっている。
 コンピューターシステム開発部門においても,各社員が単独でシステム開発に従
事しているにもかかわらず,女性のP8社員はG2で,40歳以上の男性社員はS
1又はS2である。
 平成元年以降,化成品室において化成品の出荷関連業務,会計管理業務等に従事
したP9社員(合併当時45歳)は,定年退職をした男性社員の業務をそのまま引
き継いだが,同社員はS1であったのに対し,P9社員はようやくG1に昇格した
ばかりであった。
エ 男女間の賃金に関する差別的取扱い
 以下のとおり,昭和石油又は被告が,賃金について,原告が女性であることを理
由として男性と差別的な取扱いをしたことは,明らかである。
(ア) 昭和石油における取扱い
 昭和石油における男女間の賃金格差に関する状況によると,昭和石油が,学歴
別,男女別に,年功序列的にランク付けを行い,男女別の賃金モデルに基づき,定
期昇給の管理を行ってきたことは明らかである。
 被告は,昭和石油において,職能資格要件に基づくランク査定によりランクを決
定し,定期昇給査定により定期昇給額を決定していた旨主張するが,被告が提出し
た「今年の昇給について」(乙4)は,被告の主張内容と矛盾するものであり,査
定の基準であったとは認められない。
 仮に,上記「今年の昇給について」に記載された方法でランク及び定期昇給額に
関する査定がされていたとしても,同書面に記載された各ランクの内容が,「定型
的」「判定的」等と抽象的な概念により定められており,恣意的な判断が可能であ
る上,性に関する偏見や固定観念により多分に影響されるものであること,同書面
の内容によれば,昇格の可否は,潜在的能力の有無,将来に対する期待度によって
判断されるものと認められることに照らすと,男性は,一定の勤続年数を経過すれ
ば,次のランクに期待される潜在能力が備わったとして,昇格の対象になるのに対
し,女性は,能力が劣る,補助単純業務になじむ,生計費を担っていないといった
偏見や固定観念により,昇格の評価対象から排除されてきたというべきである。
(イ) 合併時の格付けにおける取扱い
 被告は,合併時の格付けにおいて,男性は,D1~D3ランクの者を原則として
職能資格等級G1としたのに対し,女性は,一部をG2にし,その余の原告ら勤続
年数の長い者を中心とした多くの者をG3にしており,この格付けは,男女差別的
な思考に基づくものというべきである。
 被告は,この格付けの方法について,新会社の職能資格要件に照らして,過去3
年間のランク査定の成績及び定期昇給水準に基づき,担当職務の困難度・責任の大
きさ,本人の能力・実績,経験年数による習熟度等を総合考慮して,再査定をした
旨主張する。しかし,昭和石油におけるランク付け及び定期昇給査定の結果が,男
女差別的なものであったこと,格付けが行われた当時,新会社の職能資格要件の詳
細が定まっていなかった上,平成元年の社員用ガイドブック(乙7)に記載された
職能資格要件が,職務の困難性を評価することができるものとはいえず,したがっ
て,昭和石油における男女差別的な評価に基づき査定がされたおそれが高いこと等
に照らすと,仮に被告が格付けの際に再査定をしていたとしても,この再査定はか
えって男女差別をもたらすものであったというべきである。
 また,被告は,格付けにおいて,Dランクについて,D1,D2・D3,D4の
各ランクを上位・中位・下位の各グループに分け,D1につき上位・中位の者をG
1,下位の者をG2に,D2・D3につき上位の者をG1に,中位の者をG1とG
2に,下位の者をG2とG3に,D4につき上位・中位の者をG2に,下位の者を
G3にした旨主張する。しかし,男性が,D1,D2,D3の者の少なくともほと
んどがG1に格付けされていることに加え,D2・D3からG2又はG3に格付け
された者の少なくともほとんどが女性であること等に照らすと,上記のような方法
で格付けがされたとは到底考えられない。
(ウ) 被告における取扱い
 被告における賃金に関する男女間の格差に関する状況に照らすと,被告は,男性
について,年齢に応じた生計費に相応する賃金を支給するために,年功序列的な運
用により職能資格等級及び定期昇給額を決定し,女性をこのような運用から排除し
て,職能資格等級及び定期昇給額を低く抑え,よって賃金について差別的取扱いを
してきたというべきである。
 このことは,以下の点からも明らかである,
a 「職能資格滞留年数」と題する書面について
 被告は,人事担当課長会議において,職能資格ごとの滞留年数を記載した別紙7
の「職能資格滞留年数」と題する書面(甲106)を配布し,これにより昇格管理
の基準・指針を示している。
 この書面の内容をみても,「大卒」につきS3AとS2との間に,「高卒・技能
職」につきG2とG1との間に,「高卒補助 短大補助」につきG3とG2との間
にそれぞれ自動的に昇格する職能資格の最終ラインが記載されている上,「大卒」
又は「高卒・技能職」のうち「最短」の者については,M4Bまでの滞留年数が記
載されているのに対し,「高卒補助 短大補助」についてはS3Bまでの滞留年数
しか記載されておらず,したがって,被告が学歴別,男女別に別に昇格管理を行っ
ていること,のみならず女性を管理職(M4A以上)に登用しようとする姿勢を有
していないことが明らかである(「高卒補助 短大補助」が女性を指すことは,被
告において,補助職という職種の限定が存しないこと,男性が例外なくS以上に昇
格するのに対し,女性がGに留まっていること等に照らし,明らかである。)。
 被告は,上記書面について,滞留年数のみに基づき昇格を判断することの問題性
を明らかにするために,平成4年1月昇格者を対象としたサンプル調査に基づき,
その実態の一部を示したものである旨主張するが,その記載内容に照らして到底採
用できない(なお,この主張自体,被告が滞留年数を考慮して昇格を決めてきたこ
とを自認するものである。)。この書面が昇格管理の基準を示したものであること
は,この滞留年数の記載が被告提出のデータ(乙24)の分析結果と一致している
ことから明らかである。
b 「職能資格滞留年数」以外の被告の対応について
① 「人事諸制度-ガイドブック」(乙7)には,年齢別の生計費の傾向を考慮
し,資格と年齢により賃金表を作成する旨記載されている。これは,男性社員が家
族を扶養する立場にあるとして,年齢に見合った生計費を支給する目的に基づくも
のである。
② 被告の管理職は,女性社員の職能資格について,「Gは自動昇格ではないの
か。(同社員が)G2というのはおかしい。」など発言し,男性において職能資格
Gが自動昇格により運用されているとの認識を示した。
③ 被告の人事部長は,平成5年2月10日付け書面において,管理職以外の社員
について,男女別に配置する人員計画を作成し,よって,女性社員を男性社員の補
助的役割と位置づけ,そのような役割を担わせようとした。
④ 被告の人事部は,平成5年,男性である中堅社員(職能資格Sの者)に対して
多彩な研修を用意したのに対し,女性にはあまり研修を用意しなかった上,「魅力
的な女性になるため」の研修を実施し,よって,男女別に教育訓練を行い,女性に
は「職場の花」としての役割を担わせようとした。
⑤ 被告は,昭和61年,賃上げ回答において「高卒男子28才標準者」とし,職
能資格別定額としてG1の場合の金額を回答した。これは,男女別に賃金管理がさ
れていたこと,男性社員が例外なくG1まで28歳までに自動昇格することを示し
たものである。
⑥ 被告は,昭和63年,労働組合に向けた文書において,男性労働者の企業規模
別賃金を資料として添付しており,女性労働者の賃金について何ら関心を寄せてい
なかった。
⑦ 被告は,男性社員が家族を扶養する立場にあるとして,手当,福利厚生の面で
男性を優遇し,女性を差別している。
 すなわち,被告は,ⅰ家族手当の支給にあたり,女性に対し,結婚している男性
と異なり,被扶養者に関する証明を求めた,ⅱ女性が住宅貸付けを受けるにあた
り,男性と異なり,所属事業所の総務課長が本社に出向いて特別に依頼する等の手
続をしなければならなかった,ⅲ結婚して,持ち家に住んでいる共働き女性につい
て,男性と異なり,「親元」との表記をし,家族の生計費を負担する必要のない者
として扱っている,ⅳ住宅手当の支給にあたり,世帯主と会社が認める者との基準
を設けた上で,女性が住民票の世帯主になった場合に,男性と異なり,主たる生計
維持者であることの証明を求めている。
⑧ 昭和56年10月現在,組合員の範囲を定める労働協約4条は,労務課職員を
組合員から除外しているが,女性をこの除外の対象から除いている。これは,被告
が,労務課において女性社員が組合員たる地位と相反するような職位に就くことが
あり得ないとの考えを有していたことを示すものである。
c 人事制度について
 以下のとおり,被告の人事制度は,それ自体が男女差別を生みやすい構造を有し
ている。
① 被告の職能資格制度は,年功とともに能力が伸びることを前提にしたものであ
り,また,被告が重視する考課項目である「情意」「能力」は,客観性に乏しく,
恣意が入りやすいものである。
 特に,一般職であるGの場合,情意考課が40%と高く配分されているところ,
情意考課においては,女性は,積極性,責任性等を期待できないとして,男性より
低く評価することになりやすい。
② 被告においては,昇格にあたり,上司の申請が必要とされており,自動昇格の
期間を除き,上司が昇格申請をしなければ,昇格の可否を組織的に検討する機会が
なくなる制度になっている。これによると,上司が,女性社員は補助的役割さえ担
っていればよいと考えれば,女性が昇格できないことになる。
 実際,被告の男性管理職は,女性を男性と同様に昇格させ,重要なポストに登用
しようという考えを有しておらず,女性社員が抗議をしたり,行政庁へのあっせん
等の不服申立てを行った場合に,男性であれば当然に昇格するG1以下の職能資格
に少しずつ昇格させているのが実態である。
③ 被告においては,上司が昇格申請や成績に応じた考課をした場合であっても,
本人の仕事振りを直接見ていない上位の考課機関が,差別意思に基づき,昇格を認
めなかったり,考課が下げたりした例が多い。現に,第二次考課者が,労働組合員
であることを理由として,評価を下方修正し,標準以下の査定を繰り返し行ったこ
とが,地方労働委員会において認められ,不当労働行為救済命令の根拠にされてい
る。また,女性の場合,直属の上司が昇格申請をしても,結局昇格できなかった例
が少なくない。
d 被告の主張自体にみられる差別性
 以下のとおり,被告の主張自体からも,賃金に関する男女差別の事実は明らかで
ある。
① 被告は,昭和石油において,女性の業務が業務の性質上一般事務に限定されて
いた旨主張する。しかし,一般事務に従事する男性も数多く存在していた上,「今
年の昇給について」(乙4)は,一般事務に従事する者をスタッフ系統として,こ
の系統のランク区分を示しているから,女性の業務が一般事務に限定されたこと
は,低いランクに留まったことの理由にはならない。むしろ,事務部門に所属する
男性は,現業部門に所属する男性より早くランクが上がっている。
 被告の上記主張は,女性が女性であることを理由に低いランクに留まっているこ
とを自認するものである。
② 被告は,昭和石油又は被告において,女性の平均勤続年数が男性より短かかっ
た旨主張するが,5年以上勤続した者の平均勤続年数において男女間でほとんど差
がなかったことを考えると,女性の勤続年数が,女性が補助業務に留まり,低いラ
ンクに留まったことの合理的理由にはならない。被告が,一般に女性の平均勤続年
数が短いとして,原告のように勤続年数が長い女性に対しても賃金について男性と
別の取扱いをしていたとすれば,これこそ女性差別にほかならない。
③ 被告は,昭和石油又は被告において,女性は補助業務に従事しており,職務の
困難度が高いとはいえないから,低い資格になった旨主張するが,女性が補助業務
に従事していたことの合理的根拠を示さずに,このような評価を加えること自体,
「女性が処理している業務であるから,定型業務であり,困難度が高いとはいえな
い。」という偏見によるものである。
④ 被告は,合併時の格付けについて,従前のE・Fランクを職能資格Sに,従前
のDランク以下を職能資格Gに対応させることとし,新しい職能資格要件に照ら
し,過去3年間のランク査定及び定昇査定の結果に基づき,再査定をした上で,各
人の職能資格を決定した旨主張する。しかし,昭和石油が,男女別にランク及び定
昇金額に関する査定を行い,女性の賃金を抑えてきたこと,このような男女別管理
の結果に基づき再評価を行い,格付けを行ったことを考えると,被告の上記主張
は,合併時の格付けが,性による差別を継続させる意図に基づきされたことを裏付
けるものというべきである。
⑤ 被告は,女性のランク又は職能資格が低いのは,ランク又は職能資格に応じた
職務に就いていなかったからである旨主張するが,前記のとおり,昭和石油及び被
告は,男性については,潜在能力や期待度によって次のランク又は職能資格への適
格性を判断していたのであり,女性について上記のような主張をすることは,昇格
につき男性より高いハードルを設けるものであり,性による差別をしたものいうべ
きである。
オ 不法行為該当性
(ア) 労働基準法4条違反
 以上のとおり,被告は,原告が女性であることのみを理由として,あるいは,女
性労働者が一般的又は平均的に勤務能率が悪い,勤続年数が短い,女性が主たる生
計の維持者でないこと等を理由として,原告の賃金について差別を行ってきたもの
である。
 原告の勤務能率,技能は優れたものであった上,職務内容も他と比較して勝ると
も劣らないものであったから,原告個人に関する事情は賃金差別の理由にならな
い。
 したがって,被告の原告に対する取扱いは労働基準法4条に違反する。
(イ) 民法90条違反
 仮に,原告に対する賃金差別が配置又は昇進における女性差別の結果であったと
しても,憲法14条が性別による差別を禁止し,憲法13条が個人の尊厳を定めて
いること,これを受けて労働基準法3条が労働条件に関する差別を禁止し,同法4
条が賃金における女性差別を禁止していること,労働条件における合理的理由のな
い性別による差別的取扱いは,民法1条の2及び90条に違反し,違法無効とする
判例が確立していること,本件においては,採用段階では,男女間における異なる
取扱いが契約の内容となっていないこと,以上に照らすと,原告が女性であること
を理由に,配置・昇進において差別的取扱いをし,これにより賃金差別をすること
は,憲法14条,13条,民法1条の2に反し,民法90条の公序良俗違反に当た
る違法な行為というべきである。
(ウ) 「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女性労働者の福
祉の増進に関する法律」(昭和61年4月1日施行。以下「均等法」という。)と
の関係について
 被告は,均等法の施行前から,日本企業においては被告と同様に男女間の格差が
あり,同法の施行当時,募集,採用,配置,昇進に関する均等取扱いに関する規定
が,禁止規定ではなく,努力規定であったことを根拠に,被告における男女間の格
差は違法でないと主張するようである。
 しかし,同法は,立法経緯に照らしても,すべての性差別を禁止する女子差別撤
廃条約及び憲法14条を具体的に実現するために制定されたものであり,募集,採
用,配置,昇進に関する性差別を許容するものではない。また,同法は,裁判によ
らなくとも,行政指導によって雇用上のすべての女性差別を撤廃するためのもので
あり,禁止規定と努力規定との差は,行政上の規制の強弱の差であるから,努力規
定であることをもって公序良俗違反を否定することはできない。
 したがって,均等法の上記規定を根拠に,本件における賃金差別の違法性を否定
することは許されない。
(エ) まとめ
 以上のとおり,被告は,原告に対し,女性に対する差別的意思をもって,賃金差
別又は配置・昇格に関する差別を行ったのであり,これは,故意に基づく違法とし
て(仮に違法性を認識せず差別的待遇をしていたとしても,平等に処遇すべき義務
を怠った過失があることは明らかである。),不法行為を構成するものというべき
である。
(被告の主張)
ア 昭和石油における原告のランクについて
 昭和石油において,賃金は,男女別に定められるものではなく,人事諸制度,特
に職能資格制度(以下「ランク制度」という。)に基づき,人事考課及び組合との
交渉により決定されていた。
 ランク制度は,昭和36年ころにはほぼ整備が完了し,その後何回かの見直しを
経て,昭和59年当時には,組合員資格を有する社員の職能資格(ランク)は,
「主事補・技師補」を含めると,その担当業務や職務遂行能力等により,F1,F
2,E1,E2,D1,D2,D3,D4,C,B1,B2,B3,無ランクの1
3のランクに分かれていた。Dランクは,一般職相当のランクであり,D1,D2
は,「定型業務に従事し,十分な基本知識と相当な業務経験を有する者」,D3,
D4は,「定型的な業務に従事し,ある程度の基本知識と業務経験を有する者」で
あり,C以下のランクは,補助業務に従事する者となっていた。
 原告の業務内容をみると,株式課においては,男性社員の補助として株式名義の
書換・受付に従事していたが,原告の業務は,預かり証の受取り,名義書換済みの
株券の交付,送り状と預かり証の照合や枚数確認といったものであり,定型業務に
他ならない。また,総務課における和文タイプの業務は,タイプを打つのに必要な
範囲で,石油会社に勤務する社員にとって常識的な知識を必要とするにすぎず,タ
イプにより文書を作成するのに技能・経験を要することを考慮しても,定型業務で
あることを否定することはできない。合併直前のころに従事したテレックス又はコ
ンピューター端末の各操作は,通常OJTを実施しながら操作技術を習得するもの
であり,操作自体は特に困難度が高い業務とはいえない。したがって,原告は「定
型業務に従事し,十分な知識と相当な業務経験を有する者」としてDランクに相当
するものである。
 しかも,原告の勤務態度をみても,かつての上司が協調性に欠けると判断してい
たことや職場のリーダーになろうとする等の意欲がみられなかったこと等から,合
併時においてDランクが相当であった。
 以上によれば,昭和石油における原告のランクは妥当なものである。
イ 合併時における原告の格付けについて
 合併後の新会社(被告)は,職能資格制度を採用し,組合員資格を有する社員
は,「M4B(管理専門職)」,「S1,S2,S3(監督企画判定職。なお,昭
和63年1月にS3Aが新設され,従前のS3がS3Bとなった。)」,「G1,
G2,G3,G4(一般職)」のランクに属することとなった。各ランクの職能資
格要件の概要は別紙4の「職能資格要件概要」のとおりである。
 そして,合併にあたり,昭和石油とシェル石油との賃金の調整作業が行われ,被
告は,昭和石油における係長相当職(F1,F2ランク)及び組長相当職(E1,
E2ランク)の者を被告の監督企画判定職(S3,S2,S1)に,昭和石油にお
ける一般職(D1,D2,D3,D4)及び補助職(C,B1,B2,B3)を被
告の一般職(G1,G2,G3,G4)にそれぞれ対応させることにした。
 その際,昭和石油におけるランク制度における職能資格要件にこだわらずに,被
告の資格要件に照らして格付けを行う方針をとった。すなわち,Dランク以下の者
(一般職及び補助職)については,D1ないしD4のグループとC以下のグループ
に分け,前者については,各ランクごとに上位,中位,下位の各グループに分け,
D1につき上位・中位グループはG1に,下位グループはG2にし,D2・D3に
ついてはひとまとめにして,上位グループはG1に,中位グループはG1とG2
に,下位グループはG2とG3にし,D4につき上位・中位グループはG2に,下
位グループはG3にした。ただし,下位グループの者については,新たに格付けし
た資格が,実際の仕事の内容,職務又は資格要件に照らして適正かどうかを検討
し,職務内容の困難度が相当高いと認められる者に関しては,格付けした資格を上
位に修正した。なお,この能力の見直しは,過去3年のランク査定の成績及び定昇
基準により検討し,決定された。
 これを原告についてみると,原告は,合併直前においてD2ランクであったとこ
ろ,原告の当時の業務(特にコンピューター端末操作,テレックス業務等)が,特
に困難度が高いとはいえず,日常定型的な業務が中心であったことから,G2にす
ることは困難であり,G3にしたものである。
 したがって,合併時における原告の格付けは妥当なものである。
ウ 被告における職能資格等級について
 原告は,合併後,引続きタイプ,並びにテレックス又はコンピューター端末の各
操作に従事し,平成2年9月から退職した平成4年5月までの間は,①コンピュー
タ端末処理(三菱商事又は被告への出荷業務に関して,出荷オーダーを端末に打ち
込む業務),②テレックス業務(製油所からのデータを受け入れ,東京事務所の各
担当者に配布する業務),③郵便物の受発信及び切手の管理,④事務用品の管理,
⑤新聞・図書の管理,⑥石油連盟提出資料作成の補助事務(業界団体である石油連
盟に毎月提出する指定統計調査資料の作成について,主担当者の補助をするもの)
に従事していたが,いずれも高度な判断,知識を要するものではなく,単純定型業
務であり,量的にみても勤務時間内に余裕をもってこなせる仕事量であった。
 しかも,原告の場合,その業務遂行過程において求められる積極性,協調性につ
いて欠けるところが見受けられるとともに,その成績・能力においても特段に評価
すべきものが見受けられなかった。すなわち,成績面において,原告は,仕事自体
はそこそこにこなしていたものの,全般的に高い評価をつける成果を上げたとはい
えず,自ら工夫,改善提案等を具体的に行う等の行為がみられず,能力についても
特に評価すべきものはみられなかった。また,仕事に積極的に取組む姿勢に欠け,
自己の殻に閉じこもった感があり,他の社員との協調性に欠ける面も見受けられ,
上司が,仕事を一緒に楽しくしてもらうべく努力しても,これに応じようとしなか
った。
 以上の点を考慮し,被告は原告の能力開発考課を行い,職能資格等級の格付けを
行ったものであり,被告の原告に対する処遇は妥当なものである。
 原告は,東京事務所又は被告の総務部門に所属する男性社員との間で,職能資格
等級において大きな格差があったから,原告の職能資格等級が不当に低かった旨主
張する。しかし,この格差は,原告と他の男性社員との業務内容等の違いに基づく
ものであり,何ら不当でない。すなわち,①P4は,原告と異なり大卒である上,
主に外国メールを主に担当し,他のメールに関する業務委託会社の管理責任者とな
っており,事務業務の内容も原告と異なっていた,②P5は,原告と異なりシェル
石油入社者である上,会社に対する貢献度が原告と異なっていた,③P2は,役所
関係の窓口業務及び三菱商事との間の諸々の調整業務に留まらず,石油製品の入出
荷関係の業務に従事してきており,原告の従事した業務とは全く内容が異なる上,
業務に対する取組み姿勢も異なる,④P3は,原告と比較して重要な業務に従事し
ており,原告はP3の仕事の一部に携わっていたにすぎない。
エ 均等法との関係
 均等法は,施行当時,我が国の雇用関係において,一般的に終身雇用を前提とし
た雇用管理がされており,女性が男性に比較して勤続年数が短く,勤続意欲にも差
異が存した実情にかんがみ,使用者に対し,男女の配置,昇進等について均等な取
扱いをする努力義務を課するに留まっている。したがって,配置,昇進の男女格差
については,私法上,原則としてその違法が問題となることはなく,公序良俗違反
と評価される程度に至った場合に限り,損害賠償義務が肯定される余地があるとい
うべきである。
 昭和石油又は被告においては,前記の一般的な雇用情勢と同様の状況が存してお
り,特に原告が所属した昭和石油及び昭和四日市石油においては,精油所・油槽所
での現業部門が多く,石油製品の取扱いのため現業部門の大半が男性要員で構成さ
れており,女性は,本店及び一部支店並びに各事業所において,事務職員として数
名配置されるに留まっていた。そのため,男性については,種々の職場,職務及び
特殊な資格の修得と多岐にわたる経験・知識を要するものとしたのに対し,女性に
ついては,前記のような事務要員としての職務に従事させる体制をとり,このこと
に応じて配置,昇進及び賃金に関する判断を行ってきたものである。
 被告及び昭和四日市石油における男女間の賃金格差に関する状況は,同業他社と
ほぼ同様であり,前記の雇用情勢,均等法の規定の趣旨に照らしても,被告が原告
に対して男性との間で差別的取扱いをしたとはいえず,公序良俗に反しない。
オ まとめ
 以上のとおり,昭和石油及び被告における人事諸制度は使用者の裁量権の範囲内
であり,かつ合理的な制度であった上,原告に対する処遇は何ら違法なものではな
い。また,男女間に格差が存したとしても,合併後の昭和61年4月に均等法が立
法された事実は,当時の日本において男女労働者の格差が存在したことを前提とす
るもので,その格差が直ちに違法となるものではない。
 よって,原告の賃金に関する取扱いは違法ではなく,不法行為に当たらない。
(2) 争点(2)について
(原告の主張)
ア 差額賃金(月例賃金・賞与・退職金)相当損害金について
 原告は,昇格に関する実態に照らすと,遅くとも37歳になった昭和45年には
Eランクに,46歳になった昭和54年にはFランクに,昭和60年の合併時には
少なくとも職能資格等級S2に格付けられるべきであった。また,定期昇格査定に
おいては,男性で,組合差別を受けている全石油昭和シェル労働組合員を除くと,
半分がA評価,残り半分がB評価を受けていることに照らすと,原告は,B査定に
基づく定期昇給をされるべきであった。しかるに,昭和石油及び被告による違法な
差別的取扱いにより,合併前にD2ランク,合併時に職能資格等級G3,昭和61
年から定年退職までG2という低い資格とされた上,定期昇給においても低い査定
額とされ,これに応じた低額の賃金とされた。
 したがって,不法行為に基づく差額賃金相当損害金(合併時である昭和60年1
月から退職した平成4年5月までの間における差額賃金(月例賃金,賞与,退職
金))の額は,下記のとおりとなる(具体的算定根拠は,別紙6のⅠ「原告に対し
て支給された賃金」,Ⅱ「原告が受けるべき賃金」及び別紙2「原告請求額一覧
表」に記載のとおりである。)。
(ア) 月例賃金及び賞与の差額 1824万8236円
(イ) 退職金の差額
一時払分 433万5862円
年金分(平成14年2月分までの分) 527万0148円
年金分(平成14年3月分以降の分) 527万4788円
(ウ) 小計 3312万9033円
イ 差額公的年金相当額
 原告は,被告による違法な差別的取扱いにより,別紙6Ⅱ記載の「原告が受ける
べき賃金額」を前提に算定した厚生年金保険による公的年金を受給することができ
なくなった。
 そして,原告の昭和60年1月から平成4年5月までの間の実際の平均報酬月額
と,差別がなければ支給されていたはずの平均報酬月額の格差比率が,原告の厚生
年金保険への加入期間における上記の格差比率と同程度であると見込まれることに
よると,原告の加入期間における支給されるべき平均報酬月額は,昭和60年1月
から平成4年5月までの間につき算定した格差比率に基づき,原告の加入期間にお
ける実際の平均報酬月額から算定するのが相当である。
 これによると,差額公的年金相当額は,下記のとおりとなる(別紙2「原告請求
額一覧表」参照)。
(ア) 平成14年2月分までの分 532万7712円
(イ) 平成14年3月分以降の分 533万2403円
(ウ) 小計 1066万0115円
ウ 慰謝料 500万円
 原告は,昭和石油及び被告による差別的取扱いにより長年にわたり人格を傷つけ
られており,これによって被った精神的苦痛は甚大なものである。したがって,前
記ア,イの差額相当損害金とは別に,少なくとも慰謝料500万円が認められるべ
きである。
エ 弁護士費用 412万円
 損害金及び慰謝料の合計額の1割である412万円が,弁護士費用として認めら
れるべきである。
オ 損害合計額 5290万9148円
(被告の主張)
ア 原告の主張ア,イ及び遅延損害金の起算日について
 原告主張の損害額算出の前提となる請求権の存在自体は否認し争うが,原告の主
張のとおりと仮定した場合の計算関係としては,その数値を争わない。
イ 原告の主張ウないしオについて
 否認し,争う。
第3 当裁判所の判断
1 昭和石油及び被告における男女間の賃金に関する格差の有無について
(1) 認定事実
 前提となる事実,証拠(後記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められる。
ア 昭和石油における状況
 昭和石油では,毎年4月に定期昇給実施後,各従業員に対し,書面でその年の4
月1日現在における新本給を通知しており,これには,各人のランク(ただし,B
からFまでのランクのみで,細ランクは示されない。),旧本給,定率,定額,定
昇,職群等の額及び昇給合計額,新本給及び新基準内賃金(新本給・家族手当・勤
務地手当・役付手当・別居手当)の額が記載されている(甲22)。
 昭和石油労働組合は,新本給通知が交付された直後,所属組合員を対象に,昭和
石油から通知される新本給の内容について調査を実施し,その集計結果をまとめた
「資料と報告」と題する冊子を公表している。この調査は,組合員に対し「賃金調
査」の用紙を配布し,各組合員に,氏名,性別,職制,学歴,生年月日,入社年月
日,扶養者数,ランク,旧本給,賃上げ額(年齢別定額・定率・定昇・職群別定
額),基準賃金(新本給・家族手当),基準内賃金(基準賃金・勤務地手当・役付
手当)の各細目について記入させ,これを回収する方法によっており,昭和57年
4月1日現在の「資料と報告」(甲1の1,2)及び昭和58年4月1日現在の
「資料と報告」(甲2の1,2)は,いずれも組合員の概ね95パーセント以上の
調査結果に基づいている。なお,昭和石油では,ユニオンショップ制を採ってお
り,昭和石油の従業員のうち組合員資格を有する者は,原則として昭和石油労働組
合の組合員である。(甲1の1,2,甲2の1,2,甲21,22,51,証人P
7)
 この「資料と報告」に基づき,昭和石油従業員のランク及び定期昇給の状況をみ
ると,概ね以下のとおりである(なお,被告は,上記「資料と報告」の正確性に疑
問を呈するが,上記の作成経過に加え,これに反する証拠が存しないことに照らす
と,多少の集計ミス等がありうるとしても,全体として十分信用に値する資料とい
うべきである。)。
(ア) ランクに関する状況
a 昭和57年の状況(甲1の1・6頁)
 昭和57年(4月1日現在,以下同じ。)におけるランク(職群)に関する集計
結果は,Fランク以下の者をみると,下表のとおりであった。
          中卒        高卒
        男   女     男    女
B       0   0   173  101
C       0   1    79   94
D4・D3   0   2   112  139
D2・D1  66  11   359   28
E     167   0   471    1
F      34   0   203    0
 小計   267  14  1397  363
 合計      281      1760
          大卒        合計
        男   女     男    女    計
B       3   0   176  101  277
C       4   3    83   98  181
D4・D3  50   3   162  144  306
D2・D1  42   1   467   40  507
E     125   0   763    1  764
F      70   0   307    0  307
 小計   294   7  1958  384 2342
 合計      301             2342
b 昭和58年の状況(甲2の1・6頁)
 昭和58年におけるランク(職群)に関する集計結果は,Fランク以下の者をみ
ると,下表のとおりであった。
          中卒        高卒
        男   女     男    女
B       0   0   105   82
C       0   1    63   69
D4・D3   0   1   100  150
D2・D1  43  10   441   26
E     159   0   438    1
F      30   0   205    0
 小計   232  12  1352  328
 合計      244      1680
          大卒           合計
        男   女     男    女    計
B       0   0   105   82  187
C       3   1    66   71  137
D4・D3  29   3   129  154  283
D2・D1  44   1   528   37  565
E     106   0   703    1  704
F      92   0   327    0  327
 小計   274   5  1858  345 2203
 合計      279             2203
c 昇格に関する状況(甲1の1,2,甲2の1,2,甲5,51)
(a) 昭和57年に25歳の高卒男性は87名おり,ランクは全員がD3又はD
4であったところ,昭和58年に26歳の高卒男性は87名で全員がD1又はD2
ランクであるから,昭和57年に25歳であった高卒男性は,全員が26歳でD1
又はD2に昇格したこととなる(なお,各人の職群は,賃上げ額から定率,定昇,
年齢別定額を控除して算出される職群別定額の金額により推定することができ
る。)。また,昭和57年に26歳であった高卒男性は61名おり,ランクは59
名がD1又はD2,2名がD3又はD4であったところ,昭和58年に27歳であ
る高卒男性61名のランクは,全員がD1又はD2であるから,結局この年代の高
卒男性は27歳までに全員がD1又はD2に昇格したことになる。
 これに対し,高卒女性でDl又はD2ランクの者は,昭和57年に32歳の者1
1名中1名,34歳の者2名中1名,35歳の者2名中1名,36歳の者1名中0
名と37歳以上の者であり(33歳の高卒女性は在籍せず。),これより年齢が若
い者は,D3以下であった。
(b) 昭和57年に36歳であった高卒男性は5名おり,ランクはDが4名,E
が1名であったが,昭和58年に37歳の高卒男性5名のランクは全員がEとなっ
ているから,この年代の高卒男性は37歳までに全員がEに昇格したことになる。
これに対し,女性は全調査対象女性従業員(昭和57年は398名,昭和58年は
372名)中,昭和57年に54歳で翌年に55歳(最高齢)となった者1名を除
き,E以上の者はいない。
(イ) 定期昇給に関する状況
a 昭和57年の状況(甲1の1・11頁)
 昭和57年の定期昇給における昇給額(定昇)の状況は,下表のとおりであっ
た。
(図1)
b 昭和58年の状況(甲2の1・11頁)
 昭和58年の定期昇給における昇給額(定昇)の状況は,下表のとおりであっ
た。
(図2)
(ウ) 本給額の状況(甲2の1)
a 昭和58年の本給額に関する分布図は,下図のとおりである。
(男性)1352名
(図3)
(女性)372名
(図4)
イ 合併時の格付けの状況
(ア) 昭和石油とシェル石油の合併に伴い,昭和石油におけるランクから被告に
おける職能資格等級に移行するにあたり,昭和石油とシェル石油との間で旧資格と
新資格との対応関係について,原則として,昭和石油でF,Eランクの者はSラン
クに,D,C,Bランクの者はGランクに対応させるという基本合意がなされ,そ
の上で,各ランクにおける細分ランクの格付けは,各社において行うこととなった
(証人P10)。
 この合併時の格付けの状況について,被告が提出した資料である「1985年合
併時の格付けについて」と題する書面(乙11)の内容は,下表のとおりである
(上記書面の対象者は,昭和石油の社員で,合併後にG1以下の職能資格等級とさ
れた者1142名である。)。
昭和石油におけるランク      →  被告における職能資格等級
      合計  男   女    資格 合計   男   女
E2以上   51  51   0  G1  581 575   6
D1    214 214   0  G2  182 147  35
D2    328 289  39  G3  327 107 220
D3    103  25  78  G4   52   0  52
D4    201 143  58  合計 1142 829 313
 C     94  48  46
B1    105  59  46
B2     18   0  18
B3     28   0  28
合計   1142 829 313
(イ) 上記(ア)において,仮に昭和石油におけるランク順に沿って被告におけ
る職能資格等級が格付けされたとした場合,格付けによるランクから職能資格等級
への移行の状況は,下表のとおりになる。
(図5)
 この表に基づき,各ランクごとに格付けに関する男女間の差異をみると,次のと
おりになる。
 昭和石油においてD2ランクであった者については,男性は,289名全員が被
告の職能資格等級G1に格付けされたのに対し,女性は,39名のうち6名のみが
G1とされ,その余の33名はG2に格付けされたことになり,D3ランクであっ
た者についてみると,男性は,25名のうち21名がG1に,その余4名がG2に
格付けされているが,女性は,78名のうちG1とされた者はおらず,2名がG2
とされたのみで,その余76名がG3に格付けされたことになり,D4ランクであ
った者についてみると,男性は,143名全員がG2に格付けされているが,女性
は,58名全員がG3とされたことになる。
 B1ランクであった者についてみると,男性は,59名全員がG3に格付けされ
ているが,女性は,46名のうち40名がG3に,その余の6名はG4に格付けさ
れたことになる。
(ウ) 証人P10は,合併時の格付けの方法について,C以下のランクの者につ
き1つ上のランクに昇格させ,また,D2・D3のランクの者をひとまとめにした
上で,各ランクを上位・中位・下位の各グループに分けて,これに応じた職能資格
等級を定め,下位グループの者については職務の困難度に応じて職能資格等級を上
方修正した旨後述する。
 そこで,同供述を前提にして,仮にランク順に職能資格等級の格付けがされたと
した場合,移行の状況は次のとおりになる(甲26,27,証人P7)。
(図6)
 上記の表に照らすと,男性は,D2・D3ランク314名のうち310名は職能
資格等級G1に格付けられ,D4ランク191名のうち143名はG2に格付けら
れたのに対し,女性は,D2・D3ランク117名のうち6名がG1に,うち多く
とも35名がG2に,うち少なくとも76名がG3に格付けられ,D4ランク10
4名のうちG2に格付けられた者は,仮にいたとしても極めて少数であったことが
認められる。
ウ 合併後の被告における状況
 昭和59年12月(合併前月)時点で昭和石油に在籍し,平成12年9月ころ現
在,被告に在籍していた社員(管理職の者を除く。)のうち,学歴が高卒又は中卒
の者は,男性785名,女性63名であり,これら合計848名の者について,①
性別,②入社年月日,③入社後平成4年5月までの社内歴,④合併時(昭和60
年)から平成4年までの職能資格,⑤給与明細総計表(昭和61年12月分,昭和
62年から平成3年までの各年1月分及び12月分,平成4年1月分及び同年5月
分)のデータを被告が開示したものが乙第24号証である。
 上記の男性785名中,中卒者又は高卒で中途採用者であると推測される者が4
5名おり,これを除外すると,高卒の新卒者は740名となる。また,女性63名
のうち,高卒の新卒者と認められる者は32名であり,その余の31名は中途入社
者であるが,ほとんどが高卒者である。(甲94の2,証人P11第2回)
 被告が提出した上記データ中,男性の高校新卒者と認められる740名と,女性
63名に関するデータを基に分析した結果は,概ね以下(ア)ないし(エ)のとお
りである。
(ア) 職能資格等級に関する状況
a 男性について
a) 昇格状況(甲95の1,110)
 昭和59年入社者(13名)は,全員が入社から1年9月が経過した昭和61年
1月(以下,この昇格の時期を「入社2年目」といい,この標準年齢を20歳とい
う。以下,年齢はいずれも標準年齢を表す。昇格の時期はいずれも1月である。)
にG4へ,4年目にG4からG3へ,8年目の平成4年1月にG3からG2へ昇格
している。
 昭和56年入社者(53名)は,全員が入社6年目にG3からG2へ,10年目
にG2からG1へ昇格している。
 昭和55年入社者(39名)は,全員が入社6年目にG3からG2へ,9年目に
G2からG1へ昇格している。
 昭和54年入社者(57名)は,入社6年目では全員がG2であり,9年目に1
名を除く全員がG2からG1へ昇格し(1名は10年目にG1へ昇格),13年目
の平成4年1月に1名がS3Bに昇格している。
 昭和53年入社者(67名)は,入社7年目では全員がG2であり,G1への昇
格は,8年目と10年目の各1名を除く他の全員が9年目であり,14年目の平成
4年1月時点では,13年目にS3Bに昇格した1名を除き,他の全員がG1であ
る。
 昭和52年入社者(17名)は,入社8年目では全員がG1であり,15年目の
平成4年1月に5名がS3Bに昇格している。
 昭和50年入社者(80名)は,入社10年目では全員がG1であり,13年目
に2名,14年目に5名,15年目に6名,16年目に9名17年目に26名がG
1からS3Bに昇格し,2名が17年目にS3BからS3Aに昇格している。17
年目の平成4年1月時点では,G1が32名,S3Bが46名,S3Aが2名であ
る。
 昭和49年入社者(58名)は,入社11年目では全員がG1であり,14年目
に1名,15年目に15名,16年目に11名,17年目に14名,18年目に1
3名がS3Bに昇格している。入社18年目の平成4年1月時点では,G1の4名
を除く全員がS3Bである。
 昭和48年入社者(47名)は,入社12年目では全員がG1であり,14年目
から18年目の間に43名がS3Bに昇格し,18年目に3名,19年目に4名が
S3Aに昇格している。19年目の平成4年1月時点では,G1の2名,S3Aの
7名を除く38名がS3Bである。
 昭和47年入社者(79名)は,入社13年目ではG2の1名を除く全員がG1
であったが(G2の1名は14年目にG1に昇格),15年目以降S3Bへの昇格
者が出て,19年目までに72名がS3Bに昇格し,また18年目以降はS3Aへ
の昇格者も出て,20年目の平成4年1月時点では,G1が3名,S3Bが51
名,S3Aが25名である。
 昭和46年入社者(52名)は,入社14年目では全員がG1であったが,15
年目以降S3Bへの昇格者が出て,19年目までに49名がS3Bに昇格し,また
18年目以降はS3Aへの昇格者も出て,21年目の平成4年1月時点では,G1
が1名,S3Bが22名,S3Aが29名である。
 昭和45年入社者(21名)は,入社15年目ではS3が5名,G1が16名で
あったが,19年目までに18名がS3Bへ昇格し,また17年目以降はS3Aへ
の昇格者も出て,22年目の平成4年1月時点では,G1の2名,S3Bの5名を
除く14名がS3Aである。
 昭和44年入社者(20名)は,入社16年目では,12名がG1,8名がS3
であったが,18年目にはG1の1名,S3Aに昇格した1名を除く全員がS3B
となり,23年目の平成4年1月時点では,G1の1名,S3Bの2名を除く全員
がS3Aである。
 昭和43年入社者(12名)は,入社17年目ではG1の2名を除く全員がS3
であったが,18年目に全員がS3Bとなり,19年目以降S3Aへの昇格者が,
24年目にS2への昇格者が出て,24年目の平成4年1月時点では,S3B1
名,S2の3名を除く8名がS3Aである。
 昭和37年入社者(4名)は,入社23年目では全員がS3であり,27年目ま
でに全員がS3Aに昇格し,28年目以降はS2への昇格者も出て,30年目の平
成4年1月時点では,S3A,S2が各2名である。
 昭和36年入社者(51名)は,入社24年目では全員がS3であったが,26
年目に6割以上がS3A(29名)又はS2(5名)となり,30年目以降はS1
への昇格者も出て,31年目の平成4年1月時点では,S3Bの5名,S3Aの1
5名を除き,6割がS2(25名)又はS1(6名)である。
 昭和35年入社者(37名)は,入社25年目でG1,S2,S1各1名を除き
全員がS3であったが,27年目に6割以上(23名)がS3A以上となり,32
年目の平成4年1月時点では,S3Bの3名S3Aの14名,S2が12名,S1
8名で,過半数がS2以上に昇格している。
 昭和34年入社者(19名)は,入社26年目で全員がS3であったが,27年
目ではS3BとS2各1名を除く全員がS3Aとなり(S3Bの者は28年目にS
3Aに昇格),28年目に過半数の10名がS2になり,33年目の平成4年1月
には,S3Aが4名,S2が6名,S1が9名である。
 昭和33年入社者(13名)は,入社27年目で全員がS3(11名)又はS2
(2名)であったが,28年目にS3Bの2名を除きS3A又はS2とされ(この
S3Bの2名はその後も昇格していない。),30年目に過半数がS2(6名)又
はS1(1名)となり,34年目の平成4年1月時点では,上記S3Bの2名を除
く全員がS2以上に昇格している。
 なお,データには,昭和58年,57年,51年,昭和38年ないし昭和42
年,昭和51年,昭和57年及び昭和58年には,該当者はいない。
 以上によると,G1までの職能資格等級について,同一年度に入社した者のほと
んどが同一時期に昇格しており,入社年度により多少異なるものの,入社6年目か
ら8年目(標準年齢24歳ないし26歳)の時期にG2に昇格し,入社9年目又は
10年目(標準年齢27歳又は28歳)にG1に昇格している。
 S3B以上の職能資格等級についても,入社後の年数が一定の幅のうちに昇格し
ており,S3Bには,早い者で入社13年目(標準年齢31歳)ころから昇格し,
19年目(同37歳)までの間殆どの者が昇格している。
b) 平成4年の分布状況(甲103の1)
 平成4年(原告が退社した年)1月時点における職能資格等級を入社年度別に表
にすると下表のとおりである。
年齢  G3 G2  G1 S3B S3A S2 S1 M4B  合計
27歳    13                        13
28歳                               0
29歳                               0
30歳        53                    53
31歳        39                    39
32歳        56   1                57
33歳        66   1                67
34歳        12   5                17
35歳                               0
36歳        32  46   2            80
37歳         4  54                58
38歳         2  38   7            47
39歳         3  51  25            79
40歳         1  22  29            52
41歳         2   5  11  3         21
42歳         1   2  17            20
43歳             1   8  3         12
44歳                               0
45歳                               0
46歳                               0
47歳                               0
48歳                               0
49歳                 2  2          4
50歳             5  15 25  6      51
51歳             3  14 12  8      37
52歳                 4  6  9      19
53歳             2      6  4   1  13
54歳                    1          1
合計   0 13 271 236 134 58 27   1 740
 原告が退職した平成4年をみると,53歳以上の者33名の職能資格等級は,S
3Bが2名,S2が13名,S1が13名,M4Bが1名であった。
b 女性について
a) 昇格状況(甲95の2)
 データの対象期間(昭和60年から平成4年の各1月)中に昇格時期が明らかな
者を見ると,卒年が昭和59年の者全員が2年目にG4に昇格し,昭和59年及び
昭和58年学卒者全員が4年目にG3に昇格しており,また,昭和57年学卒者全
員が4年目にG3である。G3からG2へ昇格した時期が明らかな者について,卒
年を基準として昇格時期をみると,8年目が2名,9年目が4名,10年目が4
名,11年目が2名,12年目が3名,13年目が4名,14年目が4名,15年
目が4名,16年目が3名,17年目が1名,18年目が2名,27年目が1名で
ある。合併時の昭和60年1月時点でG2に格付けされた者は,63名中14名
で,標準年齢は29歳,30歳,35歳が各1名,36歳が4名,38歳が2名,
42歳が3名,45歳及び46歳が各1名であり,同時点でG1に格付けされた者
は63名中2名で,標準年齢が35歳及び39歳が各1名である。
 この状況によると,G3までは全員が同時期に昇格していると推測されるが,G
3からG2に昇格する標準年齢は,最も早い者でも男性より遅く,昇格時期も人に
よってかなりのばらつきがある。
b) 平成4年の分布状況(甲104)
 平成4年1月時点における職能資格等級は,S3Bが1名,G1が9名,G2が
38名,G3が15名であり,年齢ごとの分布をみると,下表のとおりになる。
年齢  G3 G2 G1 S3B S3A S2 S1 M4B 合計
27歳  4                          4
28歳  4  3                       7
29歳  2                          2
30歳  2  2                       4
31歳  1  3                       4
32歳     3                       3
33歳  1  2                       3
34歳     3                       3
35歳                             0
36歳  1  1  1                    3
37歳     4                       4
38歳     1                       1
39歳     2                       2
40歳     1  1                    2
41歳     2  1                    3
42歳     2      1                3
43歳     5  1                    6
44歳        2                    2
45歳                             0
46歳        1                    1
47歳                             0
48歳                             0
49歳     2  1                    3
50歳                             0
51歳                             0
52歳        1                    1
53歳     2                       2
合計  15 38  9   1               63
 平成4年1月時点で,女性のうち標準年齢が最も高い53歳の2名はいずれもG
2であり,女性の最高資格者は,昭和63年以降S3Bである1名であり,その他
の者はいずれもG1以下である。
c 事務職における男女間の比較
 上記男性740名のうち,原告と同様に入社時より一貫して事務職(事務,販
売,研究等)に就いていた者は合計103名であり,このうち,平成4年に標準年
齢が52歳以上の者13名は,いずれもS2以上の資格になっている。
 これに対し,女性(全員が事務職)のうち同じく52歳以上の者は3名である
が,2名はG2,1名はG1である。
(甲103の2,甲104)
(イ) 職務職能定昇評価に関する状況
 被告において毎年1月に実施する定昇は,職務職能定昇(各ランクにつき5段階
の評価により決定される額)及び年齢定昇(年齢による定額)からなり,被告は,
各年につき,各ランクにおけるB評価とC評価との平均額及び年齢定昇額を公表し
ている。昭和63年,平成元年の職務職能定昇における評価内容を,各年1月の定
昇額(職務職能定昇におけるB評価とC評価との平均額,年齢定昇額)により推定
した各年度の職務職能定昇額と年齢定昇額を分析すると,次のとおりである(甲5
3,68,96の3,4,甲97の1,2,甲98,136)。
a 昭和63年
  A      B        C      不明     合計
男 207    362      50     121    740
 (30%)  (49%)    (6.8%) (16.4%)
女   3     52       6       2     63
 (4.7%) (82.5%)  (9.5%) (3.1%)
a 平成元年
  A      B        C      不明     合計
男 189    364      48     139    740
 (25.5%) (49。2%) (6.5%) (18.8%)
女   1     49      10       2     63
 (1.6%) (77.8%) (15.9%) (4.7%)
(ウ) 本給額の比較(甲108,109)
 平成4年5月現在の平均本給額をみると,下表のとおりである(「事務」とは一
貫して事務職であった者,「途中より事務」とは,途中から事務職になった者をい
う。なお女性のうち3名は,乙24に平成4年5月現在の本給額のデータがないた
め除外してある。)。
(図7)
 高卒男性と女性の平均本給額を比較すると,年齢が高くなるに従い,男女間の格
差が次第に大きくなっており,一貫して事務職であった男性と女性を比較すると,
52歳の者(男性7名,女性1名)では,男性が41万8600円であるのに対し
女性が32万1300円,53歳の者(男性6名,女性2名)では,男性が41万
8600円であるのに対し女性が29万2000円であった。
 また,高卒男性において,一貫して事務職であった者又は途中から事務職になっ
た者は,現業職であった者より,平均本給額が若干高額になる傾向が見られる。
(2) 判断
 以上(1)において認定したところによると,以下のとおりいうことができる。
ア 合併前の昭和石油において,男女間において,同一学歴者のランク,同一ラン
クにおける定期昇給額,同一年齢者における本給額のいずれにおいても,いずれも
著しい格差が存する。
イ 合併時の格付けについて,合併後に職能資格等級がG1以下になった者をみる
と,合併前のランクと比較して,全般に男性が女性より上位の職能資格等級になっ
ている。
ウ 合併後の被告において,職能資格等級をみると,男性は,ごくわずかの例外を
除いて,G4からG1までは28歳ころまでに年齢に応じて昇格し,S3Bには3
1歳ころから37歳ころまでに昇格し,52歳以上では多くの者がS2以上に昇格
しているのに対し,女性は,G3までは年齢に応じて昇格するが,G3からG2へ
の昇格年齢は定まっておらず,S3Bに昇格した1名を除けば,全員がG1以下に
留まっており,職務職能定昇評価をみると,上位であるA評価を受けるのは,男性
が4分の1程度であるのに対し,女性が数パーセント程度であり,本給額をみる
と,平成4年当時,高校新卒者において,男性52歳以上の者は41万円前後であ
るのに対し,女性52歳以上の者は30万円前後であることが認められ,職能資格
等級,職務職能定昇評価,本給額のいずれにおいても,男女間で著しい格差が存す
る。
2 原告と男性との賃金に関する格差の有無について
(1) 認定事実
ア 昭和石油における状況
(ア) 昭和39年4月1日現在の「資料と報告」において,原告を含む高校新卒
者で年齢31歳,勤続年数12年の者(男性14名,女性2名)をみると,ランク
は,男性はDが6名,Eが7名であるのに対し,女性2名はいずれもDであり,定
期昇給額は,男性は1300円が1名,1400円が4名,1500円が8名,1
600円が1名であるのに対し,女性は2名とも1200円であった。
(イ) 昭和57年4月1日現在の「資料と報告」において,原告を含む高校新卒
者で年齢49歳,勤続年数30年の者(男性8名,女性1名)をみると,ランク
は,男性はDが1名,Eが6名,Fが1名であるのに対し,原告はD2であり,定
期昇給額は,男性は3400円が1名,4300円が3名,4600円が2名,5
050名が1名,7000円が1名であったのに対し,原告は2000円であり,
本給額は,男性は21万7939円から26万5905円の範囲にあったのに対
し,原告は18万9124円であった。
 なお,高卒男性のランクをみると,49歳の者では,Dが1名,Eが12名,F
が9名であり,48歳の者では,Eが8名,Fが12名(Dは0名)であり,47
歳の者では,Eが12名,Fが16名(Dは0名)であり,46歳の者では,Dが
3名,Eが23名,Fが24名であり,45歳の者では,Eが22名,Fが34名
(Dは0名)であり,44歳の者では,Eが28名,Fが23名(Dは0名)であ
り,高卒男性で最も若いFランクの者は41歳であった。
イ 合併後の状況
(ア) 原告は,合併時の昭和60年1月当時,職能資格等級はG3,本給額は2
2万0232円であり,昭和61年1月にG2に昇格し,退職時の平成4年5月当
時,職能資格等級はG2,本給額は30万7970円であった(争いがない。)。
(イ) 平成4年5月当時,被告提出の賃金データ(乙24)の分析対象とした高
校新卒者男性740名のうち,52歳ないし54歳の者33名(55歳以上の者は
データにない。)をみると,職能資格等級は,S3Bが2名,S3Aが4名,S2
が13名,S1が13名,M4Bが1名であり(前記1(1)ウ(ア)の表のとお
り),これらの者の本給額の平均は41万1742円である(同(ウ)のデータに
より算出)。
(2) 判断
 前記(1)の認定事実によると,昭和石油及び被告において,原告と,同一学歴
(高卒)で,年齢が同じか数年若い男性を比較すると,ランク又は職能資格等級,
定期昇給額,ひいては本給額において,著しい格差が存在していたといえる。
3 格差の合理的理由の存否について
(1) 原告と同学歴(高卒)・同年齢の男性社員との間で,昭和石油当時,ラン
クの格付け,定期昇給額及びこれらを反映した本給額において著しい格差が存し,
合併後も職能資格等級及びこれを反映した本給額等において著しい格差が存したこ
と,昭和石油及び被告において,女性社員と男性社員との間で,昭和石油における
ランクの格付け・同一ランクにおける定期昇給額・同一年齢における本給額におい
て著しい格差が存し,合併時の職能資格等級の格付け及び被告における職能資格等
級やその昇格,定昇評価ひいてはこれらを反映した本給額において著しい格差が存
していたことは,1及び2において示したとおりである。このような場合,原告に
ついて,男性社員との間に格差を生じたことにつき合理的な理由が認められない限
り,その格差は,男女間において存した上記格差と同質のものと推認され,また,
この男女間格差を生じたことについて合理的な理由が認められない限り,その格差
は性の違いによるものと推認するのが相当である。
 しかるところ,被告は,原告の業務に関する状況に照らすと,原告に関する昭和
石油におけるランク,合併時における資格の格付け,被告における職能資格等級が
いずれも妥当なものであったと主張し,その理由として,①原告が,昭和石油にお
いて,「定型業務に従事し,十分な知識と相当な業務経験を有する者」であり,D
ランクに相当する,②原告は,合併前にD2ランクであったところ,当時の業務内
容が,困難度の高いものとはいえず,日常定型的なものが中心であったことから,
合併後における格付けは,D2ランクのうち下位グループとして,職能資格等級を
G3とした,③原告は,合併後も,単純定型業務に従事していたのみならず,業務
成果は高くなく,工夫,改善提案といった具体的行為がみられず,能力は高くない
上,業務意欲に欠け,上司及び他の職員との協調性に欠ける面があったから,職能
資格等級をG2から昇格させることができなかった旨主張する。
 また,被告は,男女間に格差が生じた理由については,昭和石油及び被告におい
て,①製油所・工場・油槽所における業務の性質や昼夜二交代制といった勤務体制
等から,現業部門は男性のみが業務に従事し,女性は,管理部門等における一般事
務に限定される状況にあったこと,また,男性は,種々の職場・職務に従事し,資
格を取得し,多岐にわたる職務上の知識,経験を求められるのに対し,女性は,上
記のような職務のにみ従事してきたこと,②女性は,平均年齢が若く,平均勤続年
数が男性より非常に短かったこと,③女性は,一般事務の補助業務にとどまること
が多かったことを主張している。
 そこで,以下においては,被告の上記主張に沿い,前記のような格差が生じたこ
とについて合理的理由が存したか否かを検討する。
(2) 認定事実
ア 原告の業務に関する状況(前提となる事実,甲118,119,原告本人及び
後記証拠,弁論の全趣旨)
(ア) 株式課における状況(昭和26年8月から昭和31年7月まで)
 原告は,株式課において株式名義書換受付業務に従事した。この業務の手順は,
①証券会社社員から株券,送り状及び名義書換関係書類を受け取る,②株券につい
て,送り状と照合し,名義等の記載事項に誤りがないかを確認する,③預り証を作
成して証券会社社員に交付し,また,株券等を名義書換担当社員に交付する,④名
義書換がされた株券と預かり証を照合し,誤りがないかを確認した後,株券を証券
会社社員に交付する,というものであり,原告の他に男性1名がこの業務に従事し
ていたが,原告は,仕事を覚えた後,同人とは別個に業務を処理していた。
 株式課には,当時,課長,課長代理の他,原告を含め12名の正社員が所属して
いた。正社員の担当職務は,概ね次のとおりであった。
株券名義書換受付 原告のほか男性1名
株券リスト書換 男性4名
裏書 男性1名
社印,割印 男性1名
印鑑照合確認 課長代理(男性)1名
課内庶務 男性,女性各1名
(イ) 建築部技術第1課における状況(昭和31年7月から同年12月まで)
 建設部は,四日市市に製油所を建設する事業を実施するため,当時新たに発足し
た部署であり,技術第1課は,製油所建設にあたる部署であった。原告は,同課に
おいて,他の社員とチームを組み,製油所建設の進捗状況に関する図面やグラフを
作成する等の業務に従事した。
 建設部の所属社員は,技術者や通訳,タイピスト,運転手等の専門職以外は,事
務職であり,高卒の者も多数いた。
(ウ) 和文タイプ業務に関する状況(昭和31年12月から昭和52年3月ま
で)
 この業務は,他の部署で作成した原稿を和文タイプで清書するものであり,清書
する原稿には,役所への提出資料,裁判に関する資料,社内資料(株主総会資料,
会議議事録等)等があった。
 原告が配属された当初,タイプ室には,和文タイピスト,英文タイピストの正社
員各3名がおり,いずれも女性であった。原告は,緊急を要するタイプ文書作成の
ため,所定終業時刻後にも業務に従事することが度々あった。
(エ) 英文タイプ,データの送受信,国際テレックスの各業務に関する状況(昭
和52年3月から昭和60年8月まで)
a 原告は,昭和52年3月から英文タイプの業務に従事するとともに,コンピュ
ーター端末操作によるデータの送受信業務に従事し,昭和53年から国際テレック
スの発信業務に従事し,昭和60年からワープロ,パソコンを用いた業務に従事し
た。
b 英文タイプ業務は,毎月の役員会,年1回の株主総会における英文資料,英文
レター,英文レポートをタイプで作成するものであった。
 データ送受信の業務は,コンピューターの端末を操作して,四日市製油所内の電
算課と交信するものであり,その内容は,①昭和石油又は三菱商事からテレックス
で受信した業務に関するオーダーを,モデムによりコンピューターに取り込んで,
そのデータを四日市製油所に電送する,②四日市製油所に経理関係,油量計算,人
事関係,指定統計資料等に関するデータを送信する,指定統計資料に関しては,所
定の様式に従って数字を入力した後,月ごとに指定されたパスワードを用いて石油
連盟に電送し,また,プリントアウトする,③四日市製油所からコンピューター端
末に送信された日報,月報等の書類を,送付先の部署に届ける,というものであっ
た。
 国際テレックス業務は,他の社員から受領した英文を,テレックスで入力し,発
信するものであった。
 このテレックス業務及びワープロ,パソコンを用いた業務は,原告が自ら操作方
法を修得し,始めたものであった。
(オ) 東京事務所における状況(昭和62年9月から退職まで)
a 昭和62年9月,原告が出向していた昭和四日市石油の本社移転に伴い,原告
の勤務する事務所が東京事務所に改編・改称された。当時,東京事務所に所属する
社員は,役員,課長の他,男性が4名,女性が3名であった。
b 原告は,東京事務所において,次の業務に従事した(甲125)。
① 什器備品・事務用品等の管理及び課内庶務
② 文書受発信等に関する業務
③ 新聞・図書の購入管理
④ パソコンデータの受発信の実施及びOA機器の管理
⑤ 指定統計法に基づく関係官庁との折衝・報告等の関連業務
⑥ 製品・半製品の出荷及び受入れに係る連絡,油量月報に係る資料作成の各業務
イ 他の社員の状況
(ア) 東京事務所における男性社員の業務及び職能資格等級
 東京事務所において原告の同僚であった男性社員4名のうち高卒者はP2とP3
の2名であり(他の2名は大卒),その担当業務等は次のとおりであった(甲12
7,128,乙24,証人P12)。
a P2(昭和14年生まれで昭和63年11月当時49歳)は,四日市製油所の
現業業務に従事していたが,昭和44年に東京に転勤して事務職に移り,以後,原
告が退職した当時まで,20年以上にわたってほぼ同じ業務を担当していた。昭和
63年11月当時の同人の具体的分掌業務は,製品・半製品の出荷及び受入れに係
る連絡・調整に関する業務,グループ需要状況の把握,油量月報に係る資料作成等
であり,原告の担当業務と一部重なるが,具体的な業務はそれぞれ独立していた。
同人の職能資格等級は,合併当時S2であり,平成元年1月にS1に昇格した。
b P3(昭和15年生まれで昭和63年11月当時48歳)は,昭和50年ころ
昭和石油から昭和四日市石油に出向し,以後ほぼ同様の業務を担当していた。昭和
60年ころの具体的業務は,業務に関連する法規に関する関係官庁との折衝・報告
等に関連する業務(通産省への報告書の提出等),原油・ナフサの受入れ計画,関
税割当重油の取扱いに関する業務等であり,前記ア(オ)b⑤の原告の担当業務と
一部重なるが,これは,原告が報告書を作成し,P3がこれを通産省へ届けるとい
う分担であった。同人の職能資格等級は,平成2年1月当時S3Aであり,平成5
年1月にS2に昇格した。
(イ) 他の事務部門における男性社員の業務及び職能資格等級(甲11の1,
2,乙41)
a 昭和61年12月当時,被告本社の総務部及び電算室に所属していた事務職員
(管理職,運転手等を除く。)は,男性6名,女性3名であった。
b このうち,男性のP13(昭和23年に中卒で入社)は,入社以来一貫して事
務職であり,昭和61年12月当時(年齢53歳)は,国際メールの発受・配布,
事務用品の発注・管理・配布,お茶関係,雑貨関係等の業務に従事していた。同人
の昭和63年12月及び平成2年12月時点の職能資格等級はいずれもS1であっ
た。同人の後任として同じ業務を担当したP14社員(男性)は,昭和46年入社
であり,上記時点における職能資格等級はいずれもS3Aであった。
 男性のP6(昭和36年に高卒入社)は,総務全般,総務部門の経費管理や予算
の総括,調整等の業務に,P5(昭和39年に高卒入社)は,電信室で国際テレッ
クスオペレータ業務にそれぞれ従事しており,両名とも昭和63年12月及び平成
2年12月時点の職能資格等級はS2であった。
 その他の男性3名(昭和35年,昭和38年,昭和48年に各入社)の職能資格
等級は,昭和63年12月及び平成2年12月時点でいずれもM4B又はS2であ
った。
 これに対し,女性社員3名(昭和25年,昭和45年,昭和43年に各入社)及
びその後異動で配置された女性1名(昭和43年入社)の職能資格等級は,上記各
時点で全員がG2であった。
(ウ) 他の女性社員の業務及び職能資格等級
a P7社員について(甲36の1~4,甲51,証人P7)
 P7(昭和23年1月9日生)は,昭和41年12月6日,シェル石油に入社
し,昭和63年2月から東京第二支店販売企画課において,平成6年4月からは東
京支店給油所課(後に東京統括支店SS課に改称)において,給油所関連の事務処
理,資産管理等の業務に従事した。他の支店等では,同人が担当した業務と同種の
業務を男性社員が担当していた。
 東京統括支店SS課において,平成7年4月当時,同人と他1名の女性社員は職
能資格等級がいずれもG2であったが,男性社員は,卒業年度により職能資格等級
が自動的に決まっていた若年者以外は,職能資格等級がS以上であった。
b P9社員について(甲75,76の1,2,甲77,79,81,84,9
1,証人P9,同P15)
 P9(昭和15年4月5日生)は,昭和38年6月に高卒で昭和石油に入社し,
庶務,和文タイプ,電話交換手,社員に対するワープロ指導等の業務に従事した
後,平成元年9月,被告本社化成品室の所属になり,以後,所属部署を変えなが
ら,化成品(キシレン,ベンゼン等)の販売管理等の業務に従事した。同人が担当
した化成品販売管理業務は,製油所への製品の出荷オーダー,運搬船の手配,製油
所でのタンク繰り(タンクがあふれないように需要先,運搬船の動向に照らし,連
絡調整を図る業務),船会社や商社との製品に関する折衝,出荷状況の管理等をす
るものであった。この業務に関連して,被告と大手商社との間で,毎月1回,出荷
量と請求書に記載する価格を確認するための会計整理会議が持たれ,被告からは,
原則としてP9と男性社員1名がこれに出席していたが,P9が単独で出席するこ
ともあった。キシレン・ベンゼン関係の販売管理業務は,平成4年ころに子会社に
移管されたが,この移管にあたって,P9は,1年以上の間,子会社の男性社員ら
に事務処理を教示伝達した。また,平成11年4月末,P9と同じ化成品課に所属
していた男性社員(高卒)が定年退職した後は,この男性社員が担当していた工業
用揮発油等の販売管理業務のうち,仕切価格の交渉・決定関係業務(ただし,決定
それ自体は部長級の管理職が判断して行う。)を除くものを引き継いで行った。
 P9のランクは,合併直前はD1又はD2であり,合併時に職能資格等級G3に
格付けされ,昭和62年にG2に,平成5年にG1にそれぞれ昇格した。これら昇
格にあたって,P9は自ら上司に交渉し,特にG1への昇格は,直属の上司を越え
た部長に直接交渉を行った結果実現したものであった。
 また,平成11年4月当時,化成品課に所属する社員(課長を除く。)は,P9
と,同月末で定年退職した前記の男性社員及び当時34歳の男性社員の3名であ
り,定年退職した男性社員の職能資格等級はS1であり,他の男性社員もS以上で
あった。
ウ 「職能資格滞留年数」と題する書面(甲106)について
(ア) 被告は,平成4年8月,人事担当課長会議用の資料として,別紙7の「職
能資格滞留年数」と題する書面(甲106)を作成し,会議に参加した人事担当課
長に配布した。この書面には,①「職能資格滞留年数」の表及び②「1993年度
最短昇格(入社年,年齢)」の表が記載されている。
(イ) このうち,①の表には,「大卒」,「高卒・技能職」,「高卒補助 短大
補助」の区分の下に,各区分ごとに,各職能資格等級の滞留年数が最短と標準に分
けて記載され(ただし,「高卒補助 短大補助」は標準滞留年数のみ),「大卒」
及び「高卒・技能職」については,課長昇進の年齢及びM4A昇格の年齢が記載さ
れている。「大卒」の場合は,N1からS3Aまでの各等級の滞留年数は最短,標
準とも同一で,入社から11年後には一律にS2へ昇格するが,その後は,最短と
標準に差が生じ,S2,S1の滞留年数は最短でいずれも3年(標準はいずれも4
~5年),M4Bの滞留年数は最短で2年(標準3~4年)とされ,課長昇進は最
短で39歳,標準は41歳から46歳の間,M4Aへの昇格は,最短で41歳,標
準で44歳から47歳の間とされている。
 また,「高卒・技能職」の場合は,N3からG2までの滞留年数は最短,標準と
も同一であり,10年後には一律にG1に昇格するが,その後は最短と標準に差が
生じ,G1は最短3年(標準5~9年),S3Bは最短4年(標準6~9年),S
3Aは最短3年(標準5~9年)の滞留年数とされ,S2以上の等級では最短滞留
年数のみが示され,課長昇進は最短で43歳,標準で「~51歳」,M4Aへの昇
格は,最短で46歳,標準で「~52歳」とされている。
 これに対し,「高卒補助 短大補助」は,各ランクの標準滞留年数のみが示さ
れ,高卒補助は入社5年目,短大補助は入社3年目の22歳で一律にG3に昇格す
るが,その後の滞留年数はS3Bまでの各ランクについていずれも6~9年とさ
れ,S3A以上の滞留年数は記載がなく,課長昇進やM4A昇格についても記載が
ない。
 また,この①表に関し,「管理職(M4A)への昇格」として,「①Sランクの
滞留年数を最短で3年,標準で4年遅れても5年で昇格し続けなければならない。
②M4A昇格年齢制限は52歳まで。」との注記がある。
(ウ) ②の表には,「大卒」,「高卒」,「高卒技能職」,「高卒補助職」,
「短大補助職」の区分ごとに,各ランクの最短昇格者の入社年及び年齢が記載され
ており,記載されている年齢は,高卒技能職を除く区分では,①の表の各等級にお
ける滞留年数を最短(高卒補助職,短大補助職は標準滞留年数のうち最も短いも
の)とした場合の各等級昇格年齢と一致しており,「高卒技能職」は「高卒」に比
べ,等級が上がるにつれ昇格年齢が遅くなり,M4B以上の昇格年齢の記載はな
い。また「高卒補助職」,「短大補助職」にはS3A以上の昇格年齢の記載はな
い。
エ 従業員の平均年齢,平均勤続年数等について
(ア) 被告の株主総会報告書及び有価証券報告書によると,昭和59年から平成
4年までの従業員の平均年齢,平均勤続年数は以下のとおりである(甲101。な
お数字は各年とも12月31日現在のものである。)。
従業員数
      男     女    合計
昭和59年 1493  291  1784
昭和62年 2263  315  2578
昭和63年 1493  296  2428
平成元年  2060  291  2351
平成2年  2056  290  2346
平成3年  2048  291  2339
平成4年  2068  296  2364
平均年齢
      男     女    合計
昭和59年 40.2  27.3 38.0
昭和62年 43.6  35.2 42.6
昭和63年 43.8  35.8 42.8
平成元年  43.9  36.3 43.0
平成2年  43.3  36.5 42.5
平成3年  43.2  36.5 42.4
平成4年  42.9  36.2 42.1
平均勤続年数
      男     女    合計
昭和59年 19.6   7.2 17.5
昭和62年 21.5  14.0 20.6
昭和63年 21.7  14.8 20.9
平成元年  21.9  15.2 21.0
平成2年  21.2  15.3 20.4
平成3年  21.0  15.4 20.3
平成4年  20.7  15.1 20.0
(イ) 「資料と報告」によれば,昭和石油労組組合員の男女別年齢の状況は次の
とおりである。
a 昭和39年4月1日現在(定年年齢55歳)の組合員(男性2564名,女性
356名)の平均年齢は,男性34歳4月,女性25歳7月であり,女性は,多く
は19歳から24歳までの年齢層に属するが,30歳代の者52名,40歳代の者
20名,50歳代3名も在籍した(甲132)。
 上記組合員の平均勤続年数をみると,全組合員では男性11.10年,女性5.
88年であるが,勤続3年以上の者でみると男性11.11,女性8.11であ
り,勤続5年以上の者でみると,男性12.46,女性11.41である(甲13
3)。
b 昭和57年4月1日現在の組合員数(定年年齢57歳)は,男性2093名,
女性399名であり,女性は,多くは26歳以下の年齢層に属するが,30歳代の
者41名,40歳代の者19名,50歳代の者13名も在籍した(甲1の1,
2)。
c 昭和58年4月1日現在の組合員数(定年年齢58歳)は,男性2037名,
女性375名であり,女性は,多くは27歳以下の層に属するが,30歳代の者4
4名,40歳代の者16名,50歳代の者18名も在籍した(甲2の1,2)。
d 昭和60年4月1日現在の組合員数(定年年齢60歳)は,男性1953名,
女性325名であり,女性は,多くは20歳代であるが,30歳代の者41名,4
0歳代の者15名,50歳代の者16名も在籍した(甲3)。
(3) 判断
 以上の事実関係に基づき判断する。
ア 原告の業務内容等からみた格差の合理的理由の存否について
(ア) 原告が入社以来主に従事した業務は,①株式課における株券名義書換受付
業務(約5年),②和文タイプ業務(約20年),③英文タイプ,データの送受
信,国際テレックスの送受信業務(約10年6月),④東京事務所における業務
(約4年8月)である。これら業務は,一面において定型的な業務ともいえ,昭和
石油のランク決定要因(別紙3),被告の職能資格要件概要(別紙4)に照らして
考察すると,D以下のランク又は職能資格等級のG以下に属するとみられないでも
なく,被告は,これを前提に,原告のランク付けや職能資格等級の格付けが妥当で
あったと主張する。
 しかし,昭和石油及び被告におけるランクや職能資格等級も,職務の内容により
一義的客観的に定まるものとは必ずしもいえず,また,原告が従事していた業務の
中には,一定の専門技術や知識を必要とするものもあり,より上のランクや職能資
格等級に該当する職務とみる余地があるものも存する。
 そして,原告が①の業務に従事していた当時,株式課における男性社員の相当数
も原告と同様の事務業務に従事していた上,③,④の業務に関してみても,例えば
同じ東京事務所で事務を担当していたP2やP3,本社総務関係の事務に従事して
いたP13やP14,P16,P5らの業務内容と大きく異なるものであったとは
認められず,また,他の男性社員の業務を補助するものであったとも認められな
い。
 しかるに,原告の職能資格等級は,合併時にG3と格付けられ,翌昭和61年に
G2に昇格したものの,以後退職時までG2に留まっていたのに対し,上記男性社
員は全員がS以上で,特に年齢が高い者はS2以上であった。
 さらに,原告以外の女性についてみても,P7やP9が担当していた業務内容は
前記のとおりで,やはり独立して一定の業務を行っており,同人らの業務とさほど
変わりない業務に男性社員も従事していたところ,P7及びP9の職能資格等級は
G2又はG1(P9)であり,特にP9のG1昇格は,同人が部長に強く訴えて実
現したものであったのに対し,男性社員の場合はS以上の等級であった。
(イ) 他方,前記ウの事実によると,被告は,平成4年8月,社員を①大卒者,
②高卒・技能職,③高卒補助又は短大補助の3グループに分け,各グループごと
に,昇格までの最短・標準滞留年数の基準と管理職への昇進及びM4Aへの昇格の
基準を示した書面を人事担当課長に配布し,この基準に従って平成5年度の昇格を
実施するよう担当者に指示又は指導したものと認められる(甲107,乙28,2
9の各1,2によると,被告は,全昭和シェル労働組合に対し,上記書面は,平成
4年1月の昇格者を対象にサンプル調査をした結果に基づき,「大卒」,「高卒・
技能職」について,資格滞留年数によってのみ昇格申請の判断がされていないか人
事担当者に問題提起をしたものであり,学歴別・職種別・男女別に年功運用を行う
ことを目的とした管理基準を示すものではないと説明していることが認められる
が,上記書面の記載内容,とりわけ管理職やM4Aへの昇進,昇格条件を示す文言
が注記として記載されていることに照らすと,上記説明は信用することができな
い。)。
 そして,平成4年当時の高卒男性社員及び女性社員(合併前昭和石油に在籍し平
成12年当時に被告に在籍していた者)の職能資格等級の昇格状況及び分布状況は
1(1)ウにおいて示したとおりであるところ,このうち男性社員の状況は,上記
書面が示す「高卒・技能職」の滞留年数による昇格基準と概ね合致している。この
ことからすると,被告は,平成4年以前から,この基準と同様の昇格基準を設け,
原則としてこの基準により昇格を実施してきたと容易に推認することができる。
 他方,女性社員の状況は,「高卒・技能職」の基準に合致して昇格している者は
なく,比較的若年の者については「高卒補助 短大補助」の基準に合致して昇格し
ているが,年齢の高い者は,この「高卒補助 短大補助」の基準より長く同一等級
に留まっていることが認められる。このことからすると,被告は,女性社員につい
ては,従前から,高卒男性に適用される「高卒・技能職」とは別に「高卒補助 短
大補助」の基準を定め,原則としてこれにより昇格を実施しており,また従前の基
準は,平成4年の「高卒補助 短大補助」の基準より滞留年数を長く設定していた
か,あるいは一定年齢以上の者を対象外とするものであったと推認される。
 以上要するに,被告は,別紙4のような職能資格等級の決定基準や昇格評価基準
を公表していたものの,実際の運用においては,男性社員は学歴別年功制度を基本
に置き,一定年齢以上はこれに職能を加味し,昇格の時期に幅を持たせて昇格管理
を行う一方,女性社員については,男性とは別の昇格基準(年功をさほど考慮せ
ず,昇格には同学歴男性より長い年限を必要とし,一定の等級以上への昇格を想定
しないもの)を設けて昇格管理を行っていたとみることができる。そして,1
(1)アで示した昭和石油における男女のランク及び昇格の実情からすると,これ
は昭和石油においても同様であったと推認される。
(ウ) なお,合併時における格付けにおいて,昭和石油在籍者について男女間に
格差が認められることは前記1(1)イのとおりであるところ,被告の主張すると
おり,この格差が合併時に過去のランク査定の成績等を考慮して再査定を行った結
果であるとすれば,昭和石油における上記のような男女別の昇格管理の実情が反映
され,これがより増幅される結果となったであろうことはみやすい道理である。
(エ) 以上を総合すれば,職能資格等級等にみられる原告と男性社員との格差
は,原告の従事した業務やその職務遂行状況によって合理的に説明できるものとは
いえず,むしろ,昭和石油及び被告において,ランク及び職能資格等級の昇格管理
を男女別に実施していた結果であるとみるほかはない。
 なお,被告は,原告の職能資格等級がG2に留まった理由について,原告の従事
した職務内容に加え,原告の業務成果は高くなく,工夫,改善提案といった具体的
行為がみられず,能力は高くない上,業務意欲に欠け,上司及び他の職員との協調
性に欠ける面があったことなどを上げ,これに沿う証人P12の供述も存するが,
同供述は評価の根拠となる具体的事実に乏しく,これに反する原告本人の供述及び
陳述(甲118)に照らし直ちに採用できるものではなく,また他に上記主張を認
めるに足りる的確な証拠はない。
イ 男女間格差の合理的理由の存否について
 被告は,男女間格差を生じた理由について,①女性は現業部門の業務には就け
ず,管理部門の一般事務に業務が限定され,要求される資格や職務上の知識・経験
も限定されること,②女性の平均年齢が若く,平均勤続年数も男性より非常に短か
ったこと,③女性の業務が一般事務の補助にとどまることが多かったことを主張す
る。
 しかし,1(1)ウ(ウ)において認定したとおり,高卒男性社員の中には,入
社当初から事務に従事している者も相当数いる上,一般に現業部門に従事する男性
が管理部門の一般事務に従事する男性より賃金が高いとはいえず,また先述したと
おり,原告の東京事務所における同僚のように,20年以上,10数年以上も実質
同じ職場で同じ業務に従事する例もある。そして,原告や,P7,P9のように勤
務年数の長い者の例をみると,女性社員と男性社員との間に格差を生じた理由を担
当業務に求めることも困難であるから,本件の男女間格差について,担当業務や勤
務体制の相違に合理的理由を見い出すことはできない。
 また,平均年齢や勤続年数に関してみると,なるほど(1)エの認定事実からす
ると,原告が昭和石油及び被告に勤務していた当時,女性の多くは20歳代の半ば
ころに退職していたといえるが,30歳代以上でも勤務を続けている女性が少なか
らずあり,勤続年数5年以上の者では,男女間の勤続年数の差はさほど大きくない
ともいえる。この状況に照らすと,本件の男女間格差について,女性社員の平均年
齢が若く平均勤続年数が短いことに合理的理由を見い出すことはできない。
 その他,前記男女間格差を生じた合理的理由について,被告の主張を認める的確
な証拠はない。
ウ 小括
 以上のとおり,男女間の賃金に関する格差について,男女の違いに由来する合理
的な理由が存するとは認められず,昭和石油及び被告は,男性に対して,年功序列
を基礎に置いたランク・職能資格等級管理を行い,ランク又は職能資格等級並びに
定昇金額の査定において,男性を女性より優遇する扱いをしていたと認められ,こ
のことは原告との関係においても当てはまるものである。
 したがって,被告は,原告が女性であることのみを理由として,賃金に関し,男
性と差別的な取扱いをしたものと認めるのが相当である。
4 不法行為該当性
(1) 労働基準法4条は,使用者に対し,労働者が女性であることを理由として
賃金について男性と差別的取扱いをすることを禁止しており,使用者が専ら性別を
理由として賃金において差別することは,原則として社会的に容認されない違法な
行為というべきである。
 そして,これまで述べたところによれば,昭和石油及び被告は,原告が女性であ
ることを理由として,賃金について男性と差別する取扱いをしたものであり,か
つ,このことを認識し,又は認識すべきであったというべきである。
(2) ところで,均等法(昭和61年4月1日施行)8条は,「事業主は,労働
者の配置及び昇進について,女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをする
ように努めなければならない。」と定め,配置及び昇進に関する男女労働者の均等
取扱いを使用者の努力義務としていたが,平成11年4月1日に施行された「雇用
の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(改正均等法)
6条は,「事業主は,労働者の配置,昇進及び教育訓練について,労働者が女性で
あることを理由として,男性と差別的取扱いをしてはならない。」と定め,配置及
び昇進に関する男女労働者の平等取扱いを使用者の法的義務とした。
 被告は,これを根拠に,改正均等法施行以前においては配置,昇進の男女格差
は,私法上,原則としてその違法が問題となることはないと主張するところ,改正
前の均等法が上記のとおり配置及び昇進に関する男女労働者の均等取扱いを努力義
務に止めたことの背景には,当時,多くの企業で終身雇用制を前提とした配置,昇
進等の雇用管理が行われていたとともに,女子労働者の勤続年数が男子労働者に比
べて短いという一般的状況が存したことは被告の指摘するとおりであり,違法性の
判断を行うにあたっては,このような社会的状況を考慮すべきものではある。
 しかしながら,これまで認定及び判断したとおり,昭和石油及び被告において
は,管理部門等における一般事務に従事し,その業務内容が女性とさほど異ならな
い男性も相当数存在するが,これら男性と女性との間にも賃金等において格差があ
り,また,専ら男性が従事する現業部門の男性の賃金が事務部門の男性の賃金より
高いとはいえないことからすると,賃金における男女格差は,従事する職の配置に
由来するものとは認められない。さらに,昭和石油及び被告においては,合併時の
格付けも含め,事実上,男女別の昇格基準により昇格の運用管理を行っており,そ
の結果,ランク又は職能資格等級の格付け,これに連動する定昇額や本給額等にお
いて著しい格差を生じているのであって,前記の社会的状況を考慮しても,昭和石
油及び被告における上記のような差別的取扱いが社会的に許容されるものとはいえ
ず,行為の違法性は否定されないというべきである。
 なお,証拠(乙37,39)によれば,原告退職の当時企業一般において男女間
で賃金額の格差が存したこと,被告の同業他社においても被告と同様の男女間の賃
金格差が存することが認められるが,これら男女間の賃金に関する格差の原因を明
らかにする的確な証拠はないから,被告と同様の賃金に関する取扱いに基づくもの
であるとは認められず,上記のような状況をもって,昭和石油及び被告における差
別的な取扱いの違法性を否定することもできない。
(3) 小括
 以上のとおり,被告の原告に対する賃金に関する男性との差別的取扱いは,故意
又は過失による違法な行為として,不法行為となり,被告は,原告に対し,これに
よって原告に生じた損害を賠償する義務を負うというべきである。
5 損害額
 原告は,本訴請求により,被告の不法行為に基づく損害賠償として,合併時であ
る昭和60年1月以降において,差別的取扱いがなければ受けることができたであ
ろう賃金(月例賃金,賞与,退職金)及び公的年金と,実際の賃金(月例賃金,賞
与,退職金)及び公的年金の差額の支払を求めることができるというべきである。
 以下,具体的金額について検討する。
(1) 月例賃金及び賞与の差額相当損害額
ア 原告のあるべき職能資格等級
 原告(昭和7年5月29日生)は,平成4年5月31日,定年年齢60歳に達す
るものとして被告を定年退職しており,退職当時の職能資格等級はG2であった。
 被告において,高卒男性は31歳ころから37歳ころの間にS3Bに昇格してい
る(前記1(2)ウ)。被告提出のデータ(乙24)によれば,高卒男性で,平成
4年当時,52歳以上の者33名中,8割以上の27名は,S2以上の職能資格等
級である(前記1(1)ウ(ア)b。なお,上記データには管理職に昇進した者は
含まれていない。)。また,原告が東京事務所に所属した当時,原告と同種の職務
に就いていた,原告と同程度の年齢の高卒男性は,いずれもS2以上の職能資格等
級であった(前記3(2)イ(ア))。
 そして,原告の勤務成績又は勤務態度が,他の社員よりも劣ることを認めるに足
りる証拠はない。
 以上に照らすと,原告は,昭和石油及び被告による差別的取扱いがなければ,合
併時(当時満52歳)において,職能資格等級S2に格付けられ,退職時までの
間,職能資格等級が低くともS2であったと認めるのが相当である。
イ 原告のあるべき職務職能定昇評価
 原告の職務職能定昇評価は,合併時である昭和60年から昭和62年までがB,
昭和63年から退職した平成4年までがCであった(前提となる事実(3)ア)。
 被告における職務職能定昇評価をみると,昭和63年及び平成元年当時,男性
は,上位であるA評価又は次位のB評価を受ける者が75パーセント以上であり,
女性は,Aが数%程度であるが,Bが75パーセント以上であった(前記(1)ウ
(イ))。
 そして,原告の勤務成績又は勤務態度が,他の社員より特に劣っていたことを認
めるに足りる証拠がないことを併せ考えると,昭和石油及び被告による差別的取扱
いがなければ,原告の職務職能定昇評価は,合併時から退職時まで低くともBであ
ったと認めるのが相当である。
ウ 小括
 原告が,合併時である昭和60年1月から退職時である平成4年5月までにおい
て,職能資格等級がS2であり,職務職能定昇においてBと評価された場合,原告
が受けたであろう月例賃金及び賞与が,別紙6Ⅱの「原告が受けるべき賃金」欄に
記載の計算方法により算定されること,この期間において,原告に対し,現実に支
給された月例賃金及び賞与が,別紙6Ⅰの「原告に対して支給された賃金」欄に記
載のとおりであることは,争いがない。
 これによると,被告の不法行為がなければ,原告が受けたであろう月例賃金及び
賞与の相当額は合計5961万7524円であり,現実の支給額は合計4136万
9288円であるから,差額相当損害金は1824万8236円となる。
(2) 退職金の差額相当損害額
ア 一時払分及び平成14年2月分までの年金分について
 原告は,上記退職金について現実に支給された金員が,別紙2「原告請求額一覧
表」欄記載の「退職金」欄,「一時払」欄及び「92年年金分」欄ないし「02年
年金分」欄の各「原告に支給された賃金(A)」欄に記載のとおりであり,合併時
である昭和60年1月から退職時である平成4年5月までにおいて,原告の職能資
格等級,職務職能定昇評価が前記(1)ア,イのとおりであったとすれば,原告が
受けたであろう上記退職金が,別紙2「原告請求額一覧表」欄記載の「退職金」
欄,「一時払」欄及び「92年年金分」欄ないし「02年年金分」欄の各「原告が
本来受けるべき賃金」欄の記載のとおりである旨主張し,被告もこれを積極的に争
わない。
 そうすると,上記の退職金に関する差額相当損害金は,上記各金額の差額の合計
額となり,合計960万6010円となる(別紙1「裁判所認容額一覧表」欄記載
の「退職金」欄,「平成14年2月分までの合計」欄の「差額相当額」欄)。
イ 平成14年3月分以降の年金分について
 原告は,上記退職金について,実際に支給されるであろう金員が合計2383万
6902円であり,原告の職能資格等級,職務職能定昇評価が前記(1)ア,イの
とおりであったとすれば,受けるであろう金員が合計3412万3150円である
旨主張し,被告もこれを積極的に争わない(上記各金員は,上記各金員にかかる年
金年額に,平成14年3月時点の原告の年齢である69歳女性の平均余命19.0
3年(本件口頭弁論終結時において明らかな平成12年簡易生命表による。)を乗
じて算定したものである。)。
 そうすると,上記退職金の差額相当損害金は,上記各金員の差額から中間利息を
控除した後の額とするのが相当であり,上記差額1028万6248円に19年の
ライプニッツ係数0.3957を乗じて算出した407万0268円(小数点以下
四捨五入)となる(別紙1「裁判所認容額一覧表」欄記載の「退職金」欄,「上記
の現在価額(*1)」欄の「差額相当額」欄)。
ウ 小括
 よって,原告の退職金差額相当額は,上記アとイの合計額である1367万62
78円となる。
(3) 公的年金差額相当額
ア 平成14年2月分までの分について
 原告が上記の公的年金について支給を受けた金員が,別紙2「原告請求額一覧
表」欄記載の「公的年金」欄の「92年年金分」ないし「02年年金分」欄の各
「原告に支給された賃金(A)」欄記載の各金額であり,原告の職能資格等級,職
務職能定昇評価が前記(1)ア,イのとおりであったとすれば,受けたであろう上
記年金の金員が,上記「年金分」欄の「原告が本来受けるべき賃金」欄記載の各金
額である旨主張し,被告もこれを争わない。
 したがって,上記年金に関する差額相当損害金は,上記各金額の差額の合計額と
なり,合計532万7712円となる(別紙1「裁判所認容額一覧表」欄記載の
「公的年金」欄,「平成14年2月分までの合計」欄,「差額相当額」欄)。
イ 平成14年3月分以降の分について
 原告は,上記公的年金について,実際に支給されるであろう金員が合計4262
万6001円,原告の職能資格等級,職務職能定昇評価が前記(1)ア,イのとお
りであったとすれば,受けるであろう金員が合計5302万4602円である旨主
張し,被告もこれを積極的に争わない(上記各金員は,上記(2)イと同様の方法
によって算定したものである。)。
 そうすると,上記年金の差額相当損害金は,上記各金員の差額から中間利息を控
除した後の額とするのが相当であり,上記差額1039万8601円に19年のラ
イプニッツ係数0.3957を乗じて算出した411万4726円(小数点以下四
捨五入)となる(別紙1「裁判所認容額一覧表」欄記載の「公的年金」欄,「上記
の現在価額(*1)」欄の「差額相当額」欄)。
ウ 小括
 よって,原告の公的年金の差額相当損害額は944万2438円となる。
(4) 慰謝料
 原告は,被告に対し,上記の差額賃金相当損害金,差額退職金相当損害金,差額
公的年金相当損害金の支払を求めることができ,特段の事情が認められない限り,
これらの差額相当額をもって経済的損害は填補されるところ,本件において,これ
とは別個に金員支払をもって慰謝すべき損害の発生を認めるまでの特段の事情は認
められない。
 よって,慰謝料請求は認められない。
(5) 弁護士費用
 本件事案の内容,訴訟経過,その他本件における諸事情を考慮すると,上記
(1)ないし(3)の損害額の合計額4136万6942円の約1割である400
万円が相当である。
(6) 損害額合計
 以上によると,原告の損害額は合計4536万6952円になる。
(7) 遅延損害金
 被告は,前記の(1)ないし(3),(5)の各損害に対し,遅延損害金として
民法所定の年5分の割合による金員の支払義務を負う。
 前提となる事実,証拠によれば,月例賃金の支給日が毎月20日(同日が休日の
場合はその直前の平日)であること,賞与の支給時期が夏季賞与が毎年6月,冬季
賞与が毎年12月であること(乙12),退職金一時払分の支給日が平成4年5月
29日であったことが認められ,弁論の全趣旨によれば,賞与の支給日が当年12
月20日(同日が休日の場合はその直前の平日)以前であること,退職金年金分の
支給日が毎月20日(同日が休日の場合はその直前の平日)であること,公的年金
の支給日が偶数月の15日(同日が休日の場合はその直前の平日)であることが認
められる。また,原告は,被告に対し,退職金年金分及び公的年金のうち平成14
年3月分以降の分について,同年3月4日付け訴えの変更申立書により支払を求
め,同書面は,同月5日,被告に到達した。
 そして,原告は,前記(1)ないし(3),(5)の各損害にかかる遅延損害金
の起算日について,別紙2「原告請求額一覧表」の各「遅延損害金起算日」欄記載
のとおり主張し,被告はこれを積極的に争わない。
 これらによると,上記の各損害に対する遅延損害金の起算日は,別紙1「裁判所
認容額一覧表」の各「遅延損害金起算日」欄記載のとおりになる。
6 結論
 よって,原告の本訴請求は主文1項ないし5項の限度で理由があるから認容し,
その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
裁判長裁判官 三代川三千代
裁判官 龍見昇
裁判官 細川二朗
別紙1
裁判所認容額一覧表
月例賃金,賞与
月例賃金及び賞与 原告に支給された金員 原告が本来受けるべき金員 差額相当
額      遅延損害金起算日
 昭和60年分   4,722,576  6,697,734    1,9
75,158 昭和60年12月21日
 昭和61年分   5,008,322  7,128,176    2,1
19,854 昭和61年12月20日
 昭和62年分   5,279,111  7,565,153    2,2
86,042 昭和62年12月19日
 昭和63年分   5,531,902  7,965,855    2,4
33,953 昭和63年12月21日
 平成元年分    5,677,655  8,226,188    2,5
48,533 平成元年12月21日
 平成2年分    5,874,653  8,515,260    2,6
40,607 平成2年12月21日
 平成3年分    6,108,155  8,854,882    2,7
46,727 平成3年12月21日
 平成4年分    3,166,914  4,664,276    1,4
97,362 平成4年5月21日
  合計額    41,369,288 59,617,524   18,2
48,236
退職金
退職金      原告に支給された金員 原告が本来受けるべき金員 差額相当
額      遅延損害金起算日
一時払分     10,047,522 14,383,384    4,3
35,862 平成4年5月30日
年金月額        104,383    149,427       
45,044
年金分(平成4年5月分~平成14年2月分)
 平成4年分      730,681  1,045,989      3
15,308 平成4年12月19日
 平成5年分    1,252,596  1,793,124      5
40,528 平成5年12月21日
 平成6年分    1,252,596  1,793,124      5
40,528 平成6年12月21日
 平成7年分    1,252,596  1,793,124      5
40,528 平成7年12月21日
 平成8年分    1,252,596  1,793,124      5
40,528 平成8年12月21日
 平成9年分    1,252,596  1,793,124      5
40,528 平成9年12月20日
 平成10年分   1,252,596  1,793,124      5
40,528 平成10年12月19日
 平成11年分   1,252,596  1,793,124      5
40,528 平成11年12月21日
 平成12年分   1,252,596  1,793,124      5
40,528 平成12年12月21日
 平成13年分   1,252,596  1,793,124      5
40,528 平成13年12月21日
 平成14年分     208,766    298,854       
90,088 平成14年2月21日
  年金合計   12,212,811 17,482,959    5,2
70,148
平成14年2月分までの合計
         22,260,333 31,866,343    9,6
06,010
平成14年3月分以降の分
         23,836,902 34,123,150   10,2
86,248
 上記の現在価額(*1)                      4,0
70,268 平成14年3月6日(*2)
  合計額                            13,6
76,278
公的年金
         原告に支給された金員 原告が本来受けるべき金員 差額相当
額      遅延損害金起算日
年金月額        186,661    232,197       
45,044
年金分(平成4年5月分~平成14年2月分)
 平成4年分    1,306,630  1,625,382      3
18,752
 平成5年分    2,239,937  2,786,369      5
46,432 平成5年12月16日
 平成6年分    2,239,937  2,786,369      5
46,432 平成6年12月16日
 平成7年分    2,239,937  2,786,369      5
46,432 平成7年12月16日
 平成8年分    2,239,937  2,786,369      5
46,432 平成8年12月14日
 平成9年分    2,239,937  2,786,369      5
46,432 平成9年12月16日
 平成10年分   2,239,937  2,786,369      5
46,432 平成10年12月16日
 平成11年分   2,239,937  2,786,369      5
46,432 平成11年12月16日
 平成12年分   2,239,937  2,786,369      5
46,432 平成12年12月16日
 平成13年分   2,239,937  2,786,369      5
46,432 平成13年12月15日
 平成14年分     373,323    464,395       
91,072 平成14年2月16日
  年金合計   21,839,386 27,167,098    5,3
27,712
平成14年3月分以降の分
         42,626,001 53,024,602   10,3
98,601
 上記の現在価額(*1)                      4,1
14,726 平成14年3月6日(*2)
  合計額                             9,4
42,438
弁護士費用
金額         遅延損害金起算日
4,000,000  平成4年5月31日
損害金合計
45,366,952
*1 退職金年金と公的年金(平成14年3月分以降の分)の差額相当額は,本来
受けるべき支給予定額と実際の支給予定額(それぞれ年金年額に,69歳(平成1
4年3月時点の原告の年齢)女性の平均余命19.03年(将来分請求の起算時で
ある平成14年3月に最も近く,口頭弁論終結時において明らかな平成12年簡易
生命表による。)を乗じて,算出したもの)に,中間利息の控除として,19年の
ライプニッツ係数(0.3957)を乗じて,算出したもの
*2 いずれも原告の平成14年3月4日付け訴えの変更申立書が被告に到着した
日の翌日

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